ヒーリングバレンタイン2018~ケーキパラダイス

作者:陸野蛍

●美味けりゃチョコじゃ無くても良くね?
 街並みにハートのディスプレイが飾り始められる季節。
 人々の心も浮き足立つ季節に大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)の元気な声がヘリポートに響く。
「みんなー! もうすぐバレンタインなのは勿論知ってるよな? と言う訳で今年も、デウスエクスの侵攻に合い、未だヒール作業が終わって無い地域で、バレンタインのイベントをしながら復興活動を行おうと思うんだ」
 デウスエクスの侵略から解放された旧ミッション地域やデウスエクスとの大規模戦闘に於いて、大きな打撃を受けた地域は多数あるが、復興にまで中々手が回っていないと言うのが実情だ。
 イベントを行うことで復興地域への移住を考える人々の手助けともなるのである。
「で、俺のヘリオンが向かうのは、宮崎県日南市。『対神組織デュランダル』の支配及び『智龍ゲドムガサラ』の襲撃があった、飫肥城周辺でイベントを行おうと思う」
 飫肥城は今回ヒールを行ってもイベント開催スペースとしては使えないが、飫肥城周辺に仮設テントや、イベントスペースを用意し、イベントを行うのだと言う。
「飫肥城は歴史的建造物だし、復旧しない訳にはいかないじゃん? それにケルベロスとデウスエクスが戦った痕跡を見に来る人、それが修復されるのをその目で見たい人、色んな人がいると思うんだ。だから、俺達で日南市自体も盛り上げて復興していきたいと思っている」
 日南市は元々飫肥藩の城下町として繁栄した、九州の小京都と称される、古式ゆかしい街だ。海と山に囲まれ自然も多く、復興が叶えば人々が移住するには、もってこいの土地だろう。
「今回のイベント内容なんだけど、バレンタインってチョコが主流だとは思うんだけど、チョコが苦手ってやつもいるだろ? だから、ケーキ作り&ケーキバイキングのイベントにしようと思うんだ」
 目を細め笑いながら雄大は続ける。
「勿論チョコレートケーキを作ってもいいし、恋人が甘い物苦手なら、抹茶ケーキとかチーズケーキを作ってみてもいいと思うんだ。アップルパイやフルーツムース、アイスケーキなんてのもいいかもな。ガトーショコラとかも美味いよな♪ 来場してくれた一般の皆さんと一緒にケーキを作ってもいいし、自分が恋人に贈る用のケーキ作りに専念してもらっても良いよ」
 色々なケーキを頭の中で浮かべながら雄大も幸せそうだ。
「ケーキバイキングの方は、お菓子作りが得意なケルベロスが手伝ってくれると助かるな。種類は多いに越したこと無いし。恋人未満の奴は好きな相手と一緒にケーキバイキングデートして、バレンタイン当日までに距離を縮めておくのもいいんじゃないかな―? 旅団の仲間同士でケーキバイキングとかも楽しそうだよな!」
 色取り取りのケーキが並ぶ様は幸せな空気で満ち溢れることだろう。
「ヒールや設営、イベントの進行に一般客の案内なんかを分担して労働力として提供してくれれば、あとは自由時間ってことでいいしさ。みんなの幸せと自分自身の幸せの為に俺と一緒に宮崎まで来てほしい。みんなで、良いバレンタインにしようぜ♪」
 満面の笑顔を浮かべ言うと、雄大は傍らに積んであったケーキのカタログを何冊も持ってヘリオンへと弾むように駆けて行った。


■リプレイ

●日南飫肥ケーキパラダイス!
(「智龍との戦闘か、イピナ君と共に戦ったらしいが、誘われるまで忘れていたよ」)
『宝玉封魂竜』と飫肥城を拠点にして戦った自分達……。
(「……そうだ。あの戦いで私は、あの龍の爪に身体を裂かれ……自分から流れ落ちて消える温もりの感覚を、別のどこかで、感じたことが……私、わたしは……?」)
「ここも早く復興させたいですね。……実里さん?」
 ヒールの力を広げていたイピナが振り返れば、実里が震えながら自身を抱き締めていた。
 その実里にイピナは優しく腕を回す。
「大丈夫です。実里さんも私も、ここにいます……もうここには、危ないものなんてありませんから」
 少しずつ収まる震えに息を1つ吐くと、実里は強き自身の言葉を紡ぐ。
「ありがとう、大丈夫。わたしは、へいきだから」
「……何か温かい……ホットチョコでも頂きましょうか?」
 イピナが柔らかく言うと、二人は飫肥城を背に歩みを進めた。

 ケーキ作りブースには一般客と共に、マサムネとシャルフィンの姿もあった。
「飫肥城は、結構歴史古いお城みたいだよ。南北朝時代に……」
「ふむ、良く知っているな」
 チョコを掻き混ぜつつ語るマサムネの声を聞きながら、道具こそ持っているがシャルフィンは既にケーキ作りを諦めていた。
(「作ったことがあるのは、ホットケーキくらいだからな。むしろ、食材が無駄にならないだけ、マシかもしれん」)
「やっぱりバレンタインのケーキはチョコがいいよね」
(「シャルフィン、チョコ好きだって言うし……気合入れよ!」)
 愛する夫の為ならばと、様々な香りを漂わせながら、マサムネはケーキ型を用意する。
 数十分後、マサムネは甘く完成したケーキを切り分けながら、ポツリと呟いた。
「シャルフィンって言う家族が出来て、本当にオレは幸せ者だなぁ……」
 その言葉を聞き、シャルフィンも心の中で『俺もとても幸せだ』想いは一つと、マサムネを見つめていた。

「団体さんのテーブル片づけないとだよ~」
「分かっておりますわ~」
 美味しそうなケーキを横目にあかりと淡雪は、一般客の対応に追われていた。
 予想以上に一般客の来場が多く、テーブルセットにケーキの補充、やることが山のようにあり、目が回りそうだ。
「あかり! 淡雪! 休憩入っていいぞー!」
「はーい! あ、あのね、あの人は?」
 あかりの問いかけに雄大は、無言で食材倉庫を見やる。
「そうなんだ。淡雪さ~ん! はい、休憩用のケーキ。あっちの倉庫で休憩してくるといいよ」
「あら、有難うございます。あかり様は?」
「雄大さんがちょっと手伝ってほしいんだって」
 にこやかなあかりに見送られ淡雪が倉庫に向かうのを見ながら、雄大が呟く。
「俺、手伝い頼んだ覚えないけど?」
「これも人助けだよ」
 天使の翼が装飾されたケーキの皿を雄大に差し出しながらあかりが言えば、雄大は何とも言えない。
(「まあ、あっちはあっちで何とかするだろ」)
「失礼しますわ」
 淡雪が倉庫の扉を開くと、帳簿片手に食材チェックをしている咲次郎が視界に入る。
「ん? 淡雪? 休憩か? 椅子とか無いからそこら辺の木箱使ってくれるか?」
 それだけ言うと、咲次郎はすぐに作業を続ける。
「咲様、お疲れ様ですわ。甘いの苦手かもしれませんが……少しは、休憩致しませんか?」
「ん、あとでな。今、忙しいしのう」
 視線すら返さない咲次郎に少しだけ頬を膨らめると淡雪は作次郎の傍らに立ち、ケーキを一欠けら、咲次郎の口元へ差し出す。
「……あ~ん?」
 いきなりなことに少しずつ頬が赤くなる咲次郎、そして淡雪も今更ながらに恥ずかしくなり、頬を赤くする。
 その後、2人が動き出すのに3分程かかったとか。

●2人のケーキはSWEETに
「バレンタインですからチョコ系のケーキも豊富ですな!」
「今日は、全部食べてみることが出来るのだろうか?」
 興奮冷めやらぬ様子のレカにイヴリンが聞く。
「勿論ですぞ。チョコレートケーキと言っても世界には、様々な種類がありますからな! イヴリンさんは普段フルーツ系のケーキを特に召し上がっておりますがチョコ系だと、どんなものが好ましいです?」
「……パイとかタルト系かな。ナッツが入って、ザクザクと歯ごたえがあるのも良いし、ムースも良いな。まあ、全部好きだな」
 イヴリンは緑の瞳を細め言うが、次の瞬間泣きそうな笑顔になる。
「ううう、できることなら全部味見してみたい。……ちょっとずつ分け合わないか?」
「ふふ、ですよなぁ。……ええ、勿論。私も出来る限りのお手伝いしますぞ~!」
 レカの言葉に早速イヴリンは皿にタルトをどんどん乗せていく。
(「……沢山食べてる貴女が幸せそうですからな~!」)
 レカのそんな眼差しには気づかなかったけれど。

「ティーザ、ケーキじゃよー!」
「そう、はしゃぐでない」
 ヒール作業を終えケーキに目を輝かせる恋人『冬』を宥めながら、ティーザも微笑む。
「……沢山あって、全部食べ切れるかのう?」
 疑問形を口にしながらも、冬はトングで次々とケーキを皿に盛っていく。
「……バイキングとはいえ、欲張りすぎではないか?」
 ティーザが言うのも無理は無い、冬の皿のケーキは既に10を超えている。
「ティーザと一緒に食べるから平気なのじゃ」
 無邪気に笑う恋人とテーブルに戻れば、二人で甘いケーキに舌鼓を打つ。
「のう、ティーザ」
 冬の言葉と共に差し出されたケーキと『あーん』の言葉にティーザは少し困った笑顔を浮かべながらも口を開く。
「美味しいかえ? ちなみに、間接キスじゃ」
 その後も冬はティーザにバレンタインに欲しい物を訊ねたりしたが、何が贈られるかは当日までのお楽しみ。

「わーい、ケーキ! しかもバイキング! 心が踊りますね!」
「種類は色々あるみたいだぞ。どれが食べたい?」
 はしゃぐ鈴花の愛らしさに瞳を和らげながらルーファスが聞けば、鈴花は満面の笑顔で『勿論、全部です!』と答える。
「1つ1つの量は少なくても、流石に全部食べるのは難しいから……俺と半分ずつにしようか?」
 苦笑を浮かべルーファスが言えば、鈴花は更に笑顔を輝かせる。
「半分! ふふ、ナイスアイディアなのです。そうしましょう、ねっ。ルーファスと半分こ……」
(「嬉しい……♪」)
 そんな天使のような少女を世界一可愛いと感じたルーファスから言葉が零れ、鈴花が更に幸せな気分になるのは、ほんの数分後のこと。

「わぁ……! どれを食べようか、悩んでしまいそう、です……あ、でも、せっかくなら、苺が乗ってるのがいいな」
「これ全部食べていいの? 本当にいいんだね!?」
 陽菜とセラフィ、自然と笑顔になり2人仲良くケーキを手に並んでテーブルに着く。
「うん、すごく美味しい! 食べても減らないケーキの世界なんて、ここは天国じゃなかろうか?」
(「ふふ、かわいらしい、です♪」)
 はしゃぐセラフィが微笑ましくて、陽菜の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「んぐっ! の、のどに!? お、おみず……」
「大丈夫ですかセラフィさん? お水です。慌てなくてもケーキは逃げませんよ」
 微笑む陽菜から受け取った水をごくごく飲むと、セラフィも笑顔を取り戻し『ありがと! 陽菜!』と更にケーキをお腹に入れる。
 陽菜も、クリームをたっぷり付けた苺を頬張りながら、二人のあまぁいしあわせを満喫するのだった。

「ケーキとか滅茶苦茶あるな。親父に作ってもらった日を思い出すわ……」
 久しぶりの二人でのお出かけに上機嫌の晶だが、隣のうずまきは晶の話を半分も聞けていなかった。
(「久しぶりに晶くんと二人……ドキドキしちゃうよ~。甘いもの大丈夫なのかな? そうだ、お皿!」)
「マキ!」
「!?」
 晶の好きなケーキが何か、お皿をチェックしようとしていたうずまきは、晶の声にびっくりしてしまう。
「どうしたんだよ? 早くケーキ取って食べようぜ」
「う、うん!」
 手早くケーキを取る晶にうずまきも続いてテーブル席へ。
 笑顔はあれど会話が無いままケーキを食べていると――うずまきが緊張し過ぎていただけなのだが――うずまきの口元にケーキが一欠けら差し出された。
 晶を見ると、いたずら小僧のような笑みを浮かべている。
(「えっ!? これって、あ~んってやつ!! どうしよっ!? え~いっ!」)
 目を瞑って勢いよく差し出されたケーキをパクリ。
(「あ、ヤバい、マキかわいすぎっしょ?」)
 うずまきの可愛過ぎる反応に晶が次のケーキを用意していると、今度は晶に差しだされるフォークと苺。
「あ、晶くん! あ、あ~ん!!」
 緊張して手元は震えているが、これがうずまきの精一杯なんだと分かってしまえば『これ、反則っしょ?』と思いながら、晶は満たされた気持で口元を差しだした。

「フィストさんは、生クリーム派? チョコ派?」
「私は抹茶ケーキやアイスケーキをチョイスしてきたが、野々口、ちょっと食べてみるか?」
「え? え?」
「ふふ、勿論チョコも生クリームもいけるぞ。今度、フォンデュの出来るケーキバイキングに一緒に行かないか?」
 大人の余裕なのかフィストは晩の質問に答えながらも笑みを絶やさず自身のケーキをフォークで切ると晩の皿に乗せる。
 そんな優しい女性にどうしても伝えたいことが晩にはあった。
「僕ね、フィストさんとなら楽しいし、何より落ち着けるんだ」
 フィストは晩の事を一度たりともからかわなかったし、むしろ周りをたしなめてくれた……だから最初は憧れだったのかもしれない。
「……そうか。野々口、私の事は、怖くないのだな」
 フィストも気づいていた……晩が女性に苦手意識を持っていることを。
 だからこそ、適度な距離を保っていたし、自身を女性と認識していないのではと、ほんの少し疑ったこともあった……けれど、それは只の杞憂。
「もう、あなたの前では背伸びしない。そのままの子供な自分でいようって……。それが僕なりの男らしさだと思うから」
『僕は僕なりに、あなたの事が大好きだよ♪』
 無邪気な笑顔の真直ぐな言葉は、フィストの心を何よりも暖かく満たした。
「お前のような弟が欲しかったな。私もお前のことが好きだよ、野々口」
 今は子供の、何時か自分を追い越すかもしれない少年への、フィストからの心からの言葉だった。

●ケーキパーティー
「……これ! 全部たべていーの?」
 キョロキョロと周りを見回し、アッシュを見上げる鈴。
「好きなの食べていいけど、残すのはよくねぇからちゃんと選んで食えよ?」
「すず! がんばる!」
 鈴は笑顔で答えるとお皿に何を乗せようか悩み始める。
「アッシュは量を食べるのが苦手だし、こう言う少しずつ色々食べられる方がよさそうだよな……女子か?」
「ほら、アシュ子女子力高いからぁ~……じゃねぇよ。トーリ、鈴が信じそうになってるだろ」
 瞳李に言われ、ついボケるが鈴の『パパおんなのこ?』と言う純真な瞳にノリツッコミをせずにはいられない。
「ほら、イチゴのケーキもシッカリと取って来たよ。鈴は何食べる? 2人共苦手なのって無かったよな?」
 笑いを噛み殺しながら、瞳李が皿を差し出す。
「イチゴケーキやったー! すず、ケーキのすききらいないの。えらい?」
「ん、えらいえらい。ケーキ以外の好き嫌いもないならもっとえらいなー」
 鈴の頭を撫でながら言うアッシュの声も心なしか弾んでいる。
「本当にアッシュは鈴にデレデレだな」
 鈴の相手をしている恋人を見ながら瞳李は心から思う。
(「羨ましい訳じゃないから」)
「どした? トーリ。これ美味いから半分やる」
「……ありがとう」
 鈴を相手にする時とは違う口調、でもその中に含まれた優しさに瞳李は少しはにかんで礼を言う。
「んふふー。パパとトーリがなかよしで、すずうれしーな♪」
 穏やかで楽しい時間はまだまだ続く……。

「あちらにて苺のロールケーキが有りましたので御持ち致しました」
「苺のレアチーズケーキは如何でしょう?」
 エンジュと蘭華が傅くように、それぞれ苺のケーキを仕えるお嬢様であるいちごへと差し出す。
「わ、わ、ありがとうございます」
 こちらのテーブル、いちごが座っているだけで、次々とメイド達が入れ代わり立ち代わりケーキを運んでくるのだ。
 但し、全員が職務だけかと言えば違ったりする。
「さーてどれ食べようか、な……あ痛ッ!?」
「……待ちなさい、お嬢様をほっぽってがっつくんじゃないの」
 ケーキに目移りしているシアンを窘めるのは、義姉のイーニンだ。
「いやね? 自分の舌でキチンと確かめて、ちゃんとウマイものを勧めたいのよ。決してただ食べたいから食べてるワケじゃ……」
「お嬢様騒がしくて申し訳ありません。紅茶はいかがですか?」
 ケーキに囲まれて幸せそうないちごを眩しく見ながらキーラが言えば、控えめなメイド達も、フォークにケーキを添えていちごの口元へ運ぶ。
「お嬢様はい、あーん。おいしいですからいっぱい食べてくださいね」
「はい、あーん……♪ ……ふふ、美味しいですよ?」
 ルミナとクノーヴレットに微笑まれて、いちごの方が慌ててしまう。
「え、えと、自分で食べられますから……」
「わうっ。私も主様にあーんしますぅ……っ!?」
 勢い余った敬香の差し出した苺ショートは、いちごの頬を汚してしまう。
「わう、手元が狂いました……」
「大丈夫ですよ。私だけでなく皆さんも一緒にケーキバイキングしましょ」
 いちごが微笑んで言えば、メイド達もそれぞれケーキを口に運ぶ。
 いちごへの御奉仕争奪戦が終結することは無かったが……。

「一太―、それどこにあったやつ? 私も取ってくる」
「ん? あぁ、これは向こう」
 全制覇を目指すノーフィアは、一太の皿に乗ったシフォンケーキを見て尋ねる。
「ん、こっちのチョコケーキは?」
「それは……失敗作。味はうん、喰えるけど」
「一太、あっちのが美味しそうだったわよ……あら、一太が作ったの?」
 一通りケーキを見て来た美海の皿の上には幾つものケーキが乗っているし、頭の上の『メア』も口の周りにチョコを付けてケーキを味わっている。
「毛利さん、食べるならどうぞ。……味は喰えるぞ」
 見た目は少し失敗しているが、ノーフィアと美海が一口食べれば、優しい味が広がっていく。
「いやはやしかしまぁ、ここで骨竜共と喰いあったんだっけか。よくも此処まで戻ったもんだよなあ」
「此処、戦国時代も城の取り合いしていたから、宿命みたいなものだと思うわ。でも、一段落ね」
 しみじみと呟く一太に美海も言う。
「デュランダルにゲドムガサラにって、ここも大変だったよね。……よし、もう一周行ってみよー!」
「……待って館長、アンタどれだけ喰う気だ?」
 一太の言葉もノーフィアには届かないのであった。

「け、ケーキバイキングなど今まで一度も……こんなにも種類があるものなのか……これでは目移りしてしまうな……」
 気圧されたように呟くマルティナだが既に臨戦態勢の女子が2名。
「乙女と言えばスウィーツ!!」
「おぉぉ……右を向いても左を向いてもけぇき、まさしく桃源郷なのじゃ……!」
 リーズレットと凰火、皿とフォークを掲げ今にも突進しそうな勢いだ。
「仲の良い女子同士、テーブルを囲んで甘いものを食べるのも良いのではないだろうかっ!」
「ばいきんぐということは即ち好きに取って好きに食べてよいのじゃろう、わし知っとる!」
 2人は凄い勢いで苺三昧のプレートを作っていく。
「ここまで揃うと壮観やねぇ」
『普段はこういう場所だと給仕してしまうのですが、それは今日は忘れてしまいましょう』
 和と並ぶ雪菜は会場に入る前、そう言っていたが。
「ザッハトルテやレモンパイが好きなんですよ、私。コーヒーとの相性もいいですし」
 口にしながら和の皿にケーキを乗せている。
「皆は、どんなケーキを持ってきたのだ?」
 苺ムースを口に運びながらリーズレットが聞けば、洋菓子には詳しくないと凰火も興味津々だ。
 その時、フルーツタルトを口にしていたマルティナが意を決して言う。
「良ければ一口ずつで良いから、分けてくれないか? ……出来れば多く味わいたいからな」
「お、分けっこか。これだけあるんやし、その方が沢山食べられそうやね」
 和が賛同すれば、他の女子達も自身の皿のケーキを切り分け、それぞれの皿に乗せる。
「友愛も親愛も愛なんやから、こう言うバレンタインもええね」
 和の言葉に女子達は更に話を弾ませるのだった。

「んー! んーっ!」
(「なんであんな高い所にあるのだ―!?」)
 パティがシューツリーの頂のチョコシュー目掛けて一生懸命フォークを差そうとするが、そのチョコシューはパティのフォークから離れ、別のフォークがさらっていく。
「ほら、これだろ? あんまり無理するとタワー倒すぞ」
 言葉と共にパティの皿にチョコシューが乗せられる。
 顔を上げれば、漸くケーキにありつけたのか、雄大がケーキを頬張っている。
「べ、別に助けて欲しいとか言ってないのだ……で、でも、ありがとうなのだ」
「うん、そっか♪」
 笑顔で一言残すと雄大は、他のテーブルへと足を向ける。
「美味しいのだ♪ ……あ、そうだ、あっちも高くて食べれなかったのだ! ちょっと待つのだ、雄大っ!?」
 慌てて雄大を呼び止めようとして転んだパティの皿とケーキが雄大の頭を直撃するのを皆、スローモーションのように見ていた……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:39人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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