ヒーリングバレンタイン2018~西の海から来る福音

作者:ほむらもやし

「皆さんのおかげで、多くのミッション地域の奪還できた。ありがとう! 年末年始も返上して頑張ってくれた方々のことを思うと、思い浮かぶのは感謝だけだ。本当にお疲れさまでした。……で、今度はヒールによる復興の支援とバレンタインのチョコレート作りを絡めたイベントをすることになったのだけど、来てくれるかな?」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、あなた方の姿を認めると、爽やかな笑顔で切り出した。
 現在、解放されたミッション地域には、住民が居ない状態であるが、定住を考える人や、周辺に住んでいる人、土地に思い出のある人が、よく訪れているようだ。
 今回の仕事はヒール活動と共に、一般の人も参加できるイベントを開催して、被災地のイメージアップを目指している。

「皆に向かってもらうのは天草の西側。昔から温泉で知られていて、東シナ海に沈む夕日の美しさは筆舌に尽くしがたい美しさと言われる」
 天草とは熊本県の南西部、周囲を東シナ海、有明海、八代海と呼ばれる3つの海に囲まれた島嶼群を指す。
 島々の緑と海の青の織りなす絶景、温泉、南蛮文化やキリシタンゆかりの教会群などで知られる。
「で、作るチョコレートだけど。海に因んで、海の生物をモチーフにした、海の生きものチョコレートが、とか、どうかな? 特にこのあたりはイルカの群れもみられるしね」
 そう言って、ケンジは立体的なイルカの形をしたチョコレート型を見せる。溶かしたチョコレートを流し込んで、冷やせば、誰でも簡単にイルカの形をしたチョコレートが作れる。
「さらに、色の違うチョコレートを組み合わせたり、型から出してからデコレーションすると、見栄えも良く出来る。せっかくなら、受け取った人が、天草の良さを思い出せるように出来るといいよね」
 イルカの他にも、ヒトデやアンモナイト、ウミガメ、エビなどなど、色々な形状の型があり、流し込むチョコレートも、カカオの茶色のほか、白(ホワイト)、緑(抹茶)、ピンク(イチゴ)、黄(マンゴー)、紫(紫芋)など、様々だ。
「デコレーションには、ガナッシュやナッツ、ドライフルーツを使うことも出来る。違う食材を組み合わせれば、見た目だけではなくて、味や食感も楽しくできるよね」
 チョコレート作りに拘るケンジの女子力が意外に高かったと判明したことはさておき、このイベントは復興の支援であると同時に、地域のイメージアップでもあるから、訪れた一般の方が楽しむことと同じくらい、あなた方ケルベロス自身が楽しむことも重要だ。
「もちろん、自家用のチョコレートを作る時間もある。誰かに渡す用でも、自分で食べる用でも、遠慮しないで作って大丈夫だよ」
 今、辛い思いをしている人に、飾り立てた言葉で希望を語っても白々しいだけだ。それよりも、終わりの見えない戦いという逆境の中で、苦しみ藻掻くケルベロスだって、努力して、儚い人生の時間を楽しんでいる。
「楽しく、幸せな姿をみんなに見せることも、ケルベロスの仕事だよ」
 良いバレンタインを。氷を溶かすような笑みで、ケンジは言った。


■リプレイ

●超高速ヒール
 天草のミッション地域の解放がなってから半年。
 夜が明けてから1時間ほどの朝、青い空と冷たい水に磨かれたように空気は清冽である。しかし山肌に残る戦いの傷痕は黒いままで、山と海の間にある小さな平地も瓦礫の野と化したままだ。
 その平地のあちこちからヒールの光が立ち昇る。それは場所を変えて次々と光って、瓦礫の野はかつてと同じような湯煙が立ち上る温泉街という感じの面影を取り戻して行く。
「うん、ちゃんと直ってきましたね。それじゃチョコ作りに行きましょうか」
「あー、やっと終わったし、さあチョコ作るぞー! さぁベッカも行こ、行こう」
 足湯に素足を突っ込んでいる、レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)に晴れやかな顔をむける、貴石・連(砂礫降る・e01343)は、その手を引っ張るようにして、急かしている。
 皆、すごい手際の良さでヒールを掛けた。バッチリ終わったのだから、次はチョコ作りだと気合いをいれる。
「さぁ、これからが本番ですな、おにいさんや!」
 そんな中、クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)は、ひとり残って、作業を続けようとしている。
「こんなに早く終わるなんてすごいよね。……せっかくだから、君もチョコ作りをしてみたら、どうだい?」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)はとても気まずそうな顔をする。
「んまあー、何ということでしょう? 配管が愉快なことなっているじゃありませんか?」
 しかし、全然聞こえていないようだ。
 と思ったがやはり聞こえているのか、クリームヒルデは、にっと目を細めて、楽しそうにヒールを掛ける。
「まずは暖かい温泉が復旧すれば、少しずつ人も集まるさ。隠れキリシタンの地ですし、教会やステンドグラスなんかの異国情緒を少し取り入れつつ、基本は和風様式になってくれるといいなあ」
「いずれは天草の朝日を見ながら、朝風呂で一杯とか洒落込みたいですのう。もちろん、夕日もいいし漁り火もいい。熊本は米焼酎が有名だけど、天草ならやはり芋焼酎ですな」
 鼻歌の混じる言葉通りの、声色は楽しそうで、ケンジが心配することなど何も無かったようだ。
 多分、こうやってヒールをして、誰かの助けになれるのは、彼女にとっては大事なことなのだろう。
「ところでケンジさんや、唐津や屋久島にはいつ行くのかのう」
「は……はい」
 思わず頷いてしまうけれど、わかってはいるけれど、わかりましたとは言わない。実際にそれをできるのは、あなた方だから、がんばって。そして、今日は良い天気になって良かったと、午前の空を見上げた。

●ケルベロスのチョコレート工房
「潮の香りがする……天草はほんま良いところやな」
 美津羽・光流(水妖・e29827)は、戦いの傷も癒えたこの場所にも、もうすぐ人が戻って来て、昔のように復興してゆく様を思い浮かべて嬉しくなった。
「さあて、海の生き物言うても、ようけおるさかい、予めいろいろ調べさせてもろうたで、ケンジ先輩も言ってたイルカにマダコ、タツノオトシゴ、ウツボやクルマエビも有名みたいやな。なんやと、こんなまで、全部型があるって、どういうこっちゃ。ウツボ型チョコとか絶対貴重やで」
 チョコレート作りの為に皆が集まったのは、温泉旅館の大厨房であった。
 運び込まれた大量の型の前で、光流がウツボの型を手にして驚いている。そして隅っこの方には、チョコレート作りには、一見、関係の無さそうな、ノートパソコンと三次元プリンタらしき物が置いてある。
「わぁ、素材のチョコもカラフルだね! これで海の生きものを……あ、閃いた! サンライズシェル!」
 全種類のチョコレートを並べたテーブルの前で腕組みをしていた、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、大きな声を上げる。
「サンライズシェル?」
 疑問形で返す、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)に、マヒナは素早いスマートフォンのタップ操作で応じ、検索して出てきたページを見せてくれる。
「へぇ! ハワイが地元の女の子に人気の貝なんだね! こんな素敵な貝があるのかぁ」
「うん、ハワイでは有名な貝。イエローやピンク、オレンジのグラデーションがとってもキレイなの。珍しいのだと緑も……」
 ピジョンとマヒナが、話している間に、シャドウエルフっぽく聞き耳を立てていたケンジは、ひそかにパソコンを操作する。そして動き始めた三次元プリンタがサンライズシェルっぽいチョコレートの型を作り上げて行く。
「どうりでやけに色んな種類の型があると思ったのですよ」
 その様子を見てしまった、レベッカが妙に納得したような表情で頷く。
「溶かしたチョコを型に流し込むだけ。これならあたしでも簡単簡単。ん? 何、端っこのほうを見ているの?」
 型のイメージに合ったチョコレートを選ぶだけ。
 あとは溶かして固めるひと手間を加えるだけで、こんな簡単でいいのか? と思えるぐらいに、オリジナルのチョコレートが出来上がってしまう。これは正直はまる。
「イチゴチョコを星形の型に流し込んでヒトデ。タツノオトシゴは抹茶チョコがいいかな? ビターチョコのマンボウにミルクチョコでクジラ。抹茶でコンブにミルクで貝殻よ。あれベッカ、まだ全然出来てないじゃない」
「そうですね、私は簡単にイカとタコでも作りましょうか。イカはホワイトチョコとして、ところでタコの脚は、ああこういう形にしているのですね。あれ、そう言えばチョコで赤って食紅?」
 簡単にすると言っているのに、だんだん簡単では無くなってゆくので、連が思わずツッコミを入れる。
「もうっ、ベッカは細かいことばかり、気にするんだから、たまにはもっとガンガンゆこう?」
「うん、出来ました。やっぱり2つセットが嬉しいですよね、それに目玉も付いていた方が良さそうですね」
 でも、マイペースだった。
 意外に細かく描き込めることを知ったレベッカは眼鏡、ハチマキ、ヒゲといつの間にかにバリエーションを増やしてしまう。
 そう目的は作ったチョコで皆に楽しんでもらうことだけど、作る自分も楽しい方が良いに決まっている。
 という感じで、工作が得意な、パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)は、巨大な型を用意していたが、想定外の事態に苦しんでいる模様。
「……なんか、変なのだ……焦げている気がするのだ。ど、どうしよう?」
「うん、鍋を直接火に掛けると焦げやすいよね。チョコレートは湯煎にすると綺麗に溶けるよ」
 わりとやりがちなことだったので、見かけたケンジにもすぐに解決できた。
 果たして、後は工作力を駆使して、ホワイトチョコで氷山や雪原を模し、続けてたくさん作った、ペンギンやシロクマやアザラシを並べてジオラマのように仕上げて行く。
「わーい♪ 完成なのだー!」
 大迫力のペンギン集団と僅かなシロクマのコラボレーションは、敵中を突破撤退する様は、島津の退き口をも連想させてしまう。
「そ、それは……!? だ、大丈夫なのだ! ペンギンさん、数多く作ったから多勢に無勢でシロクマに勝ちます!」
 と、言うわけで、パティのチョコは食べる用というよりは、飾って見て貰ったほうが楽しそうだと言うことで、旅館の入口のところに飾っておこう。——バレンタインのあとで戻ってきた旅館の人が食べるかどうかは決めれば良いだろう。
 そんな様子を目にした、キサナ・ドゥ(イフェルスの信管・e01283)の頭の中に、この天草で戦った記憶がふと過ぎる。心に抱く思いを叩きつけ、魔空回廊が壊れる様も、火焔が土地を舐める様も、稲妻が敵を打ち砕いて行く様も見たような気がする。——だけど今日、天草に来たのは破壊の為では無く復興の為、複雑なブルーの思いは綺麗さっぱり海に流したことにして、キサナは、作り上げたチョコレートを小袋に詰めて、ヒールされた街へと出て行く。
 よく考えて見れば、早朝からヒールを掛けて、そこからチョコレートを作って、さらにそれを訪れた人に配るなんてサプライズイベントをしようなんて、なんちゅう無茶をさせるヘリオライダーだろうか。
 それでも、光流も何とか作り上げて仕上げに入っていた。
「西の海やし、せやな……丸いオレンジグミ作って、ホワイトチョコにはめ込んだら綺麗な夕日色になるやろか」
 果たして、組み合わせを思案しつつ、試行錯誤をしばし、
「よし、ええ感じ完成やな、ザ・天草の夕日や」
 一方、ピジョンもマヒナも、ひたすらに夜明けの色をしたチョコレートを作り続けている。
 ピジョンのグラデーションはマンゴー、ミカン、イチゴと黄から赤に至る同系の色相を使った王道とも言えるもの、一方マヒナの方はオレンジ系のグラデーションを中心にしながらも、ホワイトや抹茶の緑も駆使した複雑なもの。そして2人とも、作る個数を重ねるごとに、貝の成長線を表すようなグラデーションの美しさに磨きが掛かってゆく。
「マヒナのすごいなあ、本当の夜明けみたいに見えるよ」
「ピジョンのチョコもキレイ……! それにすごく上手」
「じゃあ、味の方も確かめてみるかい?」
「え、くれるの? じゃあワタシのもどうぞ?」
 互いに向き合って、それじゃあ一緒にと、今出来たばかりの最新作を口の中に入れ合う。フルーツの甘みと酸味が打ち寄せる波の交互に来て、やがてひとつの味と混じり合うその味は複雑だけれども遠い水平線に思わせる奥行きがあるように感じた。
 天草と言えば夕日にばかり目が行きがちだが、朝日だったちゃんと昇る。だからマヒナもピジョンも天草の新しい夜明けに祈りを込めて、サンライズを推すのだ。
 配る用のチョコレートを作って、さらに自分たち用のチョコレートまで作れば、時間は掛かってしまう。
 もう、時間は正午を回ってしまっていた。
(「レンのためにイルカのチョコを、これは特別ですよね」)
 水色はあったけれど、……なんとなく止めて、ピンクと白で。そしてたっぷりと心を込めて。
 レベッカは作り上げたイルカのチョコレートを大事にしまうと、亀の形をしたチョコレートの甲羅になにやら複雑な模様をあしらっている連に声を掛けようとして、やっぱり終わるまで待つことにした。
(「気持ちは形にした方がいいよね。だから『I love you』」)
 でも、目立ちすぎれば押しつけになってしまうから、コッソリと。あと今、レベッカに気付かれないようにして、その文字を書き込んで完成。
 レベッカへ贈るチョコレートはウミガメである。甲羅をミルクで、手足や頭はビター、苦さを甘さの組み合わせは、甘いばかりでは無くて、しばしば厳しさを見せる彼女に似ているかも知れない。
「さて、連、私たちもそろそろ参りましょうか?」
「え。もうみんな出かけちゃったの?」
 頃合いを見計らって、声を掛けてくれるレベッカの顔はとても優しく、明日と言う日が待ち遠しくて、小さな胸がいっぱいになる。

●ケルベロスたちは街に出る
 午後になると、普段から様子を見に来ている人に加えて、ヒールによる復興がされている聞きつけた人々が続々とやって来る。
「さあさあ、ケルベロスからの一日早いバレンタインのプレゼントだよ!」
 キサナが声を上げると、自転車を走らせていた中学生ぐらいの集団が「こんにちはー」と、判で押したような挨拶を連呼しながら集まって来る。
「予め言っておくが、オレは22歳だぞ。中学生じゃないから誤解するなよな」
「はいはいはーい。おばさん!!」
「それはサバを読み過ぎだぜ! せめてお姉さん、くらいじゃねえの?」
「お姉様、女王様、お代官さまー、ひゅーひゅー!」
 そういえば、中学生ぐらいの男子って、普通はこんなノリだったかなあと思いつつも、ハイテンションな子たちに、用意したチョコを配り始める。
「おまえらのような、お子様には、あまーい砂糖菓子のようなチョコがお似合いだが、大人と、背伸びしたがりの子供にはビタースイートな絶品チョコでも良いかもな」
 好きな方をあげようと。差し出して、選ばれるのは、ビタースイートの方ばかり。
 やはり中学生はこう言う感じだ。
「苦さと甘さのバランスが絶妙だろ? このバランス、真似しようったって他人にゃ無理さ。なぜって? こいつは――オレの人生のこもった味だから、かな?」
 にやにやしながら格好をつけてみた、キサナだが、自転車でやってきた中学生たちが、どこからやって来たかまでは、深く考えなかったし、中学生たちにも、そう言うことを連想させない、明るさがあった。
 パティの作ったチョコレートのジオラマは、南極のようだと、温泉旅館の営業再開を目指していた人たちに好評で、新たな呼び物のヒントにもなっている様子で、ピジョンとマヒナのサンライズシェルを模したチョコレートは、お土産ものを作る人たちや、農業の再開を目指す人たちに喜ばれた。そう、天草では果樹の栽培も盛んなのだ。
「イチゴもミカン楽しみなの」
「まだ時間は掛かるかも知れないけれど、また作ってみせるさ!」
 農家らしき夫婦は、マヒナたちに力強く告げると、「がんばるぞー」と両手を上に上げた。
「はい。タコとイカのセットですよ」
「こっちは、ヒトデ、マンボウやタツノオトシゴもありますよ」
 レベッカと連も出会った人に、チョコレートを渡して回っている。
「おねーさん、ありがとう!」
「このタコ、口がツンって、とがっていて、すごくカワイイねー」
 見た目にも楽しいチョコレートは小さな子どもに好評で、2色のチョコを持って走り回って喜ばれる姿を見ると、胸が躍るような気がした。そういえば、中学生の集団が自転車でやってきたが、ここでは不思議と大人しくしていたようだ。
 そんな中、クリームヒルデは歩き回り、細かいところにもヒールを施していた。
 海の近くにあった水族館の廃墟、中に入ってみると、海の中を歩けるガラス張りのトンネルの天井が水没していた。再開できるかどうかは分からないけれど、此処にもヒールを掛けてから、クリームヒルデは修復した水族館の外に出る。水槽を直すことはできても、中にいた命は生き返らせることは出来ないし、ここで働いていた人たちを呼び戻せるかどうかも分からない。
 中学生の集団はヒールされた温泉街を回っているようで、ケルベロスの姿を探しては、チョコレートをねだっている。ふらりと海岸線の方を歩いていた喰代・弥鳥(千楽紡ぎ・e30103)やアベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)も、当然のように例外では無く、容赦なくチョコレートをねだられている。
 かくして、忙しく楽しい時間はあっという間に過ぎて、太陽が西の空に沈む時間が近づいてくる。大量に用意したチョコレートも作ったチョコレートもほぼ無くなって、街を訪れていた人たちも、帰路について、もうこの温泉街に残っているのは、ケルベロスとかつての住民の一部だけかも知れない。
 そんな状況の中、海辺を歩く、アベルの耳に弥鳥の口ずさむ、名残惜しさ、切なさを覚えるようなフレーズが届いたのは自然な流れであった。
 果たして、声に導かれるように進んで行くと、夕焼けの橙の光が満ちる中、海風に金茶の髪を揺らす弥鳥が、途切れ途切れに紡いだ言葉を繋げ直して、フレーズを口ずさむ様子が見えた。
「〜〜♪ 夏の青い海も、冬の昏い海も好きだけど、海に沈む太陽か」
 自分で作ったホワイトチョコレートとイチゴで作ったカメのはいった袋を取り出して、見遣る刹那、足音に気がついて、目線を向ければ、そこには漆黒の髪の大男、アベルの姿があった。
「お前さん、もっと聞かせてくれないか? こころばかりの物だが、よかったら、礼はこれで——」
 腰を下ろしている弥鳥の脇に、アベルはしゃがみ込むと、名を告げることも無く、この日作った、ペンギン型のチョコレート。白と紫でラッピングした、それを差し出す。
「……喜んでお聞かせしましょう」
 一瞬、驚いた顔をする弥鳥。だけど、自身も同じ厨房でチョコレートを作っていたから、その出所はすぐ分かる。同時に、この大柄な男がこんなに可愛らしいものを作ったかと思うと、少し愉快な気もして来て、破顔を一つ。
 今、生まれたばかりのメロディをしまい込み、いつか作った穏やかなバラードを口遊み始める。
 ……どうしてだろう、この男の紡ぐ音は心を掴む。
 この曲が終わったあとで、俺は何と言えばいいのだろう?
 海に沈み始めた太陽は、止まることなく、急速にその光を小さくして、それにあわせて空のグラデーションも紺色が強くなって行く。
 間も無く、太陽はその輝きの全てを隠して、夜の闇がやってくる。
 ヒールを終えた街並みに、灯る明かりは僅かだけだけど、それは長らく失われていて、ようやく戻ってきた明かり。バレンタインデーを翌日に控えたこの日、天草における本物の復興が始まった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:10人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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