ヒーリングバレンタイン2018~ココロ綴り

作者:東間

●ヒーリングバレンタイン2018
「君達ケルベロスが取り戻したミッション地域。そのいくつかで、今年も復興を兼ねたバレンタインイベントの開催が決まったよ」
 そう告げたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)の表情と声には、喜色が滲んでいる。『今年も』という言葉はたった4文字だが、それを口に出来る成果が多数記録されているからだ。
「さて、初めてのひともいるだろうから改めて説明しようか」
「お願いします」
 こくり頷いた壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)に、男はお任せあれと笑顔をひとつ。
 場所は岡山県倉敷市。偽ケルベロス作戦が行われていた場所だ。観光地として名が知られていた場所でもある為、商売人、アーティスト、一般人問わず、引っ越し先にと考える人は少なくない。
「まずは倉敷川沿いにヒールをしてもらって、その後、一般人も参加出来るイベントを開催する手順になってるね」
「成る程。イベントはどういったものやるんですか?」
 微笑んだ花房・光(戦花・en0150)の尻尾が、ぱたりと揺れた。
「バレンタインプレゼントに添える、ひとつだけのメッセージよ」

●ココロ綴り
 倉敷市には、瓦屋根、格子窓、白い壁と、時代劇にタイムスリップしたような街並みが特徴の美観地区がある。今回バレンタインイベントの会場として白羽の矢が立ったのは、そんな風景にとけ込むレトロな店舗だ。
 広々とした店内に搬入する大量の段ボールには、多種多様な紙と文具が詰まっているという。
「ポストカード、メッセージカード、一筆筅、便箋、封筒……ペンや筆、インクも沢山あるから、好きなものを選べるわ」
 シンプル?
 ポップでガーリィ?
 それとも煌びやか?
 ゆるふわ可愛く、和み方面?
 封筒を使うなら、外と中でギャップを演出するのも楽しいかもしれない。
 バレンタインらしいハートやスイーツ、変わり種ならプレゼントを手に頬を染めている謎のおじさん――といったダイカット・ポストカードも豊富なのだとか。
 楽しげに話していた光だが、いつの間にかラシードが真顔になっている事に気付いた。
「……娘に何て書こう。出だしも内容も重要だ。適当にしたらバレンタインをわかってないってガッカリさせる事に……!」
 じー、と見ていた継吾は光に視線を戻した。
「僕は、どういった物があるのか純粋に楽しみになってきました」
「そうね。バレンタインスイーツに負けないくらい、心を掴んでくるようなアイテムばかりの筈だもの」
 自分らしさ溢れるものにするか、相手が喜びそうなものにするか。
 そしてどんな言葉を、心を綴るか。
 全ては2月14日――バレンタインデーの為に。


■リプレイ

●2月13日
 地域復興と人々の為、倉敷川に沿ってのヒールが施されれば、デウスエクス侵攻の影響は薄れ、倉敷川沿い一帯が本来の美しさを取り戻していく。そんな中、真幸はとある光景を思い出していた。
「……そういや、新郎新婦が船に乗って川降ってたな。桜の頃に来るとなかなか風情がある」
「いいなぁ。羨ましい」
 共にヒールしていた秋子は一時その手を止め、よし、と決意。
「結婚式はここであげよう」
 だがその決意には致命的な問題が。
「言ってないでさっさと恋人作れ」
 溜息混じりの一言に秋子は『ブーメラン……』。その肩はしょんぼりしていた。

 用意された葉書や便箋、文具はメッセージ作り用。アルバムは無いんです、と亮とアウレリアの前で肩を落としたスタッフがハッとした後、パッと笑顔になった。
 ここへ文具を納品した店のリストがあるらしい。それがアルバム作りのお役に立てればと去った彼が戻るまでの間、2人は寄り添い文具を見て廻る。
「アリア先生教えてね」
「ふふ、いっしょに考えようね。貼る位置とか、順番とかも」
 年々種類を増やすマスキングテープ。螺旋模様を魅せる瑠璃色硝子ペン。言葉に命吹き込む撫子の洋墨。どの品も、2人一緒に作るアルバムを春のように輝かせる筈。楽しみという蕾は、膨らむばかり。

 集められた品々はバリエーションも魅力も抜群。故に和香の女子パワーは急上昇。
「まぁ~、この便箋ってピンクでかわいい~! あっ、こっちも~。御厨さん、こんなのはどうですかぁ~?」
「お、こっちのストライプのも、澤渡には似合ってるんじゃないか?」
 多少圧されたラモンだが、楽しそうな和香の姿に心は和むばかり。そして出逢ったのはカモメ飛ぶスカイブルーの便箋。自分達を救ってくれたケルベロス全員に送るならコレだと手を伸ばす。
「へへへ、澤渡は付き合ってくれてありがとな」
 和香は向日葵のワンポイント咲くパステルイエローの便箋を選んでいた。その宛先は?
「秘密です!」

 きらきら文房具の魔法の中はしゃいでいたラグナが、傍に居る自分に送るつもりだと聞いて千梨はパチリと瞬いた。
「直接言えばいいのに」
「手紙は、ずっと残るじゃないか。あ、俺が手紙を書いてる時、覗いたら駄目だぞ!」
「判った判った」
 ペンはラメ入りの紫になるらしい。楽しみは後に取って、自分も実家の祖母へチョコに一筆添えて送ろうか――逆だけど。春の花を見つつ、ラグナの髪に目をやり、そこに咲く花を見て、決める。
「……勿忘草の便箋を探そうか。大切な、残したい言葉を綴るには、ぴったりだ」
「俺も! 俺も一緒に探すな!」
 ラグナの声が更に張り切ったものになる。だって自分にも返事を書いてくれるのなら、そうしないと!

 鮮やかなプロヴァンスプリントの便箋なら、片手では足りない程存在する送り先も一目でオルテンシアからだとわかる。
 自分らしさをとった様に納得のウーリは、暫し悩んだが四季彩々の絵柄が数種踊る千代紙便箋に。読み返した時、其処にある季節で時間ごと思い出してもらえそうで――これなら誰が相手でも迷う事無し。
 その感性と千代紙の行き先に思い馳せたオルテンシアの手が、くるりと洋墨を踊らせた。
「此方はその分、綴る色に拘るのよ」
 それは朝となく夕とない境界色。間近で微笑む赤に映った己の色に、パチと瞬いた目が笑う。
「……寸分の隙もない選び方やねぇ。負けました」
 では、良きものは見習おう。紫陽花のように華麗な赤の洋墨を取れば、書く楽しみは広がるばかり。

 希月がどこかウキウキと探しているのは誰宛のカードなのか。季節柄プラス愛しい婚約者という事もあり、崎人の胸に期待が膨らんでいく。
(「俺宛のカードも……あったらいいなぁ……」)
 ソワソワしている崎人の想いは既に伝えた後。その時に希月は待って欲しいと返していた。優しい彼にどう返したらいいのか、素直に気持ちを込めても良いのか――花柄や可愛い和風に惹かれていた目を黒猫が射抜く。
 シンプルな白いカードが選ばれた傍で、男も花柄のカードに目を留めた。
(「喜んでくれるといいな」)
(「あなたはこのカードを受け取ったら どんな反応……かな?」)
 宛先は秘密のまま、浮かべた顔は傍らもの。

 出会いの切欠は神田古書店街、1冊の本。あれから1年と振り返るアンセルムは欲しいから全部という思いを我慢して文具を、遥は筆ペンを物色中だった。
「……あ、筆先が硬めの物があるんですね」
 それなら慣れていなくても安心、と手に取る遥の横で、アンセルムも硝子ペンを手に取っていた。洋墨もセットで買えばすぐ使えるというお得感がある。が。
「何を書こう……」
「私も何を書くかは……考え中、ですね」
「そうだね……お互い何書くかは、のんびり話しながら、考えようか」
 例えば――去年のように本の話でもしながら。それはきっと、1年前のように楽しい筈。

 『君』へ宛てる為に去年生まれた赤橙の洋墨へ、今年似合いの紙を。ティアンが取ったのは、横書き綴れば深青色の水平線から水底へ沈んでゆけそうな、そんな一筆箋。
 だが近況を収めるには足りず、『だいすき』だけでは沈んでゆけず――でもそれ以外なんて伝わってほしくなくて。
(「ああ」)
 胸を満たし溢れるものが、やさしいあたたかな気持ちだけであったなら。

「……ラズリアはどんな便箋で送られてきたら喜ぶ?」
「私は心がこもっていれば、どんなものでも……あ、この猫ちゃんの便箋可愛いですっ」
「……へぇ。君はこう云うのが好きなのか?」
 ヴェルトゥは可愛らしいそれを籠へ入れた。この猫との再会はそう遠くなさそうだ。
 パソコンでも文章は残り、遠方にも簡単に言葉を届けられる便利な時代。それでも手書きの手紙には特別感を覚えると、2人の会話は穏やかに紡がれて。
「……ま、君からの手紙なら何でも嬉しいけどね」
「それではこれからも沢山お手紙書かなきゃ、ですね」
 ぽそりとした呟きにブルーサファイアが笑み、青銀もまた微笑む。
「うん、俺も」
 これからも、沢山の言葉を。

 手触りのよい純白の便箋、手に馴染む万年筆、『月夜』の名を持つカラーインク。そして、白い星座から差込んだ光が中に数多の星を生む黒封筒。
 共に歩む日々が始まった星空のようで自然と笑みを零す冬真だが、緊張もある。何せ手紙を書く事は滅多にない。
「お嫁さんに愛を伝えたい時、ラシードさんはどう書きますか?」
「そうだね……素直に、そして出来るだけ素敵な言葉で綴る事、かな」
 きっと伝わるよ。冬真の選んだ物を見た赤い目が、ふわり和らいだ。

 色、形、サイズ――そして調子外れのラブソングと、そこはまるで文具のミュージアム。
「君は恋人さんへ贈るのかな? メッセージは聞かぬ方が良いだろうね」
 砂糖菓子のダイカットカードを食べ――るフリ。にやり笑む夜を尻目に、あかりは宝の山を品定めしながら頷いた。
「好きな人、大切な人、お世話になっている人……その人其々に寄り添えるカードを、言葉を選びたいね」
 故に選んだのは宵色の一葉。月の無い満天の夜空と、月を浮かべた湖面。
 誰に、どんな想いを。デザインを。それは宝箱から一粒のダイヤを探すようで、静かな答に夜は胸を躍らせた。その手がふと、止まる。
「……あぁ 俺はこれにしよう」
 表は赤、淡い金の蔦が煌めき彩る内側の白。半月かと思えば、開けば林檎へ変じる品。
 綴る言葉は――お互い、ナイショ。

「おお、エリヤは可愛いものを見つけたんだな」
「絵がかわいいと、つい気になるんだ」
 葉書に描かれた梅花と兎に触れれば、ざらっ。異なる材質で魅せるそれに心を綴れば、見て触れて、読んでと三度楽しい筈。
「見つかったんなら良い。重畳、重畳」
 そう呟いたエリオットはというと、四つ葉が彩り添える葉書と、書きやすいだろう万年筆を手に取っていて。
「僕はふだんお世話になっている友達に書こうかなと思うんだけど、にいさんは?」
「俺? 日本に来る前世話んなった人に、無事の報告でもしようかね」
 良き報せと共に旅立つ四つ葉は、もう少し増えそうだ。

 くねくね踊る謎のキモカワ系、劇画調漫画の一コマ風。萌花と如月は見つけた物を見せ合っては仲良く笑っていた。
 そうして楽しみながら萌花が買ったのは、贈り物に添えたら喜ばれそうな、凝った装飾が光るポップアップカード。
 如月もコレ、という物を選んでいたが、ふと目に入ったきらきら――萌花のように輝くラメペンを手に取ると、買ったシールへ早速きゅきゅっと。
「はい、萌花ちゃんも買い上げ……なんちゃって?」
 ハートシールに煌めく文字は『如月の』。ふふっと萌花の顔が綻んだ。
「ん、大事にしてね?」
「勿論、目一杯大事にしちゃうんだから♪」

 『元気? あの時はゴメンね。美味しい物食べてる?』。
 自分はまあ元気だと触れ、お互い『元』な関係に笑う。そんな手紙の最後、瑠奈は、これは捨てずに保管しておいてと望みを綴って終わりにした。
「さて郵送で送るか……」
 半年。無いだろう、と思う。けれどもし、相手の傍に他の誰かがいたら――。

「何時もありがとな。これからもよろしく頼むぜ」
 そう言ってカトレアへ封筒を差し出した克己の前に、封筒が差し出された。
「どうでしょうか、見られると少し恥ずかしいですけど、良かったら開けてみて下さい」
 この場で見たかった克己にとって、それは願ったり叶ったり。少し緊張しながら開けてみれば、薔薇が咲くメッセージカードには『いつも私を気に掛けて下さって有難うございますわね』と彼女の言葉が。ならば。
「俺の方も開けて良いぞ」
 良い、と言われれば開封するもので。ドキドキするカトレアの目に飛び込んだのは『いつも俺に合わせてくれてありがとう。愛してる』と短く簡潔な文。それは、普段口に出すのが難しい、彼の素直な気持ちだった。

 シンプルが魅力なシルバーのカードにペンが近付き、離れ、近付き離れ、唸る声。
 結局、サイファは『いつもありがとう』と書いた。語彙力の無さに肩を落とすが、通りがかった光へ定型文は逆に斬新と笑顔で披露する。
「ふふ、そうね」
「やあ、自分がここまで不器用だとは思わなかったよ。慣れないことはするもんじゃないな」
 直接渡して。自分の口で言いたい事を伝える。ああ、その方が自分らしいかもしれない。

 色を喪った俺の世界に鮮烈な色を燈してくれて、ありがとう。
 陽の黄金瞬く洋墨が星屑に導かれ、鈍色へ踊っていく。
 煌めく彩りで、識らない色で世界が美しいと思い出させてくれた傍らへ、ラウルの柔らかな眼差しが向いた。
「……今年はどんな言葉をくれるの?」
「どんなって、えっとな、」
 シズネが期待滲ます傍らへ贈るのは、しあわせをくれた去年のお返し。
 しあわせをうけとってほしい。今までの思い出もこれからも――幸せ願う未来を夜空色の文字に変え、貰った幸せを倍にと金で縁取られたカードへぎゅっと詰め込んであるから、当然ヘンピンは不可。
「そりゃあ家に帰ってからのお楽しみだ!」

 親愛なる宝物に幸せがある事を願って――『Du bist mein Schatzt.Ich stehe immer zu deiner Seite.』と綴った最後に自分の名を添え、ヴィクトルは薔薇咲くカードへ改めて目を落とす。
「俺からお前さんへの、せめての手向けだ。彼氏さんにも頑張って貰わんとな」
 それは、自分の亡き兄と同じものを抱える彼女への贈り物。

 目の前にいる相手へ贈るからか、クィルもヒノトも擽ったさを覚えては頬を緩めたり、ペンを回したり。そしてパチリと目が合えば。
「あ、見てないよ。どれくらい進んだのかなぁと気になっただけ」
「ああ、全然進んでないぜ! 何を書こうか迷っててさ」
 手紙を送るのは初じゃないヒノトだが、それでもまだ足りない不思議。
「そういうクィルはどうだろ、順調か?」
「僕も迷っちゃって、うまく言葉に纏められないなぁ」
 笑顔零れる会話が切欠になったのか、クィルは勿忘草のカードへ一息に。『来年も、その先も、また一緒に遊ぼうね』と綴った言葉は、自分らしい星空封筒の中へ。
 再び相手を見たヒノトも、1匹の狐佇む白のカードへ、持参した万年筆で真摯に1行。夕焼け色の封筒にしまった言葉は――。

「ふふ、一度やってみたかったんだ。勿論、大切な人宛の手紙だぞ?」
 不慣れだが大胆。白の和風封筒に『果たし状』と書いたクーの隣、光が拍手する。
「熱烈ね、素敵だわ……!」
 その頭にある獣耳はやはり恋人と似ている。察せられた時を思い出してクーは少し赤くなるが、これを受け取った恋人の様子を想像して笑みを零す。
「後は……」
 『貴方の生まれた場所を、いつか見てみたい』。そう綴ったポストカードの写真――眩いオアシスは、この世界上で唯一の場所。

 チャールストンはふと零した。復興という春の訪れが近付くこの地域には、桜の知名度に一歩劣るとしても『春告草』の方が似合う思う、と。
「春と共に我々の想いもここに伝えられたらいいな……と」
 それは確か、春の先駆けを意味するものだ。カームは鶯絵柄のダイカットカードから隣の男へ目を向ける。
「いつもながらとても素敵で温かな考えね。ということならこのカードでご一緒させていただいても?」
 凍える厳冬が緩み解け、安らぎの春へ向かうその始まりへ。男の思いに、己も気持ちも添えさせてもらった証を。
「ええ、喜んで。あなたの気持ちも添えていただけたらアタシは嬉しいです」
 2人の願いと想い、言葉が合わさって――『春』の贈り物がさらさら咲く。

 遠く離れているからこそ、かな。
 ラシードの『紙に書く訳』にサイガは首を傾げたが、分からんこともないと返す。己の中で薄れても、相手が失くさぬような『大切』に足るものであれば。残ったモノが、渡ったモノが。
(「きっと『明日も』――」)
 どうしたんだいと問われ、白地へ藍を染め落としていた硝子ペンを離す。
「アンタもいつボケても安心だぜつうハナシ。つか娘いくつよ? 反抗期真っ只中?」
 雑にポケットへ入れられたカードは、そう、試し書きだ。ふと返事が無いのに気付き眺めれば。
「は、反抗期? いやまだ10歳だ大丈夫……」
「……あー。落ち着け?」

 ひなみくが駆使したのは沢山の紙、ピンク色のペン1本、集中力と絵心。そして覗こうとする郁を数回ぽかっとして――。
「出来た! タカラバコちゃんのパラパラ漫画だよ!! どう? すごいでしょ!」
「ほんとにすごいな……!」
 走って、転んで。ラストの『郁くんいつもありがとう』と看板をジャーンが、郁の心をふわっと暖める。
「ひなの気持ちいっぱい伝わってきて嬉しい……ありがとう」
 真っ白な二つ折りポストカードに色紙の花弁。日頃の感謝と、これからの時間も共に在りたい――そう綴られた花束にひなみくは歓声を上げ、そして。
「……な、泣いてないよ……泣いてないってば! ふええ……!」
「うん、うん。……ありがとう、ひな」
 優しい指が、何度も雫を拭う。

「……ラスキスはどんな人へ渡すの?」
「そうですね。とても愛らしい方です。落ち着いているように見えて 少女らしい可憐さを秘めて、好奇心旺盛な――」
 そう言われても、いつも素敵な手紙をくれる彼女の『誰か』が誰なのか庵珠には心当たりがない。
 するとラスキスは、鮮やかな水色インクを秘めた硝子ペンを手に微笑んだ。
「私が貴女を誘った理由、覚えてます?」
「え? ……あ」
「だから、中身はまだ覗いちゃ駄目ですよ」
 花を映し出す魔法を隠す真白へ言葉が綴られる直前、気付かされた庵珠は自前のペンにお気に入りの赤インクをつけ、レース模様入りの白へ向かう。
 過ぎてしまった誕生日祝いへのお返しに、大切で大好きな貴女へ――精一杯を。

 乙女が3人集えば、贈るカードも文字通り華やかだ。
「本当、素敵ね」
 笑顔咲かせたセレスには、本物のレースで彩られた繊細な淡紫と、黒に菫と金の刺繍が美しくかつ上品に踊るようなカードが。
 キアラには、気負わず彼女らしく過ごせるよう願い籠められた白い紫陽花の折手紙と、彼女の優しさ思わす小花の透かしが入った白の和紙カード。
 マイヤへは、開けば音楽とプレゼントが飛び出す元気なカードと、色鮮やかな世界へと輝くような切り絵のダリアと蝶のカードが贈られ――。
「わあ、ラーシュの分もあるの?」
 数種類のチョコが載った物と、晴れの冬空。2つのポストカードを前に喜ぶ箱竜へ、キアラも嬉しそうに笑む。だって。
「自分の事を考えてくれて、選んでもらえるのってやっぱり嬉しいね」

 特訓の成果であるブラウニーを、じっ。そして渡す相手の事を思い浮かべたら沢山の気持ちが浮かび、うずまきはなかなか綴れずにいた。
(「リズ姉は……わ、真剣……」)
 2人の間に暫し静寂が落ちる。先に破ったのは笑顔に戻ったリーズレットだった。
「こんな感じかな! うずまきさんはどう?」
 縮緬の封筒と一筆箋、用意したブルームーンの押し花。それは、想いを伝えようと勇気を出したうずまきの為、一生懸命な彼女に『幸福な愛』が訪れるよう作った秘密の贈り物。
「うん、ボクもできたよ」
 自分の瞳色のカード、ヴェラム紙を重ねてゆっくり綴った『ありがとう』。
 それは大切な人へ伝えたい、どうか伝わってほしい、全てへの感謝。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:46人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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