ヒーリングバレンタイン2018~きみを想うひかり

作者:小鳥遊彩羽

●きみを想うひかり
「皆、お疲れ様。さて、バレンタイン――もとい、皆の力で奪還に成功したミッション地域の復興の時期がやってきたわけだけれど……今年も復興を兼ねてイベントをやりまーす!」
 トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はそう言って、乗ってくれる人ー! と楽しげに呼びかける。
 昨年のバレンタイン以降もケルベロス達の尽力により、これまでミッション地域となっていた複数地域の奪還に成功した。
 解放したばかりのミッション地域には、現在は基本的に住人は居ない。だが、安全が確保されたことで戻ろうとする人々はいるだろうし、ケルベロスが復興作業を行うとなれば、周辺住民が見学に訪れることもあるだろう。今回は、そんな一般の人でも参加できるようなイベントを催し、地域の人々とふれあいつつ、解放したミッション地域のイメージアップを図ろう――というのが大体の目的である。

「皆に担当してもらいたいのは、京都府舞鶴市にある、駅前の商店街のひとつになる」
 京都府舞鶴市。京都の北部に位置する、歴史的な建物が多く残る港湾都市で、海上自衛隊の基地も置かれており、海軍に縁のある港町だ。
「ヒールが終わった後は、近くの公民館で皆にキャンドル作りの体験をしてもらおうかなって思ってるんだ」
 ケルベロス達の仕事は、まず現地と会場のヒール、イベントで使用する道具や材料、機材などの搬入、イベントの進行や参加者のお世話などをしつつ、『自分のプレゼントを作る』ことだ。
 キャンドル作り自体はさほど難しいものではない。溶かしたロウに色や香りをつけ、芯を固定させた耐熱性のプラスチックカップなどに流し入れて固めれば完成だ。二色以上の色を使って華やかなグラデーションキャンドルにしてみてもいいし、他にもドライフラワーやドライフルーツなどを混ぜ込んだボタニカルキャンドルと呼ばれるものなどもあるのだとか。
 また、ゼリーキャンドルと呼ばれる透明なキャンドルの元を用いれば、カラーサンドや貝殻、ビーズなどを使って海のようなキャンドルを作ることも出来るという。これも専用の顔料で色を付けられるので、他にも作れる物は色々とあるだろう。
「大体の材料は揃ってるから、皆がこれだ、って思うものを作って大丈夫。俺は折角だから何か、空みたいなキャンドルでも作ってみようかなーって考えてるよ」
「私は、ボタニカルキャンドルに挑戦してみたいです。皆さん、また多くの人々が訪れる街に出来るよう、頑張りましょうね」
 皆と一緒に話を聞いていたフィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)が、意気込みと共に同胞達へ振り返る。
「皆の力があれば、きっと素敵な街に生まれ変われるだろう。そしてどうか、その後はめいっぱい、楽しんできて欲しいな。――素敵なバレンタインの贈り物、出来るといいね」
 トキサはそう言って笑うと、一連の説明を終えた。

 世界にひとつだけ、あなたの手で灯されるひかり。
 大切な日だからこそ、心を込めた贈り物を――。


■リプレイ

 緩やかな時が流れる廃園の、入り口から温室までの道を照らす燈を。
 白と淡い桃色が織りなすグラデーションに薄紅で梅の花を添えれば、雪路から春告げへと移り変わるひと時の風景。
 夜の手によって描き出されたのは、早春を迎えに行くための灯り。
 キカが紡ぐのは、夏。青い海にきらきらしたビーズと小さな貝殻を入れ、アウレリアから貰った黄色い花弁で向日葵を咲かせれば、広がるのは華やかな風景。
 アウレリアは花の世界を。桃と紫のペッパーベリーにスターアニス、赤い薔薇の花びらを、桃色を溶かした蝋燭に閉じ込めて。
 イェロは橙色や黄色の彩りに、椛や銀杏を模して切り抜いた折り紙と、猫の形をしたパーツを落とし込む。
 廻る四季を見守る猫が愛らしい、いつかの秋。
 弥奈が作るキャンドルは、空色と黄色のグラデーションを重ねたもの。
 心の赴くままに染めた二つの色は、金色の大地と青い空。自己評価は微妙ではあったけれど、皆には好評だ。
 小さなキャンドルの世界に皆の想いが見えるようだと微笑み浮かべ、ピンク色のキャンドルシートを小さくカットしていく炯介。手指の熱と想いを込めた花弁を重ねていけば、薔薇のフローティングキャンドルが可憐に綻んだ。
 水を張った器に浮かべ火を灯せば、ほんの束の間でも廃園の植物達の仲間入りが出来るはず。その光景を想いながら、炯介は廃園と廃園の仲間達の未来が、ピンクの薔薇が持つ『幸福』の花言葉のように――幸福であるよう願いを込めた。
 ピンクのハート、黄色の星、水色の雲、黄緑のクローバー。ヤンはパステルカラーに色付けした薄目の蝋を型で抜き、フレークキャンドルを作ろうと。可愛い小瓶にランダムに詰めて芯を入れれば、纏めて固めなくてもキャンドルの出来上がりだ。
 眸が持参した金属のパーツは、どれも眸自身の手によって削り出されたもの。
 煌めく八芒星、炎のような角、豪奢な待針、金の薔薇、優しい太陽、繊細なレース、龍の翼――そして、鈍色の歯車。
 仲間達と己を重ねた欠片を、ゼリーキャンドルに閉じ込める。
 大気も雪も凍みる冷たい足元に揺れる、柔い燈達が織りなす幻想的な路。
 歩む一足ずつに胸躍るに違いないと、夜はその情景を想い描きながら静かに瞼を伏せた。

 ヒールで歌の花を咲かせた後は、キャンドルの花を。
 貴方の様な花だからと月下美人を選んだロゼに、薔薇も一緒に入れようと笑み零すアレクセイ。
「キャンドルに灯る暖かな光は、貴方との愛の灯火のようで……って、恥ずかしいね」
 何気なくそう呟いて顔を赤くするロゼを、アレクセイは堪らず抱き寄せて愛を囁く。
「離してなんてあげない、ずっと」
「私も、貴方とずっと一緒にいたい」
 想いごと蝋で封じ、二人で咲かせたキャンドルは甘く香って。
 心に灯した幸せの光は、こんなにも暖かい。
 一緒なら、何だって乗り越えて行ける。
 白から青に変わる蝋に桜花と星を散らしたセレシェイラのキャンドルは、アーティストとしての唯覇の名をイメージしたもの。
「綺麗だけど凛としてかっこいいのよ。私、大好きなんだから」
 セレシェイラの言葉に嬉しいと微笑み、唯覇も淡い水色に桜と星をモチーフとしたキャンドルを何とか拵える。
 桜と星をモチーフとしたキャンドルが二つ。偶然のお揃いにも、愛おしさが増すばかり。
 これからも二人でたくさんの想い出と幸せを増やしていきたいと、一足早い春色に願いを重ねて。
 エメラルドブルーの海に浮かぶ、幾つもの小さな花。
 火を灯したら全て溶けて消えてしまうのだろうかと、ティアンはふと思う。
 灯してみなければ、わからないこと。けれど、それを怖がるだけではなく、寂しく思うだけではなく、僅かでも楽しみに待ち望めるようになれたから。
 だから、きっと大丈夫だろう。

 和やかで楽しげな雰囲気の中、斑鳩は小さな金魚鉢に白とオレンジの砂でグラデーションを付け、貝殻やガラス細工を閉じ込めたゼリーキャンドルを。
 宿利はまあるいワックスタブレットの型にラベンダーや青いドライフラワーを閉じ込めて、仄かに香る花のボタニカルキャンドルを完成させた。
 丸いガラス瓶に、ほんのり青色をつけた透明なジェルとドライフラワーを沈めながら、志苑は皆がどのような物を作っているのかふと眺めやる。
 柔らかな白に染まった蝋をティーカップに注ぎ淹れ、縁に小さくクリームを添えればまるで甘いミルクのよう。イブにとって初めて自ら手掛けたそれは自分自身のようで、色彩はなくとも鮮やかな命の火を灯す。
 偶には少し洒落たものを作ってみようと累音が選んだのはケーキの型。
 色付けをした蝋を流し込み、別にモールドで花の型を取り合わせれば――少々女子力が高そうな気がしたが、時既に遅く花を添えたカップケーキキャンドルの出来上がりである。
 オズワルド・メイは容器に趣を凝らし、早春の空を思わせる穏やかな色合いの香水瓶を手に取った。
 淡く染み付いた花の香をそのままに液体の蝋を満たしただけのそれは至ってシンプルだけれど、消え間に漂う残り香まで愛でられるよう。
 皆の想いが籠められたキャンドルは、誰かへ贈るには些か他愛ない出来映えでも、熱を移せば共に語れる想い出の影が重なるだろう。
 ひとときの愉しみと喜びを分かち合えるのは、きっと嬉しいものだから。
 楽しげな乙女達の様子に頬を緩めつつ、景臣はベースキャンドルの周りに黄と青のビオラや白き庭なずな、赤い紫陽花に淡紅の桜と四季折々の花の彩を敷き詰める。
「此処にもう少し花を添えると、バランスが良いのではなくて?」
 父にアドバイスを送る千鶴夜のキャンドルは、透明から水色、青を重ねて星を落とした、グレープフルーツがほのかに香る掌の星空。
 エヴァンジェリンは夜明けのような淡く優しい紫のエンジェルシリカをモチーフに、淡い紫に水晶を纏わせた結晶にラベンダーの香りを落とし、紫陽花と菫を散らしてボタニカル風に。
「景臣さん、アタシね、アクセサリーとか、こういうのを作るのは、ちょっと得意みたい」
 自分にも一つくらいは取り柄があったと笑うエヴァンジェリンに、景臣は目を細め。
 流華は手間取りながらも、色を付けた蝋を人数分の型に入れ、紫、瑠璃色、緑、青のグラデーションキャンドルを完成させた。
「皆と、ワタシの、目の色を、参考に、作ったの」
 もうすぐ皆と出逢って一年。その中でもたくさん見てきた――素敵な光。
 そして景臣も、藤の香をつけた蝋を溶かしてキャンドルを完成させた。
 蝋が融けてもぬくもりの中、花はきっと咲き続ける。

 目の前にいる主と家で待つもう一人の主は、せっかくのバレンタインなのにどうやら外出の予定もないらしい。
 召使いとしては悲しいやらほっとするやらと少々複雑ではあるけれど、だからこそバレンタインの夕食を彩る特別な灯りをと、ペネトレイトは白を入れた藤色にラベンダーの香りを混ぜてシンプルなキャンドルを拵える。
 エミリアは夜空をイメージしつつ、透明なキャンドルを深い青色に染め、中に星に見立てた小さなビーズを浮かべて。
「お兄様にはチョコを用意しておりますし、だからこのキャンドルは、私たちのバレンタインを彩るもの」
 そしてペシュメリアは、透き通るような薄橙の蝋に柑橘系のオイルを落とし、オレンジの葉と白花を設えた。
「夕食が……もとい、ひかりを灯す瞬間がとても楽しみです」
 待っているのは、忘れられない特別な一日。
 バレンタイン当日のディナーに添える彩りとして、縁はシンプルな赤いフローティングキャンドルを。そして、オランジェットはラベンダーの香りをつけた淡い青色のキャンドルにラベンダーの花弁を散りばめて、完成したそれに綺麗にラッピングも施した。
 オランジェットの丁寧な作業を横目に、キャンドルと一緒に入れる花は何が良いだろうと縁は思案し――主役である恋人をより引き立てるための舞台に思い巡らせ、知らず微笑んだ。
 リィンハルトがキャンドルで作りたいのは、海。
 光を弾いて煌めく波。魚も可愛くていいだろう。
 己の不器用さがほんの少しだけ、心配ではあるけれど。
「トキサくんは、何で空にしようと思ったの? 僕はね、大好きな人のイメージなんだ」
 ここだけの秘密だよ、と悪戯っぽく声を潜めるリィンハルトにトキサは柔く笑み、同じく声を潜めた。
 作りかけのキャンドルは、淡い空の色。
「俺に、世界が綺麗だって最初に教えてくれた人をイメージしたんだ。……秘密だよ?」
 白砂の砂浜に小さな足跡が二人分。
 あかりがガラス瓶に詰めるのは、木香薔薇の星が瞬く宵茜のグラデーションの空。
 どうか、あなたの願いが叶いますように。
 あなたが誰より幸せでありますように。
 意地っ張りなエルフの精一杯の祈りを込めて、銀色の箱に赤いリボンをくるりと結ぶ。
 完成するまでは互いに内緒にして、陣内はグリーンハーブと薔薇の花弁を織り込んだボタニカルキャンドルを。
 緑の中に見え隠れする紅色に、少し引っ込み思案で遠慮がちな一人の少女を重ね想いを添える。
(「――俺は」)
 君が一番大事で、君のことを愛しているのだと。

 夜色の砂に星を散らし、ゼリーキャンドルを注ぐ。
 星空を映す夜の湖は、クロセルが思い描いた通りのもの。
 いつか一緒に、こんな風景を見られたら。そう想いながら隣を見れば、ころころと表情を変えつつキャンドル作りに勤しむ莉音に思わず頬が緩む。
 莉音のキャンドルに咲くのは、莉音とクロセル、箱竜やファミリアをそれぞれイメージした菫と姫睡蓮、寒白菊に梅の花。
 たくさんの想いを詰め込んだキャンドルに、クロセルは莉音らしくて好きだと笑みを深めた。
 オズワルド・ドロップスはアロマの香りに危うく意識を飛ばしかけたものの、そのおかげで浮かんだイメージを元に深い青色のジェルキャンドルにラメを混ぜ、星空のキャンドルを作る。
 一方、彼方は白いゼリーキャンドルに赤色のカラーサンドを混ぜ、赤い雲のような模様の、愛刀をモチーフにしたキャンドルを拵えると、チョコレートと一緒にオズワルドの元へ。
 感謝を込めた贈り物に少々驚きつつも、オズワルドもお返しに作ったキャンドルを彼方へ贈るのだった。
 砂と小石と水晶の欠片で出来た舞台に、竜のフィギュアを据えるノーフィア。
 仕上げに注いだ透明なゼリーキャンドルからは、ふわりとユーカリが香り。
 対し、セラフィは砂や貝殻を敷いた容器にラベンダー香る青のゼリーキャンドルを流し込み、出来上がった海にドライフラワーを咲かせたそれをノーフィアへ。
 日々仕事に追われる彼女の心が少しでも安らぐようにとセラフィがにっこり笑うと、それならば交換とノーフィアも作ったキャンドルを差し出した。
 ゼリーキャンドルの海にベルフラワーとキンセンカを浮かべ、ヤトルは真剣に何かを拵えている由美を横目にふと思う。
 いつも明るい彼女にも、泣きたくなる時があるのだろうか。
 杞憂に過ぎないかもしれないし、踏み込んで良い領域なのかもわからないけれど。
 それに今は何より――。
「……なあ、それは何なんだ?」
 綺麗なように見えて謎の物体が、由美の手の中で生まれていたものだから。
「え? 鳥だよ」
 ――人の考えていることは、見ただけではやはりわからない。

 二人で紡いだ想い出を、形に。
 金と銀を重ねた黄色と白に煌めくラメを混ぜ、ダイヤと黄玉、月長石を模したビーズを散りばめれば、ブリュンヒルトが思い描いた通りの、二人の結婚指輪のようなキャンドルが出来上がる。
 虎次郎が透明なジェルキャンドルと一緒に瓶に閉じ込めたのは梅と椿、そしてありったけの愛。
「アタシ達の愛の炎? ってーの? そういうのは一度点いたまま消えることはないけどな♪」
 朗らかに笑うブリュンヒルトに、虎次郎もそうだなと笑みを深めた。
 ――幾歳月重ねても、君へのこの想い色褪せぬ。
 椿の葉に綴ったメッセージに、果たして彼女はいつ気づくだろう。
 眺めていたくなるような、心が落ち着くような。そんなキャンドルを作れたらと、メロゥはドライフラワーで飾った薄黄色のキャンドルにほんのり甘やかな花の香をつける。
 興味津々に隣を覗けば、梅太は花と一緒に透明なジェルの中に入れたハートのようなりんごをメロゥに見せて。
「見て、おいしそかわいいでしょう?」
「ふふ、おいしそかわいい」
 仕上げにリボンを結び、二つ並べてスマホでパシャリ。
 失くなってしまうのが惜しくて、火を点けるのが勿体無い気もするけれど、
「……はーとに火をともして完成、ですよ」
 そう囁き、梅太は照れくさそうにはにかんだ。
 ニチニチソウとカランコエを、淡い蜜色の蝋に絡めて。
 ラウルが拵えるのは、想いの色燈した花咲くボタニカルキャンドルだ。
(「君も俺も……もう独りじゃないから」)
 いつも愉しい想い出をくれる、大切な君を護れるように。普段は気恥ずかしくて告げられない言葉を、そっと花に託して。
「おめぇが作ったキャンドルはなんだかうまそうだなあ」
 花言葉に疎いシズネは、夜更けの色で染めた透明なジェルに星の煌めきを降らせながら、せめて花の名前だけでも聞き出そうと試みる。
 手の中に収まる、世界で一つだけの特別な星空と引き換えに、二つの花に込められた彼の想いが知りたくてたまらないのだ。

 横から見たら花束、上から見たら花輪に見えるように、アリシスフェイルはドライフラワーを飾る。蝋に落としたゼラニウムの香りは、これを贈る恋人が少しでも心安らぐようにとの想いを込めたもの。
「彼が必要としているかなんて分からないけど。でも」
 喜んで貰えるといいなぁと笑み綻ばせるアリシスフェイルに、フィエルテは笑顔で頷く。
「大好きなアリシスさんからの贈り物ですもの、……絶対、大丈夫です」
 そして、向かいに座るウルズラは、ボタニカルキャンドルで庭作り。
「季節違いを一緒にできるのは、本物の庭とは違う魅力ね」
 ラベンダーのアロマキャンドルに季節の花やドライフルーツを散りばめ、仕上げに赤いヘリクリサムとその裏側に半月のオレンジを。
 くるりと回せば春から冬、朝から夜へ。
 これからも変わらず巡り、楽しい日々を照らしてくれるよう願いを込めて。
「優しい感じがします。……ウルズラさん、みたい」
 微笑むフィエルテに、ウルズラもふわりと微笑んだ。
 勿忘草が見上げる深い藍の夜空に、星が煌めくクィルのキャンドル。
 メイアのキャンドルは、透明な底から上に行くにつれて半透明な水色に。真っ白に染まった上の方に金粉を散らして出来上がり。
「くーちゃんとっても上手。でもわたくしだって負けてないと思うの。どう? ほめて、くーちゃんっ」
「めーちゃんのもキラキラ綺麗。すごく上手だよ」
 互いに見せ合い、くすぐったさに笑み零し。
「今度はめーちゃんをイメージして作ってみるよ。ふふ。今度は交換こしようね」
「わたくしもくーちゃんイメージで、かっこいい感じに作ってあげちゃうんだからっ」
 きみを想い、作るただ一つのひかり。
 それはきみのために紡ぐ、一つの約束。

 透明な硝子の器に菫と竜胆、ペッパーベリーをあしらって、ゼラニウムにラベンダー、朝摘みの薔薇の香りをひとしずく。
 あなたのためのあかりを作りたいと笑み綻ばせたセスに、同じことを考えていたのとバンシーも微笑んで。
 白砂零した透明な硝子に霞草と菫を並べ、夜色から朝色へと至る夜明けの彩りに、バンシーはローズウッドの森の香りを甘く込める。
 優しい夢と穏やかな夜明けを願う、二つの導。
「わたしの夜はきっと、あなたのあかりで満たされるわ」
 ――それは、少し泣いてしまうかもしれないくらいに幸せで。
 けれど、それを聞いたセスは、そっと彼女の名を呼んだ。
「たとえ覚めない夢の中にいたとしても、わたし、きっとあなたを見つけてみせるわ」
 そうでなければ、あなたの涙を拭うことが出来ないから。
 色硝子、ビー玉、鉱石、コイン。春は宝物を沈めた透明なキャンドルにフローラルの香りを混ぜ込み、彩りに白いガーベラを添える。
 それからガーベラをもう一輪、征十郎の髪に挿しへらりと笑って。
「あんたにあげたイヤリングの花」
 征十郎も微笑み返すと、ころりと丸い透明な器にあたたかな飴色とベルガモットの香りを満たし、春の花弁と夏の貝殻、秋の木の実を泳がせて、真っ白なソイキャンドル――冬の雪で閉じ込めた。
 二人で拾い集めてきた四季の小さな光に、彼の幸せを照らし出せるよう祈りを込めて。
 それを見た春は、またふたりで灯りを灯そうと笑って告げた。
 鮮やかな緑の中、輝く流金花。沈む水底に二人の出逢いを想う春乃の傍らで、アイヴォリーの指先からは幾つもの星屑が溢れる。
 氷砂糖の銀、春の菫色、朝露の翠に、金色の星。
 掬える程の星を生み終えふと顔を上げれば、幼子の様に頬を膨らませた少女の姿。
「……可愛いほっぺが膨れていますよ、春乃」
 夢中になったのは貴女を想うがゆえ。
 仕上げは一緒にとキャンディポットに星達を注いで真ん中に芯を詰め込めば、完成したそれに春乃は目を輝かせる。
「わたしのために、おほしさまを捕まえてくれるの?」
「足りなくなったらいつでも、捕まえてきますから」
 一人きりの夢の中、例え夜に飲み込まれそうになっても。
 きらきらと輝くこの星達が、きみの元へ帰るための道を照らしてくれるから。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:55人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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