決戦鬼胡桃の姫ちゃん~立派な攻性植物にはさせない!

作者:なちゅい

●『人は自然に還ろう計画』を止める為
 静岡県のとある住宅地。
 小学2年生の少女、杉山・詩は住宅地外れの廃墟がお気に入り。
「今日はどうしよっかな」
 ほとんど人がこないこの場所でのんびりと本を読んだり、スマートフォンを見たり。詩は誰にも邪魔されず、自分の一時を過ごすのが大好きなのだ。
 だが、今日はそれが彼女にとって災いする。
 その家の敷地へと、風に乗って降り立ってきたのは、1体の人型攻性植物だった。
「今日も、皆に自然に還ってもらうようがんばります」
 大きな4枚の葉を背にした長い髪を三つ編みにした少女。その頭には、小さな2本の角と胡桃が見える。
 この人型の攻性植物、名前を鬼胡桃の姫ちゃんといい、『人は自然に還ろう計画』を行う5体の攻性植物の1体だ。
 廃屋の縁側に腰掛ける少女を目にし、今回の対象として見定めた姫ちゃん。家には山茶花の花が咲いているのを見て。
「計画を開始しませんとね♪」
 姫ちゃんは早速、謎の花粉をその場に撒き散らす。そばにあった山茶花が突如として動き出し、廃屋の縁側にいた詩へと襲い掛かる。
「えっ、きゃあああっ!!」
 詩はなすすべもなく、山茶花に寄生されてしまう。
 ぐったりとした詩の体から生える山茶花。綺麗な花を咲かせる一方、詩は顔面蒼白にして意識を失っている。
 新たな攻性植物の誕生に、姫ちゃんは笑顔を浮かべて。
「立派な攻性植物になりました♪ にへらー」
 彼女はそのまま、その廃屋から姿を消していったのだった。

 ついに、『人は自然に還ろう計画』を引き起こす人型攻性植物の1人、鬼胡桃の姫ちゃんの動きを捉えることのできる予知があり、ケルベロス達がヘリポートへと集まる。
「鬼胡桃の姫ちゃん……ようやく捉えました」
 幾人かのケルベロス達がその捕捉の為に動いていたのだが、灰木・殯(釁りの花・e00496)らの予測もあり、先回りできそうな状況が整った。
「うん、ここでしっかりと撃破しておきたいね」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)もうまく予知ができて微笑んでいたが、すぐに表情を引き締める。
 現状、姫ちゃんに少女が狙われている状況だ。
 静岡県某所の住宅地の外れに現れる姫ちゃんは1人で廃屋にいる少女に狙いを定め、そこに咲く山茶花を攻性植物に変えて取り込ませようとしている。
「だから、新たな攻性植物を生み出してしまう前に、少女の保護と姫ちゃんの撃破を皆に頼みたいんだ」
 ここで鬼胡桃の姫ちゃんを倒せば、『人は自然に還ろう計画』も一歩後退するはずだ。
 発生する事件は今までと同様、謎の胞子による植物……今回は山茶花の攻性植物化と、それによる少女への寄生だ。
 これまでの関連依頼であれば、少女が寄生後に助けるといったシチュエーションだったが、今回は鬼胡桃の姫ちゃんが少女を狙うタイミングで駆けつけることが出来る。
 現場は、静岡県の住宅地の外れにある廃屋の敷地内。
 辺鄙な場所の為、人はほとんど近づかない場所ということもあって人払いの必要性はなく、少女を狙う姫ちゃんをすぐ捕捉できる。
「姫ちゃんが山茶花を攻性植物とする前に、抑える必要があるよ」
 できるだけ姫ちゃんの気を引きつつ、少女を廃屋から遠くへ逃がすこと。
 そして、姫ちゃんを山茶花に近づけないこと。
 この2点を抑えつつ対処すれば、姫ちゃんの撃破に大きく近づくはずだ。
「相手の可愛らしい見た目に騙されたらダメだよ」
 姫ちゃんとの戦いに臨むケルベロス達へ、リーゼリットは注意する。
 相手は、幾度も人々を攻性植物に寄生させてきた攻性植物だ。ここできっちりと倒しておかねば、更なる被害者が出てしまいかねない。
「ここで、鬼胡桃の姫ちゃんの撃破を。よろしく頼んだよ」
 リーゼリットは最後に、ケルベロス達へとそう願うのである。


参加者
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
ベルベット・フロー(ミス紅蓮ファイアー・e29652)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)

■リプレイ

●計画の阻止を!
 ケルベロス達が降り立ったのは、静岡県の住宅地。
「人は自然に還ろう計画……」
 これから戦う敵に、花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)は無表情ながらも、並々ならぬ闘志を燃やす。
「人も元は自然の中で生まれましたので、あながち間違いではないですけど、人々に危害を加えるのは放ってはおけません」
「姫ちゃんか、見た目によらず相当の実力者みたいだね」
「ああ、皆と一緒に、姫ちゃんを倒すっすよ!」
 それでも、私達が簡単に負けるわけがないと、ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)は自信に満ち溢れた表情を見せる。参加メンバー唯一の男性、中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)も、軽い調子で意気込んでいた。
 祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)はふと、垣根に咲く山茶花を目にして。
「……困難に……祟り勝つ。……うむ、花言葉通りだな」
 それを事前に聞いていたヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)は山茶花の名を冠した衣装を纏い、戦いに臨む。
「花言葉を胸に、頑張る!」
 手前の廃屋に何かが降り立つのが見えた一行は、急いでそちらへと向かう。
 敷地内では廃屋の縁側で本を読む少女。反対側には、山茶花へと歩み寄ろうとしている別の少女の姿が。
 ヴィヴィアンは仲間と共に、そいつを取り囲む。橙の長髪を靡かせたティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)も仲間に倣い、敵を見つめてクールに構えを取る。
「さてと……、ここから先へは行かせないよ。通りたかったら、僕たちを倒していけば?」
 氷壁を思わせるヴァルキュリア、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)は仲間の前に出て、辛辣な言葉を投げかける。
 目の前できょとんとしていたのは、「人は自然に還ろう計画」を担う人型攻性植物の1人、鬼胡桃の姫ちゃんだ。
「なんですか?」
 その所作はなんとも可愛らしいが、これまでたくさんの人々を攻性植物に寄生させてきた元凶の1人だ。
 綾奈は背後の山茶花に目をやる。
(「姫ちゃんを山茶花から遠ざけませんと……」)
 相手の気を引きつつ、此処から離れていきたいところだ。
 そして、綾奈は前方に視線をやると、縁側で本を読んでいた少女、杉山・詩の保護にイミナが向かっていた。
「……危機一髪という奴だ」
 駆け込んできたケルベロスに、詩は状況がつかめず首を傾げる。
 囲む相手はデウスエクスだとイミナが告げれば、少女もようやく事態を察して震え始めていた。
「……この通り此処は危険な場所となった。……ワタシが安全な処まで連れていく、安心するといい」
 頷く詩を連れ、イミナは敷地の外へ。その代わり、付き従っていたビハインドをこの場の抑えとして残していた。
 ティリアもそれを横目に見ながら、メンバーと共に包囲網を狭めつつ、正面の山茶花から姫ちゃんを引き離す。
「こんにちは、ケルベロスさん」
 姫ちゃんも戦う構えを見せ、どこからか出現させたじょうろを手に取った。
「人を植物化させるなんて、全然自然じゃないよ!」
 ヴィヴィアンがその姫ちゃんへと呼びかける。
「人は人のままで生きるのが一番自然なの。それに……人だからこそ、植物を愛する心を持てるんだよ」
 彼女もまた臨戦態勢に入るべく、息を整えていく。
「あんた達は、『自分達の考える自然』しか見ていない。だから、地球の自然を大事にすることはできない」
 姫ちゃんが謎の花粉を撒かないよう牽制しつつ、憐も本音を込めながら履いたエアシューズで足踏みを始めて。
「悲劇の幕は、ここで降ろすっすよ!」
 憐の宣言に合わせ、顔を地獄の炎で燃やすベルベット・フロー(ミス紅蓮ファイアー・e29652)が大声で名乗りを上げる。
「エイプ&ファイアーが片割れ、紅蓮のベル! 推して参る!」
 そのまま、ベルベットは鉄塊剣を握り締めて突撃していく。
「それじゃ、いきますよー♪」
 対する姫ちゃんはほとんどペースを崩すことなく、戦いを挑むケルベロスを迎え撃つのである。

●相手の気を引きつつ……
 相手は強敵、鬼胡桃の姫ちゃん。
 能天気な態度でじょうろから水を振り撒き、周囲に虹を煌かしている彼女には余裕すら窺える。
 とにかく、山茶花の攻性植物を生み出すと不利になってしまう。
「君はやりすぎた。……裁きを受けてもらおう」
 ティーシャはその動きを抑えようと、砲撃形態とした「カアス・シャアガ」から砲弾を放つ。
「姫ちゃんの企み、絶対に止めるから!」
 相手に呼びかけるヴィヴィアンは回復手として仲間の癒し、支援に動く。
「さあ、一緒に行こう。手と手を取って みんなの気持ちが集まれば、迷いも恐れも吹き飛んじゃうよ」
 ヴィヴィアンは謡うは、空に輝く七色の交響曲。
 相手の出す虹に負けじと、虹色の光が前に立つ仲間達の体を覆っていく。彼女の箱竜アネリーはその光によって勇気を漲らせ、その身を張ってくれていた。
 姫ちゃんの出す綺麗な虹は、見とれる者の攻撃の手を止めると同時に強い衝撃を与え、戦意、気力を削いでいく技。
 アビスは身構え、それを堪えてみせる。
「歯ごたえはあるみたいだけど、そう簡単に倒れるほどヤワじゃないんだよね」
 彼女は箱竜コキュートスが吐く氷のブレスに合わせ、相手に虹を纏った急降下蹴りを叩き込む。
 頭上からの強い衝撃に少しくらついた感もある相手に、今度はベルベットが躍り込んで。
「炎が植物に負けるわけないでしょ!」
 地獄で燃え上がる顔面の炎の勢いのままに、ベルベットは鉄塊剣の刀身を姫ちゃんへと叩きつける。
「うぅ……」
 僅かに嗚咽を吐いた姫ちゃんは、アビスとベルベットをじっと見つめていたようだ。
「地球の植物は自分で進化するっす。食虫植物とかもあるけど、そうじゃない」
 その背後に、今度は憐が肉薄する。
「植物は誰かを襲うことなく咲く事を選んだっす。その選択を姫ちゃんが邪魔する権利は無いっす!」
 相手の行動を全否定し、憐は戦籠手を嵌めた拳を叩きつける。その瞬間に弾け飛ぶグラビティが姫ちゃんの体を僅かに凍らせた。
「さぁ、行きますよ、夢幻。サポートは、任せました」
 翼猫の夢幻に翼を羽ばたかせて癒しに当たらせる綾奈。
「皆に、力を……」
 彼女はまずオウガ粒子を前線メンバーに飛ばし、その感覚を研ぎ澄まさせることで支援に当たっていく。
「まずは、その素早い動きを奪ってあげるよ!」
 そのタイミング、ティリアが仕掛ける。
 おっとりしているようで、姫ちゃんの動きは素早い。
 だからこそ、ティリアは流星の蹴りを叩き込み、相手の足止めをはかる。
 交戦の最中、少女を避難させていたイミナも戦線に加わって。
「……さて、新たに手に入れた呪いの力も試すとしよう」
 無表情ながらも、彼女は整った顔立ちを姫ちゃんへと見せ付ける。
「……見たな。……ならばあまり動いてくれるな……」
 それによって、身体を縛りつけられる姫ちゃん。
 彼女はふと、メンバー達の視線が後ろの山茶花へと向いていることに気付く。
「新たな攻性植物の誕生を警戒してたのですね」
 ケルベロスの狙いを察した姫ちゃんはくすりと笑う。
「それじゃ、本気になっちゃいますよ♪」
 にへらーと笑いを浮かべたまま姫ちゃんは右手を地面に置き、大地を侵食していくのである。

●その笑顔は途絶えることなく
 4体のサーヴァントを連れ、万全の状態で挑んだ戦い。
 仲間へとオウガ粒子を振り撒いた綾奈は、自らの大斧に雷を纏わせ、その先端部分で鬼胡桃の姫ちゃんを貫いていく。
 痺れを覚える敵は少しだけ、その身を硬直させたかのように見える。
 そこへ、憐が飛び込み、地面との摩擦によって燃え上がるエアシューズで強く姫ちゃんの体を蹴りつけた。
「罪も無い子供に寄生させようとする時点で、姫ちゃんに慈悲は無用!」
 憐の一撃で、敵の体に炎が燻ぶる。
 一見すると順調に攻めているようにも見えるが、ケルベロス達の戦略は今ひとつ攻め手に欠けていた。
「癒しの矢よ、仲間に加護の力を与えよ」
 仲間に祝福の矢を飛ばして支援に当たるティリアも気にかけていたが。
 ――姫ちゃんが、山茶花を攻性植物とするのではないか。
 そう考えるティリアを始めとしたケルベロスはかなり防衛、回復に重点を置いた布陣となっていた。
 確かに、相手の気を引き、徐々に山茶花から引き離すことに成功する。
 だが、それを重視する余り、姫ちゃん自身にダメージが思うように重ならず、相手に攻撃のチャンスを与えることに繋がってしまう。
「ケルベロスさんも、自然に還るべきですよ?」
 笑顔を浮かべ、姫ちゃんの腕が巨大な蔓触手に変わる。
 その脱力系の表情に反し、威力は桁違い。
「植物に炎が負けるわけが……」
 そう豪語していたベルベットの炎も、勢いがかなり弱まってきていた。
「いくよ、相棒……」
 彼女は指に嵌めた指輪を光らせると、異空間から相棒である風太郎の残霊が現われる。
「アタシと一緒に戦って!」
 ベルベットは彼と共に、連携して攻撃を仕掛ける。
 閃光螺旋を纏った風太郎の掌底、地獄を凝縮したベルベットの鉄拳。それらが同時に、左右から姫ちゃんを叩く。
 残霊が消えたタイミング。破壊の力に服が破れるも、姫ちゃんは大きな反応を見せず。
「これはお礼です♪」
 姫ちゃんは地面に手を置くと、周囲の地面を急激に侵食する。
 すでにケルベロスの足元の大地を飲み込んでいた彼女は、前線メンバーの体をも蝕む。
 抗うベルベットだったが、それ以上に姫ちゃんの力が強すぎて。
「ごめん、あい……ぼう……」
 風に揺らめき、彼女の灯火が消えてしまう。
「にへらー」
 1人倒し、満面の笑顔を見せる姫ちゃんはさらに腕を蔓触手に変えて、怒りを買っていたアビスの体を強く締め付ける。
 序盤は星座のオーラを叩き込みつつ相手の注意を引いていたアビスだったが、攻撃が自身に集まることで回復行動ばかりとなってしまう。
「この程度で……」
 アビスは幾重にも重なる六角形の氷の盾を展開し、自らを覆う。
 普段戦う攻性植物の蔓触手形態であれば難なく耐えられることも多いが、如何せん今回は相手が悪い。
 姫ちゃんの強力な蔓触手はアビスの首をも締め付け、徐々に体力を失ってしまう。輝盾の氷壁の二つ名を持つアビスだが、体に亀裂が走るような感覚を彼女は覚えて。
「そんな、はずは……」
 がっくりとうな垂れたアビス。姫ちゃんはすぐに蔓触手を解き、彼女の体を地面へと置いた。
 1人、また1人と倒れていく状況に、ケルベロス達に焦りが見え始めていた。
「……ずっと笑顔でいるといい。……死ぬほどの苦悶を受け続けようと、だ」
 呪力の込められた杭を、イミナは相手に打ちつけて。
「……祟る祟る祟祟……」
 何度も何度も何度も何度も。彼女は相手が動きを止めるまで杭を打ち込み続けていく。
 それでも姫ちゃんは笑顔を崩さず、なおもグラビティを行使する。
「お花にお水をあげましょー♪」
 振るわれたじょうろから、周囲に輝く虹が浮かび上がった。
 前線メンバーが虹の及ぼす衝撃を堪えようとするが、箱竜アネリーが力なく鳴いた直後に姿を消していく。
 アネリーが倒れてなおヴィヴィアンは桃色の霧を発し、仲間の回復を繰り返す。
(「頑張るって、決めたから」)
 例えどんな苦境であっても。この山茶花の名前を冠した着衣に、ヴィヴィアンはそう誓ったのだ。
 逆に、主が倒れた状態となっている箱竜コキュートスは封印箱へと入り、主の命を守って果敢に姫ちゃんへとタックルを繰り出していく。
 幾度も攻撃を繰り返すケルベロスだが、なかなか好転の兆しが見えない。
 ティーシャは相手の攻撃の直後の隙をつき、攻撃し続けていた。
「果てろ」
 理力を帯びた靴で戦場を駆け回っていたティーシャが、姫ちゃんへと星座のオーラを叩き込む。
 だが、やはり姫ちゃんの笑顔は消えない。
 再度、地面に手を置いた彼女は直接ティーシャの体を侵食していき、彼女を内部から惑わす。
「自然に還りましょう♪」
「な……」
 その一言でティーシャの意識が途絶え、地面を這ってしまう。
 これで、倒れたケルベロスは3人。
「次に自然に還るのは、どなたですかー?」
 にへらーと浮かべる姫ちゃんは笑顔に、残るメンバー達は寒気すら覚えるのである。

●困難に打ち勝て!
 鬼胡桃の姫ちゃんも傷ついてきてはいるが、それでも、半壊するケルベロスに分が悪い状況。
「倒れちゃダメよ!」
 狙撃役のティリアだったが、緊急手術を繰り返して疲弊する前線メンバーの回復に当たる。
 その対象となるのは、唯一残っていた盾役、イミナだ。
 己のビハインドをすでに消滅させていた彼女。無表情には出さないが、かなり消耗しているようで息が荒くなって来ている。
「……勿体無い、これで癒す」
 自らの傷口から流れる血。イミナはそれを操り、自らの体に振り掛けることで傷を塞ごうとしていく。呪いの力を行使する彼女ならではのグラビティだ。
 そのイミナへ、翼猫の夢幻も翼を羽ばたかせて回復に当たる。
「これ以上、やらせはしません」
 主の綾奈は全力で攻撃を繰り返す。全身を光の粒子に変えた彼女は姫ちゃん目掛けて突撃し、その体力を削っていく。
 再び人の形を取る綾奈は、金のウェーブヘアをふわりと浮かして敵の状況を確認する。
 その敵、姫ちゃんは依然として健在。
「ここで、作戦を止めるわけにはいかないですね」
 とはいえ、追い込んできてはいたらしい。傷つく姫ちゃんはこの場の戦いより、作戦継続を優先させようとこの場から離脱しようと巨大な背中の葉を羽ばたかせ、いや、葉ばたかせて飛び上がる。
「それじゃ、またねー♪」
 笑顔を浮かべ、姫ちゃんは風に乗っていく。
 逃げられる。メンバーは誰もがそう思った。1人を除いて。
「いや、ここで終わりっす!」
 姫ちゃんを追い込んでいると確信していた憐は、相手の手前へと跳び上がって。
「これがケルベロスの真の力っす! くらえ、ケルベロスビィィィーム!」
 憐の両目から放たれる青白く太いビーム。
 悠然と風に乗る姫ちゃんはそれを避けようとしたが、急に風が弱まって高度が落ちてしまう。
「えぇっ?」
 すっとんきょうな声を上げた彼女の体を、ビームが貫いた。
「う、うそー……」
 そのまま落下していく姫ちゃん。
 ぽとりと小さな音を立てて落ちた彼女は小さな鬼胡桃の木に姿を変え、枯れ果てていった。

 運が味方してくれたこともあり、なんとか勝利したケルベロス達だったが、疲労困憊でしばらく動けぬメンバーも多い。
 そんな中、ヴィヴィアンはゆっくりと枯れた鬼胡桃の木に向かって、瞳を閉じる。
「誓うよ。……これからも人として、植物を愛するって」
 しばらく、彼女は仲間と共にその冥福を祈るのだった。

作者:なちゅい 重傷:ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467) ベルベット・フロー(未来のミセスフェイス・e29652) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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