●奴は推薦入試会場に現れた
日々を品行方正に過ごし、コツコツと学力を積み重ね、ボランティアなどといった善行も積み……来年度に新たな一歩を踏み出すために、若者たちは大学の推薦入試会場に集っていた。
もう、希望も夢も砕かれてしまったけれど。
命すら奪われてしまった者もいるけれど。
「あ……隠れても無駄なんだな。一緒に壊してしまうんだな」
だらしなくよだれを垂らす筋骨隆々の巨躯。粗末な腰布だけを身にまとい、2本のゾディアックソードを振り回すエインヘリアルの手によって。
「俺、いっぱい殺すんだな」
エインヘリアルは口の端を持ち上げながら、ただただ思うがままに暴れていく。
未来も夢も、等しく無価値とばかりに刈り取っていく……。
●エインヘリアル討伐作戦「……そう。それじゃあ」
「……そう。それじゃあ」
「ああ。そのためにこうして……と」
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)と会話していたザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく。
メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「大学の推薦入試会場にエインヘリアルが出現し、それによる虐殺事件が起きてしまうことが予知された」
このエインヘリアルは過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放置すれば多くの人々が無残に殺されてしまう。そればかりか人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられるだろう。
「そのため、急ぎ現場へと向かい撃破してきて欲しい」
ザイフリート王子は地図を広げ、出現する大学に印をつけた。
「時間帯は出現するのはこの大学。時間帯は午前11時15分ごろ。推薦入試会場はこの建物……だな」
たちの悪いことに、予め受験生たちを避難させてしまうと、エインヘリアルは別の場所へ出現してしまう可能性がある。そのため、避難誘導などは出現後に行う必要がある。
「もっとも、受験生を除く大学側の協力は得られるだろう。そのための時間も十分ある。どうか、犠牲者を出さないよう、全力を尽くして行動して欲しい」
流れとしては、出現前は潜伏。出現後はエインヘリアルを抑えながら避難誘導を行う。避難完了後に本格的な戦いを挑む、といった形になるだろう。
「最後に、戦闘能力について説明しよう」
エインヘリアル。見上げるほどの巨躯と筋骨隆々な体を持ち、粗末な腰布のみを纏う男。2本のゾディアックソードを所持。
戦いにおいては、とにかく相手を叩き潰すことを楽しみとしている。
グラビティは3種。
加護を砕く重い斬撃、ゾディアックブレイク。
複数人を凍てつかせる守護星座の力、ゾディアックミラージュ。
2本の剣にて放つ動きを封じる十字斬り、星天十字撃。
「また、このエインヘリアルは使い捨ての戦力として送り込まれているのか、戦闘で不利な状況になっても撤退することはないようだ」
説明は以上になると、ザイフリート王子は資料をまとめていく。
「アスガルドでも凶悪犯罪を起こしていた危険なエインヘリアルによる凶行。それが、未来を作る者たちを手にかけないよう……どうか、全力での戦いをよろしく頼む」
参加者 | |
---|---|
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110) |
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257) |
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308) |
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918) |
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322) |
レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180) |
フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183) |
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135) |
●若者たちの未来を護るため
午前11時。
冬深まりて荒ぶ寒風に負けず、若者たちが集う場所。
大学の一角に設けられた推薦入試の試験会場ではペンの音色が響いていた。
日々を品行方正に過ごし学業を積み重ねて来た者たちが、未来に向けて挑む僅かな時間。それを護ることはできないけれど……命を救い、再挑戦の機会を与える事ができるように、ケルベロスたちはやって来た。
次々と問題を解いていく者、一つ一つ立ち止まり悩む者、片手で頭を抑えて唸る者……様々なスタイルで試験に挑んでいく者たちを、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)は受験生に紛れる形で眺めている。
事前に大学側と協議し調整した結果、出入り口までの誘導はスムーズに行くように対処。その後のルートも大きな扉へ導くなど可能な限り多くの人々を確実に、安全に避難させる事ができるよう確保されている。
後は今回の敵……エインヘリアル出現後、ケルベロスたちが速やかに身柄を抑えるだけ。
教卓の側でもフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が警戒のアンテナを張り巡らさせながら、試験官を装い会場の監視を行っていた。
不正がないかチェックするふりをする半ば、眼鏡をかけて受験生を装うクロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)と視線が重なり目配せし合う。一通り見回し終えた後には空調の影へと目を配った。
クマネズミに変身しているヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)が、空調の影で身を潜めている。
時折の瞬きを覗いて動くことなく、ただただその視線はフィストへと……教卓へと向いていた。
様々な形で襲撃に備え、待つことおおよそ15分後。不意に、教卓に影がさした。
力を用いて窓の近くに紛れていたレイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)がいの一番に走り出す。
「予知通りね! 私が止めに行くわ!」
「ケルベロスがいるから大丈夫だよ! 早くあっちに逃げてね!」
フィアも即座に席を立ち、確保しておいたフロア後方の出口を指し示した。
同様に、フィストは教卓の横へと飛び出し声を上げる。
「……皆さん、私たちはケルベロスだ! 私たちや警備員、試験官の指示に従って、落ち着いて行動して欲しい!」
「おう、俺たちはケルベロスだ! 俺たちや警備員、試験官の指示に従い、落ち着いて行動してくれ!」
変身を解いたヴィクトルは力を用いて、確実な形で言葉を届けた。
ケルベロスがいる、出入り口近くでも誘導を始めてくれた教員がいる……そのことが、受験生たちに安心を与えたのだろう。彼らは素直に立ち上がり、入口近くから順番に外への避難を始めていく。
安堵の息を吐き、ヴィクトルはフィストへと視線を送る。
頷き合い、改めてエインヘリアルへと向き直る。
エインヘリアルはケルベロスたちの攻撃を受け、顔を憤怒に染めていて……。
●未来なき罪人へ
エインヘリアルが2本のゾディアックソードを振り上げた時、クロノはライドキャリバーのエアと共に正面へと割り込んだ。
「っ!」
七色の守護石きらめく刀身を持つ剣を掲げ、受け止めて、左側へと流していく。
即座に腕を引き構えなおしていくエインヘリアルを横目に捉え、エアと共に戦線から飛び退った。
「そんな力任せに振るうだけの攻撃なんてつまらない事してるわねー。剣、もっと上手く使ってあげなさいよ。こういう風に……」
着地と共に霧は舞う。
霧は自分に似た無数の幻影兵へと変化し、七色の刃が誘うままエインヘリアルへと斬りかかった。
体中に薄い傷跡を増やし、エインヘリアルは小さく唸る。
「ダサいわよあんた。やる事成す事、何から何まで」
すかさず挑発的な言葉を投げかけながら、改めて最前線から離脱した。
視線で追いかける素振りを見せたエインヘリアルの右脇腹の周囲が爆発する。
僅かによろめきながら右側へと向けられた瞳の中、レイスが不敵に笑っていた。
「腐りきった性根に纏わりついた肉塊が弱者を嬲る様……ああ醜い。生きているのが恥ずかしくないのかしら?」
しばしの間、エインヘリアルは首をひねる。しかし、侮蔑の言葉であることは通じたのか、徐々に顔を紅潮させていった。
意識も自分へ向けられていく様子を観察し、レイスは1人思い抱く。
一度罪を犯せばその魂に穢れが生まれ、闇に呑み込まれて堕ちてゆく。このエインヘリアルのように。
もとより説得するつもりはない、構成は不可能なのだろうから。
ただ、狩る。
そのために……と牽制のためにオウガメタルを展開。
オウガメタルにエインヘリアルの顔が写り込んだ時、その右肩を一発の弾丸が掠めていった。
「……ちっ」
担い手たるシルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)はフルフェイスの向こう側で舌打ちしつつ、がしゃりと巨大な剣を構え直す。
さなかには山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)が背後を取り、難く握りしめた拳を振りかぶった。
「迷惑なエインヘリアルさんには退場してもらおうかな!」
渾身の力を込めて振り抜けば、エインヘリアルの右足が一歩分ほど前に出た。
押し戻すかのように、ヴィクトルの弾丸が胸と腹の間に突き刺さる。
「避難誘導は概ね終わった。フィスト、とっとと片付けるぞ」
頷き、仲間たちの視線を始めていくフィスト。
彼らと合流するまでの間、代わりに支援を行っていたオリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)はクロノの治療を行っている。
「うん。残りはフィストに。後、地デジもよろしく……」
オリヴンは治療の残りをフィストとテレビウムの地デジに任せ、自身はエインヘリアルの間合いへと踏み込んだ。
気に留めた様子もなく、エインヘリアルはゾディアックソードを振り回している。
その切っ先が獅子星座を描いたなら、幻影となって前衛陣へと襲い掛かってきた。
オリヴンは2度爆破スイッチを押していく。
2度の爆発が獅子星座の速度を緩めていくさまを観察しながら、軽く右側へと飛び退いた。
構わず駆け抜けていこうとした獅子星座の横っ腹に蹴りを叩き込む。
ふっとばされ霧散していくさまを観察した後、改めてエインヘリアルへと向き直った。
「いっしょうけんめい頑張ったひと、を。そんな風に壊しちゃ、だめ」
言葉は届かない。
ただただエインヘリアルはゾディアックソードを振り回し、ケルベロスたちを牽制し続けている。
もとより説得できるはずはないのだから……と、ケルベロスたちは変わらぬ攻撃を仕掛けていく……。
「きら、きら。凍るよ」
オリヴンが示す先、エインヘリアルのもとに無数の透明度の高い氷の破片が向かっていく。
緑柱石の如く煌めきながら猛々しき肉体を切り裂く中、フィアはオリヴンを飛び越える形で跳躍した。
「2回目の犯罪だし、もう極刑しかないよね」
エインヘリアルの頂点よりも高い場所へ至った後、思いっきりルーンアックスを振り下ろす。
煌めきの最後尾を追いかける形でエインヘリアルのもとへと至れば、凍てついていた左肩へと食い込んだ。
小さなうめき声を上げながら、エインヘリアルは右のゾディアックソードを掲げていく。
刻まれていた獅子星座が煌めき、形を成し、前衛陣へと向かっていく。
向かい来る獅子星座の正面にいた涼子は、飛びかからんとばかりに頭が下がったタイミングで左側へと退避した。
駆け抜けていく守護星座の背中を見送りながら、目を細めていく。
「……鈍いね。さっきよりも、随分と」
楽に……とはいかないものの、大きく動かなくても避けることのできる獅子星座。その突撃を避けていく仲間たちから視線を外し、改めてエインヘリアルへと向き直る。
フィアを弾いたばかりなのか、足元をふらつかせていた。痛みからか左腕はだらりと下がったままで、しばらくの間は防御に使う事もままならないだろう。
「それじゃ、行くよ!」
一歩踏み込み、足元へと到達。
背中を見せるかのように体を捻り、虚空を素早く蹴りぬいた!
半ばにて放たれた炎が鮫のごとく地を這い、エインヘリアルの体に噛み付いていく。
耳に届いたのは唸り声。
護るために振り回されていただろうゾディアックソードが虚しく空を切る音色。
「もう一発……!」
勢いのまま正面へと向き直り、涼子は再び一歩前へ。
懐へと踏み込みながら拳を固め、土手っ腹をぶん殴る!
抑えきれぬ衝撃が残されていた答案用紙を吹き飛ばす中、エインヘリアルは一歩、二歩とよろめきながら後ろへ下がった。
「大いなる竜の吐息を浴びよ!」
今こそ好機と、フィストはウイングキャットのテラに治療を任せ大きく息を吸い込んでいく。
勢い良く白い炎をブレスを吹き付けて、エインヘリアルの傷跡を焼いていく。
白き輝きに導かれ、ケルベロスたちはさらなる勢いで攻撃を……。
「この漆黒の闇で塗り潰してあげるわ!」
混沌とした鈍い光を放つエネルギー体をチェーンソー剣に走らせて、レイスはエインヘリアルの脇腹へと食い込ませる。
ガリガリと肉を削られたエインヘリアルは、小さなうめき声を上げていた。
「ぐ、なぜ……俺、が……」
「無抵抗の人間しか襲う気は無いんですか?随分と図体の割に小物なんですねぇ、この雑魚が!」
何もわかっていないとばかりの言葉を罵倒し、シルフィディアは傷口に弾丸を叩き込んだ。
弾丸に貫かれた体が凍りついていくさまを見て、言い放つ。
「ゴミ屑はゴミ屑らしく粉々に粉砕してやります……!」
言葉に誘われるかのように、脇腹の一部はエインヘリアルが強引に体を戻したことで砕け散った。
それでもなお2本のゾディアックソードをは振り下ろされたけれど……。
「いい加減、諦めなさい」
クロノが軽く剣を振るえば上方へとはねのけられる。
すかさず地デジが凶器片手に飛び込めば、オリヴンも自らの足を軸にルーンアックスを振り回し始めた。
「これで、終わらせるよ……」
凶器により戻す事を許されなかった両腕の下、傷つき砕けた胴の中心を、オリヴンの斧がずたずたになるほどに切り裂いた。
勢いに負けたか、よろめき尻もちをついていくエインヘリアル。
立ち上がることなど許さない。
「フィスト……いいか?」
「いきましょう!
ヴィクトルとフィストが視線を交わす。
同時にもがくエインヘリアルへと向き直り、ヴィクトルはガジェットを猫を模した大型の機獣形態へと変化させ、フィストは大きく息を吸い込んだ。
「…eins、twei」
「トレ!」
各々の言葉で呼吸を重ね、機獣を白き炎のブレスを解き放つ。
爪に跳ね飛ばされたエインヘリアルを白き炎のブレスが包み込んだ。
もはやもがく事もできずに落ちてくるエインヘリアルを、シルフィディアはじっと見つめ……。
「いい加減、地獄に堕ちろ!」
地獄の両腕を禍々しき地獄の刃に変え、落下してきたエインヘリアルを切り裂いた。
壁にふっとばされたエインヘリアルは小さな声を漏らした後、体の大半を失った物言わぬ躯と化す。
●来るべき戦いの日へ
静寂がケルベロスたちに勝利の報を届け始めたフロアの中。シルフィディアはいち早く武装を解き、戦いのさなかとは打って変わっておどおどとした様子で仲間たちを見回した。
「お、終わりましたね……みなさん、お怪我はありませんか……?」
幸い、深く傷ついた者はいない。
軽い治療を施すだけで、問題なく日々を送ることができるだろう。
もっとも……。
「お腹空いたー」
時刻はお昼前。
フィアは大げさにお腹を抑える素振りを見せ、何か食べるものはないかと仲間たちにねだっていく。
応じたレイスがスイーツを配り始め、和やかな雰囲気の中で後片付けが始まっていく中、涼子は1人拳を握っていた。
「ボクも近いうちにも受験だろうし、いまのうちから頑張らないとなあ……」
本来、この場所で行われるはずだった受験生の戦い。
涼子もまた別の場所で、その戦いに挑むことになる。
その際に全力を出せるよう、望む未来へいたる事ができるよう……さらなる努力を重ね、戦いの日を迎えよう!
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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