日本人なら! 和装が大正義!

作者:秋津透

「いない……もう、いない。いなくなってしまった……」
 埼玉県さいたま市にある、某由緒正しき大神社の境内。
 くたびれはて汚れはてた羽織袴をまとい、白髪交じりの髪をぼさぼさに伸ばした見るからにみすぼらしい老人が、ぼそぼそと呟きながらさ迷い歩いている。
「なぜだ……ついこの間、年始参りの時には大勢いたのに……次の週にもそこそこいたのに……今週になると、もういない……どこへ行ってしまったのだ、日本人たる伝統を守る和装の人々は……」
 哀しい、ああ、何と哀しいことだ、と、老人は天を見上げて落涙する。
 すると、その時。
 何か用事があるのだろうか。社殿の傍らから中年の巫女さんが出てきて、小走りに脇門の方へ向かう。神社であれば、ごく日常的な風景が、和装の参拝客がいなくなったことを嘆いていた老人には、天啓のように見えたらしい。
「いたぞ! いたぞ、和装の人物が! そうだ! 巫女だ! 神主だ! 和の伝統を守る神職者がいる限り、和装は滅びぬ! 儂とて、女々しくぐちっておる場合ではない!」
 と、気合を入れたまではよかった(?)が、何と老人は、気合を入れすぎたのか、いきなりビルシャナと化してしまった。
「日本人なら! 和装こそが大正義! 大和魂の発露! うおおおおおおおお!」
 ……嗚呼、ここにまた有害無益のデウスエクス、大正義ビルシャナが誕生してしまったのである。

「日本人なら和装しろ、という気持ちはわからなくもないですけど、ビルシャナになってしまってはダメですよねぇ……」
 これってやっぱり、撃破しないといけないんですよね、可哀想に、と、神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)が溜息をつく。
 そしてヘリオライダーの高御庫・康が、こちらも溜息混じりに告げる。
「えー、埼玉県さいたま市内の某神社で、日本人なら和装が大正義と信じる老人が、感情を高ぶらせたあげくに大正義ビルシャナと化してしまいました。放置しておくと、周囲の人々を感化して信者とし、更には新たなビルシャナとしてしまう恐れがあり、早急に撃破する必要があります……本人にはひとっかけらの悪気もなく、主張もそれほど非常識でなく、更に他人を害する気もないので、討伐は躊躇われるかと思いますが、ビルシャナが増殖してしまえば、悲劇はエスカレートするばかりとなります」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。急行すると、昼間の二時ちょうど、老人が境内に入ってきたところに行き会います。タイミングによっては、ビルシャナ化する寸前に接触できるかもしれませんが、そこでビルシャナ化を阻止してしまうと、遠からず別のタイミングでビルシャナ化してしまい、予知が及ばず被害が甚大になる危険性が高いので、非情なようですが、ビルシャナ化を阻止した場合は失敗となります。有名な大神社なので、平日昼間でも参拝の人々はそこそこいます。さすがに神主さんや巫女さん以外には和装の人はいないようですが、いずれにしても早急に避難してもらわなくてはなりません。最短でも、境内からは出てもらう必要があります」
 大正義ビルシャナは、戦闘中でも大正義を主張するので、へたに攻撃範囲外で見物などされると、大正義に感化されて信者化したり、最悪ビルシャナ化する人すら出かねません、と、康は真顔で告げる。
「更に、殺界形成や剣気解放などを使って人を散らすと、ビルシャナが戦闘を始めてしまったり、あるいは逃げる一般人を追いかけたりする可能性があります。一方で、戦闘を始めない限りは、賛成論でも反対論でも誰かから何か意見を言われれば律儀に反応してしまうようですので、その習性を利用して議論を挑みつつ、周囲の一般人の避難などを手分けして行うのが適切でしょう。とはいえ、賛成にしろ反対にしろ、本気の意見を叩きつけなければ、ビルシャナは他の一般人に向かって大正義を主張し信者としてしまうかもしれません。議論を挑む場合は、本気の本気で挑む必要があります」
 そして康は、軽く肩をすくめる。
「ビルシャナの能力やポジションは不明です。ただ、経験則として、戦闘慣れしていない人が変じたビルシャナは、戦闘に際して、自分の力をあまり有効に使えないことが多いようです。皆さんが総掛かりで掛かれば、負けることはないと思います」
 怖いのは、一般人が巻き込まれること。それも、危害を加えられることよりも、ビルシャナに共感してしまうことが怖いのです、と、康は告げる。
「ちなみに、議論に勝ってビルシャナが返答に詰まるような状態になっても、残念ながら、ビルシャナ自身を説得することはできません。かえって、議論を放棄し戦闘に踏み切らせる可能性もあります。避難が済むまでは、むしろ迎合していい気分にさせておいた方がいいかもしれません……いずれにしても、その後討たなくてはならないのですから」
 どうか、よろしくお願いします、と、康は頭を下げた。


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)
ラピス・ウィンドフィールド(天蓋の綺羅星・e03720)
村雲・左雨(月花風・e11123)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629)

■リプレイ

●移動中の一景
「えーと、防具が着物ではないけど和装する方はお二人ですね。こちらの和服を着られますか?」
 さいたま市の神社に向かうヘリオンの中。ヘリオライダーの高御倉・康が訊ねると、既に紋付羽織袴を着込んだ秦野・清嗣(白金之翼・e41590)が、笑って手を左右に振った。
「いや、それには及ばないよ。僕の防具はパジャマだけど、実は肌襦袢でね。上に和服を着れるんだ」
 そう言って、清嗣は着物の襟をめくり、下の長襦袢と肌襦袢をちらりと見せる。
「戦闘になったら、羽織袴は脱ぐつもりだ。まあ、心配には及ばないよ」
「そうですか。では、そちら……」
 言いながらラピス・ウィンドフィールド(天蓋の綺羅星・e03720)の方を見やった康が、顔を赤らめて視線を外した。いつの間にかラピスは上着を脱ぎ、スポーツブラと短パンという格好になっていたのである。
「私の防具はスポーツウェア、つまりこの格好なの。反則かもしれないけど、この上に和服着れるよね?」
「ええ、大丈夫ですよ。長襦袢と……やっぱり振袖かな?」
 言いながら、康は華やかな柄の振袖と、帯や女性用の長襦袢を出す。
 そして着付けを始めたところへ、神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)が躊躇気味に訊ねる。
「あの、私は防具の着物を自分で着て来ましたけど。これって、ヘリオンから降下したら……裾はどうなっちゃうんでしょう?」
「あ、それは大丈夫です。デウスエクスとの戦闘で『防具』になる服ですから、風に煽られてもびくともしません」
 そう言うと、康はラピスに告げる。
「この振袖も『防具』ではないですが、グラビティの籠った魔法衣装なので。普通の風や衝撃で破損したり乱れたりはしません。戦闘時に脱ぐ必要はないですよ」
「ご配慮、感謝いたします」
 うふ、とラピスは悪戯っぽく笑う。するとそこへ鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629)が訊ねる。
「えーと、ビルシャナになる前に到着できるなら、変身する前に倒すことって出来ないの?」
「できるかもしれませんが、それは殺人ですね」
 眉を寄せ、康は応じる。
「ケルベロスは、基本的に人を殺しても罰せられませんが、なぜ殺したのか説明する必要があります。そして、ケルベロス……正確には私たちヘリオライダーが未来を予知しているという事実は、相手が警察でも裁判所でも、外部には絶対に秘密です」
「つまり、この人はビルシャナになると予知したから殺した、とは言えないわけね?」
 愛奈は身も蓋もなく訊ね、康も身も蓋もなく応じる。
「ええ、そうです。もしも誰かがビルシャナに変身したら最後、即座に多くの人が犠牲になる状況なら、事前排除もやむを得ない。ですが、今回は違います。ビルシャナが変身した後、一般人を逃がせるなら、言い訳に困る事前排除を敢えてする意味はないですね」
「なるほど、わかったわ!」
 愛奈がうなずき、康はラピスの着付けを仕上げて一同に告げる。
「では、私はコクピットに戻ります。降下ポイント到着五分前からカウントしますので、用意をお願いします」

●少々(?)アクシデント発生
「では、先陣を承ります」
 丁寧な口調で告げ、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)がヘリオンから地上へ跳ぶ。続いて、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が跳ぶ。
「あの神社ですね……問題の人物はどこでしょうか」
 降下しながら、ジュリアスは地上を観察する。
「………あれが拝殿で、こちらが入口……あ、いたっ!」
「え? どこ?」
 瀬理は訊ねるが、ジュリアスは地上を見据えたまま言葉を続ける。
「まだ、鳥にはなってない……のかな? ん? こちらを見た?……あ、変身した!」
「……あ! わかった! あれやね!」
 視認より先に気配を感じ、瀬理は地上の一点を見据える。すると、なぜか相手と視線が合う。
(「うげっ?」)
 背筋に悪寒を覚え、瀬理は本能的に視線を逸らす。そこへジュリアスが、躊躇気味に告げる。
「八蘇上さん……貴女は一般人の避難誘導をする予定ですが、ビルシャナは貴女に注目しているようです。貴女が一般人の方へ行ったら、敵もそちらへ動きかねない。不本意とは思いますが、足止めに回ってもらえませんか?」
「えっ!? そない急に言われても、うち、足止めネタなんて何も用意しとらへんよ!」
 瀬理が慌てて言うと、ラピスが後方から声をかけてくる。
「いえ、大丈夫ですよ! ビルシャナは、瀬理さんの和装に目を奪われてますから! 適当に声かけてやれば喜びます! 私も手伝いますから、一緒にやりましょう、足止め!」
「そうだな。一般人の誘導は、俺たち非和装組に任せてくれ。目立たないように手早くやるから、その間、ビルシャナの気を引いてもらえりゃ有難い」
 村雲・左雨(月花風・e11123)も、背後から口添えをする。ちなみに、左雨は普段は着物姿が多いが、今回はスーツに着替えている。
(「参ったわぁ……凛とした風吹かせて、カッコよく避難誘導しよ思っとったのに……」)
 言葉には出さず、瀬理はぼやく。変身したビルシャナが熱視線を向けて来るのは嫌でもわかるし、これじゃ足止めするしかないわと頭では理解しているが、感情が納得しない。
(「っていうか、もしかして、ビルシャナ、うちのこと見て大正義発動させて変身したんか? いややわー!」)
 感情の整理はつかないものの、否応なく迫ってきた地表に、瀬理は鮮やかに着地を決める。
 するとそこへ、和服の残骸とおぼしきボロ布をまとった異形の鳥人間ビルシャナが走り寄ってくる。
「おお! その若さで、その着こなしは見事! ここ一番の晴れ着として気合を入れた和装も決して悪くないが、やはり日常の一端として、何も特別なことはないが和装する、その自然さ、さりげなさこそが大正義! うおおおお、和装バンザイ、生きてて良かった!」
「……はぁ」
 大仰かつ自分勝手に盛り上がりまくるビルシャナを、瀬理は複雑な表情で見やる。
 するとそこへ、ラピスが笑顔で歩み寄ってくる。
「こんにちは。私はラピス・ウィンドフィールド、日本の心を学んでいます。着物って素晴らしいですね!」
「おおおおお、いや、まさしく左様、その通り! 貴女のような異国の美しい方に、日本の心を理解し、和装していただけるとは! もはや感涙、大感謝! 感動の極み~!」
 感極まった声を出し、ビルシャナは天を仰いで落涙する。
 一方、ジュリアスと左雨、更に続いたシアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)の非和装組三人は、拝殿や参道へ素早く走り、異常に気付き始めた一般参拝客や神社関係者をビルシャナから遠ざけ、避難を促す。
「私たちはケルベロスです。付近にデウスエクスの出現を確認しました。誘導いたしますので避難してください」
「ああ、来ちゃいけない。パフォーマンスとかじゃない、本物のデウスエクスだ。関わったら命がない。すぐに逃げるんだ。俺? 俺はケルベロスだ。ここにボクスドラゴンも連れてる。本物だぜ」
「恐れ入ります。境内の、あちらの隅にデウスエクスが侵入しました。私たちケルベロスが対応しますので、参拝の方々を誘導し、避難してください。間もなく戦闘が始まりますので、近くにいると危険です」
 ジュリアスは参拝客に直接呼びかけ、左雨は誰もビルシャナに近づけないよう壁となり、シアライラはまず神社関係者に呼びかけて参拝客を誘導して避難するよう促す。
 本来は誘導役の瀬理が足止めに回らざるを得ず、手不足は否めないが、巧みな分担と二体のサーヴァントたちの助力、そして呼びかけられた神主や巫女が参拝客の誘導に当たり、間もなく全員を避難させることができた。
 更に和装した三人、清嗣、佐祐理、愛奈が降下。ビルシャナの足止めを強化する。
 特に、紋付羽織袴を日常的かつ自然に着こなした清嗣の登場は、ビルシャナに新たな感動を巻き起こす。
「こ、これは……この着こなしは……貴方はもしや、梨園の方ですかな?」
「いや、本業の役者さんではないよ」
 それはさすがに、本物の歌舞伎役者さんに失礼でしょ、と、清嗣は内心苦笑する。
 そして愛奈は、ぱっと手を挙げてビルシャナに訊ねた。
「質問があります! 日本人なら和装が大正義って、外国人やハーフやクォーターじゃダメなんですか? 着物ってキレイで素敵だと思うんですけど、着ちゃダメですか?」
「とんでもない。こちらのお嬢さんのように、日本を愛する外国の方に和装していただけるのは、まさに光栄感謝の極みですじゃ」
 ビルシャナが応じると、愛奈は質問を続ける。
「誰でも和装していいのなら、日本人なら和装が大正義って、どういう意味ですか? 日本人は、常に和装しかしちゃいけないんですか? あと、日本人というのは、どういう範囲の人ですか?」
「んー、まず日本人の範囲じゃが、これは単純に『日本国籍を持つ人』ですじゃ」
 そう言って、ビルシャナは淀みなく論じ始める。
「そして和装が大正義とは、無理なく和装ができる時は和装しよう、という提案ですじゃ。今の世の中、和装で臨むのは危険な作業も山ほどある。無理な時まで和装しろとは申しませぬわい」
「そうですね! 毎日晴れ着を着ろとまでは言いませんが、改まった席とか、目上の方を訪問するときとかくらいにでも着てみないと、ここぞと言うときに、見事に着られちゃいますしね~」
 佐祐理が言うと、ビルシャナは少々困ったように応じる。
「うーむ、既に晴れ着を持っておられるなら、機会を見て着るのがよいのは確かじゃが……できれば普段用の着物も試してはいかがかな。和装と言えば高価な晴れ着というのが、人々を自然な和装から遠ざける理由の一つと思いますのじゃ」
 そう言うと、ビルシャナは深く慨嘆する。
「そもそも、和装が大正義などと殊更に言うこと自体が、大多数の日本人の心が既に和装から離れている証ですのじゃ。洋装は安く動きやすい、和装は高くて面倒くさい……そんなイメージで和装が消えていくのが、悲しくて仕方ないのですじゃ」
「……気持ちはわかります。でもね、それは世の流れだ。流れに逆らうことを無理強いしても、人はついてこない」
 周囲の避難がほぼ終わった、と見て、清嗣が静かに告げる。
「なぜ、人に強いるのですか。自分が和装を愛しているなら、それでいい。日本人が全員和装を辞めても、自分は敢えて和装する。それでいいじゃないですか。本当の正義とは、そういうものでしょう?」
「……そうかもしれぬが、儂は悲しかった! 見渡す限り、誰も和装をしておらぬ光景が、悲しくて耐えられなかった!」
 叫ぶと、ビルシャナは悲しげに続ける。
「実のところ、今のわしは自分の姿などどうでもよい。長年、大事に着ておった和服が破れ裂けても、何も感じられぬ。ただただ他人の和装が見たくて、和服を着るのが大正義と強要したい……ああ、どうやらわしは狂ったようじゃ」
「……自覚があるのですか」
 こりゃ悲劇だな、と、清嗣は内心唸る。
「ならば、今からでも、他人に強要するのは意味がないと……」
「意味がないとわかっておっても、やりたくてたまらんのじゃよ。正義に狂うというのは、そういうことじゃろ?」
 告げるビルシャナの声音が高くなる。そこへ、避難誘導を終えた三人が駆けつけてくる。
「ふむ、和装をしておらぬ者が来たな。どれ、和装こそが大正義と説き聞かせねばなるまい」
「……ええやろ、止めたるわ」
 ずっと黙っていた瀬理が、ぼそりと告げる。
「うちを見て、あんたはデウスエクスになったんやな。だったら、うちが止めなきゃあかんやろ」

●悲しき戦い
「はっ!」
 瀬理が刃のような回し蹴りを見舞い、ビルシャナの羽毛と纏う布が鮮血に染まってちぎれ飛ぶ。そして飛び込んできたジュリアスが、いきなりオリジナルグラビティ『ユリウスキック』を放つ。
「ドゥエェーイ!!」
「ぐはっ!」
 重力で加速された蹴りを胸元に叩き込まれ、ビルシャナがよろめく。そしてラピスも、オリジナルグラビティ『ラピス・シュトローム』を放つ。
「天空よりラピスが命ず、蒼き風よ来たれ!」
「むぐっ!」
 ラピスが呼び出した蒼い風の渦に直撃され、ビルシャナはきりきり舞いする。
「や、やるのう……」
「気持ちは分からないでもねえが……やはり好き勝手はさせられねぇ!」
 左雨が飛び込み、重力蹴りを叩き込む。ばき、と音がしてビルシャナの片羽が折れる。
 そしてシアライラが、冷ややかに告げる。
「和装を主張なさるのなら、もう少し小綺麗になさればいかが? それでは説得力がありませんでしてよ?」
「ふ、わしは貧乏老人、そんな金も気力もない……もう今では、どうでもよいが」
 嘯くビルシャナに、シアライラはオリジナルグラビティ『Lumen de Purificatione(ジョウカノヒカリ)』を放つ。
「燃え盛る太陽よ、煌々と輝く月よ、夜空に瞬く無数の星よ。大いなる力を与えたまえ!」
「かはっ!」
 ビルシャナの全身から刺激性の煙があがるが、その体から光が放たれると消える。
「自己治癒ですか……気持ちはわかります」
 憐れむ口調で告げると、清嗣は紋付羽織袴をまとったまま、火炎弾を放つ。
「撃破という以外の方法で、決着がつけられれば良かったのですが」
 佐祐理が呟き、オリジナルグラビティ『鷲の目(ワシノメ)』を始動させる。しかし、この攻撃は外れた。
 そして愛奈が、オリジナルグラビティ『クロノアバランチ』を発動させる。
「クロックアップ!」
 言い放った瞬間、愛奈の姿が消え、何かがビルシャナに容赦ない連撃を加える。
 そして、大きく息をつく愛奈が姿を現し、消耗しながらも誇らしげに言い放つ。
「やっぱりおばあちゃんの言う通りだ。あたしが望みさえすれば、運命は絶えずあたしに味方する」
「望みさえすれば、か……」
 血塗れ瀕死のビルシャナが、喉をごぼごぼ鳴らしながら呻く。
「わしは……望むべきじゃったのか? それとも、望んだから、こうなったのか?」
「どうなんやろね」
 呟いて、瀬理がビルシャナを見据える。
「そんなに和服好きなら、うちらの仲間になればよかったんや。和服が私服な人、結構居んでー。十二単日常的に着とったりするし。巫女服とかわんさかおるなぁ」
「ほう……それは……」
 首をもたげたビルシャナが、かはっと血を吐く。瀬理は、オリジナルグラビティ『虎撃:執燥猟牙(コゲキ・シュウソウリョウガ)』を発動させる。
「どうしてもデウスエクスが剥がせんいうなら、しゃあない、もろともに喰ろうてやるわ。いくで」
 言い放つと、瀬理は瀕死のビルシャナに躍りかかり、脳天を砕いて全身を割る。敢えて返り血をまともに浴びて真紅に染まった茶衣着を震わせ、瀬理は咆哮する。
「なんで、このビルシャナ剥がせんのや! 理不尽やないか!」

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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