ミッション破壊作戦～死神の爪弾

■リプレイ

●想いの剣
　卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）の投げたコイン。
　裏か表か、その結果は捕らえた手の甲の上、まだ伏せられたまま。
　それにレターレ・ロサ（禍福の讃美歌・e44624）は興味を示す。
「ベットしても？」
「ああ、表か、裏か」
　レターレは表と紡ぐ。
　コイン隠す手を外した泰孝は、お、と声零した。
「表だ」
　それは幸先良いとレターレは微笑み、泰孝も笑って行くかと紡いだ。
「はいはい。抱っこ、だったかしら？」
　ぴょんと、嬉しそうにオルテンシア・マルブランシュ（ミストラル・e03232）の腕に飛び込んだ従者、ミミックのカトル。
　いつぞやの事を確り覚えていたのはお互いに。
　お先にと飛び降りたオルテンシアの、いってくるわという声は風に融けて。
　香良洲・釧（灯燭・e26639）は灰白色の翼と蛇のような尾を躍らせ、空へ。
　仲間達が先に降りた空。
　その下に広がる場所に来たのは一度ではなく――そして、因縁の相手がいる。
　ベルカント・ロンド（医者の不養生・e02171）にとってここは許せぬ相手のいる場所だ。
　その点においては此処にいる誰よりも想いは深いのだろう。
「……ベル兄、行こう？」
　ベルカントに声をかけたのはティスキィ・イェル（ひとひら・e17392）だ。
　先に行くねとティスキィは笑んで、空へ。
　ボクスドラゴンのクラーレはティスキィに続いて一緒に。
　ベルカントもすぐ、続く。
　それぞれが空に舞い、その想いをグラディウスの切っ先に込めて叫ぶ。
　ハートレス・ゼロ（復讐の炎・e29646）は比叡山、そしてその近くの琵琶湖を思う。
　そこは大きな戦いのあった場所。
「あの魔女へスぺリデスとカンギの絆は本物だった。奴は本気でカンギのためにハロウィンの魔力を集めようとし、だからこそ攻性植物達も奴に力を貸した――奴ばかりではない、この琵琶湖に眠っているのは、カンギに殉じた連中だ。その絆を踏みにじる事など許さん。このオレの地獄にかけて！」
　友を失った事でハートレスはその心を地獄の炎とした。
　ゆえに、この場にいる死神に対して抱く感情は嫌悪。叫びも苛烈なものになる。
「難しいことはよく分かんねーけど！」
　それでも。敵だからといっても良い事と悪い事はあると深宮司・蒼（綿津見降ろし・e16730）は思う。
　ここは琵琶湖の近く。そこで戦った相手、敵の事をふと思い出す。
「例え敵でも、俺達と正面から戦って死んでった奴を好き勝手しようなんて許せねぇよ。ふざけた真似出来ないように、俺達で絶対に止める！」
　戦い抜いて、死んで。
　敵であっても好き勝手に操られてもいい。そんな訳はないと蒼は思う。
　それは自分が戦った事がある相手なら、尚更の事。
「こんな事、いつまでも続けさせねーよ！　ぜってー止めてやる！」
　そう言って空で一回転して、勢い着けて蒼は小剣を障壁へ向けた。
　望み挑むならば結末は等しく――小剣もろとも、この身もひとひらのつるぎとして。
　オルテンシアは絆狩ね、と零す。
「かつての光明神域攻略戦で紡がれたそれを狙ったの？」
　ふふ、ざんねんと。目の付け所が悪かったようよと紡ぐ。
　後悔してももう遅く。
「存分に味わいなさい、いまこの場で結ぶ絆の威力を」
「亡くなった人達の眠りを妨げさせない。そして誰ももう傷つけさせない」
　ティスキィは小剣の柄を握り、そこに想いを篭めるように紡いでいた。
「ここを愛してる人やここで修行してきた人――色んな人の想いと共に死神の支配からこの場所の解放を！」
　その想いに呼応するようにクラーレはその傍で一声鳴く。
　かつて、この地で笑い、生き、歴史を紡いできた人が居た事をベルカントは知っている。
　歴史書に残されなくても、確実に生きていた人が居て、此処を故郷と想う人が居る。
　そして何より、この地を取り戻す為に多くの仲間が戦っているのだ。
「そんな人々の想いや魂を汚す身勝手な侵略は、私が必ず止めます。美しい大地を取り戻し、たくさんの想いを解放します！」
　そのためにはここにいるものと対する必要がある。
　泰孝は落ちながら態勢整え、眼下を睨む。
「そんなに故人の顔が欲しいのか、自分の容姿に随分と自信が無いようで。命をチップに勝負を挑んで負けた奴はそこでゲームセット」
　何だかんだと理由をつけての蘇生から再試合ってのは認められねーんだよと続けて、小剣を構えた。
「ここは生きてる者同士、チップは命の賭場なんだ。オレのコールはグラディウス、遠慮せずにくらっとけ！」
　賭けるものは相応に。しかし負けるつもりも毛頭ない。
「侵攻するデウスエクスを一体でも多く退け平和な場所を取り戻すのも、地球を守護するケルベロスの役目」
　釧は小剣構え、己の想いをこの場に。
「今ここにいる者にしか出来ないことだろうから……邪魔する壁は、想い込めた、この一撃で取り払ってしまおう」
「ボクたちはケルベロス――デウスエクスを狩る者だ。弱きを救う者だと謳った言葉に偽りはないとも！」
　飄々とおどけるようにレターレは歌うように紡ぐ。
「希望は絶望に変わる事は無いさ。道を示す為にも、デウスエクス――キミたちには必ず滅んで貰わなきゃならない」
　さぁ死神よ！
　死した輩の醜美に拘る無粋者よ！
　今から戦う相手へと、高らかとレターレは叫んだ。
「ボクたちの正義の為に膝をつくが良い！！」
　誰の想いの切っ先が最初に触れたか。
　比叡山にあるそれは爆炎と雷撃を放ち――想いの限りを受けて砕け散ったのだった。

●砕けた守り
　爆炎と雷撃、その煙の立ち上る中、ケルベロス達は障壁の、そして魔空回廊の破壊を確認する。
「よし！　やったぜ！」
　蒼は着地し、見上げて喜びの声を上げた。
　事が成ったのならば素早く撤退するのみ。けれど、簡単には帰れぬ事を知る。
　ゆらりと、煙の先で動く影があった。煙を切り裂くように鈍い銀色が閃く。
　それを目にしたティスキィは咄嗟に守りに入った。身に纏うオウガメタル、鋼華が何より早くそれを受け止める。
　煙を大鎌で切り裂くと同時に、その姿も見えた。
　白い肌に赤い瞳。巨大な骨を纏う美丈夫はこの地にいる死神――絆狩だった。
　この人が、とティスキィは見詰める。
（「初めてベル兄と会った時探してた人……？」）
　その時の必死な顔を覚えている。だからこそ、許せないという気持ちがティスキィの心の内に廻った。
「その顔……」
　いつもより低い声だ。ベルカントの声は思いのほかよく響いた。
「顔？　ああ、これは気に入りの顔ですよ」
　死神は笑う。
　ベルカントにとってそれは――友人のものだ。
　友人のものであり、死神のものでは無い。平静を装いつつも心は荒れ狂うばかりだ。
「ここまでされてこのまま帰ってもらうわけにはいきません」
　あなた達を狩って手駒にさせてもらいましょうと緋狩は紡いだ。
　そこへ、間髪入れず。
「ならば、オレの地獄に付き合ってもらおう」
　唸るチェーンソー剣を手にハートレスは懐へ飛び込む。ハートレスの一撃に続けて、ライドキャリバーのイレブンも炎を纏って突撃する。
　続けて泰孝は廃材の左腕に無造作に突っ込んでいたエクスカリバールを引き抜いてその装甲を剥ぐ。硬い骨とかみ合う音がしたが手応えは確かにあった。
　仲間が敵と競り合う間に蒼は態勢整える。
　敵の与える弊害への耐性をあげるべく、オルテンシアへと分身の術を。
　序盤は回復を重視して、そして徐々に攻撃に切り替えていくのが蒼のとった手だ。
　そして敵より先に動けたオルテンシアは未来に繋がる一手を手繰る。
「シビュラを疑え。ヴォルヴァを訝れ。――天を欺き、エヌマ・エリシュを覆せ！」
　紡いだ一手はベルカントへ。
　そしてカトルは果敢に飛びかかり、牙たてる。
　オルテンシアからの力を受け、ベルカントは握りしめた竜槌を敵へ。
　加速した槌の一撃は叩き潰すかのように。鎌とぶつかり、そのお返しというように死骨槍が襲いくるのを紙一重で交わした。
　そこへ釧は走り込んだ。その脚には流星の煌めきと重力の力。
　その身に一撃、打ち込んだ感覚はまだ浅い。
　簡単には倒れてくれそうにない相手に釧の気分は高揚する。
「死をもって悔改めれば、慈悲深き御方は大罪さえも赦すだろう」
　第1089節《金貨六枚》より抜粋した一節をレターレは紡ぎ、表情はくるりと変わる。
「――……多分ね？」
　微笑み讃美歌を紡ぐ司祭の顔から、古代語魔術を繙く術師の貌への変貌だ。
　序盤は特に狙いつけず攻撃を誰ともなく仕掛けて来る敵。
　こちらは守りを固めつつ、戦線を崩さない。
　ティスキィは周囲を見つつ、回復を優先して行う。代わりというようにクラーレは攻撃を。
　先程、攻撃受けたベルカントに向け紡ぐのは凛花の祝福。
　光の幻影によるガーベラの花籠。その香りは優しい思い出を呼び起こすが、今日は共に戦っている、ティスキィの存在をベルカントは感じる。
「ベル兄、負けないで！　きっと癒すからっ！」
　ベル兄のこと誰より守りたい。
　ベル兄の想いを誰よりも叶えたい――だから出来る事を精一杯頑張る。
　ティスキィはその想い抱いてここにいる。
　その想いに応えるよう、ベルカントは対デウスエクス用のウイルスカプセルを放っていた。
　そこへハートレスが一気に距離を詰めた。
「お前が奪ったその体、その絆。返してもらおうか――イミテーション・ツー、ヴォイドスラッシュ」
　ハートレスが放つのは絶空斬を模倣した技。縮地と呼ばれる全身の加速がチェーンソー剣に空の霊力纏わせるのだ。この技は、今は亡き戦友である、豪放な刀剣士から学んだ物。
　その一撃を受け、絆狩の傷口は広がる。
「テメーを蝕む一本場。さあ、どこまで伸びるかね？」
　麻雀の百点棒を構えた泰孝。それは魔力で生み出したものだ。
　それを敵へ向かい、泰孝は投擲する。その百点棒が含むのは回復を阻害する猛毒だ。
　仲間の耐性を高めるのも終わり蒼は敵を見据えた。
　敵であっても敬意や礼儀はあるべきだ。そういった事を叩き込まれている蒼にとってこの敵は嫌なものしかない。
　この敵にはそれがない、感じられない。
　けれど、それを理由として言葉にするのは――上手く出来ないし良く分からない。
　言葉にするならなんとなくムカつくが一番しっくりくる。
「霧幻の壱式……捕らえろ、朧月！」
　集めた水気より、海月の姿をした霧の式鬼を呼び出せば、それは実体なき霧の触手で敵を絡め取って封じた。
　そこへ斜め後ろに入り込み、簡単に交わされぬ様強く地を蹴り勢い着け、釧が距離詰めた。突き出される釧の拳はオウガメタルを纏ったもの。
　狙いは鋭く、威力は十分に入っている。
　縁や絆は庇護者たちが編む細糸――守護者はそれを外敵より護るためにあるのだとオルテンシアは思って、いた。
　けれど、でも。
「いつの間にかこの掌にも繋いだ糸は溢れんばかりね」
　時が経つにつれ増えたそれは、今はもう断ち切れぬもの。その繋がりを、また守るべく戦うのだ。
　果敢に敵に向かうカトルの姿に、オルテンシアは笑む。従者との縁もまた深いもの。
「わかってるわよ、カトル。ああ、いっそ束ねておけばいいかしら」
　死神の鎌も通らぬほどの強靭さにしてしまえばとオルテンシアは零しその手より時空凍結弾を放った。
　その身を凍りつかせつつも、敵は不敵に笑って見せる。
「これくらいで終わられては蘇生する価値もないですよね」
　楽しいと、笑っているような。
　振り上げた鎌の一撃は蒼に向かった。走る痛みと共に意識が混濁するような。
　そんな感覚に蒼が襲われたのは刹那だ。
「その眠りは良くないからね」
　レターレが放出した桃色の霧が蒼を包み込む。
　それは傷を癒すとともに、意識をクリアにするものだ。
「ありがとな！」
　蒼が礼を言うとどういたしましてとレターレは芝居がかった調子で返す。
　傷を負っても癒す術ある故、向かっていける。
　手数としてはこちらが上。勢いがつけばすぐに結果は訪れるような状況に持ち込まれる。

●絆の先は
　煙はまだ収まらず、戦いもまだ終わりを迎えてはいない。
　一撃に相応の重さを持つ敵。
　レターレを中心に声掛け合い回復をし、誰かが膝をつくような事にはなっていない。敵に惑わされればそれを取り払いと、役割は明確でもあった。
　そして敵はその身削られ、回復を行う頻度も上がってくる。
「終なく、始なく――爆ぜては、消える」
　白い焔で象られた赤目の大蛇。それが釧のもとよりしゅるりと身を伸ばし、敵を囲い込んだ。
　鎌首もたげ、その口開いて敵を飲み込むように襲い掛かった。
「壁など作らせるものか」
　敵はその傷を癒すように赤薔薇の壁を築いていたが、ハートレスはチェーンソー剣の一撃で敵の守りを打ち砕く。
　敵を、絆狩を追い詰めているという感覚はある。
　あともう少しで押し切れそうだという手応えがあった。
　ジャンクアームに捻じ込むように装備したバスターライフル。泰孝はその銃口を向け、熱奪う凍結光線を放った。
　続く攻撃に敵はふらつき、びきりと音たててその身の一部は凍りつき自由を奪う。
　だが完全に自由を奪えていたわけではない。
「ベル兄！」
　咄嗟に、前に。
　ティスキィは向けられた死骨槍をその身に受ける。守りに特化していたからこそ、倒れる事はなかったが傷は深い。
「キィ！」
「私に任せて、存分に揮って」
　名を呼ぶ声。これ以上の攻撃は通さないと、ティスキィの前に立ったオルテンシアは視線だけ向ける。
「ベル兄の……やりたい事、して」
「その通りだ。つけたい因縁があるんだろう？」
　そう言ってレターレはティスキィの傷を癒していく。
　大丈夫だと仲間が示し、その姿にベルカントは抑えこまれていた絆狩へと肉薄する。
　絆狩はそれをかわそうとしたが一歩遅い。
「その色、いただきますね――いいえ、返してもらいます」
　静かに紡ぐ。
　白薔薇の茨は剣のように伸ばされ、絆狩の胸を貫いた。するとその白薔薇は痛みを赤と変え一気に色づく。
　けれど、詰めには少しだけたりなかった。
　だが――あとを、蒼が詰めた。
「これで、終わりだ！」
　両剣のごとき二枚刃の螺旋手裏剣、島渡に雷の霊力を纏わせ突きを放つ。
　神速の突きは、敵の中心を貫き最後の一撃になった。
　崩れ落ちるように膝をついた絆狩。
　絆を喰らう死神が果てる。
　ベルカントは宿敵たる相手の最後に、複雑なものを抱えていた。
「私の友人の顔……絆をお前にはやらない」
　その言葉に、笑う。
　その笑みは、友のものではなく緋狩のものだった。それを最後に塵となり、長くこの地にいた死神は消えた。
　ベルカントは一つ、息をつく。自身にとっての因縁の決着を迎えたのだから。
　帰ろう、と触れる手。
　まだここは、動けぬとはいえ敵ばかりと帰途につく。
　また一つ、デウスエクスによって支配された場所が解放された。
　けれどまだいくつも――敵の手に落ちた地はあるのだった。

作者：志羽	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年2月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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