ミッション破壊作戦～冒涜と熱砂の回廊

■リプレイ

●炎と殺戮の使徒
　新潟県新潟市。
　日本でも有数の豪雪地帯に位置する街の一角は、今もなお紅蓮の炎により赤々と染められている。
　ブラッディクロース。サンタクロースの衣装を纏ったシャイターンによる破壊と殺戮は、昼夜も季節も関係なしに、幾度となく繰り返されていた。彼らの望む、真の勇者。理不尽な破壊と暴力に怯えることなく、果敢に立ち向かう者の魂を選定するために。
「火災などという無差別な手段を用いて、人々に害をなす輩を野放しにしておくわけにはいきませんね。自分たちの為ならば他の犠牲を厭わぬその行為……ケルベロスとしても一人の人間としても、許す訳にはいきません」
　燃える街の中枢に狙いを定め、それだけ言って雨野・狭霧（黒銀の霧・e42380） は真っ先にヘリオンから飛び降りた。
「災禍の炎は、我ら猟犬が喰らい尽くすとしましょう」
　腰に備え付けたナイフホルスターからグラディウスを引き抜き、光の壁へ寸分狂わずに突き立てる。その狙いは正確。その動きには微塵の無駄もなし。切っ先が触れた瞬間、凄まじい衝撃と共に爆発が周囲を包んだが……それでも、見た目の勢いに反し、障壁は未だ健在だった。
　冷静さと合理性は、戦いにおける重要なファクターだ。しかし、内なる感情を力に変えるグラディウスにとって、それは必ずしも限界を超える力を発揮させるファクターとはなり得ない。
　大切なのは、想いの強さ。ならば、内なる心の叫ぶままに刃を振るわんと、ロナ・レグニス（微睡む宝石姫・e00513）とシェスティン・オーストレーム（無窮のアスクレピオス・e02527）の二人が同時に飛び降りた。
「わたしも、あなたたちも……おなじようせいぞく、なのに……どうして……ひどいことばかり、するの……？」
「私は……！　勇者でも、英雄でも、聖人でもないけど……！　それでも、あなたたちを、放っておいてはいけないのは、わかります！」
　何故、このような非道な行いを平然とできるのか。己の目的を果たすためならば、他者を踏み躙っても構わないというのか。誰が答えてくれるかも解らない問い掛けを、その胸中に抱いたまま。
「……みんなに、ゆめをあたえて…しあわせにするのが、おしごとなのに……。ちからのないひと…くるしめるなんて、……ゆうしゃなんかじゃ、ない……！」
「勝手な選別の為に、この地を焼き払うなんて、もうやめてください！」
　一刻も早く、この地から去れ。その想いを込めてグラディウスの刃を突き立てるが、果たして引き起こされた爆発は、光の壁を破るには至ることなく。
「揺らぎはした、か……。しかし……」
　上空から事の成り行きを見定めていた九十九折・かだん（自然律・e18614）が静かに、しかし静謐な表情の内には確かな怒りを込め、呟いた。
「シャイターンのやり口は、相変わらず胸糞の悪い……」
　ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）もまた、それ以外に言葉を紡がない。否、この刃を握り叩き付けるまでは、紡ぐ必要さえないと思っているようだった。
　破壊と略奪を司るシャイターンは、妖精８種族の中でも極めて好戦的な存在だ。彼らがエインヘリアルに従っているのも、所詮は純粋な力の理論によってのことだろう。故に、彼らをこの地より排除するために、必要な手段はただ一つ。
「炎の海を前にして、あらゆるものを奪われて、尚立ち上がれる奴はそういない。……そうだな、目の付け所は、褒めてやる」
　精一杯の皮肉を込めて、かだんは目標を冷たい視線で見据えたまま、一直線に降下した。
　仮に、自分の故郷が山火事になったら、何人かはシャイターンの選定に掛かる者がいるかもしれない。もっとも、それをむざむざ手に掛けさせるほど、こちらも愚かではないと紡ぎ。
「立ち上がる心を利用はさせねえ。人の勇気を、てめえにくれてなんざやるものか」
　徐々に語気が強まるにつれ、グラディウスの輝きも増して行く。それを見たダリルもまた何かを確信し、かだんに続けて飛び降りた。
「貴様らに新潟を蹂躙し、あまつそこの人々を選別する権利などあるものか！」
　命はどのようなものにとっても一つ。そして、それに貴賎などありはしない。勇者にならぬ魂は不要とばかりに破壊を続けるのであれば、こちらにも容赦する道理はなにもない。
「増してデートスポットや住宅地、人々のささやかな幸せを支える地を狙い攻撃するなど非道許しがたい、……否、許さない！」
「人の勇気は、私達地球の財産だ！　ここの雪景色を、人々の笑顔を、返して貰う！」
　二人の刃が障壁に到達した瞬間、先程よりも巨大な爆発が巻き起こり、周囲の敵を吹き飛ばした。サンタクロースの帽子が宙を舞い、敵の翼を形成しているタールが飛び散って行く様を見て、伏見・万（万獣の檻・e02075）はにやりと笑った。
「まァ、俺ァ正義の味方ってェ柄じゃァねェけどよ。祭りでもなんでも、ただ馬鹿騒ぎするンでも……とにかく、楽しみを取り上げられるってェのはムカつくンだよ」
　ここは、お前達のいるべき場所ではない。そして、楽しんで良いのもお前達ではない。それだけ言って、感情のままにグラディウスを叩き付ける。
「だから、好き勝手はさせねェ！　ここは返して貰うぜェ！」
　瞬間、再び周囲を襲う大爆発。徐々にだが、確実に火力が向上している。このまま波状攻撃を続ければ、あるいは破壊も成せるのではないか。そして、そのために必要なのは何なのか、村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）と水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）は、どこか確信めいたものを抱いて飛び降りた。
「勇者がどうとか、ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ！　理不尽な破壊と暴力が行われていい道理があるわけねぇし、それがわかっててなお破壊を続ける所業は、ケルベロス以前に人として見過ごせねぇよ！」
「理不尽に立ち向かう力がない者に、存在価値は無いってか？　勝手に侵略しておいて、勝手に踏み躙っておいて、勝手な事ぬかしてんじゃねぇぞ！」
　話し合いで解決できる相手ではない。頼んだところで退くとは思えず、問い掛けたところで、まともな答えが返って来るとは思えない。
　二人の怒りに呼応するようにして、グラディウスがその輝きを増して行く。問い掛けは時に迷いを生み、懇願や依頼は譲歩にも繋がる。ならば、目の前の相手にぶつけるべき想いは、ただ一つ。
「子供たちに夢と希望を与えるサンタクロースの姿で人間を襲うなど言語道断！　お前はこの街にあってはならない！　さっさと消え失せろ！」
「クサレサンタも、魔空回廊も、ぶち壊して、二度とその口から戯言ぬかせねぇ様にしてやらぁ！　我流剣術、鬼砕き！　ふざけた奴ごとぶち抜けぇ！」
　輝きが頂点に達した瞬間、シャイターンに対する怒りの全てを力に変えて、二人は障壁に迷うことなく叩き付けた。

●獄炎は消えず
　爆風の収まったミッション地域の中枢部。雪が溶けて生まれた霧と共に漂う、炎と煤と埃の匂い。
「失敗、か……。まあ、いい宣戦布告にはなっただろ」
　未だ壊れず、その場に鎮座している光の壁を前にして、柚月は早々に気持ちを切り替えて言った。
　ミッション地域を破壊するのに必要な降下回数は、多めに見積もって10回程度。１回や２回で破壊できることの方が奇跡であり、それだけ強い想いの力も必要とされる。
「おのれ……我らを、この地から排除するつもりか……？　だが、させぬぞ！　破壊と暴力を乗り越えた、勇者として相応しい者の魂を見つけるまでは！！」
　黒焦げになり、折り重なるようにして倒れている偽サンタの山を押しのけ、１体のシャイターンがケルベロス達の前に姿を現した。
　ブラッディクロース。サンタクロースの衣装を身に纏い、この地で無差別に放火を続け、人々の魂を強制的に選定せんと暗躍する存在。
「さァて、メインディッシュか。喰ってやらァ、来やがれ！」
　もはや、問答をする必要もない。相手を挑発するようにして扇を振るい、万は前衛に立つ者達へと破魔の力を与えて行く。同じく、失われた面影を悼む歌を紡ぎ、ダリルもまた戦場へ魂を降臨させ。
「真上が、ガラ空きですよ」
　こちらへ距離を詰めようと、ブラッディクロースが動き出した時には遅かった。
「……ぐおっ！？」
　流星の如く舞い降りた狭霧の脚が、敵の顔面を容赦なく蹴り飛ばす。赤く、足跡の付いた顔を拭って立ち上がるブラッディクロースだったが、入れ替わるようにして振り下ろされた大剣に、文字通り顔面を叩き潰された。
「どうした？　その程度でくたばるはずねぇだろう？」
　頭が地に埋まったままの敵に、かだんが冷たい視線を落とす。さすがに、これは腹に据えかねたのか、ブラッディクロースはプレゼントの入った袋を振り回し、そのままかだんへと襲い掛かった。
「誰にも、私の邪魔はさせぬ！　それがケルベロスであろうとも！！」
　横殴りの衝撃に吹っ飛ぶかだんの身体。見た目こそ単なる白い布袋だが、あの中には何が入っているというのだろうか。
「清らなる風に舞う雪の花！　顕現せよ！　シャインブリザード！」
「かみさまにだって、おわりはくるんだよ……。神々の黄昏はもうおしまい。あとはこの爪痕を、終わった世界を楽しみましょう。何もない世界だけれど、吹雪と酸の雨は大盤振る舞い」
　すかさず、柚月が符を取り出し、刻まれし力を発動させる。同じくロナもまた、世界の終焉を己の魔術によって具現化させて。
「ぐっ……！　こ、これは……！？」
　カードに秘められしは、大いなる雪と氷の力。そして、凍てつく吹雪が吹き荒れる荒野に降り注ぐは、あらゆる物を溶かす酸の雨。
　青く輝く光の剣がブラッディクロースの身体を刻み、付着する氷雪が視界を奪って行く。その隙を逃さず、鬼人が空の霊力を纏った太刀で斬り掛かったところで、シェスティンは桃色の霧を展開して、かだんの体勢を立て直させた。
「こっからが本番だぜェ……。欠片も残さず、喰ってやるから覚悟しな！」
　中指を突き立て挑発する万の言葉に、ブラッディクロースは何も返さなかった。
　その淀んだ瞳に映るのは、激しい敵意。深淵よりも深く、全ての光を吸い込まんとする黒き色の中に悪意を乗せて、再びケルベロス達へ向かい襲い掛かって来た。

●正しき憎悪
　炎に包まれた街の中。激しい応酬を続けるブラッディクロースとケルベロス達であったが、やはり数の差は隠し切れなかった。
　どれだけ叩かれようと、燃やされようと、ケルベロス達はその度に立ち上がり、ブラッディクロースへと向かって行く。時に仲間を庇い、時に自らの身を顧みず仲間を癒し。その様は、果たして皮肉にもブラッディクロースの求めて止まぬ、『勇者』の名に相応しい者であった。
「潰えて、終え」
「謳え雷、地に響け」
　絶対零度の凍気を纏ったかだんの拳。空気を震わせ地の果てまで響き渡るダリルの雷鎖。その二つを身に受け、氷雪と閃光の中に飲み込まれて行くブラッディクロースへ、ロナが大鎌を横薙ぎに投函し。
「あなたに……そのふく、にあわないっ……！」
　回転する刃が、赤いサンタクロースの衣装を引き裂いて行く。だが、それだけでは終わらず、続けて仕掛けたのは万だった。
「さァ、刻んでやるぜェ！」
　殺到する幻影の獣。それは刻まれた傷を目敏く見つけ、抉るようにして牙や爪を突き立てて行く。元より、多数を相手取るための技。威力の程は期待できないが、しかし嫌がらせとしては十分だ。
「どれほど頼んでも、無駄、なのですね……」
　あくまで戦うことを止めず、退くことを好しとしないブラッディクロースの急所へ、シェスティンが痛烈な一撃をお見舞いした。胸元を押さえ、思わずよろめいた偽サンタへ、柚月と鬼人が距離を詰め。
「夢も希望もないサンタは滅するまでだ。時期外れの迷惑な輩には、そろそろ退場してもらおうか」
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ！」
　斬り上げ、横薙ぎ、そして袈裟斬り。鬼人が繰り出す三重の刃に翻弄されしブラッディクロースへ、柚月は狙いを定めて鉄杭の一撃をお見舞いする。
「ぐほぁっ……！？」
　胸板を貫かれ、敵の背に生えているタールの翼が汚らしい音を立てて飛び散った。だが、満身創痍でありながらも、敵は未だ倒れることはなく。
「ふ……ふふ……。素晴らしい！　素晴らしいぞ！　お前達こそ、私の探していた『勇者』に相応しい！」
　だから、今すぐその高潔な魂を寄越せ。それだけ叫んで、ブラッディクロースは最後の力を振り絞り、袋の中に入っていたプレゼント型の爆弾を放り投げた。
「……っ！　しまった！？」
　敵の狙いは、前衛ではなく後衛。庇いに入ろうとしたダリルやかだんの横を刷り抜け、それは狭霧へと直撃し。
「ふふふ……ははははっ！！　まずは一人ぃぃぃぃっ！！」
　命の灯が消えんとしているが故の、苦し紛れの錯乱か。焦点の合わぬ瞳で高笑いを続けるブラッディクロースだったが、果たしてそんな彼の首は、爆風の中から飛び出して来た一閃によって斬り落とされた。
「……甘く見ましたね」
　擦れ違い様、敵に冷たい視線を向けて、刃を納めた狭霧が静かに呟く。ただ、恐ろしいまでに鋭いだけの、それ故に強力無比な斬撃にて、破壊と略奪の権化である偽サンタを一刀の下に斬り捨てた。

●砕けぬ心
　戦いが終わった街の中。立ち昇る火の手は止むことはなく、徐々にだが確実に爆発や悲鳴がこちらへと近づいて来る。
「新たな敵が、こちらへ近づいているようですね」
「これ以上、ここに留まるのは危険だな……」
　狭霧の言葉にかだんが頷き、他の者達も速やかに撤収の準備を始めた。本当は、火災の一つでも鎮めて行きたい心境だったが、そんなことをしている暇さえも、今は惜しかった。
「なぜ……あのひとたち、うばうことしか……できないの？」
「仕方がありません。それが、今の彼らに課せられた、デウスエクスとしての使命なのですから」
　元は同じ妖精族。ロナの問い掛けに対し、諭すようにして答えるダリル自身もまた、複雑な気持ちを抱いていることに変わりは無い。
　だが、それでも前に進み続けなければならないのだ。今は破壊できずとも、いずれは必ずこの地を開放できると信じ。そのためには、これからも地道な人海戦術によって、この地域に蔓延るシャイターンを潰して行くしかない。
「解放されるその日まで、戦いをやめる訳にゃいかないからな」
　赤く、炎の色で染まる街を背を、鬼人は振り返ることなく後にする。それに続く他の者達も、言葉には出さなかったが解ってはいた。
　抗い続けることこそが、今の自分達にできる最大の抵抗。喩え、街を100回焼かれようと、100回治してやるくらいの想いが、いずれは強襲型魔空回廊を破る力になると信じて。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年1月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。