遠赤外線物語

作者:宮内ゆう

●真なる拳
 戦いは守りが肝要だ。
 如何に強い力を持とうとも、守りが薄ければ思いの外あっさり破られてしまうものだ。
 勝敗そのものよりもまずは生き延びること。
 そうすればいずれは堅実な勝利を得ることが出来る。
 人生とは生き延びた者こそが勝者なのだから――。
「それを体現するのがこの姿だァーッ!!」
「おもしろい、その武術見せてみな!」
 ひとり用こたつを背負った男がドリームイーターに向かっていく。
 そう、彼は信じて止まない。こたつこそが最強の防具であると。
 外敵から守り、寒さから守り、己が心さえ守ってくれる、それがこたつなのだ。
 だがしかし、その力はドリームイーターに及ばず、男は膝をついた。
「グゥッ、さ、寒い、だと! ばかな、何が起きている……」
「……それじゃあ、僕のモザイクは晴れないなぁ」
 ドリームイーターが男に鍵を刺した。
 すると男が倒れ、新たなドリームイーターが生まれたのだった。

●こたつといきる
 武術を極めようと修行している武術家がドリームイーターに襲われるという事件。
「まぁ、いろいろと言いたいことはあるんですが」
 ヘリオライダーの茶太は目頭を押さえた。
「何しろ、こたつ背負っているのに立ち上がったら寒いに決まってるでしょう」
 お腹が弱点。
 さて、今回の事件の発端となったドリームイーターはすでに姿を消しているが、こたつ男から生み出されたドリームイーターが、人里に向かい暴れようとしているらしい。
 問題はこのドリームイーターが男の考えていた武術を十分に使いこなすという点。
 一体どんな仕上がりになっているか見当もつかないが、油断できない相手であることは間違いない。
 男がいたのは廃工場。敵はただ1体。
 今からすぐ行けばドリームイーターとその場で遭遇出来る。
 いちおう武術家なだけに戦いの場を用意してやれば向こうから戦いを挑んでくるに違いない。
 人目にもつかないので、周囲の状況を気にせず戦って構わないということだ。
「ていうかコレ、工場の電源が生きているってことですかね……」
 謎は深まるばかりだ。
 だがしかし、ここで思いついたかのようにセティが言う。
「ちょっと聞いて下さい! こたつに湯たんぽ入れると電気なくてもあったかいです!」
 彼女もまた、こたつの魔力のとりこであった。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)

■リプレイ

●誘惑の地平
 それはそれで何ともシュールな光景だった。
 工場が稼働していた頃はあったであろう機材などがすべて撤去され、広々としてなにもない空間の中心に、ただこたつがある。
「んー、こたつか。アタシあんま好きじゃないんだよね」
 遠巻きに眺めながら颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)は肩をすくめた。ライドキャリバーのちふゆさんが、そうなの? とでも聞かんばかりに振り向く。
「入ると抜けられなくなるし、たぶんあれ悪い忍者……」
「もしかして世界征服を目論む地下組織の」
 なんか言いかけたアホ毛を掴んでもふっとしたたてがみの中に投げ込んでおいた。
「……が考案した足止め用の罠だよ罠」
 それ一周回って大好きなんじゃないかと言いたげなちふゆさんだったが、とりあえず黙っておくことにした。
 しかし、やや言い回しが遠回りなものの、こと戦闘においては極めて真っ当な発言である。こたつの誘惑に負けて戦えないとなっては本末転倒なのだ。
 だというのに明らかに本気な人たちがいた。
「こたつを愛さぬ自宅警備員がいるでしょうか、いえ、いません! 半纏、リモコン、そして猫!」
 えんじぇりっくな半纏をたなびかせ、テレビやらDVDやらのリモコンを構えて華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)がポーズを決めた。アナスタシアさんはもう丸まってる。
「今日の私はアクセまで整えてやる気まんまんです!」
「あ、ちょっといいですか」
 セティ・フォルネウス(オラトリオの鹵獲術士・en0111)が挙手した。
 ちなみに彼女、エルトベーレとこたつに入り、ポンデリングのもちもち度指数についての大事な議論をしていたはずだが、こっちの話も聞いていたらしい。なお、用意されたオレンジピール入りドーナツは何故か1個しかなかったので、セティが食べた。おいしかった。
 こたつの上にはとりでありながらお腹を膨らませてひっくり返りげっぷまでしてるリヒトさんの姿があるが、事件との関連性は不明である。
「まあ、いろいろとつっこみたいところはあるんですが、遺骸を包んでいた布で作ったこたつ布団に入るのはイヤです」
「うわそれキモっ……じゃなくて、入りませんよ!? こたつは敵ですし!」
「ならなんで持ってきたんですかねぇ……」
 当然の疑問を結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)が口にする。
「あとちょっとたてがみ引っ張るのやめてもらえませんかねぇ」
「わーいですーぐいぐいー、あ、どーなつのチョコがついちゃいました」
「ねえ降りて!? いますぐ、お願い!!」
 リリウムさんが自由すぎる。それにしてもこの人たち登場するだけで話が脱線して辛い。
 ともあれレオナルドもしっかりこたつを持参してる。
「コレが俺の重武装モードだ! こたつ聖拳で決着をつけてみせよう!」
「あ、それ知ってます~。真拳には絶対勝てないんですよ~」
「そんなこと言っちゃダメッ!」
 鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)がネタバレしちゃったので思わず警告。ライオン吼える。
「おこた~、おこた~。怒りました~?」
「とぼけつつこたつに入ってきてます!?」
 ちゃっかり侵入。
「はぅ~、ぬくいですねぇ~」
「な、なんて温かそうな……ちょっと私も入ってみて良いですか?」
「どうぞどうぞ~、みかんもありますよ~」
 尋ねておきながら返事を待たずに幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)が潜入。なんか紗羅沙が仕切ってるような気がするのは気のせいか。
「だいぶ混み合ってきたが、わらわもちょっと入ってみたいのう」
 もぞもぞ。
 この流れに乗るしかない、ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)もやってきた。
「それにしても驚いたのう。こたつで戦うなど正気の沙汰ではないと思っていたが、味方でもいたとはのう」
「イヤちょっと待ってください、そここたつじゃなくてたてがみ!」
「なにやら眠くなりそうです! これがこたつの魔力……」
「うむぅ……出たくなくなる気持ちもわかるのじゃあ……」
 もうダメそうな鳳琴とララ。いつにないケルベロスの危機に、さすがの雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)も戦慄を覚えたようだ。覚えつつもこたつに入ってる自分がいる。
「なんて自由な……」
「自由? いいえ、少し違いますっ」
 その言葉を待っていたと言わんばかりに芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)が指を突きつけた。
「こたつは世界遺産! そんなこたつに真剣に取り組んでいるのであれば、まずはそれを理解しないことには戦いになりません! すべては真髄に至り勝利を得るため……」
「そっかー、そうなんだねぇ……」
 りぼんの話に耐えられず、意識が混濁していく最中、シエラはこたつって自然遺産なのか文化遺産なのかを考えていた。

●戦いの凱歌
 しばらく時間が経過した。
 ちふゆさんにのってミニツーリングに出かけてきたちはるが帰ってきた頃、ケルベロスたちはようやく我に返った。
 こんなに長時間放置してドリームイーターは移動してしまったのではないかと危惧したところ、その通りであった。移動した距離は1メートルほどだが。
 これ以上動く前に戦いにもっていかねばなるまい。
 敵を戦いに導く場へ持っていく、そうすべく皆知恵を絞り始める。
 ドリームイーターなんだからなにも考えずにただ戦おうとすればいいんじゃないかなーとセティは思ったが、せっかくがんばるところ水を差すのも悪いので、ハイルさんの前足を指でつついてじゃれ合うことにした。意外と付き合いの良いハイルさん。
 なんでかエルトベーレが悔しそうにルシエドをもふもふし始めた。
「なによりこたつを剥ぎ取らんとならんかのう」
 ララの意見。こたつがあるから動けない、体感済みだ。
 というわけでドリームイーターに近づく。
「わらわもこたつがほしいのう。便利そうじゃがくれぬかのぅ」
 ストレートすぎるお願い。
「ダメだったのじゃ」
 すごすご帰ってきた。
「むむむ……やはり相手のやる気を起こさないといけないようです……!」
 真剣な表情の灯だが、そんな顔してるときはたいていロクな場合じゃない。すでに意を得ていたと思われるりぼんが敵こたつを中心に石灰で正方形のラインを引いているのだが、どこから持ってきたのやら。
「準備OKですよーっ」
「ありがとうございまーす!!」
 ふわりと飛び上がり、こたつの前に着地。さながら武道大会の試合場に降り立ったかのように。
「今日の私はそう、こたつの自堕落天使……はっ、いけない、危うくこたつにはいるところでした!」
 お前はすでに入っている。
「こうなったら俺が行くしかありませんね」
 ずいっとレオナルドが試合場の真ん中までやってきた。
「俺は百獣の王! 退かぬ! 媚びぬ! でもちょっとだけ省みます」
 ぽんぽんとお腹の湯たんぽを叩く。
「あ、帝王に逃走は無いんですけどちょっと予備の湯たんぽと交換しててきます」
 何しに前に出てきた。
「やる気ですねぇ~」
 ライオンさんが下がるのに合わせて、紗羅沙がみかんとアイスを持ってきた。
「こたつにはアイスにみかんです! さぁさぁ~、こたつを極めしものなら、定番アイテムなくして語れませんよ~」
 こたつから手が出てきた。アイスとみかんを回収した。反応はない。
「奪われてしまいました!」
「いや、甘やかしちゃダメでしょ。ちゃんと厳しくしなきゃ」
 厳しい言い方で返すちはる。彼女ははっきり言ってのけるらしい。
「こたつさーん! 盗電で訴えていいですか無職のこたつさーん!」
 辛辣すぎる呼びかけ。
「無職の!!  無職のこたつさーん!!」
 これぞとばかりに無職を強調する。
 だが、長年ニートとして親に寄生し続けてきた無職こたつにいまさらそんな言葉は通じなかったようだ。
「くっ……!」
「もうこうなったら力尽くでこたつを引き剥がしてやる……!」
 ようやくその考えに至ったシエラが駆けた。引き剥がすなんて生ぬるい話じゃない、最初から攻撃を叩きつける算段だ。
 そうして武器を構え踏み込んだところで、コードに足を引っかけた。
 派手にすっ転んで一回転、背中から地面におちて、思わずもんどり打って転がる。
「ぐえー。い、今のやりなおし!」
 テイク2を要求。応じた鳳琴がささっとコンセントのところまで移動した。
「危ないから抜いておきましょう。差しっぱなしは火事のもとですしね!」
 すこん。
 しかし、直後に異変は起きた。今まで動かなかったこたつがガタガタと震えだしたのだ。
「こたつの、電源を……切ったのは……」
 こたつに足が生えたかのように立ち上がる。
「貴様らかあああ!」
 ようやく、ドリームイーターが戦闘の意思を見せたのだった。

●目覚めの時
「ルシエドさん、はんぶんあげますですー」
 リリウムがルシエドにドーナツあげた。でも半分じゃなくて3分の1だった。ルシエドは3分の2の方を食べた。
 さて、怒りにまみれたドリームイーターはその攻撃性を露わにしたことで、ケルベロスたちと派手な攻撃の打ち合いをはじめた……などということはなく、当初の想定通り守りを固めてきた。
 つまり敵の反撃は薄く、如何に固いといえど時間をかけさえすれば追い詰めることができたわけである。
 というわけで、敵の攻撃が多くなかったため、ルシエドもさしたる怪我をせずに済んだということ。何もかもが順調である。
 ララが手をかざすと、こたつの足下から炎が立ち上る。明らかに玄人的な反応を見せてすかさず回避運動を取るこたつだが、思うように動けず炎の直撃を浴びた。
「う、う~む……こやつ、普通に戦った方が強いんじゃないかのう。そもそもロクに攻撃してこんし」
「根性ありますね~」
 ちゃっかりいそいそ縄で縛りつつ紗羅沙が答える。
「うむう、この期に及んで戦闘スタイルを変えぬとは」
「5分以上経つのにまだ動いてます~。最終決戦兵器ならもう止まってます~」
「そっち!?」
 ここまできたら、なんとしてもこたつをひっぺがえしたくなるのが人情というもの。
 シエラが深く深く踏み込んでいく。それは相手の必殺の間合い。敵の一撃を至近距離で回避し、その隙に致命の一打を叩き込む。まさに博打でしかない彼女の奥の手。
「……」
「……」
 しかしこたつは攻撃してこない。
「あたたたたたー」
 至近距離の致命の一撃(たくさん)はすべて命中した。致命なのにあんまりダメージなさそうなのがくやしい。
「くっ、やはりカウンターを乗せなければ!」
「こうなればこちらが防御策を取るなど無意味、やはり退かぬ、媚びぬ!」
 なんか十字のポーズで高く飛び上がったレオナルドが雷を纏ってこたつに突進していく。
「いまだけちょっとこうあんまり省みない感じで!!」
 雷を伴った突進の突きがこたつにい打ち込まれる。
 ぴしり、と音がした。
「これは……やはり今までの攻撃は無駄ではなかったということ!」
 鳳琴が構え直す。次の一撃こそ現状を打開するものになると確信して。
「八極拳系幸家が宗主、幸・鳳琴―……参りますっ」
 六芒より炎溢れんばかりに光が輝く。狙うは、皆で攻撃し続けてきた天板の一点。
「これが、絆の力です――いざっ……! 砕けろぉぉおっ!」
 増幅だけでなくさらに軽く跳ぶ。回転の遠心力と重力までも加えて振り下ろす拳の威力はこたつを越えて地面へと響き、押し込まれた熱が生み出す炎が、まるでマグマのように一帯に噴き出した。
 拳で叩きつけられて、噴き出す炎に押し上げられ、如何にこたついえど耐えられるものではないはずだ。だが。
「うそ……」
 地を這う炎の中で、こたつは立ち上がった。
 これほどの威力でもなお、こたつは打ち砕けないというのか。誰もが絶望に囚われそうになったとき、ふわりとアナスタシアさんがこたつのそばに降り立った。
 ねこぱん。
 ぺしぺし。
 ぱかーん!
 こたつの天板が割れた。先ほどの攻撃でもう破壊されていた、そういうことなんだろうがおいしいとこ持ってかれた気分。
 そしてついにドリームイーター本体の姿が明らかになるかとおもいきや、敵はこたつ布団だけでもくるまって出てこようとしない。
「往生際が悪いですよ!!」
 防御が崩れたのであれば、あとはとどめを刺すだけ。だがそれでもやはり道は切り開かねばならないのだ。
 りぼんが腕を振った。
「これが、これこそが今のあなたに相応しい――ッ!」
 水平0度、感覚が揺らぐ。平たくいえばただの脳天チョップ。だがそれが怖ろしい、源泉たる欲望さえも渇望するというのなら。
「う……ああ……」
 ぐらりとこたつ布団の姿が揺らぐ。
「あつい……!」
 ドリームイーターはこたつ布団を脱いで地面に叩きつけた。まあ、周囲燃えてるし当然。
「あなたは強かった。ただ姿を見ることさえ、ここまでしなければならなかった」
 炎の向こうにみかん食べてる灯の姿が見える。
「きっと……こんな出会い方をしていなければ、私たちはわかり合えたのかもしれません」
 一歩、一歩、みかんを噛みしめて前に進む。
「でも、だからこそ終わらせます。この戦いに決着をつけて、すべてのこたつの悲しみを!」
 飛んだ。ただ真っ直ぐ、前に、さながら飛び込んでいく燕のように。
 武器を構える。あ、でも今日まともな武器っぽいの持ってきてなかった。もうスマホでいいや、適当な攻撃方法も思いつかないし、とりあえず殴る。あとみかん食べる。
 物理的な一撃が炸裂して、振り抜ける。
 しかして崩れ落ちたのはみかん食べてる灯だった。
「うう、できない、私には分かり合えたかもしれない相手を手にかけるなんて……!」
「……? ん、あ。あー」
 しばし考えこんだ後、何か理解したかのようにちはるが声をあげた。
「ミスしたんならそう言いなよ」
「ひぃっ、すみません!」
 めっちゃ睨まれた。こわい。みかん落としそう。
「あーもう、なんだかなぁ。ちふゆちゃん、あとよろしく」
 まさかの丸投げ。
 でも命令には慣れたもので、ちふゆさんはありったけの加速をかけてドリームイーターにつっこんだ。
 ドリームイーターは轢かれた。

●主の帰還
 無事にドリームイーターを倒すことが出来たものの戦いは熾烈を極めた。
 疲れて仕方ないのでみんなでまたこたつで落ち着くことにした。
「これは隙を見てみかんを食べてた私の大活躍ですね、私もいっしょにぬくまりましょう!」
 まだみかん食べてる灯が言う。
「って、あれ……?」
「今回9人なんですよね。こたつは基本4人用なんで、1人あぶれるんです」
 セティが何か説明を始めた。
 なお、リリウムはたてがみに住んでるし、エルトベーレは何故かふてくされてルシエドをもふもふしっぱなし、でもちふゆさんがかばったのでそっちもふもふしてる。ミニこたつはアナスタシアさんがすでに占拠している。
「つまり、私には入る隙がないということ!?」
 絶望した。
 えんじぇりっくなんとかさんならまぁ絶望しても立ち直るから大丈夫だろう。
「そんなことより~、セティさんに伝えたいことが~」
「なんでしょう~?」
 紗羅沙がぐでっとしながら話し始めたのでなんかつられてぐでっとしてしまう。
「行きつけのドーナツ屋のクローバーなんですが、とても素敵なんです~」
「それは~……行かねば」
 いきなり目つきが本気になった。ドーナツはガチ。
「とりあえずさっき鹵獲したドーナツ食べましょう」
「いいですね~」
 今さらどこからとかいわない。でも目の前に出てきたドーナツを見て、シエラはやや暗い顔を見せた。
「どうしたんですか? みかんとグレープフルーツ間違っても大丈夫ですよ?」
「それ暴露するの!?」
 間違って持ってきてた。
「そうじゃなくて、ゴロゴロしながら食べるのは好きだけど、その、ちょっと、ね」
「くっちゃねしてたらだんだんお腹でてきて、ベルトの穴がまたひとつ、とかですか」
「だから暴露しないで!?」
 セティおそろしい。
「じゃあ、シエラさんの分はわたしがもらうとして」
「おぉい!」
 りぼんが強奪した。
 アナスタシアさんをねこじゃらしでちょっかいかけようとしてたけど、寝ちゃっておもしろくなかったから仕方ない。
「ところで結城さんはこたつで丸くなるんですか?」
「いやなりませんよ。というかそんなスペースないでしょう」
 そんなこといいながらレオナルドはアイスをなめていたりする。これもまたこたつの醍醐味。ただし暖房の効いた部屋に限る。
「寒い」
 流石に暖房は入っていない。
「確かにこの場は寒いんですよね」
 こたつ布団にくるまりなおして鳳琴は何事か考え出した。
「そもそもなぜこんな寒いところで修行を……?」
「寒いときにこたつに入りたくなるのはわからんでもないのう……ん?」
 ララが何かに気付いたようだ。
「そういえば、今の時期はわかるが……夏場とかはどうなんじゃ。もしかして冷たいこたつなのかのう」
「はっ、そうして体温調節すれば常にベストコンディションで戦える……こたつ真拳の極意はそこに!」
「ないとおもうがのう」
 こたつのせいで、まともに頭が回ってないのかもしれない。もう休んだ方が良い。
 そう思ったころ、ようやく被害者の男性が起きてきた。
「これは一体……」
「おはよう。ひとまず怪我がなくてよかったよ。それと、プレゼントね」
 男の無事を確認すると、ちはるは1冊の雑誌を投げ与えた。
「働け」
 どうやら、悪夢は終わらないようだ。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 5/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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