●とある少女の憂鬱
冬の早朝、バレンタインがそろそろと迫る、とあるマンションの一室にて。
「駄目よ、こんな味じゃ!」
女子高生と思しき眼鏡の少女が、自宅のキッチンで頭を抱えていた。彼女の悩みは至ってシンプル。彼氏に手渡すチョコが、うまく作れないのだ。
「わたし、どうすればいいんだろう……」
少女は頭を抱えてしまった。自覚こそないが、彼女は犯罪的なメシマズであった。
一昨年は、痺れるような愛を伝えようと、ウスターソースを一瓶混ぜたチョコ。
去年は、決して溶けることのない想いを伝えようと、釘を打てるほどカチコチに凍らせたチョコを贈った。その後の顛末は思い出したくもない。
今年がダメだったら、彼氏に愛想をつかされるかも――そんな恐怖が脳裏をよぎる。
「わたし、どうして変なチョコしか出来ないんだろう」
当然といえば当然だった。
彼女のメシマズたる所以は、『チョコの作り方を知らない』ことにあるのだから。
ネットや本のレシピを参考にしようかとも思ったが、それでは誰かの二番煎じになってしまう。そんな思いが枷となり、未だに彼女は我流の域を抜け出せていない。
(「美味しいチョコを作れるクラスメートの子は、たいてい秘伝のレシピを持ってる。素材の選び方だったり、隠し味の使い方だったり色々だけど……」)
シンクのゴミ袋にドス黒いチョコの塊を積み上げて、少女は憂鬱そうに溜息をつく。
今年こそ、彼の笑顔を見たい。そのためには、何としても秘伝のレシピが欲しい――。
「美味しいチョコの秘伝レシピが欲しいなあ。私もレシピさえあれば……えっ!?」
その時、少女は見た。
キッチンの向こう側で、孔雀の姿をした天女が微笑みかける姿を。
それと同時に、少女の世界は明るい光に包まれた。
「そうよ! クラスメートの子を殺しまくって、レシピを片っ端から奪えばいいんだわ! どうして気づかなかったのかしら!」
ビルシャナと化した少女は、玄関のドアを一撃で叩き壊し、学校へと走っていった。
●兵器と書いてチョコと読む
「いるよなー。情熱的でアグレッシブだけど、突き進むベクトルが完全に間違ってる奴」
あきれ顔で肩をすくめるケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)の言葉を、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が継いだ。
「集まってくれてありがとう、だよ! ビルシャナ菩薩『大願天女』の影響で、女の子がひとり、ビルシャナ化しちゃうみたいなの!」
被害者となるのは、都内のとある高校に通う女子生徒だ。
恋人に送るチョコが上手く作れない。自分だけの最高の一品を贈りたい……そんな純粋な願いを大願天女につけこまれてしまうのだという。
「天女の目的は、人間のグラビティを奪うことだよ。だから『生徒を殺してレシピを奪う』ことが、『願いを叶える最も素晴らしい方法だ』って女の子に刷り込んじゃうの」
少女はビルシャナ化したばかりで、本来の願望を歪めて叶えられているため、説得で人間に戻すことができる。その場合、憑依したビルシャナは力を失い、戦いも非常に楽になる。
「ビルシャナ化した女の子を説得する方法は、全部で3つあるよ。えっとね……」
1つ目は、願いを叶える――美味しいチョコを作り、そのレシピをプレゼントすること。
2つ目は、少女が考えついた手段では、願いを遂げられないと証明すること。
3つ目は、『秘伝のレシピがほしい』という願望そのものを否定すること。
このどれか一つを達成できれば成功だ。完全な説得に至らずとも、心に迷いを生じさせられれば、大願天女の祝福から解き放たれ、人間に戻ることができるらしい。
「説得の方法は、それぞれ自由に決めて構わないよ。ただし説得の最中もビルシャナは普通に攻撃してくるから、何人かは抑え役に回った方が作戦もスムーズに進むと思うよっ!」
ビルシャナは岩石をも打ち砕く氷結チョコや、発火性のある爆発チョコを投げて攻撃するほか、食べると猛烈な眠気に襲われるチョコを口に詰め込むなどして攻撃してくる。
現場はマンションの一室。少女の両親は仕事で外出しており、周囲に人はいない。動き回るスペースも確保されているので、立ち廻りに支障はないだろう。
「願い事を叶えるために、他の人を悲しい目にあわせるなんてダメなんだよ。天女に唆された女の子を、どうか助けてあげて。頼んだよっ!」
参加者 | |
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古海・公子(化学の高校教師・e03253) |
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259) |
風魔・遊鬼(風鎖・e08021) |
リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609) |
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744) |
猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454) |
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079) |
ケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570) |
●殺してでも欲しいもの、ありますか?
ヘリオンを降下して歩くこと数分、ケルベロスは現場のマンションに到着した。
出勤や通学の時間帯を微妙に過ぎたせいか、建物に人の気配は感じられない。棟の上階、ひとつだけ動いている換気扇からは、焦げたカカオの匂いが微かに漏れていた。
「チョコのレシピを求めるあまりビルシャナ化した少女……か。悪い子じゃなさそうだし、元に戻してやりてーよな」
頭の後ろで手を組んだケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)が呟く。
特別な相手のためにオリジナルのチョコを贈りたい。そんな少女の心境は、芸術家であるケースケにはよく理解できた。
「大切な人を想う気持ち、人に喜んでもらいたいと想う心。それを利用するだなんて、絶対に許せません!」
静かな足取りで門扉をくぐる猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)の声は、小さく震えている。
大願天女にそそのかされビルシャナ化してしまう程に、少女の想いは強かったのだろう。純粋な願いを弄んだ天女の行為に、愛楽礼は強い怒りを覚えているようだ。
それとは対照的に、上下ジャージに銀髪ポニーテールという出立ちでキラリと笑うのは、レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)だ。
「キュッキュリーン♪ レピちゃん、お料理は溶かした板チョコを固めるだけですけど! 人助けならお任せです!」
だが、弾んだ口調とは裏腹に、その瞳の奥には強い決意が見て取れる。この事件、絶対に悲劇では終わらせない――そんな決意が。
「喜んでほしい気持ちは分かるけど、ね……。私は美味しくないチョコは遠慮したいわね」
コツコツと御影石の階段を上がりながら、リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)が小さく溜息をついた。
どんなに想いを込めても、届かなければ意味がない。それは少女と彼氏どちらにとっても同じくらい辛いことだ。だからこそ、リリスは思う。
「素敵なチョコを作れるようになって欲しいわね、その子には」
いっぽう仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)は、先ほどから説得の方法をあれこれ考えているようだった。
「お料理はまず、手順や分量を正しく守るのが大事だと聞いたことがあります。レシピ通りに作れば、美味しいものは出来るとは思いますが……」
「レシピ……ですか。私の場合は、料理が苦手なのですが……」
かりんの言葉に古海・公子(化学の高校教師・e03253)が眼鏡の奥でそっと目を伏せる。小数点以下の値まで正確に計量しなければ気が済まない公子は、料理自体に苦手意識を持っているようだ。
「千里の道も一歩よりって言うしねぇ。最初から満点を目指そうとするのが問題さね」
名物に旨い物なしともいうけど、それはそれ……普段通り飄々とした言葉を呟きながら、三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)が部屋へと続く階段を昇ってゆく。
「アタシらが教えられるのは、赤点取らないところまで。その先は自分で決める事さ」
そうこうするうち、ケルベロスは部屋の前に到着した。
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)がチャイムを鳴らすも、反応はない。
程なくして派手な破壊音と、熱狂に浮かされた少女の叫び声がドア越しに聞こえてきた。
一刻の猶予もないようだ。ケルベロスは一斉に室内へ突入した。
「キュキューン♪ ヴァルキュリ星人のレピちゃん、ここに参上!」
玄関口を突き抜け、居間へと辿り着いたケルベロスを出迎えたのは、スカートとブレザーから羽毛をはみ出させたビルシャナ少女だった。
『何よあなた達! 私のチョコ作りを邪魔する気なの!?』
「『邪魔しに』じゃねー、手伝いに来たんだぜ。ただし――」
オウムを思わせる甲高い声に、ケースケは愛用のペイントブキを構えて答える。
「あんたにクラスメートを殺させずに、だ!」
『邪魔しに来たんじゃない! 私は、秘伝のレシピで、彼に美味しいチョコを作るのよ!』
敵意を漲らせる少女に、レピーダは愛用傘『カサドボルグ』の先端をピシッと向けた。
「レピちゃん達はケルベロス! あなたの悲劇、キュキュッと解決しちゃいます!」
次いで、傘の先端を天井へと向ける。
それが指し示すのは、マンション上空をはるかに超えた、宇宙の彼方だ。
「これより輝くは、正しき願いを叶える一番星! 燦々と、今!!」
『ふざけんな! あんたたち全員、新作チョコの実験台にしてやる!』
奇声を上げて襲い来るビルシャナ少女を、地獄の番犬達が迎え撃った。
●チョコ菩薩、荒れ狂う
「恋人に贈るチョコを作るためには、秘伝のレシピが必要。それがあなたの考えなのね」
ライトニングロッドを構えながら、公子はビルシャナ少女の動機に理解を示した。
高校教師でもある彼女は、年頃の少女の想いを頭ごなしに否定せず、その上で断言する。
「レシピに秘伝はありません」
そして話す。美味しいチョコを作るのに必要なのは、もっと別のところにあると。
「物事には法則があるのです。1気圧下における摂氏温度の沸点と氷点が不変なのと同じ。料理だって、その延長線上に存在するのですよ」
返答代わりの爆発チョコから遊鬼を庇い、ライトニングウォールで生成した雷の壁で炎を振り切りながら公子は続けた。
「レシピを作り上げたのは、先人たちによる試行錯誤の蓄積の結果。それを無視して新たな発見はあり得ませんよ」
厳しくも優しい公子の言葉。いっぽうのビルシャナも、憎悪も露わに負けじと言い返す。
『そんなの分かってるわよ! チョコをバーナーで炙ったらダメなこともワサビを入れたらまずいことも、全部試行錯誤で学んだんだから!』
「そりゃ苦労したねえ。でもアンタは、彼のために美味しいチョコを作りたいんだろう? だったら、まずはレシピ通りに作ってみることだよ」
弾幕のごとく飛んでくるチョコを刀で斬り払いながら、千尋はビルシャナに語りかけた。
「店のお菓子が何で美味しいかわかるかい? それはレシピ通りに作ってるからさ。土台もなしに、柱や屋根のデザインにばかり拘っても、家は建たないだろう?」
「その通りよ。誰かの秘伝のレシピを奪ったところで、それは単に『誰かのレシピ』。貴女のレシピじゃないわ」
ステップを刻む足取りでチョコ弾幕をかい潜りながら、リリスが千尋の会話に加わった。妖精弓から放たれる牽制のホーミングアローが、ビルシャナを壁際へと追い詰めてゆく。
「自分の作ったチョコで、好きな人を喜ばせたくないの? 秘伝のレシピが欲しいのなら、まずは基本のマスターからよ。そうすれば、貴女にも美味しいチョコが作れるわ」
「そう。まずは土台を建ててみなよ。美味しいってのは、その結果に過ぎないのさ」
『う・る・さああああいっ!!』
居間の家具を派手に吹き飛ばして、ビルシャナは催眠チョコを手に突進してきた。標的となったかりんは咄嗟に直撃を避けるも、破片が僅かに口の中へと入ってしまう。
「ふむむ、眠くなんかないです!」
目をこすり、猛烈な眠気に必死で抵抗するかりん。その時彼女は、ビルシャナの輪郭が微かに発光していることに気づいた。
(「あの光は、一体……?」)
しかし当のビルシャナは、自らの異変にまるで気づかぬ様子で、ますます頑なに持論を喚き立てる。
『美味しいチョコがあれば、彼は喜んでくれる! そのためには、秘伝のレシピが――』
「さっきから聞いてりゃさー、お前、根っこの部分で勘違いしてね?」
チョコレート色の絵具で描いたラクガキをビルシャナへと飛ばしながら、ケースケが会話に割り込んだ。
「美味しければ嬉しいはずってのが、そもそもの間違いなんだよ。男って生き物はな、どんなに平凡でも、手作りの本命ってだけで嬉しいんだよ!」
「確かにね。味だけにこだわったのでは、本末転倒だわ」
「味が平凡なら演出で勝負すればいいじゃねーか。ラッピングだって、手紙だって、いくらでも工夫できるだろ! そんなチョコ贈られてみろ、そこまで俺のために練習してくれたのかって好感度MAXだぞ! マジで!」
熱弁を振るうケースケ。頷くリリス。かりんは黄金の果実で仲間達の傷を回復しながら、ケースケの背中を尊敬のまなざしで見つめた。
「そうなんですか……シャイニングさん、凄い物知りですね。きっと、いっぱい本命チョコを貰ってきたんですね」
「ぐぬっ……あ、あたりめーだろ!」
何故かたじろぐケースケ。その一方で、ビルシャナは頭を殴られたようによろめいた。
『手作りの本命というだけで……嬉しい……? う、嘘……嘘よ!!』
「いいえ、本当です!」
飛びかかろうとするビルシャナの脚を、手加減気味のスターゲイザーで縫い止めながら、愛楽礼は畳みかけるように続けた。
「世間での1番よりも、相手にとってのナンバー1を目指す方が、良いと思いませんか?」
『私は秘伝のレシピが欲しいのよ! 欲しいったら欲しい!!』
「そうですか……貴女の気持ちは分かりました。では、これでどうでしょう?」
『そ……それは!!』
愛楽礼が掲げるラッピングチョコレート、その包み紐に括り付けられた小さな紙切れに、ビルシャナの視線は釘付けになった。牽制で放たれるレピーダの手加減攻撃を避けもせず、食い入るように見つめるのは――。
「そう。私の手作り『果物入りチョコレート』と、その秘伝レシピです!」
愛楽礼のチョコは、フルーツをチョコでコーティングした一品だった。相手の好みに合わせて中身を自由に変えることが出来、応用の幅も非常に広い。
「コツは果物の風味に合わせてチョコの甘味を調整してあげること、ですね。よろしければ差し上げますよ? 命はあげられませんけど!」
『あ……ああ……』
崩れ落ちるビルシャナを、レピーダとかりんが穏やかな口調でそっと諭す。
「もう十分ではないですか? 大切な人を喜ばせるのに、特別なレシピなんていりません。そんな事のために手を汚して、彼が悲しむとは思わないんですか?」
「他人の想いが篭ったレシピで美味しいものを作っても、きみの大切な人は、喜んでくれないと思うのですよ。まずは一緒に、お料理の基礎から学んでみませんか?」
ビルシャナは言葉を返さない。だが、二人の声に反応するように、体を覆う光はますます強くなっていった。
「時間はたっぷりあります。基礎をしっかり学んでから、きみの大切な人が喜んでくれる、きみだけの秘伝のレシピを考えてみるのはどうでしょう?」
『私でも……できる……?』
「もちろんですよ」
力強く頷くかりん。だが、その時――。
『ぐっ……ううう……!!』
ひときわ強く瞬いた光が収束して、小さな球の姿をとった。
固まるビルシャナの後方で静止した光球が、長い槍へと姿を変えてゆく。
●裁かれた少女
(「こ……これは? 何が起こってるのです!?」)
眼前の光景に、レピーダは言葉を失った。
槍が音もなく放たれ、ビルシャナを刺し貫く。直後、刺されたビルシャナの体から一人の少女がこぼれ落ち、どさりと床に倒れた。
「元の姿に戻れた……のですか?」
「みてーだな。油断すんな、鳥の方はまだ生きてるぜ!」
呆気に取られるかりんに、ケースケが注意を促す。
抜け殻となったビルシャナは、錆びついた呻きをあげながら、なおもケルベロスに襲いかかってきた。
『おおお……おおおおお……』
「いい加減、未練たらしーんだよ!」
ビルシャナの爆発チョコを、ケースケは真っ向からガードした。グラビティの源たる少女を失った影響か、敵の動きはまるで精彩を欠いている。
「邪魔な鳥さんには、ご退場願うとしようか。三本目の刃、受けてみるかい?」
千尋の右腕に収束したレーザーブレード『光剣抜刀電鋼雪花』が、ビルシャナの体を袈裟に切り裂いた。
間髪入れず放たれた遊鬼の攻性植物が、敵の傷口をえぐりながら、バキバキと音を立てて体を締めあげてゆく。
「鬼さんこちら、ってやつね。一気に決めるわよ!」
瓦礫と化した居間を、リリスがふわりと飛んだ。潤んだ目でビルシャナの視線を少女から逸らしつつ、しなやかな肢体から発散するサキュバスミストで、ウイングキャットと共に仲間の傷を癒やしてゆく。
「キュキューン! 女の子には、指一本触れさせないよ!」
「いっぽ、攻撃です!」
レピーダのカサドボルグが放つドレインスラッシュの刺突が、かりんと彼女のミミックが織りなす轟竜砲と愚者の黄金の猛攻がビルシャナを容赦なく痛めつける。
先程までとは違う、手加減なしの全力攻撃。絶叫をあげて膝をついたビルシャナに、床を蹴ってケースケが跳ぶ。
「こいつは俺の気持ちだ、遠慮しねーで受け取れ!」
全体重を乗せて放つ地裂撃が、ビルシャナを叩き伏せた。縦揺れの振動がマンションを激しく揺さぶる。砕け散った窓ガラスの上に仰向けで倒れるビルシャナめがけて、戦術超鋼拳を握りしめた愛楽礼が助走に入った。
「火珠、突撃!」
「ブオオン!」
愛楽礼のライドキャリバーのトルクが、正義の魂で振動した。体重を乗せたウィリーが、機械的な動作で立ち上がったビルシャナを無慈悲に組み敷く。
「終わりです!!」
地面に転がったビルシャナの顔面めがけ、愛楽礼は握りしめた拳を全力で振り下ろした。
それが、とどめ。
『ギ……ギエエエエエエエエエ!!』
ビルシャナは激しく体を震わせた後、断末魔の叫びを上げて消滅した。
●夢の終わり
部屋をざっと片付けて、千尋は少女をソファに寝かせてやった。意識は戻っていないが、命に別状はない。じきに目を覚ますだろう。
「さて、私達も戻りましょうか」
現場の修復を済ませた公子の言葉に、仲間達が頷く。
デウスエクスを排除し、少女を助けること。ケルベロスの仕事は、そこまでだからだ。
「あなたの成功を祈るわ」
少女の耳元で、リリスはそっと囁いた。
「頑張って。あなたしか作れない美味しいチョコが、きっとあるはずよ」
「……おや、どうしたんだろう? その子、何やらうなされてるね」
千尋の言葉に、ケルベロスたちの視線が少女へと向けられた。
「……また失敗……しちゃった……」
確かに少女は、熱に浮かされたように、うわごとで何か呟いている。
どうやら夢の中でもチョコを作っているらしい。
「まずは……チョコを刻んで……湯せんの温度は……」
だが、その言葉は、これまでのものとは少し違うようだった。
何度か夢の中で失敗を繰り返した後、少女は会心の笑みを浮かべて呟く。
「やった……出来た、出来たよ……」
その言葉を聞いたケルベロスたちに、笑顔が戻った。
そして確信する。この少女には、きっと素敵な未来が待っているだろう、と。
「お別れですね」
愛楽礼は去り際に、ラッピングした果物入りチョコをテーブルの上に置いていった。
小さな手書きのレシピを、そっと添えて。
「どうか貴女に、素敵なチョコが作れますように……」
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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