午前0時に告ぐ

作者:皆川皐月

 暗い部屋。
 冷たい床。
 点滅し振動する液晶端末。
 液晶の光があまりに眩しくて放り投げる。床を滑った端末は点滅する度に振動ていた。
 つい昨日までアレが震える度、光る度に一喜一憂していた自分が懐かしくさえ思う。
「ほんと、最悪……」
 あの人の名前など今となってはただ忌々しく、事情を知る友達の心配さえ鬱陶しい。
 女、松葉・友紀は膝を抱えて体を極力丸く小さくする。
 ベッドの上、思うのは大好きだった頃のあの人。良い思い出だけを頭の中で反芻する。
 しかし、あの人の顔が頭に浮かぶ度、同時に思い起こされるのはあの現場。二股を通り越し、まさかの五股……。しかも一堂に会してしまうなんて。
 あの場にいた女は、皆自分と同じ目をしていた気がする。疑ったような、不安な目。
 たしかに、不自然なほど端末に連絡が来ている時があった。あの人が妙に焦っている時も、ドタキャンされたことだって沢山あった。
 上司から連絡と言い離れた後をこっそりつけて聞き耳を立ててしまった会話の中で、相手に「愛している」と言っていたことは、数回。
 それでも、自分に優しく微笑みかける彼が本当の姿なのだと信じていた。
 なのに。
「奥さんいるとか、ホントむり。あり得ない。誰かさ、私の事だけ……見てくれないかな」
 自分だけを見て、そして愛してほしい。
 それはまるで絵に描いたように、恋敗れた女性の他愛無い呟きで終わるはずだった。
 だが願いはあまりに切実で、誰かが叶えてくれるよう祈った心が呼び水となる。

 友紀の視界に映ったのは、神々しく輝く孔雀の如き大願天女の幻影。
 その幻影が淡く優しく微笑みかけた直後、ぼうっと遠くを眺めていた友紀の目が天啓を受けたかのように光を宿し、頬を桃色に染めはしゃぎだす。
「そっか……そうじゃん!女は殺して、目があった男は集めて、『私だけ見てくれる人を作ればいい』んですね!神様!」
 友紀の言葉に酷く満足そうな笑みを浮かべた幻影は霧散する。
 ……まるで着飾るように羽で身を包んだ友紀を、一人置き去りにして。
 もう冷えたカップから、湯気は立たない。

●つめたいひかり
 落ち着かない様子で何度も資料を確認していた漣白・潤(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0270)が集まったケルベロスに潤んだ瞳を向けた。
 いつも通り挨拶をして席を勧め資料を配る。ただ、その手は微かに震えていた。
「ビルシャナ菩薩『大願天女』の影響で、ビルシャナ化してしまう人が現れました……」
 被害者の名前は松葉・友紀(まつば・ゆうき)。女性。
 彼女の願いが、グラビティチェインの収奪を目的とする大願天女の手で歪められている。
 大願天女は幻影として一般人の前に現れ、力を与えてビルシャナ化させると同時にグラビティチェイン収奪のため『願いを叶える為には本来必要ではない、他者の殺害』を『願いを叶える為の最も素晴らしい方法』であると刷り込んでいる。
 よって、友紀はビルシャナの力を用い『他者を殺害する事で願いを叶える』ために襲撃事件を起こそうとしているのだ。
「ビルシャナ化された友紀さんを説得して、計画を諦めさせることが出来れば救うこともできるはず。どうか、助けてあげてください……!」
 皺になるほど資料を握り締めた潤が、深々と頭を下げた。
 一拍置いて顔を上げると、表情を引き締め説明を再開する。
 件の友紀の願いは『たった一人に愛してもらう』こと。
「ビルシャナ化したばかりの友紀さんを助ける方法は三つあります」
 一つ、単純に願いを叶えてあげること。
 二つ、計画している暴力的な手段では願いが成就しないことを証明すること。
 三つ、願い自体を、否定すること。
「暴力的な手段の理由はグラビティチェイン収奪です。その欠落点を指摘すれば良いと思います。でも……三つ目はきっと、友紀さんの心が傷つくことになると、思うのです」
 予想できるのは酷い後味の悪さ。だが、命を失うことに比べれば安いかは分からない。
 だが、説得に失敗すれば友紀の救出は不可能となり、ビルシャナ化した友紀を撃破する以外、手段が無くなる。
 しかし説得が功を奏し迷いを生じさせることが出来たなら、友紀は意識を失いビルシャナのみを撃破することが出来るだろう。
「ビルシャナは孔雀の羽のような炎と氷の輪、鐘を響かせトラウマを引き摺り出す攻撃をしてきます。気を付けてください」
 そして最後に、ビルシャナに逃走の危険が無いことも付け加える。

「本当の友紀さんはきっと、誰かを傷つけてまで願いを叶えたいなんて、思ってないはず、です。計画の阻止、よろしくお願い致します……!」
 言葉に滲むのはケルベロスへの確かな信頼。
 一人一人を見て微笑んだ後、では参りましょう!とヘリオンヘの案内を開始した。


参加者
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
彩瑠・天音(スイッチ・e13039)
八坂・夜道(無明往来・e28552)
空野・紀美(ソラノキミ・e35685)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
一・チヨ(水銀灯・e42375)

■リプレイ

●午前0時01分
 息をするのも震える程冷える夜。
 鍵が開いたままのベランダから、8人のケルベロスが松葉・友紀の元へ踏み込んだ。
「おじゃましますッス」
 ほぼ緊急と言って差支えの無い突入ながら、堂道・花火(光彩陸離・e40184)は律儀に挨拶をすれば、その声に反応した友紀がゆっくりと振り返る。
『こんな夜に誰?なんで私の家、知ってるの?』
 暗い部屋に差すのは街灯の明かりだけ。
 薄明りに照らされたのは隙間無く友紀の肌を包む美しい純白の羽。
 異形でなければ、まるで花嫁のような様相。
「こんばんわーっ、おねえさん!ねね、ちょっとだけ、わたしたちのおはなし聞いてくれないかなぁ?」
 明るい声で微笑みかけた空野・紀美(ソラノキミ・e35685)に、友紀が目を細める。
『……悪いけど私これから忙しいの。貴女みたいな子、皆殺しちゃいたいの』
 不穏な言葉と徐々に据わる瞳。
 相手が少女ゆえ過剰に反応したのか、彩瑠・天音(スイッチ・e13039)が二人の間にそっと割り入る。
 柔らかに弧を描くエメラルドはじっと友紀を見つめ、落ち着きなさいよと微笑む声は男性らしい低さがあった。
「自分だけを見て、愛してるって言ってくれる人、欲しいわよね。もし居たとして、自分が愛する以上に愛してくれたら最高よ」
『そうね……すっごく、素敵』
 天音の寄り添う言葉に、無意識であろう友紀の口から零れたのは同意。
 同じく寄り添おうと考えを巡らせていたイルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)が徐に口を開く。
「あなたが求めているのは、『貴女だけを見つけ出して、好きになってくれる人』なのではないでしょうか。それはきっと、誰かを殺めることで得るものではないと思います」
「そ、友紀がやろうとしてるのはその逆よ?」
 諭すような優しさで話しかけるイルヴァと天音の言葉に、ぴくりと細い肩が震える。
『そんなはずないわ。神様は言ったもの……殺しなさい、集めなさい、そうすれば私を見てくれるって。何が変なの?』
 常識が通じないとでもいう風体で友紀が首を傾げる。
 その姿に八坂・夜道(無明往来・e28552)は丁寧に問いかけた。
「ねぇ、今やろうとしている方法を取れば、男性からはどんな姿に映るかな?」
『え?』
「そうッス。松葉さん、貴女は誰かに見られたい訳じゃなくて、優しい眼差しで見つめられたいんじゃないッスか。でもその方法じゃ……ダメッスよ」
「そうだねぇ、そこにあるのは愛じゃなくて恐怖による支配。あなたへの、拒絶だよ……」
『きょうふ?きょぜつ?』
 花火と夜道の言葉に、どうして?と不思議そうな友紀の声が震えた。
 伸びた爪が、がりがりと腕の羽を毟る。
 静観していた一・チヨ(水銀灯・e42375)がそっと口を開いた。
「血溜まりの中で芽生える愛ってのが、本当にあんたの求める愛なのか?」
 じっと見つめるチヨの瞳が友紀を射抜く。
 普通なら誰もが違うと否定するような問いかけ。
『……そうね。きっとそうよ。真っ赤で綺麗な……私、前より綺麗になれると思う』
 腕に爪を立てたままの友紀がズレた返答。半ば肯定。
 前を見ているようで、どこも見ていないような瞳の友紀がチヨを見つめ返す。
 密やかにチヨはただ眉を寄せた。常では至らないであろう常軌を逸した思考は、明らかにビルシャナの所為。そうでなければ、どうして彼女の頬に涙が伝うのか。
 目の前で声無き悲鳴を上げる友紀の姿に、背後で糸を引く大願天女に怒りが湧いた。
「あぁ、そうだね。好きなものを手っ取り早く手に入れる方法は、色々あるだろうさ。金や、嘘、あんたが今しようとしてることも、その一つだろうね」
 少々ぶっきらぼうだが、チヨの瞳に諦めは無い。
「けれど、そうして手に入れた人が、あんただけを見てくれるとは思わない」
「オレも、とっ捕まえてきた男性が向けるのは恐怖の眼差し……紛い物の『私だけを見てくれる人』になってしまうと思うッス」
 そんなの悲しすぎるではないか。強く拳を握り締めた花火も、精一杯考えに考えて言葉を紡ぐ。自分自身に恋愛経験はなくとも友紀に寄り添いたい純粋な思いが言葉に熱を籠め、赤茶の瞳が強い光を湛えていた。

●午前0時19分
 かろりと高下駄の音。
「形だけの愛でいいならいくらでも愛してるって言ってあげることはできるよ」
 天喰・雨生(雨渡り・e36450)の声変わり前か、したてか、少年独特の声が羽毛塗れの耳を打つ。
「でも。あんたはそれが嫌だったんでしょ?だから自分だけ愛してくれる人を求めてるんじゃないの?」
『やめて』
 ねえ、と問う声に尚も友紀が羽を毟る。がりがり、がりがり。
「けど、今あんたが作り出そうとしてるのは、あんたに対する恐怖心から殺されないために形だけの愛を囁く関係性だよ」
 それって、あんたが嫌がってたそのものだ。そう告げた雨生の言葉が友紀の傷口に刃を突き立てる。だが、事実故に否定の方法は無く、零れたのは悲しみと涙と血だけ。
『わ、わわ私は。私は、そんな!違う!神様は言ってた!!私を見てくれるって!!』
 ぼろぼろと零れる涙。
 頬に爪を立てる。
 まるで言い聞かせるような叫び。
「待って。あのね、わたしは、あなたのように男のひとを愛した経験は、ないけど……」
 錯乱しかけた友紀に待ったを掛けたのは翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)。言葉を探しながら、きらきらと瞳を瞬かせる。鮮やかな緑は涙に濡れる白い鳥へ一歩。
「わたしの知らない“愛”を、あなたは、知っているんでしょう?」
 薄い表情ながら、目一杯優しさの籠められた声だった。
 ロビンの優しい声に、いつのまにか床ばかり見つめて叫んでいた友紀が顔を上げる。涙で濡れた顔。揺らぎ始めた瞳。
「……こんなことをしても、あなたは決して愛されない。こんな方法じゃ、あなたの願いは、かなわない。きっと、ほんとうは……わかっているはずのこと」
『かなわない……私の、願い』
 揺らぎ始めた友紀の心を加速させるロビンの言葉をイルヴァが継ぐ。
「そんな羽や力や血で着飾らなくったって、ほんとうの友紀さんがいちばん、絶対素敵です」
「うん!ぜったいぜったい、なにがあってもおねえさんは悪くなかったんだよ!」
 イルヴァの背から顔を覗かせた紀美が、元気いっぱい拳を作る。
 沢山傷付いた友紀はこれ以上傷付かなくて良いし、沢山傷付いた友紀に誰かを傷つけて欲しくなどない。
「わたしはねぇ、おねえさんみたいに頑張ってるおんなのひとなら、あっという間にすてきな彼氏ができるとおもうんだー!」
 乙女の勘である。絶対大丈夫!と笑う紀美のインディゴブルーは僅かな光で煌めきながら、変わらず友紀自身を見つめていた。
『すてき?私は、綺麗?頑張れたの?』
 フローリングに落ちる涙と共に、一枚、また一枚と羽が散る。
「そうよ、アンタ本当はわかってるんでしょう?最悪に囚われて自分を見失わないで。アンタの綺麗な手を血に染めなくて良いの。愛を必死に掻き集めようとしなくて、良いのよ」
 受け止め諭す天音の言葉が友紀の瞳に幽かな光を与え、足の震えた背を優しく夜道が支える。
「痛いのも我慢して、らしくない姿を続けるのは疲れなかった?飾った姿しか愛して貰えないのは辛いよね……」
 酷い男が居たものだと軽い力で背中を叩く夜道に、友紀は縋った。
 苦しい胸の内。神様だって聞いてはくれなかった悲しみが溢れ出す。
『あ、足が……痛くてっ!もうぜんぜん立てなくてっ……でも、でも、あの人は振り向いてなんてくれなかった!転んだ私は転んだままでっ!』
「でも、大切なひとのために自分を素敵にしようと頑張ってきた友紀さんはとっても輝いています」
 膝をつき夜道と同じく寄り添ったイルヴァが、咽び泣く友紀の手を取る。
 愛しい誰かのたったひとりになりたいと、女の子は夢を見て憧れる時がある。痛いほど純粋なこの心を、護りたい。イルヴァの赤い瞳は、同じ暖かな色で友紀を見つめていた。
「だから、その輝きが血の色で濁ってしまわないように……あなたの輝きを見つけてくれる、たったひとりの人に出会いにゆけるように、わたしたちがあなたを助けます」
「そうね……あなたの涙はきっと、あなたの愛が“本物”だった証だわ」
 ロビンの白く細い指が友紀の涙をすくう。
 涙に濡れた黒とエメラルドが、今日初めて交わる。
「あなたのこころを、これ以上……利用させないであげて」
 優しい声へ静かに友紀が頷いた次の瞬間、一筋の白光が友紀を包む。
『わ、たし!神様のことなんてもう信じない!本当の愛は、自分でもう一回、探すから!』
 人の姿に戻った友紀の前に立っていたのは、光に半身を焼かれた白い影。
 焦げた匂い。醜悪な邪悪さと、弧を描く瞳に宿る嘲笑。
 倒れる友紀を鼻で笑った後、ケルベロスへ優雅に翼を広げて見せた。

●午前0時35分
 薄暗い部屋。雨生の白い肌に梵字が浮かぶ。
「愛とか恋とかよくは分からない。でも、随分下らないことをしてくれたね」
 かろりと下駄が駆け鳴る。
 軽い音。飛び上がった雨生が振るう葬送華紋の刃に宿る虚が大願天女影を断つ。
 次いで駆けたイルヴァは雨生の動きを察していたかのように逆側から回り込む。
 その背へ声が。
「イルヴァ、凍らせて」
「任せてくださいロビンさん、わたしの専売特許です」
 振り向かずとも答えは是。同じ酒場で談笑しあい時に組んで闘技大会へ出る間柄ならではの呼吸。
 雪の肌に赤の贄。渦巻く氷嵐は暴虐の如く。
 燐光の刃に光る祈りと冷気は、何もかも越えるイルヴァの決意と共に。吐く息は白。
「世界に永久の氷訣を―――いと古きものの、名のもとに!」
 極北の氷霜が大願天女影を捕らえた。
 氷上で軽やかに踊る翡翠の靴に、銀刺繍が風の翼を添えた。
「さすがね、タイミングバッチリよ」
 鎌首をもたげた竜槌が風を切り、咆哮の如き唸りと共に凄まじい打撃で片翼を削ぐ。
 無機質な瞳がロビンを睨めつける。
 前触れ無く、赤々と燃え盛る孔雀羽が迫った時。
「お前に松葉さんの手は汚させないし、逃がさないッス」
 ロビンの前に立ちはだかり、真正面から炎を受けた花火が真っ直ぐに影を見る。
 その足元に星の煌めきが巻き起こった、次の瞬間。
「オレがぶっ飛ばす!」
 天女影の眼前に車輪。流星一条、その頭頂部に炸裂した。
 同時に奔った重力鎖が天女影を捉え縛り上げれば天女影がもがき、幻の羽を散らす。
「つぎはわたしの番っ!」
「俺たちで、止めてやる」
 紀美のソプラノとチヨのボーイソプラノが重なる。
 紀美の改造スマートフォンには射手座のイラスト。ピストル状に構えた爪先に煌めく夜空には、射手のシンボルと加護。
「悪い鳥さんはやっつけちゃうんだから!」
「あの人の愛は、利用させない」
 黒いマントの下、音も無く定められた標準。
 主砲が一斉発射されると同時に飛び出した魔矢と共に白い影を撃ち抜く。
 しかしまだ残る僅かな力で這った天女影の前に、小さな黄色いレインコート。
 ゆっくりと赤い傘が持ち上げられる。
『オマエ、』
 話すことなど何もない。ただ容赦無く、さゆりは傘を振り下ろした。

 塵も残さず大願天女影は散る。
 倒れたままの友紀を夜道が抱き起せば、ゆっくりと瞼が上がった。
「……わ、たし?」
「ほんと無事で何よりッス!」
「大丈夫?痛いところは無いかい」
 目を覚ました友紀に花火が笑顔になり、夜道が怪我の有無を問えば、自分の状態に気付いた友紀が慌てて両手を振る。
「ごめんなさい!だ、大丈夫です!」
「あら、無理しちゃダメよ。夜道ちゃんはお医者さんだから、痛いところがあったらちゃんと言うのよ?」
 無事元気そうな姿に笑った天音が大きなメイクボックスを床に置くと、座り込んだままの友紀と向かい合う。
「いっぱい泣いてスッキリしたかしら?」
 戸惑う友紀をよそに、天音は慣れた手つきでボックスを開き、道具を手に取る。
 泣き腫らして目は夜道のケアで元通り。白肌に残る涙の痕が拭われれば始まりの合図。
「友紀、アンタは十分イイ女なの。今夜はアタシがとびきり可愛くしてあげる」
 そこからは本当に魔法のようであった。
 天音の筆が滑る度に友紀は彩られ、徐々に蕾が綻んでゆく。
 ヒールされた部屋がきちんと片付いた頃、そこに居たのは綺麗な一人の女性。
「なんだか、羨ましい……わたしもいつか、あんなふうにひとを好きになるのかな」
「きっと大丈夫ですよ、ロビンさん」
 きっといつか、恋の苦しみにも叶う幸せにも触れる時が来るはず。微笑みかけるイルヴァに、ロビンはそっと瞳を伏せる。
「わぁ、すごい!すっごくきれいだよ、おねえさん!」
 メイクとヘアアレンジで今度こそ本当に美しく飾った友紀に、紀美が頬を染め手放しに褒めれば友紀は照れたように視線を彷徨わせる。
 紀美に倣って拍手で褒めるさゆりを横目に、チヨが呟く。
「あんたはそうやって暗い部屋から出て、笑ってたほうがいいよ」
 言い終わってから、いつのまにか注目が集まっていればチヨはふいとそっぽを向いた。
 そんなチヨをさゆりが傘で突くまでがお約束。
 楽し気な声と笑顔が、明るく電気が燈る部屋を藹々と満たしていく。
 皆に釣られて嬉しそうに友紀を見た時、目深にフードを被ったままの雨生が僅かに目を細める。
「たった一人、あんたを愛してくれる人を見つけるのは大変かもしれない、けど……きっと見つかるよ、あんたが人を愛する限り」

「ありがとう、ケルベロスさん」
 幸せそうに微笑んだ友紀の頬に、一筋の温かい雫が伝った。

作者:皆川皐月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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