●鬼神襲来
岡山県中山茶臼山古墳。
節分で有名な吉備津神社付近に位置し、古代の巨石群を多く残す遺跡陵。そこに置かれた巨石と巨石の間を縫うようにして、それは唐突に現れた。
「……ガァァァァッ!!」
猛々しい咆哮と共に現れたのは、頭部から二本の金色の角を生やした鬼だった。
そう、鬼だ。外観こそ人間と大差ないものの、その瞳は激しく血走り、猛烈に飢えていることが見て取れる。その身に纏った闘気を放出し、鬼は近くにあった巨石を砕いてみたものの、直ぐに興味を失ったのか、『生きた獲物』を探し始めた。
「ハァ……ハァ……ルォォォォッ!!」
既に言葉さえ忘れたのか、鬼は再び雄々しく吠えると、人里を目指して駆け出した。
その脚が大地を踏みしめる度に、草木が音を立てて燃え上がる。風を切り、木々を掻き分けて進む度に、稲妻にも似たオーラの迸りが空気を焦がす。その飢えたる瞳が求めるのは、良質なグラビティ・チェインを蓄えしもの……即ち、地球に住まう人々の血と肉だった。
●暴虐の海嘯
「召集に応じてくれ、感謝する。リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)を始めとした者達が探索を進めた結果、オウガに関する予知を得ることができた」
その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)よりケルベロス達に告げられたのは、多数のオウガが岡山県中山茶臼山古墳周辺に出現し、人里を目指して進軍を開始するとの報だった。
コードネーム『デウスエクス・プラブータ』。人に似た姿を持ちながら、他のデウスエクス種の追随を許さない程の強大な腕力を誇り、その背中や頭部に黄金の角を持つのが特徴とされるデウスエクス種族。今回、中山茶臼山古墳周辺に出現した個体は、その中でも特にグラビティ・チェインが枯渇している者達で、極度の飢餓状態にあるようだ。
「オウガが出現するのが2月3日なのは分かっているが、連中のゲートの位置までは特定することができなかった。出現するオウガ達は、強度のグラビティ・チェインの枯渇状態にあるからな。知性は失われ、人間を殺してグラビティ・チェインを強奪することしか考えていないから、話し合いで解決することは不可能だな」
クロートの話では、オウガ達はより多くのグラビティ・チェインを求め、節分の神事で人々が集まっている吉備津神社方面に移動するとのこと。これを阻止するための方法は大きく分けて二つ。『中山茶臼山古墳周辺で出現と同時に迎撃』するか、敵が必ず通過する『吉備の中山細谷川の隘路の出口で迎撃する』かの、どちらかだ。
「今回、お前達に相手をしてもらいたいオウガは、全身に黄金色の凄まじい闘気を纏っている。グラビティとしては、バトルオーラと同等の技を使用するようだ。特に癖のない攻撃手段だが……敵は攻撃に特化した戦い方を好むようだからな。シンプルな技だからといって舐めていると、重たい一撃を食らって大ダメージに成り兼ねないぞ」
もっとも、出現するオウガはグラビティ・チェインの枯渇状態なので、このままグラビティ・チェインを補給しなければ、いずれコギトエルゴスム化してしまう。場合によっては、それを狙うのも手だろうと、クロートはケルベロス達に説明した。
「2カ所ある迎撃地点の内、巨石群で迎撃した場合は、周囲に一般人もいないから戦闘に集中できるぜ。ただし、敵も出現したばかりだから、コギトエルゴスム化までは短く見積もっても20分くらいかかる。普通に戦っていれば、そうなる前に決着がついてしまうだろうな」
仮に、この場所で敵のコギトエルゴスム化を狙った場合、それは多くの犠牲を払うことを意味するだろう。敵を殺さず無力化を狙うのであれば、むしろ二番目の迎撃地点である吉備の中山細谷川の隘路の出口で迎え撃った方が良い。
「ここで迎撃した場合、コギトエルゴスム化までの時間は12分というところだな。だが、この地点は節分のイベントで人が集まっている吉備津神社にも近い。万が一、突破されてしまうと、一般人に大被害が出てしまうから注意してくれ」
オウガは極めて戦闘力の高いデウスエクスであり、手を抜いて勝てる相手ではない。下手に宝玉化を狙って無駄に戦闘時間を長引かせたり、吉備の中山細谷川の突破を防ぐ有効な策を用意していなかったりした場合は、最悪の事態を招く可能性も否定できない。
「今回の作戦で、どのような戦い方をするかは、お前達に一任する。オウガを滅ぼさずに対処することができれば、今後のオウガとの関係を良好にできるかもしれないが……まあ、無理は禁物だな」
第一に守るべきは、人々の命。そう締め括り、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
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陶・流石(撃鉄歯・e00001) |
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466) |
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184) |
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683) |
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872) |
風音・和奈(哀しみの欠如・e13744) |
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244) |
エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136) |
●荒ぶる金角
巨石立ち並ぶ山の中、丘陵と丘陵の間を縫うようにして流れる渓谷の沢。
水の音と風の音。それ以外に何も聞こえないにも関わらず、空気が戦慄しているというのが嫌でも解る。この地に現れし、強大な力を持った存在。それが放つ殺気のような何かが、まるで一帯を覆っているかのように。
「オウガねぇ……。ラクシュミと直接会ったわけでもねぇが、レプリゼンダ絡みの連中って、何かしら理由があるみてぇだからな……」
気にならないと言えば、嘘になる。そう結んで陶・流石(撃鉄歯・e00001)が正面の渓谷を見やれば、そこには中途半端に積まれた瓦礫の山が。
「もう少しだけ、準備に時間があれば良かったんですけど……」
「仕方がありませんよ、それは。現に、吉備津神社へ連絡を取ろうとしても、電話さえ繋がらない状態ですから」
俯く影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)を、携帯電話を片手に水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が制した。
吉備津神社は、節分の行事の真っ最中。まともに電話やメールの対応をしている時間等ないに等しく、そもそも行事を中止させてしまえば、それに惹かれてやって来るはずのオウガもまた、別の地に出現してしまうかもしれない。最悪、避難を促したことによって神社を離れた一般人が、オウガと遭遇してしまう可能性もある。
ここで戦っているのは、自分達だけではない。迂闊な避難の勧告は、一般人が戦場に紛れ込むリスクを他の場所で戦っている者達に負わせることに等しかった。
「正に、背水の陣だな。だが、それだけの覚悟を以て挑まねば、敵を無力化することなど叶わぬだろうよ」
誰も死なせることなく強敵を無力化させる。リスクを負わず、それができると思うことは、状況認識の甘さでしかない。そう、マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)が紡いだ瞬間……正面の瓦礫の山が豪快に吹っ飛び、その奥から金色の気を纏った影が現れた。
「現れましたな。各々方、油断は禁物ですぞ」
どこか飄々とした様子で仲間達に告げるエドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)だったが、その瞳は決して笑ってなどいない。
目の前に現れた鬼、理性を失ったオウガの前にはバリケードなど子どもの作った砂山に等しく、何の足止めにもなっていないのは明白だ。グラビティを使うまでもなく、ただ怪力に任せて突っ込むだけで、簡単に突破してしまったことからも。
「あの時のローカストと同じ……。でも、同じ結末にはさせない。全力で耐え抜いてやるよ」
風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)の脳裏を、苦い思い出が過る。否、彼女だけではない。ここにいる者達の中にも、同じ想いを抱く者は多い。
理性を失ったローカスト達の生き残り。最終的に数名のローカストの定命化に成功したとはいえ、そのまま犠牲になってしまった者も多かった。
もう、同じ悲劇を繰り返すわけにはいかなかった。リスクを取らずに全てを救うことができないのであれば、敢えて危険を冒してでも、自らの信念を貫き通すのみ。
「ルォォォォッ……!!」
額の角を荒々しく振り上げ、オウガは雄叫びと共に跳躍した。その凄まじい跳躍力により、オウガの姿が一瞬だけケルベロス達の視界から消える。そして、次の瞬間、振り下ろされた剛腕は岩盤を砕き、衝撃が波となって襲い掛かって来た。
「……あまり良いことではないが、今回は防具に救われたようだな」
砕け散った岩の欠片を払いながら、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が立ち上がる。彼の身に纏った漆黒の鎧を以てしてもなお、オウガの一撃を殺し切ることはできなかった。
だが、それでもここで退くわけにはいかない。人々も救い、オウガも止める。そのためには、およそ12分の間、この凄まじい猛攻に耐えねばならない。
「正道を見失いし鬼よ! 我が嘴を以て、その狂える魂を破断する!」
「あの失敗を、二度と繰り返す訳にはいきません。クリスティ流神拳術、参ります……!」
ジョルディが巨斧を突き付け、アンクの袖口が白炎に包まれて燃え上がる。だが、対峙する二人の様を見ても、オウガは何ら動ずることなく、癒せぬ乾きを宿した瞳を向けて来る。
「よーこそ晴れん国へてな……。んじゃま、Assemble!&Go!」
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)の掛け声と共に、修羅と化した鬼へと殺到するケルベロス達。一瞬でも気を抜いたら、そこで負ける。なんとも長い、12分の戦いが幕を開けた。
●怒髪の鬼
渓谷に響き渡る衝撃と怒号。髪を逆立て、本能のままに荒れ狂うオウガの一撃は、ケルベロス達の想像を超える程のものだった。
金色の気を纏い、衝動のままに目の前の獲物へと襲い掛かる。絶え間なく湧き上がる飢餓感に突き動かされて暴れる様は、正に怒髪天を貫くが如し。
「おぅコラ、こっちだ」
「余所見すんじゃねぇよ。こっちにもいるぜ」
美しい虹色の軌跡を描き、亞狼と流石が同時に蹴りを食らわせた。だが、金色の気を纏うオウガは怒りのまま二人の攻撃を腕で受け止めると、そのまま力任せに跳ね飛ばした。
「……くっ!?」
「おっと、ヤベェ!」
受け身を取ることで流石が衝撃を殺し、亞狼もまたすかさず距離を取った。
先程の感触からして、確かに手応えはあったはず。だが、身体に受けたダメージを気にする素振りさえ見せず、オウガは怒りに任せて二人へ追い縋ろうと迫って来る。
「このパワー……放っておくわけにも行きませんね」
敵を生かすのであれば、不要な攻撃は避けるべき。そう、頭ではいながらも、アンクは敢えて拳を振るい、オウガの進撃を止めることを選んだ。
今は少しでも、敵の攻撃力を削がねば勝機はない。渾身の力を込めて遠間から左拳を振るえば、それは距離を無視して凄まじい爆発を呼ぶ。
「ゴァァァァッ!!」
だが、その爆発を以てしても、オウガの進撃は止まらなかった。多少、力を削ぐことはできたかもしれないが、狂える瞳は未だに獲物を求めて禍々しい殺気を放っている。
爆風を掻き分け、オウガは本能のままに叫び、拳を振り回した。掠めただけでも、風圧だけで頭を砕かれんばかりの一撃。まともに食らえば、命の保証などありはしない。普通であれば、誰しもが避けることを選択するはずであるが。
「来いよ! オレを殺せばテメェは満たされるぜェッ!」
獰猛な笑みを浮かべ、マサヨシは敢えて敵の眼前に立ちはだかった。瞬間、彼の身体を凄まじい衝撃が駆け抜け、青き竜人の影が宙を舞った。
「……ッ!? そうだ……そうでなくちゃ、面白くねェ……」
大地に叩き付けられてもなお、マサヨシは口元の血を拭って立ち上がる。しかし、その言葉とは裏腹に、彼の肉体は早くも悲鳴を上げ始めていた。
単なる怪力だけでは説明のつかない、凄まじいまでの威力を誇る拳。敵の全身を覆う、金色の気の力だろうか。守りを固め、防具を厳選し、味方の放ったドローンを盾にしてなおこのダメージだ。ドラゴンとも殴り合いが出来るのではないかと思わせる程の一撃を前にして、戦場には戦慄が迸っている。
「大丈夫でござるか!? 今、盾を張り直しますぞ!」
「やられたら即回復! いたちごっこに付き合ってもらうよ!」
慌ててエドワードと和奈が、マサヨシの前に光の障壁を展開して行く。オウガの一撃で砕かれる可能性の方が高いが、それでも丸腰で直撃を食らうよりはマシだ。
「飢えというのは苦しいだろう。言葉など分からなくても良い、もう少し耐えてくれ」
体勢を立て直すと同時に、マサヨシの放った鋭い回し蹴りが、オウガの脇腹に突き刺さった。その一撃は強固な筋肉によって阻まれたが、しかし内部まで響く衝撃までは殺せなかった。
「……ガ……ァ……」
断続的に襲い来る身体の痺れに、思わずオウガが不快な表情を浮かべて距離を取る。そこを逃さず、リナは稲妻の幻影を纏った槍の穂先を突き出して。
「放つは雷槍、全てを貫け!」
徐々にだが確実に、敵の機動力を奪って行く。少しでも敵の手数を減らせるのであれば、それに越したことはない。
「リナ嬢、突出し過ぎは禁物だぞ。自分と違い、一発でも食らえば……」
敵の胸板に深々と槍を突き刺しているリナに、ジョルディは諭すような口調で伝えながら大型の盾を模したドローンを飛ばした。
「我が誇りここに権現せり……。重騎士の本分は守りに有り!」
この戦いでは、敵を倒すことが目的ではない。守りを固め、回復と妨害に徹すれば、やがて敵は自滅する。だが、それはオウガも本能的に解っているのだろうか。
「……ァ……ァ……ガァァァッ!!」
金色の気を一斉に放出させて、オウガは今まで受けて来た様々な負傷を修復すると共に、虹や雷の幻影といった、諸々の効果を吹き飛ばした。
「ちっ……! 仕切り直しかよ」
毒づく流石。敵の一手を潰せたのは良いが、ここで再び動きを封じに掛からねば、次はこちらが一撃必殺の攻撃に晒されることとなる。
残り時間は、後半分。髪までも金色に染めて立ち上がる悪鬼羅刹を前に、戦いの行末は、まだ見えない。
●金色の咆哮
怒れる力を剛腕に乗せて、金色のオウガは荒れ狂う。一撃で岩を砕き、巨木をも薙ぐ剛力は、それだけで十分な脅威である。
そんな力を持った腕に、金色の気を乗せて放って来るのだから堪らない。防御と回復に特化した布陣を敷き、とにかく耐えることに専念するケルベロス達であったが、その代償は決して馬鹿にならないものだ。
「ったく、冗談じゃねぇっての。少しでも準備に穴あったら、一発でお陀仏だぜ」
「まぁ、それでも最後に誰か立ってりゃ、こっちの勝ちだ」
悪態を吐く流石に、皮肉げな笑みを浮かべて答える亞狼。擦れ違い様にナイフでオウガを斬り付けたところで、その返り血を浴び、二人は自らの糧とする。
「後少し……後少し……!」
「最後まで、油断は禁物ですぞ。追い詰められた鬼が、何をしてくるか読めぬでござる」
和奈もエドワードも、既に攻撃を捨てて回復だけに特化している。この戦いの目的は、あくまでオウガの宝玉化。ならば、これ以上の無駄な攻撃は、オウガを殺すことに繋がり兼ねない。
「この力を、罪のない人たちに向けさせるわけにはいかないよ」
同じくリナもまた、ケルベロスチェインを伸ばして戦場を覆う結界とした。だが、まるでそれらの全てが無駄であると嘲笑うかのようにして、オウガは高々と跳躍し。
「ルァァァァッ!!」
咆哮と共に、口から吐き出されたのは凄まじい大きさを誇る金色の気弾。それは鎖の隙間を縫って、真っ直ぐにリナを狙っており。
「……っ! しまった!?」
この間合いでは避けられない。仮に身を逸らしたところで、あの気弾は目標に命中するまで、しつこくこちらを追尾して来る。
あんなものの直撃を食らって、無事でいられる可能性はない。思わず覚悟を決めたリナだったが、果たしてそんなオウガの攻撃は、彼女を直撃することなく。
「……させぬわっ!!」
間一髪、彼女の前に割り込む漆黒の鎧。大盾と、そして自らの身体をも障壁にして、ジョルディがリナへの攻撃を遮ったのだ。
炸裂する気弾の爆発に巻き込まれ、閃光に消えるジョルディの姿。しかし……それでも、彼は立っていた。
「我は命の源『重力』を守る騎士! ゆえに重騎士の本分は……守りに有り!」
巨斧の柄を杖代わりにして、黒き鎧は立ち上がる。鎧の裂け目からは液体が漏れ、機械部分は激しく火花を散らしていたが。
「無茶しやがって……。死ぬ気か?」
「……そういうマサヨシ殿も、随分と正面から殴り合っているようだが?」
気を分けてもらったマサヨシに、ジョルディは苦笑しつつ返す。現に、二人とも度重なるオウガの攻撃に晒されて、回復しきれない負傷が大きな傷跡を残している。
もう、これ以上は限界だ。しかし、残り時間は2分程度。ここを耐え切れば勝てると知っているからこそ、ケルベロス達は敢えて攻撃を控える手段に出た。
「……グ……ァァァァッ!!」
互いに庇い合いながら、胸元を掻き毟りながら迫り来るオウガの攻撃を必死で耐える。攻撃を受けなかった者は回復に専念し、少しでも被害を抑えんと奮闘する。
「残り1分! これで……」
ここを耐え切れば、完全勝利だ。そう、確信して和奈が叫んだ瞬間……その剛腕を大きく肥大化させて、オウガは渾身の一撃を繰り出さんと、最後の最後まで殴り掛かってきた。
「させませんよ、それは……」
迫り来る剛腕を前に、立ちはだかるアンク。そちらが腕なら、こちらは脚だ。威力は負けても、リーチなら負けない。相手の技の勢いを少しでも殺さんと、虹色の蹴りを繰り出すアンクだったが。
「ルグォォォォッ!!」
さすがに、相殺することは適わなかった。拳と脚が衝突した瞬間、跳ね飛ばされるアンクの身体。しかし、それでも彼は、笑っていた。
「今度こそ……護れましたね……。それにしても……」
これで、定命化させられなかったローカスト達にも、笑われることはないだろう。薄れ行く意識の中、彼は半壊状態になった自分の靴へと視線を落とし。
「……やはり向いていませんね、この装備……」
全ての力を失い、宝玉化して行くオウガの姿の姿を横目にしたところで、満足気に頷いて意識を失った。
●傷だらけの勲章
戦いの終わった沢の一角。宝玉と化したオウガを拾い上げ、ジョルディは改めて敵の強大さを感じていた。
「完全体だったらと思うと、ぞっとするな……」
今回は、敵が暴走して見境がなくなっていたからこそ勝てたようなもの。あのパワーに戦略を練るための頭脳が乗ったところは、正直なところ考えたくない。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、なんとか……。それでも……」
自分を気遣うリナを制して立ち上がりつつ、意識を取り戻したアンクもまた宝玉を見やる。その言葉の続きは、同じく完全に脱力している和奈が、溜息交じりに呟いた。
「少なくとも殺さずには済んだよ……」
もっとも、本当の始まりはここからだ。今回のオウガが定命化してくれるのか。ラクシュミは、この一件をどう受け止めるのか。全ては自分達、ケルベロスの行動に掛かっているのだろう。
「んじゃ、後ぁ任せたぜ」
そんな中、宝玉には何ら興味を示さず、亞狼は独り先に去って行く。どこへ行くのかと聞かれれば、ただ鳴釜を確かめに行くだけだと。
「知らね? 釜ん下に鬼の首あんだぜ」
そういう伝説を知っている。なぜなら、自分にとってこの地は郷土だから。
折角、帰ってきたのなら、ちょっと顔を出してみるのもいいだろう。それだけ言って、亞狼は一足先に、激戦の繰り広げられた地を跡にした。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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