オウガ遭遇戦~白き少女の渇望

作者:朽橋ケヅメ

 渇く……。

 ゆらり、深山の森の中にそびえ立つ巨石の陰から浮かび出た姿は、行くあてもなく彷徨っているかのような、小さな白影。
 青白い痩身に灰髪、翠色の瞳を瞬かせる、まだ少女と呼んで差し支えないほどの若い女性……その頭や背中からは、何本もの黄金の角が生えていた。

 うぅ……。

 苦しげにうめく少女を見れば、善人ならずとも救いの手を差し伸べたくなるだろう。
 だが、ここは静けさを湛えた山中。人の姿も気配も周囲にはなかった――『幸運なことに』。
 ふわり、と少女がよろめき、巨木に身体をぶつけそうになる。

 邪魔ぁぁぁぁ!!

 出し抜けに甲高い声をはじき出すと、少女は懐の小刀を抜き払い、巨木へと振り下ろす。
 巨木の皮すら割れるまいと見えたその一太刀は、しかし衝撃波を纏うほどの豪速と剛力をもって幹に吸い込まれ、巨木はまるで枯れ枝のようにあっけなく薙ぎ倒された。
 尋常ならざるその膂力こそ、少女の正体を示すもの。
 息ひとつ乱さないその少女の耳に、遠くから微かに、風に乗って、楽しげな人の声が届いた。
 祭りを楽しむような、何かを祝うような、声が。
 少女は声のする方へと向かうことを決めた。
 というより、ただ突き動かされるように歩き出した。

 カワ、ク……。

 コードネーム『デウスエクス・プラブータ』……オウガと名乗るそのデウスエクスは、飢え、渇き、本能のままに求めていた。
 糧食とする人間を。グラビティ・チェインという名の潤いを。

●白き少女の渇望
 集まったケルベロス達にぺこり、とお辞儀をして、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は依頼の話を切り出した。
「オウガについて探索を進めてくださっていた、リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)さん達のおかげで、オウガの出現を予知することができました。それも、多数の!」
 地図の上でセリカが示したのは、岡山県の南部。
「ゲートの位置までは特定できませんでしたが、オウガが出現するのは、この山の周辺……中山茶臼山古墳という場所です」
 出現するオウガ達は強度のグラビティ・チェイン枯渇状態にあるため、知性が失われているという。
「もはや、ただ人を殺めてグラビティ・チェインを奪うことだけを考えているようです。意味のある会話や説得はできそうにありませんね……」
 時は、2月3日。折しも、近くの吉備津神社で朝から節分の神事が行われ、多くの人々が集まっている頃だ。
「オウガは人の気配を追ってこの神社を狙うでしょう。皆さんにはこれを迎え撃っていただきたいのです。お祭りを楽しんでいる方々を襲わせるわけにはいきません!」

 セリカはうなずき、ケルベロス達へと二本の指を立てて示した。
「敵がグラビティ・チェインの枯渇状態にあるということは、二つの対処方法が考えられますね。ケルベロスの力でオウガを滅ぼすか……あるいは時間を掛けながら戦って、相手が力を使い果たしてコギトエルゴスム化するのを待つか」
 それを踏まえて、戦闘地点として考えられるのは二か所だとセリカは言った。
 一つは、中山茶臼山古墳の周辺。
 表面が鏡のように平板だという鏡岩を始めとした巨石遺跡が点在し、オウガはその周辺に多く現れるのだという。
 この場所であれば、周囲に一般人などもいないため、戦闘に集中する事ができる。
 しかし、出現から間もないオウガと戦うことになるため、グラビティ・チェインが完全に枯渇するまでの予測時間は20分程。コギトエルゴスム化する前に戦闘の決着がつく可能性が高い。
 そして二つ目は、オウガが神社を狙うならば必ず通ることになる、吉備の中山細谷川の隘路の出口。
 この地点であれば、戦闘開始から12分程度で、グラビティ・チェインの枯渇によるコギトエルゴスム化が始まることが予測される。
 ただし、ここは神社や人家にも近いため、飢えたオウガがケルベロス達の囲みを破って一般人に被害を及ぼすことのないよう、細心の注意が必要だと、セリカは告げた。

 セリカが出現を予知したというオウガの一体は、華奢で青白く、一見すると虚弱そうな少女だという。
「ですが、用心してください。オウガの持つ腕力は見た目からはまったく判断できませんから」
 頭や背中から生えた金色の角。そして何より、他のデウスエクスをも圧倒するほどの、あらゆるものを破壊する腕力が、この『鬼神』とも呼ばれるデウスエクスの特徴だ。
「惨殺ナイフに似た小刀を扱うようですが、凄まじい怪力で繰り出す刃の破壊力は、ドラゴニックハンマー並……かもしれません」
 しかもその力を、飢餓のあまりに見境なく振り回すであろう相手。時間を掛けて戦うにも相応の戦術が必要となるだろう。
「オウガを滅ぼさずにコギトエルゴスム化させることができれば、オウガや女神ラクシュミとの関係に良い影響があるかもしれませんが……無理に時間稼ぎをして一般人に被害が及んだり、皆さんが倒れることになっては元も子もありません」
 ケルベロス達を見渡すと、念を押すように、セリカはうなずいた。
「くれぐれも、お気をつけて……どうか、お願いします」


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
軋峰・双吉(キノコグルメ使い・e21069)
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)
ルーナ・エフェメリス(月の星読み・e43420)

■リプレイ

●渇
 響き渡る轟音が、冬の森の清冽な空気を切り裂く烽火となる。
「参ります!」
 天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)が掲げた大得物の吐き出す竜砲弾が、山道を降りてきた小さく青白い影の足元で炸裂した。
 もうもうと立ち上る土煙が晴れる間もあろうか、マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)の全身から射出された無数のミサイルが、白い尾をたなびかせて土煙の中へ集中砲火を浴びせる。
 息をもつかせぬ熾烈な速攻、これが普通の生物であれば塵すらも残さないほどであっただろう、が。
「さて、どうかしら」
 小さく息をついて手中の棍を構え直したマキナだけではなく、戦場に集ったケルベロスの誰もが、標的を包んだ白煙へと視線を注ぐ。
 ほどなく煙が晴れ、現れたのは、頭や背中から角を生やした少女。その身体は土埃に塗れてはいても、目立った傷や苦痛の色は見られない。
 ただ、小刀を掲げたその顔には、その大きく見開いた翠色の目には、警戒と威嚇、そして渇望の表情が浮かんでいた。

「やっぱり手強いね。でも、ここからは一歩も進ませないの」
 と、道の真中に立ちふさがったエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)は少女を――ゲートから顕現したオウガの一体を、真っすぐに見据えた。
 ケルベロス達が少女と対峙するこの地、吉備の中山細谷川は吉備津神社にほど近く、風光明媚で知られている。
 山中の古墳周辺から現れたオウガが、グラビティ・チェインを狙って節分の祭で賑わう神社へと降りていく際、この隘路から出る瞬間を狙って、ケルベロス達はオウガの進路を塞ぎ、さらには挟撃する態勢で迎え撃っていた。
 そんな、エルス達の背後に続く道の先には、お祭りを楽しみにやってくる人々がいる。
 背負っているのは、人々の命。その重さを決意の心に変えて、エルスは毅然と手をかざす。その指に輝くマインドリングの光が盾の形状を為してメアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)を包み込んだ。
 ありがとう――、と視線と仕草で丁寧に一礼してみせたメアリベルは、楽しげにくるりとステップを踏んで少女の前へ進み出る。
「メアリはアナタと仲良くなりたいの。ねえアナタ、お名前はなあに?」
 歌うように告げ、首を傾げるメアリベルへと、少女は足を踏み出し近づいてくる。だがそれは、言葉に応えて、というより、敵を――あるいは獲物を認識した獣のような敵対反応。
「……答えることもできないのね。なら鬼ごっこして遊ぶのはどうかしら。ほら、マフェット嬢のおでましよ!」
 弾む声とともに、メアリベルの眼前の空間が歪んだかと思うと、染みだした黒い渦が巨大な蜘蛛へと姿を変え、少女を絡め取るように大量の粘糸を紡ぎ出す。
「――アナタの隣に腰掛けても、驚いて逃げちゃダメよ」
 とメアリベルが微笑むと、傍らのママも口を開いて音のない歌を紡ぎ、地面に散らばった枯れ枝を飛ばして敵を切り裂く刃となす。
 少女は小刀を振り払い、纏わり付く粘糸や枯れ枝を切り払うと、甲高く短い叫びをあげてメアリベルに迫った。
「こっちのグラビティチェインも美味いぜ?」
 側面からの声、飛来する弾丸に、少女は高速で小刀を薙いで打ち払おうとするが、一撃の思わぬ重さに一瞬身じろぐ。
 軋峰・双吉(キノコグルメ使い・e21069)が放てば、只の石礫も重量を乗せた凶器となるのだ。

 多方面からの攻撃に少女は標的を定めかねて視線を巡らせる……その先に、悠然と佇む櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)の姿もあった。
「ああ、グラビティチェイン欲しくば我らを倒すがいい……無力なる者たちより上質であろうぞ」
 悠雅の左手から伸びた黒い鎖が、悠雅自身も含めて前衛のケルベロス達を囲む守護陣を描き出す。
「わたしも、護るの……みんなを」
 ルーナ・エフェメリス(月の星読み・e43420)は槍を両手でぐっと握りしめ、ヒールドローンの一群を展開していく。
 その槍先でくるりと輪を描いて羽ばたいた白いボクスドラゴン――アルマが煌めくブレスを放ち、凍てつく冷気が少女の体力を削り取る。
 視線を交わす、白と白。戦いの経験は、仲間達のようには無いけれど。それでも、抑揚の薄いその言葉の奥に抱く想いは、仲間達と変わらない。
 護る者と並び立つのは、癒す者。ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)の頭に咲いた決意の華が揺らめき、光を放つ。
「癒し手の決意を今此処に! 『決意の華冠』!」
 痛みから、苦しみから、飢えから、すべての人々を救いたい――ウィッチドクターとしての決意を込めた暖かな光がマキナの身体へと吸い込まれていき、マキナの持つ癒しの力をさらに増幅させた。
「皆さんの治療、これで大分楽になる筈です」

 未知の相手を警戒するように小刀を眼前に構え身を屈めていたオウガの少女が、弾かれたように駆け出して一直線にゼラニウムの喉元を狙う。
 その動きを軽快していた双吉が瞬時に立ち塞がり、ルーナの展開した防衛用ドローンもそれに追従する。
 だが、迅雷の速さで少女が突き出した小刀はドローンを破壊し、速度を緩めずに悠雅の張った魔法陣をも貫いて双吉の腕に突き立った。
「……ッてェ……!」
 まるで巨大な重量を伴うかのような小刀の一突きに双吉の身体が弾かれる。二重の防衛陣を敷いていなければ、そして咄嗟の判断で半歩下がっていなければ、片腕を持って行かれたかとも思える一撃。
「超パワーと華奢さのギャップってーのは一つの様式美的少女像だよなァ……」
 俺ァ守られるような感じの娘になりたいがね、と双吉は戯けるように肩をすくめながらも、血に染まったその腕は九尾扇を握る事すら辛そうに見受けられた。
 盾も破られ、もう一撃が来れば只では済まないだろう――エルスはそう判断し、再び光の盾を喚んで双吉の元へと展開する。
「こんな強いデウスエクスは、これ以上敵にしたくないね」
 今は住民達を護るためにオウガと戦ってはいるが、彼女たちオウガが信奉する女神ラクシュミは、ケルベロス達とも何度か共闘しているように、目下のところ敵対しているわけではない。
 そこにオウガと友好を結ぶ好機がある、とエルス達は考える。そしてその好機を掴むために、オウガを滅ぼすのではなく、グラビティ・チェインを枯渇させてコギトエルゴスム化させることを狙っていた。
 それにはまだ、あと少しの足止めが必要となる。時間にして、10分あまり。
「やはり、出来うる限り耐え忍ぶ事が肝要ね。支えてみせるわ」
 と頷いて、マキナもヒールドローンを展開し防衛態勢を固めていく。

●耐
 倒すのではなく、耐える。
 そんな普段とは異なる戦闘に対応するため、四人のケルベロス達がディフェンダーとしてオウガの進路を塞ぐように陣取り、後方に控える仲間達への攻撃をできるだけ防ぎながら、状況によって回復を、あるいはオウガの猛攻を鈍らせるために弱体効果を重ねていく。
 後方のマキナとエルスは傷を癒やしながら前衛を護る盾を張り重ねていき、中衛のゼラニウムは二人に癒しの力の強化を、敵には弱体をばらまいていく。
 同じく中衛に立つカノンは、中距離から繰り出された少女の刺突を寸前でかわし、反撃とばかりに石化の光線を放ち、僅かながらも少女を怯ませる。
「どうか、その牙をお納めください」
 少女のオウガはそのような弱体効果を打ち払う術を知らないのか、徐々にではあるがその刃を鈍らせていくようだった。
 だがそれはすなわち、回復手段を捨ててもケルベロス達に牙を突き立て続けてくるということでもある。少女の繰り出す一太刀の重みが、グラビティの力では回復できない傷をケルベロス達に刻みつけ、長い持久戦は少女の一撃を危険なものに変えていく。

「お腹がすいてるなら、メアリを食べてごらんなさい」
 楽しげな声色と裏腹に、メアリベルの身体にも幾筋もの傷が開き、痛みに一瞬表情を歪ませる。
 それでも。メアリベルがくるくる、ママと一緒にステップを踏めば、妖精の靴に触れた土からは花が咲き、舞い散り、仲間達の傷を癒やしていく。
「地獄の鎖、かの者を切り刻め」
 悠雅の周囲に地獄の力が凝り固まっていく。
 錬成された深緑の縛鎖が少女に巻きついて締め上げ、そして引き抜かれ、裂傷を負わせた。
「ァァァ……!」
 怒りの声を上げ、横薙ぎに払った少女の小刀が、ドラゴニックハンマーの如き破壊力をもって前衛に立つ四人を弾き飛ばした。
「Code A.I.D.S……」
 仲間達の傷の深さを見て取ったマキナが起動コードを告げ、己のグラビティから蒼く輝くクリスタルを生成し、癒しと弱体除けの力を展開していく。

 手分けして傷を塞ぎながら防御を固めるケルベロス達、だが全てを回復しきらないうちに少女が次の一撃を見舞うべく、無数の小刀を召喚する。
 腕力に任せて一斉に投擲した刃の雨は、後方に控えるエルスとマキナを狙って降り注ぐ。
 癒し手を失えば、持久戦の天秤は一気に苦しいほうへ傾いてしまう。悠雅が咄嗟に身を挺して飛び込み、全身に刃を浴びて膝をついた。
「……させぬぞ」
 荒い息を吐くと、長い赤髪が揺れる。艶やかな和服が無残に破り割かれ、髪よりもなお紅い色に染まっていた。
 そして、少女もまた、返り血とも、自らの血ともつかない紅に全身のあちこちを染めている。
 しかし、それ以上に目を奪われるのは、少女の青白い膚、見開いた翠の瞳、開いたままの震える口元。
「飢えに狂った可哀想なオウガ……辛いでしょうね。メアリが今、助けてあげる」
 囲みを破ろうと駆け出す少女の前にメアリベルが立ちはだかった。傍らのママがふわりと少女の頭上に浮かび上がると、霊的な呪縛が少女の腕を痺れさせ、振り上げかけた小刀を少女は取り落としそうになる。
 そして、白い髪と肌のルーナもまた、少女のことを見ていると、どこか他人と思えない気持ちにとらわれてしまう。
「苦しいと、思うけど……あなたを……助けたいの」
 皆を鼓舞するように槍を掲げたルーナが、これがもう何度目か、ヒールドローンを展開する。
 何度壊されたとしても。仲間達を護るため。そして少女を、救うため。
「かつての飢餓ローカストを思い出します……あの時は、極僅かしか救えませんでしたが」
 もう同じ結果を繰り返したくはありませんから――と、ゼラニウムは左腕に携えたバックラーブレイドを掲げ、敵ではなく仲間達の痛みを取り除くための刃として、ウィッチドクターの力を振るった。
 そして、カノンもまた得物の代わりに翼をはためかせ、癒しの力を込めた柔らかな極光で仲間達を包む。

 常に無く消耗と持久を強いられる戦いに、誰もが痛みを負っていた。
 少女だけではない、ケルベロス達もまた苦しみながら戦っているのだ。
「あと、一息……なの」
 ずっと回復を担ってきたエルスも、そしてマキナも、残る力を振り絞って仲間達の傷を癒やす。
「カワ、ク……」
 少女は絞り出すような声をあげ、ケルベロス達の隙間を狙って駆け出した。
「あ……だめ……!」
 止めようと少女の身体を掴んだルーナを突き飛ばすように、少女は全身の力を込めて小刀を繰り出した。
 腹部を深々と貫いた刃に、ルーナは、あっ……とひと声を上げ、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。
 全身の力が抜けていくのを感じる、それでもルーナは怯えたりしなかった。……みんなを、信じてる……から。
 ルーナの手を振りほどき、なおも逃げようとする少女の眼前に、双吉が立っていた。
「誰の命も、やるわけにはいかねぇんだよ」
 脚の痛みに歯をくいしばりながら身構える双吉の元に、しかし少女はそれ以上近づくことができなかった。
 グラビティ・チェインを使い果たした少女は、小さなため息のような、あるいは声にならない言葉のような何かを残し、その姿を丸い宝石へと変えたのだった。

●鍵
 直後、誰からともなく道の上に座り込み、深い息をつく。
 デウスエクスを倒さないように、時間をかけて耐えるという持久戦。苦しくはあったが、それに見合うだけの成果を得ることができたといえるだろう。
 深傷を負っていた悠雅とルーナも、少し休息を取れば無事に帰れそうだとわかり、仲間達は胸をなでおろした。

 エルスは道の上に転がったコギトエルゴスムを手に取り、そっと話しかける。
「次に目覚めたら……敵としてじゃなくて、ちゃんと話し合いたいよね」
「ええ。今度は友として隣にありたいものです」
 傷ついた木々や山道をヒールして回っていたマキナが頷くと、メアリベルはコギトエルゴスムを覗き込むようにして首を傾げてみせた。
「目が覚めたら、今度こそメアリ達にお名前を聞かせて頂戴ね」
「もう、飢えることもなければ良いなァ。……いや、大丈夫さ。俺みたいな奴にも食い物分けてくれる仲間ができたんだ」
 双吉はふと昔を思い出す。アァ違いない、ましてや少女ならな、と口元を綻ばせた。
「我思う故に我在り――コギトエルゴスムにはそのような意味があるそうです」
 貴女が自らの意志を取り戻し、貴女の存在を知らしめんことを。カノンは祈るようにそう告げた。

「それにしても、今になってこの様な事が起きるとは……何かの先触れなのでしょうか」
 ゼラニウムの心掛かりに答えを与えられる者は、もちろん居ない。
 それでも、今はこの、宝石と化した少女が、未来を拓くための鍵となってくれることを願うばかりだった。

作者:朽橋ケヅメ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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