オウガ遭遇戦~小さき破壊神

作者:ハル


 鏡のような巨石が、キラリと光を反射させる。その光に誘われ、そちらに注意を向けてみれば――。
「ウ……グルゥゥ!」
 日本屈指の本殿を有し、大吉備津彦命を祀る吉備津神社にほど近い山中――岡山県中山茶臼山古墳周辺では、人々の脅威となる存在が、続々と出現を始めていた。
「……ガッ、タリナイ……タリナイイイイイ!!」
 長身の成人男性とそれほど変わらぬ体躯ながら、頭部と背中からせり出した『黄金の角』は、飢餓から唸りを上げるソレが決して人ではない事を証明し、白濁に濁る瞳と口端から漏れる泡となった唾液は、一目で話し合いの余地はないと見る者に知らしめている。
「アガアアアア! グラビティ・チェイン、ヨコセエエエェェェッッ!!」
 ソレ――否、紛う事なき鬼神は哮り狂う。
 一歩踏み出すごとに大地に罅を走らせ、手にした鉄塊剣で大木を粉々に粉砕しながら。
 黄金の角が極光を纏う。そのゾッとする程の熱量が放散される時は、きっと遠くはないだろう。


「リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)さんら3名が調査を進めてくれていたおかげで、例のオウガについての情報を得る事に成功しました」
 会議室に集められた8人の前で、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はまずそう切り出した。
「場所は、岡山県中山茶臼山古墳周辺。ただし、1体や2体ではありません。多数のオウガの存在が確認されています」
 大規模な作戦の予感に、唾を飲むケルベロス達。
 出現時刻は、2月3日。しかし、ゲート位置に関しては残念ながら未特定だ。
「オウガの状況に関してですが、極度のグラビティ・チェイン枯渇状態にあるようです。そのため知性を失っており、人間を殺戮してグラビティ・チェインを簒奪しようというのが、出現の動機になっている模様」
 無論、話し合いに意味はなく、解決方法は矛を交える以外にない。
「オウガは、吉備津神社方面に移動を行っています。2月3日といえば、そう、節分の神事ですね。オウガは、大勢の人々の後を追っているのでしょう。そこで、皆さんには『中山茶臼山古墳から吉備の中山細谷川までの地点』にて、オウガの迎撃をお願いしたいのです」
 中山茶臼山古墳周辺には、オウガが好むという、表面が鏡のように平板な鏡岩などの巨大遺跡が存在している。オウガは、その巨石周辺に現れる確率が高い。
「もう一つの迎撃場所としましては、吉備の中山細谷川の隘路の出口が候補になります。何故なら、この場所はオウガが移動先に向かう際に、必ず通過する場所となっているからです」
 セリカは一息吐くと、オウガの詳細を纏めた資料を配る。
「オウガは、鉄塊剣を用いた近距離攻撃に加え、頻度は低いですが、角に溜めた熱量を放散させる極めて強力な列攻撃を行ってきます。単純な力の凄まじさは他のデウスエクスをも圧倒するとの事ですから、戦闘時は細心の注意であたってください」
 また、前述したようにオウガは、グラビティ・チェインの枯渇状態。ゆえ、補給が遅れるとコギトエルゴスム化してしまう。オウガには、一刻の猶予もないのだ。
 迎撃地点は、先の二カ所。セリカが、それぞれの利点、欠点について言及する。
「中山茶臼山古墳と、その巨石周辺に関してですが、人通りもないため、周辺の被害は想定しなくてよく、戦闘に集中できます。グラビティ・チェインの枯渇までの猶予は20分。それだけの時間があれば、戦闘をある程度引き延ばしても、コギトエルゴスム化の前に決着が着くでしょう」
 ならば、吉備の中山細谷川の隘路の出口はどうか。
「確立は非常に低いですが、オウガを素通りしてしまう可能性が僅かにある巨石周辺とは違い、確実に迎撃できるというのが、最大の利点ですね。ただ、ここを突破されてしまえば、一般の人々に多大な被害が出てしまう事は必至です。コギトエルゴスム化が始まるのは、戦闘開始から12分程度だと推察されます」
 最後に、オウガをコギトエルゴスム化する事による利点だが、これはオウガの女神ラクシュミに、好印象を与えられる可能性があるという事。
「ただし、オウガは非常に強い相手です。さらに死に物狂いで攻撃してきますから、戦闘をわざと長引かせる際は、優れた戦術が必要になってくるでしょう」
 粗方の説明を終え、頭を下げるセリカ。どの迎撃ポイントで、どういった戦術を採用するかは、ケルベロス達に委ねられる。
「まずは、オウガに対する勝利を第一条件に。そして、一般の人々に被害を出さないよう……ですね。ただ、やりようによっては、今後のオウガとの関係を良好にもっていける可能性もあるので、難しい所ですね」


参加者
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
暁・歌夜(境界の寵児・e08548)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
クリスティーナ・ブランシャール(抱っこされたいもふもふ・e31451)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)

■リプレイ


「美しいわね」
 ここ最近の寒波の影響か、中山細谷川周辺には薄らと降雪の名残。ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)は、景色にフッと白く熱い息を吐き出した。
 元より、古くから歌人、文人に愛されてきた地でもある。整備された場所もあるが、視線を飛ばせば切り立った岩場などもあり、歴史を感じさせた。
「――境界形成。これで人は来ないが、突破されては意味がない。ここで食い止めよう」
 だが、いつまでも情緒に浸っている訳にもいくまい。ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)が、鞘に収めた境界剣で軽く地面を小突くと、殺気が山々の枯れた枝葉を揺らす。
「出来る限りの事を成しましょう」
 そして、ハルの殺界が至らぬ範囲は、暁・歌夜(境界の寵児・e08548)がカバーを。
「ああ、和解できる道があるのなら、その道を選ぶのは悪い選択じゃない……俺はそう思う」
 アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)が、橙のスカーフにそれとなく触れながら、そう告げると――。
「来たぜ? ……俺達がやられれば被害が出るとなりゃ、やる気振り絞るしかないわな」
 ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)は、足元に揺れを感じた。その揺れは次第に大きなものになっていき、やがて揺れに加えて、隘路の出口に陣取るケルベロス達の元まで届く極大の殺気。
(なにもたべられなくて、でもしねもしないの……つらいよね? にいさまにひろわれるまえ、わたしもそうだったから、わかるの……)
 その殺気の中に宿るオウガの苦しみ。クリスティーナ・ブランシャール(抱っこされたいもふもふ・e31451)には、その苦しみが、まるで我が事のように理解できる。
「ローカストの時は……倒すしか……なかった……でも……今回こそは……」
 フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)の胸中に未だ残る、苦い記憶。あの時の二の舞を、再び繰り返す訳にはいかない。
 クリスティーナが覚悟を決めると、応じるようにフローライトは、「……ん」そう小さく首肯する。
「……哀れだな」
 宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は、数十メートル先に影を表したオウガを見て、一瞬瞳を閉じる。オウガは鋼のような筋肉を纏っているにも関わらず、双牙には枯れ木のように見えたからだ。事実、オウガは枯れ木なのだろう。こうしている間にも、命を燃やさなければ立つこともできないのだから。
「最低でも人里への襲撃は、止めなくてはならん」
 双牙が、最後の状況確認を仲間と行った瞬間――。
「グラビティ・チェイン、ヨコセエエエェェェッッ!!」
 ケルベロス達を捕捉したオウガが、命に薪をくべるべく、猛然と駆け出すのであった。


「ロア、クリスティーナ! 守りは頼んだぜ!? それと――」
 ――俺達の光、上手く受け取れよ?
 大地に無数のひび割れを発生させながら迫るオウガを前に、アバンが同胞の霊魂を力に、光を前衛に瞬かせる。
「状況開始、標的を無力化する。相手は鬼神、死力を尽くすぞ!」
 間近に迫る、十字に構えられたオウガの鉄塊剣。挨拶代わりの一撃に、垂れる長髪を白に変化させたハルは、境界鎖剣で守護領域を拡大しつつ、受け止めようと両脚を踏ん張った。
 が――!!
「これが死に体の力かよ!」
「正常な状態なら、どれ程のものか、真っ向勝負を挑んでみたいところではあるが……」
 その実力は、ロアと双牙に舌を巻かせるに十分なもの。守護の上から切り裂かれたハルが、数メートルの距離を引きづられていく。
 ロアが、ドローンを展開して、すかさずハルを援護。次の攻撃に備え、双牙が光の楯で身を固める。
「……これ以上……進ませない……」
「アガアアアァァ! タリヌ、タリヌタリヌ……ウエガ、ミタサレヌッッ!」
 鉄塊剣を振り回し、猛威を振るうオウガ。瞬く間にBSが積み重なっていく前衛に、フローライトは雷の壁を築きく事で、耐性を付与させる。
「いっぱんのひとたちのところには、ぜったい、ぜったいいかせないの!」
 包囲に解れがないように、ダメージを受けた者の穴をカバーし合いながら、クリスティーナは光の盾を纏う。再度の十字斬りが放たれれば、クリスティーナは積極的に前に出て、仲間を庇った。
(……これ程の戦力をこちら側に引き入れることができれば……!)
 味方にならぬまでも、敵にならないだけでも大きな価値がある。歌夜は耐久戦の価値を確信に変えながら、地面に描いた守護星座を発動させる。歌夜にとって何よりも今は、狙われればほぼ確実に付与されるであろう毒の治療が急務であった。
「まるで獣ね、美しさの欠片もないわ」
 ドレスの裾を優雅に翻しながら、瞳に侮蔑を混じらせたベルベットが手を掲げる。
「全てを閉ざす極寒の檻、愚かな者を永久の眠りへ導け! 氷結の牢獄!」
 その瞬間、極限まで低温化された大気がオウガに纏わりつき、その周辺を凍結させる。
「本当に技術も何も無い力任せの攻撃で、美しくない……のだけど」
 ベルベットが目を細める。その眼前で、黄金の角を激しく輝かせたオウガは、冷却された大気をものともせず、再び鉄塊剣を振り上げた。
「イ゛イ゛ア゛ア゛アアアア!!」
 放たれるは、大規模な範囲を覆い尽くす強烈な旋風だ。
「助かる!」
 アバンが、旋風が直撃する間近で割って入った双牙に感謝を。そのままアバンは、稲妻を纏わせた槍でオウガに牽制を加え、追撃を防ぐ。
「気にするな、これが俺の仕事だ」
 双牙はそう告げ、傷口を押さえながら首肯する。それにしても――。
「……なるほど、確かに鬼の力というに、相応しい、な」
 オウガの攻撃を前に、気を許せる瞬間などありはしない。持ち前の暴力的な力が、単体攻撃だけでなく、列攻撃をも危険な技へと押し上げている。無論、仲間全員で重ねた【盾アップ】によって、時折威力は幾分か減衰させる事に成功はしたが。
「旋風の如く疾く鋭く、重ねる刃、巨岩を削り、穿ち貫く――スクリュー・パルバライザー……!」
 12分を耐え抜くため、跳躍した双牙が弾丸の如く回転しながらオウガと激突する。それにより、オウガの足取りが僅か鈍った。
「私を倒さない限り君の目的は果たされない。来るがいい鬼神、気の済むまで付き合ってやる」
 それにより、ハルの放つ心象領域から生み出された大量の刀剣が、高い命中力を糧に最大以上の威力を発揮する。四肢を深々と切り裂かれたオウガの澱んだ瞳が、ハルを射貫くと、
「オマエ……! オマエカラダッッ!」
 怒りの感情を触発されたオウガの矛先は、早速ハルへ。
(メディックもまだ動いてないし、ハルの耐性はオウガと相性がいいはずだ)
 圧されるハル。だが、まだ多少余裕がある事を見抜いたロアが、冷静に、次は後衛にドローンを展開する。
 すると、ロアの考え通り、すかさずフローライトが動いた。
「フローラが……あなたの事……守る」
 フローライトの人差し指から放たれた光が、ハルに大きな癒やしを与えたのだ。
「あなたをしなせなくないの。わかって、なの!」
「ウエ……ミタサレヌ……コノママデハ! ア゛ア゛ッ!」
 クリスティーナの呼びかけにも、オウガが返すのは飢餓からの解放……すなわち殺戮と、グラビティ・チェインを望む嘆きのみ。
「……っ」
 クリスティーナが、エネルギー光弾でオウガを狙い撃つ。その表情には、オウガを救いたいが、だがそのためには攻撃しなくてはならない……そんな矛盾を孕んだ苦悩が浮かんでいる。
「オウガ……私と、そしてあなた達の女神の美しい姿を思い出して、少しは美意識というものを学びなさいな」
 ベルベットが前髪を払う。垣間見えた紅い瞳と美しい相貌、そして自信に満ちた表情は呪いの域にまで達し、オウガの身体をその場へと縫い止める。
「今です!」
 それを隙として、歌夜はドローンを展開。ポジション効果と合わせて、前衛を取り巻く【武器封じ】を駆逐する。
 その時――。
「ガオ゛ア゛アア!」
 動きが鈍っていたオウガが角に凄まじい極光を溜めると、その鈍さが一気に緩和される。背中と頭部の角が、ドクンッと、脈動するような気配。極光は、ついに臨界点に達しようとしていた……。


 ピピピピ……ピピピピッ!!
「6分よ!」
 ベルベットが告げる、一度目のアラーム音。
「……ふむ、これで半分か」
 膝を突いていたハルが、咆哮を上げて体勢を整えた。攻撃は最大の防御とはよく言ったもので、ケルベロス側が手数が足りずにオウガの行動をなかなか制限できない一方、挑発してオウガの注目を一時浴びていたハルなどは、メディックの奮闘やBS耐性はありつつも、毒の影響がジワリと表面化してきていた。
(クリスティーナはまだやれそうだが、ロアはハル程じゃないが疲労が濃いみたいだな)
 アバンが、ギリッと歯を噛みしめ、ファミリアロッドをオウガに向ける。
「この先にいる人達を殺す以外にも、他に道があるんだよ!」
 飛び出したアバンのファミリアは、オウガの肩口を抉り、蝕む帯電を色濃くする。
 そして、消耗しているのは前衛だけではなかった。
 何故なら――!
「また来るわよ、アレが!」
 ベルベットが警戒を呼びかけると、ふいにオウガの角が目を開けていられない程に発光する。
「わたしにまかせて、なの! ハルくんと、ロアくんは、やすんでてなの!」
 オウガを包むのは、夥しい熱量。角から一点を狙って放たれた極光熱線が、狙われた後衛……フローライトの前に陣取るクリスティーナの肌を焦がし、ふわふわとしたピンクの髪の一部を溶かす。
「……クリスティーナ……まだフローラも、あなたも……倒れる訳にはいかない……」
 フローライトが、クリスティーナの前に盾を浮かべ、なんとか熱線を食い止めようとすとする。
 だが、その他にも、歌夜とベルベットに、続けて背中から放たれ拡散された熱線が降り注いでいた!
「これはっ……!」
 寸での所で歌夜を庇いに入った双牙が呻く。直前で重ね、上手く発動した光の盾の上からでも、その威力の程は凄まじい。
「ありがとうございます! でも、あと少し、耐えてください!」
 双牙に守られながら、歌夜が剣と共に歌声を戦場に響かせる。共鳴し、光を放ついくつもの魔法陣。それにより、身を苛む酷い火傷が、少しづつではあるが緩和される。
「クリスティーナ、待ってろよ!」
 キュアが足りないならと、ロアも急いで気力を溜め、ヒールに力を注ぐ。
「……チッ、せっかくの一張羅が台無しよ」
 熱線の直撃を受けたベルベットもまた、ボロボロになった優雅なドレスに悪態をついていた。だが、万全を整えた耐性のおかげで被害は最小限に食い止められたようだ。

 ……まだ、誰も倒れてはいない。慣れぬ戦いに、守備を固めながら、さらに1分……2分と経過。
 そして……。

「ここは通せない」
「ガアアアアアアアッッ!!」
「――――ッッ」
 今度は前衛を薙ぎはらうようように放たれた熱線の前に、回復不能ダメージが最も蓄積していたハルが、ついに倒れる。

 そして、10分を報せるアラームが鳴り響く頃――。
「ロア!」
「誰も死ななくて良い。その道があるなら、こうして体を張るのは当然だろうが!」
 ハルが倒れた後、アバンにまで影響の及ぶ旋風を前に踏ん張るロアが、ガクリと膝を突く。ハルが倒れた後、耐性の薄いクリスティーナと双牙よりも、積極的に熱線に対応した影響であった。序盤こそDf同士で分担しあっていたが、終盤になると無理が出てくるのは、仕方の無いこと。まして、ロア以外の二人も、強力な単攻撃に主に応対してくれているのだ。
「諦めが悪いのが性分でな……お前も、死なせねえ」
 倒れる間際、ロアはニヤッとオウガに不敵に笑いかける。
「……うん。あとのことは、わたしがひきうけるの!」
「あら? この私を忘れてもらっては困るわよ!」
 クリスティーナは最終盤に向け、ベルベットの怪力で弾かれるオウガを見据えながら、浮遊する光の盾を纏うのであった。


 12分まで、あと幾許もない。ここに来て、クリスティーナと双牙を守護する【盾】が、安定して発動を。
 だが、ロアが倒れた事を切っ掛けに、フローライトと歌夜がDfに移動した事で、中山細谷川では激しい消耗戦が繰り広げられていた。
「……葉っさん……出番……ここに留まって貰うよ……」
 迫る二刀の鉄塊剣を前に、右半身を前面に押し出すようにしたフローライトが、葉っさんとシールドに加え、偽翼による機動力を用いてオウガを抑え込む。
「圧倒的小細工で、封じ込めてやるぜ!」
 あと、ほんの僅かのはず。アバンが、真面目な表情で盆踊りのような踊りを舞うと、前衛を美しい花びらが癒やした。
「止める、なんとしても!」
 だが、その合間も、オウガの死に物狂いの反抗は止まらない。ポジションチェンジの隙を潰すため、虹を纏った急降下蹴をオウガに浴びせ、猛攻を受けている双牙が、崩れ落ちる。
 フローライトがシャウトで回復する時間を稼ぎつつ、なんとか行動阻害を試みようと、光の剣で斬り掛かるクリスティーナの支援を受けながら、
「ここからは私が!」
 双牙の後を引き継ぎ、最前線に立つのは歌夜。剣を配置しながら、ポジティブな歌で仲間を鼓舞し、耐える彼女の前で、鉄塊剣を振り上げたオウガが、まったく見当違いの方向に剣を振り下ろす。
「オウガを見て! 宝石化が始まっているわ!」
 そして、傷口から溢れる深紅の血を撒いていたベルベットが、歓喜と共にオウガを指さす。
「ア゛……アア゛……」
 枯れ木という第一印象をより強くした印象の、オウガが止まる。やがて、オウガは空を見上げた。そこに宿るは無念か、それともやはり飢餓か。
 ともかくオウガは、次の瞬間、一つの宝玉と化し、ケルベロス達の足元に転がった。

 ハルを移送するための連絡を終え、ロアと双牙が無事に意識を取り戻した中山細谷川で――。
「ダメですね。観察した限りでは、何も分かりません。……少なくとも、現時点では」
 オウガのコギトエルゴスムを見つめていた歌夜が、ゆっくりと首を振った。
「この戦いの先に、どんな行き先を導くか……」
 さすがに疲れた様子の双牙。だが、実際は何も終わってなどなく、むしろここからが重要でさえあった。
「でも、わたしたちいがい、だれもきずつかなくてよかったの……」
「まぁな」
 クリスティーナが、ホッと安堵。ロアも頷く。クリスティーナは、コギトエルゴスム化したオウガを、大事そうに掌で包む。
「でも……どうして……今迄事件が起こらなかったんだろう……?」
 それが気になる……そうフローライトが、ポツリと呟く。
 誰もが抱く疑問。だが、少なくともそれに答えられる者はその場におらず、ケルベロス達は自然と、オウガが出現したという中山茶臼山古墳周辺に視線を向けるのであった。

作者:ハル 重傷:ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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