オウガ遭遇戦~鬼を迎え討て!

作者:宮下あおい

 山中の巨石群、現れたのは黄金の角を生やした鬼神。
 外見は人間とほとんど変わらないため、その角が異様さを際立たせる。
 鬼は奇声をあげ、拳ひとつで巨石を粉々に砕く。文字が刻まれた斧を振り回す。軽々と片手で巨石を持ち上げ、まさしく鬼の形相でその腕力を誇示するかのように投げ捨てた。
 グラビティ・チェインが枯渇したオウガは、知性もなく、とても話し合いなどという状況ではない。
 オウガ。頭部や背中から黄金の角を生やした、鬼神と呼ばれるデウスエクス。他のデウスエクスをも圧倒するほどの凄まじい腕力を持っている。

●急行
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は集まったケルベロスたちに向けて説明を始めた。
「皆さんが探索を進めてくださったことで、岡山県中山茶臼山古墳周辺にオウガが多数出現することが予知されました。オウガの出現は2月3日というのは分かっていますが、彼らのゲートまでは特定することが出来ませんでした」
 出現するオウガは強度のグラビティ・チェインの枯渇状態であり、知性が失われている。そのため人間を殺して、グラビティ・チェインを強奪しようと試みる。
 話し合いなど出来る余地はなく、戦うよりほかはない。
「オウガは節分の神事で人が集まっている吉備津神社方面に移動するようです。 皆さんは、中山茶臼山古墳から吉備の中山細谷川までの地点でオウガの迎撃を行ってください」
 迎撃ポイントは2つ。中山茶臼山古墳周辺には、表面が鏡のように平板だという鏡岩を始めとした巨石遺跡が多くあり、その巨石の周辺にオウガが現れる事が多い様子。巨石周辺で迎撃するか、あるいは敵が必ず通過する、吉備の中山細谷川の隘路の出口で迎撃だ。
「武装ですが、文字が刻まれた斧のようです。またグラビティ・チェインが枯渇状態のまま補給しないと、コギトエルゴスム化してしまいます。その前に人間を殺して、グラビティ・チェインを奪おうとするようです」
 迎撃地点のひとつ、出現ポイントとなる巨石群で迎撃した場合、一般人がいないため戦闘に集中すること出来る。ここで戦闘を行った場合、コギトエルゴスム化まで20分程度の余裕がある。
 もう一方、吉備の中山細谷川の隘路の出口。途中の経路は不明だが、オウガは最終的にこの地点を通過する。ここで迎撃することも可能だ。この場合、節分のイベントで人が集まっている吉備津神社に近く、突破されてしまうと一般人に被害が出るため、突破されないように注意する必要がある。コギトエルゴスム化まで12分程度と想定される。
「オウガの戦闘力は高く、敵は常に全力で攻撃してくるので、わざと戦闘を長引かせるような作戦の場合、ケルベロス側が大きく不利になる可能性があります」
 つまりコギトエルゴスム化を狙うなら、どちらの地点で迎撃するにしても、相応の作戦や戦術が必要になるということだ。
 アーウェルはケルベロスたちから質問が出ないことを確認し、締めくくる。
「オウガを滅ぼさずに対処できれば、今後のオウガとの関係が良好なものになるかもしれません。しかし敗北も許されません。皆さんの勝利を信じています!」


参加者
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)
マティアス・エルンスト(次世代非力かわいい第二代団長・e18301)
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)
ティル・フォスター(渇望回帰・e45351)

■リプレイ

●戦闘開始!
 吉備の中山細谷川、細く狭い道の出口。近くでは吉備津神社では節分のイベントが行われており、人も多い。オウガは途中経路で周囲を破壊したものの、人的被害はなかった。ケルベロスたちが待ち受けているのは、中山細谷川の隘路の出口。オウガに突破されれば、神社へオウガが辿り着いてしまう。
 出来るならコギトエルゴスム化し、良好な関係を築きたい。そんな願いのもと、ケルベロスたちは位置につく。
「――きたよ!!」
 フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)がオウガを指さした。見た目は人間、けれどオウガはその腕力を持って、木を薙ぎ倒したり巨石さえも破壊する。
「攻撃フェーズ移行……迎撃開始」
 マティアス・エルンスト(次世代非力かわいい第二代団長・e18301)がSchwert――鉄塊剣を振り上げる。巨大な剣を腕力で御し、単純かつ重厚無比な一撃で叩き潰そうとする。
「グアアアアアーーー!!」
 鬼の奇声。初手であったためか、マティアスのデストロイブレイドは決まった。その一手で、オウガの注意をこちらへ引き寄せる。
 マティアスの攻撃とパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)が分身の術で、仲間の支援に回る。
「支援は任せてクダサイ」
「突破されないようにしないとな」
 黒衣に身を包んだ雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)が高く飛んだ。美しい虹をまとい、急降下し蹴りの一撃。蹴りは決まった。しかし、そのまま足を掴まれ、達也は放り投げられた。
 続いたのは白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)だ。一気に駆け出し、オウガへ向けてドラゴニックハンマーを振り上げる。
「一撃必砕! 全・力・全・開っ!」
 Centrifugal Hammer――セントリフューガルハンマー。敵の直前で一回転し、遠心力を乗せたハンマーの一撃。オウガはその腕力を頼りに、素手で受け止めた。足が地面にめり込む。まゆは反射的に後方へ飛びのく。
「さすがに……侮れませんね」
「神を殺すための業……今は殺させないために振おう! ――神楽火流征魔の太刀がひとつ、流星天翔!」
 神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)の秘剣「流星天翔」――ヒケンリュウセイテンショウ。斬撃を十重二十重に繰り出し、敵を追い詰める。刃の軌跡が流星の如く煌めき、敵の注意を惹きつける。
 3人の連続攻撃の最中、セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)がバイオレンスギターを奏で始める。
「さあ、楽しいライブだ。……鬼さんこちら! なんてね」
 立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏で、味方を奮起させる。回復の効果もあり、先程放り投げられた達也も立ち上がっていた。
「手のなるほうへ」
 フィーラがセラフィの冗談を続け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放つ。フィーラを捕まえようとしたオウガの手は空を掴む。そこを狙ってティル・フォスター(渇望回帰・e45351)の太く長大なライフル銃が炸裂する。
「少しくらい、動かないでください」
 両手のバスターライフルから放たれるのは、巨大な魔力の奔流。巻き添えにならないよう、ケルベロスたちが飛びのいた。
 オウガは側の木を盾に、ライフルの一撃をやり過ごす。盾となった木ごと魔力の奔流が襲えば、あえなくその役目を終えた。
 ケルベロスたちの集中攻撃、とはいえコギトエルゴスム化を狙うため、撃破してしまっては意味がない。
 皆それぞれに加減をしたり、考えて攻撃や回復をするが、戦闘力の高いオウガだけあって手強い。
「――いつかガチンコで、戦える日が来るといいと思うのです!」
 まゆは精神を極限まで集中させると、突如爆発が起こる。オウガの奇声が響くが、大ダメージとは言い難いようだ。
 もちろんオウガと良好な関係になれればと思う。けれど少しだけ全力勝負を挑んでみたいと願望が見え隠れするのは、彼女なりに何か感じるものがあるからだろう。
 オウガの注意がまゆへ向いたが皇士朗が槍を構え踏み込む。
「このままでは戦争になる。止まってくれ……!」
 稲妻を帯びた超高速の突きは、貫いた敵の神経回路をも麻痺させるもの。刃はオウガの脇をすり抜け、抱えるようにがっちりとオウガに捕まった。そのまま振り回され、遠心力をつけて槍ごと投げ飛ばされる。
「皇士朗! 大丈夫か!?」
 達也が皇士朗へ駆け寄り、マインドリングから浮遊する光の盾を具現化した。
 オウガが踏み込み高々と飛び上がった。オウガの狙いは、マティアスだ。
「敵、攻撃軌道……計算完了」
 グラビティこそ使わなかったが、重なる鉄の音が衝撃の大きさを物語る。
 相打ちか。
 いや、互いにダメージを負ったものの、どちらも倒れてはいない。
 パトリシアが味方を癒す桃色の霧を放出した。
「12分タイキューはこれからデスヨ!」
「かげんって、むずかしいわね」
 続いてフィーラがブラックスライムを捕食モードに変形する。紙一重のところで、オウガがスライムを避けた。
「フィーラ、どいて」
 ティルがバスターライフルを向け、エネルギー光弾を射出する。敵のグラビティを中和し、弱体化するものだ。
 その隙にセラフィが更に回復グラビティをマティアスにかける。魔術切開とショック打撃を伴う強引な緊急手術だ。
「……壊すのが先か、守りきれるか、勝負だよ」

●危機
 一進一退の攻防。12分間の激闘は、押しつ押されつつ、いまだ続いている。
「……っ!!」
 まゆが激痛に顔を歪めた。
 ハンマーを振りぬこうとしたその時、正面からオウガの拳が鳩尾に入ったのだ。
 包囲を抜けると思ったのか、オウガが更に止めを刺そうと斧を振り上げ踏み込んでくる。その間に滑り込んだ影がある。
 鉄がぶつかる音が響く。
 皇士朗だ。
「くっ……マティアス!!」
 それに応じ、返事をするより早く、マティアスがまゆを抱え後方へさがった。
「まゆ! 待ってて!」
 セラフィのウィッチオペレーションがまゆを癒した。
 純粋な腕力勝負では、早々勝ち目があるとは思えない。
 フィーラが飛ぶ。
「まだ、おわらない。まだ、まけない!」
 流星の煌きと重力を宿した飛び蹴りはオウガを真横から吹っ飛ばした。
 ここぞとばかりに達也が鉄塊剣を振う。横薙ぎによって強烈な旋風を生み出し、敵を斬り飛ばすグラビティだ。
 オウガは角が折れ、怪我をし、土や枯れ葉で汚れてなおも、その腕力はいまだに衰えていない。
「終点は分かっている。ここは気合の入れどころだ」
 パトリシアが舞い踊る。戦場に美しい花びらのオーラが降り、仲間を癒す。
「ショウネンバって奴ネ。ひとりだって、ピンチにはさせまセン!!」
「もう少し。もう少しで……」
 オウガの動きを止められるかもしれない。後方からの支援に走り回っているティルが、両手のバスターライフルを構えた。巨大な魔力の奔流が敵を殲滅する。しかしまだまだ一撃で終わるような相手ではない。オウガは前転を繰り返し、魔力の奔流がオウガの身体を掠める。
 ふいにティルとオウガの視線が合った。ティルの後ろは山肌。
 突破できると思ったのか、転がった体勢からそのまま飛び上がり、側の倒れた大きな木を目くらましにティルへ投げる。ティルは飛びのき、怪我には至っていない。しかし注意が逸れてしまったことは事実。
 山肌へとオウガが走り出した。
「――逃さないよ!」
 セラフィがケルベロスチェインを操る。精神操作で鎖を伸ばし、敵を捕まえる。
 マティアスが両腕を剣状に変形展開させ駆け出した。
「……薙ぎ払う」
 Befehl "Wirbelwind"――ベフィール・ウィアベルウィント。二刀流の要領で敵へ旋風のごとく斬り込む。
 オウガの背を肩から脇腹にかけて一撃を繰り出した。
 しかし鎖を引きちぎらんばかりの腕力で暴れる。
 捕縛できている間に、ケルベロスたちは再度、オウガを取り囲む。少しでもオウガが動けない間に回復しておこうと、各々回復グラビティを使った。
「倒すよりこれほど困難だとはな」
「良い関係になれたら、いつか正面から戦いましょう!」
 回復したまゆが皇士朗の数歩前に立つ。当然だが良い関係になった後、戦えるかどうかなど分からない。彼女なりのオウガに対しての厚意の表し方だ。
「ダメだ、もうもたない……!」
「いいぞ、セラフィ。無理するな」
 セラフィの言葉に、達也が声をかけた。同時にオウガを捕えていた鎖が解けた。

●終点
 オウガの勢いが落ちてきた。ここまで来ればもうすぐだ。全ての攻撃を正確に当てる必要はない。足止め、翻弄、全力で攻撃はせず、時には回避のみに徹する。
「……これで、最後」
 もちろん狙いをオウガ自身に定めている訳ではない。後1歩となった今、行く手を遮り足を止められればそれでいい。
 バスターライフルから射出されたエネルギー光弾が、マティアスに向けて斧を振り上げていたオウガの足元に着弾する。
「良い関係になれますように」
 まゆはオウガを翻弄するようにハンマーを振りぬくが、手加減攻撃のため通常よりは威力が落ちる。
「今は眠ってくれ」
 オウガの後方から達也が高く飛び、美しい虹をまとう急降下の蹴りを決める。しかし急所は外している。
 奇声とともに倒れ込んだオウガは再び立ち上がろうとしたところに、フィーラのブラックスライムが捕食モードで襲い掛かった。
「血で染まることなんて、ないんだよ。だから、ゆっくり、おやすみ」
 オウガは暴れるが、これまでとは明らかに弱体化している。
「子守り歌、何がいいかな」
 セラフィはコギトエルゴスム化した後に奏でる曲を迷いつつ、今は皆の回復を優先する。
 暴れていたオウガの手が地面へ落ちた。ようやく終わる。
 肉体が消え、魂はコギトエルゴスム化した。
 静寂が戻る。ケルベロスたちはその場に呆然と立ち尽くしたままだ。
 途中で大きな怪我を負った者もいたが、皆の機転ときちんとした役割分担で、乗り越えることが出来た。そのことにようやく実感が湧いたのは、誰からともなく、笑みがこぼれた時だった。
 小さなすり傷、切り傷は全員いくつもある。服も破れや汚れが目立ち、何より身体に残る疲労がここまでの激闘を物語っている。
 マティアスが安堵のあまり、その場に寝転がった。
「……いつか親しくなれたら、どんなこと聞こうかな」
「楽しそうデスネ、マティアス」
「そうだな、楽しみだ」
 パトリシアもその場にへなへなと座り込む。
 皇士朗もマティアスを真似、その場に寝転がる。気持ちの良い青空だ。冷たい空気が更に青さを引き立てるが、激闘の熱が残っており、今のところ寒さは感じない。
「戦火を広げず、困難な戦いの中、みんな無事で終わった。これ以上の結果はないだろう」
 澄んだ青空の下、節分の鬼退治は終わりを告げた。

●甘党vs辛党
「つ……疲れました……」
 かろうじて倒れずに残った木にもたれながらティルが呟いた。普段から表情の変化に乏しいが、さすがに今回は疲労の色が隠せないようだ。愛用の黒のドレスも破れたり汚れたりして、今回の戦闘の激しさを思わせる。
 フィーラが歩み寄り、ゆったりとした仕草でティルの肩に手を置いた。
「おつかれさま、ティル」
 フィーラも表情の変化に乏しいが、やはり同じく疲労の色が隠せない。
 皆それぞれ、少し休憩したり、破壊してしまった周囲の修復や怪我の回復をしている。コギトエルゴスムの回収も既に終わっている。
「さっきまでの戦闘が嘘みたいに静かだね」
「静かデスネ。デスガ、何とか守りきれマシタ」
 セラフィが周囲をぐるりと見回した。戦闘時とは打って変わって、静寂が満ちる。
 パトリシアも安堵したような表情を見せた。
「困難だったがやりきった。仕事の後は、甘いもの……達也、なんだ。その顔は」
「――いや、もともとこういう顔だ」
「ほらほら、2人とも。まぁ、いいじゃないですか。と言いつつ、私も甘党ですが」
 皇士朗と達也の会話に割って入ったのはまゆだ。
「俺は皇士朗に賛成だがな」
 ぽつりとマティアスが呟いた。
 激闘をくぐり抜けたケルベロスたちにとって、仲間とのこんな言い合いも心を癒してくれるものだ。

 こうして甘党と辛党の新たなる戦いをしつつ、ケルベロスたちは帰路につくのだった。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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