オウガ遭遇戦~理性を失った鬼神

作者:なちゅい

●飢餓状態のオウガ
 そこは、岡山県の山中。
「グウウゥゥゥ……」
 地面にある巨石群より、グラビティ・チェインを枯渇させて飢餓状態となった存在が唸り声を上げて現れる。
 外見は人間と殆ど変わらないものの、頭部や背中から『黄金の角』を生やした、鬼神と呼ばれるデウスエクス。
 彼らは、コードネーム「デウスエクス・プラブータ」。通称、オウガと呼ばれる。
 オウガ達は見た目に関わらず、種族全員が他のデウスエクスを圧倒するほどの凄まじい「腕力」を持つ。
「グウウウ、グアアアアァァッ!!」
 飢餓状態となった彼に、理性は見られない。手にするドラゴニックハンマーで全てを叩き潰し、グラビティ・チェインを得ようとするのだろう。
「グアオオオオォォォォ!!」
 全身を鋼のような肉体に包む1体のオウガ。
 見る者を圧倒させる雰囲気を漂わせたそいつは赤く目を光らせ、獲物を探して歩き始めたのだった。

 ヘリポートへと集まるケルベロス達。彼らが関心を持つのは……。
「オウガ、だね」
 やってきたケルベロス達へと、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は一言告げる。
 なんでも、リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)を始めとした数人のケルベロスが探索を進めてくれていた事で、オウガに関する予知を得る事が出来たとのことだ。
「岡山県中山茶臼山古墳周辺に、多数のオウガが現れるようなんだ」
 予知によると、オウガが出現するのが2月3日なのは分かっている。だが、彼らのゲートの位置までは特定できなかったとリーゼリットは言う。
 また、出現するオウガは強度のグラビティ・チェインの枯渇状態である為の知性が失われており、ただただ人間を殺してグラビティ・チェインを強奪しようとするようだ。
「残念だけれど、この状態のオウガとは話し合いは望めない。……戦うしかないよ」
 オウガ達は多くのグラビティ・チェインを求めて、節分の神事で多くの人が集まっている吉備津神社方面に移動すると見られる。
「皆には、中山茶臼山古墳から吉備の中山細谷川までの地点で、オウガの迎撃を行ってほしい」
 中山茶臼山古墳周辺には、表面が鏡のように平板だという鏡岩を始めとした巨石遺跡が多くある。
 その巨石周辺にオウガが現れることが多いようなので、巨石周辺での迎撃か、あるいは敵が必ず通過する吉備の中山細谷川の隘路の出口で迎撃することとなる。
「皆に相手してほしいオウガは、ドラゴニックハンマーを所持する1体だよ」
 筋肉隆々の男性の姿をしたそいつはクラッシャーとして、ありったけの力を相手にぶつけてくる。
 出現するオウガはグラビティ・チェインの枯渇状態なので、このままグラビティ・チェインを補給しないとコギトエルゴスム化してしまう。
 ただ、その前に人間を殺してグラビティ・チェインを奪おうと彼は侵攻してくるようだ。
「迎撃するなら2ヶ所。1つはオウガの出現ポイントとなる巨石群だね」
 この場合、周囲に一般人などもいない為、戦闘に集中することができる。
 ここで戦闘を行った場合、グラビティ・チェインの枯渇によるコギトエルゴスム化まで20分程度かかる為、コギトエルゴスム化の前に戦闘の決着がつく可能性が非常に高くなる。
「もう1つの迎撃ポイントは、吉備の中山細谷川の隘路の出口だよ」
 途中の経路は不明だが、オウガは、最終的にこの地点を通過する為、ここで迎撃する事で確実に迎撃する事ができる。
 ただ、この地点は、節分のイベントで人が集まっている吉備津神社に近く、突破されてしまうと、一般人に被害が出てしまう為、突破されないように注意する必要になる。
「ここで迎撃した場合は戦闘開始後12分程度で、グラビティ・チェインの枯渇によるコギトエルゴスム化が始まると想定されるよ」
 オウガの戦闘力は高く、敵は常に全力で攻撃をしてくる。この為、わざと戦闘を長引かせるような戦闘を行った場合、ケルベロス側が大きく不利になってしまう。
 コギトエルゴスム化を狙うのであれば、相応の作戦や戦術が必要になるだろう。
 一通り説明を終えたリーゼリットはさらに、注意点を語る。
「相手は戦闘力の高いデウスエクスだよ」
 勝利することを前提に考えて戦わないと、敗北することだってありえる。そうなれば、多くの人々に被害が及んでしまう。
 ただ、もしオウガを滅ぼさずに対処することができれば。今後、オウガといい関係を築くことができるかもしれない。
 とはいえ、無理して負けてしまえば、元も子もないが……。
「皆でよく話し合って、できる範囲で作戦を立てて欲しい」
 リーゼリットはそう最後にケルベロスを気遣い、彼らを現地へと送り出すのである。


参加者
光下・三里(マジ天使のフレンズ・e00888)
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
御門・愛華(落とし子・e03827)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
上野・零(原初の零・e05125)
ソフィア・フィアリス(黄鮫を刻め・e16957)
水神・翠玉(自己矛盾・e22726)
ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)

■リプレイ

●人々もオウガも救出を
 岡山県岡山市。
 メンバー達は、吉備の中山細谷川と呼ばれる場所に布陣し、じっととある者の訪れを待つ。
「岡山といえば鬼の伝説、そして節分、オウガ、何も起こらない筈がなく……」
 髪にヘチマの花を咲かせた、光下・三里(マジ天使のフレンズ・e00888)が意味ありげに呟く。
「なんてノリで言ってみましたけれどー、まぁ色々考えるのは後に致しましょう!」
 スラップスティックな三里は場を和ませようとするが、さすがに今回の場の空気は張り詰めていて。
「……飢えってのは、大変だねぇ」
 スーツ姿の上野・零(原初の零・e05125)がクールに告げたのは、相手……オウガの状況についてだ。
「ラクシュミ様は……敵対して……いいことなさそうですし……。彼女の仲間の……オウガも……助けたいとは……思います……」
 チーム最年少である水神・翠玉(自己矛盾・e22726)の言葉に、皆が同意する。
「また、まあ面倒な相手が出てきたわね」
 最年長のソフィア・フィアリス(黄鮫を刻め・e16957)は、ローカスト達の事件を思い返す。
「助けられる可能性があるなら、そっちを選ぶしかないじゃないの」
 コギトエルゴスムと言えば、色々と苦い思い出を持つソフィア。
 名前を知るローカストを護れず、その他のローカスト達もほとんど救うことができなかった。
「正直、ここでオウガを助けることは私の自己満足なのかもしれないけどね」
「これに気づいたラクシュミさんが『やめなさい貴方たち!』って、オウガぶん殴ってくれませんかねー。無いですかそうですわね!」
 捲くし立てるようにボケツッコミする三里を、零は冷静に見て。
「……まぁ、一応殺さずに叩くとしようか」
「殺さず罪を犯させず、当然ながら仲間も守る……。なるほど全てを守る事は困難です」
 狐のウェアライダー、御子神・宵一(御先稲荷・e02829)はしばし考えて声を出す。
「その希望が有るのでしたら……挑まない理由は無いでしょう」
 通る声で告げた宵一の後方で、全身を灰色の地獄で燃え上がらせたユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)がなにやら独りごちていて。
「飢餓状態の鬼を、慈悲の精神で抱擁すべき」
 誰一人、異論を唱えぬ状況に、大人びた雰囲気の少女、御門・愛華(落とし子・e03827)が周囲を見回す。
「暴走するオウガを助けるためには、人々を危険に……」
 実際、さほど遠くない場所に通行人の姿がある。
 首を小さく振る愛華もまた、過去に倒さざるを得なかったローカストの姿を脳裏に過ぎらせていた。
「今度こそ、デウスエクスも人間もこの手で救って見せる」
 瞳を落とす愛華は左腕の包帯を取り、そこにある地獄を目にする。
「だから、お願い。力を貸して、ヒルコ」
 燃える地獄は語らないが、一際大きく燃え上がったような気がした。

 戦いが起こる物音がこちらにも響いてくるが、メンバー達はしばしの間待機することになる。
 数分経過後、頭部や背中から『黄金の角』を生やしたそいつは一行の前に姿を現す。
「グウウウ……」
 筋骨隆々の全身に、大きなハンマーを持つ肉体派のオウガ。
 飢餓によって理性を失ったその姿を、伊達眼鏡をかけた妖精術士、夜陣・碧人(影灯篭・e05022)は見るに見かねて。
「みんな友達です。……オウガだってきっと」
 憐憫の念を込め、デウスエクスを見つめる碧人は野次馬を警戒して殺界を展開していく。
「ギャウッ!」
 溺愛するボクスドラゴン、フレアと同様に共存できる可能性があるのにと考える彼も、それが傲慢だとは自覚しているのだが……。
 ともあれ、メンバー達はこの場から突破させじと、オウガを包囲する。
「此処から先へは梃子でも働きませんのっ!! おっと間違えました、梃子でも動きませんのっ!!」
 ここは、隘路。狭い場所とあって、三里がそこを塞ぐように立ちはだかった。
「胎内回帰は正気の状態で受け入れ給え。私は貴様の暴走を鎮め、新たなる道を示す『母』だと報せる」
 渦巻くような炎の頭部から言葉を紡ぐユグゴトは、機会な鉄塊でできた看板を携えてオウガに言い放つ。
 地獄化した右目を燃え上がらせる零。白いままの左目と合わせ、周囲を見回す。殺界はうまく働いており、人々はこの場から遠ざかっていたようだ。
「グアアアアァァッ!!」
「貴方も……飢えてて……辛いのかもしれませんが……。私たちも……通す…わけには……いきません……」
 もう限界とばかりに太い両腕を振り上げるオウガへ、翠玉は言い放つ。
「それでも……貴方を……殺したくは……ないので……。今一時は……眠っていてください……!」
 特別の感情は抱かぬ相手だが、理性を失ったオウガを鎮める為に彼女は臨戦態勢に入るのだった。

●短くも長い時間の戦い
「グアアアアアアァァッ!!」
 力任せにハンマーを振り上げる、筋骨逞しい姿のオウガ。
「鬼が心の餓鬼道に囚われて――哀れな」
 可愛らしい箱竜フレアが自らの陽属性をディフェンダー勢に注入する隣で、碧人は己の心を殺して相手と接する。
 まずは、力を使う手段の対処をと、碧人は白い炎で燃え上がる真っ白な如意棒を振るい、相手が持つハンマーごと腕を強く殴りつけていく。
 多少日々の入ったそのハンマーが向けられた先には、仲間のカバーに入った零が飛び込んでいた。
「……友を傷つけさせるわけには、行かないからね」
 そうして、零は反撃に鉄塊剣の刀身をオウガへと叩きつける。
(「全生命が自身の『仔』で在るならば、オウガも『仔』だと認識すべき故。救済の抱擁を与えるのだ」)
 同じく、ユグゴトも鉄塊剣らしきものを持っているが、それを振るう前に、彼女は相手に想像を魅せ付ける。
「我等の脳髄は蜘蛛の糸。糸は意識を他に伝え、偉大なる想像『ヴィジョン』を此処に現す。観よ。古の存在が我等を従え、永い眠りから――!」
 それは、精神を徐々に蝕み、オウガは通常ではありえぬ怒りを彼女へと向けていく。
「あなたの相手はわたし達だよ」
 一時遅れたが、愛華もまたオウガの気を引く為に、地獄となった左腕を竜のように変化させて。
「ここから先には行かせない。いくよ、ヒルコ!」
 呼びかけに応じたのか、その左腕は凄まじい膂力を持って相手を殴りつけた。
 いくら、強靭な肉体を持つ相手とはいえ、与えたダメージはしっかり通ってはいる。相手の顔は少し歪み、怯んだのがその証拠だ。
「ごめんね。けど、行かせるわけには行かないから!」
 本当はこのオウガとて護りたいと、心優しき愛華は考える。だが、今のオウガをこのまま行かせれば、この地の住民を護れなくなってしまう。
 そうして、相手の気を引くメンバー達を後方メンバーが全力で支える。
「…………」
 戦いとなったことで、ほとんど声を出さぬ宵一は前線に立つメンバーの為に御先稲荷の縛鎖を操り、足元に魔よけの紋様、籠目紋を描いていく。
 六芒星とも称されるこの陣によって、盾役メンバー達は淡い光に包まれ、防壁に護られるような感覚を得ていた。
「大丈夫、おばちゃんの言う通り動いて見なさい」
 ソフィアは仲間達へと指示を飛ばす。
 何をしていないようで、それは彼女のグラビティ。
 それは、仲間達にも効果を及ぼし、効率よく相手を狙うことができると実感させていたようだ。
 そのミミック、ヒガシバはエクトプラズムを使って攻撃を仕掛ける。
「おっけー、どんどんいきますの!」
 三里もミミック、チェアー号へと具現化した武器で攻撃させながら、自らは改造スマートフォンを手にして、エピソードをネットに投稿して回りまわる癒しの力を仲間に振り撒いていく。
 盾役と回復役とに分かれるメンバー達の中、翠玉は狙撃役として立ち振る舞い、仲間の穴を塞ぐように立って流星の蹴りを食らわせていた。
(「……できれば、……助けないと」)
 仲間達も応戦の為に攻撃しており、翠玉も相手の足止めを率先して行う。
 とはいえ、そう簡単に止まる相手ではなく。
「グアアアアアアッ!!」
 狂ったように声を上げるオウガは力任せにハンマーを振るい、前線メンバーへと食らわせてくるのだった。

 鋼の如き肉体を持つオウガの力はケルベロスの想像以上だった。
「大丈夫。私が守ります」
 狙われた仲間を庇う愛華が相手の放つ竜砲弾を受け、大きくよろけてしまう。
「ヒルコ……断華さん……若葉……アイカ……皆の力を借りるね」
 相手の気を引く愛華は、今まで喰らった魂に呼びかけ、自らに憑依する。彼女の体に刺青が浮かび上がり、地獄の炎が燃え上がって傷を癒す。
 一撃を受けるだけで、かなりの消耗を見せる仲間達。
「今度は愛華さんを」
 攻撃を受ける仲間へと宵一は回復対象を合わせ、光の盾を展開していく。
 相手の足止めを繰り返す翠玉。思った以上に素早いオウガには、攻撃を避けられることも珍しくなく、彼女はその足止めに動く。
 また、一行の狙いは相手のコギトエルゴスム化にある。
 12分ほどの間、相手の攻撃を受ける必要があることから、具現化した光の剣で斬りつけて翠玉は相手を牽制していく。
 それでも、オウガは己の力をハンマーに込め、的確にこちらへと当ててくる。
 零も強烈な一撃に仰け反ってしまうが、強く踏み留まって相手を見つめて。
「……そう簡単に、倒れると思わない事だ」
 返す一撃で、彼は己の内なる力の解放を決意して、一時的に左目をワイルド化させた。
「……さぁ、初お披露目だ……。さっさと足を止めてくれると助かるんだがな……」
 それは、暴走時の自身の姿と向き合った力。黒く禍々しくなった異形の腕と、背に生えた黒い翼。
 手にする杖「Wild bone」もそれに呼応してか、地獄の赤い焔とワイルドの青い炎が同時に纏う。彼は敵に絶え間なく、それを相手にぶつけていく。
 そちらに気を引いている状況なれば、ユグゴトも『立ち去れ』と書かれた看板を相手に強く叩きつけ、自身に注意を引き付けようとしていた。
 とにかく、オウガは一撃の威力が脅威過ぎる。ケルベロス達も盾役を増やすことで、少しでもその負担を分担して戦いを進めていく。
 だが、耐えるだけでは、何れ盾は壊れてしまう。
「ほら、そっちから行けるわよ」
 後列から、ソフィアはややえらそうに指示を飛ばし続けるが、しっかりと戦況を見定めてからの指示は仲間達に力も与え続けている。
 三里もネットへの投稿を続けて仲間に癒しを齎すが、それは相手の動きを止める合間に行っていた。
「さぁ、時よ止まりなさい――わたくしってば、マジ天使!!」
 オラトリオの力を結集させた凄いバージョンの弾丸。
 三里のスマートフォンの画面より放たれたその一発は、オウガの身に痺れを駆け巡らせた。
 フレアに癒しを受けながら盾となって耐えていた碧人も、花斑花翅の短剣で相手の肉体に傷を与えつつ自身の体力を少しでも回復させていく。
 なんとか、相手の力を耐え凌ぐメンバー達だったが……、それも徐々に厳しくなってくる。
 想像を見せつけ、鉄の塊を叩きつけていたユグゴト。
 仲間達からの支援だけでは苦しいと感じていたのか、彼女は降魔の拳でオウガを殴りつけた。
「グウゥゥ……ッ」
 オウガが呻き声を上げ、よろめく。
 徐々に戦いが長引いてきていたことで、消耗してきていたのか。
 元々グラビティ・チェインが枯渇しかけている状態だから、無理もないが……。
 オウガを倒さねばならない状況だけは避けたい。ユグゴトはそう考えている。
「倒れたら……だめです……! そのための……力は……貸しますから……」
 同じことを思った翠玉がそこで、支配者の声を響かせる。
「立ち上がれ!!」
 生まれながらに持つ彼女の優しさは願いによって力となり、オウガの体を癒す。
 敵の気を引くメンバーの盾となり、チェアー号が相手のハンマーを受け、消えてしまう。
 ……あと何分残されているだろうか。
 時計を見る余裕などないが、三里は体感で頃合いと判断して改造スマホの操作を続け、仲間の回復に当たる。
 仲間達は気力で何とか持っている状況。相手がもし2本ハンマーを持ち、広範囲のメンバーを攻撃していたら、数人は余裕で落ちていたかもしれない。
 だが、単体だけを狙う敵。宵一は仲間を狙うオウガから目を離さない。
 竜砲弾をまともに受けた碧人は、この場に妖精を呼び寄せる。
「涙雨の天牢は全てを覆う慈愛の雫、全てを流す破滅の刃。対なる理を携えて、裁きの魚よ。水瓶を傾けよ!」
 現われたのは、青く輝く魚型の妖精だ。空を覆わんばかりに現われた魚群は雨を降らせ、碧人の身体を癒す。
「碧人さんに回復を」
 それでもなお、治療が必要と判断した宵一は、輝く狐霊に仲間の盾として布陣させる。箱竜フレアも主を気遣って属性注入を続けていたようだ。
 相手も、味方も皆、満身創痍。
 零も苦しい中、裂帛の気合を込めた叫びを交えながら、力を弱めて握る杖で叩きつける。
「痛いよね。苦しいよね……。もう少し、もう少しだから」
 もう時間はないはず。愛華は七色に輝く盾を呼び出し、仲間の正面に展開しながら、オウガに呼びかける。
 ケルベロスはもはや防戦一方。これ以上の攻撃は相手を死に至らしめないのだ。
 ミミック、ヒガシバが具現化した武装で殴りかかるのに、仲間へと癒しの空気を放つソフィアはヒヤッとしてしまうが。オウガも生存本能ゆえにその一撃を避けてみせる。
「グ、ウウ……」
 その時だ。敵の体が光で包まれたのは。
 12分経過し、この場を耐え切ったケルベロス達は、目の前のオウガが宝石に変わる様を垣間見た。
 ぽとりとコギトエルゴスムとなったオウガは、地面に落ちて転がる。
 傷だらけの前衛陣もまた地面に倒れこみ、後方メンバーも気力を使い果たして座り込んでしまっていたのだった。

●宝石となった命に……
 戦いは終わり、皆一息つく。ユグゴトはどこからか取り出した安楽椅子に腰掛けていた。
 ソフィアが拾い上げていたコギトエルゴスムを、宵一が見つめる。
「いつか、オウガ達と共存できることを願い、大事に保管したいな」
「ええ、ローカストのときは壊されたようなので……」
 碧人も異論を唱えず、ソフィアが布で丁寧に磨くのを見つめる。
「これでも、調停者だった頃は綺麗なコギトエルゴスムを集めるのが好きだったのよね」
 地球滅亡の際に定命化したソフィア。
 今ではそんな物騒な趣味は持てないが、こうしてまた手にできるとは思わなかったと語る。
「……今度は絶対に壊させない」
 普段なアンニュイな彼女だが、その瞳は決意に満ちていたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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