美しき冬の中に

作者:幾夜緋琉

●美しき冬の中に
 正月も終わり数週間が経過し、日常が過ぎ去る中の一日。
 冬のスキーシーズンという事も在り、休日には多くのスキー客が訪れる、北海道手稲地区。
 ……そんなスキー場の傍らに、不遜な考えを持った男が一人。
『……ふっ。さあ、今日は何人を落とせるかな?』
 その風貌は、紛う事無く、イケメン。
 整った顔立ちは、一目見ただけで女性陣の心を釘付けにする事だろう……ただ、実のところ、スキー場に来たのも、女をナンパするのが一番の目的であったりする様だが。
 昨日も、おとといも……何人もの女を口説き落としてきた彼。
 勿論今日も、昨日と変わらない一日だ……と思っていただろう。
 だが、そんな彼を影から狙うは……何処かエキゾチックな、スキー場にしては露出が高すぎる服装の女性。
 周りに人気が無い事を確認すると。
『ねぇ……そこのアナタ』
 と、突如声を掛ける。
 声を掛けられた彼は振り返り……そして、次の瞬間。
 彼を包み込む、青い炎。
 突然の事に叫び声も上げることは出来ず、炎に飲まれる。
 そして……その炎が収まった後に現れるは、やはり整った顔立ちをした……華美な服に身を包んだ、身長3m程の彼。
「ふふ。なかなか良い見た目のエインヘリアルになったわね。やっぱり、エインヘリアルなら外見に拘らないと。でも、見かけ倒しなんてダメ。とっととグラビティ・チェインを奪ってきなさい。奪ってきたら、遊んであげる」
 くすりと笑い掛ける青のホスフィンに、彼はこくり、と頷き……そして帰り支度を始める人達の居るスキー場へと向かっていくのであった。

「ケルベロスの皆さん……集まりましたね? それでは、早速ですが説明させて頂きますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに一先ず礼をすると、早速。
「最近、有力なシャイターンが動き出しており、その一つ、青のホスフィンが又動いた様なのです」
「この青のホスフィンを始めとしたシャイターン達は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を其の場でエインヘリアル化する事が出来るのです」
「そして、出現したエインヘリアルらは、グラビティ・チェインが枯渇した状態で産み出され、人間を殺し、グラビティ・チェインを奪おうと暴れ出す様なのです」
「そこで、ケルベロスの皆さんには、急ぎ現場へと向かい、暴れるエインヘリアルの撃破をお願いしたいのです」
 続けてセリカは。
「今回のエインヘリアルは、どうもイケメンのエインヘリアルの様です。ただ、その性格はお世辞にもイケメンとは言えません」
「特に、彼はエインヘリアルになる前から女性に対してはだらしない様で、自分の顔で墜ちない女性はいない、と自負している様です……エインヘリアルになった後もそこの所は変らず、主に女性を狙う様です」
「そして、そのイケメンさに逆に墜ちない女性が居ると、力尽くでも堕とそうとする様です。その為、女性のケルベロスの方は、注意する様にしてください」
「尚、彼の武器は……イケメンオーラという名の下の、バトルオーラの様です。特に攻撃力が高いとか、そういう事では無い様なので、その辺りは安心してください」
 そして最後にセリカはもう一度皆を見渡して。
「このエインヘリアルは、色々と難ありのエインヘリアルの様ですが……彼が一般人を傷付けようとしている事態に変わりはありません。皆さんの力で、確実に仕留めてきて頂ける様、お願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)
西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)
相模・美禽(青木ヶ原のアルラウネ・e16417)
鬼島・大介(百鬼衆の首魁・e22433)
真田・結城(強者に立ち向かう弱者・e36342)
朧・遊鬼(火車・e36891)
水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)

■リプレイ

●冬山に登る
 正月も終わり、数週間が経過したある日。
 冬のスキーシーズンも進み、多くのスキー客達が訪れる北海道の手稲市にある、巨大なスキー場。
「……全く、どうしようもないわね」
 肩を竦める水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)。
 それに煙草を吹かしながら歩く、鬼島・大介(百鬼衆の首魁・e22433)も。
「ああ。本当どうしようもねえ奴だ。こういう馬鹿が一人勝手に跳ねて死ぬ位なら放っておくんだがな、そいつのせいで他の一般人まで巻き込むってんなら話は別、容赦はしねぇよ」
「ええ」
 二人の言うが通り、今回の相手はどうしようもない男と言えるだろう。
 顔はイケメン……それだけならまだ何処にでも居そうな事。
 ただ、その顔を利用し、スキー場を訪れる女性達を次々とナンパして毒牙に掛けようとしている。
 既に何人もの女を、イケメンの顔で口説き落とし……私欲を満たす。
 そして……そんなイケメン男性を利用したのは、エキゾチックで露出の高い服装の女性……『青のホスフィン』。
 彼女によってエインヘリアル化させられた彼……そしてケルベロス達には、そのエインヘリアルを倒す依頼が言い渡されたのだ。
「でも、自分のことをイケメンだとか言うなんて……本当自意識過剰なんじゃないですか?」
 と真田・結城(強者に立ち向かう弱者・e36342)が溜息を吐くと、リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)とサテラが。
「イケメンってさ、格好良いって事だよね? どんなに格好良くても見た目だけのハリボテじゃあガッカリじゃないのかな? 誰かのために一生懸命の人の方がずっと格好良いよ!」
「ええ。こういうプライドの高い元イケメンさんは、まあまあ良く居そうね。でもエインヘリアルになってしまったのは可哀想ですが、元々の女性への扱いが悪い様だからお仕置きしなくちゃね」
 と言うと、朧・遊鬼(火車・e36891)とリリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)も。
「そうだな。スキーの楽しみ方は人それぞれだが……人を襲うのは許してはおけぬなぁ」
「うん。今回のエインヘリアルはイケメンの部類に入るかもしれないけど、ケルベロスには男女問わずに美形が多いから、この程度は何とも思わないと言うか……いやいや、わたしは旦那さま一筋! 彼よりも見た目も中身も素晴らしい人を知らないもの。スキーなんて、旦那さまとお付き合いしてた時にデートした事を思い出すわ。わたし、スキーが苦手で彼に教えて貰ったの。彼はとっても上手で、カッコよくてキラキラしてて……はぁ……思い出すだけでも惚れ直してしまいそう……」
 目をときめかせ、怒濤の如く喋るるリリア……それにくすりと微笑みつつ、西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)と相模・美禽(青木ヶ原のアルラウネ・e16417)の二人が。
「まぁ何にせよ、こういうヤツって大嫌いなのよね」
「そうね。愚かな男。放埓の挙げ句シャイターンに利用されるだなんて、自業自得よ」
「あら……気が合うわね、美禽。それじゃあ、ひと踊り付き合ってくれるかしら?」
「ええ。いいわよ。楽しみにしているわ」
 ニコリ、と微笑む美禽、そして。
「まぁ、どの道こういう輩は遠からずに自滅していたに違いないわ。だから……徹底的に『喰い荒して』あげる」
 並々ならぬ気合いを口にする美禽……そんな仲間達の言葉に遊鬼と大介が小声で。
「……しかし、女性陣を敵に回すと、恐ろしいな」
「ああ……まあ何にせよ、こいつの自慢の面が福笑いみたいにならねぇ様に気をつけて貰おう」
 と肩を竦め、そしてケルベロス達はスキー場へと向かうのであった。

●顔に騙され
 そして、エインヘリアルの出現現場である、スキー場に到着したケルベロス。
 ……当然スキー場だから、寒風吹きすさぶ訳で。
「うあああ……さ、寒いわ!!」
 普段から露出が高い格好故、当然ながら極寒。
 自分の黒衣を抱きしめ寒さに耐えるが……何故か胸を強調する感じになるのは、サキュバスの本性故か。
「あ、もしよければ、こちらを使われますか?」
 とストールを差し出すリリアに、サテラは。
「あ、ありがとう……耐えきれなくなったら、借りるかも……その時は宜しく頼むわ……」
「解りました」
 くすりと微笑みつつ、取りあえずリリアは。
「まず周りに一般人を近づけない様にしないといけませんね。遊鬼さん、殺界形成をお願いしても宜しいでしょうか?」
 と言うと、頷きつつ。
「ああ……っ!」
 と気を込めて、周囲に殺界形成を張り巡らせる遊鬼。そして更に。
「これで良し、っと……ユウキ、封鎖は頼んだ」
「解りました」
 遊鬼に結城が頷き、周りに人が居ないことを改めて確認し、キープアウトテープの一片を伸ばし、待機。
 ……そうすると、殺気を感じてなのか……それとも、女性陣の声を聞いてなのかは解らないが、エインヘリアルが……出現。
『ヘヘヘ……中々可愛い子じゃねーか。どーだ、俺の愛人になろーぜ?』
 ニヤリと笑うエインヘリアルに対し、不敵な笑みを浮かべながら、リュコスが。
「ねえ、そうやって誰彼構わず無理矢理っていうのは相手に失礼じゃない!」
 とリュコスの言葉に対し、エインヘリアルは。
『あぁん? てめーうるせえんだよ! 俺に誘われるだなんて凄えコトなんだぜ?」
 と怒号を放つエインヘリアル。対しリュコスははいはい、と言った感じに肩を竦めながら。
「好きでもない人に言い寄られても迷惑なんだけどなぁ……そもそも敵だしね、その自慢の顔をぶっ飛ば-す!」
 その言葉を合図に、結城がキープアウトテープを使い、戦場に人が入らない様に張り巡らせる。
 そして完全に戦場隔離された所で、玉緒が。
「それじゃ、派手にヤってやりましょう……征くわよ」
 とぽつり呟くと共に、初手、ジャケットから引き抜き様のクイックドロウをその顔にぶち抜いていく。
 そして、それに連携して美禽も、連携してのレゾナンスグリードを、やはりその頭に向けて撃ち抜いていく。
 ……鼻っ柱から、顔に攻撃を叩きつけられた為、エインヘリアルは。
『ぐぅお!? て、てめぇ……俺の顔を傷付けやがったなぁ!! 絶対、絶対赦せねえ!!』
 怒りに顔を真っ赤にするエインヘリアル。
 ……でも、それに更に玉緒と美禽は。
「ふーん……確かに、悪くない顔立ちね。でも……生前の情報によると……なかなかの屑っぷりね」
「そうね。ダサイのよ貴方。無理してカッコつけてるのがバレバレでお寒いわ」
「ま、顔がいいのは間違い無いしね。頭が良ければ、なにをしても赦される、とでも思っているのかしら?」
 立て続けに言葉を掛けていくと、それにエインヘリアルは。
『当たり前じゃねーか! 男は顔で選ばれるんだから、俺は何をしてもいいんだよ!』
 ……単純なのか、単に理解出来てない程に馬鹿なのか……は分からないものの、玉緒の言葉を完全拒否。
 先手を取られて怒って居る、というのもあるかもしれないが……とは言えど。
「そう……ふふ、じゃあ、わたしも何もしても許される訳よね!」
 と、そのまま鋭いピンヒールをガスッと顔へと突き刺すハイキックを決めると、美禽も。
「そうよ、そんなのじゃ私は落とせないわよ? それとも逆に『喰われ』たいのかしら?」
 とペトリフィケイションで石化効果を付与。
 ……そんな二人の言葉に、大介が。
「いけすかねぇツラを凹ますつもりではあったが……お前等も大概酷いよな」
 既にボコボコになり始めた彼の顔面に肩を竦めつつ、真っ正面からスカルブレイカーの一撃を放つと、続いて同列のリュコスも。
「みんな、頑張ろうねー!」
 と威勢良く、ヒールドローンで前衛陣に盾アップを付与し強化すると、遊鬼と結城のクラッシャー陣も。
「さぁ、その自信をへし折ってやろう」
 と稲妻突きのパラライズと、月光斬の一閃。
 そしてジャマーのサテラは自分自身へ幻夢幻朧影で妨アップで自己強化。
 そして、リリアと、遊鬼のナノナノ、ルーナはメディックポジションに立ち。
「我ら主の敵に鉄槌を下す者。汝、怒りを放ち、戦場に嵐を起こす脅威になれ」
 『決闘者の腕』で前衛陣への狙いアップを付与しルーナもナノナノばりあを味方に付与し強化。
 総じてかなりの強化を受けたケルベロス達に対し、エインヘリアルはかなりのダメージで、額に汗を浮かべる。
 そんなエインヘリアルに、更に。
「あらもう終わり? 私を堕とすんじゃなかったの? 全然足りないわ」
「そうねぇ……それじゃ、もしもあなたが勝ったら……好きにさせて、あ・げ・る」
 胸を強調する様にして、更にドヤ顔で決める玉緒。
 ……無論、それに対してエインヘリアルは、なにをぉ、といった感じで睨み、反撃。
「まったく、カッコつけてるのがバレバレでお寒いのよ」
 が……スタイリッシュに玉緒がクイックドロウでまたも顔に弾丸を撃ち抜くと、美禽は。
「中から喰われる気分はどう? ……もう聞こえていないかしら?」
 『緑死病』にてパラライズ効果を付与。
「いい加減諦めろ。女を怒らせたら怖いぞ?」
「そうだよ! その薄っぺらい顔と根性をたたき直してあげるよ!」
 大介がスカルブレイカー、リュコスは前衛にブレイブマインの壊アップ。
 そして、遊鬼がブレイズクラッシュ、結城の絶空斬。
 壊アップ効果もあり、大ダメージを喰らう。
 そしてサテラも、ハイジャンプからの、頭に叩きつけるディスインテグレート。
「嬉しいでしょ? 美女に上に載られて、なーんて」
 くすりと笑うサテラ。
 リリア、ルーナ二人は更にブレイブマインとなのなのばりあで強化を続けて行く。
 そして、その後も、更なる猛攻でエインヘリアルを追い詰めていく。
 ……幾度か、イケメンオーラと言う名の、バトルオーラを放出するのだが。
「イケメンオーラ……ぷっ。笑えるわね」
 サテラが爆笑し、他の女性陣も大笑いしたり。
 ともあれ、そんなエインヘリアルを挑発しながら攻撃し続け……経過する事、十分程。
『グ……ぐううう……』
 と厳しげな声を上げるエインヘリアル。
「そろそろ仕舞いにしようや。てめぇの顔も見飽きたんでな」
 と大介が言い放つと、至近距離に接近。
「これが、鬼の拳だッ!!」
 と、渾身の鬼拳を叩きつけると、体勢を崩すエインヘリアル。
 そして……。
「色男が台無しね。鏡あるけど、その顔見てみる?」
 と鳳蝶ノ煌で、その顔を踏みつける。
 そして……遊鬼が。
「まったく、見かけ倒しだな」
 と言い放ち……。
「さぁ、俺が鬼だ。精々綺麗に凍り付いてくれ」
 と【言霊遊戯】氷鬼で氷り効果を付与為、結城も。
「これが、本気の力です……行きます……銀牙斬・爪牙!」
 と【銀爪斬・爪牙】の一閃を放ち……その一撃に、エインヘリアルは、完全に打ち砕かれるのであった。

●消える自信
 そして、イケメンヘインエリアルをどうにか倒したケルベロス達。
「……ふぅ……」
 と、息を吐いて呼吸を整えるリリア……そして消えたエインヘリアルの僅かな欠片、砕けたゾディアックソードの破片を足で踏み砕きながら。
「……容姿を花に掛けたりして女をナメていると、こういう目に逢うのよ。高い授業料にはなったみたいだけどね?」
 と美禽が辛らつな言葉で言い放つ。そして玉緒も。
「そうね……ま、全然理解は出来なかったみたいだけど。自意識過剰すぎるヤツは、あんまり近づきたくないわね」
 と肩を竦める。
 ……まぁ、そんなイケメンエインヘリアルに対し、黙祷の言葉は何もなく。
「さぁ、周囲にキュアして帰りましょうか」
 と美禽が仲間達へ促し、張り巡らせておいたキープアウトテープを結城が回収し、リリアや結城らが周囲の木や戦闘で崩れた場所をヒールし、手作業で直しておく。
 そして、周囲をヒールグラビティで回復しつつ、サテラが。
「そういえば……ここはスキー場でしたよね? 終わったら、スキーって楽しめるのでしょうか?」
 と、小首をかしげると、リュコスも。
「あ、そうだね! ボクは前からスノーボードやってみたかったんだ!! 楽しそうだよね、あれ!!」
 と嬉しげに声を上げる。
 そんな二人の言葉に大介が。
「んー? ああ、そーだ。一応近くの宿を予約しといたんだよ。せっかくスキー場に来てんだ。やることはやっておかねぇとな。役得ってヤツだ」
「え? 見越して予約済みって訳?」
「わーい、やったー!!」
 サテラは微笑みつつ、リュコスはとても嬉そうにハイジャンプ。
 そして、あらかた周囲の片付けが終わった所で。
「これで……いいわね。それじゃちょっと休んでから、スキーを楽しむとしましょうか」
 そんな玉緒の提案に皆も頷き……そしてケルベロス達は、一端其の場を後にした。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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