オウガ遭遇戦~鬼神来襲

作者:紫村雪乃


 ザンッ。
 草を踏みにじり、異様なものが姿をみせた。
 一見したところ人間の若者のようだ。整った顔立ちは美しいとさえいえた。
 が、違う。それの額からは金色に輝く二本の角がぞろりと生えていた。背にも幾つか角がある。
 鬼神。オウガであった。コードネーム『デウスエクス・プラブータ』だ。
「グウゥゥゥ」
 鬼神の口から瘴気まじりの低い唸り声が漏れ出た。それだけであたりの空気が凍りついた。圧倒的な殺気によるものだ。
 鬼神は飢えていた。すぐさまグラビティ・チェインを得ることが必要だ。そのためには人間を殺さなければならなかった。
 邪魔だとばかり、鬼神は大木を腕で薙ぎ払った。無造作な一撃である。
 ベキリッ。
 大木がへし折れた。まるで枯れた小枝のように。鬼神は他のデウスエクスをすら圧倒する程の凄まじい腕力を有しているのだった。


「リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)さんを始めとした皆さんが探索を進めてくれていた事でオウガに関する予知を得る事が出来ました。岡山県中山茶臼山古墳周辺に、オウガが多数出現する事が予知されたのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
 オウガが出現するのは二月三日。が、彼らのゲートの位置までは特定する事はできなかった。
「出現するオウガは強度のグラビティ・チェインの枯渇状態である為、知性が失われており、ただただ人間を殺してグラビティ・チェインを強奪しようと試みるようです。この状態では話し合いなどは全く行えず、戦うしかありません」
 オウガ達は多くのグラビティ・チェインを求めて、節分の神事で多くの人が集まっている吉備津神社方面に移動する。ために中山茶臼山古墳から吉備の中山細谷川までの地点でオウガを迎撃する必要があった。
「中山茶臼山古墳周辺には表面が鏡のように平板だという鏡岩を始めとした巨石遺跡が多くあり、その巨石の周辺にオウガが現れる事が多いようですので、巨石周辺で迎撃するか、或いは敵が必ず通過する吉備の中山細谷川の隘路の出口で迎撃する事になります」
 出現するオウガはグラビティ・チェインの枯渇状態なので、このままグラビティ・チェインを補給しないとコギトエルゴスム化してしまう。その前に人間を殺してグラビティ・チェインを奪おうとオウガは企んでいた。
「迎撃地点は二か所。出現ポイントである巨石群で迎撃した場合は周囲に一般人などもいないため、戦闘に集中する事ができます。ここで戦闘を行った場合、グラビティ・チェインの枯渇によるコギトエルゴスム化まで二十分程度かかる為、コギトエルゴスム化の前に戦闘の決着をつけられる可能性が高くなります。もう一方の迎撃ポイントは吉備の中山細谷川の隘路の出口。途中の経路は不明ですが、オウガは最終的にこの地点を通過する為、ここで迎撃する事で確実に迎撃する事ができます。ただ、この地点は節分のイベントで人が集まっている吉備津神社に近く、突破されてしまうと、一般人に被害が出てしまう可能性があります。突破されないように注意する必要があるでしょう。ここで迎撃した場合、戦闘開始後十二程度でグラビティ・チェインの枯渇によるコギトエルゴスム化が始まると想定されています」
 さらに注意することがあった。オウガの戦闘力が非常に高いということだ。わざと戦闘を長引かせるような戦闘を行った場合、ケルベロス側が大きく不利になってしまうだろう。
「オウガは戦闘力の高いデウスエクスですから、まずは勝利する事を第一に考えるようにしてください。ケルベロスが敗北すれば、多くの一般人に被害が出てしまいます。注意してください」
 やや青ざめた顔でセリカは告げた。


参加者
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
燈家・彼方(星詠む剣・e23736)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
星宮・亜希(ウィングウイッチ・e36281)

■リプレイ


 岡山県。
 吉備中山は備前と備中の国境にある丘陵であった。東麓に吉備津彦神社、西麓に吉備津神社が鎮座する。
 細谷川は、その中山が形作る峨々たる渓谷に流れる川であった。光る川面を見下ろすように隘路がのびている。そこに八人の男女が佇んでいた。
「キープアウトテープ、一応出口側に貼っておいた方がいいですかね? ……気休め程度にしかならないけど」
 女が口を開いた。大きな黒瞳をきらきら輝かせた溌剌とした娘である。名を星宮・亜希(ウィングウイッチ・e36281)といった。
「いいだろう」
 うなずいたのは竜種であった。腕を組み、雄々しく立っている。根源的に膨大な熱量を蔵しているのか、圧倒的な存在感を備えていた。名はアベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)。
「あの馬鹿力のラクシュミと同じ種族がついに出てきましたか」
 カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)という名の娘が口を開いた。オラトリオらしく美麗な娘である。それに加えて凛然としていた。
「本当なら正気の彼らと戦ってみたかったですけど、仕方がないです」
 やや惜しそうにカルディアは苦笑をもらした。その言葉通り、戦うのなら全身全霊をもって拳をまじえるというのが彼女の信条である。が、ヴァルキュリアという前例もある以上、倒さずにすむのならそれにこしたことはなかった。
 そのカルディアの思いを読み取ったのか、
「オウガ達とは、まだ敵にすらなっていない状況です。この、最初の一歩を間違えなければ、敵対することなく良き隣人となることも不可能じゃない筈です」
 と、少年がいった。中性的な顔立ちの美少年だ。華奢といってよい体つきをしている。が、脆弱な印象はなかった。しなやかそうな身ごなしは若い狼を思わせる。――燈家・彼方(星詠む剣・e23736)だ。
「そうね」
 リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)という名の娘がうなずいた。非人間的なほど美しい娘だ。滑らかで白い頬は白磁のようであった。
「ここでオウガをくい止め、コギト化に留めることができたら……今後、ラクシュミと接触した場合の心象にも関わると思うし、同朋を倒した相手よりも、戦わざるを得なかったけどコギト化で留めた相手なら、きっと後者の方が心象がいいと思うわ」
 リティはいった。が、同時に彼女は承知している。これがとてつもない難事であることが。
 近くには吉備津神社があった。一般人に犠牲を出さないようにしなければならない。が、オウガを相手として全力をもって戦うこともできない。これを難事といわずしてどうしよう。
「ここで耐え凌ぐ。難度が高いミッションはいつものこと。そして、誰も倒れさせないのが……私の戦いだ!」
「オウガの能力はまだ詳しくわかっていないのだったな」
 二十歳ほどに見える男の口からふうと炎がもれた。地獄化した声が具象化したものだ。
 名をベリザリオ・ヴァルターハイム(愛執の炎・e15705)というのであるが、美しい男であった。夜の貴族という印象がある。漆黒の翼と尾をもっていた。竜種なのである。
「そうね」
 三十半ばほどの女がうなずいた。穏やかな顔立ちのは端整で、美形といっていい。
 ちらりと見やったベリザリオはほうと唸った。女――ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)は何気なく立っているだけなのだが、隙というものがまるで見受けられなかったのである。
 苦笑するとベルザリオは続けた。
「ではこの機会に見極めてやろうじゃないか。しかしこの暴虐と破壊力を私が先に味わってしまうのは少し悪いな。強い敵を好む私の愛しい伴に恨まれそうだ」
「あっ」
 八人めのケルベロスが垂れ目気味の大きな目を見開いた。太陽のように輝く可愛い娘である。
 この時、彼女の澄んだ青の瞳は颶風のように駆けてくる黒影をとらえていた。無論人間ではない。
「オウガの皆さんも、相当に飢えておられるのですね……ですけど一般人の皆さんを殺めさせるワケにはいきません。ここで必ず食い止めましょう!」
 娘はいった。
 彼女の名はロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)。ヴァルキュリアであった。


 黒影が迫った。
 一見したところ人間の若者のようだ。整った顔立ちは美しいとさえいえた。
 が、違う。それの額からは金色に輝く二本の角がぞろりと生えていた。背にも幾つか角がある。
 鬼神。オウガであった。コードネーム『デウスエクス・プラブータ』だ。
「があっ」
 鬼神が吼えた。地すら揺るがす咆哮だ。
「デウスエクス・プラブータがコギトエルゴスム化するまで耐え、侵攻をくい止めコギト化後回収。ミッションスタート」
 リティは小型偵察無人機を放った。
「全機、敵監視及び味方モニタリング厳に」
 リティは小型偵察無人機に命じた。カルディアとベリザリオ、そしてロージーもドローンを放つ。これは小型治療無人機であった。
 その間、鬼神は駆け続けていた。数瞬でケルベロスたちに接近する。
「があっ」
 鬼神が拳を叩きつけた。柄で連結させた二振りの大鎌でアベルが受け止める。
 爆発が起こったように衝撃がぶちまけられた。衝撃に地を削りつつアベルが後退する。
「なんという力だ」
 アベルは呻いた。数体のドローンによりオウガの破壊力は減殺されてる。それがなければどうなっていたことか。
 驚愕しつつ、しかし彼方の肉体は自動的に臨戦態勢にすべりこんでいる。肉薄すると鬼神の腹に掌をあて、集めた螺旋の力を流し込んだ。
「ぐっ」
 鬼神がわずかに顔をしかめた。それだけだ。恐るべき肉体の強靭さであった。
「厄介ですね」
 呻くように彼方は声をもらした。剣の天才児たる彼にはわかっている。オウガの強さが。数人のケルベロスが全力で対してやっと勝てるほどの敵であった。
 それほどの強敵相手に手加減して戦わなければならないのだ。困難というしかなかった。
 と、じろりと鬼神が彼方を睨めつけた。今度は他方の拳を彼方に叩きつける。
「守りは得意じゃないのだけれど……せっかくだもの、じっくり楽しみましょう、オウガさん?」
 こと戦闘に関しては天賦の才のあるユリアにもオウガの強敵であることはわかっている。が、彼方と違い、この女性は戦闘狂いであった。強敵との死闘を愛する剣鬼なのである。
 この場合、微笑みすらうかべてユリアは数打ちの剣――ゾディアックソードの柄に手をかけた。
 鬼神のパンチの炸裂とユリアが刃をたばしらせたのが同時であった。パンチの衝撃で彼方が吹き飛ぶ。が、地に叩きつけられた彼方の身に大きな傷はなかった。
 驚くべし。ユリアの迅雷の剣は彼方の傷という事象そのものを断ち切ってしまったのである。まさに神業といえた。


「やらせないよ!」
 叫ぶと亜希は両手を突き出した。瞬間、半透明の壁が現出する。結界だ。
「罪もない人達を殺すなんて、あなた達の本意ではないはずです! 今は、どうかその気をお鎮めください!」
 ロージーが叫んだ。何とか説得するつもりである。
 か、鬼神はこたえない。目を爛と光らせる。飢えに理性が消失しているのであった。
 流れるようなロージーはバスターライフルをかまえた。撃つ。放たれたのはエネルギー弾だ。着弾の衝撃にわずかに鬼神の身がゆらいだ。
「おおん」
 獣めいた怒号を発し、鬼神は結界を殴りつけた。強大な破壊力に結界が粉砕される。とまらぬ鬼神の拳は力を削られながらもカルディアめがけて疾った。
「きやがれ」
 ドローンを展開させ、あえてカルディアは鬼神の拳をうけた。衰えた威力といえどもそれには岩すら砕く力が残っている。たまらずカルディアは身を折った。血反吐をぶちまける。
「なろっ、やりやがったな! この金メッキ野郎!」
 ぎらと目を光らせ、カルディアは鬼神を睨みあげた。地獄化した心臓が憎悪に激しく脈打っている。宿敵を斃せと。
 苦痛を怒りに。我を忘れてカルディアは襲いかかった。
 鬼神をロックオン。無数のレーザーを浴びせかける。
 この時、冷静にリティはカルディアの負傷を分析していた。そして治癒方法を選択した。
 リティの手が流れるように動いた。カルディアの負傷部分そのものを分子レベルで削除、再生する。
 が、再び鬼神がカルディアを襲った。鋼の拳は唸りをあげてカルディアの顔面に。
 ガシィン。
 鋼と鋼の相博つ音がひびき、鬼神の拳はとまっている。アベルの大鎌によって。
「人を襲わせるわけにはいかない。このオウガのためにもな」
「そうね」
 ユリアが蹴りを放った。刃のように鋭い蹴撃だ。鬼神の筋肉が悲鳴をあげる。
「ふんっ」
 苦痛すら忘れたか、鬼神が横殴りに拳をふるった。攻撃態勢のまだ解けぬユリアには躱せない。
 単純な力の解放。殴り飛ばされたユリアが崖の壁面に叩きつけられる。飛び散ったのは岩の欠片である。
「まだですね」
 接敵からの経過時間を確認し、彼方は鬼神をみつめた。彼らの目的はオウガの殲滅ではない。コギトエルゴスム化であった。
 故に攻撃は慎重に行わなければならない。やりすぎては駄目なのだ。
 その微妙な加減を、この小柄の少年は心得ていた。彼方の目がきらりと光る。
 次の瞬間、鬼神の身が爆発した。彼方の念の力である。信じられぬことだが、彼方は精神を集中させることによって目標を爆破することができるのだった。


 一瞬よろけたものの、すぐに鬼神は足を踏みしめた。そして地を蹴った。ケルベロスたちを蹴散らし、人間たちのいるところへ向かうつもりなのだ。が――。
 すぐに鬼神の進撃はとまった。結界によって。
「いかせるわけにはいかないよ」
 一般人のいる方を背に、亜希は叫んだ。
 もしオウガを通過させればどうなるか。待っているのは虐殺だ。そしてオウガは地獄へと堕ちる。そんなことを許せるはずがなかった。
 絶対に鬼神はいかせない。亜希は決心していた。可愛らしい容姿に似合わぬ不退転の覚悟の持ち主である。
「があっ」
 鬼神が結界を容易く粉砕した。散る光の砕片。躍り上がったのはベリザリオだ。
「倒さないように耐え抜くと言ってもだ、私達の方が倒されてはかなわんからな」
 ベリザリオは挟み込むように両の拳を鬼神の腹に叩きつけた。肉体内部を破壊する攻撃だ。さすがに鬼神は苦悶した。
「あと少しね」
 時間を確認。リティはドローンを放った。
 オウガのおおよその戦闘力は確認した。データベースにアクセスし、最善の対処方法も選択してある。
「火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
 リティは仲間に戦闘パターンを伝えた。このオウガの場合、力だけでなく動きも俊敏だ。防御と攻撃を組み合わさなければならなかった。
「ぐうるるる」
 鬼神の目が素早く動いた。そして一点でとまった。崖だ。
 鬼神が跳んだ。一気に数十メートル。化物じみた跳躍力だ。
 崖を蹴り、鬼神はさらに高みへ。ケルベロスたちを飛び越す。
「させるかぁ」
 カルディアの翼が開いた。眩い光を放つ。
 神々しい輝きが世界を白く染めた。一切不浄を焼き払う光である。撃たれた鬼神が地に落ちた。咄嗟に受身をとったのはさすがである。
 着地と同時に、今度は前方に跳んだ。砲弾のように速く、重く。
「だから人を襲わせるわけにはいかんといっている」
 アベルもまた跳んだ。誰のためでもない。オウガ自身のために。
 鬼と竜が空で激突した。凄まじい衝撃に空間そのものが激震する。跳ね飛ばされたのは竜であった。崖にぶつかり、めり込む。
 一方の鬼である。こちらもただではすまなかった。地に降り立ったものの、すぐに片膝をつく。
「アベルさん」
 亜希の手が素早く動いた。魔法メスによる超自然的外科手術だ。アベルの肉体を切開、損傷部位を切除。同時に損傷部位の復元を行う。高度なオペであった。


「私達が最後の壁、ここは絶対に食い止めましょう…!」
 ロージーが叫んだ。
 そのとおり。まさに彼女たちが――たった八人の戦士が最後の守りであった。彼女たちが屈した場合、待っているのは血の嵐だ。多くの命は彼女たちの双肩にかかっていた。
 ロージーはバスターライフルで鬼神をポイントした。トリガーをひく。
 銃口が吼えた。迸る閃光は魔力を凝縮させたものだ。鉄すら穿つ威力が秘められている。
 が、片膝ついた姿勢のまま鬼神は無造作に手で光をはじいた。飛ばされた光は崖に激突。砕かれた岩が地に崩れ落ちた。
「まだそれほどの力を――」
 ロージーは息をひいた。彼女のバスタービームを弾き飛ばすことができる者などざらにいるはずはない。まさに鬼神は鬼神であった。鬼の業だ。
「それでもやらなければ」
 彼方が足を踏み出した。
 次の瞬間である。彼方の身は鬼神の眼前にあった。剣の達人のみ扱うことのできる独特の歩法である。
 咄嗟に鬼神が拳を繰り出した。彼方は身を沈めて躱した。同時に手を突き出して、接触。
「ぬんっ」
 彼方は鬼神の足に螺旋の力を流し込んだ。渦巻く熱量が鬼神の経絡を駆け巡りつつ、破壊。鬼神の足が爆裂した。血と肉がばらまかれる。
「ぎゃあ」
 耳を塞ぎたくなるような絶叫を鬼神は発した。そして腕をのばし、彼方の胸ぐらを掴んだ。
 ゆらり。
 鬼神が立ち上がった。その身が燃えている。炎と見紛うばかりの凄絶の闘気であった。
 熱風のような殺気がケルベロスたちに吹き付けた。ケルベロスたちがたじろぐ。
 が、たじろがぬ者が一人あった。ユリアである。
 殺気を微風のように受け流し、ユリアは迫った。たばしる刃は光流をひいて鬼神へ。
 ぴたり。
 刃はとまった。彼方の身の寸前で。ニヤリ、とユリアは笑った。
「ふうん。そういう手も使うのね」
「が、私たちにはきかぬ」
 ベリザリオの声。
 刹那である。鬼の腕で炎が爆裂した。弾丸と化した炎が炸裂したのである。たまらず鬼神は手を放した。
「があああ」
 腕をおさえ、鬼神は狂乱した。その時――。
 突如、鬼神の動きがとまった。そして瘧にかかったように身を震わせ始める。
「来たか」
 ベリザリオが駆け寄った。その眼前、鬼神が光に包まれる。あまりの眩しさにケルベロスたちは目を閉じた。
 そして数瞬。
 光が消えた時、地に鬼神の姿はなかった。
 ゆっくり歩み寄ると、亜希は手をのばした。地に転がった煌く玉を拾い上げる。宝石化したオウガである。
「コギト玉を傷つけないように大切にしてあげないとね。まあ、壊す人はいないと思うけど……」
 亜希はほっと息をついた。他のケルベロスたちの顔にも安堵の微笑がうく。
 彼らが戦ったのは多くの命をかけたものであった。が、そのことを誰もしらぬ。それでもケルベロスたちに悔いはなかった。勇者とはそういうものだ。
 ここにオウガ遭遇戦は終結したのであった。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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