小よく大を制する、合気道こそ至高の武

作者:天木一

 雪の積もる山で一人の小柄な若い男が寒そうな素足で、白と黒の道着を着て自然体のまま佇んでいた。
「はっ!」
 気合の入った声と共に動いたと思うと、腕を小さく動かして身を翻す。僅かで地味な動きだが、仮想の敵の攻撃をいなす為に必要最小限の動きだった。それに似た動作を四方から襲って来る敵をイメージして、足を動かし敵を迎えるように掴んでは、敵の勢いを利用して投げ飛ばしていく。
「はあ!!」
 最後のイメージした敵を華麗に投げ飛ばすと、男は静かに動きを止め、一礼して息を整えた。
「達人ならばもっと動きを少なくできるはずだ。合気道を極める道はまだまだ遠いな……」
 かつて映像で見た老人の達人は殆ど相手の動きだけで投げ飛ばしていたと、その脳裏に焼き付く姿を思い返して、己の動きと比較して溜息を吐いた。その背後から雪の落ちる音、振り向けば気配無く幻武極が現れていた。
「誰だ!?」
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 驚く男に幻武極が呼びかける。すると冷たい闘志を放った男は掴み掛かり、幻武極の体を崩して投げつける。そのまま腕を取り関節を極めて折るように力を入れた。だが痛みを感じぬように幻武極は変わらぬ顔で見上げる。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 無造作に腕を払い立ち上がると、幻武極は手にした鍵を男の胸に突き刺した。刺されても傷一つ無いまま男は意識を失い雪の上に崩れ落ちる。
 その横に男と同じ姿をした、黒に染まった道着を着たドリームイーターが生まれる。
「はぁああああ!」
 男は自分の何倍もの高さにある木に静かに触れる。するとまるで木が自ら倒れ込むように傾き、そのまま雪を巻き上げながら地面に倒れた。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 幻武極の言葉を受けて男は雪に足跡を残さぬような静かな動きで駆け出す。山を下りれば麓に町がある。
「合気道を極めし武、全ての人々の目に焼き付けてやろう」

「どうやら寒い雪山に合気道を使うドリームイーターが現れるようです」
 一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)がドリームイーターの事件を告げる。
「幻武極というドリームイーターが、山で合気道の特訓をする男性を襲い、自分に欠損している『武術』を奪いモザイクを晴らそうとしたようです」
 詳細はこちらでとセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が隣に立って資料と共に説明を始めた。
「その結果モザイクは晴れなかったようです。ですが武術家ドリームイーターを生み出し、人の住まう町で暴れさせようと企んでいるようです」
 理想の合気道の使い手となったドリームイーターは容易く人を殺める力を持つ。人の多い町に入れば被害が大きくなってしまう。
「そこで敵が町に到着する前に迎撃し、被害者が出る前に撃破してもらいたいのです」
 敵は雪の積もる山道を駆け下りて来る。その町に続く道で立ち塞がれば遭遇できる。
「ドリームイーターは合気道着を着た20代の男性の姿で、身長も低めで細身ですが、体はしっかりと鍛えられ、相手の力を利用して投げる合気道を使い、投げ技を中心に戦うようです」
 カウンタータイプで、相手の力を受け流し防御に優れている。
「場所は長野県にある山の麓です。周囲は既に避難が始まっているので一般の方を巻き込む心配はありません」
 雪が積もっている時期でもあり、元々人の通りも少なくなっている。到着時には町の方へと避難は終了している。
「敵は武術家だけあって、その技を披露したくて仕方ないようです。ですのでこちらから戦いを挑めば嬉々として戦いに集中し、町に向かう心配はなくなるでしょう。人々を守り襲われた男性を助ける為にも、ドリームイーターを撃破してください」
 よろしくお願いしますと、セリカはヘリオンへと向かう。
「武を示したいというのなら、満足ゆくまでわたしたちがお付き合いして差し上げましょう」
 その優れた技を間近で見れるのが楽しみだと瑛華が微笑み、ケルベロス達も強き武術家との戦いに心昂らせながら出発の準備を始めた。


参加者
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
粟飯原・明莉(闇夜に躍る枷・e16419)
アルテナ・レドフォード(先天性天然系女子・e19408)
エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)

■リプレイ

●雪山
 雪化粧された道も無い山の斜面にケルベロス達が居る。
「合気道の達人……相手にとって不足なしです!」
 真っ赤なリングコスチューム姿の稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)が準備万端と気合を入れる。
「如何に磨かれた武であれ、それを振るうのは紛い物の器……武とともに育んだ智慧と精神が其処になくては」
 盗んだ武では高みには登れぬと、無表情にアリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)は敵を待つ。
「いざというタイミングでミスが出ては意味が無いからな」
 スポーツウェアを着た粟飯原・明莉(闇夜に躍る枷・e16419)は、寒さで動きが鈍らないようにしっかりと準備運動を行う。
「合気道ですか、力を使わず敵をコントロールできると聞き及んでいますが実際可能なのでしょうか?」
 物語や伝聞で聞いた情報の真偽を、ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)は首を傾げて考える。
「私が通っている古武術の道場の師匠(せんせい)からそのような武術がある事は聞いたことはありますけど、実際に戦った事って無いんですよね」
 アルテナ・レドフォード(先天性天然系女子・e19408)が師の言葉を思い出す。
「今の私の剣術が通用するかわかりませんがドリームイーターとして行動している以上看過する事はできません。ここで止めましょう」
 己の全てをぶつけて倒してみせると闘志を高める。
「わたしは合気道には詳しくないのですが截拳道……所謂、ジークンドーというものはそこそこ覚えがありまして、敵の力を利用する辺り、似たものを感じますね」
 武術の頂きは登る道が違っていても同じなのかもしれないと、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)は武術の共通点から想像する。
「先日の依頼も雪山だったね」
 白い息を吐いたエリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が呟き、被害に遭った男性が凍死する前に助けなければと雪に視線を落とす。
「寒さ対策をして正解でした。被害に遭った男性が凍える前に終わらせましょう」
 機械の体に寒冷地仕様を施したビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)は、寒さを感じずに周囲を警戒する。すると雪山を滑るような軽快な足運びで道着姿の小柄な男が下りて来る。目標の武術家ドリームイーターであると確認しケルベロス達は戦闘態勢に入った。

●合気道
「その闘気、名のある武術家と見た。合気道を極めし武、その目に焼き付けろ!」
 ケルベロスに気付いた武術家が気を漲らせて迫る。
「この距離では投げる事はできないでしょう」
 様子見と瑛華は距離を置いて気弾を放つ、すると敵は撫でるように触れて気弾を地面に叩き落とした。
「合気道か……本当の達人は恐ろしいくらい、身体の使い方に熟達しているらしいからな。ぼくの鎖をどうやって受けてくるか、楽しみだ」
 支援しようと明莉は垂らした鎖で魔法陣を描き、仲間達の守りを強固なものにする。
「では始めましょう! なめろう超鋼拳っ!!」
 ビスマスは蒼鉛の鯖の形をしたビスマス結晶を変形させ腕に装着し、間合を詰めて全力で敵を殴りつけた。その腕を掴もうとする敵に、ボクスドラゴンのナメビスがブレスを放って後退させる。
「東雲流剣術、アルテナ・レドフォード参ります!」
 名乗りを上げたアルテナはウイルスカプセルを投げつけ、中のウイルスを敵に浴びせて体内を侵食し治癒能力を狂わせる。
「まずはお手並み拝見」
 破壊のルーンを自らに宿したアリスは、小手調べにと炎纏う回し蹴りを叩き込んだ。それを敵は腕で流し勢いを利用して投げ飛ばした。アリスは空中で身を翻し音も無く着地する。
「小よく大を制する戦いは、合気道の専売特許じゃありませんよ」
 続けて勢いをつけた晴香が跳躍してドロップキックを浴びせる。
「他ならぬプロレスラーの私も、決して大きくないこの身体で無差別級のリングに上がるんです。合気道の凄みを味わいつつも、プロレスの誇りに賭けて負けられません!」
 そして着地した晴香は掛かってこいと堂々と腕を広げて構えた。武術家はその腕を掴み軽やかに晴香の体を投げ飛ばしてしまう。
「実際の合気道の技、この身で確かめさせてもらいます」
 地を蹴ったロベリアが真っ直ぐに突っ込み戦槌を振り下ろす。
「いいだろう、その体に教えてやろう!」
 武術家は手で横から押してずらし、隣の地面に叩きつけさせるとロベリアの肩を押して投げた。
「なに!?」
 自らの勢いで投げられたロベリアは地面を転がるように受け身を取る。
「ザナン流紋章術士、ウェントゥス。来なよ」
 敵の注意を引きながらエリンはオウガ粒子を放出して仲間達を包み、その身に眠る超感覚を呼び起こす。
「確か師匠の言葉は……」
 師の教えを思い出しながらアルテナは二刀の刀を左右に抜き放ち不用意に敵に近づく。すると敵がするりと懐に入り込みアルテナの腕を掴んだ。
(「合気道は相手の動きを利用する武術である」)
 投げられる直前にその師匠の言葉を思い出し、投げられたアルテナは倒れる瞬間、腕で地面を叩いて衝撃を弱め勢いを利用して跳ね起きた。
「……紛い物の器であっても、技の精度は確かということね」
 それならばとアリスは腕を伸ばし吹雪の渦を巻き起こして敵を包み込み凍結させる。
「戦闘の基本はパワーとスピードです。避けられるならスピードを上げればいい」
 雷を纏ったランスを構えたロベリアは、突進して体当たりのように突きを放つ。閃光のような一撃が躱そうとした敵の肩を貫いた。
「プロレスラーを投げで倒せると思われたから困りますね」
 立ち上がった晴香はラリアットを叩き込む、敵は受けてぐるりと回転するように腕に絡みつき、その勢いを使って晴香の体をまたも投げた。
「なめろうの力、受けられるものなら受けてみなさい!」
 反対側からビスマスが蹴りを放つと敵はその足を掴む。だが足からなめろうの気の刃が放出され敵を撥ね飛ばした。
「仲間に比べると、少し、地味ですが」
 ジークンドーのような流れる動きで近づいた瑛華は、隙の少ない前蹴りで敵の腹を蹴りつけ押して間合いを離す。
「これを受け切れるかい?」
 敵の手の届かぬ位置から明莉は大鎌を薙ぎ払う。
「その程度!」
 すると敵はするりと巻き取るように前進して密着し腕を掴む。掴まれたと思った瞬間、明莉の体は投げ飛ばされていた。
「カウンターが得意という情報通りだね」
 敵の動きを観察しながらエリンは呼び出した御業を鎧に変え、明莉の体を覆い怪我を治療して守護する。
「何度だって立ち上がり戦い続ける……それがプロレスです!」
 懲りずに突っ込んだ晴香はもう一度ラリアットを放つ。同じように敵が腕に絡みつくと、晴香は歯を食いしばって踏み止まり、腕一本で敵の体を持ち上げてボディスラムのように地面に叩きつけた。
「其の技を身に付けるに至ったあらゆる修練、そして研鑽までもを夢喰いが模倣することは出来ないでしょう」
 隙を突いたアリスは燃え上がる足で脇腹に蹴り地面を転がす。
「クロガ、ルイ、穴だらけにしてしまいましょう!」
 続けてビスマスは取り出した2本の杖を黒と白の針鼠に変えて放ち、体当たりして鋭い棘を脚や腕に突き刺した。
「やるな、だがまだ合気道の神髄はこれからだ」
 針鼠を投げ飛ばして武術家は静かに立ち上がる。
 そこへロベリアが戦槌を振り下ろす。その一撃を受け流されると、片手を離し膝蹴りを腹に叩き込んだ。
「繊細な体捌きを旨とする貴方には堪えるでしょう?」
 敵の動きが止まったところへロベリアは戦槌を下から振り上げる。すると敵は戦槌に足を乗せ、その勢いで宙に飛んで衝撃を逃した。
「やるじゃないか、なら容赦なく行くよ」
 立ち上がった明莉は速度を上げて回り込み、鎖を巻き付けた拳を脇腹に叩き込む。
「もう不用意には近づきません。こちらの間合いで勝負です!」
 一歩引いたアルテナは二刀を振るい、胴と首を狙って衝撃波を放つ。敵はそれを腕で捌こうとするが、手と肩に傷を負った。
「我が剣、我がこの銀煌は護りたい者達に捧げる魂葬の斬撃!」
 それを追うように天魔の力をグラビティに変え、エリンは手にした剣を銀色に輝かせて敵を袈裟斬りにした。
「最速の拳ならどうでしょうか」
 そこへ瑛華は予備動作の無い最速の縦拳を放ち顔を捉えた。だが引く前に敵に腕を掴まれ、背中から地面に落とされ腕を極めようとしてくる。それに対して瑛華は相手の腕を蹴り上げて拘束を解いた。
「危うく、折られるところでしたね」
 腕の感覚を確かめながら起き上がり瑛華は油断なく敵と対峙する。

●小よく大を
「見事な武、だからこそ打ち破ってみせる!」
 自然体で敵は息を整え待ち構える。
「この間合いでは自慢の投げも放てないでしょう?」
 間合いの外から瑛華は棍を伸ばして突き出し敵の胸を突く。その棍を敵に掴まれると棍を蹴り上げて腕を弾いた。
「其処に通う血が、魂が無いのであれば……其れは武では無く、唯の小手先の芸に過ぎないのだわ」
 背後に回ったアリスはナイフを抜き、傷口を狙い突き刺す。そして捻って傷を広げた。振り向こうとする敵にナメビスがブレスを放って視界を遮る。
「針鼠の棘を掴んで投げる事はできないようですね! ならば!」
 ビスマスは2匹の針鼠を合体させ巨大化させると、翼を生やして飛翔し敵に体当たりを浴びせた。硬い針が敵の胴に無数の穴を空ける。
「カウンターされない攻撃を使えば、合気道の技を封じる事ができます」
 右の刀を地面に刺したアルテナはウイルスカプセルを取り出して投げつけ、当たった腕をウイルスが侵食して痛みを与える。
「テンポを上げて、一気に畳みかけるよ」
 明莉は跳ねるように駆けまわり、背後から大鎌で背中を斬りつけた。だがそれを予期したように敵は鎌を掴んで明莉の体を地面に叩きつけた。
「そろそろ動きも鈍ってきたようですね」
 そこへロベリアはランスを突き入れる。だが体を回転させて攻撃をいなした敵は、ロベリアの腕を取って関節を極める。
「テクニックをパワーでねじ伏せます」
 だがロベリアはそれを無視して殴りつけ、敵の顔を打ち抜いて殴り倒した。
「プロレスでは投げられるのなんて当たり前の事です。それでも何度も立ち上がるのがプロレスラー!」
 木を駆け上がった晴香は高く跳んで、落下しボディプレスを浴びせた。
「ぐはっこれしき!」
 武術家は苦しそうな声を出し、晴香の体を横に投げ捨て立ち上がる。
「攻撃に慣れてしまえばカウンターも易々とは食らわない」
 戦いの流れを見ながら、エリンはオウガ粒子を放って仲間達の治療を行っていく。
「まだだ、合気道はどのような武も受け流す!」
 道着を赤く染めながらも武術家は気力を高める。
「心も体も鍛え抜かねば本物の武には至らない。紛い物にはそれが理解できないようね」
 敵の意識から外れるようにアリスは仲間と反対側から近づき、すっと伸ばした手に持つナイフが敵の背中に突き刺さる。
 水陸両用の鎧装『アナゴクオン』を装着したビスマスが、背中から分離した穴子型ユニットを大剣に変えた。
「この鎧装に習い……明石のご当地ヒーローの必殺技、なめろう要素を付与して御借りしますっ! ……アナゴなめろう……神霊剣っ!」
 一刀両断に振り下ろした刃は、身を捻った敵の肩から深く入り右腕を殺した。
「今度は私が投げる番! プロレスの投げを味わわせてあげるわ!」
 左後方から晴香が組み付き、力強く後方へと反り投げ後頭部から勢いよく地面に叩きつけた。倒れたまま武術家は晴香を投げる。だがその勢いは衰えていた。
「片手では投げのキレが無いようですね」
 その隙に駆け寄ったアルテナは二刀を振り抜き、倒れた敵の胸と胴を斬りつけて通り抜けた。
「パワーとスピード、その2つが合わされば逃れようのない一撃となります」
 ロベリアはロケット噴射で加速して戦槌を叩き込む。敵はそれを転がって躱すが戦槌は思い切り地面を叩き、爆発するような衝撃を起こして敵を空に舞い上げた。
「今までそちらに合わせていたが、悪いが得物はこっちでね」
 跳躍した明莉は先端に刃の付いた鎖を振るい、敵の体を四方から切り刻んでいく。
「一対一なら強いのかもしれないが、連携攻撃を捌き斬るのは無理だったみたいだね」
 続けてエリンは銀の刃を振るい胴を薙ぎ、血を噴き出した敵は落下し地面に膝をつく。
「最後はガチンコと行きましょうか」
 瑛華はグラビティを鎖状に具現化し自らの腕と敵の腕を巻き付ける。そして引き寄せながら縦拳を放った。
「どのような状況でも合気道は使える!」
 それに対して敵は腕を掴んで投げようとするが、瑛華が鎖を引いて相手の体勢を崩す。そして無防備となった顔面に蹴りを叩き込み、その姿を霧散させた。

●さまざまな武の道
「ん……?」
「気が付いたか……水分は要るかい?」
 目を薄っすら開けた男性に明莉が尋ねスポーツドリンクを手渡す。それを口にして漸く男性は意識をはっきりさせた。
「あなた達は?」
「寒気とか、変な感触とか無い?」
 エリンは毛布を掛けて今の状況を説明する。
「冷え切っていますね。これで体を温めてください」
 ビスマスが魔法瓶からなめろうに白味噌を注いだ温かな味噌汁の入ったカップを差し出した。
「ご迷惑をおかけしたようで、助てくれてありがとう」
 温かなもので体調を戻した男性が礼儀正しく頭を下げる。
「合気道は相手と『気を合一させる』武道……相手の気を感じ取らなければ、な」
 今回は出会った相手が悪かったと明莉が慰める。
「見事な投げ技だったわ、よければうちのリングに上がってみない?」
「あなたは……あ! 見たことがあります。プロレスラーの……ありがたいお話ですが、合気道は己を鍛え争いを起こさないのが理想ですので」
 晴香が勧誘すると、申し訳なさそうに男性は頭を下げる。
「残念、でも鍛え方は人それぞれだからね」
 笑って晴香は話を流し、プロレスとは違う武を尊重する。
「合気道は自分の間合いでは強かったです。ですが遠い間合いは不利なので、対策を考える必要があると思います」
 戦いの感想をアルテナは伝え、自らも学ぶところがあったと心に留める。
「使える手は総て使う……それも武の在り方の一つ。だけれど、貴方の武もまた一つ、優れた武の形なのだと思うのだわ」
 自分とは違う戦いの考えだが、アリスはそれに敬意を払うように男性に目礼した。
「今度、その技をわたしにも教えてくださいね」
 自分よりも力の強い相手と戦うのに有効な技だと、瑛華は興味を覚えて声をかけた。
「パワーを必要としない武術ですか、私には難しそうですね」
 自分には正面突破の技が合っているとロベリアは難しい技の理解を早々に諦めた。
「皆さんはどんな武術を使うのですか?」
 寒さも忘れ、各々の武術論を語り合いながら山を下り始めるのだった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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