ギターの音に込められしものは

作者:宮下あおい

 公園でひとりギターを片手に、考え込むような仕草を見せている青年。弾いたかと思えば手を止め、また弾くを繰り返す。何か気になる部分でもあるのだろうか。
 寒い季節のためか昼間だが周囲に人はおらず、子どもたちも学校の時間のため姿はない。
「あなたには才能がある。人間にしておくのは勿体ない程の……。だから、これからは、エインヘリアルとして……私たちの為に尽くしなさい」
 聞こえた声に青年は顔をあげた。知らない相手だ。紫の髪の踊り子のような恰好をした少女。
 何かを言うより先に、青年は紫の炎に包まれる。あっという間だった。自分が死んだことなど、きっと理解できないままで。
 その炎からエインヘリアルが現れた。
「さあ、行きなさい。グラビティ・チェインを奪うのよ。上手くいったなら、あとで迎えにくるから」
 エインヘリアルは了承と同時に、人の多い市街地の中心部へと向かっていった。
●急行
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は集まったケルベロスたちに向け、説明を始めた。
「有力なシャイターン、紫のカリムが動き出したようです。彼女たちは死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、その場でエインヘリアルにしてしまいます」
 出現したエインヘリアルは、グラビティ・チェインが枯渇した状態のため、人間を殺しグラビティ・チェインを奪おうと暴れだす。
「暴れるエインヘリアルの撃破をお願い致します」
 更にアーウェルは地図を広げる。
「場所は昼の市街地、オフィスや店舗が入ったビル、個人店、交差点、アーケード街など。いわゆる街の中心部ですから、寒い時期とはいえど、外を歩く人たちも多いでしょう。車も通っています。
 なお、今回のエインヘリアルですが、元となった方が音楽好きだったそうで、武器がギターによく似た斧……能力としては、ルーンアックスと思っていただいて構いません。またいわゆる、ギターとしての機能もなく斧の見た目が少しギター風に装飾されているといった程度です」
 戦闘場所となりそうな範囲に赤ペンで大きく丸をつける。
「元となった方の性格が少々影響しているとか……シャイターンが選定しているのですから、当然といえば当然ですが」
 最後にアーウェルは集まったケルベロスたちの顔を見回した。
「エインヘリアルによる虐殺を阻止してください。皆さん、宜しくお願い致します」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
アイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841)
瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)
渫・麻実子(君が生きるといいね・e33360)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)
斑鳩・眠兎(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e45153)

■リプレイ

●戦闘開始!
 ケルベロスたちが到着したのは、エインヘリアルとほぼ同時であった。
 それぞれが駆け出す最中、渫・麻実子(君が生きるといいね・e33360)がよく知る顔を見つけ、驚きの声とともに駆け寄る。
「……うそ、なんでここに」
「――影から手伝うだけのつもりだったが……やはり軍服は目立つか」
 宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は少しバツが悪そうに笑みを浮かべる。ここまで目立たないように行動したが、この人数で戦闘前とあっては、自分のことも後回しである。
 各々が役目を果たすべく、持ち場へと向かう。
「さて、しばしの持久戦、持ち堪えてみせよう」
 最初の一手はアイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841)。地面にケルベロスチェインを展開し、味方を守護する魔法陣を描く。
 同時に十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が踏み込んだ。
「おまえたち、ケルベロスか!」
「ええ、そうですよ。あなたが求めた音は、そんなもののために使うものではないでしょう」
 反応が遅れたエインヘリアルを、緩やかな弧を描く斬撃が襲う。もちろん、こちらの言葉が届くとは思っていない。けれど、言わずにもいられない。少しでも音を愛おしむ心が残っていてほしいと、泉は願わずにいられなかったのだ。
 間髪入れず、相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)が大鎌を振り上げた。刃に虚の力をまとって敵を激しく斬りつけ、傷口から生命力を簒奪する。
「今のおまえが持ってるもんは、全部殺されたやつのもんだ。全部ここに置いていきな」
「グァァァァァ……! ――私が優れた者であったから、導かれ勇者となったのだ! カリム様の素晴らしきお心遣いが分からぬとは、愚かな奴らめ!」
「優れた者だっていうなら、あんなに拘ってたギターはもういいの? 音楽は捨てちゃったの?」
 麻実子がバイオレンスギターを奏で始める。立ち止まらず戦い続ける者達の歌が響き、あえてエインヘリアルに聞こえるようにしたり、視界に入るように移動を繰り返す。
 伝わるものがあるかどうか分からない。それでも何か、人間としての心の残留があるのなら、少しだけ試してみたいと思うのは、やはり同じく音楽に精通しているから。
 一方、ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)と瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)は一般人の避難誘導を行っていた。
「――子どもを連れているなら、あちらへ! ここは戦闘に巻き込まれる恐れがある。皆、落ち着いて避難を!」
「エインヘリアルが出ました。皆さん、落ち着いて! ……あ、大丈夫? パパかママは? はぐれちゃったの? いいわ、私と一緒に行きましょう」
 玲子が転んだ子どもを抱き起す。玲子は泣きじゃくる子どもを宥めながら、避難させるべく一度この場を離れた。
「ここに隠れていたら怪我をするよ。さあ、向こうへ」
 相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)も戦闘に巻き込みそうな場所をひとつひとつ確認していく。
「ちょこまかとうるさい蠅が、邪魔をするなぁぁぁぁぁーー!」
 エインヘリアルが創介を狙い踏み込む。
 しかし、捕食モードになったブラックスライムがエインヘリアルの足を止めた。
「……いまだよ!」
 丸呑みとはいかなかったが、逃げるくらいは充分だ。
 フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)の言葉に、創介は後退。
 暴れるエインヘリアルがブラックスライムから逃れる直前、斑鳩・眠兎(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e45153)が、喰霊刀で斬り込んだ。武器に無数の霊体を憑依させ、斬りつけた敵は汚染される。
「あなたの相手は私たちよ」


「フィーラ、それに眠兎も、ありがとう。助かった」
 創介は軽く礼を言った後、次の場所へと足を向けようとした時。双牙が駆け寄ってくる。
「向こうは避難も完了している。――どうぞ、気をつけて」
 戦闘に戻っていく、フィーラと眠兎に敬礼する双牙。
 麻実子がバスターライフルを構えた。凍結光線が敵の熱を奪う。
「いくらギターとしての機能はなくても、それを傷つけちゃダメだよ」
「……っ! うるさい! 愚かなケルベロスどもに何が分かる!」
 エインヘリアルの持っている斧は、ギターとしての機能はない。見た目が少しギターのように装飾されている程度。それでもやはり、傍から見ると悲しいものだ。
 好きだったものをああして凶器に使うのは。
「そうなってしまっては、あなたが奏でた音楽も、もう、きけない。だから、とめるよ」
 フィーラが駆け出し、高く飛ぶ。流星の煌きと重力を宿した飛び蹴りがエインヘリアルを足止めする。
 続けざま放たれる眠兎の一撃は、呪われた武器の呪詛を載せた、美しい軌跡を描く斬撃。対象は違えど、何かを好きだという感情は誰にでもあるものだ。
「好きなものはそうやって傷つけるためには使うのは、見ていても気持ちいいものではないわ」
「もうキミは犠牲になったギタリストじゃない。だからここで終わらせるよ」
 避難誘導を終えた玲子が、マテバ社のオートリボルバーを構え、目にも止まらぬ速さで弾丸を放つ。
「小賢しい……!」
 3メートルの巨体が振り下ろされると、小さな雑居ビルはあえなく崩れる。
「ツケ払う時だぜ、キリギリス」
 怠惰の末路――ディジェネレイション。
 空が割れ、その裂け目から放たれた光を浴びた者は、今までに犯した罪の重さに応じて身体が末端から萎縮し衰えていく。
 エインヘリアルの動きが止まるが、トドメまでは至らなかった。
「汝の理不尽な最期には同情する……だが、戦いの手は緩めるわけにはいかぬ」
 同じく避難誘導を終えたダンドロが駆け出し飛び上がると、≪ Diadochoi ≫――バスターソードを振り上げた。
 しかし、エインヘリアルのほうが仕掛けるのが早く、ルーンが発動する。光り輝く呪力とともに斧が振り下ろされる。相打ちのように思えた。
 体格の差からか、それとも威力の違いか、ダンドロが押され跳ね返されると、側の店舗に激突した。
「くっ……!」
「ダンドロ! ――その身に溜まった毒を殺す」
 オルキス・オペレーション。腕部に内蔵している機能の1つ。殺傷力の無い雷の針を対象へ投擲して突き刺し、刺さった箇所から傷や毒などを癒やす、もとい殺す。
 アインのグラビティがダンドロを癒す。創介が更に、生きる事の罪を肯定するメッセージを奏でる。
 それとほぼ同時に泉は達人の一撃を放つ。
「……あなたの音は、どのような形を作ったのでしょう? それとも途中でしょうか」
「おまえたちに、関係のないことだ……っ!! 知った風な口をきくな!」
 それはそうかもしれない。生きていた彼を直接知らないのだから、関係ないと言われれば否定はできない。
 それでもと願うのは、勝手なことかもしれないけれど。

●決着
 しばしの攻防戦。しかし戦いは、終始ケルベロスたち優位の流れとなった。
「必ずや紫の小娘とも決着をつける。――今は汝を倒すのみ!」
 唐突に奪われる命、そこは同情を禁じ得ない。だからといって、手を抜いていいものではない。
 ダンドロは全身に力を溜め、筋力を載せた超高速の斬撃を放った。
 反撃の隙を与えないように、一気に畳みかける。
「ねぇ、君はもうダメなんだ……仕方ないよ。代わりに僕の音色、抱いて逝って」
 Don't Let Me Go――ドントレットミーゴー。
 麻実子はエインヘリアルの動きを可能な限り予測し、指先や足先からグラビティを振り抜く。彗星の如きそれは、敵の永遠を破壊すべく時に山なりに時に垂直に。
「同じ道を歩むひとりとして、これ以上の被害が出る前に終わりにしましょう」
 泉が飛んだ。日本刀――廻を納刀状態から一瞬にして抜刀し、敵をたちどころに斬り捨てる。
 倒れるかと思われたが、エインヘリアルはそれを持ちこたえ、僅かなタイミングを逃さず高々と飛び上がった。
「こうなれば、道連れだ……! ケルベロス……っ!」
 エインヘリアルが標的に選んだのは眠兎だ。とはいえ、エインヘリアルも弱っている。これが最後の一撃となるか。そうでなくとも、その一撃は全力とまで行かないはず。
「後の、楽しみが、あるというのに……そう簡単に、道連れに、されて……たまるものですかっ!」
 ここで敗れてはケルベロスの名折れ、それにこの後待っているチョコレートを眠兎は楽しみにしているのだ。喰霊刀に無数の霊体を憑依させ、一撃を受け止めると、押し返しそのまま斬りつけた。
「勝敗は見えた。あとひと息」
 アインが舞い踊ると、仲間たちの頭上に花弁のオーラが降った。
「たとえそれが、かたちを模しただけといっても、あなたに、音楽をおしえてくれたひとが、きっとかなしむ。だから、止める!」
 斧に少しギターっぽく見えるよう装飾がされただけ。けれど、彼に音楽を教えた人が今の姿を見たら、どう思うか。
 ブラックスライムが捕食モードへと変わり、エインヘリアルを呑み込もうと襲いかかった。
 鳴海が大鎌を構え踏み込んだ。刃に「死」の力を纏い、敵の首筋をめがけて振り下ろす。
「何の罪もねえってのに、技術や才能を理不尽に横から掻っ攫う……怠惰なキリギスよろしく、最後くらい潔くしな!」
 鳴海が飛びのくと同時に、玲子が構えた銃口からグラビティを発動させた。
「全術式解放、圧縮開始、銃弾形成。神から奪いし叡智、混沌と化して、神を撃て!」
 神討つ混沌の銃弾――デウスベイン・カオスブレット。
 魔導書の記された魔術全てを解き放ち、全魔術を圧縮して一発の銃弾に変えて敵に撃ち放つ。
 双牙と創介もそれを見届け、その銃声がエインヘリアルの最後となった。

●欠けたもの、それから
 ケルベロスたちは怪我人の手当や破壊してしまった箇所の修復を終えた頃。
「……成仏、してくれよ」
 炎は浄化だ。罪も悪意に染まった、その魂さえも焼き尽くす。鳴海はエインヘリアルが倒れたその場に、膝をつき両手を合わせた。
 アインもそれに合わせて、両手を合わせる。
「死だと分からぬまま消え、心の欠片を残し、エインヘリアルとなる。そしてまた死を迎える……欠けた心が彼の元へ帰れるように願うのみ」
 今回は夢や才能だった。でも人によって、心の欠片はきっとそれぞれだ。例えばそれは、ケルベロスであっても変わらない。過去の記憶、好きなもの、許すことのできない相手、憧れ。今もまだ欠けたままの部分があるけれど、いつかそれらが自分の元へ帰ってくるように。
 泉はブルースハープで、鎮魂歌を奏でる。
 彼の音は、エインヘリアルとなった彼の音は、どんなものだったか。今となっては想像するしかない。そんな音でも空にいる彼に届けば、安らかな眠りへと誘ってくれるのでは。
「想像するしかなくとも、きっと届くと私は信じています」
「ああ、そうだね。きっと届くよ。僕も手伝わせてくれるかな」
 創介がブルースハープの音に合わせて、ギターをつま弾く。
 眠兎は奏者2人の元へ歩みながら、流れてくる鎮魂歌に耳を傾けた。ミュージックファイターに比べれば、音楽の知識はそう多くないと思う。けれどこの曲がとても綺麗で、心地よいものであることは分かる。
「――心の欠片、ね」
「どうしたの? 眠兎」
 そこへ追い付いてきたフィーラが問いかける。
「アインさんの言葉を聞いて、少しね。私も姉妹がいたはず……なのよ。覚えていないけど。そういうものも、いつか私の元に帰ってくるのかなって」
「きっと、みんな……ここにいる、みんなだって、なにかしらあるよ。かえってきてほしいもの。かけてしまったもの……かえって、くるように、できることを、がんばろう?」
 フィーラの言葉に眠兎が頷く。今できることを、やれることをひとつひとつ、積み重ねていくしかない。
 ダンドロが鎮魂歌が響く空を見上げた後、そっと武器を撫でた。
「いずれまみえる事があらば、コイツで挨拶せねばな」
 紫のカリム。エインヘリアルを生み出し、いくつも事件を起こしている元凶のシャイターン。いつか決着をつける時が来る。もしも自分がその場に立てたなら、一矢報い必ずや勝利する。これまで犠牲になってきた者たちのために。
「そうね、必ず勝ってみせるわ。誰ひとりの思いだって無駄にしないし、させない」
 玲子も同じくカリムとの決戦に思いを馳せた。
 ギタリストだった彼に対しての救いがあるのなら、それは多分ここで倒せたこと。これ以上罪を重ねさせないことだったと玲子は信じている。
 麻実子は空を見上げる双牙の隣に立った。
「――いつもありがとう」
「いや、俺がしたくてしていることだ。……大丈夫か?」
「うん、大丈夫。でもちょっとだけ、彼の音、聴いてみたかったなって思う」
 双牙の手がそっと麻実子の頭を撫でる。同じ音楽に精通する者が犠牲になるのは、やはり哀しい。それを察するかのような温もりに、麻実子は柔らかな笑みを浮かべた。

 これから成すべきこと、過去に欠けてしまったもの、追悼、それぞれの思いを抱えながらケルベロスたちは帰路へつくのだった。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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