オウガ遭遇戦~湧鬼の山

作者:ほむらもやし

●異変
 岡山平野の北の端、市街地と田畑に囲まれた、周囲8km程の山が吉備の中山である。
 陽の光が良く届く明るい森に覆われた山中には、かつて祭礼に使われた自然岩や環状石籬があり、山道を行けば、今もなお、地蔵のような前掛けやしめ縄のつけられた岩を目にすることが出来る。
 これらが昔から大切に受け継がれて、信仰されていることは誰の目にも明らかであった。
 ミリミリミリミリ、ベキン。
 地の底から大木が折れるような奇妙な音がして、得体の知れぬものが湧くような気配と共に異形の人影が現れる。
 体躯だけ見れば、筋骨隆々とした人間の男や女にも思えたかも知れないが、頭部や背中に生える『黄金の角』は、この地球上で、定命の命を持つ者とは、異なる種族であることを示していた。
 それは凄まじい腕力を持つことから鬼神とも称されるデウスエクス、オウガの特徴だ。
 このオウガたちが、どのようにして此処に現れたのかは分からない。だが、苛立ちまかせに突き出した拳で岩を砕くと、狂気を孕んだ声を上げた。
「グラビティ・チェインをよこせ! グラビティ・チェインはどこだ?!」

●ヘリポートにて
「2月3日に多数のデウスエクス、オウガが出現する。諸君らには直ちに迎撃の段取りをお願いする」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、厳しい表情で告げた。
「迎撃、どうして?」
 つい最近オウガの女神ラクシュミとの共闘があったと知る者が首を傾げた。
「迎撃で間違いない。今回、出現するオウガは全て、強度のグラビティ・チェインの枯渇状態で、知性が失われている。グラビティ・チェインを奪うために人間を殺すことしか頭の中に無く、コミュニケーションが不能である以上、武力で対応する以外の選択肢は無いんだ」
 吉備の中山の中央部にある、中山茶臼山古墳付近に出現するオウガは、グラビティ・チェインを求めて、節分の神事で参拝客が集まっている吉備津神社方面に移動する。
「従って、迎撃は中山茶臼山古墳周辺の巨石群付近と、吉備津神社への侵攻ルートの終端、吉備の中山細谷川付近の2カ所を主戦場として実施する。1体たりとも神社への到達を許してはならない」
 今回の敵、オウガは強度のグラビティ・チェイン枯渇状態という特殊な状態にある。
 長時間の戦闘により、グラビティ・チェインは完全に枯渇させれば、オウガはコギトエルゴスム化すると見られ、出現地点である中山茶臼山古墳周辺で迎撃するよりも、最終防衛線の吉備の中山細谷川付近で迎撃した方がコギトエルゴスム化する可能性は高い。
「諸君の実力なら、いずれの戦場を選んでも、普通に戦って問題無く勝てるはずだ。ただ、オウガを助ける意思があるのなら、戦いを長引かせることで、命を奪わない選択もできる。ただし、グラビティ・チェインが枯渇状態にあるとは言え、オウガの強靱な肉体から生み出される攻撃力も高いから、敗北のリスクも高まることは忘れないで欲しい」
 迎撃地点に戦闘方針、目指すべき未来を手にするために、後悔のない選択を。そして全員が思うだけでは無く、それを現実に変えるための行動が必要だ。
「オウガが、どうして今、現れたのかは分からないけれど、今回の対応は、今後のオウガとの関係に、何かしらの影響を与えるだろう」
 ケンジは説明を終えると、話を聞いてくれた、あなた方に丁寧に頭を下げ、出発の時が来たと、告げた。


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
天乃原・周(あま寝・e35675)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)

■リプレイ

 展開するケルベロスの内のひとり、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)のタレ気味の耳がピクンと立った。
 直後、トスン。と地面が鳴る。
 遠くでショベルカーが土を掘るような音、それが人工的なものなのか、自然に由来するものなのか、判然としないまま音は次第に大きくなる。
「来ました」
 木々の間を縫うようにして歩いてくる、オウガの姿を認めると、環は進路を阻むように前に踏み出した。
 グラビティ・チェインが枯渇して、知性を失うと、かくも酷いことになってしまうのか。
 現れたオウガは、獣と言うよりは、生きた血肉を求めて彷徨い歩く、ゾンビのようだった。
「樒、大丈夫?オウガの足止め任せるのだ。あ、でも怪我はしちゃだめなのだ」
「ん、任された。できるだけ気を付けるが、何かあったときは頼むな?」
 四辻・樒(黒の背反・e03880)は、背中側にいる、月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)に応じると、無数のナイフを、オウガの足元目がけて投げ放った。
「これ以上進ませる訳にはいかないな」
 地面に刺さったナイフも意に介さずに、オウガが進む様を見て、環は戦うしなかいと知る。
「やれるだけ、やってみます!」
 跳び上がり、虹の軌跡を描く蹴りを叩き込む。ようやく前進を止めるオウガ。揺れる前髪の間から戦化粧を施した額が覗き、金の双眸が瞬いた。
 次の瞬間、オウガの突き出した拳が、着地したばかりの環の脇腹を直撃した。遠目にも分かる程に拳は体内深くにめり込んだ。身体中の骨を砕かれるような激痛が来て、続けて地面に叩き着けられる衝撃に意識が飛びかける。
(「でも、助けられる可能性があるのなら、諦めたくはないです」)
 指先に感じる土の感触を頼りに、現実をたぐり寄せながら、環は意識を保つ。一瞬遅れて、灯音の作り出した、白い霧が漂って、微かな癒しと共に盾の加護を展開した。
 続けて、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)の発動した、ウィッチオペレーションの莫大な癒力によって、ようやく環の苦痛は雪が解けるように霧散した。
「大丈夫です。急所は外れています」
 予知の情報を頼りに自分で気づき自分で考えたのだろう。防具の耐性がオウガの攻撃に対応して適正に整えられていると気づき、奏過は環の意気込みを知る。
(「ならば、私も誰一人倒れたりしないように……」)
 戦局を変える大きな一手は打てなくとも、正しい方向を向いた小さな一手の集積は大きな一手に匹敵する。
「鬼さんこちら! 銃のなる方へおいで!」
 無造作に繰り出した、稲妻突きが外れたのも構わずに、露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)は、子どもが悪ふざけをするように駆け回る。知性を失っているなら、理屈よりも派手な動きをする者に注意が向くかも知れない。何が正解か確信を持てない中、沙羅もまた思い悩んでいる。
「1体だけでも、このオウガはかなりの強さだね」
 ドラゴニックハンマーを砲撃形態と変えて、天乃原・周(あま寝・e35675)は竜砲弾を撃ち放つ。砲弾は正確にオウガを捉えて大爆発を起こし、橙色の爆炎、続いて渦巻く爆風を戦場にもたらす。
「……ぼくだって、皆と同じ、助けられるなら助けたい。だけど、最悪の事態も考えないといけないよね?」
 民間人の命と引き替えにオウガを助けるわけには行かない。戦況次第ではオウガを殺す方向に舵を切らなければならないし、それが可能なように、戦闘展開を描くことも必要だ。
「私も同じ気持ちだよ。だけど、最悪にはさせないよ」
 アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)は、周の方に顔をむけないままに言うと、ポジショニングを発動して、いきり立つオウガとの間合いを合わせ、感覚を研ぎ澄ます。
(「ある意味、他人ごとではないんだよな……俺たちヴァルキュリアにとって」)
 状況に違いはあるし、限られた寿命という定めを受け入れるかどうかは分からない。しかし、その価値観を受け入れることの出来たアルシエルであるからこそ、生きられるチャンスがあるのなら、運命を選択する機会を奪ってはいけないと、思うのだろう。
「Arreter(止まりなさい)! 待ってほしいですの!」
 鋭い声を上げて、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)はバスターライフルの引き金を引いた。傍らで、ボクスドラゴン『ラジンシーガン』が、タックルを掛けようと姿勢を低くする中、射出された魔法光弾は急速に膨らみながら飛翔して、オウガを直撃する。拡大膨張し続ける光の中心で、言葉にならない叫びを上げるオウガ、そこに、『ラジンシーガン』が体当たった。

 渇きを癒やせるのは、グラビティ・チェインだけだ。欲しい、欲しい、グラビティ・チェインをよこせ。そこにあるじゃないか。くれよ、おくれよ。ぐあああああ!!! オウガの姿は、餓死を定められた咎人が、街頭に吊された篭の中から食べ物を乞うが如きで、正視に耐えない悲惨さであった。
 ただ飢えを癒したいが為に、神社を目指そうとするオウガの挙動に、環と樒とアルシエル、3人の目線が集まる。
 オウガが足を踏み込むと同時、樒とアルシエルが飛び出し、タイミングをずらして、環が続く。
 次の瞬間、オウガは膝を折ると腕を地に着き、素早く逆さに立った。
「来るよ!」
 周の警告が跳ぶ、直後、オウガは回転する足技で、前衛——3人と2体のサーヴァントを攻め立てる。技の鋭さは正気を失っているとは思えないほどの精密なもので、身体に染みついた戦いの記憶が成せる技だと、見た者は直感する。
(「正に君は戦闘狂だよ。鬼と呼ぶに相応しいよ」)
 斬撃に裂かれた傷口から血を溢れさせながらも、踏みとどまり、アルシエルは返す刃で鍛え上げられたオウガの筋肉をズタズタに斬り裂いて、続く樒も黒い刃の閃きを滑らせて、その傷口を斬り広げる。
「行かせません!」
 直後、環の精神に操られたケルベロスチェインがオウガの半身に絡みつく。無造作に進もうとするほどに鎖は軋む音を上げながら締まって、その自由な動きを阻んだ。
「今瞳に映るは鏡像……信じて身を委ねて欲しい……」
 グラビティで赤光のメスを顕現させた、奏過の術が乱舞して、傷ついた者たちを癒し、続けて灯音の作り出した白い霧が再び、盾の加護を広げて行く。
「樒、背中は預かるのだっ」
 顔も向けないままに、心の中で頷く樒、癒しきれないダメージが重なっている。あとどれだけ耐えられるか? 冷静に思案すれば、攻撃が集中さえしなければ持ちこたえられる算段もつく。
 時計を持っている者はいるが、正確に時間を計ってはいなかった。ただ、感覚的には把握できる。およそ今が半分ぐらい、残り6〜7分程度をしのぎさえすれば、目指す結果を勝ち取れる。
「古より伝わりし奇跡の光よ、我が手に!」
 周の紡ぐ古代語——知らぬ者が耳にすれば、呪文である。が、激戦の続く戦場に響き渡り、癒しと厳かな気配をもたらす。続けて、シャーマンズゴースト『シラユキ』が影の如くに伸ばした爪を無造作に振り下ろして、目には見えない霊魂を斬り裂く。
 素早い身のこなしから、超速で突き出した、ゲシュタルトグレイブがオウガの脇腹に突き刺さる。
「はっ……!」
 気合いと共に稲妻の闘気がスパークして、肉の焦げる臭いが立つ。しかしオウガは痛みを感じていない様子で沙羅を見下ろす。圧迫されるような気配に気押されて、後に跳んで間合いを広げると、焼け焦げた刺し傷から一筋の血が流れ落ちた。
「グラビティ・チェインじゃなくて、節分豆で済ませてくれないかな、やっぱだめかな?」
 ようやく刻みつけたパラライズの効果にひと息をつくものの、オウガの攻撃は苛烈で、もし自身が食らえばひとたまりも無いことは沙羅自身が一番理解している。
 シエナの身体から湧き上がるように膨張したブラックスライムが補食モードに変わる。刹那にオウガを丸呑みにして、そしてバラバラに砕けた。
「Appel(聞いて)! 今は耐えてほしいですの」
 シエナは言う。しかしオウガの攻撃力はあまりに強力で、受け止めることは出来ない。無力感を感じながら後に跳ぶシエナを隠すように、『ラジンシーガン』がブレスを放つ。
 この光景には既視感がある。そう、かつて向き合った饑餓ローカストと同じだ。
「Rappeler(思い出しますの)……ローカストさんたちのことを」
 人知れず、破砕された数え切れないほどのコギトエルゴスムを思うと、小さな胸が引き裂かれたような感覚に襲われる。
「Souhait(お願い)出来れば殺したくないですの……」
「もちろんですよ! 私が、私と皆の願いを叶えてみせます!」
 凜とした声と共に、樒の投げ放ったナイフの斜め上方から、落下してきた環が虹色を纏った蹴りを繰り出す。
 側頭部を打ち据えられて、よろめくオウガに向けて、間合いを詰めたアルシエルが、さらに一歩を踏み込む。突き出す惨殺ナイフの刃は鮫歯の如く形状をしていて、その刃は狙い違わず傷口に突き刺さり、力任せに引き下ろす軌跡に沿って血肉の華を咲かせた。
 水音と共に血が繁吹く中、オウガの身体が前触れの無い爆発に包まれる。沙羅のサイコフォースである。
 周は自身が放った魔法光線で動きを鈍らせるオウガの姿に眉をしかめる。
「こんなのじゃダメだ」
 見るだけで得られる情報など、間近で刃や拳を交えている者が気づかぬ筈は無く、いつの間にかに、仲間の一歩後ろを歩んでいることに気がついて、急に悔しい気持ちが湧き上がって来た。
 直後、シエナの操る攻性植物ヴィオロンテが、その大顎を開いて二度目の咆哮を上げた。

 オウガの薙いだ拳から生み出された幾筋もの軌跡が、誰もいない方向に衝撃波を飛ばして、木々の枝を打ち砕いた。滅多に目にすることの無い、強敵の失策に驚きつつも、それを好機と気持ちを奮い立たせて、環は精神操作のケルベロスチェインを伸ばす。金属質の高音を響かせて、鎖はオウガの肉にめり込みながら軋みを上げる。
 直後、大気を揺さぶる咆哮と共に鎖は弾け飛び、砕けた鎖の一部を肉にめり込ませたまま、オウガは先に進もうとする。
「行かせないよ!」
 思い込みを吹っ切ったように声を上げて、周は跳び上がると、隕石落下の如き煌めきと共にオウガに衝突する。
 全てを見渡せる目など、普通の人間が持ちようも無い。この戦場を支配しているのは、ひとりひとりの思いに裏打ちされた行動、誤った道に進もうとしているオウガを助けたい純粋な思いだ。
 10分を越える戦いで、オウガが持つグラビティ・チェインはすぐにでも尽きそうな状態。それは誰もが理解している。
 『シラユキ』の不可視の爪撃がオウガの霊魂を斬る。想定外の痛打に備えて灯音は白癒を重ねる。
「あと少しなのだ」
「ええ、ここまでやったのです。誰一人倒れたりしないように……そして必ずコギト化を成功させます」
 奏過は力強く応じて、展開したケルベロスチェインに力を込める。瞬間、描かれた魔方陣の輝きが癒しと共に鉄壁の加護を重ねた。
「もうすぐタイムアップなんだね。了解!」
 しかし戦いは終わるまで何が起こるか分からない。それが戦場の掟だと沙羅は知っている。
 癒やせないダメージを除けば、ディフェンダーの状態は万全、サーヴァントも含めて倒れた者は一人もいない。
 だけど、あのオウガが神社に到達したら、負けだ。だから沙羅は、何度でも間合いを詰めてゲシュタルトグレイブを突き出す。その度にそれは稲妻の輝きを帯びて体内の神経を焼く。
 今やこのオウガには、苦痛が痛みによるものなのか、グラビティ・チェインの枯渇によるものなのかを、語る知性も無く、物語ることも出来ない。ただ、立ちはだかる敵の先に行けば、いくらでもグラビティ・チェインが手に入り、渇きを癒すことが出来る。本能がそう感じさせているだけだ。
 身体を逆さにして立ち、脚を高速回転させながら迫ってくるオウガ、斬撃と共に切り抜けるつもりなのか。しかし鋭い脚の軌跡はただ空気を掻き回すだけ、吹き上がる鋭い風と蹴りの波は上下にアルシエルと環に迫るが、僅かなダメージと、鉄壁と言えるほどに積み重ねた盾の加護を霧散させただけだった。
 黄金の角の生えた肩を激しく上下させ、這うようにして先に進もうとするオウガの指先が、シエナの足先に触れようとする。
 獲物だ、獲物だ。レゾナンスグリード、シエナの身体から湧き上がる、ブラックスライムのざわめきが膨張して、補食モードと変わり、オウガを丸呑みにする。
「舞え、狂え、踊り咲け」
 沙羅は幻想を籠めた魔術の弾丸を放つ。それは鮮やかな紫垂桜の気配を召喚し、春のような暖かな気配を戦場にもたらす。遂に体内のグラビティ・チェインを使い果たしたオウガは瞼を閉じたまま、生まれたばかりの赤子がそうするように、顔だけを光のある方向に向けて、そして獣の如くに咆哮しようとして、大きく口を開き、弱々しく吐息を吐き出した。
「終わった……のだよね?」
「ああ、もうコギトエルゴスム化が始まっているよ」
 攻撃の必要が無いことを、確認する周に、アルシエルは頷きで返す。
 コギトエルゴスム化する時の記憶を持つ者ならば、身体と魂が収斂する瞬間の絶望、人間で言えば、暗い氷の海の中で身体を動かすことも出来ないまま、五感と自身の実在が失われてゆくような感覚だろうか、を思い出して、背筋に冷たい物が走った。
 オウガは掌に載るほどの、小さなコギトエルゴスムへと変化して、戦いの終わりを告げた。

 これでオウガは助かったのか。
 どれほどの数のオウガを助けることが出来るのか。
 神経をすり減らすような戦い、その緊張を思い出すと、誰もハイタッチをして笑い合う気持ちにはなれなかった。
 環は、土の上に残された、オウガのなれの果て、コギトエルゴスムを拾い上げると、掌の上で撫でた。
「今度は、ちゃんと、生き返らせたいですね」
 聞き流せば、大した意味もない一言であったが、その言葉の重みを理解する、シエナはローカストの悲劇を、絶対に繰り返してはいけないと、拳に力を込めて、無言で頷いた。
 自分たちで覚悟し、決断したならば、たとえその先が絶望の未来になったとしても、新たな希望を掲げ最期まで武器を振るい続けることができる。それが寿命を定められた者ができる、この世に生きた証を残す方法だ。
 空の色を映した、コギトエルゴスムの透き通った輝きは、目に染み入るように美しい。
 だが、こんなちっぽけな宝石でしか、生きた命の証に出来ないとするなら、なんと寂しいことか。
「ん、神社に寄っていくか。どうなっているか、様子を見てきた方が良いだろうしな」
 人々の幸せそうな顔を見れば、きっと疲れも吹き飛ぶ。
 灯音に応じる樒の声に、再びいつもの時間が流れ出したことを感じながら、あなた方ケルベロスは警戒を解き、歩き出した。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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