生類哀れむ鳥人

作者:雨乃香

 無機質な真っ白な建物。
 薄汚れた細い廊下の片側に延々と続く金網。
 その向こう側には、細かく区切られた小さな檻が並んでいて中には狭苦しそうに犬や猫達が暮らしていた。
 正確にいうのであれば、暮らしている、という表現は間違いであっただろう、彼らはずっと待っているのだ。最後の時か、あるいは、誰かが自分をここから連れ出してくれる事を。
 保健所の動物達が収容されるその場所に、一人の男が立ち入ると。そこにいた彼らは一斉に金網にまで駆けていき、やってきた男へと視線を向けた。
 その動物達の必死な様子に男は息を飲み、言葉を失い、職員を横に携えたままふらふらと金網の前へと歩いていく。
 舌を出し、ハッハッ、と呼吸を繰り返しながら、男に触れようと二匹の犬が金網を揺らす。子犬というには些か大きな体の二匹。彼らにはその檻はあまりにも狭そう見える。
 男が手を差し出すと二匹の暖かな舌先がくすぐったく指を撫でる。
 男の目にじんわりと涙が溢れ、ふと彼が視線を巡らせると、じっと彼の事をその場に居る動物達が同じように見つめていた。
 項垂れ、震える彼の指をまた、二匹の犬が舐める。
 瞬間、彼の体が淡い光に包まれた。
「動物とは、自然で何者にも縛られぬ事こそが、大正義である」
 呟く男の姿は、異形の鳥人間へと変わり、動物達は怯え、檻の隅へと身を寄せ合うように距離をとる。
「案ずるな、私は直ぐに去る。そして、人々を皆殺しにし、お前達を解放してみせる」
 自らの変わり果てた掌を見つめ、怯えられる事も致し方なしと、ビルシャナは頷きながら、踏み出す。たとえ心奪われた者達に恐怖されようとも、彼らを助けるべく、ビルシャナは決意を固めた。

「犬派か猫派かきかれれば断然猫派なニアですが、いいですよ猫は。古来より様々な伝承や言い伝えにも登場し、また不思議な力を持つとされる動物。そして何よりもかわいい。そうニアのように」
 ニアニアと猫の鳴き声の如く自分の名前を一人称とするニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はドヤ顔で胸を逸らしつつ、居並ぶケルベロス達にチラチラと視線を送る。
「ん、んー? ツッコミがないとさびしいなーなんてニアは思いつつも、まじめな話に入りましょうか。さてさて先程も話した犬猫、ニア達の生活に最も近い動物達ですが、その分問題になることも多いですよね」
 そこでニアは一度言葉を切り、表情を歪ませながら、話を再開する。
「ペットから野生化して、数の増えすぎた犬猫なんてのはまぁ、その一端ですよね。そうして保健所に収容された彼らを助ける為には、身勝手な人を粛清することこそが大正義であると主張するビルシャナの出現が九十九折・かだん(自然律・e18614)さんの調査によりわかりました」
「このビルシャナに配下は居ませんが、保健所の職員等、一般人が彼の主張に感銘を受け、ビルシャナになってしまう危険性があります。そうさせないためにも、ビルシャナ出現後、皆さんにはまず避難誘導を行っていただきたいです」
 このビルシャナはケルベロスが戦闘行動をとらない限り、自らの掲げる大正義に対して、賛成、反対を問わず反応してしまうという習性があるらしく、それを逆手に取り、議論を展開するうちに一般人をを避難させる、というのが最も安全に人々を逃がす方法だろうと、ニアは語る。
「ビルシャナは自らの大正義を曲げることはありません。彼を元の人間に戻すことはできませんが、しっかりとした皆さんの言葉をぶつけないと、敵は一般人へと自らの主張を広め、賛同しないものには攻撃を仕掛けるでしょう。これ以上被害が出ないうちに、皆さんでなんとか食い止めてください」
 真剣な眼差しでニアはケルベロス達をみつめ、強く拳を握る。
「このビルシャナの気持ちもわからなくもないですが、だからといって人を虐殺したところで何かが解決するわけでもないですからね。間違った正義を振りかざす彼を止めてあげましょう」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
桐山・憩(機戒・e00836)
エピ・バラード(安全第一・e01793)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
天野・司(心骸・e11511)
九十九折・かだん(自然律・e18614)
イ・ド(リヴォルター・e33381)
ハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243)

■リプレイ


 市街地の外れに位置する真っ白な壁の目立つ一見の建物。平日の昼間、保健所にはそこで働く職員や来客の姿がちらほらと見て取れた。その誰もが、いつもと変わらぬ普段どおりの日常を過ごしていた。
 そんな白昼の日常の光景は突如響いた轟音によって打ち破られた。
「な、なんだ!?」
「爆発音?」
 保健所内の人々はその突然の音と建物の揺れに、慌て、混乱に陥り、机の下に潜り込むものや、出口を探して駆け出すもの、様々な反応を見せていた。
 さらに鳴り出した火災報知器に悲鳴と怒号が上がる中、建物内に設置されたスピーカーから数度のノイズ音のあと落ち着いた男の声が流れ出す。
「こちらケルベロスだ、訳あってこの建物内でデウスエクスが発生した。だが、安心してくれ、既に仲間が対処に向かっている。他に、建物内に避難誘導に回っているケルベロスもいるはずだ、見つけ次第彼らの指示にしたがって速やかに避難してくれ。なに、避難訓練と思ってもらえれば、あとはこっちでエスコートするぜ」
 保健所内の放送施設を借り、そう避難誘導を促すのは、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)の声だった。
 姿こそ見えない声だけの放送とはいえ、行動の指針を失い混乱していた人々には、十分すぎる効果があった。
「デウスエクスが出たぞ! 気を付けて避難してくれ!」
「わわわわわ、わわっ、避難はこちらで、す! 慌てず騒がず、急いで! あぁっ、ただし誰かを突き飛ばさないよう、に!!」
「指示に従って落ち着いて、可能な限り遠くへ避難を頼む。ビルシャナの言葉には耳を傾けるな」
 放送によって落ち着いた人々を誘導するのは、建物内の各所を手分けして担当する、天野・司(心骸・e11511)にハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243)、それにイ・ド(リヴォルター・e33381)の三人だ。
 人々はケルベロスである彼らの姿を見つけるとそれまでの不安そうな表情から一転、安堵の表情を浮かべ、避難指示に従って速やかにその場を去っていく。
「この調子なら思ったよりははやく終わりそうだ」
 周辺にいた人々の避難誘導を追え、周囲確認に移りながら司は別の場所にいる仲間たちへとインカムを通じを現状を報告する。するとすぐに、他の者達から返答が返ってくる。
「こちらはまだ時間がかかりそうだ、手が空き次第応援を頼む」
「了解したぜ、今から向かう」
 イの言葉に、放送施設を出た鬼人が応援に向かう旨を伝える。
「こちらもまだ少しかかりそうで、す。あ、そ、そっちは出口じゃないです、よ!」
「ハンスの方には俺が向かうよ、それじゃまた後で」
 次いで聞こえる慌しいハンスの声に、司は短く告げて、一度通信を切る。一時彼は外から聞こえた激しい物音の方向に視線を向けた後、すぐに踵を返してハンスの担当する場所まで駆け出した。


 火災報知器が鳴り響き、慌ただしく声をあげる人々の喧騒など意に介した様子もなく、保健所の檻に収まる動物達は、吠えるでも、暴れるでもなく、ただ黙ってその隅でうずくまっていた。
 檻の続く長いその通路を九十九折・かだん(自然律・e18614)は歩いていた。
 檻の中数匹の犬や猫が彼女の方へと視線を投げ、尾を揺らす。
 かだんが彼らに手を伸ばすと、その指先に暖かな舌が触れ、指先でその鼻頭を撫でれば、嬉しそうに小さく鳴く。
「かだん、いくぞ」
 そんな彼女に焦れたように、桐山・憩(機戒・e00836)は声をかける。
 かだんが頷いて檻の前を離れても、動物達は決して大きな声で吠えるような事はない。感情のままに鳴き声を上げることは悪い事だと、人の街で生きる彼らは教えられて育ったからだ。
 憩とかだんの二人の歩く通路の先、壁に空いた大きな穴の前では、エピ・バラード(安全第一・e01793)と葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)の二人が待っていた。
 合流した四人の視線の先、大穴の向こうの通りから響くのば、流麗なビルシャナの声。
「動物とは、自然で何者にも縛らぬ事こそが大正義である! 故にこのような施設は破壊し、人は皆殺しにし、彼らを自然なあるべき姿に戻さねばならない!」
 保健所の壁をぶち抜き、隣接した通りでビルシャナは声高らかに熱弁を振るっている。
「自然に還して自由にする……随分と上から目線じゃねぇか」
 それに水を差すように憩が言葉を投げた。
 やってきた四人に気づいたビルシャナは演説を止め、先を促すように憩へと視線を向ける。
「檻にブチ込んで殺処分する事が正しくない事は私も理解する。が、解決する為に人を殺すってのは先を考えた手段と思えないぜ」
 言い終えた憩の横、同じように大穴から出てきたエピは憩の言葉に同意しつつ言葉を続ける。
「大事にされて人と幸せに暮らしている動物だってたくさんいます。それでも人を殺して野に放つのが幸せだと言うんですか?」
 二人の言葉に黙って耳を傾けていたビルシャナは閉じていた目を開き、言葉を返す。
「先を考えるからこその手段であろう。確かに今幸せな動物達もいるかもしれない、しかし本来動物というのは自然に生きる者達だ、あるべき姿に戻れば自ずと彼らの生活に平穏が戻る」
 ビルシャナが自らの正義に基づいてそう反論すると、今度はオルンが口を開いた。
「あなたの仰るように、自然に生きることもきっと動物たちの在るべき姿なのでしょう。しかし、あなたが共存の道がないとあくまでも仰るのならば、止めます。あなたの動物に対する愛情は、尊いけれど、僕ら人類は、皆殺しにされる訳にはいきません」
 ビルシャナの言葉を否定するわけでもなく、ただ、そういった姿もあるのだろうと、認めつつしかし、到底認めることの出来ない部分に関しては、しっかりとオルンは言葉にし、ビルシャナを見据える。
「自分達は身勝手に殺すのに、自分達の番になれば認められぬとは。人は傲慢だとは思わんかね?」
 しかしそれを意に介した様子もなくビルシャナは肩をすくめ、未だ言葉を発していないかだんの方へと話題をふった。
「私も、保健所は、嫌い。無くなればいいのにな」
 話を振られたかだんは、ぽつぽつと語り始め、
「だが、ここは人間社会だ。けものの自由は限られる。私もここの子達に生きててほしい。けど、社会という名の弱肉強食も、またある種の自然の掟だ、そのバランスに手を出すな」
 徐々に言葉に力を込め、そうして、ビルシャナに鋭い視線を向ける。
「確かに一理ある。食物連鎖の頂点が人であるとすれば、その身勝手が自然の掟ともいえよう。しかし、裏を返せば頂点の掟こそが自然の掟。故に我はその頂点に立ち、この世界を変えようというわけだ」
 飛躍した解釈の論理を述べるビルシャナの根底にあるのは、歪んだ正義であり、彼は決してそれを曲げることはない。どれほど言葉を重ねようともそれが変わらないことはケルベロス達にもわかっている。
「ここの子達がそう望むのなら、それもいいだろう。だがあの子達はお前にも私にも、牙を向けなかったはずだ」
 所詮はその場にいる人々を逃がすための時間稼ぎ。それだけの効果しかないとわかっていても尚、かだんの口からは言葉が漏れる。
 かだんだけではない、その場にいるケルベロス達には、このビルシャナに成り果ててしまった男の主張が少なからずとも理解できてしまうのだ。
「だから私は、人を、生かす側だ」
 それ故に、微かな希望にかけ、語りかけた。その上でビルシャナは揺るがなかった。そうなれば、残された道は唯一つ。
「お前の正義を、押し通して見せろ」
「言われずとも、我が正義は決して曲がらず、ただ前進あるのみ」
 ビルシャナが言葉とともに錫杖を振り上げ、戦いの火蓋が切って落とされた。


 開戦からしばらくが経ち、戦闘の流れはビルシャナの側にあった。
「吠えたわりに消極的ではないか番犬!」
 叫びと共に放たれる氷輪は一斉にケルベロス達を傷つける。
「加減してやってんだよ……エイブラハム!」
 憩が敵を挑発しつつ、指示を受けたウイングキャットのエイブラハムがすぐさまケルベロス達の傷を癒す。だが、蓄積した傷までもは癒すことが出来ず、前に立つ三人の体からは血が止めどなく流れ続けている。
 デウスエクス相手に四人ではさすがに分が悪い、ケルベロス達は避難誘導にまわる仲間の合流まで、苦しい戦いを強いられる。
 防戦一方では押しきられる。そう判断したかだんは敵の攻撃が他のケルベロスに集中している隙をついて距離を詰める。
 それに対し羽ばたき、距離をとるビルシャナは後退際に再び氷輪による弾幕を張る。
「かだんさん、伏せて」
 オルンの言葉と共に放たれた弾丸が、ビルシャナの飛ばす氷輪を砕き、撃ち落とせなかった残りのそれらをかだんは避ける。
「反撃ですチャンネル!」
 仲間が攻撃をやり過ごしたことを確認すると、エピはテレビウムのチャンネルへと、すぐさま指示を送る。
 すぐさまそれに応えたチャンネルの画面が光を放ち、ビルシャナの目を眩ませ、そのまま接近したかだんの伸ばす腕がビルシャナの錫杖へと触れる。
 かだんの指先のふれた場所から、たちまち錫杖に蔦がはり、その先に花が開いて錫杖が崩れ落ちる。その侵食が錫杖の残骸を握る腕にまで及ぶ直前に、ビルシャナはそれを手放し、代わりに手にした鐘の音を辺りに響かせる。
 鳴り響く音は、それを聞くケルベロス達の意識に作用し、その過去のトラウマを抉る。犯してきた罪が、過ちが、彼らの前に立ちはだかる。
「我が救済の邪魔の邪魔をするものは、皆我が前に崩れ落ちるのだ!」
 勝利を確信し、ビルシャナが声を張り上げたその瞬間、
「救済というにはその手段はいささか非合理的だな」
 突如背後から聞こえた声にビルシャナが振り向けば、そこには避難誘導を終え、今まさに機械の鎧を身に纏ったばかりのイの姿がそこにあった。
 息も触れ合うほどの距離、イの頭部に備えられた刃に集中するグラビティが、頭突きによって直接ビルシャナの頭部へと叩き込まれる。
 鳥らしい甲高い悲鳴と共に、ビルシャナの体が吹き飛んだ。
「お、遅くなってもうしわけありませんで、す! どうか皆様、お静かに」
 イと同じく、避難誘導を終えてやって来たハンスは、未だ続くビルシャナの悲鳴をバックに祈りを捧げ、トラウマに苛まれる仲間達の傷を癒し、その過去の幻影を打ち払う。
「余計な事を……!」
 忌々しげにそう呟きながら、ようやく立ち上がったビルシャナの前には、気づけば八人となったケルベロス達が立ちはだかっている。
「もし、敵としてじゃなく、人間として話が出来たのなら、実のある話も出来たのかもしれないが……」
「気持ちは解らなくも無いけど、お前の願い一つで沢山の命はやれない……!」
 鬼人の言葉を引き継ぐように、司が続け、二人もまた己が獲物を構える。
「理解されたところで、思想だけで何ができる? 口だけの賛同や哀れみで動物達を救えるのであれば、我のようなものが生まれる筈もない」
 ビルシャナはその額からだくだくと血を流しながら、吠える。
「我が正義は未だ砕けてはおらぬぞ、こい番犬ども!」


 ケルベロス達の合流が済んだ所でほぼ大勢は決していた。
 元より憩にエピ、かだんの三人で敵の猛攻を凌ぐ事は出来ていた、そこにハンスの援護と、司と鬼人、イによる攻撃の手が加われば負ける要素はない。
 司の放つ砲撃に足を止めた敵の体を鬼人の斬撃が切り裂き、イの投げ放つ大鎌の投擲がその胸を貫く。
 苦し紛れの反撃にビルシャナの放つ氷輪の弾幕をかだんが受け止め、憩が撃ち砕き、エピの撃ち込む黄金の弾丸が彼らの傷を癒す。
「救わねばならぬのだ、意味もなく消えていく儚い命を!」
 自らの力が届かぬ事を理解しながらも、ビルシャナはその正義を曲げることはない。例え負ける事がわかっていても彼に退くという選択肢はもはや残されていなかった。
「生きる為の殺生は食だけではありません。定命化された者が持つ宿命……命の循環と、共生する為のバランスです」
「身勝手に増やし、身勝手に殺す事の正当化など、誰が認めようものか!」
 エピのかけた言葉にそう反論するビルシャナに、イもまた静かに言葉を返す。
「キサマの成そうとしている事も所詮は正義の名の下の虐殺に過ぎない」
「そんな事は理解している、だが、誰かが動物達の為に立ち上がらねば、何も変わりはしないのだ!」
 叫びと共に、破れかぶれに飛び出したビルシャナは炎を纏いイへと向かって突撃する。真正面からの愚直なその一撃をイが受け止め、それを押し切ろうとビルシャナは体に力を込める。
「そうなる前に、なんとかは出来なかったのかよ?」
 その姿を、悲しむような、問いかける声はビルシャナの頭上から聞こえた。
 地を蹴り、保健所の壁を走り、敵の頭上、死角をとった司の指先が敵に触れる。
 無色の炎はビルシャナの記憶を呼び覚ます。それは様々な痛みに関する記憶。戦いの中受けた傷、それだけに留まらず、彼が人であった時、この場所で受けた痛みすらも。
「せめてあんたの心が少しでも晴れる様がんばるさ。だから、今は眠ってくれ」
 足を止めた体を、鬼人の繰り出す斬撃が襲う。左切り上げ、から右薙ぎ、そして袈裟、瞬く間の連撃の交わる一点に止めの刺突。
 ビルシャナの体は一度だけびくりと跳ね、体に纏う炎が消えると同時に力を失い地へと倒れ付した。


 目を見開き、倒れたビルシャナの瞼を、そっとかだんの指先が閉じる。
 その体は、触れた先から泥へと変わり、草花を付け、破壊された道路の一角にぽつんと咲いた。
 一人の男の成れの果てを前にケルベロス達の反応は様々だった。
「どうか安らか、に……」
 そう口に出しその冥福を祈る者、手にしたロザリオに静かに触れる者、その姿を思い出し、言葉を反芻し、心に刻む者。
 相容れぬものの、全てを否定しきることの出来なかった敵に対し抱く感情は複雑であっただろう。
 そうしてしばしの沈黙が流れた後、最初に動いたのは鬼人だった。
 手にしていた帽子を被りなおした彼は、保健所へと戻ってき始めている職員達を見つけると、そちらへと向かって歩いていく。
「がんばるって言っちまったからな」
 そんな彼の呟きに、ハンスも慌ててそれについていく。
「あ、わたしもおてつだいしま、す」
 彼女の声に釣られるように、他のケルベロス達からもぽつぽつと声が上がり、彼らは一塊になって移動し始めた。
 それで果たしてどれだけの命が救われるのかはわからないが。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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