●コードネーム「デウスエクス・プラブータ」
「ァア、ゥアア……」
それは、獣の唸り声にも、風の唸る音にも似ていた。
巨石群の狭間を抜け、こぼれ落ちる音を前に山中にあった鳥たちは姿を消した。ずる、ずるとその身を引きずるようにして歩く『もの』を前に、逃げることを選んだのであろう。身を引きずるように音を出したかと思えば、ふいにその音が止む。小さく、石の割れる音だけがそれが移動していることを示していた。
「グラビティ、チェインヲ」
低く、唸るような声を落としそれは巨石の横から姿を見せた。外見は人間と変わらずーーだがその背からは『黄金の角』が生えていた。鬼神の頭部の角は短く、長身に似合いの手は木の枝を掴みーー砕く。
「グラビティ、チェインヲ、ァア寄越セ満タセヨコセヨコセヨコセヨコセ……!」
飢餓状態から血走った目で、鬼神は叫ぶ。暴れふるった腕が、太い幹をなぎ倒した。
●狂乱の徒
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。オウガに関して新たな情報が出ました」
集まったケルベロスたちをまっすぐに見ると、レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)は、話を始めた。
「リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)様を始めとした皆様が、探索を進めてくださったことでオウガに関する予知を得る事が出来ました」
出現を予知することができたのだ。
「現場は、岡山県中山茶臼山古墳周辺となります。オウガが多数出現することが予知されました」
出現するのは、2月3日なのは分かっているが、オウガのゲートの位置までは特定することができなかったのだとレイリは言った。
「出現するオウガの強度は、グラビティ・チェインの枯渇状態にあります。知性が失われており、ただ人間を殺してグラビティ・チェインを強奪しようと試みるようです」
この状態では話し合いは全く行えない。
「戦うしかありません」
レイリはそう言って、ケルベロスたちを見た。
「オウガ達は現在、岡山県の山中を移動しています。移動ルートにつきましては……」
こちらになります、とレイリが展開したのは中山茶臼山古墳から吉備の中山細谷川までの地図だ。
「オウガ達は、多くのグラビティ・チェインを求めて節分の神事で多くの人が集まっている吉備津神社方面に移動するようです。
皆様には、この中山茶臼山古墳から、吉備の中山細谷川までの地点でオウガの迎撃を行っていただきます」
中山茶臼山古墳周辺には、表面が鏡のように平板だという鏡岩を始めとした巨石遺跡が多くある。
その巨石の周辺にオウガが現れる事が多いのだとレイリは言った。
「巨石周辺で迎撃するか、或いは、敵が必ず通過する、吉備の中山細谷川の隘路の出口で迎撃する事となります」
「出現するオウガは一体。コードネーム「デウスエクス・プラブータ」です」
外見は人間と殆ど変わらないが、頭部や背に黄金の角を生やしている。長身の男の姿をした鬼神で、オウガ特有の凄まじい腕力を持つという。
「その腕には身の丈ほどの大剣を持ち、突撃を伴う攻撃を繰り出します」
近距離では拳による一撃、遠距離には炎の斬撃を飛ばすという。
「迎撃ポイントは二つ」
一つは、出現ポイントである巨石群だ。
巨石群で迎撃した場合は、周囲に一般人などもいないため、戦闘に集中する事が出来る。
「ここで戦闘を行なった場合、グラビティ・チェインの枯渇によるコギトエルゴスム化まで20分程度かかる為、コギトエルゴスム化の前に戦闘の決着がつく可能性が非常に高くになります」
もう一つの迎撃ポイントは、吉備の中山細谷川の隘路の出口だ。
「途中経路は……すみません、不明ですが、オウガは最終的にこの地点を通過してきます」
ここで迎撃することで、確実に迎撃することができるのだ。
「但し、問題点もあります」
この地点は、節分のイベントで人が集まっている吉備津神社に近いのだ。
突破されてしまえば、一般人に被害が出てしまう。
「突破されないように注意することが必要になります」
ここで迎撃した場合、戦闘開始後12分程度で、グラビティ・チェインの枯渇によるコギトエルゴスム化が始まると想定されます。
「オウガの戦闘能力は高いです。敵は、常に全力で攻撃を行ってきます。わざと戦闘を長引かせるような戦いをした場合、皆様が……、ケルベロス側が大きく不利となります」
コギトエルゴスム化を狙う場合は、相応の作戦や戦術が必要となる。
ケルベロスが敗北すれば、多くの一般人に被害が出るということも事実だ。
「ここまで話を聞いていただき、ありがとうございます」
レイリはそう言って、ケルベロス達を見た。
「オウガは戦闘力の高いデウスエクスです。まずは、どうか勝利することを第一に考えるようにしてください」
無理は禁物だと、そう言ってレイリはケルベロスたちに言った。
「皆様もちゃーんと、無事に帰ってきてくださると信じていますので」
折角掴んだ情報だ。これを生かし、被害も出さないために。
「では行きましょう。皆様に幸運を」
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(天涯・e00040) |
キーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080) |
春日・いぶき(遊具箱・e00678) |
ニケ・セン(六花ノ空・e02547) |
ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948) |
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455) |
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829) |
リミカ・ブラックサムラ(アンブレイカブルハート・e16628) |
●飢えた放浪者
生い茂った木々の隙間から、薄く光が差し込んでいた。帯のような光は木々のざわめきと共にふつりと消える。春にはまだ遠い、冷え切った中山細谷川の空気がキーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080)の頬を撫でていった。
「そう」
静かに声は落ちた。届いた音から何か拾い上げたように銀の瞳が緩やかな斜面を眺め見た。
「音が、少し変わったようです」
「ーーそれなら、近いわね」
なびく髪をそのままにローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)は息を吐く。この場所をオウガは最終的に通過してくる。
吉備の中山細谷川の隘路の出口。
この地での迎撃を、ケルベロスたちは選んだのだ。
「岡山……確か、鬼退治をした桃太郎の伝承の地が、此処だったかしら」
「……桃太郎」
通りの幅を確認していた春日・いぶき(遊具箱・e00678)がなぞるように紡ぎ、顔をあげた。戦うには問題無いだろう。
「鬼退治……今回は、それをしないで済むに越したことはないわね。そう願いたいものだわ」
ローザマリアの言葉に、リミカ・ブラックサムラ(アンブレイカブルハート・e16628)は小さく、息を吸う。
(「ローカストも助けられたロボ。今回だって上手く行くロボよ!」)
その為に、8人はこの『場所』を迎撃地点に選んだのだ。飢餓状態にあるオウガは、グラビティ・チェインの枯渇によって戦闘開始後12分程度でコギトエルゴスム化が始まると想定されている。
「……時計も、問題ない」
呟いて、ティアン・バ(天涯・e00040)は木々を見る。隙間から差し込む光はすでに薄く、帯ほどの強さもない。耳を澄ませば騒めきの向こう、僅かに賑わいが届く。
神社の賑わい。節分のイベントが行われているというその場所に、掛からぬようにとティアンは息を吸いーー空を、見た。
「……」
木々の隙間から見える空を茫洋とした瞳が捉える。瞬間、放たれた殺気が空間を捉えた。シャドウエルフの紡ぐ殺界。
(「あの賑わいの中のひとも、味方も、オウガも、誰もたおれさせない。何もとりこぼさない」)
ぴん、と空気が張り詰めーーやがて娘は音を聞く。来訪の調べ。この殺界を諸共せずに駆けてくる者の音。
「ティアンはもっと、つよくなるのだから」
「ァアアアア……」
声が、した。
ずるり、と重いものを引きずる音に反して、岩を飛び降りる音は軽くあった。
「オウガ」
それは誰の声であったか。巻き上がった砂塵の中、長身の影が立つ。最初に見えたのは背から生える複数の角であった。翼にも似たそれに触れた木の葉が砕け散る。砂埃の向こう、血走った瞳がケルベロスたちを見た。
「グラビティ、チェインヲ」
ゆるり顔をあげる。長い髪が頬を伝って落ちる。その圧迫感はオウガの飢餓故か、それともその視線にか。
「まぁ、そうだよね」
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)は息をひとつ零す。
隘路の出口を塞ぐように布陣したのだ。飢えたオウガにとっては分かりやすく邪魔者だ。
「うーん、守りより攻める方が向いてるからデフェンダーって苦手なんだけども……」
ま、とルードヴィヒは息を落とす。
「やると決めた以上――全力でやんないと、ね」
深く、帽子を被りなおす。
チリ、と音がした。身の丈ほどの大剣が僅かに地面から浮く。引きずるだけであった腕が跳ね上がるのをニケ・セン(六花ノ空・e02547)は見た。
「来るかな」
「ルァアアア!」
声が、咆哮とぶつかった。
●狂乱の徒
オウガの腕が、勢いよく跳ね上がった。ゴウ、と風の唸り声に似た音と共に強烈な横薙ぎがやってくる。向かう先はーー中衛だ。
「ーーッ」
熱が、先に来た。熱い、と思いながらキーラは息を吐く。落ちた血が足元に溜まる。だがーーそれだけだ。は、とつく息を最後にして顔をあげ、手元に猟犬の鎖を引き寄せる。リミカもまた、顔をあげていた。
(「まだ動けるロボ」)
行く先に立ちふさがったこちらをどかすつもりの一撃だったのだろう。だが、踏みとどまった。地を掴んだ足を、身を低めて前に行くそれに変える。
「回復を」
短く、ティアンが告げた。すぅ、と息を吸い、紡ぐ力を感じてかオウガの視線が彼女を向く。
「……どうしようもなく腹が減る。その気持ちは分からぬでもない」
その軸線に、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)は踏み込んだ。動いたものを追うように、血走った目と出会えば叩きつけられるのは明確な殺意だ。
「ルァアア!」
「だがそこで品性を失っては、美しくない」
するり、手をあげる。構える切っ先に雷が満ちーー放たれた。
「ッグァァ」
光がオウガに炸裂した。衝撃に僅かに体を浮かせたその姿を見ながら、ティアンは紡ぐ。
「――”祈りの門は閉さるとも、涙の門は閉されず”」
謳うように声は落ちる。天上に続くという門のひとつ「涙の門」は娘の声に開かれた。光が、キーラとリミカの傷を優しく癒していく。
「ペトリフィケイション」
ローザマリアの声が落ちる。
解放された古代語は、魔法の光線となってオウガに向かった。キュイン、と撃ち抜いた力に、オウガの体の一部が変色する。
「まずはひとつね」
「ーーえぇ」
いぶきが声を返す。その双眸がひたり、とオウガを捉えた。
「空腹は、お辛いでしょう」
「ーー!」
目があったそこ、血走ったオウガの瞳が僅か、逃げるように揺れた。戸惑いと苛立ちに似た声がこぼれ散る中、衝撃がオウガに落ちた。
「ァグラ」
それはただの視線ではない。魔力を秘めたいぶきの瞳は催眠の力を持つ。サキュバスの性。故に課せられた禁欲。飢える苦しみを、いぶきは痛いほど判っていた。
「以前、同じ台詞を吐きましたね。……ローカストは殺し、オウガは生かすだなどと、都合のいいこと」
それでも、といぶきは顔をあげる。
「僕は己の正義を振りかざし、偽善を承知で貴方を生かしましょう。生かした上で、貴方が地球に仇をなすなら、改めて殺しましょう」
それは覚悟に似た宣言であった。頭を振るったオウガがこちらを向く。獣の咆哮じみた声が叩きつけられた。
「グルァアア!」
「渇きに我を忘れ、衝動のままに秩序を乱さんとする獰猛な怪物を、看過する理由はありません」
踏み込んで来るオウガを正面にキーラは告げる。じゃらり、と地を駆けた鎖が戦場に展開される。
「食い止めましょう」
その言葉を、合図とするように守護の魔法陣が描き上がった。キィン、と高い音と共に前衛に盾を紡ぐ。その光を視界に、ニケは飛んだ。身を空に、飛び上がればオウガは上を見る。ーーだが。
「先にもらうよ」
ニケの方が早い。
流星の煌めきと、重力を宿した蹴りを叩き落とす。ガウン、と落ちた蹴りに、ぐん、とオウガがこちらを向く。持ち上げられた大剣に、ニケは軽く身を逸らした。そこから飛び込んで来るのはニケのミミックだ。
「!」
ぶん、と勢いよくミミックはエクトプラズムで作り出した簪を振り下ろした。小気味良い音が響き、着地したそこでミミックはルードヴィヒの方を向いた。
「♪」
蓋をぱかぱかとして、どやぁ。として見せる。
「きりちゃん、ただでさえ短いんだから、足引っ張るなよー。あ? お互い様だ?」
くわっと開いた蓋に眉を寄せて、けれどふは、と笑ってルードヴィヒは己に光の盾を紡いだ。
(「最後までちゃんと皆いられるよう目指して頑張る、よ」)
容易い相手では無いことは十分、分かっている。
それでも、決めたのだ。ここで戦うと。やりきると決めたのだから。
「止まってはいられない、ね」
●囲い場の相対者
剣戟と炎が、隘路でぶつかり合う。突撃を伴う斬撃をルースが真正面から受け止め切る。重い音と血が飛沫きーーその後ろから、だん、とリミカが踏み込んだ。突き出した拳が、その指のひと突きで気脈を断つ。嫌がるように、太い腕がぶん、と振るわれた。
「ーーっと、攻撃では無いロボ」
「間合いを嫌った、か」
唇の血を拭って、ルースは息をつく。回復を告げるティアンの声が響いた。息をひとつだけ落とし、再び地を蹴れば戦場に舞う砂埃はもう無くなっていた。血が、地面を濡らしていたのだ。倒す為の戦いで無い以上、ダメージはつきまとう。だがその分の回復も用意していた。ティアンに加え、いぶきとルードヴィヒが細かな回復を行っているのだ。そして紡ぎあげた盾の加護もある。盾役の怪我がやはり大きいがーーだが、倒れてはいない。
「グラビティ・チェインヲ……!」
「それで通すわけにいかないのよ」
ローザマリアは告げる。
振り回す一撃は相変わらず重い。
制約によって相手の動きは、少しずつ捉えられて来てはいるが、捉え切るにはまだ足らないかった。
「ルァアア!」
「抜けることを狙う身には、憎らしいことでしょう」
ですが、と告げるキーラがオウガの間合いへと踏み込んだ。飛び込み、突破を狙ってきたオウガが足を止めるより先に構える剣が光を帯びた。
「本能のままに来るというならば、それを利用するまでです」
「ッガァアッァア」
衝撃に、踏鞴を踏む。オウガの伸びた手に、キーラは身を横に飛ばした。ざ、と固まった土が通路の脇に落ち、追いかける敵の視線を真正面から受け止める。地を蹴る、ローザマリアとニケの姿を見ていたからだ。
「桜よ」
ローザマリアは告げる。踏み込みの音はなくーーだが応報之劒は滑るように抜き放たれた。接近に気がついたオウガが振り向きざま向けた大剣の端を滑るようにーー胴へと、届いた。オウガのその身に。
「ァア、グァアア!?」
催眠の中、オウガの剣戟が緩む。一瞬。だがそこをニケは逃すことはない。
「予想通りクラッシャーのようだね」
放て、と告げる。声は短く。バスターライフルの一撃が、オウガに叩きつけられた。
「ルァアア!」
咆哮と共にオウガは地を蹴った。勢いよく振るわれた大剣が斬撃を後衛へと向けた。ーーだが。
「悪いね」
は、と息を吐く。ルードヴィヒの手が血に濡れていた。それでも、く、と顔をあげたのは先に倒れたミミックのことがあったからか。ありがとう、と短く告げたティアンは「回復を」と紡ぐ。
「グルァアア!」
「回復させないというのは無しロボ!」
踏み込んだのはルードヴィヒとルース、そしていぶきの盾役の三人だ。後衛は無事だ。何より、斬撃が変わってきた、とルースは思う。
「効いてきたか」
減衰が。
落ちた声にいぶきは頷く。盾役だからこそ、実感としてよく分かる。敵の攻撃力が確かに落ちてきているのだ。重ねて紡いだ催眠の影響もあるだろう。
(「これは、倒して勝つ戦いとは違う」)
生かすと決めた以上は、準じる。
(「皆様が憂うことのないよう、撃破という選択肢が浮かばぬよう」)
立ち続けるし、立たせ続ける。
「努めましょう、最善を」
だからこそ、いぶきは手を伸ばす。赤く、染まった手の隙間から零れ落ちるのは硝子の粉塵。
「生とは、煌めいてこそ」
戦場を舞い踊る硝子は、前衛へと。傷を癒し落ちる血を止め、煌めきは皮膜に似た盾と化す。
「10分だ」
ティアンの時間を知らせる声が響く中、戦場は加速する。火花を散らし、激音を響かせながら一撃を叩き込み、返す拳を身に食いながらもケルベロス達はその足を止めることは無かった。
「突破はさせないロボ」
最後の一歩は大きく。た、とリミカは身を前に飛ばした。接近に、オウガが大剣を掴む。一撃、届くより先に散らす為か。振るう刃はだがーーヒュン、とリミカの尻尾のコードに絡め取られる。
「ルァアア!?」
「行くロボ」
オウガの体が、傾ぐ。引く筈の足が、石化していたのだ。体勢が僅かだが崩れる。リミカにはそれだけで十分だ。
電光石火の蹴りが、オウガに落ちた。
「グル、ァア、アァア!」
ひきつるような声が落ちた。だん、と踏み込みと共に突き出された斬撃が肩口を襲う。
「リミカさん」
「大丈夫ロボ」
キーラにそう応えて、た、と距離を取り直せば、横を行く仲間の姿が見える。戦場の流れはケルベロス達にあった。紡ぎ続けた制約が、オウガを捉えたのだ。
●静寂の地にて
火花が散り、金属のぶつかり合う音が空へと抜けた。剣戟は、今ここにきて緩み一撃の重さを僅かに残していた。
「グルァア!」
「運命は、アンタ自身のものよ!」
炎の斬撃を、ローザマリアは受け止める。構えた刃で切り開き、その手を空へと掲げた。
「鬼退治されるか、自らで運命を切り拓くか、選びなさい!」
召喚されるのは無数の刀剣。天空より出でた刃が、オウガへと降り注いだ。
「グルァアアア!」
咆哮に怒りが滲む。殺意と飢餓の中、傾ぐ長身が暴れるように剣を持つ。
「焦れば焦るほど、深みに嵌ることになりますよ」
「ルァア!?」
その身を、光が焼いた。キーラの翼から放たれた聖なる光だ。ぐらり、と揺れたオウガを見ながらキーラは息を吸う。あと、少しだ。あと少しで。
(「時は満ちる」)
こちらの攻撃に、未だ立ち続けるオウガの体力だけはまだあるのだろう。
「セ、ヨコセ!」
「駄目だよ」
歪む声に。身を倒し、獣のように前に来るオウガにルードヴィヒは告げる。
「ァアアア!」
だがオウガは地を蹴った。振り上げた腕、素早い突撃にルースは動く。中衛へと向かう一撃を受け止めたナイフが火花を散らす。その、時だった。
「時間だ」
ティアンの声が高く響く。それは12分の経過を意味する言葉だった。その先にあるのは、オウガの眠り。
「アァ……!」
オウガの手から大剣が滑り落ちる。長身から光が溢れた。
「怪我人やら死者は少ない方が良い……面倒だからな」
ルースはひとつ、息を吐く。
「……オウガよ、アンタも例に漏れずだ」
「ァ」
光が溢れる。血走った瞳がふいに彷徨うようにケルベロス達を見据えーーコギトエルゴスムとなって地に落ちた。
「破壊衝動だけでは、私達を屠ることはできません」
静かに、キーラは告げた。淡く光りを零す宝石に、影が落ちる。気がつけば木々の隙間から差し込む光が戻ってきていた。
「飢えても尚前に進むならここで眠ると良いよ。次に会う時を待っているから」
そっと、ニケは告げる。
宝石は、僅かに赤みを帯びていた。あのオウガだからか。
「……どうなっているんだ? コイツは」
「触ったところで大きな変化はないようですね」
いぶきの言葉にルースは息をついて頷いた。この分だと突いた所で硬い感触が変えるだけだ。
「……ローカストのように崩壊する前に、何とかせねばな」
手の中、そっと拾い上げたコギトエルゴスムを手にティアンは呟く。
「飢えからさめた目に映る地球が、どうか愛せるものであるように」
「また会えることがあったら、地球の楽しい事沢山教えてあげるロボよ」
リルカはそう言った。挨拶をひとつ紡ぐように。
コギトエルゴスムは淡い光を零す。それはひとつの戦いと願いの到達を意味していた。戦い、救うという覚悟の成就を。
作者:秋月諒 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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