●オウガ遭遇戦~双角の餓
岡山県山中――巨石の前で我を忘れて暴れるものの姿があった。
ぱっと見て、12、3才の少女。しかし、それは人の姿に似てはいたが、そうではなかった。
額から突き出る黄金の角は目を引く。それは両の眼の上あたりに。そして背にもいくつか角が生えていたからだ。
細身の少女は自分の身の丈よりも巨大な鎌を大きく振り払う。
長く、黒い髪はざんばらでぐちゃぐちゃだ。その髪は目元をも多い隠し、時折理性失った金の瞳をちらつかせる。口の端からは己の唇をかみしめたか、うっすらと血のあとさえも見える。
そして何を言っているのかわからぬかのような苦しげな叫びを発し、また暴れる。
それは自らが感じている餓えを誤魔化すかのように、我慢するような、八つ当たりのようなものだ。
どこか悲痛ささえも感じさせるそれは、終わることなく続く。
そして、その足はグラビティ・チェインを求めて人の気配のする方へと向いた。
●予知
またお願いしたいことがあるのだと、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集ったケルベロス達に切り出した。
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)を始めとした者達が、探索を進めてくれた事でオウガに関する予知を得る事が出来たのだと。
「岡山県中山茶臼山古墳周辺に、オウガが多数出現するんだ」
オウガのゲートの位置までは特定することはできなかったが、出現する日は2月3日。
そして現れるオウガは強度のグラビティ・チェインの枯渇状態であるとイチは続けた。
「グラビティ・チェインが枯渇しているから、知性は失われてただただ、人を殺してグラビティ・チェインを奪おうとするみたいなんだ」
こんな状態では話し合いなんてもちろんできないとイチは続ける。
つまり、戦うしかないのだと。
「オウガ達は、多くのグラビティ・チェインを求めて、節分の神事で多くの人が集まっている吉備津神社方面に移動するみたいなんだ」
だから皆には中山茶臼山古墳から吉備の中山細谷川までの地点でオウガの迎撃を行ってほしいと言葉は続く。
中山茶臼山古墳周辺には、表面が鏡のように平板だという鏡岩を始めとした巨石遺跡が多くあり、その巨石の周辺にオウガが現れる事が多いとわかっている。
つまり、巨石周辺での迎撃。或いは、敵が必ず通過する吉備の中山細谷川の隘路。その出口で迎撃する事になる。
「皆に対して貰うことになるのは、見た目12,3才くらいの少女のオウガ。額から2本の角。それから、背中からも角が生えてる」
そのオウガは簒奪者の鎌を持っており、時折苦しげな声を発したりもするという。
「グラビティ・チェインの枯渇状態だから、このまま補給しないとコギトエルゴスム化するんだ」
けれど、そうなる前にグラビティ・チェインを奪おうとしているのだ。
そう言って、迎撃地点はさっきも言った通り、二か所だよとイチは続ける。
「出現ポイントの巨石群で迎撃すると、周囲に一般人はいないから戦闘に集中することができるよ。ここで戦うと、コギトエルゴスム化まで20分程かかる。だからそうなる前に決着がつく可能性は高い」
それから、もう一方の迎撃ポイントは吉備の中山細谷川の隘路の出口。
途中の経路は不明だが、最終的にオウガはこの地点を通過する為、ここで確実に迎撃ができるのだとイチは言う。
「ただ、この地点は節分のイベントで人が集まる吉備津神社に近くて。突破されると、そこに集った人達に被害がでてしまうから、突破されないようにしないといけないんだ」
ここで迎撃する場合、戦闘開始12分程度でコギトエルゴスム化が始まると思われるとイチは続けた。
「それから。オウガの戦闘力は高くて、相手は一体だけど全力で攻撃をしてくる。わざと戦闘を長引かせるようにした場合、ケルベロスさん達の方が、大きく不利だ」
だからもし、コギトエルゴスム化を狙う場合は相応の作戦が必要になるとイチは言う。
「オウガを滅ぼさずに対処できれば、今後の関係を良いものにできるかもしれないけど……無理はしないで」
どうするのかは戦いに向かうケルベロスさん達次第だけど、無理はしないでほしいとイチは言い、ヘリオンへと誘った。
参加者 | |
---|---|
ディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046) |
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998) |
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125) |
狗上・士浪(天狼・e01564) |
グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868) |
茶野・市松(ワズライ・e12278) |
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673) |
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503) |
●遭遇
吉備の中山細谷川――木々の間からは冷たい風が、抜けて行く。
ここは、これからあるものと見える場所。
「話が通じねえ以上、ひとまず大人しくなってもらわねえとな」
グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)は話に聞いたオウガの少女を思い浮かべる。
飢えにより、人の命を奪う未来を持つオウガの少女の事を。
「借りがあるだけに、厄介なモンだな……まぁ、やれるだけやるしかねぇ」
狗上・士浪(天狼・e01564)は敵がやってくる方角を見詰め瞳細める。
放っときゃどの道、大勢死ぬんだと、背に守るべき者達がある事を示して。
そして――来たと。
誰ともなく、視線は一斉にそこに集う。
枯れた葉の上を、大きな鎌を引きずるように歩きながら呻く少女には、人ならざる者である印――角があった。
「女の子に手を出すのは気が引けるけどね――たったの12分だけさ、我慢してよね?」
巨大な白刃の斬霊刀をすらりと抜き放ち、そして猟犬の鎖を躍らせながらディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046)が構える。
するとその音に反応したのだろうか。
歩みを止めたオウガの少女は、両の手でその鎌を握り一気に、踏み込んできた。
少女と最初に接したのは――茶野・市松(ワズライ・e12278)だった。
いきなりだな! と市松は声をあげ一撃をはじき飛ばす。直接斬りつけられたわけではないが、手を伝う衝撃の感覚は濃く、ひらひらと手を振る。
「なーんか良くわかんねぇけど大変みたいだなあ。ここを突破されちゃあおしまいだぜ」
こう言うの、嫌いじゃないぜー、なぁ! と声向けたのはのは疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)に。ヒコはそうだなと笑って返し、おうと市松は頷いた。
「ますます気合いが入るってもんだ。よっしゃ、気張ってくぜー! つゆもいっちょやってやろうぜ!」
受けた一撃の重さに一層気合も入る。ウイングキャットのつゆは気合が入り過ぎだというように一声鳴いた。
この間に、少女を取り囲む陣形は出来上がっている。
「おっと、そっから先は行かせないわよ。鬼さんこちら手の鳴る方へ、ってね」
唸る少女へ、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)はゲシュタルトグレイブに稲妻纏わせ構える。
手を打ち鳴らす代わりに、稲妻の爆ぜる音だ。
攻撃の気配に唸りながら少女は鋭く視線を向けてきた。けれどそこに、理性は全くなく獣の本能のようなものだ。それを感じ、芍薬は突きを放つ。
「さて、会話は通じないみたいだし早速やらせて貰うわよ!」
節分を前にしてまさか、本当に鬼と戦うことになるとは――芍薬はそう思いながら少女から視線離さない。
今は飢餓でこうなっているだけ。
悪い奴らじゃ無いと思いたいし何とかコギトエルゴスムにして保護したいと思う芍薬の傍ら、相棒であるテレビウムの九十九も攻撃を仕掛ける。
敵とは言え、とラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)は痛ましげに瞳細める。
「まだ幼い少女が苦しむ姿を見るのは、此方まで苦しくなってきます……」
けれど、すぐに切り替える。だからと言ってこのまま放っておけるわけはないのだから。
「罪無き人々を手にかけさせるわけにはいかないのです。なんとしても此処で止めてみせますっ」
ラグナシセロはセットしていたアラームを起動する。
それは2分毎に時を刻み知らせてくれるようセットされている。
それが六度鳴る頃、戦いは終わるのだ。
後方からつゆが清浄なる羽ばたきを仲間達へ。
そして市松も守り固めるべく猟犬の鎖を走らせた。
その上をとんと身軽に、羽ばたき一つで追い越して。
「――……こっから先は絶対に行かせねぇよ」
涅槃西風を纏い、ヒコは一蹴を放った。
飢餓に苛まれた意識は明滅し、白昼夢へ誘うような心地を与えられ、少女の動きが鈍りをみせる。
「グ、ウウウ……」
獣のように唸る。その姿にジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)は表情曇らせる。
「……なんだか、苦しそうだね」
苦し気に悶える姿。
臆病だからこそ、ジルカは彼女から視線が外せない。感じるものがある。
「きっとホントは、あの子、壊したくなんて――ないんだ」
ウイングキャットのペコラはジルカが小さく零した声に頷くように鳴く。
思うように、飢餓という枷に縛られ生きられない。そんな少女を、放っておけないとジルカは思う。
「思いっきり、暴れていいよ。なんたって、今日で終わりなんだから!」
ジルカは躑躅の瞳を向け、その心を力とする。
少女の足元が赤く熱される。そして吹き上げた溶岩は少女を熱の中に閉じ込めた。
少女は溶岩から転がるようにのがれたが、そこへ攻撃続く。
士浪が振り下ろした竜鎚より放たれた砲撃に少女の足はその場に縫い付けられたように重くなる。
だが少女はここで立ち止まるわけにもいかなかった。
少女は目の前の者達から――この先にいる多くの人々から飢えを満たすものを奪うべく、その歩みを止めることは無かった。
●飢餓
戦いは、始まったばかり。
「誰かを傷つけさせるわけにはいかねえな。こっから先は、通さねえぜ」
滑るように走り、グレインは地を蹴った。その脚に流星の煌めきと重力の力を乗せて。
少女に側面から見舞った瞬間、視線が合う。
眉間の皺は深く、飢えによる苦しみは果てないのだろう。
「苦しいか、悪ィがもうちょっと耐えてもらうぜ」
その視線を受け止め、グレインは零せば少女は鎌を振り上げ追ってくる。
「アアアアアアッ!!」
叫びながら振り払われた鎌をディルティーノのが間に入り猟犬の鎖で受け止めた。
押し切るように載せられる力。鎖は切れないがその重さは鎖を伝い、ディルティーノはその手で感じ、強敵だと感じていた。
それぞれ、少女に縛りをかけ、守りを固めてもまだ重く感じるのだから。
決して油断できる相手ではない。それでも何としても時間を持たせなければいけないこと。
「気を抜いたらこっちがもっていかれそうだ、ね!」
言葉尻に勢い付けて、鎖でその鎌を払う。そのまま鎖は伸びて、地を這い己含めた仲間と守護する魔法陣を描いていく。
攻撃を仕掛けて、受けて感じたのは――並々ならぬ力を持っている事。戦闘力の高さは最初に一手、交えただけで感じる事ができた。
しかし、倒すという選択肢はない。すでにどうするかは、選んだのだから。
守りを固め、少女の力を縛って、落し。傷を負えば癒して宣戦を持たせる。
それを崩されそうになっても、声を掛け合い補いあって状況を拮抗するように持ちこめている。
少女の鎌の狙い澄ました一撃。守り手も攻撃全てに応じ切れるわけではない。
少女の放った鎌は回転し士浪の身を斬りつけ少女の元に。
ラグナシセロと芍薬は視線合わせどちらが癒すかすぐさま、決める。
私が行くわと近くにいた芍薬が先に動く。
「防衛戦、中々キツいわね。でも、私からのとっておきのプレゼントよ♪」
癒しのエネルギーをプレゼントボックスに込めて、士浪へ渡す。それをあければヒールグラビティと共に節分の豆が出てくる。
「豆が出るとは……私達、あんたの命を奪うつもり無いから少し加減してくんない……ってダメかやっぱ」
節分に際したもの。それを見つつ芍薬は声をかけてみるが少女にはやはり、届かない。
芍薬が癒す間にラグナシセロは前列の仲間達を支えるよう動く。
守りを硬く、厚く。
ラグナシセロの操る猟犬の鎖は魔法陣を描きながらも少女を冷静に見つめる。
飢え苦しむ――早く安らげるようにしてあげたいと、ラグナシセロは思う。
12分なんてすぐのはず。だが今は酷く、遅く感じる。
過ぎた時はまだ半分程度。
戦いの中、何とか少女を救えないかと、ラグナシセロは考えてしまう。
だが今取れる最善は、12分を耐える事なのだとすぐに思い至る。
回復は芍薬とラグナシセロの二人で今は十分、保てている。
それにつゆも動いてくれていると市松は縛霊手の、その掌をぎゅっと握り、開く。
その開いた掌の上に生み出したのは、巨大な光弾。
光弾は少女に向かい、爆ぜる。
にしても、とヒコは眩さの中にある少女の姿に苔色の瞳眇める。
「グラビティ・チェインの枯渇ってのは自我無いほど苦しいんかね」
少女が歯噛みし唸る声は心地の良い物ではない。自然と、ヒコの眉根は寄っていた。
「他のデウスエクスも地球を怖れる訳だ、暴れていい理由にゃならんけどよ」
その手元よりヒコが放った特別製の金鎖は地面の礫を弾いて少女へ飛ばす。
「器用な事するな、ヒコ」
その様を目にして士浪は俺にはできねぇ芸当だと笑う。
すると練習すればできるだろと軽口が返ってくる。
「いんや、できねぇよ」
それを耳にした市松が無理だと猟犬の鎖を躍らせ零すと、ほらなと士浪は口端に笑み浮かべ、それにと少女へと距離詰めた。
「礫よりこっちの方が速ぇ」
少女の元で振り上げた脚は電光石火。急所を貫くように放たれる。
その鋭さにヒコはさすがと、戦友の一撃に感嘆零した。
仲間達の攻撃に続くべくジルカも少女を見つめる。
「あのね、俺は――俺たちは、君の名前が知りたい」
そう言って、その懐へ向かってジルカが踏み出そうとしたその時だ。
「ヴアァァアア!!」
苦しみに耐えかねてか悲痛な声があがる。
その響きにびくりと、身は竦み震えそうになる。
けれど、大丈夫と――心に重い浮かべる背があった。
それにこの場には、あの背と並んで戦っている人もいるのだ。
その場所に追いつくためには立ち止まってはいられない。
「大丈夫、俺だって、皆と背負っていくんだ」
再度踏み出した一歩は先程よりも大きい。
ジルカの視界の端でペコラがくるりと一回転する姿が見えた。
ペコラも皆を支えて頑張っているのだから自分もと駆けこむその脚には流星の煌めきと重力の力。
その蹴りの後、ディルティーノが迫る。
「ちょっと痛くなるけど許してね。注射器みたいなものさ」
空の霊力帯びた刃で敵の傷跡の上を撫でる。
それは今まで仲間達が重ねてきたものを一層、深くする。
本当に、手ごわい相手だとディルティーノは小さく零し距離を取れば市松が動く。
そうして攻撃と回復を繋いで、戦線は保たれていた。
●眠りの淵
少女の攻撃は苛烈なものだった。それは餓え故のものでもある。
攻撃によって生命力を得て傷を癒す事もあるが、それだけで補える傷ではない。
時間はすでに10分は経っているが、彼女にまだ衰えは見せない。
あと少し、時間が稼げれば少女の命失わずに終われる。
だからといって余裕がある局面というわけでもなかった。
「ねえ――俺達と一緒においでよ!」
今は言葉届かない。けれど、まったく心に届かぬわけでは、ないはずだとジルカは声をかけながら攻撃を仕掛ける。
少女はそれに応える事は無く、一層の飢えを感じているようだった。
「喰い千切れ……!」
瘴気に変換した氣を集束させ、士浪は利き手にのせ気脈の循環断つ一撃を放ち距離を取る。
抉り込むように見舞われた一撃に、少女はぐぅと痛み堪えるような声を落した後――すぐに鎌を握り直し、身を翻すと自分の視界に最初に入った相手の首元を狙い切っ先落とす。
その相手、グレインは守りに長けているとはいえ、深い一撃を喰らった。
「っ……! そう簡単に倒れるわけにゃいかねえからな――守り抜くのが俺の仕事だ」
グレインは倒れそうになるのを踏みとどまり、逆に一歩踏み込んで。
「その衝動ごと、打ち砕く!」
螺旋の力を込めた掌で、その言葉の強さとは裏腹に優しく触れる。
けれど、それだけで衝撃は十分少女に入っている。
「僕はまだいけるよ」
まだ余裕があると笑みを浮かべディルティーノは傷を負ったグレインと場所を代わり少女の目の前に。
「ちょっと味見させて貰うよ!」
ディルティーノは獅子のオーラを纏って少女へと一歩踏み込む。喰らうが如く切り裂いた。
その間に、ラグナシセロは祈りを。
あたたかく穏やかな微風が頬を撫でていく。
その祈りはグレインの傷を癒していく。
「あと――少しです」
傷を癒し、小声でラグナシセロは皆へ告げる。
あと少しで予知された12分が過ぎるのだと。
九十九が仲間達を応援するのに合わせ、芍薬も猟犬の鎖を躍らせ守りを固めるのを手伝う。
「このまま、過ぎれば」
もうあと少し。
けれど少女の飢えもまた極限。
一瞬の硬直と共に、今までで一番荒々しい叫びをあげた少女は誰を狙うともなく、手にしていた鎌を投げ放った。
その行く先は――ジルカの方。
けれどそこに届く前に、その刃の前に市松が飛び出て、請け負ったのは守るという役目をなすためだ。
思いのほか、痛い。つゆの心配するような、けれど考えなしに飛び出してと言うような非難の声。同時にふらついたが、背中を支えてくれた手があった。
「市松、ここで倒れるなんてないよな」
「……ねぇよ。ただちょっと、痛いだけだ!」
口端上げて笑ってみせた市松は耐えた末の満身創痍。ぐらついた身をヒコが咄嗟に支えてほらと示す。
先程の一撃は、本当に最後の力を持っての者だったのだと。
「さぁて、そろそろ終いの時間だ」
その言葉にラグナシセロは頷く。もう終わる、その時が来ているのだと。
「さっさと眠りな」
そっけないようなヒコの言葉。けれどそこにはもういいのだと、思いやったものもある。
そこへ小さく響く音があった。
ラグナシセロの手元からした音は最後を告げる音でもある。
12分――提示されていた時間が過ぎたのだ。
苦しげな唸り声をあげ続けていた少女は、その手から鎌を取り落す。
そして膝をつくように崩れ落ちたのだ。
少女は蹲り、唸り声は小さくなっていく。
そこへ思わずと言ったようにジルカは駆けよる。
「大丈夫だよ、ちゃんと起こすからね。約束するよ、とびっきりの朝がくるって!」
ジルカは笑顔と共に少女へ言葉向ける。
ふと絡み合った視線に映る自身。もう飢えはない、不安はないのだと、教えてあげる為にも。
「おやすみさん。今度会う時があったら、そん時はもっと良い関係で―味方として会いたいもんだな」
その様子に、グレインは表情を和らげ言葉零す。
やがて、その姿は消え一つ、玉があった。
コギトエルゴスム――デウスエクスの、眠りの姿。
「これが――最善なのでしょうか。いえ、僕達はできる事をしたのです……」
少女は死んだわけではないのだとラグナシセロは瞳伏せる。
オウガの少女はコギトエルゴスムという形になり眠りについた。
縁が繋がれば、目覚めてまた出会うことも可能ではある。
そんな、可能性を、未来を残して誰も失う事無く一つの戦線は終わったのだった。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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