●鋼の肉体に憧れて
福島県のとある山の中。
「ふん……はあっ!」
冬場だというのに、山の中で鍛錬を続ける老人の姿がある。
年の為か、頭頂部の髪は抜け落ちており、残る髪も白くなっていたこの男性だが、半裸の上半身は筋肉隆々であり、若者に一歩も引けを取らぬ肉体を維持している。
すでに、仕事は息子に任せて一線を退き、彼はこうして鍛錬に明け暮れる日々を送っていた。
男性が極めようと目指すは、硬気功と呼ばれる武術。己の肉体をより強靭にしようと、寒い中でも修行に励む。
そんな彼のそばにいつの間にか、ポニーテールの少女が現われていて。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「……おおっ!」
少女の声によって、男性はまるで操られるように少女へと拳を突きつける。
猛然と振るわれる拳はまさに剛拳。ただ、少女はあっさりと交わし続けていた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれなりに素晴らしかったよ」
一通り技を見極めた少女……ドリームイーター幻武極(げんぶきわめ)は、突如虚空より掴み取った巨大な鍵で男性の胸部を貫いた。
「うっ……」
男性はどさりと音を立てて、木々の根の上に崩れ落ちる。鍵に貫かれたはずの身体に外傷はないが、彼が全く起きる気配はない。
ただ、倒れたはずの彼と同じ姿をした男が傍に現われていた。しかし、その肉体は、倒れた男性よりも明らかに強靭なように見える。まるで、鋼のような硬質感だ。
「さて、お前はどうかな?」
再び構えを取る幻武極は、現われた男性に今度は自分から攻撃を仕掛ける。
「…………!」
幻武極の突き出す拳はモザイクに包まれていたが、受ける男性の肉体もモザイクに包まれ出す。
そして、応戦する男性もまたモザイクを伴う拳を振るう。
しばらく拳を交えた両者だったが、幻武極はにやりと笑って構えを解く。
「……お前の武術を見せ付けてきなよ」
新たに生まれた武術家ドリームイーターはこくりと頷き、森から歩き去ったのだった。
寒い中、ケルベロス達はヘリポートへと集まる。
それと言うのも、ドリームイーター、幻武極の活動がなかなか収まらないことが一因としてあった。
「硬気功を使うドリームイーターが現われたって?」
暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)の言葉に、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が頷く。
「うん、説明が終わったら、すぐにでも現場に向かおうと思っているよ」
幻武極……。自らに欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らそうとしているドリームイーターだ。
武術を極めようと修行している武術家をターゲットとし、幻武極は襲撃を繰り返し行っている。
「今回襲撃した武術家の武術では、幻武極のモザイクは晴れないようだね。その代わりに、敵は新たな武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせるようだよ」
出現するドリームイーターは襲われた武術家が目指す究極の武術家のような技を使いこなす為、かなりの強敵となるはずだ。
幸い、夢喰いが人里に到着する前に迎撃できるようなので、周囲の被害を気にせず戦うことができる。積極的にその撃破を目指していきたい。
「皆には、老父の姿をした武術家ドリームイーターを討伐して欲しいんだ」
襲われる武術家は60歳を越えてなお筋骨隆々の姿をした男性だが、そのドリームイーターは鋼のように硬くなった彼の理想となる肉体を持っているのだという。
防御に特化したようなその体で夢食いは溜めた気と共に殴りかかり、あるいはその気を弾丸のように発してくる。ただ、それらのグラビティはモザイクに包まれているようだ。
「自身の防御力を高めると、敵は淡いモザイクに包まれた状態のままになるようだね」
現場は、福島県のとある山の中だ。
人里離れた場所で鍛錬する男性は森の中で襲われるが、その男性が倒れたことで生まれた武術家ドリームイーターは己の技を他人に見せ付ける為に人里を求めて山道を歩いている。
とはいえ、人里まではかなり距離がある為、すぐに到着する状況ではない。
襲撃現場となった森を目指すように山道を登ればドリームイーターと出くわすことができ、戦後のヒールだけで人的被害を考慮せず戦えるはずだ。
「ドリームイーターを倒した後は、森で倒れているはずの武術家を介抱してあげてほしいかな」
襲われた武術家は、襲撃時の記憶がほぼ残っていない。
また、雪こそ降ってはいないが、冬場の寒い中だ。身体を温める手段を用意した上で、事情を話すなどしてフォローするとよいだろう。
「60を越えて鍛錬するご老体……。本当に凄い方だよね」
自らの限界を目指すのに、年齢は関係ないということだろうか。ただ、ドリームイーターに襲われる状況とあれば、ケルベロスとして看過できる状況ではない。
「どうか、武術の極みを目指すこのご老体の救出を。よろしく頼んだよ」
リーゼリットは真摯な表情で、ケルベロス達へと願うのだった。
参加者 | |
---|---|
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881) |
音無・凪(片端のキツツキ・e16182) |
シリル・オランド(パッサージュ・e17815) |
リョウ・カリン(蓮華・e29534) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
日向・灯理(ロマンの探求者・e44910) |
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359) |
●鍛錬を重ねるご老体に
福島県某所。
ドリームイーター対処の為、ケルベロスの一隊が山道を登っていく。
「未だ、失伝任務しか経験のない若輩者。先輩諸氏の研鑽、間近で勉強させて頂きます」
スチームアーマー着用のヴァルキュリア、日向・灯理(ロマンの探求者・e44910)が改めて先輩ケルベロス達へと挨拶を交わす。
簡単に自己紹介を済ませるメンバー達。頃合いを見て、灯理は本題について切り出した。
「しかし、幻武極って方は子供からご老人までスカウトの幅が広いですね……」
「今回は硬気功の達人、か。相変わらず鼻のいいことだ」
それに、黒龍の人派ドラゴニアン、クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)が鼻を鳴らし、言葉を返す。
「武術を奪う夢喰い、ねぇ……」
ふうんと、音無・凪(片端のキツツキ・e16182)はそっけない返事をする。
「前々から自由な奴らだとは思ってたけど、螺旋忍軍みたいなこともするようになったのか」
あちらは、螺旋の力で模倣するというものだが、こちらはまるごと奪うようなので、始末が悪い。
「……、武術に限らねぇけど、こーゆー類いのモノって自力で会得しないとありがたみが薄まるんじゃねーかな」
もっとも、そのドリームイーター、武術極が誰かのモノを奪うこと自体にキモチ良さを感じているというなら、話は別だが……。
「でも、人間が1つの道を鍛え上げた極地モザイク気功拳。見たい、直接見たい」
そこで、灯理が拳を握り締めて力説する。
「どう道を違えても浪漫しかない。その一挙手一投足に人生の妙が詰まってるんですよ!?」
「気功を利用したグラビティは、私も研究しているつもりですが……一体、デウスエクスが気功をどう使うのでしょうか?」
竜派ドラゴニアンの据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)は職業柄なのか、気功を使う相手が気になる様子。
同じく、眠たげなバニーガール姿の兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)も求道者である以上、相手の使う気功に興味を抱いており、自らの剣が通じるかどうかと心躍らせていたようだ。
さて、被害が人里に及ばぬようにと一行が山道を進んでいると、そいつは前方からゆっくりと現われた。
鋼のごとき筋肉を持つ半裸の初老の男性。格闘家ドリームイーターは白い息を吐きつつ歩を進めてくる。
「立派な身体だね。岩が動いてるみたいだ」
「真了不起……鍛錬を積んだご老体、是非一度ご指導賜りたいものだね」
敵が現われたというのに、シリル・オランド(パッサージュ・e17815)はマイペースにそれを表現する。中国語で「本当に素晴らしい」と、リョウ・カリン(蓮華・e29534)も敵の姿を絶賛していた。
「老いてなお筋骨隆々……。すごい、というか良いなあ」
蔦に覆われた人形を抱くアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、武術を修めたそんな男性の容姿を見て語る。
そういった逞しい体というのは、繊細な身体のアンセルムにとっては憧れであり格好よくも思う。
「それだけに、今回は本当に災難だった、というかな……」
これはあくまで、男性の理想の姿でしかない。本人は山のどこかで倒れてしまっているはずだ。
「幾ら鍛えているとは言っても66歳だし、早めに片付けて、助けに行ったほうが良いよね」
この寒さの中だ。男性の安否確認が急がれる。
十三も眠たげな無表情のまま、こくりと頷く。その脳内では、幻武極に似たドリームイーターの宿敵を思い浮かべる。そして、表情そのままに目を細めて剣呑な雰囲気を発し始めた。
「おっと、興味は尽きませんが、早めに終わらせねばなりませんな」
赤煙も目の前の事態の解決に乗り出す。持参した毛布をご老体が風邪を引く前にかけたいところ。
「……ま、やることは変わらない、夢喰い一匹をぶちのめすだけだ」
天邪鬼でひねくれ者な凪。縁の浅い相手に言葉を投げかけ、地獄の炎を燃え上がらせる。
「うん、助け出す為にも、彼の夢から生まれた偽の鋼を討ってしまおう」
「…………!」
手足から極彩の炎を燃え上がらせるリョウが突撃すると、相手も素早く動き出す。
「いかなる武術かわからないが、また止めてやらないとな」
――今までも、これからも。
そうして詰んだ力を、いずれ奴の……幻武極の喉元に突きつける為に。今は目の前のドリームイーターへとクーゼは対するのである。
●鋼の肉体を持つ夢喰い。
突進してくる武術家ドリームイーター。
「…………!」
淡いモザイクのオーラを纏ったそいつは、モザイクを伴う鋼の拳を突きつけてくる。
まさに真っ向勝負。その手前に箱竜シュバルツが飛び出して、しっかりと受け止めた。
「あ、シュバルツが吹っ飛ばされて……、危なーい!」
後方から見ていた灯理が解説するように叫ぶ。
ただ、それで吹っ飛ばされかけたシュバルツを、クーゼが後方から支える。
そして、クーゼはそのままシュバルツの吐くブレスに合わせ、「宵月 -離天-」で切りかかっていく。
相手は避けようともせず、その刃を己の肉体で受け止めて見せた。
確かに、傷は与えたはずだが、夢喰いはビクともしていない。
「刀と打ち合えるほどだとは、流石に思わなかった」
夢喰いだとはいえ、生身の肉体。それにしては、刃を伝わってくる手応えは余りに硬い。
最前列で相手の攻撃に備えるリョウは、相手の姿に顔をしかめる。
「陰を守護せし影の虎……」
己の体を鍛える老人を悪用する存在を相手の向こうに見ていた彼女は、左脚に影を纏う。
「その蹴撃は、万物の護りをも蹴り砕く!」
今回は相手に対する嫌悪ゆえに、ヒットアンドアウェイを捨てたリョウも真っ向勝負を仕掛け、ダイヤモンドすら砕く一蹴を夢喰いに叩き込む。
「…………っ」
脚に伝わる硬質感。たったの一撃で砕ける鋼の肉体ではなさそうだ。
手早く目の前の相手を片付けたいところだが、ライトニングロッドを手にした赤煙は仲間に電気ショックを飛ばして相手を砕く為の力を与える。
「ちょいと邪魔させてもらうぜ?」
また、相手の鋼の拳を警戒した凪は、地獄の黒炎を前方に展開していく。
高熱の炎は勢いよく燃え上がり、揺らめきによって相手の視界を塞ぐ。しばらくは相手の目を眩ませてくれるはずだ。
「さーて、ケルベロスは鋼の肉体を持つ敵にどう立ち向かうのか!?」
赤煙に蠢く幻影を纏わせるなど、補助を行う灯理は実況役のように叫ぶ。
「skytte――!」
ほぼ同じタイミングで、後方のアンセルムが蹴りのモーションによって魔法の矢を射掛ける。
直進する『流星』。夢喰いの肉体にぶつかり弾けたそれは、無数の星くずとなり、相手を足止めしていく。
命中しても、相手が完全に止まったわけではない。
アンセルムがバスターライフルの照準を合わせる横で、十三がサポートの為にと敵の頭上から流星の蹴りを食らわせて、さらに相手の足を止める。
自らの未熟を承知している十三は、ヒットアンドアウェイで立ち振る舞うことにしていた。
敵がそちらに気を取られている間に背後からシリルが音もなく忍び寄り、装飾過多な大槌を叩き込む。
「己の肉体に、自信を持ちすぎじゃないのかい?」
飄々と笑うシリルは、すぐにその場から消える。
「…………」
それでも夢喰いは動揺を見せず、モザイクを帯びたオーラの弾丸を発してくるのだった。
初老の男性が思い描く理想が形を成した夢喰いは、余りに強固で堅い相手だ。
アンセルムがライフルから凍結光線を発射し、敵の肉体の表面を僅かに凍らせると、クーゼが正面から肉薄して。
「空を断て、唯の一閃、我が敵を刻め」
この場を死守する為にと、彼は仲間がつけた傷へと重なるように「宵月 -離天-」で斬りかかる。
「搦め手も兵法。あまり悪く思うなよ」
鋼の肉体とはいえ、幾度も攻撃すれば傷は深まっていく。
灯理は攻撃を受ける仲間に幻影を纏わせ続けながら、実況に熱を帯びていた。
「流石に硬くなるおじいさんでも、直撃を受けて立ってはいられまい……な、何ィ!?」
だが、幾多の攻撃を受けども、夢喰いは悠然とモザイクの気を放ち、己の肉体を硬化させていく。
「も……、もう駄目だ……。勝てる訳がない……」
敵の様子に、灯理はやや弱気なコメントまで始めてしまう。
しかし、それでケルベロス達の闘志が弱まっているかと言われれば、そうではない。
相手が気を高まらせるその瞬間、赤煙が近づいて。
「気は留まることなく流れゆくもの。気功による肉体硬化も、気功によって流れ、散じる……喝ッ!」
拳の一撃によって、赤煙は相手の気の動きに干渉する。そのバランスが崩れたことで、防御の役割を果たしていたモザイクの気が弾け飛ぶ。
この瞬間を逃さず、十三が飛び掛かって喰霊刀「月喰み」で影のような斬撃を敵の肉体に見舞うが、思った以上に刃がその身体に食い込まない。
「かたい、ね」
夢喰いの体から刃を抜いた十三は無表情ではあるが、楽しげな声で呟いた。
「しかーし、ケルベロスに敗退は許されない!」
敵が態勢を整える前に、灯理もカラフルな爆発を起こして前衛陣を鼓舞する。
すると、リョウが相手へと音速の拳を叩きこむ。強烈な打撃によって、ドリームイーターの上体が僅かに揺らぐ。
普段なら、リョウは相手の次なる攻撃を懸念して飛びのくのだろうが、彼女はその場で防御態勢を取る。
すぐに、振るわれた拳をリョウは両腕で押さえた。
重い一撃だったが、仲間達の支援もあって彼女はそれに耐え、地獄の炎を燃え上がらせて態勢を整え直す。
夢喰いは再びモザイクのオーラで身を包み、振りかぶる拳に集中させる。
とにかく、相手のダメージを与えようと、アンセルムは攻性植物「kedja」から刃状にした蔓で相手を切り裂き、仲間の傷を斬り広げていく。
「……ね、知ってるかい? それでも君が人間をモデルにする限り、鍛えられない場所があるんだ」
相手は十分に動きを鈍らせてきたと鋭い観察眼で察すれば、薄く鋭い守りの刀を操っていたシリルは手を頭上に掲げて。
「例えば、ほら。爪の間、口の中、眼球――ね?」
その手を開くと、零れた灰が相手に纏わり、絡みつく。
「――甘い林檎の香りがしないかい?」
いつの間にか灰は蛇へと変わり、敵の体を逃さず食らわんとする。
だが、それは夢喰い以外には見えていない。
それらはシリルが作り出した幻覚に過ぎないのだが、徐々に現実の肉体をも破壊する。
「…………!」
さすがの内部からの破壊には対抗できないのか、夢喰いは苦悶の表情を浮かべる。その肉体そのものにもモザイクが掛かり始めていた。
「さぁて、気に入らん敵はさっさと潰すに限る」
好機と見た凪が迫るが、夢喰いの鉄拳が風を唸らせる。
「ここから先は、通行止めだッ!」
傍のクーゼがしっかりとその一撃受け止めた次の瞬間、凪は袈裟懸けに斬霊刀「天華」を振るう。
「テメェのソレはただのパクりだ。努力したオッサンに詫びて消えちまえ」
斬撃痕が凍ると共に、その合間からモザイクが零れ落ちていた。
踏みとどまったクーゼもシュバルツの属性注入で持ち直し、「宵月 -離天-」を握りしめて。
「瞬き、穿てッ! 七の型、瞬華瞬刀ッ!」
神速の刃を叩き込み、さらに魔力で複製した華を思わせる斬撃を同時に見舞っていく。
「これにて終幕。さよならだ」
舞い散る華と共に夢喰いの体も弾け、霧散してしまった。
「よーし、完全勝利ッ! 皆、お疲れ様だ!」
クーゼは仲間に呼びかけながらすぐ、戦場となった山道のヒーリングに当たる。
「か、観戦に全力で考えてなかった……。でも、喋っていれば温かくなるはず!」
寒さを覚える灯理は、寂寞の調べを周囲に響かせていく。
その間、クーゼは先ほどまで戦っていた相手の技を真似ながら、気力を撃ち放っていたようだ。
「もう少し鍛錬すれば、実戦でも使えそうだ」
この技を幻武極本人に使ったらどんな顔をするだろうか。そんな想像をしてクーゼは微笑んでいた。
●年寄りの冷や水……?
ケルベロス達は被害者、毛利・隆男の安否確認を急ぐ。
手分けして予知のあった山を捜索、そして、赤煙が身柄を確保し、毛布で包み込む。
なお、夢喰いとさほど変わらぬ毛利の見た目に、一行は驚いていたようだ。
「気を確かに。我々はケルベロスです」
声をかける赤煙の傍で、シリルは火を焚く。もちろん、周囲へと燃え広がらないようには十分注意する。
「こういう時のブレイズキャリバー、だね」
赤煙の介抱もあり、毛利は程なく目を覚ます。
「うっ……」
「ご無事で良かった」
「おじーちゃん、もう、だいじょうぶだ、よ。おなかがすいてたら、おむすび、食べ、る?」
アンセルムがあったかいゆず茶を差し出し、十三も持っていたおにぎりを差し出す。
毛利はそれらを手にし、口に入れる。老体ゆえに容態が気遣われるが、凪が上着を被せるなどして体温保護を行う。
高齢者には何かと思うことも多い凪。
適当に状況説明に関して言いくるめようかとも彼女は考えたが、他メンバーが丁寧な説明を始めた為、そちらは仲間に任せることにしたようだった。
「もう、爺ちゃんから出てきた奴、滅茶苦茶強かったんだからね? 硬気功の力で群がるケルベロスをちぎっては投げちぎっては投げ……」
ぶつぶつ解説する灯理は九尾扇を舞わせ、幻影の力で毛利の体力回復に当たる。
「それだけ、君の武術が高みにあったってことさ」
「……対人なら、下手なケルベロスより高い戦闘技術を持ちそうだ。不思議な感じ」
穏やかな笑みを浮かべ、シリルもその強さを絶賛する。
魔法の木の葉を舞わせて回復を行うリョウは、彼をブレイズキャリバーの炎で温めようとしていた。
「日々どれくらい、どんな鍛錬を積んでいるのかしら?」
「そうだな……」
気にかけるリョウが問うと、山に籠もり出してからはほぼ丸一日、毛利は鍛錬に明け暮れていると言う。なお、仕事が現役の時は、夜にこっそり小一時間の鍛練を欠かさなかったとのことだ。
前に進む為の糧とすべく、リョウはその言葉を深く受け止めながら、彼の鍛錬方法について耳を傾けていた。
「何で、その歳になって武術なんかにのめり込んだんだい?」
鍛錬について語る毛利に、凪は折を見て尋ねる。
「全てを護りたい……そう思っただけだ」
呵呵と笑う彼に、赤煙は柔和な表情を浮かべて。
「これに懲りずに健康に鍛錬を続けてください。ただ、山籠もりは程々に……」
「他人のあたしが言うことでも無いんだろうけど……」
凪も個人の自由とは思いつつ、浮世離れした生活を送る毛利へと小言を言いたくなったらしい。
「あんたの子は、山で仙人みたいなことしてる親をどう思ってるんだろうね」
孫にも近い年代の女性に、「ちったぁ、話しときなよ?」と歯に衣着せぬ物言いで諭され、毛利は苦笑してしまうのだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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