ぺたんこは正義! 大正義!

作者:七尾マサムネ

 その会社員は、ごく普通の一般男性だった。女性の小ぶりな胸が、ちょっと……いや、かなり好きな事をのぞけば。
 そんな男性が、偶然入った喫茶店で、運命と出会った。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
 微笑む店員さんの胸に、男性の目が釘付けになる。
「これは、理想のぺたんこ……!」
「え?」
「ぺたんこは大正義ぃぃぃぃぃーッ!」
 雄叫びを上げる男性。その肉体がみるみる羽毛に包まれ……ビルシャナと化した。
「きゃあああ! 来ないでええ……あれ?」
 悲鳴を上げる店員さんをビルシャナはスルーすると、近くにいた客を捕まえた。
「ひっ、こ、殺さないで!」
「お前もぺたんこを愛でるのだ……!」
「……は?」
 そしてビルシャナは、周りの一般人を片っ端から勧誘し始めたのである……!

 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が新たに予知したのは、ビルシャナによる事件。だが今回は、少し毛色が変わっていた。
「街中で、一般の人が、突然ビルシャナ化してしまうんです」
 ビルシャナ化するのは、女性の小さな胸にこだわりを持ち、「ぺたんここそ大正義!」だと信じる男性。自分の理想のぺたんこと出会った事で、タガが外れてしまったらしい。
「大正義ビルシャナは、出現したばかりなので配下はいませんが、周囲の一般人さんが大正義に賛同して信者になったり、もしかしたらビルシャナ化しちゃう危険性があります」
 大正義ビルシャナは、ケルベロスが戦闘行動を取らない限り、意見を言われれば、それに反応してしまう習性を持つという。それが大正義に賛成する意見でも、反対する意見でも、だ。
 出現現場は、昼間の喫茶店のため、人気は多い。だが、この習性を利用すれば、誰かが議論をしている間に、別の仲間が避難を行う事もできるだろう。
「賛成でも反対でも、本気の意見をぶつけないと、他の一般人を信者にする方を優先させちゃうので、議論を挑む場合は本気で頑張ってください!」
 今回は、男性がビルシャナ化するタイミングで接触することになる。大正義ビルシャナは、閃光、氷輪、そして経文の三点セットで攻撃を仕掛けてくる。
 なお、パニックテレパスなどの能力によって一般人の避難誘導を行おうとした場合、大正義ビルシャナは戦闘行動の一部とみなして即座に攻撃してくるので、注意して欲しい。
「大正義ビルシャナとは、議論は出来ても、意見を変えさせる事はできません。あくまで、避難の時間稼ぎだと割り切ってほしいのです。よろしくお願いします!」


参加者
イスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
ホルン・ミースィア(ヘイムダルの担い手・e26914)
櫻木・乙女(不断の闘志・e27488)
ジルベルタ・ラメンタツィオーネ(宵月が照らす白・e44190)
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)
矢萩・咲月(バーサーカーしっとメイド・e45362)

■リプレイ

●大正義の覚醒
「ぺたんこは大正義ぃぃぃぃぃーッ!」
 内なる正義を解放し、ビルシャナへと変貌を遂げる男性。
 デウスエクスと変態のハーモニーの出現が、喫茶店内に混乱をもたらす。だが、ぺたんこの素晴らしさを説こうとするビルシャナの前に、4人のケルベロスたちが現れた。
「お前たちは……!」
 ビルシャナが目を丸くした。ホルン・ミースィア(ヘイムダルの担い手・e26914)たち、ぺたんこ勢の胸を見て。
「ここにも大正義が!」
「奇遇ですね、私も大きいのは好きじゃないですよ。と言うか、母性の象徴だか何だか知りませんが、世の中巨乳ばかり優遇されるこの現状は、到底許しがたいですよ」
 嫉妬心に身をゆだねた矢萩・咲月(バーサーカーしっとメイド・e45362)が、まな板ボディーをアピールしながら言った。
「ぺたんこは……子供特有の無垢の象徴! 愛すべき存在なのです!」
「わかってくれるか!」
 がっ! 敵味方、種族を越え、熱く交わされる握手。
「ビルシャナにさえならなければ、貴方みたいな素敵な男性とお付き合いしたかったですよ……どうですか、同志。付き合ってみませんか?」
「そ、そんな、おそれおおい……!」
「あっ、ちなみに私は『ぺたんこ』じゃなくて『美乳スレンダー』なのでそこは間違えない様に」
 虚勢を張る咲月。
「いいや、ぺたんこだそれは! そもそもぺたんことは……!」
 ビルシャナの語りに、櫻木・乙女(不断の闘志・e27488)がうなずいてみせた。
「なるほど分かった。次はこちらのターンだ」
 そして、すっ、と一歩進み出た卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)が、胸に手を当てた。幼い外見相応の、なだらかな胸に。
「ぺたんこが大正義? では私も今のところは大正義かもしれません。ですが」
「ですが、なんだ?」
「大小の差はあれど、いずれ身体は成長し、胸も大きくなります。ぺたんこと言う以上、少しの成長も貴方は許せないのではないですか?」
「それは……」
「おおっと、反論はよしたまえよ。今はこちらのターンだと言ったはずだがね」
 乙女に遮られ、ビルシャナが黙る。とりあえず。
 続ける紫御。
「妊娠など様々な影響を受け、胸は大きくなります。ぺたんこのままが良い、という貴方の主張は女性のあり方、そして成長や変化そのものを否定することにも繋がる、勝手極まりない暴論」
 そして、紫御は問う。
「知っていますか? 女性の胸は身長・体重とは別に大きくなるんです。30歳から胸が大きく成長する女性もいるんですからね?」
「そういう事だ。さて、何か意見はあるかね?」
 乙女に促され、ビルシャナは満を持してこう言った。
「う、嘘だ……!」

●大正義との議論
 仲間たちがビルシャナに議論を挑む一方。
 ジルベルタ・ラメンタツィオーネ(宵月が照らす白・e44190)たち他の4人は、客の避難誘導を行っていた。
「皆! こっちだ!!」
 ビルシャナが仲間の話に引きつけられているのを確認し、客を入り口へと先導する、イスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873)。
「安心せい、わらわたちはケルベロスじゃ!」
 当初は戸惑っていた一般客も、ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)の言葉で安心したようだった。ビルシャナの主張がうっかり耳に入らないよう、呼びかけは大きな声で。
「はいはーい、変態な鳥頭には耳貸したりしないで、すばやく逃げましょうね~。それとも変態の仲間として見られたい?」
 リフィルディード・ラクシュエル(集弾刀攻・e25284)が、避難の列を整理しながら、議論する仲間を見遣る。
 そこでは、乙女が作り出した議論のループに、ビルシャナが囚われていた。
「爆乳とはいわないけど! 普通並には欲しいもんっ! それは生まれた時には誰しも胸は無いよ? 無いからこそ憧れるんだっ!」
 ホルンの切実な叫び。
「それに、もう言われるのはたくさんなの! ブラジャー要らないだの、洗濯板だの、ぺちゃぱいだの、どっちが背中か分からな、い、だ……の……」
 滂沱の涙と共に崩れ落ちるホルンを、仲間たちが支えた。
「こんな教義……駆逐してやる! この世から……1行残らずっ!」
「何を嘆く! どれも褒め言葉ではないか! ぺたんこの勲章と言えよう!」
 言えない。
「あのさ、白熱してる議論中に悪いけど」
 リフィルディードの横やりに、ビルシャナが顔をしかめる。
「邪魔をするな!」
「避難はもう終わったからね?」
「え」
 リフィルディードの言葉通り、店内には誰もいない。もちろん、例のぺたんこ店員さんも、である。
「やれやれ、厄介なビルシャナもいたものだ。小も大も関係が無いと思うのだがな」
 入り口を封鎖したイスズが、胸を張って見せた。……とても立派な、ボリュームのある胸を。
「そんな大きなものを見せるな!」
「世のちっぱいに喧嘩売ってるんですか! ガッデム! 仲間じゃなきゃ爆破ですよ、爆破!」
 ビルシャナと咲月から同時に抗議が来た。真の敵とは。
 ともあれ、時間稼ぎの議論の時間は終わりだ。4人による避難誘導が功を奏し、信者になった人間がいない事に、安堵する紫御。
「ぺたんこが大正義だという事を、その身をもって知るがいい!」
(「大きさなどどうでもいいじゃろうに。差別ではないかのぅ」)
 やる気満々のビルシャナを見て、ララが内心で突っ込んだ。
 身構えながら、ジルベルタも思う。
(「こういうビルシャナって初めて見たな……。助けられるなら助けたいところだけど……」)
「ぺたんこ! ぺたんこ!」
(「……厳しそうだな、うん」)
 ジルベルタはそう結論付けた。変態だし。

●ビルシャナVSぺたんこ!
「イスズ・イルルヤンカシュ! 参る!」
 両腕のバトルガントレットを打ち鳴らし、名乗りを上げるイスズに、ビルシャナは顔をしかめた。正確には、その豊かな胸に。
「やめろ、そんなものを俺に見せるな、揺らすな!」
 顔を片翼で覆ったビルシャナが、氷輪を投げた。だが、命中の寸前、標的であるイスズの姿が幾重にも分かれた。紫御の忍術による幻影だ。これぞ、螺旋の秘技。
 威力を十分に発揮しそこね、ビルシャナの元に戻っていく氷輪を、リフィルディードの銃弾が弾いた。その早撃ちは、ビルシャナの濁った瞳ではとらえられぬ。
 間断なく攻めくるケルベロス……そのぺたんこ組に、ビルシャナが訴えた。
「ぺたんこは正義! なのにどうして正義が俺と戦う! 俺は正義の味方だ!」
 ちょっと何言ってるかわからない。
「分かり合えないって悲しいね。でもその教えだけはボク、許せないんだ……」
 ホルンが、闇色に濁った目でビルシャナをにらむと、漆黒の鎖でその四肢を縛り上げた。
(「ぺたんこがいいとか、ぶっちゃけわらわどうでもいいと思ってたんじゃが、皆が必死になったり、人1人がビルシャナ化したりするぐらいの話じゃったみたいじゃな。わらわも認識を改めたほうがいいのじゃろうか」)
 敵味方の激戦を目の当たりにしたララは、そんな風に考え始めたが、あえて口には出さなかった。
 ぺたんこ愛で拘束を引きちぎるビルシャナを、乙女の愛斧『ベルセルク』が襲った。巨乳……もとい、自分にたてつくなら、死、あるのみ。
「なぜわからない、ぺたんこ愛こそ世界を救う! 手でつかもうとしてもつかみどころがなく、目を凝らさねばわからん絶妙な起伏……!」
「……やっぱり『外』の事は難しいな」
 遠い目をするジルベルタ。自身の胸も、まっ平らなのだが、あまり気にしている様子はない。土蔵暮らしが長く、胸を大小で判断するという価値観に触れる機会が無かった為だろう。その方が幸せだったかもしれない。
「……いや、変態が変態性を発揮して、声高に叫んでるだけだよねぇ、これ……?」
 虚空を揉む仕草をするビルシャナに、リフィルディードはドン引きだった。
「ぺたんこを崇めよー!」
 ビルシャナの全身が、光を放った。神々しさの欠片もないそれが、ケルベロスたちの体を焼いていく。
 だが、横から飛んで来た竜砲が、ビルシャナを吹き飛ばした。ララのドラゴニックハンマーが光流を射出したのだ。その激しい衝撃は、ララ自身のポニーテールをもなびかせる。
「さあ来い!」
 宙を舞ったビルシャナが、イスズの、光輝に包まれた左手へと引き寄せられていく。
 待ち受けていたのは、巨乳と闇黒に染まった右手。もがくビルシャナに、容赦なく叩きこまれる。もちろん、右手が。
「ダメだ、巨乳など見ていたら力が出ない……!」
 ぺたんこを求め視線をさまよわせるビルシャナを、ジルベルタが拘束した。その血液で構成された鎖が、鳥人の意識を、強制的に自分の方へと向けさせる。
 その隙に、咲月が胸部装甲を展開し、光線を照射した。これぞちっぱいビーム!
「ぐわーっ」
 ビルシャナがちょっぴり嬉しそうなのは気のせいだろうか。

●ぺたんこの逆襲
「心に刻め、この世の大正義を」
 ぺたんこぺたんこ。
 焼け焦げたビルシャナのくちばしから、経文が響き渡る。
 これはいけない。ホルンのウイングキャット・ルナが催眠の恐怖から、皆を守る。
 まともに喰らってしまった仲間には、紫御が五指に挟んだ針を投じた。すると、ちくりとした痛みすらなく、治癒力が急速に活性する。精神的ダメージを負った仲間には、言葉でもケア。
 ララが、呆れというか軽蔑にも近しい視線を注ぐと、ビルシャナが炎に包まれた。武器に搭載された発火装置が起動したのだ。ビルシャナと炎の組み合わせは、なぜか抜群である。
 そしてビルシャナ戦名物・等身大焼き鳥を、リフィルディードの『桜蘭』の銃口が捉えた。
「女性の胸はお前らみたいのの!」
 トリガーを引く。
「ためにあるわけじゃ!」
 銃撃が鳥人を穿つ。そして、
「なーい!」
 『青桜嵐』の斬撃が、ビルシャナを両断した。
 舞い散る羽の中、イスズが床を蹴る。肉薄したビルシャナの額を、指で一突き。一瞬にして全身の気脈を断たれ、硬直するビルシャナをジルベルタがつかむ。その小柄からは想像出来ぬ力でもって、鳥肉を引き裂いた。それも、素手で、だ。
 その様を見た乙女は、光輝の中から斧を召喚した。
「そういえば鶏肉ってヘルシーなんですよ。――ああ、胸肉は少ない方がお好きでしたっけ?」
 にたり。笑みとともに、伝説の戦士たちの魂がこめられた一撃が、ビルシャナを容赦なく潰した。一片の邪念すら残らぬように。
「ぐっ、ぺたんこがある限り俺は屈しない!」
 だが、咲月がスイッチを押したので、ビルシャナは爆発した。元に戻せぬのなら、しっとのはけ口となってもらうよりほかない。
「変わらないものはないということを、ビルシャナに叩きこんでやってください」
「来たれ希望の光!」
 紫御に促されたホルンの全身を、鎧殻神装が包んだ。
 この姿なら! 勝てる! 何にとは言わないが!
「ボクはボンキュッボンにきっとなぁるっ!」
「ぎゃああああ……ノーぺたんこ、ノーライフ……!」
 鎧装天使から放たれた光炎が、ビルシャナを無へと還した。
「ぺったんこにやられたことじゃし、ちゃんと成仏できたのかのぅ」
 とララが、消えゆくビルシャナを思う。最期は、割と満足げな顔だったので、多分大丈夫。
 果たして、厄介事の根源は去った。店内の修復作業にとりかかるケルベロスたち。
 戻って来る客を、一応、確かめるララ。ビルシャナの話を少しでも聞いて、ぺたんこ教に入信しそうなものはいやしないか、と。
「そんな顔して……大丈夫かい?」
 やがて元に戻った店内で、精神的ダメージを負ったホルンを慰めるジルベルタたち。
「ま、元気出せよ」
「そうそう、成長期なんだから、まだまだこれからだよ?」
 ぽむん、と肩を叩く乙女やリフィルディード。
「そこまで気にする事もあるまい」
「ええ、貴方はこれからに期待の将来性あるお胸です」
 イスズや咲月も励ます。ただし、実際に成長したらしっとさせてもらう咲月だが。
「みんな……だ、だいじょうぶ! さ、最近身長も伸び始めてきたし!」
 ぐっ! と拳を固めるホルンも、4月からは中学生。
 来たれ! 成長期!

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。