書の道

作者:雨乃香

「くそ! あいつら、いつかぜったいいつか仕返ししてやるからな……!」
 人気のない森の中を一人の少女が、そのかわいらしい容姿に似合わない悪態を吐きながら彷徨っていた。
 先日降ったばかりの雪が残る、山道は足を取られやすく、防寒着を着込みもこもこと膨れああgる少女の体の端々には、転んだせいでついた汚れや、傷が少なからず見て取れる。
「あいつ、てきとうにほうりなげやがって、わたしの書道セットどこにいったんだよ。あそこから投げたならこの辺だとおもうんだけど」
 ため息を吐きながら、少女は視線を上げて、少女の三倍ほどの高さのありそうな崖上の道をみやる。
 好きな女の子にちょっかいを出してしまう小学生男子特有の複雑な恋心に振り回される少女は、相手の気持ちなど知る由もなく、ただただ意地悪をしてきた男子に対して怒りを膨らませながら、雪に埋もれているであろう、自分の習字道具を探して木々の生い茂る森の中を歩く。
「あったあった、よかった、傷とかはないみたいだし」
 しばらく彷徨った後、ようやくそれを見つけた少女は安堵しながらそれを拾い上げ、一息吐く。
「あーあ、書道も柔道や剣道みたいに強ければ、こんなことにならないんだろうけどなぁ」
 いっそのこと自分で考えてみようかと、少女は自らの愛する書道でどうにかあの憎き子供っぽい男子達に復讐出来ないかと、脳内で新たな武道である書道を考え始める。到底、実現できそうもない突拍子もない技ばかり思い浮かぶものの、そうして空想の中であれ、件の男子を叩きのめすのはなかなかに気持ちがよかった。
「必殺、永字八法!」
 興が乗ってきたのか、少女の口から先日習ったばかりのそれらしい言葉が漏れ出し、びしりとポーズが決まる。
「面白いこと考えるな、お前、その武術、見せてみなよ」
「え?」
 恥ずかしそうにしながら振り向いた少女が見たのは、自分と然程変わらない背格好の、大きな鍵を持った一人少女。そこで彼女の記憶は途絶えた。

「皆さんの中には、自分なりの技や、武器、独自の戦い方を研究し続けている方もいるかもしれませんが、そのきっかけは何でしょうね? 思いつき、あるいは誰かの物まね、それを昇華したもの、はたまた、修行の極致に至り会得した技、様々あるかもしれませんが……」
 銃を形作った手でケルベロスたちを指差しながら虚空を打ち抜く動作を演じて見せたニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は、悪戯っぽく笑みを浮かべて、そのまま言葉を続けた。
「道、という繋がりで書道から新たな武術を空想した少女が、幻武極の襲撃されてしまうことが、日野原・朔也(その手は月を掴むために・e38029)さんの調査により判明しました。今回の襲撃により、幻武極のモザイクが晴れることはないようですが、代わりに、少女の空想した武術を使いこなすドリームイーターが生み出されてしまうようです」
 書道という架空の武術を使うドリームイーター、なかなかに興味深いと思いませんか? とニアは楽しげに笑みを浮かべながら、口元を手にした携帯端末で隠しつつ、そのまま詳しい説明を始める。
「少女が襲撃を受けたのは田舎の学校の帰り道に隣接する森で、普段はバスによる登下校が行われているようで、人が寄り付く心配はまずありません。ですので、周辺の被害については考える必要はないです」
 一応周辺地図を送っておきますと、ニアは携帯端末を軽く操作してすぐにそのまま、出現する敵についての説明を始める。
「先ほどもいったとおり、架空の武術、書道を扱うドリームイーターが一体。これを倒してきてもらうのが皆さんのお仕事なわけですが、子供の妄想というだけあって、なかなか突飛な技をつかってくるみたいなので油断はしないほうがいいでしょうね? あとは、墨汁の汚れってなかなか落ちないですから、汚れてもいい服装がのぞましいかもですね?」
 フフっっと意地の悪い笑みを浮かべ、ケルベロス達に念を押すようにそういったニアは厚手のいかにも高そうなコートを手に立ち上がる。
「どんな時でもおしゃれをかかさないニア達のような女子にとっては、寒さ的にも攻撃的にもなかなか厳しい敵になるかもしれませんが、ここはぐっとこらえて、機能美にこだわるほうが賢明かもしれませんね?」


参加者
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
火岬・律(幽蝶・e05593)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
日野原・朔也(その手は月を掴むために・e38029)
風鈴・羽菜(シャドウエルフの巫術士・e39832)

■リプレイ


 人里から少し離れた場所に走る山道。
 普段人の寄り付くことのないその場所に、八人もの大所帯がの姿があった。
「しかし、よく積もっていますね」
 呟く火岬・律(幽蝶・e05593)の言う通り、辺りには先日降った雪が残っており、木々もその下の地面も、真っ白に染め上げている。
「一応それなりに準備はしてきたけれど」
「これくらいならまあ、大丈夫ね」
 足首よりもやや高いほどまでの積雪に、じっとりとした目を向ける、翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)と、対照的にあっけからんとしている藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)の二人は足元の雪を踏み締めながら、その具合を確かめている。
 彼らケルベロス達は、ドリームイーターの出現に合わせ、その討伐の為にこの場へと集まっていた。
「それにしても書道を武術に、かー。かっけーけど、一張羅が真っ黒になるのはなー」
 日野原・朔也(その手は月を掴むために・e38029)の言葉の通り、今回彼らが相手にするのは、とある少女の妄想から書道を武道へと変えて戦うドリームイーターであり、当然、その攻撃を受ければ全身墨で真っ黒にされるであろうことは想像に難くない。
「クリーニングの必要があれば任せてください」
「そいつはありがたい、頼りにさせてもらうぜ」
 それを事前に対策してきている風鈴・羽菜(シャドウエルフの巫術士・e39832)の気遣いに、この雪の中の野外活動には不向きそうな服を見にまとっているダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)は一にも二にもなく、目を輝かせている。
「はやくお手合わせ願いたいですね。きっと、筆で攻撃した相手に文字が浮かび上がってそのまま倒れたりするんでしょうね、か、かっこいい……」
 そんなダレンはとは別ベクトルに、これより戦うであろう敵に対し目を輝かせているのはクロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)であった。
「なんにしろ、珍しいものが見れそうです」
 恍惚とした表情を浮かべるクロコの隣では、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が煌々とその頭部に灯る炎をもやし揺らめかせながら、楽しげな声色でそう口にしていた。
 彼らはここに到着してから、微かに周囲に敵意を振り撒きつつ、目標が現れるのを待っていた。


「おや、お出でなさったようですね」
 程なくしてそれは、現れた。
 魔法少女を思わせる、可愛らしいフリルのついた和装に身を包み、顔には朱で書と書きなぐられた半紙を張り付け、手には身の丈ほどの巨大な筆を持つ、小柄な少女。
 見た目こそ、コスプレをしたただの人のようにも見えるが、それ少女の思い描いた最強の武術を体現する、強力なドリームイーターであった。
 彼女はケルベロス達の姿を見つけると、足を止めて口を開く。
「我が書の試し書き相手は貴様等というわけか、不足は無さそうじゃの」
 見た目とは裏腹な尊大なその言葉遣い。
 その余裕を持った態度に対してケルベロス達は油断せず、気を引き締めながら、互いにアイコンタクトをとる。
「なんじゃ、懸念でもあるのか? なんなら少し待ってやらんこともないぞ?」
 どこまで本気なのか、測りかねるその態度。どちらにせよ、ケルベロス達はまず被害者となった少女の安全を確保するのが先決だ。相手がどう動くにしても、やることは変わらない。
 クロコが近辺に倒れている少女の捜索へと、翼をはためかせ向かい、他のケルベロス達は、目の前の敵に不穏な動きがないかと、しっかりと目を光らせている。
「そう心配せずとも余計なことはせんよ」
「……なんとも調子が狂うぜ」
 ドリームイーターの心を見透かすような言葉に、ダレンは軽く頭を書きながら思わず言葉を漏らす。厳重な警戒体制のなか、敵はその言葉通り動く事はなく、少女の安全が確保され、クロハが戻ってくるのを確認して、ようやく敵はその手にした筆を構えた。
「さて、それでは始めようではないか」
 場の空気を支配するかのように、ドリームイーターの方からそう宣言し、かかってこいとでもいいたげにケルベロス達へと手招きをする。
「書道とは人を傷つけるものではありません! 心技体を鍛えるものです! そのような使い方は認めません」
 それを受けて、クロコが吠える。先程までの想像はあくまで空想の中であれば、ということなのだろう。目の前のドリームイーターを倒すべく、彼女は武器を構える。
「気合いは十分ね、それじゃあ、きっちり倒させてもらうわ」
 クロコと並び立つように翼を広げたうるるもまた、グッと拳を握り、敵を見据える。
「それじゃあ景気付けに一発、ふきとばしてやるぜ!」
 朔也の言葉と共に、周囲の雪がカラフルな光と共に弾けとび、それに爆発音がつづく。それが開戦の合図となって、両者は一斉に動き出した。


 地を蹴り、翼を羽ばたかせ、足元の雪をものともせず、クロコが仕掛ける。
 両の手に握る剣による十字を描く斬撃が敵を襲い、吹き飛んだその体をダレンの放った爆発と、律の砲撃が立て続けに攻撃する。
「その程度ではあるまいな?」
 ざわめく森の中、多少その衣服に汚れはあるものの、事も無げに立ち上がった敵の体に傷はない。
 そこに横合いから叩き込まれる、うるるの放つオーラの弾丸の一撃。それを受け止めたドリームイーターに対し、ロビンの紫電を纏う槍が一直線に突き出される。
 うるるとロビン、二人の息のあった連携攻撃。
「なるほど、よい連携じゃ」
 しかし、ロビンのその突きの一撃はドリームイーターの構えた筆の柄によって受け止められていた。
「次はこちらからいかせてもらおうかの」
 筆を振り払い、その小さな体躯には見会わぬ力でロビンの体を弾き飛ばした敵は筆を右腕握りしめ、構えをとる。
「必殺――永字八法!」
 言葉と共にドリームイーターが地を蹴り、降り積もった雪が舞い上がる、
 目にも止まらぬ早さの踏み込みから繰り出される、軌跡の全く異なる八連撃。
 いや、それは連撃というには生ぬるい。ほぼ同時に繰り出される様々な攻撃は受けることも、避けることも許されない。
 一瞬にして、体に永の字を刻まれたロビンの体が吹き飛び、真っ白な雪原に、その文字が写し取られる。
 起き上がったロビンは、自らの墨に汚れてしまった服を忌々しげに眺め、その瞳に怒りの闘志をみなぎらせる。
「見ている分には派手でなかなかおもしろいですね」
「面白がっている場合でもないと思いますが」
 負傷事態は今のところそれほどひどいわけでもなく、ラーヴァと羽菜は仲間の回復支援に回りつつ、敵の挙動に目を光らせているのだが、やはり子供の空想から生まれた武術ということもあって、その技を物理的に解明するということはどうにもできそうにない。
 身軽に戦う敵の攻撃には一撃の重さこそないものの、じわりじわりと、ケルベロス達を蝕み、ドリームイーターの方はひょいひょいと身軽に攻撃をやり過ごす。
 そんな敵の戦い方に対抗すべく、羽菜が敵の攻撃に込められた呪詛を振り払い、敵の足を奪おうと律の攻撃がドリームイーターを襲う。
「っち、猪口才な!」
 それを鬱陶しく感じたのだろう、ドリームイーターは手にした硯を律と羽菜へと向けて振るった。
 そこから撒き散らされる大量の墨が辺りの雪を黒く染め上げ、それらは触れた場所から波紋の如く瞬く間に広がり、律と羽菜の二人を捉え、足元から真っ黒な影のような墨が、二人の体を汚していく。
「これは……」
「墨?」
 二人が墨に気をとられている間に、敵は大量の半紙を投げ放つ。それらは意思を持つかのように渦巻き、舞い、二人の足を、腕を、体を多いつくし、張り付いて、身動きを封じる。
「くらうがいい、文房四宝!」
 声と共に、吹き荒れる半紙の嵐のなかを駆けるドリームイーターが筆を振り上げ、二人を凪ぎ払うように、一閃。
 一文字を描く一撃が動きを封じられた二人へと叩きつけられる。
「へへ、見切ったぜ」
 寸前、その一撃を朔也と九曜が受け止めていた。
「なっ!?」
「今だ!」
 そのまま、敵の体を朔也の操るみわざが鷲掴みにし、その動きを封じた所へ、
「我が名は光源。さあ、此方をご覧なさい」
 ラーヴァの放つ激しく輝くやけた矢が一斉に指し貫く。
 敵の足に腕に突き立つそれは、地に、木々にその華奢な体を縫い止め、動きの封じる。
「筆はそんなふうにオイタするための道具じゃ、ないはずよ」
 そこに叩き込まれる、オーラを纏ったロビンの拳の一撃。
「大丈夫、今になにも見えなくなるわ」
 そこに、次いで放たれるうるるの拳に集められた病魔の力による一撃。先程の防がれた連撃に対するお返しとばかりの二人の渾身の攻撃。
 それをまともに食らったドリームイーターの体が今度は雪原を転がった。
 よろりと立ち上がるその体の節々には亀裂が走り、モザイクが覗いているもののドリームイーターの戦意に陰りはない。
「そうでなくとは、な」
 呟きと共に、敵は前へ、それに合わせて、ケルベロス達も応えるように迎え撃つ。
 雪原に残る無数の足跡と戦いの痕跡。
 クロコの放つ蹴りに真正面から筆の一撃を返し、ついで放たれたダレンの斬撃を踏み込むことで、浅く流す。舞踏の如く、踊る相手をくるくると変えて、ドリームイーターは戦う。
 しかし、一度崩れたそのリズムは戻ることなく、ケルベロスは敵を追い込んでいく。
 形勢は傾き、敵の握る筆までもがモザイクへと解けそうになって、そこでドリームイーターは足を止めた。
「思いの外やるではないか」
「あんたもなかなかだぜ」
 ベッタリと墨に汚れる服に、苦い顔をしながらもダレンは青白い閃光を纏う拳を構え、ドリームイーターと軽口を交わし会う。
 互いににらみ合いながら、狙うのは必殺の一撃。起死回生の一手を打つべく敵が先にしかけた。
「必殺、永字八法!」
 繰り出される目にも止まらぬ早さの八連撃。避けることも、受けることもできないその攻撃が、ダレンを襲う。
 その筆先がダレンの体を捉えたと思った瞬間、敵の眼前からその姿が書き消える。
 それは、羽菜が作り出した、ダレンの幻影。
「それじゃァ、正義の名の下にオシオキと行きますかね……ッ!」
 螺旋を描く青白い閃光がダレンの拳へと集まり、ドリームイーターの顔面へと叩き込まれる。
 書と書かれた半紙が千切れ飛び、モザイクへと霧散し、軽い小柄な体が雪の上を二転三転とするうちに、徐々にかき消え、雪の上になにかが転がったようなあとだけが残され、ドリームイーターは静かに消滅した。


 戦闘によって破壊され、墨汁に汚れた森の中を癒しその場所を後にしたケルベロス達は、まだ雪の残る、山の中に走る道をゆっくりと歩いていた。
 既にバスは出てしまった後ということもあって、彼らは少女を家まで送ろうと、ぞろぞろと連れたって歩いている。
「よかったら負ぶって飛びましょうか?」
 というクロコの申し出を断った少女は、思いの外しっかりとした足取りで雪を踏み締めながら、キョロキョロとケルベロス達に視線を送っている。
 やや勝ち気な少女といえども、ケルベロスとはいえ八人もの見知らぬ人々に囲まれれば多少の挙動不審にもなろうというものだ。
 そんな状況に置かれた少女であったが、それでも頑なに彼女はラーヴァの側だけは離れようとしないのは、やはり寒いからだろうか。
 ラーヴァはそんな緊張する少女を気遣ってか、ただ黙って、冷える鎧の体が触れないようにと気を付けて、歩幅をあわせ、一定の距離感を保ったまま静かに歩く。
「それにしても、書道を武術にしようって発想、すげーじゃん! 他にもなんか技とかあったりするのかー?」
 そんな静かな空気を打ち破ったのは朔也だった。
 気まずそうにしている少女の緊張をほぐそうと、彼なりの気遣いであったのだが、びくりと反応した少女は頬を染めて、俯いてしまう。
「手合わせしたドリームイーターさんの技もかっこよかったですし、まだ引き出しがあるなら是非聞いてみたいです」
 その意図を汲み取りつつ、クロコもまた無邪気にその話題を広げるように少女に話しかけるのだが、少女はますます顔を赤くして、耳まで真っ赤になって立ち止まってしまう。
 仮にもし自分一人でずっと考えていたヒーローの妄想があったとして、誰にも話すことなく自分だけの秘密として守っていたそれが、急に白日の元へとさらされ、根掘り葉掘りその設定を聞かれたとしたらいったいどのような気分になるだろうか。
「二人とも、困っていられるようですから」
「あ、あいえ、そそ、そういうわけでは!」
 朔也とクロコ、二人にむかって人差し指を口にあて、注意する律に、少女は慌ててそれを否定する。
「そ、その、た、たまたまちょっと思い付いただけで、深く考えいないので」
 わたわたと慌てふためき、意味のない身ぶりと手振りを交えを弁明する少女の様子に、だれもが穏やかな笑みを浮かべる。
「ええ、それでいいと思いますよ。筆もそのような使われ方は望んでいないでしょう。もし、幼稚な懲らしめたいのであれば、私の事が好きで気になるからちょっかいを出すのだろうと、その都度指摘してやりなさい」
 落ち着いたかと思われた少女の顔色はそんな、律の投げ掛けたアドバイスによって再び茹でダコの如く一瞬で真っ赤になった。
 幼稚な男子のちょっかいが恋愛感情に起因している等とは、まだ思いもよらないのだろう、彼女はその恥ずかしさに、ひゅんとすばしこく動き、律の元を離れ、うるるの後ろへと隠れてその腰にしがみついた。
 書道道具を拾い手渡してくれた彼女の事をこの中では一番信用しているのか、上目使いの視線で少女はうるるに助けを求める。
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫よ、ね? あなたとてもかわいいもの」
 うるるのそんな励ましの言葉に、少女の顔は熱を持ったままなものの、きれいなお姉さんにそういわれるのは素直に嬉しいのだろう、本の少しだけ、嬉しそうな、気恥ずかしそうな色が見てとれる。
「可愛い子にはついついちょっかいをかけたくなるのは男の性質だよなぁ」
「ダレンさんもそうだったんですか?」
 そんなやり取りに呟いたダレンの言葉を聞いていた羽菜の質問に彼は、肩を竦め両手をかるくあげる。
「さぁ、どうだったかな? 羽菜はどうだい、からかわれたりするのかな?」
「さぁ? どうでしょうね?」
 ごまかして返したダレンに、その真似をして返す羽菜。二人が苦笑を浮かべ、積もる雪を巻き上げる、冷たい風が吹く。
 だれもが身を竦め、ぶるりと体を震わせる。
「途中でお茶でも、していかない?」
 ようやく見えてきた人里の明かりに、ロビンがそう提案すれば、当然誰も反対などするわけもなく、皆がラーヴァは中心に寄り添って、明かりの方へと連れたって歩いていく。
 澄んだ空に浮かぶ星のように、春はまだ遠そうだたった。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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