●
カレーハウス。
最近開店したという店内は昼前から既に満席、外には行列が出来ている。
故に、自他共に認めるカレー好きな青年がカウンター席に座れたのは、行列の最後尾に並んで30分以上経ってからだった。
それでも青年の心は浮き立っていた。
「これだけ待たされたのだからさぞ旨いカレーの筈だ」
元々カレー好きなればこそ、初めて訪れた店の味に期待が高まる。
「お待たせしました」
目の前に現れたカレーは、本物のサフランの香りがした。
「頂きます!」
ひと口食べれば、手作りのチャツネだろう、主張の強すぎないマンゴーの甘みやライムの酸味が感じられる。
そしてターメリック、黒胡椒にカラシの実、ディルの香気——青年が今まで食べたカレーの中で、一番美味しいと思えた。
炒め小麦粉や飴色玉葱の無い、本場志向のインドカレーだったが、決して物足りなさを感じさせないカレー粉の調合が見事だった。
「こんなに美味しいカレーなら毎日食べたい、毎食この感動を味わいたい……!!」
完食するなり、青年はガタッと席を立って叫んだ。
「そうだ! 人類は皆、365日毎食カレーを食べるべきなんだ!」
青年は強い感動からカレーに開眼して、『毎食カレー大正義ビルシャナ』に変貌してしまったのだった。
●
「個人的な趣味嗜好による『大正義』を心に秘めた一般人が、その場でビルシャナ化してしまう事件が起こりそうであります」
小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
ビルシャナ化するのは、ある事柄に強い拘りを持ち、それが『大正義』だと信じる強い心の持ち主であるようだ。
「このまま放置すると、その大正義の心でもって一般人を信者化し、同じ大正義の心を持つビルシャナを次々生み出していく為、その前に撃破する必要があります」
今回の『毎食カレー大正義ビルシャナ』は、栗山・理弥(見た目は子供中身はお年頃・e35298)の丹念な調査の結果、その存在をかけらが予知する事ができた。
奴は出現したばかりで配下こそいないが、周囲に一般人がいる場合は、大正義に感銘を受けて信者になったり、場合によってはビルシャナ化してしまう危険性がある。
「毎食カレー大正義ビルシャナは、ケルベロスが戦闘行動を取らない限り——自分の大正義に対して賛成する意見であろうと反論する意見であろうと——意見を言われればそれに反応してしまう為、その習性を利用して議論を挑みつつ、周囲の一般人の避難を行ってくださいませ」
なお、賛成意見にしろ反対意見にしろ『本気の意見』を叩きつけなければ、ケルベロスでは無く他の一般人に向かって大正義を主張し信者としてしまうので、議論を挑む場合は本気の本気で仕掛ける必要があるだろう。
「毎食カレー大正義ビルシャナは、ビルシャナ経文と八寒氷輪で攻撃してくるであります」
敏捷性を秘めた意味不明の言葉である経文は、1人にダメージをもたらすのへ加えて、催眠効果を及ぼす可能性を持った遠距離攻撃。
理力に満ちた八寒氷輪もまた、射程が長い上に複数人へダメージを与え、時に氷づけにしてくる。ちなみにどちらも魔法攻撃である。
「また、避難誘導時に『パニックテレパス』や『剣気解放』などの防具及び種族特徴を使用した場合は、大正義ビルシャナが『戦闘行為と判断してしまう』危険性がありますので、できるだけ特徴を使用せずに避難誘導なさるのが宜しいかと」
そこまで伝えると、改めて毎食カレー大正義ビルシャナの教義について、説明するかけら。
「毎食カレー大正義ビルシャナの教義は、『何より美味しくて栄養バランスも良くて飽きないカレーを毎日毎食食べるべき』というものであります。避難誘導の時間を稼ぐ為の議論は『肯定否定どちらでも構わない』でありますが、『主張の方向性に関わらず本気さを感じさせる内容が大事』であります」
つまり、毎食カレー推しに賛同するならするで、カレーを毎回食べるメリットを明確に打ち出せないと同志とは認識して貰えない。
毎食カレー反対派の場合も、何故反対なのか、ビルシャナでさえ一瞬納得させる程の論理的な説得が出来れば、奴の意識をより長く引きつけられるだろう。
だが、万が一説得内容が芳しくなく、避難誘導する前に一般人が信者として開眼すると、そのままビルシャナになる可能性もあるので注意。
「毎食カレー大正義ビルシャナは、自らを大正義であると信じている為、説得する事は不可能であります。それどころか、大正義の心が周囲に伝染すれば、大惨事になりかねないので、お気をつけくださいましね」
かけらは彼女なりに皆を激励した。
参加者 | |
---|---|
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163) |
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
藤・小梢丸(カレーの人・e02656) |
風魔・遊鬼(風鎖・e08021) |
スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453) |
岩櫃・風太郎(閃光螺旋のガンカタ猿忍・e29164) |
守部・海晴(空我・e30383) |
猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454) |
●
カレーハウス。
「ゆっくり食べて待つ……のが、最低限迷惑にならないでしょうか……?」
猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)は、店員の運んできたインドカレーを前に、いささか緊張気味にスプーンを取っていた。
生真面目委員長気質な犬っ娘ウェアライダーの少女だ。
外の行列が耐えぬほど常に満席な店内で長々待つのは席を一つ潰すみたいで気が引ける——と模範的なケルベロスになりたい彼女が思うのも尤もである。
その傍らでは。
「美味しいカレーですね。これは行列ができるのも頷けます」
こちらも客を装って店内に入り込んだ風魔・遊鬼(風鎖・e08021)が、もさもさとカレーを食べていた。
螺旋忍軍の腕を移殖されてケルベロスに覚醒した地球人の青年だ。
愛楽礼も遊鬼も、行列が出来る前に店内へすんなり入れたのは幸運——という訳でも無い。今回は男がビルシャナ化する前に余裕をもって到着出来た。
「そうだ! 人類は皆、365日毎食カレーを食べるべきなんだ!」
だから、男が『毎食カレー大正義ビルシャナ』に変じた時も、
「毎食カレー、基本的には賛成です! ……が、それに追加で二つ、付け足すべきだと提案します!」
愛楽礼はすぐに彼の席まで駆け寄って声をかけられたし、
「突然すみません。店内にデウスエクスが現れましたので避難をお願いしたく……騒ぐとビルシャナを刺激しますので、どうか落ちついて静かに外へ出て下さい」
遊鬼もこっそりとテーブル席を回り、客へ避難を促せた。
「カレー……カレー……カレーなぁ……んんんー。普通デス」
一方。遊鬼と手分けしてカウンター席を回って避難をお願いするスノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)は。
「別に嫌いじゃないデスシ……こう……取り立てて好きでもナイこの感じ」
己のカレーに対する情熱どころか興味の無さを改めて自覚していた。
「そう……普通デス」
これはこれで、完全なる無関心として毎食カレー賛否どちらでもない第三勢力になれそうだが。
「っていうかこのビルシャナ……ビルシャナじゃなくてケルベロスに覚醒してたら、カレーの人二世っていうか、割とそこそこいるカレーガチ勢になったんデスカネ」
スノードロップは、何やら厨房でゴソゴソしている仲間の方へ視線を走らせてから、
「まあいいデス、きっちりと仕事するデスヨ。
気を取り直して、カウンター席の客を落ち着いて避難させるのだった。
同じ頃、店外では。
「デウスエクスが店内に出現したでござる! 皆様、早々にお逃げくだされ!」
岩櫃・風太郎(閃光螺旋のガンカタ猿忍・e29164)が自分のケルベロスカードを見せながら、行列を作っている客へ呼びかけていた。
「やだ、デウスエクスが……!?」
「きゃあああ!!」
デウスエクスと聞いただけで震え上がって逃げ惑う一般人達。
他方。
「ガイバーン、店内の一般人の避難誘導はビルシャナに悟られないよう静かにそっと行って貰いたい、頼むね」
「了解じゃ」
的確な指示で店内へガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)を向かわせた守部・海晴(空我・e30383)も、店外の客を宥めていた。
「はいはい、皆さん慌てず騒がず、前後の人を押して押されて転んだりしないよう気をつけてねー」
彼らのお陰で、店内の客も外の行列も、ビルシャナから逃げるべく努めて静かに動き出した。
さて、店の中では。
「ふむ、毎食カレーを確固たる教義にすべく、足りぬ要素を補おうとは良い心がけだ」
大正義ビルシャナが、一般人が逃げ始めたのへも気づかず、愛楽礼の提案に耳を傾けていた。
「して、毎食カレーに付け足すべき物とは何だ?」
「はいっ、まず一つ! 栄養バランスが良い……というのは概ねその通りですが、カルシウムが不足気味です!」
毎食カレー派を推す側に回った愛楽礼は、ビルシャナへ臆せずにはきはきと物を言った。
「なので、飲み物に牛乳、もしくはデザートにヨーグルト、どちらかの追加をするべきです!」
ビルシャナもしかつめらしく頷く。
「ふむ、良い案であるな。毎回食べ続ける為にはカルシウムも必要であろう」
「そしてもう一つ! カロリーの高さ! その為、定期的な運動も計画に入れるべきです!」
「成る程、運動をすればそれだけ早く腹も減るからな」
「この二つを踏まえて『毎食カレー+牛乳かヨーグルト、朝昼夜に20分ずつのジョギング』、このプランにする事を提案します! どうですか!」
「素晴らしい!」
ぺすぺすぺす。
両の翼の爪で拍手するビルシャナ。
「貴様こそ我が毎食カレー教の幹部に相応しい。今後も新たな信者獲得に向けて、教義の見直しに取り組んで欲しい!」
「へへーっ、有難き幸せ!」
目論見通り、ビルシャナの意識を議論に集中させた愛楽礼。大層信頼されたものである。
(「まーた妙なビルシャナが出てきちゃったなぁ」)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は、元々食への拘りが薄い為に突入直前ギリギリまで——まるでテスト当日の生徒のように、スマホを覗き込んでカレーについて調べていた。
(「元は善良な一般人てのは正直いい気分じゃないから、早くビルシャナの本体を叩きたいな」)
胸の内ではそんな屈託を抱えつつも、店内へ入る際は明るい表情を取り繕って、
「素晴らしい! 実にマサラ!」
と拍手する演技派なピジョン。
「ほう、貴様も毎食カレーに賛同するかね?」
「ああ、勿論さ。カレーのスパイスは心を整える香りや、防腐作用もあるし機能的だね。特にターメリックは肝臓にいいというし、実に健康的だ」
ビルシャナの気を上手く引いたピジョンは、カレーがどれだけ身体に良いかを滔々と語る。
「今は本格的なレトルトカレーもいっぱいあるし、毎日食べるのに手軽だよね」
元来、軽薄そうな顔をしていて演技も得意というピジョンだから、カレーが如何にお手軽かを語る様も、大変堂々としていた。
「うむ、このインドカレーにも、カレー粉には当然のこと、ライスの方にも、何とサフランライスとターメリックライスを混ぜてあるようだ。これも客の健康を考えた店主の気遣いであろうな」
「それは凄いね! ちなみにカレーなら僕の母国イギリスも負けてないよ」
加えて欧風カレーについても、炒めた玉ねぎやニンニクの風味、月桂樹やタイム、クローブの香りの妙を、立て板に水の如く解説してみせた。
「うむうむ。イギリスのカレーも旨い物であるな。我は小麦粉をしっかり炒めたのが特に好みだ」
「だろうだろう。もしや君はインド派かい? いやいやそれも結構! 一緒にスパイスルートへ繰り出そうじゃないか」
「おう、新たな同志よ! 貴様とは旨いカレーが食えそうだ!」
すっかり意気投合——無論ピジョンは演技なのだが——して、肩を抱き合うピジョンとビルシャナであった。
他方。
「365日毎食カレー食べてます。だから気持ちはよく分かるんです」
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)が、勿論当然当たり前の如く、毎食カレー賛成派としてビルシャナへ接触する。
今もむしゃむしゃ食べているカレーは、厨房で店員を避難誘導する際に、許可を得て鍋から失敬してきた出来立て熱々大盛りカレーである。
「カレー毎日食べたいよね! 人生最高の食べ物に出会えた喜びに乾杯!」
湯気を立てるカレーライスを掲げて、ビルシャナと乾杯する小梢丸。
「うむ、乾杯! 人生最高の食べ物か。貴様もなかなか話が解るようだな」
短時間でビルシャナの胸襟を開かせるだけの舌鋒を揮える辺り流石である。
(「HAHAHA信者なんか増やさせないぞ、さあ僕とカレーを見るがいい!」)
それでいて、内心ではビルシャナとの議論の目的も、ちゃんと覚えていた。
「ところで今日、1月22日が何の日か当然知っているよね? 知らないとは言わせないよ」
問いかける小梢丸は心底楽しそうだ。
「フッ……我を侮るでない。『カレーの日』であろう?」
「そう『カレーの日』だ。毎日カレーを食むのもいいことだけど、こうしたメモリアルデイに特別なカレーを頂くというのも、また奥深い」
「うむ、その通りであるな……まさか、我がこの日を狙って来店した事を見抜ける輩がいようとは……」
「それこそ僕を侮らないでよね。カレーの日……1982年、1月22日の給食のメニューをカレーにすることが決まって、全国の小中学校で一斉にカレー給食が出されたのへちなんで定められたんだ」
「ほう、貴様、相当カレーに詳しいと見える。我が同志となるに充分な逸材だな」
「今現在でもカレーは多種多様の進化を遂げている。色々なカレーを味わいたいじゃまいか」
「同感である!」
ビルシャナと小梢丸のカレー礼賛談義は尽きない。
「やはり、カレーのことはカレーの人にお任せして正解のようデスネ」
スノードロップもその様子を眺めては、安心して避難誘導に励んでいたが。
「まあ敢えて言うとしたら……コレが365日カレーを食べた人のなれの果てデス」
ふと興が乗ったのか、小梢丸が如何にカレーフリークかを醒めた声音で説明してみせた。
「良くも悪くも……こう濃いデショ。だからまあ……実績的にも、カレーの人についていくのが最善ダトオモイマスヨ?」
感心するビルシャナへ、少しでも小梢丸の凄さを判らせようと言葉を尽くすスノードロップ。
「後……個人的に甘いカレーはナンセンス。辛くないと食べた気がしないデス」
実はカレーへの拘りがある辺り、賛成派の素質充分かもしれない。
●
「何がカレーでござるか!」
そこへ威勢の良い物言いをつけて、談義に割って入ったのが風太郎だ。
「そんな油と刺激物の塊で出来た代物を年中喰ったら、高脂血症や高血圧などの生活習慣病に罹るぞ!」
風太郎は、毎食カレー反対派としてカレーを常食するデメリット、生活習慣病の恐ろしさをわざとオーバーに吹き込む傍ら、
「ドーモ、カレーマニアの皆さん、ニンジャのうどん屋、風太郎でござる」
と、挨拶を忘れない律儀さも持ち合わせていた。
「確かにカレーはもはや日本の国民食でござる。だがその一方で、スパイスの刺激が苦手な日本人も数多い!」
特に明確な根拠は無いのだが、そこは勢い重視、ビルシャナにそうかもと思わせた方の勝ちである。
「その点、うどんは胃に優しく消化も良く、すぐエネルギーに変わるので病人も安心!」
流石はうどん屋、風太郎のうどんアピールは堂に入っていて、説得力も充分。
「更にお年寄りからお子様まで幅広く愛される真の国民食! 日本各地で様々なご当地うどんが根付いてるのが、その確たる証拠なり!」
ビシィと言い切られてたじろぐビルシャナ。
「ふむ……消化の点では確かにうどんには負けるが……味はどうなんだ? 人々に愛されていると言うからには、それだけうどんは旨いのだろう?」
だが、敵もさる者、ビルシャナはそう簡単に負けを認めず、風太郎の演説の穴を突いてきた。
「日本各地に根づいたご当地うどんが確たる証拠だと……? カレー以外に興味の無い我には讃岐饂飩しか思い浮かばんのだが」
彼のプレゼンでは、うどんの具体的な美味しさが何一つ伝わって来ない、と。
勿論、胃に優しく消化に良いのは大きなアピールポイントだが、うどんを食べたいと思わせる要素に欠けるのが、少し寂しい。
様々なご当地うどんを例に出すなら出すで、ビルシャナの食欲に訴えるような解説もつければ、綺麗に纏まっていたかもしれない。
どじゃーん!!
「さあ、突然始まったカレー大正義論争、実況はこの私、東堂アナスタシアがお送りします」
肯定派否定派のディベートが始まったタイミングで、力一杯銅鑼を鳴らすのはアナスタシアだ。
「そう、私は流浪のアナウンサー部員! ……この設定、今考えたわ」
アナスタシアは実況に集中するフリをしながらも、その一方で客の避難が順調か密かに目を光らせていた。
続いて。
「あーはいはいカレーカレー……って言いたくなるくらいカレー関係のビルシャナ多くね?」
一般人の避難の邪魔をしないように、空いた席へ引っ込んでいた久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)が、いよいよその重——くない口を開いた。
「正直ビルシャナ何とかする前に、カレーで悟り開いちゃう一般人何とかした方がいい気がする今日この頃って感じだよなぁ」
と、相変わらず冷静で客観的に物事を捉えられる航。
「カロリーが高いんだよ!!」
早速、自らのツッコミスキルを活かして、毎食カレー反対派として熱弁を揮った。
「コンビニの20円のチョコでさえ1個食べたら30分の有酸素運動が必要とか聞くのに、カレーのカロリーなんてその約10倍~30倍くらいあるじゃないか」
予めしっかり調べてきた具体的な数値を挙げて、毎食カレーのデメリットを突きつける——最初に重いボディーブローを喰らわせる判断力は、見事である。
「毎日毎食カレーじゃ、例え味に飽きなかったとしてもビタミンCが不足しがちになるし、それを補ったとしても成人病まっしぐらで長生きできなさそうだろ」
また、この日の航はやはり常々説得慣れしている為か、彼ならではの柔軟性を見せた。
「早死にしたらその分カレー味わえる回数減るし」
と、毎食カレー否定派でありながらもカレーに固執するビルシャナの気持ちを汲む形で、長生きできない事により被る損失を訴えたのだ。
「週一まではしなくても、少し間を空けて我慢した後に食べた方が美味く感じると思うしな。元々美味いなら尚更」
大正義ビルシャナへの対処法——何よりも本気の議論が大事——であるのをよく弁えていればこそ、意見の方向性に拘らない、ひたすら毎食カレーを否定しつつ如何にカレーを美味しく食べるかの提案という合わせ技が出来たのだろう。
「ぐっ……確かに早死には困る。日本のカレーハウス全制覇する為には長生きせねば……」
大正義ビルシャナも、航の理屈には咄嗟に反論できないようで、
「少し間を空けて食べる方がカレーは旨い……覚えがあるだけにまたやってみたくなるな……しかし、毎食カレーを断念する訳にはいかぬ!!」
思わず頭を抱えてしまった。
「意義あり! たしかにカレーは美味い、でも世界には他にも美味い料理が色々ある!」
理弥は、鋭い第一声から持論を展開。
「文化遺産にもなった和食、高級なフレンチ、お洒落なイタリアン、中国四千年の歴史を誇る中華……寿司、刺身、フォアグラ、パスタ、ピザ、餃子、炒飯!」
どれもがそれぞれの国の文化や食材を活かして作るものばかりだ——と熱く論じた。
「毎食カレーにするっていうのは国の文化を否定する行為なんだよ! どこに行っても食べられるのはカレーじゃ、その土地ならではの食事をする楽しみがなくなるぞ!」
「ぐぐぐ……」
ますます答えに窮するビルシャナ。
「ちょっと待てー、一年中カレーしか食わないとは、何を言っているんだ?」
次に否定派として議論を挑むのは海晴。
「風太郎さんが言うように、万人が全てカレーの香辛料を受け付ける体質とは限らない」
まずは仲間の論調に乗っかる形で、話のとば口に立ってから、
「何よりカレーの食い過ぎは味覚にも障る。そこで俺が提唱するのは……お粥だ」
海晴独自の視点から、毎食カレーに対抗し得る教義として、お粥を推挙した。
「はっ、粥みたいなろくに味がない病人食にカレーが負けるものか」
「病人食? 味が無い? 何を言っているんだ? そもそも昨今の食事は塩の摂り過ぎなんだよ」
ビルシャナの侮蔑へも鋭く反論する海晴の頭は冴えていた。
「米をゆるーく炊いて一つまみの塩で絶妙に味付けをするのがいいんだよ」
お粥を甘く見るなかれ、心を砕いて調理すれば本当に美味しくなると諭してみせたのだ。
「そしてそこに鶏ガラの出汁を加えるとグレードアップ」
更には弁舌爽やかにお粥を美味しくするレシピを語り、ビルシャナを動揺すらさせた。
「ぐっ……なかなか旨そうでは無いか」
「鶏ササミやザーサイなどのトッピングが映えるし、白身魚の切り身をお粥の熱でほんのり火を通したのもいいぞ?」
海晴の勢いは止まらない。
鶏ササミ入りで搾菜を散らした中華風お粥、白身魚の切り身を乗せたしゃぶしゃぶ風お粥——これらが飯テロでなくて何が飯テロだろうか。
「胃にも優しい上、誰でも作れて食べられるお粥はハズレ無し!」
お粥の美味しい食べ方を詳細に語った上で、高らかに宣言する海晴。
時を同じくして、
「一般客全員の避難が完了しました」
店へ再び入ってきた遊鬼より齎された一報を皮切りに、ケルベロス達は戦闘態勢を整える。
「なっ……貴様ら、我をたばかったな!?」
大正義ビルシャナが今更慌てても、もはや後の祭り。
「さあ縫い止めろ、銀の針よ」
銀にきらきら光る針と糸を用いて、ビルシャナの足元を縢るのはピジョン。
遊鬼は無言で、火薬により成形した棒苦無をビルシャナへ突き刺して着火、爆発させた。
「バッキバキにしちゃりマース」
高々と跳び上がって、ビルシャナの頭へ華斧 華刃剥命を叩きつけるのはスノードロップ。
「インド洋に還れ!」
トドメは小梢丸が、静かに横たわる雄大なインド洋の淵で僕たちは夜明けのカレーを食すを嗾けて、ビルシャナの息の根を止めた。
「……実は拙者、結構カレーが好きでござるよ」
風太郎は、消え逝く遺体を前に手を合わせた。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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