女の子は、とっても良い香りがするらしい

作者:ハル


 ――女の子は、とっても良い香りがするらしい。
 高校進学を早々に決めた優等生は、エロ漫画で得た知識によって、悶々とした日々を過ごしていた。
「気になる……気になる!」
 優等生故の知識欲か、はたまた匂いフェチの萌芽か、少年の欲求は日に日に強くなるばかり。学校には大勢女子生徒がいるが、モテとは無縁の学校生活を送ってきた少年にとって、異性とは近くてあまりに遠い存在だ。せいぜいが、横を女子が通り過ぎる度に、鼻をクンクンと鳴らす程度の接触が限界であった。
「女の子の匂いを思う存分嗅がせてくれ!! この際、可愛ければ男の娘でも大丈夫だから! 誰でもいいっ、俺の願いを叶えてくれ!」
 ベッドの上で、少年はエロ漫画を手に祈った。
 その、あまりに必至すぎる祈りに応えるように――。
 少年の部屋の天井辺りが白む。
 あまりの明るさに、少年は思わず目を瞑り、再度開くと、
 目の前に、嫋やかに頬笑む、美しい蒼い羽を持つ鳥が、そこにいた。
「……いや、さすがに鳥は守備範囲外なんだけど……」
 後ずさる少年に、鳥――大願天女は気にした風もなく首を横に振ると、少年に向けて手を掲げ、微笑みかける。
「おおっ!」
 次の瞬間、天恵が舞い降りたかのように、目を見開く少年。そして、いつからか、少年の全身は羽毛に覆われ、ビルシャナへと変貌していた!
 ビルシャナと化した少年が、ベッドから飛び起きると、
「女の子を殺害して、動けなくしてしまえばいいんだ! そうすれば、匂いだって嗅ぎたい放題じゃないか!」
 少年は、まるでそれが素晴らしい行いであるかのように唐突に語り出すと、頬笑む大願天女に見送られ、鼻息荒く部屋を飛び出していくのであった。


「分かるっすよ少年……女の子に香りに対するロマン……少年ぐらいの年頃の男子なら、誰もが一度は感じた事があるはずっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、真面目な表情で、何度も頷いていた。無論、少年が語ったその手段は許されざるものだが、それは少年の本意ではないはずだ。
「ビルシャナ菩薩『大願天女』出現の影響が出始めているみたいっす! 今回は、無垢な少年がビルシャナ化してしまったっす!」
 少年が抱いていた願いは、女の子(可愛い男の娘でも可)の、匂いを嗅ぎたいというもの。
「グラビティ・チェインの収奪を目論む大願天女によって、少年の願いは人を害さなければ叶わないものと、誤認させられているっす! ビルシャナ化した少年の願いを、少年が行動を起こす前に先んじて叶えてあげたり、説得して計画を諦めさせることができれば、ビルシャナ化した少年も救う事ができるので、是非助けてあげて欲しいっす!」
 そこまで一息に告げたダンテは、少年の名誉のため、改めて言う。
「少年は変態じゃないんすっよ! 少年だけでなく、『男』が変態なんっすから!」
 一部反論もあるだろうが、ダンテの迫力に押されるケルベロス達。
「現場は、少年の自宅前になるっす。周辺の避難は終わってるっすけど、内容が内容っすので、少年を無事助けられた後、学校でイジめられないよう、人払いは念入りにお願いするっす! あと、攻撃手段としては、通常のビルシャナと変わらないものと思ってくれて大丈夫っすから!」
 ビルシャナ化した少年と遭遇できれば、逃走の心配はない。
「説明した通り、ビルシャナ化した少年を改心させるには、『願いを叶えてあげる』『説得する』『夢を砕く』といった方法があるっす。少年の心に、計画に対する僅かの迷いも生ませる事ができなければ、ビルシャナとして少年も撃破してしまう事になるので、注意して欲しいっす!」
 ダンテとしては――。
「少年は、きっとそんなにすごい事を望んでいるんではないと思うっす。抱きしめられた時に、ふわっと香る……そんな青春みたいな事で、満足してくれる……はずっす! あと、おっぱいに顔を埋めるとか……おっぱいとか……」
 無論、いろんな意味で夢を砕く事でも、少年を助ける事は可能だ。
「その辺りは、皆さんの善意と良心にお任せするっす! ともかく、願いを歪まされた少年の命を助けてあげて欲しいっす! それが、自分の一番の願いっすよ!」


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
植田・碧(ブラッティバレット・e27093)
ヴィクトリカ・ブランロワ(碧緑の竜姫・e32130)
輝夜・形兎(月下の刑人・e37149)
菊池・アイビス(さそりの火・e37994)
水森・灯里(ブルーウィッチ・e45217)
シャルル・シーク(穴掘りシャルル・e45235)

■リプレイ


「避難は終わってるみたいなので、警察さんには周囲の警戒をお願いしておくです」
「なら、テープの外側に配置についてもらおうかしら?」
 移動中、人払いについて、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)と植田・碧(ブラッティバレット・e27093)が話し合っていた。
「まー、こーゆーのって思春期特有の悩みだよなー」
 その傍で、峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)が、訳知り顔で腕を組んでいると。
「そんなに必死になるような事なんすか……?」
「我にも女子の香りを嗅ぎたいという心理はいまいち分からぬのじゃ。花や果物の香りを匂ってみたくなるのを同じようなものなのかのぅ?」
 洞窟では、そんな異性を終ぞ見かけたことのかったシャルル・シーク(穴掘りシャルル・e45235)と、箱入り娘然としたヴィクトリカ・ブランロワ(碧緑の竜姫・e32130)が目を丸くする。
「女体の神秘を追うのは男の本懐じゃけえ。まぁ、男にとっての女の子が、ご馳走いうんは、そう的外れじゃないかのう」
「う~ん、そういうもんなんすかねぇ?」
「そ、そうじゃったか……!」
 男なら自然と納得できる菊池・アイビス(さそりの火・e37994)の理論も、多少幼さの残るシャルルとヴィクトリカには、分かり難い。
「よく分かんないけど、男の子のガンボーを叶えてあげれば助けられるんだよね。合ってる、雅兄ぃ?」
「ああ、絶対助けてやらねぇとな!」
「オッケーだよ! ウチに任せて!」
 雅也の肩越しに、ヒョイと顔を出した輝夜・形兎(月下の刑人・e37149)には、雅也が応じる。
「それにしても、人の認識を誤認させるなんて……」
「今までにないタイプのビルシャナよね」
 水森・灯里(ブルーウィッチ・e45217)が思案するように口元を軽く抑えると、碧が肩を竦める。
「……気を付けてはいるですが、改めてってなると気になるですね」
 真理が、柑橘系の香水を、胸元に少量塗布。
「夢を砕くのも、ちょっと可哀想だものね」
 碧も苦笑。彼女自身、臭いと思われて良い気分はしないのだろう。
 と――。
 ケルベロス達が件の家に到着すると同時に、家の中から階段を下る足音。そして、玄関のドアが勢いよく開け放たれると、
「匂い童貞卒業だーー!!」
「おぉぉ! 本物のビルシャナじゃ!」
 ビルシャナと化した少年が姿を現し、ヴィクトリカが子供のように瞳を輝かせた。


「どうですか? 女の子を殺害したりしなくても願いは叶えられますから、危ないことはやめてくださいね?」
「ああ゛~~~~!!」
 ビルシャナは、灯里の胸元に顔を埋め、恍惚の表情を浮かべていた。頭をぽんぽんと撫でられ、グリグリと灯里の胸に顔を押しつける様からは、最早デウスエクスとしての威厳は微塵も感じられない。
「温いやろ? やらかいじゃろ?」
 そんなビルシャナと灯里の隣に陣取り、アイビスは羨ましさと悔しさを必死に抑えながら、持論を語る。
「女の子を構成する要素として匂い言うんは重要やがな。瑞々しい肌。髪の手触り。抱き締めた華奢な肢体。乳の弾力――」
 そう。それらはすべて、数分前までのビルシャナ――少年が知らなかった世界。
「……まるで蕩けるような感触、温もり! こ、この世のものとは思えない!」
 そして、それに付随する甘い香り。灯里の銀の髪が少年の頰を擽ると、一瞬遅れてフワリと、また別種の香りに包まれる。あらゆるものが、男とは違う、異性という神秘!
「……で、どうだった?」
 しばらく堪能した少年は、フラフラとした足取り。そこに雅也がニヤニヤ近づき、問いかける。
「最高……!」
 少年は、夢見心地でそう答えた。放心状態の少年に、雅也は、
(……あれ? これもう堕ちてないか?)
 そんな疑念を抱く。なにせ、まだ序盤も序盤。灯里は、少年の籠絡のために差し向けられた刺客……その二人目なのだ。一人目は――。

「早速女の子を発見したぞ! 計画通り、動かなくして――うおぉっと!?」
「実物に会うのは初めてじゃ! この羽根は本物か!? おおっ、毟れたのじゃ!」
「モ、モフモフっすか!」
「モフモフなのじゃ!」
「なんと! ウチもモフモフしたいっす!」
 形兎の好奇心全開の視線を受けながら、意気揚々と女性陣に殺意を向けてきたビルシャナに飛びかかり、纏わり付いたヴィクトリカであった。
「お、女の子が、こんなに近くに! う、うぉおお!」
 さすがに灯里程直接的ではなかったが、少年の人生で最初に深く触れ合った異性として、ヴィクトリカは少年の記憶に強く刻まれたに違いない。
 それはさておき……。

「……隙をつく必要もないですね。本当は、女の子にだって準備とかあるですからね……? 今回は特別なのです。私が良い匂いかどうかは、分かんないですけども」
「匂いくらい、減るもんじゃなし、いくらでも嗅いだら良いっすよ! ほら!」
「て、天国か!? ここは天国なのか!!?」
 真理とシャルルにムギュッと挟まれた少年が、まるで溺れているかのように口をパクパクさせている。
 真理が身動ぎする度に、甘酸っぱい香水の芳香。その甘酸っぱさは、まさしく少年が夢にまで見た理想の香りであった。
 陶然とする少年に、シャルルは冷めた瞳で、
「確かにいい匂いのヒトもいるでしょうけど、真理さんのは香水だし、他のもぶっちゃけシャンプーとかの香りっすよ。あんまり女に夢見すぎない事っす」
 そう告げた。
 だが、少年も怯まない。
「たとえ香水であっても! それが可愛い女の子から香ってくるのが重要なんだ! シャンプー、ボディーソープ万歳だ! 男がいい匂いのシャンプーやボディーソープ使って、良い匂いが長く持続するようになるか!? 否だ!! シャンプーやボディーソープ含めて、『女の子の香り』なんだ!」
「まぁ確かに、少年の言わんとしている事は分かるぞ」
「一理あるのう」
 少年の主張に、同意を示す雅也とアイビス。
「でも、だからって女の子を動けないようにしたりしなくても大丈夫よ?」
 碧が少年に近づく。何やら目つきの変わった少年は、
「初対面から、良い匂いがしそうだと思ってました!」
「そ……そう……?」
 そう言ってのけると、引き攣った笑みを浮かべる碧に、ぎゅっと抱きしめられた。
「やっぱり、女の子はとってもいい匂いがする! エロ漫画は真実だったんだ!」
 妄想を確信に変え、少年は碧の首筋に鼻を埋める。
「じゃあ最後はウチだね、ぎゅーって抱きしめてあげる! さぁ、来い! その代わり、鳥胸モフモフさせてねー?」
 手を広げる形兎の胸に、少年が飛び込む。代わりに形兎は、ヴィクトリカの言葉通りモフモフの鳥胸へ。
 その時――!
「なにっ!? 女の子なのに、固いだとぉ!?」
 少年が、はね飛ばされる。今までは、接触時の感触がポヨヨ~ンだったのが、まるで壁にぶち当たったかのよう。
「ちょっと、ちょっと! そこまでじゃないでしょ!?」
 すかさず突っ込みを入れる形兎。
 口を窄めてブツブツ言う形兎の胸の中に、改めて少年が収まる。
「んん?!」
 その瞬間漏れる、少年の困惑の吐息。
(くそー! 胸が小さいとか、獣臭いと思ってるんだろうなー! ていうか、シャルルはウチよりも小さいはずだよね!?)
 それは、形兎がある程度予期していた反応。形兎は、他の女性陣より、女性的魅力に欠けるという自覚はあった。
「女の子が全員柔らかかったり、良い匂いすると思うなよー!」
 だから、思わず負け惜しみ。同時に、現実を知らしめるため、形兎は少年に身体を押しつけた。すると……。
「……『生』の匂い……」
 ポツリと、少年が呟く。確かに形兎の体臭は、少年が期待していたものとは程遠い。だが、太陽や土の匂いが混じるそれは、同時に圧倒的なリアリティーをもって、少年の鼻孔を捉えていたのかもしれない。

「形兎は、スレンダーな体型が性格に合ってると思うぞ。笑顔も可愛いしな」
 雅也は、一頻り形兎を慰めた後。
「そろそろバレンタインだろ。卒業前に、お前に告白したいって女の子がいるかもよ? 高校に上がれば、彼女が出来るかもしれないしな!」
 彼女はいいぞー、そう少年に彼女の写真を見せる雅也。
「誰彼構わずでいいなら、女の子の匂いくらい簡単に嗅げるっすよ? ほら、満員電車とかでね?」
「まぁ、満員電車で鼻をならしてたら痴漢そのものやが」
 シャルルの際どい意見に、アイビスは苦笑を浮かべつつ、
「冷たく強張った女の匂い嗅いでどうする? 屍骸に鼻ひくつかせて何が楽しいんか。ぴっちぴちの生きた女と仲良うなって、存分に匂い嗅いだらんかい」
 そう告げた。
「アイビスの言う通り、女子を殺しせば遺体であり、香る匂いは死臭じゃ。そんなものをそちは求めていたのか? 違うじゃろう! 我が心休まる果実や花の匂いを求めるように、そちは生き生きとした女子……と男の娘? の匂いを求めておったのじゃろう!」
 さらに、ヴィクトリカが、アイビスの後を継ぐ。
「最も、仲良くなっても、匂いを嗅がれるのは女性としてあまり嬉しくはありませんが……」
 灯里が言うと、女性陣が「それはそうだ」と、深く頷いた。
「このままちゃんと頑張れば彼女さんも出来るです。ビルシャナなんかに頼る必要ないのですよ」
 だって、少年の願いは、もう叶っているのだから。もう、悶々とする必要はどこにもない。
 真理の言葉に、少年は澄んだ視線を返す。
 そして――。
「うっ!」
 異変。少年が、光に包まれたのだ。
「良い匂いを堪能させてくれてありがとう! おかげで目が覚めた! 天国を味あわせてくれた皆に報いるため、次は自分の力で女の子の匂いを嗅いでみせるっっ!」
 少年は光に包まれながら、抵抗するように叫んだ。
 すると、光は解放され、その光が矢のように少年に殺到! 瞬く間に少年の意識は一旦消え去るが、同時に!
「光がビルシャナを苛んでいるわ!」
 光が収まった時、ビルシャナの羽毛が焼け焦げているのを碧は目にする。
「ビルシャナなんかに願いを叶えて貰う必要、ないのです!」
「我を取り戻して、抵抗してくれた少年のためにも!」
 真理と灯里が頷き合う。そして、次第に全員が、ビルシャナを倒し、少年を解放するという強い意志を共有したのであった。


 炎を纏ったプライド・ワンに搭乗した真理が、猛然とビルシャナへと突っこんでいく。
「守り続ける事が、私の戦いなのです……!」
 ビルシャナの動きを翻弄しながら、真理は小型治療無人機で、守りの陣形を整えた。
「動きが鈍いわよ?!」
 碧の言う通り、光の暴走によってビルシャナは戦闘開始時から多大なダメージで足を引き摺っている。電光石火で放たれた蹴りが、ビルシャナを吹き飛ばす。
「チッ!」
 だが、ドトメとはいかず、軽く舌打ちをする碧。
「安心せぇ! 時間の問題じゃけぇ!」
 ビルシャナの放つ孔雀の炎。その前に、真理のドローンと、自身の散布した紙兵を引き連れたアイビスが割って入る。アイビスの両腕が煙を上げるが、被害は表層だけに止まった。
「クソ鳥ワレぇお前が叶えられる願いなんないわい!」
 返す刀で、アイビスは稲妻を纏わせた槍をビルシャナに突き刺す!
「――――ッ」
 痙攣するビルシャナの全身。ケルベロス達は、これを好機として、さらに追撃を仕掛けていく。
「蝕まれな……!」
 まずは、治癒力阻害のグラビティを、雅也が妖刀【刹那】に纏わせた、形兎直伝の太刀。
「蝕め!」
 コンビネーションとはいかないが、本家本元――形兎の鎌も、その後に続く。
 グラリと傾くビルシャナ。だが、
「倒れている暇はないですよ? これで動きを封じさせてもらいますね」
 それすらも許さず、灯里の術により、ビルシャナの影が縫い止められる。
「ア゛ッ……ア゛ア゛!」
 こうなってしまえば、ビルシャナは籠の鳥。ヒールは十分な回復量を見込めず、氷輪は、さらに蒸気で防御を固めたシャルルと真理の壁を崩せないゆえ、クラッシャーには届かない。
「次はオイラの番っすよ!」
 足掻きも虚しく、加速したシャルルのドラゴニックハンマーが、足止めの付与されたビルシャナを容赦なく穿つ。
「後は任せたのじゃ! 風の竜セルピヌスよ、降臨し給え。我は求める、貴方の祝福を……!」
 ヴィクトリカが、カードを掲げる。その瞬間、古の契約に基づき、「風の竜」が降臨し、戦場を聖なる風が満たした。瞬く間に、アイビスの火傷の痕が消えていく。
「今度は、捉えたわよ?」
 今のビルシャナなら、碧のKami-Tamisu:Igarimaが、その首筋を捉えるのも容易い! 死の一閃は、目にも留まらずビルシャナの首に襲いかかり、永遠の断絶を与えたのであった。

「目が覚めたみたいですね!」
「大丈夫です?」
 倒れ伏したビルシャナが再び光に包まれ、その中から少年の身体が現れた。介抱していた灯里が仲間に伝えると、真理が心配そうに声をかける。
「まるで、夢でも見ていたみたいだ」
 少年は呆然と、だが意識はハッキリとしているようだ。
「怪我はしておらぬか? これを使うがよい」
 ヴィクトリカは、懐から取り出したハンカチを少年に。幸い、軽傷で済んだようだ。
「ウチだって、もう少ししたら……」
 形兎は、少年がとった酷すぎるリアクションを忘れていないと伝えるため、軽く少年を睨みながらヒールで治療する。
「良かったわ。これで、お疲れ様って何の気兼ねなく言えるわね!」
 碧が、ホッと安堵。振り返って、皆と労いの言葉を掛け合った。
「今はまだ焦らんで。好きな子出来よったら何が何でもそいつの匂い嗅ぐ為に、相応の男目指しゃええわい」
「うっ」
 顔を赤くする少年。第三者のアイビスに自身の欲望を言葉にされると、さすがに恥ずかしいようだ。
「まっ、男同士、理解できる部分もあるから、恥ずかしがんなよ。俺みたいに、彼女作るの頑張れ」
 ――今年はバレンタインチョコ貰えるかなー? 少年に聞こえるよう、そう惚気てみせる雅也。
(こうして改めて皆を眺めてると、やっぱ綺麗だなーなんて思うぜ)
 抱きしめた時の少年の反応も、自分相手の時とは少し違った……そうシャルルは今更のように思う。それがなんというか……悔しいとも屈辱とも違って……。
「灯里さん」
「どうしたんでしょう?」
 灯里が、シャルルと目を合わせるためしゃがむ。その際に香るのは、女の子らしい甘い香り。
「オイラが女らしくなるには、どうすればいいっすかね?」
 問われた灯里はポカンとして、すぐに頬笑んだ。
「今のシークさんのように、『女の子』であることを意識すれば、いくらでも」
 いまいち、シャルルにはピンと来ないが……。
「いい匂い好きならあげる!」
 形兎が少年にポプリを投げつける姿と、少年がさりげなくハンカチをポケットに仕舞う瞬間を目撃したヴィクトリカが、ハッとするのを眺めながら、「まぁいっか」……そうシャルルは思い直すのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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