グラナートロート・ギフト

作者:黒塚婁

●毒香
 早朝の植物園――身を切るような寒さの中、園芸師がひとり、植物の様子を見ていた。
 作業に追われた彼の前に、突如として少女が現れる。
「お客さん、どこから入ってきたんだい。開園はまだ――」
 驚きつつも不法侵入を咎めようとした園芸師に向かって、三つ編みを揺らし近づいた少女は、屈託の無い笑顔を浮かべている。彼女は、花粉のようなものを花へと振りかける。
 園芸師は更に怒りの声をあげようとした。だが、それは叶わない。
 血のような赤い蔦が覆い被さるように、彼を一呑みにしたからだ。蔦はそのまま瘤のように膨れあがり、その頂点に美しい白い花を咲かせる。
 周囲に甘い香りが漂う――それは触れるだけで爛れる毒の放散。
「立派な攻性植物になりました♪」
 同胞の誕生、その光景を心底嬉しそうに見つめ、少女――鬼胡桃の姫ちゃんと呼ばれる攻性植物は、にへら、と笑んだのだった。

●毒を食らわば
「アカネグサをご存じですか? 美しい白い花を咲かせるけれど、その根には毒があるんです」
 白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)が皆へ問いかける。
 茜、という色があるように――正確には茜とアカネグサは違う植物だが――その赤い根は染料にもなるが、劇薬としても使われていた。
 つまり、それがどういうことかといえば。
「そんなものが攻性植物となれば、さぞ迷惑だろう……ということが現実となったわけだ」
 雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)が告げる。
 とある植物園に、植物を攻性植物に作り替える謎の胞子をばらまく人型の攻性植物が現れた。
 人型の攻性植物は撤退し手を出せぬが――胞子によって生み出された攻性植物を倒してもらいたい、というのが今回の用件だ。
 しかし、この攻性植物には園芸師が宿主として取り込まれ、一体化している。ゆえに、そのまま普通に攻撃して倒すと、宿主も共に死んでしまうのだ。
「救出の手立てはある。ヒールで相手の傷を癒やしつつ戦うことだ」
 事も無げに辰砂は言う。
 無論、相手の傷はつけた傍から無効化することになるが――ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積する。
 攻性植物はアカネグサから生まれたので、それによく似ている。ただその姿形は三メートルほどに巨大化し、茎は無数の蔦で膨れあがったような奇妙な姿をしている。
 この膨らみは取り込まれた園芸師が閉じ込められている部分だろう。ここを狙ったところで、中から彼を引き摺り出すことはできないが、ひとつ心にとめておくといいだろう。
 それは単純に毒を撒き散らす攻撃も持っているが、蔦や根にもすべて毒を持つ。
「また事件発生時、周囲に人はいない。戦いだけに集中できるだろう……実際、注意深さを要求される、長い戦いになるだろう」
 辰砂は淡淡と説明を終えると、
「触れなば爛れる、糜爛の毒――もっとも、根を斬られれば、それも腐り落ちるのですが」
 強く輝く柘榴石の瞳は畏れを知らぬよう。佐楡葉は美しく微笑んだ。


参加者
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)

■リプレイ

●赤と白
 ぴりっと身が締まるような寒さの中、ケルベロス達は植物園を駆ける。
(「きっと丁寧に手が入れられてる植物園……どうせならゆっくり楽しみたかった」)
 脇目もふらず現場を目指しながら――アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は金色の目を細める。
「その為にも、まずは救出」
 目的を、為すべき事を。確かめるように声に乗せる。
「鬼胡桃の姫……対応は後手に回ってしまっていますが、今は被害を少しでも減らさねばなりませんね」
 憂いの吐息をひとつ零し、アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)は前を見据える。
 彼女の傍には真っ白なボクスドラゴン――シグフレドが、赤いリボンを揺らし追う。
「植物を攻性植物へ作り変えるなんて全然自然じゃないです。正に自然を破壊する行為ですよね」
 憤然とそう告げるは土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)だ。
「そして自然の存在である人間を歪めた植物に取り込ませることが自然に還ることだなんて、思い上がりも甚だしいです」
 彼の言葉に、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)は頷き、
「被害者の方も無事救出できるよう、自分も全力を尽くします……!」
 盾役の頑張りどころですね、と気合いを入れるのだが、気弱そうに下がった眉が、どこか心許ない印象を与える。
 ふと、メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)が顔をあげ、一瞬、鼻に皺を寄せる。
 否、彼だけではない――独特な甘い香り、何かが擦れ合い軋む音を捉え、ケルベロス達は足を速める。
 視界に飛び込んで来たのは、周囲の草木を踏み荒らす赤い根。意志を持ってうねる、無数の蔦と根が一続きになったようなそれ。
 膨らんだ蔦の集合部分が重いのだろう。巧く身体を動かせず、根が暴れ回っている。
 ケルベロス達を包むほど立ちこめた甘い芳香を、エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)は敢えて吸い込んでみるが、今は痛みを伴うことはないが――。
「被害者も毒にあてられちゃいないか心配になるねぇ」
 瘤を心配そうに見つめ、案じる。園芸師の姿は見えず、直接様子を測りながら戦うことはできなさそうだ。
 頂点に咲く花は汚れない純白。一重咲きの美しい花は人の顔ほどの大きさをしているため、ひっそりと咲く小さな花の風情こそないが。
「やれ、土の上に見える花はこの様に綺麗なのに。根の茜の、まあ毒々しい事よな」
 ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)は愉しげに、唇に笑みを刻む。
「甘美な香りに負けて触れれば爛れて腐るか、えげつない事」
 それでも手を伸ばしたくなるのは否定をせんがね――そっと、囁く。
 花の持つ香りというものは、大抵の生物にとって甘美なるもの。実際、毒があると知らねば――少々強すぎるきらいはあるが、この香りを好むものもあろう。
 然れど、流石にこの植物はそんな生やさしいものではないと一目でわかる。
「随分と禍々しい姿ですね。美しい姿に毒を孕むから情緒があるのであって、こんな怪物が毒を宿しても不思議でもなんでもありませんね」
 肩に掛かった惣闇の髪を軽く払い、白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)が毒づく。
 彼女の皮肉に反応したわけではなかろうが――ケルベロス達の存在を認識した攻性植物は、ケルベロスたちの出方を窺うように赤い蔦を伸ばしてきた。
 ふん、メィメは鼻を鳴らし――独特の掠れた声で告げる。
「範疇を越える美しさってのはあっても面倒ごとにしかならねえもんだ。根ごと切り取らせてもらうぜ」
 ええ、その通りです。佐楡葉は首肯する。
「――では、剪定の時間です」
 宣言すると、杖をかざし――雷を喚んだ。

●毒香
「命を奪う事を強要されるなんてお可哀想に……貴方は犠牲者です」
 倒すことでお救いします――蠢く蔦、その姿に憐れみを覚えつつ、岳は小さく頭を振り、
「すぐお助けします! 今少しご辛抱を!」
 小ぶりな槌をかざし雷の壁を重ねながら、今度は囚われの園芸師に――その姿が見えなくとも――声を掛ける。
 淡く発光する壁の向こう、アリシスフェイルが滔々と唱う。
「……壊れた夢の痕で侵せ――柩の青痕」
 詠唱の果て、彼女が片手を軽く一振りすると、青と灰の光が絡み合う棘の槍が放たれる――それが赤い根を穿てば、そこから魔力の棘が茨の如く根を張る。
 園芸師が閉じ込められている場所を避けたため、末端を狙うことになったが、相手の動きを縫い止めるならば、いっそ道理。
 攻撃に反応して暴れる根を、ネロの藍色の視線が射貫く。
「ブラッド・ルート、触れれば腐る劇毒の根、か」
 名の通りに血を吸わせる訳にはいかんなあ、どこか他人事のような囁きと共に放った足技は閃光の如く。的確に、根の根本を断った。
「白い花は白く美しい儘で在り給えよ」
 断たれた根から、どろりと赤い液体が零れる。まるで血液のように不吉な朱――噎せるほど甘く香るそれが毒を持つ事知りながら、ユウマは臆さず踏み込んだ。
「その方はあなたの宿主ではありません……返してもらいますよ」
 気弱そうな気配は今は無く――冷静に言い放つと、網状の霊力を放射する。
 合わせ、跳躍ひとつでそれの真上まで至ったメィメが、流星の輝きを纏い、錐揉みに落ちる。縦と横、立体的に仕掛けられたケルベロスの攻撃を、それは回避できず、ただ受け止める。
 見た目通り――この攻性植物はあまり素早く行動できぬようだ。彼らの狙いもほぼ的確で、手応えもある。
 だが、厄介な事に、それでは少々困るのだ。
「やるなぁ――いや、少しやりすぎかねぇ?」
 攻性植物の様子を確かめ、エリオットが地獄の炎を足へと集中させる。
「白炎の地獄鳥よ、蝕む害を吸い取り癒せ」
 地面をひと蹴り、白色の炎が鳥の形になって羽ばたく。大きく円を描いて滑空した鳥が、攻性植物へ向かう。
 それは相手を燃すための技にあらず――瞬く間に、断たれた根が再生する。
 もっとも、形だけは元に戻ったが、だらりと動かぬ状態のまま。庇うように、別の蔦が躍動する。
「どうか意志を強く。きっと私共が助けます。今はどうか、お忍びください……」
 アリシアが呼びかけつつ、オウガ粒子で仲間の覚醒を促す。シグフレドはユウマの元へと駆け、属性を注入する。
 その時、攻性植物が大きく身震いした――エリオットが警告を放つよりも早く、ケルベロスを包み込む、毒の芳香。
 胸が焼けるように甘いそれは、何かを誘き寄せるためのものではなく、ただただ毒が強く滲み出た――そういう類いに感じられた。
 雷の壁が遮ることで、痛みは随分和らいでいたものの、
「気を抜けば悩乱させられそうな芳香ですね。確かに胸腔から焦がされそう――ですが、こちとらそれで眩めく手弱女でもありませんもので」
 そちらの根が枯れて凋むまで付き合ってやりますからね、零しつつ、佐楡葉は魔力をもって攻性植物の傷口を癒やす。倒すために相手を治療する、相反する状態に、皮肉げな微笑を湛え。
 ――触れるだけで爛れるのに甘い香りだなんて。
「……まるで力をちらつかせて手招きする、戦う力そのものみたい」
 眉を寄せつつ、アリシスフェイルが零す。
(「罠だったとて、戦う為の力が欲しい以上、私は飛び込むしかないけれど」)
 次の一手を放つため、対の刀を構えて、地を蹴った。

●残香
 間合いへ踏み込むケルベロス達を厭うように赤い蔦が踊り狂う。しなり、風を斬り裂く唸りをあげる蔦の前へ、エリオットが飛び込む。
 蔦に叩きつけられても、エリオットは姿の見えぬ捕らわれた園芸師へ声を掛け、笑みを浮かべる。
「ちょいと待ってな? 必ず助けるからよ」
 身を起こしつつ、ぎくりとするような痛みが後から追いかける。背を強か打った直接の痛みよりも、残った毒が焼けるような痛みを持っていた。
 匂いは甘いが被害は甘くねぇか、軽口を叩きながら、仲間を庇うべく立ち塞がる。
「シグ、シャルトリュー様と玄梛様に、守りを重ねてください」
 すかさず、アリシアが破壊のルーンを彼へと向け、同時にシグフレドへ指示を出す。
 響くは古代語の詠唱――アリシスフェイルが攻性植物へと向けた指先から、石化の光が放たれる。ほうほうへと伸びた蔦が硬直し、動きが止まる。それらの中央を、橙色の布が駆け抜ける。
「植物にも欲望はあるのか、それとも、植え付けられた因子のせいなのか」
 いずれにせよ――メィメは橙の瞳を細める。
「あんたの飼い主を苗床にするってんなら強欲ってもんだ」
 加速を乗せた電光石火の蹴撃は鋭く、石化した赤根を粉砕した。鉄塊剣を横薙ぎに、ユウマが起こした旋風が迫り来る蔦を斬り裂く。
 裂いたと思えば、傷口から甘い液を零す根を、佐楡葉が縫い閉じる。
 少しずつ、少しずつ――動く蔦の数は少なくなっていき、根の勢いも徐々に衰える。
 注意深くケルベロス達は敵の状態を探りながら、攻撃と治療を調整していく。
 ――幾度目かの芳香が拡散される。ここに至ると嗅覚は鈍りつつあった。単に慣れたのか、加護がその苦痛を防御してくれて鈍いのか、知覚すべき器官が既に毒で灼かれてしまったのか。
 身で感じる攻撃的な甘い香りを振り払うように、
「……ネロには結構だ」
 拒絶し、彼女は跳躍する。宵色の尾の反動すら優雅に、ルーンアックスを振り下ろす。
 ぶつりと断たれた根を、今度は岳が治療する。
 彼の鮮やかな手技による治療で、活性化したのか、赤い蔦が一気に伸び上がる。包み込んでくるような物量の前、鉄塊剣を盾に、ユウマは立ち塞がる。
 その腕に、足に、蔦がきつく巻き、そこが燃えるように傷もうと彼は怯まない。右目で相手を強く見つめながら、
「簡単に倒れるわけにはいきません!」
 グラビティを練り上げ、不可視の強固な防御膜を纏い、ぐっと堪え、踏みとどまる。
「錫から天石に至り、その身、心を束縛せよ……!」
 彼を縛る蔦の元へ、アリシスフェイルが棘の槍を放つ。
 更に、槍を構えて地を蹴ったエリオットが、縫い止められた蔦へ、雷纏う一閃を重ねた。
「あと少し、このままいけるな?」
「はい……!」
 解放されたユウマは彼の問いかけに力強く頷き、すぐに距離を詰めて、次の攻撃へ備える。あと少し――アリシスフェイルもこくりと皆へ頷いてみせる。
 攻性植物の姿は、無数もっていた蔦の殆どを失い、根も短くなっていた。動きも鈍くなり、攻撃も弱々しい。
 だが、大方の体力を削り取った、ここからが正念場とも言える。
 戦場に、美しい歌声が響き渡る――。
「我が旋律よ、浸透せよ。我は戦いを否定し、理を流す者なり」
 不戦の歌は高らかに、瑞々しく紡がれた。
 眩く輝くような白い翼を広げたアリシアは唄に没入したように、どこか浮き世離れした気配を纏っていた。
 彼女の唄が――『それ』の世界でひどく歪み、強く反響する。
 乱痴気騒ぎの夢、さてこの毒の根を持つ花はいったいどんな幸福を描き、失われる絶望を覚えたのだろうか。
 言葉をもたぬ攻性植物が何を見たのか、誰にも――仕掛けたメィメにすら知覚できぬことだ。
「良い夢だったろ、覚めれば終わる。」
 彼は唯、残酷な終わりを宣告することだけ。
 どことなく色あせ、少し萎んだような植物へ、岳は声をかける。
「いつも世話をして下さった園芸師さんとの絆をどうか思い出して下さい! 胞子の力に負けないで!」
 自分を大切に育ててくれた人のことを思い出せ、と。
「モグラさん、行きますよ! ジュエルモール、ドライブ!」
 ファミリアロッドのモグラをカードに変じる。
 青の柘榴石――友愛・勝利の願いを込めて、岳はカードリーダーにセットする。
(「倒す事でしかお救いできす御免なさい……」)
 宝石モグラの力を降魔し、大地の力を籠めた一撃。高重力の一撃は、柔らかくなった大地を割って、攻性植物の根を穿つ。
 そのまま、仰向けに倒れていくのを、短くなった根で堪える。園芸師を孕んだ部分が重く、バランスが巧く取れない。
 藻掻くそれへと、杖に絡みつくように奔る雷が、解放されて宙を駆ける。
 赤い根にぴしゃりと落ちる稲光が、繋がりを断ち、焼き尽くしていく。
 あちらこちらに広がった根が焦げて、薫香が強くなる――噎せるほど。その中心で、雷を振るった佐楡葉は、柘榴石の眸を悪戯っぽく細めた。
「根切りという奴です。文字通りのね」
 ――これぞ毒を以て毒を制す、というものか。
 笑みを含む繰り言をひとつ、夜の娘は呪を一つ諳んじる。
「此岸に憾みし山羊に一夜の添い臥しを、彼岸に航りし仔羊に永久の朝を、」
 ぐしゃり、と。不意に巨大な手に摘み取られたように、それの姿が歪む。
 魔女の魔法に捕らえられたならば、逃れる術はない――ぎりぎりと抵抗するも無意味。儘、内側から捩じ切られる。
 赤い飛沫と、白い花弁が散り散りに舞う。尊き贄に手向けるには少々グロテスクな造形ではあろうが。ネロは最後の瞬間まで、それを見送る。
「――糜爛の花よ、白く清い儘で潰えるが宜しい」
 風に残る甘い香りが未練のようにケルベロス達を包んだが――幻のように、すぐに消えさった。

●巡る命
「毒がある、など。分かっていれば他愛もないものです」
 自信に満ちた笑みを湛え、佐楡葉はそれへと言葉を投げた。根も枯れ、花も散り、残るは蔦が絡まったような塊。
 そこへ、アリシスフェイルは毒も臆さず手を突っ込んだ。極力素手で剥がしていく。手が朱で染まるが、毒で爛れた様子は無い。
 彼女の真剣な面差しが、少し緩み、安堵の色が滲む――それを見て、ケルベロス達も胸をなで下ろす。
「すぐに治療いたしましょう」
 シーくんも、と呼びかけて、アリシアが駆けつける。
 治療の様子を見守りながら、そういえば――ユウマは思い出したように顔をあげる。
「自分はあまり花に詳しくないですが、花ではなく根に毒があるのは何だか不思議ですね……なにか理由があるんでしょうか?」
 ほんの一瞬の沈黙に、ふと思ったものですから、と困ったように笑う彼の表情は、戦闘中とは異なり、やはり気弱そうな印象を与える。
 そうですね――岳が灰色の瞳で周囲の植物を見つめつつ、
「植物の根を掘り起こすような動物への備えではないでしょうか……種を護るための」
 植物に欲があり――それが美しい花を咲かせ、新たな芽を芽吹くことならば。
 多少の毒も可愛いものだ、メィメは嘯く。
 そう、毒を持つ事そのものに罪はないのだ。岳は純粋な笑みを浮かべる。
「命は巡り巡ります。きっと是からも貴方の子孫や仲間達が美しく咲き誇り素敵な香りで植物園を満たして下さるでしょう」
「……今度は甘い実を伴ったものであれば、なお好いな」
 ネロがぽつりと零した言葉に、エリオットが違いないねぇ、と笑う。
 園芸師の目覚めの兆しに、穏やかな笑みを向け、アリシスフェイルはそっと願う。
「また植物園を大切に見て貰えたら嬉しいのだわ」

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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