ミッション破壊作戦～冥府の海の神々

■リプレイ

●現地に向かうヘリオン内で
　ヘリオンは攻略対象のミッションがある地を目指し、空を行く。
　到着するまでの間、メンバーは銘々の時を過ごす。
「高知県足摺岬……。足摺半島南東端に位置し、黒潮の打ち寄せる断崖は約８０ｍの高さになるとか」
　準備を進めるブロンド忍者、カテリーナ・ニクソン（忍んでない暴風忍者・e37272）の調べによれば、周囲はツバキ・ウバメガシ・ビロウ等の亜熱帯植物が密生し、沖合はカツオの好漁場でもあるとのこと。
　一方で、ここは台風銀座として知られ、暴風に見舞われることも多い。
「かのジョン万次郎の銅像も建ってるそうでござる故、解放したらツーショット写真が撮れるでござる」
　銀の髪を頭の再度で止めたノーヴェ・アリキーノ（トリックスター・e32662）は、現地の航空写真や地図でしっかりと周辺の地理を把握しようと努める。
「ミッション破壊作戦に参加し始めて、１年が過ぎた」
　地球人の青年、村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）は、冷静にこの状況を考える。
　今回は死神の支配地域だが、他のデウスエクス勢力が支配している箇所を含めれば、自分達の助けが必要な場所はたくさんあると改めて実感して。
「……立ち止まっちゃいられないな」
　それに、メンバー達は同意する。
「助けられる命は、助けたい、です」
　白衣の上に男ものの黒ジャケットを着用するシェスティン・オーストレーム（無窮のアスクレピオス・e02527）もそこに助けられる人がいるならばと、意気込みを見せていた。
　そのシェスティンを、同じ師団の比良坂・陸也（化け狸・e28489）や北條・計都（凶兆の鋼鴉・e28570）が見つめる。
　シェスティンが前に出ると重傷を負い、場合によっては暴走すらするジンクスがある。計都はとりわけ彼女の挙動に警戒していたようだ。
　猫の人型ウェアライダー朱藤・環（飼い猫の爪・e22414）もまた、暴走経験のあるシェスティンや、全身を地獄化させ、危うげな雰囲気すら漂わせるユグゴト・ツァン（不変の怪・e23397）を気にかける。
　さらに、環は友達の彼氏である陸也の姿を見て。
（「何とか無事に、生還させてあげたいです……」）
　小さく拳を握る環は、現場到着のアナウンスを耳にするのだった。

●想いを力に……！
　ヘリオンから降下したメンバー達は、真下にある足摺岬を見下ろす。
　先んじて飛び降りたシェスティンが岬にある魔空回廊を見つけ、グラディウスを構える。
「私は……！　人の死を弄ぶ、あなたたちを、見過ごすわけには、いきません……！」
　風に大きく揺らぐぶかぶかのジャケット。だが、その信念は少しも揺らがない。
「あなたたちは、人が死ぬ以上の、悲しみを生んでしまう人達、だから……！　足摺岬を、返してください……！」
　彼女の突き出す刃が触れたバリアは、弾けるように霧散していく。
　続いて、カテリーナと計都がその場へと飛び込む。
「弘法大師に縁ある景勝。高知県足摺岬を、今こそ取り戻す時！」
　カテリーナはウェーブヘアを靡かせ、テンション高く叫ぶ。
　――死者には安寧を。生者には明日を。これ以上、この地を死神どもの橋頭堡にはさせない。
「さあ、死神どもを地獄に追い返して、ジョン万次郎とツーショット＆握手！」
　勢いで動いているように見えて、計算高い彼女は魔空回廊を捉えてグラディウスの刃を握りしめる。
　その傍には、計都の姿があった。
「この土地は、お前が居ていい場所じゃないんだ！」
　――吹き荒れる嵐の厳しさも、黒潮の豊かな恵みも。この地に生きる人たちのもの。
「同族の命すら弄ぶような輩には、ご退場願おうか！」
　計都もまた、グラディウスを真下へと突き出す。
「いけるか？　グラディウス！　死神は崖っぷちから……逆落としー！」
「南無大師遍照金剛！　今こそ、この土地を取り戻すための力を！」
　２つの刃が突き刺さる魔空回廊から、激しい雷光が発せられる。
　この地に救うデウスエクス達のどよめく声が聞こえるが、ケルベロスの襲撃はなおも続く。
　今度は、陸也、柚月がグラディウスへと自らの想いを込めていく。
「この拠点潰して、そのまま手前ぇを此処で始末すっぜ」
　陸也にとって、その理由は３つあるという。
　１つ目は、この地の死神のような戦力召喚型がいきなり人口密集地に現れると厄介だから。
　２つ目は、環境地兼漁業に居座られると迷惑だから。
　そして３つ目は、大切な人とそのうち旅行に来ようと思っていたとのこと。
「つーわけで、理由纏めて叩きつけてやっぜ！」
　グラディウスを光らせる陸也の傍で、柚月も言葉を紡ぐ。
「ここは、お前が足を踏み入れていい場所じゃない」
　灯台は人にとって海の道しるべとなり、周囲には国立公園に指定される雄大な自然。全て護るべき価値があるものだと、彼は考える。
「デウスエクスに、蹂躙させてたまるかよ」
　そして、この断崖。この地は、命の大切さを考えされられる。柚月は光る刃を大きく振るって。
「そこに命を愚弄する者がいるなんてのは、一番許しちゃいけねぇことだろうが！」
「カミサマカミサマオイノリモウシアゲマス――オレラノメセンマデオリテクレ」
　陸也も儀式魔法の詠唱で破壊力を高めようとしながらも、グラディウスの刃で強く魔空回廊を切り裂く。
　２つの斬撃によって、今度は濃いスモークが周囲に噴き出す。辺りに立ち込める煙は、この場のデウスエクスを混乱させているはずだ。
　さらに、ユグゴト、ノーヴェ、環が迫る。
「召喚する悪夢は寝床に帰還すべき。死を弄ぶ不死の餓鬼にお仕置きを」
　歪な輪郭、渦巻く頭部。全身を地獄で燃え上がらせるユグゴトは、なおも語りかける。
「母なる私が貴様等を抱擁し、永劫たる愛で圧し潰す。我が胎内の地獄が、神を殺したのだ」
「デウスエクスを大量に召喚できるなんて、厄介な相手だね」
　こちらは、余裕のある態度のままで降下するノーヴェ。
「キミ達が増えれば、その分だけ悲しむ人が増える。だから、この舞台からはさっさと退場してもらうよ」
　手にするノーヴェの刃が強く輝き始める。
「死んだ相手呼び出して生きている人の場所を奪おうなんて、冒涜的にもほどがあります！」
　環もまた、グラディウスを強く握りしめる。
　彼女の祖母が言うには、死んだ人は星になるらしい。
　デウスエクスも同じとは思わないが、死んだらあるべき場所に還るのは同じだと環は考える。
「召喚門だとかゲートだとか、全部この手で壊す！」
　３人の刃が一斉に、魔空回廊を襲う。
「残った輝きは青き球体。即ち、地球の繁栄だと知るが好い！」
「地球に希望を！　デウスエクスに絶望を！　さぁ、楽しいケルベロスパーティの始まりだよ！」
「この爆炎がお焚き上げがわりです！」
　一際大きな爆発が巻き起こる。雷光と煙も激しさを増す。
　岬の上に降り立つメンバー達は、強襲型魔空回廊の様子を注視する。
　…………。
　…………。
　確かに傷つきはしているが、魔空回廊が動きを止める様子はない。
「すべきことは果たした。離脱しよう」
　今回の破壊はかなわなかった。柚月はすぐに割り切り、グラディウスをしっかりと手にしたまま仲間と合流していく。
　やってきた環も、しっかりグラディウスを自らで保管している。
　集まる一行はカテリーナの調べた撤収ルートを確認し、速やかにこの場からの離脱を図っていくが、シュスティンが煙の中に視線を走らせて。
　その中からゆっくり歩いてきたのは、死せるデウスエクスを引き連れた死神、デスサモナーだ。
「逃がすものか……」
　低い声でケルベロスに声をかけたそいつへと、陸也は腰に下げた照明を向けて。
「こいつの能力厄介なんだよ」
　本のような形状をした『召喚門』を持つ敵がなぜ、堂々と攻め込んできたのかは分からない。
　だが、所在がはっきりしているうちに始末しべき相手なのは、間違いない。
「場所によっては大惨事だからな。ここで終わらせっぜ」
　どのみち、こいつを倒さねば、この場からの脱出も難しい。
　メンバー達はそれぞれの武器に持ち替え、表情を変えずに構えるデスサモナーと対するのである。

●死の召喚士
「さあ、我が元にきたれ……」
　デスサモナーが本の形状をしたものを出現させる中、カテリーナが敵を捕捉して。
「おおっと！　動いたら、お主の秘密の……」
　カテリーナは相手からなにやらリストらしきものを盗み出す。
「これは、呼び出し予定リスト？」
　相手の嗜好などに関わるものを取り出し、精神的に攻め立てるのが彼女オリジナルのグラビティだ。
「ゆけ」
　だが、敵はそれがどうしたと言わんばかりに、召喚門をゆっくりと開いていく。
　そこから異形の獣が姿を現し、鋭い爪を振り上げてくる。
「皆で……、帰るんです！」
　荒ぶる猛獣を抑えるべく、環が手前に出た。
　身を切り裂くほどの一撃を浴びながらも、耐え切った彼女は凍気を纏わせた杭（パイル）を敵の身体へと打ち込んでいく。
「我等の脳髄は蜘蛛の糸。糸は意識を他に伝え、偉大なる想像『ヴィジョン』を此処に現す」
　一方で、隣のユグゴトは暴走する己の過去を想起し、それを相手に魅せつける。
　精神すらも侵す『想像』を見せ付けられ、デスサモナーはユグゴトに意識を向けた。
　彼女が次なる攻撃を受ける前に、ノーヴェはカードを媒体に現した御業の鎧でその身体を包み込んでいたようである。
　同時に、他のメンバー達が隙と見て仕掛けていく。
「カミサマカミサマオイノリモウシアゲマス　オレラノメセンマデオリテクレ」
　先ほどと同じ祈りの言葉を紡ぐ陸也は霧を発し、死神の権能を奪わんとする。
　そして、計都は相手の頭上を強襲し、重力を宿す一蹴を見舞った。
「俺たちには帰る場所があるんだ。通らせてもらうぞ」
　正面からは柚月が肉薄しており、煌かした日本刀を一閃させる。
「あまり、時間は、かけていられない、です……！　だから、ごめんなさい！」
　敵に休む暇は与えず、シェスティンもまた敵の手前へと躍り込み、攻性植物「Oert」を蔓触手形態へと変形させ、死神の体に巻きついてきつく締め上げていく。
　圧倒しているようにも見える戦況だが、死神の目から光は消えていない。
　そいつは拳に死せる魂を集め、ケルベロス達へと殴りかかってきたのだった。

　死せる者を召喚し、行使する死神、デスサモナー。
「誰も……倒れさせはしません……！」
　集めた魂を拳に纏わせたそいつの一撃を、環は受け止める。
　体力が減った彼女は、自分だけのグラビティを用意するのを忘れて歯噛みしながらも、満月にも似たエネルギー光球で自身の傷を癒す。
　庇われる形となったユグゴトは子供にも思える仲間の姿に愛しさを抱きながらも、その分の怒りを死神に向けて。
「母の所業を再開すべき。死を冒涜する輩に生の悦び在れ」
　猛然と、ユグゴトは『立ち去れ』と書かれた鉄塊剣をデスサモナーへと叩きつけて行く。
　さらに、陸也が符を投げ飛ばす。氷の騎兵の姿をとった式に、彼は特攻するよう命じて。
「――急急如律令」
　締めくくりの言葉まで聞いた氷の騎兵は槍を振りかざし、死神へと特攻した。命中した瞬間に騎兵の姿は砕氷の煌きに変わり、死神の体を僅かに凍らせる。
　こちらも炎を纏って特攻を仕掛けるライドキャリバー、こがらす丸。
　相棒の活躍に目を細めた計都は時折、シェスティンに視線を向けながらも、バスターライフルに弾丸を込めて。
「１発なら躱される弾丸でも、６発同時なら！」
　彼は篭めた弾丸を一斉に発射し、死神の体６箇所を撃ち抜いた。
「…………」
　敵とて、実力者だ。多少身体が痛むところで表情すら変えず、魔法陣を描くことで自らの傷を塞ぎつつ、その力を高める。
「ならば、攻撃の手を鈍らせるでござるよ！」
　カテリーナは螺旋の手裏剣を飛ばし、敵の拳や召喚門を切り裂いていく。
　それでも、死神の猛攻は止まらない。
「ゆけ」
　けしかけてくる異界の猛獣。
　鋭い爪で切り裂かれる仲間……主にユグゴトへ、ノーヴェはカードを媒体にして黒き鎖を伸ばし、または御業を呼び出して仲間を癒す。
「もう一息だ！　押し切れ！」
　相手の傷を見て仲間へと呼びかける。柚月は握るチェーンソー剣を唸らせて。
「八つ裂きにしてやろうか」
　仲間達の与えた傷一つを見定め、その傷に重なるように斬撃を浴びせて傷を引き広げていく。
「Argo、行きましょう……！　ゴスペル・オーバーロード、承認します！」
　蜂型、蟻型ドローンとオウガメタルを合体させ、機巧騎士「Argo」を呼び出して。
「……『Standby ready』」
　遠隔操作で動くArgoはデスサモナーの体を蹂躙していく。
　２歩、３歩と後退した死神は腕を押さえて。
「……これで、終わったと思うな」
　そのまま、煙の中へと姿を消していった。
　そこでエネルギーが切れたのか、糸が切れたようにシェスティンが倒れこむ。
　だが、ぼんやりとしているものの、彼女は意識をしっかり持っている。
　シェスティンの羽織っていた黒ジャケットは、どうやら直接自身の手で持ち主へと返せそうだった。

●ミッション地域からの離脱を
　死神デスサモナーは撃破したものの、そいつがサルベージしたデウスエクス達はスモークの中から、こちらを探っているはずだ。
「増援が来ないうちに、速やかに脱出しましょう」
　かなり体力が危ない者はいたが、計都は皆がグラビティを所持していることを確認し、この場からの退避を皆に促す。
　頷く陸也、環。彼らは予めノーヴェが調べてくれていた経路を手早く確認した。
　そばでは、カテリーナがアイズフォンを使い、近場でミッション攻略中のケルベロスへと援護を要請する。
「皆で帰るぞ」
　柚月が仲間達へと呼びかける。
　倒れさせも、まして暴走でこの場に残させはしない。彼は倒れそうな仲間に肩を貸し、足早に離脱していった。

　数刻後、他のチームと合流し、メンバーは一息つく。
　全員の無事を確認したユグゴトは安楽椅子に腰を下ろしつつ、安堵の息を漏らしたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年1月19日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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