想い出に咲く

作者:崎田航輝

 パンジーの花畑は、いつだって嘘みたいに綺麗だ。
 そこは山奥に広がる花の空間。
 いつ誰が植えたかはわからない。だが一面にパンジーが広がっていて、鮮やかな黄色に赤色、白や紫など、色とりどりの花弁の絨毯に満たされている場所だった。
「武くん……いないかな」
 と、そこに、その少年は登ってきていた。
 幼さの残る、あどけない顔で見回しながら、花畑の中を歩いている。
「初めてきたとき、絵本とか、ゲームの中みたいって言ってたっけ」
 呟くのは思い出の話。初めて出来た親友と一緒に探検して、ここを見つけたときのことだ。
「もう何回、きたんだろう。……武くんはもう、こないのかな」
 立ち止まって、少年はうつむいた。
 母には、武君とはもう会えないのよと言われた。交通事故で遠くに行ってしまったんだ、と。
 でも、ここでいつも一緒に遊んでいたのだ。だから、ここなら会えてもおかしくない。
「遠くにいるなら……会えないわけじゃない、よね。いつかは……、ここに……」
 少年はうつむく。何故だか涙が出そうになって、自分に嘘をつくようにそれを拭った。
 それから楽しいことだけを考えて、花を眺めることに集中する。
 だが、その時だった。
 パンジーの一片が不意に動き出し、不気味に蠢いた。
 空から降ってきた花粉のようなものを受け入れて、突如巨大化していたのだ。
「わ……!」
 少年が驚く頃には、それは這いずるように近づいて、すぐに少年を取り込んでしまう。
 少年は最初、苦悶を浮かべていた。だがその内に、綺麗な花の中で、意識を明滅とさせて目を閉じてゆく。

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロスたちに説明を始めていた。
「今回は、攻性植物の出現があったことを伝えさせていただきますね。山中にて、ある胞子を受け入れたらしい花が、攻性植物に変化し……一般人の少年に寄生してしまうという事件です」
 放置しておけば、少年は助からないだろう。
 だけでなく、攻性植物として人の多い場所へ出れば、多数の犠牲が出る可能性もある。
「それを防ぐために、この攻性植物の撃破をお願い致します」

 それでは詳細の説明を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、人間に寄生した攻性植物が1体。場所は山中となります」
 植生の豊かな場所であり、平素から人通りはない。戦闘中も人が介入してくる心配はないので、避難誘導などを行う必要はないだろうと言った。
「戦闘に集中できる環境と言えるかもしれません。ただ……」
 と、イマジネイターは忠告を付け加える。
「今回の敵は、一般人の少年に寄生し、一体化している状態となります。普通に倒すだけでは、この少年も死んでしまうことでしょう」
 これを避けるためには、ヒールを併用した作戦が必要だという。
「相手にヒールをかけながら戦い、少しずつ深い傷だけを蓄積させていくのです」
 粘り強くこの作戦を続け、ヒール不可能なダメージで倒す。これによって、攻性植物だけを倒して少年を救うことが出来る可能性があるのだという。
「ただ、敵を回復しながらとなると、戦闘の難易度は上がります。救出をするならば、しっかりと戦法を練って臨む必要はあるかもしれません」
 では、敵の能力の説明を、と続ける。
「攻性植物は、蔓触手による近単捕縛攻撃、食虫植物のように変化して襲う近単毒攻撃、大地と融合する埋葬形態による遠列催眠攻撃の3つを行使してきます」
 各能力に気をつけておいて下さい、と言った。
「撃破が最優先となります。けれど救えるかもしれない命もありますから……そのことについても、可能であれば考えてもらえればと思います」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)
落内・眠堂(指括り・e01178)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)
ヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)

■リプレイ

●接敵
 ケルベロス達は山中を進む。遠目には既に、花の咲く一帯が見えていた。
「親友との思い出の場所……ですか」
 佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)はふと呟く。それは何か、少し物思うようでもあった。
 ヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)も声を継ぐ。
「想い出の場所に何度も訪れる、その気持ちはとてもよく分かるよ。……簡単に受け入れられるものではないよな」
 声音は穏やかながら、どこか静かでもある。あるいは自身のことをも、思っているからかもしれなかった。
「何時かまた会えるのではないか。そう願ってしまう気持ちも──。……それが、年端も行かぬ子供なら尚の事だ」
 そしてヴェルトゥは、前方へ視線をやる。
 鮮やかな花々が広がる一帯の中。その奥に、異形の巨花がいた。
 それは触手を蠢かせる、パンジーの攻性植物。流動する体内に、意識を明滅とさせている少年の姿が垣間見えていた。
「──それでも、その子に会いにいくには、まだ、ちょーっと早すぎるよねえ」
 それを見据えた野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)は、距離をつめて巨花と対峙。
 平坂・サヤ(こととい・e01301)もまた、怯まず戦闘の間合いに入っていっていた。
「そうですねえ。ここが良い思い出の場所であるなら、なおのこと。──叶う限りはお守りしましょう」
「ああ。助け出せる可能性があるのなら最善を尽くす。行くぞ」
 ヴェルトゥが言えば、皆も頷く。
 攻性植物はこちらに気づくと、まるで威嚇するようにいななきを上げる。
 落内・眠堂(指括り・e01178)はそれに退くこともなく。符を指に挟み、巨花を見上げた。
「本人には、寂しいことかもしれねえけど。それでも会いに逝かせるなんて、させねえよ」

 攻性植物は、敵意をみなぎらせ、そのまま攻撃を狙ってきていた。
 だが、その直前。敵の面前に黒い雷光が走っていた。
「悪ィ、ケド。こっちも、本気、だから」
 それは、後方からロッドを突き出している、霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)。
 生まれた雷撃は、夜が塗り固められたような色彩を伴って飛来。弾ける衝撃で、攻性植物の動きを縛っていた。
「ひとまず、このまま、削っていく、かァ」
「了解なのですよ!」
 と、応えたサヤは、光の剣を形成して斬撃。触手を切り裂いていく。
 連続してヴェルトゥもライフルから光線を放ち、攻性植物を後退させていた。
 この間に、ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)はふと目を閉じている。
「では、私はまずは、態勢を整えさせて貰うよ」
 言葉と同時、周囲に生まれるのは淡い光。
 徐々に形を取っていくそれは、大樹の妖精だ。
「小さき隣人たち、その矢尻の秘蹟を此処に──」
 行使するその力は、旧き精霊魔法『深緑の矢』。病気や障害が妖精によって引き起こされるという信仰をその場に顕現させることで、仲間と自身の能力を増幅させていた。
 イチカはそれを活かすように、仲間を多重の雷壁で守護していく。
 攻性植物も触手を飛ばしてきたが、その一撃はヴェルトゥが防御態勢を取り衝撃を軽減。そして即座に、そこへ治癒の光が灯されていた。
「まだ傷は浅いです。すぐに治しますわね」
 それは彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)の生み出す、雷色に光る魔力のメス。
 紫がそれを空中で奔らせると、傷は瞬く間に縫合。温かい感覚を伴って体力も回復されていた。
「こちらはひとまず、問題なさそうですわ」
「ああ。なら、此方は攻撃を」
 声を返した眠堂は、符から機械の人がたを喚び出し、攻性植物を押さえさせている。
 その隙に、みのりは銃口を向けていた。
「これで、砕かせてもらいます」
 刹那、マズルフラッシュの閃きとともに、高速の弾丸を発射。衝撃波を伴って、蔓触手の大半を粉々に散らしていた。

●花
 攻性植物はよろめきつつも、未だ倒れない。
 逆に体を激しく波打たせると、捕食形態へと変化していた。不気味に開閉する花弁は、声ともつかぬ擦過音を漏らしている。
「まるで何かを訴えているよう……でもありますわね」
 紫はふと見上げて呟いた。思うのはパンジーの花言葉、『もの思い』、『私を思って』。
「自分の事をもっと良く思って欲しい、のでしょうか?」
「そこまでの感情があるのかも、見る限りではわかりませんね。ただ生きる為に必死なだけなのかもしれません」
 みのりもそんなふうに零す。ただ、手には油断なく、魔術回路武装・Abstracterから実体化した刃が握られていた。
「──だからと言って、見過ごす訳にもいきませんから。全力で、いきますよ」
 瞬間、みのりは踏み込み、円弧状の斬撃で敵の根元を切り払って動きを止める。
「さあ、今です」
「はあい、それなら、サヤがいくのですよ!」
 そう声を返したのはサヤだ。
 攻性植物も体を向けてきたが、サヤは既に短刀・繊月を抜き放ち連続斬撃。刺突、斬り下ろし、斬り上げを一瞬で叩き込み、傷を深く抉っていた。
 間断を作らず、ジゼルはロッドに魔力を収束させている。
 そこに眩く輝くのは、圧縮された雷光だ。刹那、それをまっすぐに飛ばすと、水平に雷が落ちたかのような衝撃を奔らせ、攻性植物の全身を痺れさせていた。
「ここで一度、打ち止めのようだね」
 と、そこでジゼルは手を止める。攻性植物が、苦悶を浮かべるように倒れ込んでいたのだ。
「イチカ、行けるかな」
「もちろんだよ。すぐに、治療にまわるね!」
 ジゼルに応えたイチカは、敵に駆け寄り、治癒の力を発現。それを淡い光にして攻性植物に注いでいた。
 少年は、寄生が進んでいるためか、目を閉じたまま顔を蒼白にしている。イチカはそんな少年へも、優しく撫でるように癒やしを与え、声をかけていた。
「眠っちゃダメだよ。まだ春の、いい日和でもなければ……その子に会いにいくのは、まだ早いから」
『う……』
 すると少年は、言葉に微かに、身じろぎする。
 攻性植物は、枝葉を流動させて少年の体を隠し、攻撃に移ろうとしてくる。が、放った噛みつき攻撃は、飛び込んだ翼に阻まれていた。
 悠のボクスドラゴン、ノアールだ。
「ン。ノア、よくやった、なァ」
 悠の言葉に元気な鳴き声を返したノアールは、闇属性の焔を纏って自己回復。
 続けて、紫も治癒の光を塗布し、ノアールの治療を進める。次いで、悠もノアールに触れ、治癒のグラビティを直接注ぎ込むことで、浅い傷を完治させていた。
「攻撃の、方は、頼む、よ」
「ああ、任せてくれ」
 悠に声を返したのはヴェルトゥ。手を伸ばすと、攻性植物の根本から、鎖を這わせて体を締め上げさせていた。
 その力は『Stardust platycodon』。
 鎖に咲き誇る桔梗は、まるで永遠に美しく咲く花は無いのだというように、星屑のように散っては消えていく。すると攻性植物の巨花も、その摂理に逆らえぬように、朽ち始めていた。
 攻性植物は、それでも拘束から逃れてヴェルトゥに喰いつこうとする。が、そこへ眠堂が符を掲げ、陽光の煌めきを生み出していた。
「思い通りには、いかねえよ。こちらも、救うものが、ある」
 刹那、陽光は弓状に変化。眠堂はそれを構えると、天地から這い出でて風を裂く二本の矢に、弓に番えていた一矢を連ねて、撃ち出した。
「髄を射よ、三連矢」
 その能力こそ、『八咫』。一陣の風のように疾く、天地の裁きのごとく鋭く。矢は花弁を貫き、粉々に砕いていった。

●命
 攻性植物は、這うように後退すると、根元から地面と同化し始めていた。
 周囲に侵食しながら歪んだ小花を咲かせる、埋葬形態へと変貌していたのだ。
「おや、周りの花が……」
 ジゼルは一帯を見回す。侵食に巻き込まれて、パンジーが次々朽ちていっていた。
「パンジーの花言葉のひとつは『思い出』なのですよ」
 サヤはふと呟く。
 その手には、光の剣が力強く握られていた。
「たしかな形をなくしてしまって、その上に思い出までなくすのは。ちいさい子には酷というものです。ですから、少年も、花も、これ以上傷つけないように……急ぐのですよ」
「そうだな。せめて、この花畑は奪われることの無いように、守ってやりたい」
 眠堂は、囚われている少年を見やって、声を継いでいた。
(「亡くしたひとと過ごした場所。此処ならもしかしたら会えるような気がする──その感覚を、俺も少しだけ、知っているから」)
 意識のない少年の顔に浮かぶ、寂しさ。それが眠堂には、理解できる気がする。だからこそ、力を尽くすつもりはあった。
 そのまま、眠堂は鎧武者を喚び出し攻撃。連続して、サヤも光の剣撃で敵の小花を切り裂いていた。
「おねーさん、よろしくなのですよ!」
「ええ、わかりました」
 サヤに応えたみのりも、銃を構えて連射。三百六十度に弾丸を撃ち、敵の小花を散らしていく。
「そろそろ、回復をしたほうがいいかもしれません」
「わかったよ。ちょっと待っててね」
 みのりに言ったイチカも、油断せず回復行動へ。切れた蔓、朽ちた花弁をつなぎ合わせるように縫合していき、与えた治癒のグラビティを共鳴させて、大幅な回復を齎していた。
『う……!』
 と、少年が僅かに呻きを漏らす。それは、命を吹き返しかけた証左でもある。が、同時に傷の蓄積による苦悶でもあるようだった。
「大丈夫ですわ、今は苦しくても必ず助けますので、ご安心を」
 紫は、未だ朦朧とする少年へ、優しく、しかと言葉と届ける。
 少年は少しだけ表情に力を篭めたようでもあったろうか。ただ、攻性植物は残る小花から、催眠の花粉を前衛へ撒いてきていた。
 しかし、それには紫が素早く翼を広げている。
「オーロラの光よ、仲間を助ける力となって下さい」
 その光は眩く温かく。仲間を照らし、花粉を消滅させていった。
 悠もロッドから雷光を発散。雷壁として広く展開することで、仲間を守護するとともに傷を回復していた。
「回復、は、こンなモン、かなァ」
「ありがとう。──さあ、モリオン。俺達もやるよ」
 言ってライフルを構えるのはヴェルトゥ。言葉に呼応して、ボクスドラゴンのモリオンも飛び立っていた。
 星屑の光を零しながら、モリオンは攻性植物の頭上に飛来。黒水晶に煌めくブレスを浴びせていく。そのタイミングでヴェルトゥもビームを周囲に撒き、敵の小花を焼き尽くした。
 攻性植物本体は、再度の攻撃を狙おうと這っている。が、ジゼルが既に、そこに大槌を向けていた。
「そうそう、やらせないよ」
 瞬間、砲撃形態で一撃。煙を上げて撃ち出した砲弾で爆炎を上げ、根元を吹っ飛ばしながら、敵を大地から分断させていた。

●決着
 攻性植物は、わななきを漏らしながら倒れ込む。体は端々が朽ち、傷の蓄積を如実に見せていた。
 イチカは一度そこへ回復を挟み、傷の大部分が治らないことを確認する。
「効きにくくなってきたよ。そろそろかも」
「ああ。注意深く、当たろう」
 応えた眠堂も、敵を観察した上で矢を撃ち、体力を削り始めた。
 攻性植物も、数本残った触手を伸ばしてくるが、それはヴェルトゥが受けきる。そして直後には紫が魔術切開を施し、傷を消し去っていた。
「これで、大丈夫ですわ」
「ああ。助かったよ」
 声を返したヴェルトゥは、攻勢に移り、敵を鎖で縛り上げる。
 そこへ悠は『影猫の調べ』。鈴の音で喚び出した、百猫夜行とも言うべき影の大群で、攻性植物の足元の動きを静止させていた。
「さァて、と。後、は、任せる、よ」
「うん。そろそろ、終わらせてあげなければね」
 ジゼルはそこに治癒効果の雷光を飛ばし、攻性植物に最後の癒やしを与えた。
 これで敵に残ったのは、命を蝕む傷と、幾ばくかの体力だけ。
「では、いくのですよ!」
 それを機に、サヤは『境界:貫通』。敵が貫通される可能性を現実に反映させ、刃で的確な刺突を放ち枝葉を裂いていく。
 同時、みのりは【寂しがり屋の雷獣】を召喚していた。
「おいで、雷獣。これで、最後としましょう」
 顕現された、雷気を纏う雷獣のエネルギー体は、光を纏った一撃。強烈な雷撃で植物を焼き払い、そこに少年だけを残していた。

 皆は少年に駆け寄り、介抱した。
「大丈夫ですの?」
 紫は抱き起こしてヒールをかける。すると少年はすぐに目を覚ましていた。
 体に怪我はない。始めは意識も朦朧としていたが、それも段々と治っていった。
「無事のようだな。何よりだ」
 眠堂もそれを確認して口を開く。少年は見回し、少しずつ何が起きたか思い出し始めていた。
「ぼくは、ここのお花に……」
「ああ。でも助かったから、心配は要らない」
 ヴェルトゥは落ち着かせるように、ゆっくり少年と話をした。
 事情を理解して、少年は皆に礼を言ったが、表情は硬かった。
「はじめは、武くんが、来てくれたんじゃないかと……思って」
 それからぽつぽつと声を落とす。仲が良かったことや、いろんな場所を探検したことも。
 みのりは一度、目を伏せた。親友を亡くした自分の過去を、少年に重ねたからだ。
 それでも、少年の目を見て、伝えるべきことを伝えた。
「死んだ人は、帰ってきませんよ」
「……。ぼくは、でも……」
「受け入れるのは少し怖いかもしれないけれど。それでも、いつまでも自分に嘘をつくのもきっと苦しいよ」
 ヴェルトゥも、優しく声を継ぐ。
「少しずつでいいから、受け止めてあげて」
「……武、くん……」
 少年は俯いていた。それからぽろぽろと、涙を零した。
 イチカはしゃがんで、言葉をかける。
「それにね。君が会おうとしても、まだ会えないって言われる、わたしはそんな気がするんだ」
「武くんが……?」
「うん、でも忘れなければまた会える。……わたしも会いたいひとがいる、けど、いつかおんなじところに帰るって決めてるから」
「だから、その子の分まで、元気に生きましょうね」
 みのりも言って、柔らかな笑みを浮かべてみせた。
 少年は少し黙っていた。でも、小さく、しかし確かにうん、と頷いていた。
 ヴェルトゥは花々を見る。
「友達のこと。思い出してあげるときは、またこの場所に来てみるのも良いかもね」
「そうだね。辛ければ、此処においで。君が何度訪れようと、今日のようなことは起こらぬよう、私達も務めるから」
 ジゼルも無表情の中に、かすかに温和な色を滲ませて言っていた。
 悠は周囲にヒールをかけ修復。無事だったパンジーはまた、鮮やかな花畑を作り出している。
「綺麗な場所。大切な、ヒトとの想い出の場所。なら、其の侭。綺麗で在ってほしー、よね」
「ええ、そうですねえ」
 頷くサヤも、花畑を整える。
 少年はそれを眺めていた。表情は悲しげでもあった、だがそれはたった今、前を向き始めたからかも知れなかった。
「次に来た時も、良い思い出でありますように──」
 何時か忘れてしまうとしても、それはきっと、今ではない。サヤのそんな思いにも応えるように、多色の花は、まるで虹のようだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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