●斑の鞭
空の青が海に映る晴れた日の岩場。トレーニングウェアに身を包み、打ち寄せる波をナイロンの鞭で切り裂き続ける少年の姿があった。
「えい、やっ」
少年は少女と見まごう幼い顔に汗を浮かべ、変則的に向かってくる白い飛沫を鞭で迎え撃つ。ここは波が高いのであまり人が来ず、練習にはもってこいの場所だった。
「オレがもっと派手な技を習得すれば門下生も集まって、道場を再建できるんだ。頑張らなきゃ」
その独り言を聞いていたものが口を開く。
「そうかい。なら、お前の最高の『武術』を見せてみな!!」
波間に裾を濡らすこともなく立ち出てたのはドリームイーター・幻武極。少年はその姿を目にすると操られたように、鞭を繰り出した。変則的なその軌跡はまさに蛇。
一通りそれを受けた幻武極はふむ、と得心したような顔を見せ、持っていた鍵で少年の胸を貫いた!
「僕のモザイクは晴れなかったけど。お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
意識を失って倒れた少年の傍らに一体のドリームイーターが現れる。それは黒い道着を纏い、まだらの鞭を携えた美しい青年。立派な武道家だった。
「さあさあ、お前の武術を見せつけてきなよ」
ドリームイーターはぎらりと笑むと、しっかりとした足取りで歩き出した。
●ドリームイーター討伐作戦
幻武極の生み出したドリームイーター事件が予知された知らせを受けて、ケルベロスたちは集まった。
「鞭を蛇の様に操る鞭使いさんが幻武極に襲われてしまったみたいだけど……」
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の確認に肯定の頷きを返す黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー)。
「そうっす。自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているドリームイーターの幻武極。武術を極めようとしている武術家を襲い続けているっす。今回の被害者の武術ではモザイクは晴れないようっすけど、代わりに生みだした武術家のドリームイーターを暴れさせようとするんすね」
●ドリームイーター
続けて今回の被害者とそれから生み出されたドリームイーターの説明がなされる。
「今回の被害者はさっきも話に出たとおり鞭使いっす。生み出されたドリームイーターは襲われた被害者の目指す究極の武術家としての技を使いこなすようなんで、なかなか強敵になりそうっすよ。繰り出してくるグラビティはみんなモザイクに包まれてるみたいっす。一人で歩いて街に向かうみたいっすね」
その後、現場になった岩場は街から離れているため、ドリームイーターが街へ到達するまではかなりかかること、その途中で遭遇することが十分できるので、人払いや被害などを気にする必要はないであろうことなどが説明された。
●黒瀬の初見
「被害者は頑張り屋の少年だそうっすよ。未来ある若者がこんなところで理不尽にへし折られるなんて自分は嫌っすね。ケルベロスの皆さんも戦いの日々の中で思ったこと、言ってあげられることもきっとあると思うっす。ドリームイーターの撃破。どうか頑張ってくださいっすよ」
参加者 | |
---|---|
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777) |
揚・藍月(青龍・e04638) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366) |
アリア・フェリアート(歌撃大公・e38419) |
ブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915) |
レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180) |
御厨・ラモン(ワールドパレット・e44367) |
●岩場の幻
街から離れた場所でヘリオンから下ろされたケルベロスたちは足場の悪さに辟易した。
「武術と聞くから己の肉体一つで研鑽を積む武闘家か何かと思っていたけど鞭使いなのね。こんなところで武術の鍛錬なんてテレビの世界くらいだと思ってたわよ。足場が悪そうだし、バランス感覚を養うのに役立つのかしら?」
そう言いながらもレイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)は平地にいるかのようにすいすいと足を進める。
「鞭を扱う道場ってどんなのだろう?」
「調べてみたが、相当に技術を要するもののようだな。鞭……蛇か……何だか少しそわそわするな紅龍」
「きゅあきゅあきゅあっ」
レイスのあとに続きながらミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)と揚・藍月(青龍・e04638)が被害者の武術について話す。ボクスドラゴンの紅龍が藍月の声掛けに鳴き声で返事をした。
「理想の武術……常に最適の行動を選択し続ければ理論上を最強ということか?道理ではあるがそれこそ夢幻の類だな。幻武極とはよく言ったものだ」
「その者の努力の証たる武術を奪うなど許せるものではない。必ず救い出さねばな」
「被害者の救助のため、予め消防署と病院に協力を要請する可能性があると一報入れておいたぞ。人を斬るのは好きではないが……あれはデウスエクスであって人ではない。神楽火流殺神剣、存分に揮わせてもらう」
モバイルに表示されていた、幻武極が起こした過去の事件の報告書を読んでいるのはブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915)とアリア・フェリアート(歌撃大公・e38419)、神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)。アリアのサーヴァントのジークがモバイルの画面をスッ、スッ、とスワイプさせて三人に見せている。
「自分の夢を追って努力する若人、その努力をあざ笑うかのような所業、許せないな。彼の人生の彩り、取り戻させてもらうよ!」
「己の武技を極めるべく特訓する少年……眩しいものですな。なれば何としてもドリームイーターにはお帰り頂かなくてはなりません」
後ろから来ていた御厨・ラモン(ワールドパレット・e44367)とイグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)も被害者を救いたい気持ちは同じのようだ。
「そうだそうだ! 将来に向け修練勤しむ少年の努力が他の手によって悪用されるなんて理不尽あってはならない事だ! これ以上の被害が出る前に食い止めるよ!」
そんなケルベロスたちに檄を飛ばしたミリムの目に映るのは、ケルベロスたちの存在を認め走って向かってくる武道家の姿。
幻武極。戦いが始まった!
●まだら蛇の鞭
獲物を見つけた幻武極は喜悦の表情を浮かべながらケルベロスたちの前に立ちはだかった。まだらの鞭を携えた黒衣の美丈夫。
「ふむ? 少年の理想の武道家の姿がこれなんだ? もしくは将来こうなるのかも!」
ミリムが小型治療無人機を展開し前列の三人の守りを固める。
「なんと自信にあふれた顔。貴殿の技はそれは見事なのだろうな……。だが対策は立てられないわけではないよ。全ての浮上から彼らを守ろう……我が水は不浄を通しはしないとも。『我が手に在りし水達よ。彼らに迫りし「穢れ」を祓いし障壁とならん。青龍門開門! 水域展開! 急急如律令!!』」
藍月が印を結ぶと水の障壁が生まれた。これでまた守りが強固になる。
「今回は藍月兄上と違うポジションですね。とは言え私は基本的に護衛を行うのは変わりません。気をそらします!」
ボクスドラゴンの紅龍がボクスタックルを仕掛けるが、薄く笑った幻武極が武道家の足さばきで回避する。そのまま蛇のような動きで前列の皇士朗に向かってまだらの鞭を振り上げた!
「私も皆様の盾となり攻撃を防ぐためにここに居るのです……よ!」
イグノートが痛烈な鞭の攻撃を肩代わりしたがダメージは計算済みだ。打ち据えた鞭がザザっとブレる。よく見るとまだらなわけではなく、モザイクで形成されているのだ。
「すまない、イグノート。力強い打撃に巧みな技巧。被害者の中にはこれだけの可能性が眠っているということか……面白い。迎え撃とう。七哭、鬼哭! 彷徨える夢の神を絶て!」
皇士朗の両手に握られた斬霊刀、七哭景光・鬼哭景光から繰り出された二刀斬霊波が連続して幻武極を切り裂くが、幻夢極は笑みを浮かべている。皇士朗のくくった髪の根元が高揚感にざわりと浮き立った。
「ま、どんな武術だろうと私の敵ではないことを教えてあげるわ。今日の武装はなんだか鞭っぽいし」
レイスのオウガメタルがしゅるしゅると変形するとぎちりと軋み、鋼の鬼と化して拳を叩き込む。砕かれた部分がモザイクとなって散らばるが幻武極は笑みを崩さない。
「笑うのやめなさいよ。気に入らないわね」
不満を口にするレイスのあとからラモンのペイントラッシュの飛沫が激しく飛んできた。
「ごちゃごちゃとわからない色してるな。俺が塗り替えてやるぜ!」
「あまり熱くならないほうがいい。任務は冷静にこなすぞ」
ブレイズの紙兵が後列の耐性をフォロー。
「そうだなブレイズ、一理ある。ジーク、余と足止めだ。ミリム!!」
「ちょっと五月蝿いんだけどね! アリアさん、いっくよー!!」
ジークのポルターガイストとアリアのスターゲイザーで足止めされた幻武極にミリムのズタズタラッシュが襲いかかる。連携攻撃だ!!足場の悪い岩場で足止めを喰らった幻武極はその全てを体で受ける!終始笑顔だったその眉がやや曇りを見せた。
●人間らしさ
「おお……見事見事。俺たちも負けてられないな」
「兄上危ない……きゅあっ、鞭ってとっても痛いですーーー!!!」
ブレイブマインで味方の壊をアップしていた藍月に幻武極の蛇が噛み付くような変則的な動きの鞭が襲いかかり、それを紅龍がかばう。
「お強いですね!こんな攻撃はいかがでしょうか!」
イグノートが駆け寄った摩擦で起こった炎を蹴りに乗せて見舞った。
一方、戦いの中、皇士朗は己の感じた戦闘の喜びを理性で押さえ込んでいた。
「いや違う。おれは戦いを愉しんでなどいない。この剣は人々を守るためのものだ」
皇士朗の持ちかえたアームドフォートから発射されたフォートレスキャノンの攻撃を受け、幻武極の利き腕がびくんと跳ねる。焼けた腕にモザイクが這っていた。
「やっと笑うのやめたわね。そうよ、鞭なんて猛獣ショーくらいでしか流行らないし私のほうがそれっぽくできるわよ」
レイスが攻性植物をまさに鞭のように繰り出し、幻武極を締め上げる。幻武極は煩わしそうに攻性植物を睨んでいる。
「いい色になってきたぜ!」
さらにラモンのペイントラッシュが幻武極を鮮やかに染め上げた。
「こちらは冷静にやらせてもらうが、おまえはもっと怒っていい」
淡々とした無表情でブレイズが幻武極の怒りをファナティックレインボウで誘う。怒りの眼差しがブレイズに向けられた。
「よそ見をしていていいのか? 後ろにいるのを誰と心得る? そなたの迸り、余がいただくぞ?」
アリアの惨殺ナイフで赤いモザイクが幻武極の肩口から飛び散った。振り向いたさらにその後ろからジークがビハインドアタックを食らわせた。
●後半戦
ドゥルン! とミリムのチェンソー剣がけたたましく吼え、幻武極の怒りを増幅させていく。藍月の遠隔爆破にさらされながら幻武極は怒りの矛先であるブレイズに躍りかかるが、それを予想していた勇ましきボクスドラゴン紅龍がその直線上に飛び出して攻撃を肩代わりした。
「きゅあ、きゅあっ! お役目はしっかりと! でも痛いのは変わらないです!」
「おれの獲物は剣だけではないぞ……行け! 『ファフナー、イグニッション! サリー・ゴー!』」
皇士朗の集中砲撃に攻撃を任せ、藍月は紅龍のダメージ回復を要請した。
「すまない、紅龍を頼みたい!」
「ボクスドラゴンくん、なかなか頼りになりますね……さあ、深呼吸すればだいたいどうにかなるものです」
「きゅあ~……癒されます」
イグノートが鼠の寝ずで紅龍の傷を癒してあげると紅龍はリラックスしたようだった。
「この漆黒の闇で塗りつぶしてあげるわ!私のためにしっかり働きなさい!」
畳み掛けるようにレイスの攻性植物が変化した混沌の鎌が幻武極をいびつに切り裂く。重ねられた怒りで始めの頃の笑顔は形もなくなり、その表情は悪鬼のようだ。
「真っ黒に染まっちまったな。俺も負けてられないぜ」
ラモンもカオススラッシュでレイスに続いた。
「順調に遂行できている」
ブレイズはディフェンダーと自分のいる列を冷静にヒールドローンで守る。
「余の覇道である!道を開けよ!!『とおりゃんせ、とおりゃんせっ……!』」
剣と足にグラビティを集中させたアリアが一気に跳躍して幻武極の後方へ切り抜けた!
(わわわ……離れすぎた……)
ジークのポルターガイストとともに慌てて駆け戻るアリア。幻武極は足止めされている。
●生きている蛇は口を開けて舌を出さない
激しい戦いを繰り返し、幻武極は回復不能ダメージもたまってきておりその蛇のような動きはかなり鈍ってきていた。
「裂き咲き散れ!」
ミリムの緋牡丹斬りが幻武極をなますにする。
藍月のブレイブマインと紅龍のボクスアタックも安定だ。
ようやくモザイクで傷を修復し出す幻武極だが、もう手遅れといった風情だった。膝をつき、肩で息をしながらケルベロスたちを睨んでいる。
「そろそろ詰めと見ました。あとはよろしくお願いしますよ!」
イグノートのクイックドロウが幻武極の手元に命中し、握った鞭がぱたりと落ちる。そして。
「幻武極……お前の夢は、おれが断ち斬る!!」
皇士朗の絶空斬が、袈裟がけに幻武極を切り裂いた!!
斬!!
斬り拡げられた傷口から溢れ出たモザイクがその全身を覆い尽くし、鞭使いのドリームイーター・幻武極は消滅した。
●頑張れ頑張れ
「いたぞいたぞ!倒れてら」
ラモンのあげた声に駆け寄るケルベロス達。どうやら倒れていた被害者が見つかったようだ。
「あらいい顔色。元気そうでよかったじゃない」
「衰弱はしていないようだな」
被害者を一瞥してレイスがそういうと、皇士朗はじめほかのケルベロスたちも安心したようだった。ラモンに抱き上げられた少年はうっすらと目を開ける。
「ここは……オレは」
少年に状況説明をしている間にブレイズとアリアは周りを修復しようかと話していたが、もともとゴツゴツの岩場だしそんなには必要ないんじゃないか?ということですこしだけ直した。
「年お若い様ですが、何か夢がおありの様ですね?道場を再建なさりたいとか。貴方様から生まれたドリームイーターは大層お強いものでした。きっと貴方も精進なされば、負けない位お強くなれましょう。心から応援いたします」
「生きてりゃ理不尽なこともある。でもそれだって人生の色なんだ。お前と俺、最後にどっちの人生が彩り豊かになるか、勝負だぜ!」
「焦る事はない、武も力も一日にしてならず。しかし……階段を一段ずつ上がる様に努力は身を結んでいくよ。何より貴殿の理想の姿は強かった……。だがそれでも尚更なる道がある。何より俺は貴殿の理想に憧れたよ。でも……あえて言うなら……蛇よりも龍がいいかな。なんてな。はっはっはっ」
「兄上ったら!」
自分の技をいいようにされて落ち込んでいた少年だったが、イグノート、ラモン、藍月の励ましに元気を取り戻したようだった。それを見てミリムがやおら立ち上がる。
「ねえ! ボクでよければ練習に付き合うよ! あなたの技を見せて!」
「ほんとう? ありがとうケルベロスの兄ちゃん……ん……?おねえちゃん……あれ?」
「いいからいいから! 打って来て!」
打ち付ける波と少年の鞭の音。しっかりした小気味いい打撃音に、ケルベロス達は少年の未来が見えた気がした。
作者:星野ユキヒロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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