病魔根絶計画~美貌を喰らうヤツら

作者:ほむらもやし

●病との戦い
 パステルトーンのインテリアで統一された病室は、清潔で不思議と穏やかな気持ちになれる気がした。
 窓はスモーク処理、扉の金具、カーテンのレール、把手、蝶番にいたるまで、ありとあらゆるものがパステルトーンの色合いにされていた。
「帰んなさいよ! あんたもわたしのこと、笑いにきたんでしょう?!」
「ちがうよ。さやかちゃん、だって私たち友だちよね?」
「近寄らないで、友だちなんかじゃない」
「ごめんね、ごめんね、力になれなくて——」
「せっかく来てくれたのにごめんなさいね。具合がよくないみたいで」
「だいじょうぶです。でも、もうすぐ治る、治せるのですよね。だからわたし、少しでも助けになりたくて」
 さやかは研究室の人気者で、ファッションリーダーでもあった。成人式では皆で振り袖姿で写真を撮ろうと言っていた。なのに怪異化症候群に掛かってしまうなんて酷すぎる。
「とにかく今は、成功を信じましょう」
 自分の容姿が醜いと思えば、自信も勇気も生きる気力も突き崩される。なぜなら人間を見る時に真っ先に目に入るのは容姿なのだから。


●依頼
「今年も成人の日には、色々な出来事があったみたいだね——。早速だけど、病魔を駆逐する作戦に、手を貸してくれる人はいるかな?」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、ケルベロスたちに声を掛けた。
「実は、医師、ならびにウィッチドクターの努力の結果、怪異化症候群の病魔根絶の準備が整ったんだ。今現在、発病した人たちを、とある医療施設に集めて、治療に取りかかろうとしている」
 集められた罹患者は全て、醜悪な怪物如き姿と化した重病者ばかり、姿が映り込みそうな物は全て取り払われ、あるいは処理を施された病室に閉じ込められている。
 集められた患者の多くはもともと容姿が美しいと言われていた者ばかり。そして容姿が人間離れしたものに変わり果てているにも関わらず、命に別状は無いことが、より一層患者を苦しめている。
「重病患者に取り憑いた病魔を残らず撃破することができれば、この病気は根絶されると思う。もう、新たな患者が出ることはないはず」
 但し、敗北、つまり根絶に失敗すれば、新たな発病を食い止めることは出来ない。
「普段、お願いしている依頼に比べれば、緊急性は低い。病院など社会システムが破壊されかねない状況と病院での治療を天秤に掛ければ、社会システムの防衛が優先すべきだ。だけど、病魔が原因で、苦しんでいる人たちを、見放して良いという免罪符にはならない。だからこそ、この作戦を進めたい」
 状況と思いを告げると、ケンジは対応する病魔そのものについての話しを始める。
「病魔は、被害に合った患者さんの身体を包むようににべっとりとくっついている。その上で絡ませた身体を蠢かせたり、仮足で身体をまさぐっていたりする」
 見た目のイメージとしては、患者は背後から巨大なアメーバに抱きつかれている感じだ。
「当然、そのままでは戦いにくく見えるけど、戦闘を有利に運ぶ手段もある。それは、病魔への『個別耐性』の獲得。患者の看病をしたり、根気よく元気づけたりすることで、一時的に獲得できる。これを得られれば、病魔から受けるダメージが減少するらしい」
 攻撃手段は、心のなかの悪意を増幅させる息を吐いたり、着衣や服を溶かす体液をまき散らしたり、撫で回したりする感じである。
 ここまで話すと、手帳を閉じて、ケンジはあなた方の顔を見つめる。
「僕らの優先順位は誰の都合なのかな、今、苦しんでいる人にとっては、それこそが命の危機だよ。だから僕はここに立っている。――どうか頼みます、お願いします」


参加者
大神・凛(ちねり剣客・e01645)
戯・久遠(紫唐揚羽師団のモブ医者・e02253)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
神楽火・天花(灼煌の緋翼・e37350)
レッヘルン・ドク(怪奇紙袋ヘッドクター・e43326)
大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)
神咲・イサナ(月夜の銀狼・e45201)
アンネ・フィル(つかむ手・e45304)

■リプレイ

●個別耐性の獲得に向けて
「病魔分離後の移動の件は了解しました。ただ、難しい患者さんですから、くれぐれも気をつけて下さい」
 看護師は、アンネ・フィル(つかむ手・e45304)に、そう返しつつ、一行を病室に招き入れた。
 ベッドの上では今回の患者である、さやかがスマートフォンを片手に、友だちにレスを返している所だった。
 病魔に取り憑かれ、皮膚を溶かしたようなその姿は、何処に目や鼻があるかもわかりにくい。もし事前に人間だということを教えられなければ、怪物と間違えて駆除してしまいそうになるほど。
「いよいよですね——それではよろしくお願いします」
 看護師に促され、アンネは、「がんばろう」と言って、オルゴールを台の上に置く。間も無く金属を弾く澄んだメロディが流れて、病室は穏やかな雰囲気になる。
「アンネさん、これは、どういう曲なのかしら?」
 アイルランドの素敵な民謡です。
 時が流れて、姿が変わったとしてもずっと大好きだよ。
 そういう意味の歌……揺るがない想いってきっとあると思うから。
 さやかさんに、耳を傾けてほしいと思ったの。
「……ありがとう」
 グチャグチャのさやかの表情を読み取ることは困難だったが、アンネの言葉と、これから始まる治療への期待からか、返す声からは明るさを感じた。
「安心しな。必ず病気は完治してやる」
「ヒイッ! さわらないでっ!!」
 だが戯・久遠(紫唐揚羽師団のモブ医者・e02253)が差し伸べた手から気を送ろうとした瞬間、さやかは態度を豹変させた。
 己の体内で高めた陽の気を撃ち込めば、対象の体内の陰陽のバランスは取れるはず。そう考えての試みであったが、さやかしてみれば、ケルベロスとは言え、見知らぬ男から、気を流し込まれるなど、聞いていない。
「すまなかったな……」
 ガタガタと震えるさやかに、そう頭を下げるのが精一杯だった。
「まあ、気を落とさないで下さい」
 軽く言い置いて、ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)は、ゆっくりと口を開く。
「姿がすっかり変わって不安な気持ちはわかります。でも、もしあなたの身近な人が同じ病に罹っても、きっとあなたは嗤ったりしないのでは?」
「嘲笑うことは無くとも、可哀想だとか、あんな風になりたくないとか、恐ろしいとか、辛くて大変そうだとか、思うでしょう。うああああ!!!!」
 一度ネガティブに傾いた感情は容易に落ち着かない。
 言葉を掛けられる度に、さやかの心に積み重なって行くのは、醜い姿となった惨めな境遇。便所の中の汚物に塗れたような、今の姿を直視することになれば、自ら命を絶っても不思議はない。
「貴方は化け物なんかじゃない! 私は貴方と話したいだけです!」
 そこに、神咲・イサナ(月夜の銀狼・e45201)の懸命な声が飛ぶ。
「話したくなんてない。化け物に見えるから、化け物じゃないって言うのでしょう」
 さやかの声色はさらに険しくなり、狂気が滲む。
 つい先ほどまで、綺麗で大好きだと感じていた、オルゴールの音色すら憎らしくなって来て、床に投げつけた。
 瞬間、床に激突したオルゴールの箱が割れて、部品が飛び散る音がして、「もうやめて」と、神楽火・天花(灼煌の緋翼・e37350)は、さやかの両腕を押さえるようにして、ベッドの上に押し倒すように抱きしめる。
「くそおお! 放せ、放せえええ!!!!」
 此処に来たのは、病魔を倒して、患者を助ける為だ。
 説得して考えを変えてもらう為では無く、何かのエビデンスを得る為でも無い。
 やるべきは気持ちのケア、具体的には患者の気持ちに寄り添って、励ますことだ。それが『この病魔への個別耐性』の獲得に繋がる。
「だいじょうぶです。想いって、そう簡単に壊れないんです」
 アンネは床に転がった凹凸の刻まれた真鍮の筒を拾い上げた。
 それは楽曲の情報が刻まれたシリンダーと呼ばれる部品。それを砕けたオルゴールの箱の中、櫛歯に当たる部分に嵌めて、発条を巻き直すとオルゴールは再び曲を奏で始める。
「ほら、ちゃんと直ったでしょう」
「……えっ?」
 間も無く、さやかの手足から力が抜けて行くのを感じながら、天花も力を緩める。
 そして、恐らくは彼女の耳の孔と思われるあたりに顔を近づけて、ささやく。
「人間見た目じゃないとか、あたしは言わないよ。女の子だもん、きれいになりたいとかかわいいって言われたいとか当然だよね。だから、あたしは、あなたを苦しめる病魔を赦さない」
「ごめんなさい……。こんなに心配して貰っているのに、私ってバカよ、どうしようもない大バカよ」
「あなたは本来美しい人なのです。その美しさは、必ず取り戻します。いえ、病魔を倒せば取り戻せるのです。ですから決して諦めないでください」
 そう言って、ためらいながらも、ほんの短い間、レッヘルン・ドク(怪奇紙袋ヘッドクター・e43326)は被り物を外して見せると、再び被り直した。
「私は無力だったころの自分を忘れないために、深手を負って醜くなった姿をそのままにしていますが……やはりそれによって誰かが怖がったりするのは少し辛いものもあってこうやって隠しています。ですが、私の素顔を見ても嫌がらない、驚きはするけど怖がらないという方もおられます」
 レッヘルンがこの依頼に参加したのは、自身でも顔について思う所があったから。
 外見がどのような形であっても、中身が確かなら、アンネが直して、今、曲を奏でているオルゴールのように本質的な価値に変わりは無い。
 しかし現実には外側が壊れたオルゴールは商品にならず、買い求められるのは綺麗な外観のオルゴールである。
 だから、事情は全く異なるが、醜い容姿に悩み苦しんでいる者に手を差し伸べたかった。そして外見から人の心を破壊する恐るべき病禍を終わらせたいと思った。
「次は、我が輩の体験談も聞いて貰えるかな?」
 どこか尊大さを感じさせる態度であったが、大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)は言う。
「我輩の経験談である。我輩、昨年の年末まで難病に侵され入院暮らしだったのである……一歳の頃からであるな。しかーし、我輩はこうして復活したのである……。むしろ再誕?」
 悠斗の話す内容が、さやかの励みになったかと言えば、実は全くならなかった。
 しかし、病魔を倒す為に何かしらしようとしてくれている気持ちは、冷静さを取り戻した、さやかには確かに伝わり、同時に先ほど遠ざけてしまった、久遠にも酷いことを、同じ断るにしても、もっと丁寧に言うべきだったと、反省していた。
「雰囲気的に、そろそろか。……ところで、その匂い、何とかならんのか?」
「そうだな——匂いは気にしてなかったぜ。今度から考えておくな」
 遠目に様子を見ていた、大神・凛(ちねり剣客・e01645)の呟きに、あっけらかんとした様子で久遠は応じると、唐揚げの入っていた袋をゴミ箱にねじ込んで、眼鏡を外した。
 患者は仲間たちを信頼して、この病気を治せる。病魔に打ち勝てると信じてくれたようだ。
 皆の気持ちが同じ方向を向けば、もう病魔の分離も、個別耐性の獲得も間違いなく出来るだろう。「対処法は心得ている」後は、久遠が言うとおり、誰かが通った道のはず。
「……あなたの怒り、私に貸して」
 果たして、病魔を引き剥がし、分離に成功すると、控えていた2人の看護師が慣れた手つきでストレッチャーを引いて、さやかを病室の外に運び出す。

●病魔との戦い
「俺への報酬は、あんたのとびっきりの笑顔ってことで、ひとつ頼むぜ? ——さあ、仕上げといこう」
 さやかの方には顔を向けないままに、久遠は言い放つと、アンネの突撃を阻んだ、病魔を目がけて電光石火の蹴りを繰り出した。
 ヴァルキュリアブラストの余韻のような光の粒が舞う中、粘り気のある水音と共に急所を貫かれて、病魔は声にならない悲鳴を上げる。続けて、凛の雷刃突が突き刺さる。身体を伝う雷の霊力に冒されて、直後、紫と茶色の入り交じったような吐息を撒き散らした。
 それよりも一瞬早く、病室の扉がカチリと締まる音がした。
 二色の吐息は溶け合うことの無いままに拡散し、混じり合ったまま、複雑なマーブル模様を作る。直後、変化し続ける複雑な形状に前衛の4人は視界を奪われる。直後、目にしたのは、心を掻き毟るトラウマだった。
 次の瞬間、ヨハンの展開する雷の壁が、漂うガスの中に加護を放った。
「遅すぎましたか」
「仕方ないであろう。むしろ先手を取れるほうが幸運であるからな」
 トラウマの攻撃、その頭痛に苦しみながら、悠斗はガジェットを展開する。直後、噴き上がる蒸気に含む魔導金属片が盾の加護を作り出す。
「さあ、切除開始です」
 レッヘルンは蠢く病魔を見据え、その仮足に狙いを定めようとする。
「……無理でしょう。これは」
 直後、それを今、狙ってできる状況ではないことに気がついて、レッヘルンは緩やかなカーブを描く斬撃を放つ。しかし、その刃すら宙を切り、反対側からナノナノが放っためろめろハート、魔力を帯びた一撃が外れ鼻先を飛びぬけて行く様を目にして、この戦いの厳しさを知る。
 襲いかかって来るトラウマのイメージが、強烈な頭痛と共にレッヘルンの精神を蝕み、心の傷を抉る。
「あなたたちの命脈、私が断ち斬る……!」
 逃がさぬ決意を孕んだ鋭い声、天花は、狂花景光と千子景光緋交喙——2つの刃を振り抜いた。瞬間、両者の間に跨がる空間がずれ動く、躱す間も無く裂かれた病魔の身体から濁った体液が溢れ出る。
「ふ、ざ、け、ん、なーー!!」
 激昂の叫びと共に、イサナはシャウトを発動する。次の瞬間、傷は癒されて、彼女を苦しめていたトラウマも霧散した。が、どこか漠然としたやりにくさ、仲間と共に戦っているはずなのに、連携が取りにくい。まるでひとりで戦っているような、違和感を覚え始めていた。
「早期発見早期治療だ」
 久遠の呼び寄せた雨雲が、病室に薬液の雨を降らせ、トラウマに苦しめられていた者の心を解放する。
 直後、病魔はそうするのが当然であるかのように、最も脆弱なイサナに向けて粘つく仮足を伸ばす。壁のように迫り来る流動体。
「——ッ!?」
 回避不能とイサナが覚悟した時だった。脇から突っ込んで来た、レッヘルンが入れ替わるようにして危機を救う。
 何故? という表情をするイサカに、もし彼が答えるとするなら、共に戦う仲間だからと言うだろう。ポジションの効果が作り出す行動であっても、心に抱く感情無しに危険は冒さない。
 無心の所作から繰り出される、凛の刃が病魔の後ろ側を裂いて、刻まれたバッドステータスを花開かせる。
 苦悶の叫びを上げ、レッヘルンから離れる病魔、その隙を逃さずに、ヨハンは砲撃形態と変えたハンマーから竜砲弾を撃ち放つ。今、これを決まれば戦闘が一挙に有利に傾く確信があった。
 次の瞬間、病室は爆炎の輝きに満たされて、爆風が吹き荒れる。瞬間、オルゴールの小さな音色は消え去り、数秒後、輝きが消えた後には、ボロボロに傷ついた病魔と包囲するケルベロスたちの煤だらけの姿があった。
 積み重ねられたバッドステータスは、一行の目論見通り病魔の動きを鈍らせ、攻撃の要である前列に与えられた加護は被弾のリスクを低くしている。
 攻め時が今なのは明らかだった。
 病弱ネタなど忘れたかのように、悠斗はガジェットを拳銃形態に組み替えて、満身の力を籠めて、魔導石化弾を撃ち放つ。
「き、決まったであるか?」
 弾丸は吸い込まれるように泥の如き身体に突き刺さる。現れた石化の効果はその組成を変え、さらに動きを鈍らせる。そこにわずかに遅くテンポをずらしたアンネの歌声が響く。
「いいえ。もう少し——これがあなたのリズムです」
 攻めても守っても状況は悪くなるばかり、それでも病魔は足掻き、咆哮する。望まぬ死を予感した怒りと怨嗟を孕んだ虚ろな目線をアンネに向ける。
「はあっ!」
 気合いと共に天花は、どこも同じにしか見えない病魔の身体かで急所を見いだして、確りと斬り裂く。一生に一度の成人式を台無しにされたさやかの無念、女の子にとって大切なきれいを奪われた、悲しみと怒りを込めて、さらに一度斬り裂く。
「イカヅチが如く……!」
 溶けたように崩れ始める病魔の身体に、イサナの雷刃突が刺さる。
 足掻く病魔は、自ら傷を癒して、なおも戦おうとする。重ねられたバッドステータスは霧散する。しかし攻勢を強めるケルベロスたちの前にあっては、戦局を挽回する一手にはならず、最期の時を少し先に延ばしたに過ぎない。
「あと少しだ。最後まで油断するな」
 レッヘルンを癒しきると、久遠は言い放った。これで懸念は無くなったはず。
 果たして、躱して回復するしか戦う術を持てなくなった病魔への攻勢は一方的なものとなり、
「闇を祓い、神を殺す炎……肉と魂で味わいなさい」
 天花の叩きつけた、神殺しの灼熱と衝撃により、病魔は灰となって消し去られるのは、間も無くのことだった。

 かくして戦いはケルベロスの勝利に終わり、8人で引き受けた病魔は確かに滅ぼした。
「これで根絶がなるかどうかは、他のパーティの首尾次第ということでしょうか」
「そう言うことになるんじゃねえの」
 不安げに呟くヨハンに、久遠は軽い調子で応える。手の届かない場所のことまでは、どうすることも出来ないということなのだろう。情熱だけでこの種の依頼は引き受けられない。ある種の諦観無しには、心がすり減ってしまう。
「検査は終わりました。お会いになりますか?」
 喫茶スペースで、休憩を取っていた一行に、担当の看護師がやって来て、告げた。
「もう大丈夫なんだね。ぜひ会いたい。みんなはどうする?」
 天花の言葉に、もちろんと頷く者もいれば、そこまで考えていなかったという者もいるようだ。
 かくして、再会したさやかは、ちゃんとした人の形に戻っていた。
「ありがとうございました。おかげで助かりました。そして、酷いことを申し上げて、すみませんでした」
 身体を起こし、深々と頭を下げたさやかの唇は赤く濡れていて、細い肩と華奢な二の腕、白い肌の覗く病衣で目を潤ませる姿は、男性の理性を吹き飛ばしかねない危うさがあった。
「あ、それ?」
 トレイの上に置かれた焦げた金属の部品が自分の持って来たオルゴールものだと気がついて、壊れたそれをわざわざ届けてくれる病院の対応をアンネは意外に思った。
「不思議よね。ここから素敵な音が出せるのですから」
「わたしも、そう思います。でも、そのままではなんですから、修理します」
「本当、いいの? ありがとう!」
 満面の笑みを見せるさやかに、「まかせて」と、アンネは小さな胸を叩く。
 いまはこれくらいしか出来ないけれど、もっと強くなって、もっと賢くなって、いつか、もっと色んなことができるようになりたい。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月24日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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