ミッション破壊作戦～濁った瞳を光で射抜け

■リプレイ

●ミッション９－３「加賀連続復讐事件」
「これがグラディウスですか……」
　ヘリオンの中で、燎・月夜（雪花・e45269）はしげしげと光剣を眺めた。
「色んな意味での重さを感じますね……絶対に今回で成功させて帰りましょう！」
　訥々とした言葉に気負いが滲む月夜だが、ふと眉を寄せる。
「そう言えば……今回の、目標は？」
　初のミッション破壊作戦参加で緊張したか。そんな少女に、霧山・和希（碧眼の渡鴉・e34973）は地図を見せる。
「加賀連続復讐事件……石川県加賀市を中心に、県内全域に起こる失踪事件の大元を叩きます」
　『加賀の小京都』という言葉があるがこれは金沢市を指し（ちなみに、現在の金沢市は「小京都」より寧ろ「武家の城下町」の歴史遺産を活かした街作りを目指している――閑話休題）、加賀市はその南西にある。九谷焼の産地の１つであり、鶴仙渓や山中温泉が有名だ。
　そんな加賀市を中心に起こる失踪事件は、『復讐屋』を名乗るシャイターンが元凶だ。
「斯様な者を、決して許す訳にはゆかぬ」
　失踪者の行方も判れば良いとレーグル・ノルベルト（ダーヴィド・e00079）は呟くが、シャイターンの真の狙いを考えれば……。地図より撤退ルートを想定していた木霊・ウタ（地獄が歌うは希望・e02879）も、意気軒高に拳を固める。
「復讐屋とか、地球人の要望を叶えてるだけだと嘯いて命を弄ぶ奴に、俺達が負ける訳がない！」
「ええ！　奴等に占拠された地域を、地球の人々の許に取り戻すのです！」
　ウィッカ・アルマンダイン（魔導の探究者・e02707）がミッション破壊作戦に臨むのも、これで１０回目。妖精種族を滅ぼしたエインヘリアルに与するシャイターンには、シャドウエルフとして思う所がある。
「エインヘリアル、ですか……」
　我知らず、ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）はグラディウスの柄を強く握り締める。胸中に滾る想いを、叫びとして注ぎ込むように。
「復讐屋に頼る気持ちを斬って捨てられる程、ボクは達観しちゃいないけど、ね」
　そんな仲間を横目に、エリシエル・モノファイユ（銀閃華・e03672）は肩を竦める。寧ろ天才肌故に、剣才に妬みや僻みを向けられる側だった。人の昏い感情も判っている。
「まあ、仮に便利なカミサマが存在したとしても。『押しつけられたハッピーエンド』なんて、ボクは御免被るけどね」
「そうだな」
　天音・迅（無銘の拳士・e11143）にしても、振り返れば失敗だらけの道程にも俯かずいようと表情を作る。
「オレがオレで在る為に……欺かねえ、偽らねえ。それがオレさ」
　少しでもイマを変えたいという決意に、復讐などにつけ込まれる隙間などない。
「それにしても……故郷を思い出しそうよ」
　程なく――開いたハッチからの寒気に、顔を顰めるエリシエル。真冬の北陸、ヘリオン翔ける高高度ならば尚の事。耐性を重視した彼女の防具特徴は生憎と真逆の温熱対応だ。
　とはいえ、ここまで来ればいつもと同じく。グラディウスを手に、ケルベロス達は次々と降下する。

●濁った瞳を光で射抜け
（「そりゃ人間だからな。気に喰わない奴の１人や２人いるだろう。死んじまえばなんて思う事もあるさ」）
　真っ先に飛び出したウタは、風圧に負けじと腹に力を込める。
（「だけど、本当にいなくなったら相当ショックだぜ。自分を責めて益々闇に呑込まれちまうよな」）
　『復讐』されて未来を永遠に閉ざされた人々や、その家族や友人を思うとやりきれない。
「人の心の闇を増幅し、この世に悪意の種をばら撒く復讐屋は少しずつこの世を闇に染めていく。心から未来への希望を奪う悪意の一刺しだ。見過ごせないぜ」
　グラディウスを構え、あらん限りに叫ぶウタ。
「命と！　心と！　それらが重なり合い響き合って紡ぐ未来へのハーモニーを！　途切れさせやしねぇ！　俺達地獄の番犬の牙を！　喰らいやがれ！」
「人の心を弄び、さらに復讐の連鎖を呼びこむ者にはここで退場いただきたいものだ」
　ウタと対照的に、レーグルは言葉少なに握り締めたグラディウスを振り被る。
「決して許すわけには行かぬ、この地を去れ」
「殺される相手にも家族という者がいるでしょうに……！」
　シャイターンが謳う『復讐』ならばきっと……被害は犠牲者だけでは済むまい。燻るデウスエクスへの憎悪を胸に、月夜は声を張る。
「復讐屋……こんな何も生み出さない、ただ悲劇を生むだけの存在は、私達がここで消し去ってみせます……！　砕け散ってください……！！」
　続いてヘリオンから身を躍らせたのは、シャドウエルフの魔術師であり暗殺者の少女。
「復讐屋という復讐を助長する手法は、単に人を殺戮するだけでなく、人々の間へ不和を広げる事に繋がります！」
　二重に人々の安寧を脅かす、悪辣な手段は許しておけない！
「その姦計を打ち砕き！　この地に平和を取り戻します！」
　常ならば冷静沈着なウィッカ。慇懃な口調ながら、自然と言葉尻に熱が篭る。
「魔空回廊よ！　私の全霊の一撃にて砕け散りなさい！！」
（「……ボクは、理不尽が嫌いだ。不条理が大嫌いだ。理屈の通らないものなんざ滅んでしまえとすら思う」）
　『復讐屋』への依頼には逆恨みもあっただろう。エリシエルは、『復讐屋』のお手軽感に嫌悪を覚える。
（「だけどこの世は舞台じゃない。理不尽も不条理もありふれていて、ハッピーエンドは約束されていない。嫌だ嫌いだと叫んで世界が変われば苦労はないし、機械仕掛けの神なんて便利なものは、この世の何処にも存在しない」）
　だからこそ。怒りも、嘆きも、妬みも、怨みも。自身で飲み込み踏み越えていくのだ！
「……お前らなんぞにくれてやる程、人の情ってのは安くないんだよ！」
「非戦闘員を巻き込んでおいてもっともらしい理屈をつけるなよ。ケルベロスを全滅させりゃあ後はやりたい放題だろうが！　せこせこやってんじゃねえっ！！」
　元より、一般人が犠牲になるのを非常に嫌う迅は、シンプルにぶっちゃけた。
（「復讐屋、か。そんなものが成り立つ以上、確かに人の業は深いのだろう………それでも、それをお前達が利用していい筈がない」）
　迅の明朗さに笑みが浮かぶも、一転して翳る和希の眼差しが、刹那、狂気染みた衝動に揺れる。
「人の業は、人が始末をつけるべきだ」
　無意識に零れた言葉を抱くように、和希はグラディウスを構える。
（「侵略者如きが手を付けるな。『復讐屋』風情が、いつまでも好き勝手出来ると思うな……ッ！」）
「ここからいなくなれェェェッ！！」
（「人の業は、人が始末をつけるべき、ですか……」）
　叫びに紛れたその呟きが、ダリルの胸の深くに刺さる。重い何かを呑み下し、光の刃に思いを託す。
「『復讐屋』だ、依頼だと聞こえはいいが、要するに貴様らが殺したかっただけの事」
　その責任を依頼人になすりつけ、のさばるシャイターンは許し難い。
「誘拐、失踪、復讐という名で殺め続け、薄汚い手でどれだけ多くの人を犠牲にした？」
　かつて、エインヘリアルに仕えていただろう頃の記憶は、ダリルにはない。けれど、もし『復讐屋』と同じような事をしていたならば。
（「ヴァルキュリアとしての業の決着は、私自身で」）
「今こそ、この地より貴様らを断ち切るッ！」
　――――！！
　８度の爆発と閃光の中、着地した和希は魔空回廊の方を見やる。
「……」
　漂うスモークの中、魔空回廊は未だ健在。乏しい表情で、奥歯をぐっと噛み締めた。

●復讐屋
　加賀の強襲型魔空回廊は、２回目のアタックも破壊成らず。
「さてと。そんじゃあ、後は三十六計といきましょうかね、と」
　それでも、ダメージは蓄積した筈。気分を切り替えるように、踵を返すエリシエル。すぐさま１箇所に集まったケルベロス達は、各自グラディウスを仕舞い込み、撤退を図る。
「こっちだ」
　ウタの先導で駆け出すケルベロス達。レーグルは不意打ちを警戒して周囲に目を配る。
　２度目と言えど１年ぶりの攻撃。周囲はまだ狂騒状態。このまま撤退出来れば何よりだったが……流石に、そうは問屋が卸さない。
「っ！」
「いよいよだな、気合を入れろ！」
　灼熱の炎塊が月夜に爆ぜた。盾ならぬレーグルに庇う術はなく、ウタがブレイクルーンを少女に宿す。
「貴様ら、よくも……」
　果たして、立ち塞がったのは薄汚れた風体のシャイターン。その姿はミッションで対峙する『復讐屋』と何ら変わりないが、逸早く正気に返っているのだ。その強さは侮れまい。
「さて、魔石に魔剣、今回はどれを使いましょう？」
　自問の口ぶりで、タンッと地を蹴るウィッカ。狙い澄ました飛び蹴りが奔る。
　雷気纏うエリシエルの神速の突きは敵を貫くが、迅の時空凍結弾は弾かれた。前衛の命中率が万全でないと見て、和希は冷静にオウガ粒子を放出する。
「手短に終わらせましょう。さあ、尽き果てるまで舞ってください」
　燎流二刀流奥義の一、散華――二本の刀にこれまで喰らった霊魂の呪いを纏わせ、目で追えぬ程の斬撃の嵐を繰り出す月夜。只管に強くあろうとする研鑽の成果ながら、倒すべき敵は単体だ。ここで威力が分散する範囲技は勿体無い。
　クククク――。
　包帯の下で、唇を歪めるシャイターン。初手からクラッシャーの一撃を喰らいながら、然したる痛痒を感じてないように見えるのは、包帯で表情が読み難い所為だけでもないだろう。
「ディフェンダー、だろうな」
　ポジションはレーグルの見立て通りだろう。だが、肝心なのは「どう対処するか」だ。
　どんなに強力な攻撃もエフェクトも、まず命中せねば無為となる。だが、全員の攻撃が命中するようになって、その次はどう動くか。その方策の一助が「ポジション」だ。
　『臨機応変』も備えていてこそ。例えば、クラッシャーならば重撃を凌ぐ策を、ジャマーならば速やかに厄を除く術を――レーグルはキャスターを警戒していた。勿論、１人で６通りもの対策を講じるのは厳しい。だからこその８人もの手数であり役割分担だ。
　大凡、見切りと命中率でグラビティを回すのが主流となっているが、短期決戦はより効率が求められる。敵の出方によって、エフェクトの取捨選択も必要かもしれない。
　ともあれ、ディフェンダーならば、目的は明らかに時間稼ぎ。案の定、復讐屋は懐から蛇を掴み出すや食い千切る。
　復讐屋の手の内はある程度知れている。すぐさま、肩越しに失われた面影を悼む「寂寞の調べ」を歌い掛けるダリル。
「――戦慄け、炎よ」
　レーグルの奪われた両腕に纏わる地獄の炎が、大きく揺れる。何れも仲間に破剣の力を齎す。復讐屋が固める防備を、急ぎ崩すべく。
　息つく暇さえ惜しい。和希のフロストレーザーに続き、エリシエルのグラインドファイア閃けば、凍結と炎上の相反する華が痩躯に爆ぜる。
「さあ、どう捌くんだい？」
　すかさず、突き抜ける衝撃波の嵐。隙の無い掌打から紡がれる迅の連撃は、訃報の拳牢。復讐屋が巡らせた蛇の護りを崩し、厄を抉り深めんと。
「契約に従いてその力を我が前に示せ！　其が宿すは腐敗の魔力、絶対なる傷を与える刃なり！」
　そして、ウィッカが召喚した悪魔【Sabnock】の力を宿す刃は、消えない傷を刻む。傷口にじわりと湧くのは、腐敗の申し子。重ねればヒールの率も急落しよう。
「……ククク」
　ケルベロスの猛攻に、痩躯を震わせる復讐屋。だが、怯まぬのは敵も同じ。収奪の指先は容易く前衛という壁を越えて月夜を襲う。眼力はデウスエクスも具える。命中率で実戦経験もある程度看破出来よう。
「護り抜こうぜ、地球と地球に宿る沢山の命の輝きを！」
　ウタの勇気をもたらす歌声が、月夜を癒し奮起させる。少女の応酬は、妖刀「鳳牙」と「狐徹」二振りの暴走を煽る喰霊殲神剣だ。
「謳え雷、地に響け」
　ダリルが破壊の鳴を高らかに謳う。レーグルの巨大なドラゴニックハンマーが唸り、凍れる一撃を放った。

●理想に寄るべくは
　時に炎を、収奪の指先を放ち、その合間に魔蛇を食い千切る――復讐屋の動きは、機械的なまでに正確。アンチヒールで回復量が減じていくからこそ、ヒールの頻度が高いのかもしれない。
　その回復量をも呑み込まんばかりに、ケルベロスは攻め立てる。ディフェンダーの護りを崩すならば、服破りを先に積むべきだっただろうが、織り込まれるのはエリシエルの雷刃突、和希の戦術超鋼拳くらいか。ダリルはズタズタラッシュと相性が悪く、ヴァルキュリアブラストを優先していた。
　命中率重視と見切り故に、大凡、追加ダメージの厄かホーミングや追撃、或いはジグザグ技に偏ってきている。短期決戦を狙うという割に、些か、作戦が大雑把だったかもしれない。
「大丈夫か？　もう少し頑張ろうぜ！」
　執拗に狙われる月夜をウタが癒し続け、時に迅が庇って快活に励ます。ダリルが盾となった時は、いっそ無口だ。
（「守り、耐え、そして倒す」）
　ダリルは記憶に空欄がある。もし、その空欄が復讐屋と同様の所業で埋められてしまうとしたら……それを打ち消したい想いも相まって。駆り立てられるようにチェーンソー剣を振るう。
「……っ！」
　何度目の生命の糧食か――蛇の頭を握り潰しながら、復讐屋は苛立たしげに周囲を見回す。ヒールにも限度がある。打たれ強さで凌ぎ続けてきたが、未だ、界隈の混乱は収まりきっていない。
「押しきります！！」
　その挙動に一気呵成、ケルベロス達は打って出る。シャーマンズカードを手に五芒星を描くや、【氷結の槍騎兵】を召喚するウィッカ。
「そこだっ！」
　初めて攻撃に転じたウタは、一呼吸の刹那の一閃を繰り出す。続くダリルも、過去のヴァルキュリア――己だったかもしれない存在へ、深く刻むように雷鎖を撃ち込んだ。
「来たれ、来たれ、来たれ……」
　和希の術式が蠢く異形を産み落とす。闇と光が混ざり合い、儚げに揺らめく小さなそれらは破滅を運ぶ。ドラゴニック・パワーを噴射し加速したレーグルのハンマーが強かに敵を叩き伏せ、迅の時空凍結弾も今度こそ痩躯を動きを凍らせた。
「おのれ……」
　歯噛みする復讐屋を前に、月夜は二刀を構える。仲間の尽力もあり膝突かずに済んだが、癒しきれぬ傷が小さな悲鳴を上げる。構わず無数の霊体を憑依させ、斬り付けた。その太刀捌きは、有名な二天一流とは異なる完全な我流だ。
　山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり――エリシエルも又、我流。捌き・見切り・回避を主とする軽戦士は、脱力した状態から縮地・無拍子を用いて一気に加速する。
「万理断ち切れ、御霊布津主！」
　防御・回避はおろか反応すらさせない斬撃が理想ながら、未だ至らぬ境地。それでも、エリシエル最速の斬撃を以て切り捨てた。

　――和希が理想とした短期決戦とは言えないまでも、一帯の混乱が収まる前にケルベロス達は撤退する。３度目の正直という諺を、信じながら。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年2月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。