失伝救出~偽りであろうとも、激情を胸に抗いて

作者:月見月

 薄闇の中、幾条もの影が目まぐるしく動き回り、赤々とした火花の華を散らしている。一つは渦を巻いた仮面をつけた者、螺旋忍軍その数5体。対するは厳めしい骨格を身に纏った者達、零式忍者その数4人。数の上ではほぼ互角ではあるが、形勢は明らかに零式忍者の劣勢で進んでいる。
 飛び交う影は瞬く間にその数を減らしてゆき……戦いが終わった時には、零式忍者達は全員が地に倒れ伏していた。敵の全滅を確認すると螺旋忍軍は闇に溶ける様に姿を消し、後には静寂のみが残される。
「ーーまだだ。まだ、終われない」
「もう一度、次こそは必ず」
 それを破ったのは、絶命したはずの零式忍者達。彼らは内心に渦巻く赫怒の念を力へと変え、死の淵より再び立ち上がった。血が滴り、激痛が体を蝕みながらも、彼らは戦う為に蘇る。何度も、何度も、殺されては怒りを糧に立ち上がり、挑んでは斃れる……彼らはその流れを繰り返し続けていた。
「何度挑めば、打ち破れるのか。そも、我々では勝てないのか……こんな時、彼らさえいてくれれば」
 だが、感情とは慣れ、摩耗してゆくものだ。繰り返しの中で、彼らが蘇るまでの時間が徐々に長くなっている。燃え盛っていたはずの怒りは掠れてゆき、立ち上がる気力が消えてゆく。そんな中、一人がぽつりと言葉を漏らす。不死不滅の神を殺し、死を叩き込む『彼ら』ならば、きっと。
「……私は、何を? 彼らとは、誰だ。デウスエクスを滅ぼせる者など、この世にいるはずが……」
「また奴らが来た! 今度こそ迎え撃つぞ!」
 浮かび上がりかけた何かは、警告の言葉によって雲散霧消する。零式忍者たちは得物を構えると、幾度目かもわからぬ戦いへと身を投じるのであった。


「寓話六塔戦争の勝利、おめでとうございます。今回、皆様に集まっていただいたのは、その勝利を届けてほしい方々が居るのです」
 集まったケルベロスたちを出迎えたのは、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)だった。
「先の戦いで救出した失伝ジョブの人達とは別に、未だ捕らわれたままの方々がいます。皆様には彼らの救出をお願いいたします」
 救出できなかった失伝ジョブの人々は、ポンペリポッサの用意した特殊なワイルドスペースに捉われ、そこで大侵略期の惨劇を繰り返し体験させられている。そこに出現するのはデウスエクス本体でなく残霊だが、彼らは自分自身を『大侵略期の人間』だと誤認させられており、まともに戦うことが出来ていない。幾度となく繰り返される死と敗北、その果ての絶望によって、彼らを反逆ケルベロスへと仕立てあげるのが、ポンペリポッサの目論みなのだろう。
「ですが、寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出する事が可能となりました」
 彼らの捕らわれているワイルドスペースへと突入し、繰り返される悲劇を粉砕することにより、彼らは希望と正しい認識を取り戻すことが出来るだろう。
「この特殊なワイルドスペースへは失伝ジョブのケルベロスのみが侵入することが出来ます。ですが、先ほども言った通り敵は残霊ですので、そこまで練度が高くなくても渡り合うことは可能でしょう」
 今回、敵として現れるのは螺旋忍軍が5体。対して、零式忍者として戦いを強いられている人々が4名。荒涼とし、明かりのない茫洋とした場所を戦場とし、両者は終わりなき戦いに身を投じ続けている。彼らも戦闘能力こそあるものの、度重なる惨劇の繰り返しにより大きく疲弊している点には注意が必要だ。
「共に戦い、螺旋忍軍を撃破できれば、彼らは確実に希望を取り戻せるでしょう。一方で、彼らは救出の対象でもあります。命を落とさぬよう、後方に下がって避難してもらうという選択肢もありますね」
 敵の螺旋忍軍は特殊な技を持たない、非常にスタンダードな相手であり、ケルベロス独力でも十分に戦えるだろう。安全に人々を救い出すか、共に戦い絶望を払うか、どちらの選択肢もメリット・デメリットを含んでいる。そこはよくよく考えて、作戦を構築しなければならないだろう。
「加えて注意してほしいのは、この『自らを大侵略期の人間である』という誤認識はワイルドスペースに留まる全ての人間に及びます。長時間居続ければ、皆さんも悲劇の登場人物として飲み込まれてしまう可能性があります」
 戦闘中であれば問題ないかもしれないが、その後は速やかにワイルドスペースより離脱すべきだろう。捕らわれた人々も希望を取り戻し、誤認識を取り除くことが出来れば一緒に離脱できるはずだ。
「ワイルドスペースで起きる惨劇は、恐らく実際に過去で起きた出来事なのでしょう……こんな悲劇を前に戦い続けてきた先人たちの為にも、彼らを必ず助け出しましょう」
 そう話を締めくくると、セリカはケルベロスたちを送り出すのであった。


参加者
ファルゥ・スメラギ(向日葵兎・e44272)
ジゴク・ムラマサ(復讐者・e44287)
ルデン・レジュア(夢色の夜・e44363)
アリカ・ノッツォ(リトルクローザー・e44468)
加藤・刻(キュバスのシヨーケン・e45075)
ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)
慈次・スラッグ(己を問え・e45239)
グルガン・ゴールディオ(剛健巨躯・e45335)

■リプレイ

●終わらぬ悲劇を断ち切るために
 無明の暗闇に、静寂が満ちている。その中には、血だまりと共に倒れ伏している四つの死体があった。暫しの静寂ののち、それらはむくりと立ち上がる。
「まだだ……まだ、終わらない」
 死体は、四人の零式忍者として蘇った。するとそれに応ずるように、じわりと五体の螺旋忍者が姿を現す。両者は互いの姿を認めると、得物を手に戦闘を開始した。
 零式忍者たちはこの流れを繰り返し続けている……何度も、何度も。だが両者の間は圧倒的な力量差があり、決して勝利することはない。
「くっ、やはり、我々では勝てないのか……敗北以外の、道は」
 全力で挑むも、敗北は必定。ゆえに此度もまた決められた終わりに至る……。
「希望を求むるか? ならば手を取れ。私たちが与えてやろう」
 はずだった。だが、振り下ろされた日本刀は、慈次・スラッグ(己を問え・e45239)の手にした二振りの喰霊刀によって受け止められていた。
「案外根性あるじゃない。でもそうね、この先はわたし達に任せてもらえるかしら。ごめんなさいね、これも仕事なの」
「貴方たちは……味方、なのか?」
「大正解。お助け遅くなってサーセン的な? 来るの遅い的なお怒りはご尤もだけど、とりまそのお怒りはオレさん達に一旦預けて下さいな?」
 呆然とする零式忍者たちを庇うように、ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)と加藤・刻(キュバスのシヨーケン・e45075)を始めとするケルベロスたちが、螺旋忍者の前に立ちふさがる。
「……我らデウスエクスに楯突くとは何たる無謀。貴様ら、何者だ」
「ドーモ、螺旋忍者=サン。ジゴク・ムラマサーーケルベロスです」
「ける、べろす……」
 螺旋忍者の剣呑な問いかけに怯むことなく、ジゴク・ムラマサ(復讐者・e44287)は左掌に右の拳を当ててアイサツを返す。一方、零式忍者たちはケルベロスという単語が理解出来ないままそれを呟いている。
(「やはり、大侵略期の人間だと誤認させられているのか」)
 自らの巨躯で射線を防ぎながらグルガン・ゴールディオ(剛健巨躯・e45335)は零式忍者達の様子を観察する。彼らは己を大侵略期の人間として認識している。その時代の人間がケルベロスなど知るはずもない。
「助太刀、感謝する。我らも共に……!」
「貴方たちは……可能なら後ろから支援して欲しい……その代わり、見てくれ……君らが望んだ私達を」
「勝つのは大事ですが、生きて帰るのはもっと大事です! もう絶望の繰り返しなんてさせません、ファルゥ達がこの幻想を終わらせます!」
 だから、どうかここは任せてほしいと、ルデン・レジュア(夢色の夜・e44363)とファルゥ・スメラギ(向日葵兎・e44272)は前面に立とうとする零式忍者達を押しとどめる。零式忍者たちは一瞬躊躇するも、ケルベロス達の自信にあふれた言葉に静かに頷いた。
「分かった。だが微力ではあるが、こちらも全力を尽くさせて貰おう」
「数を揃えたところで所詮は塵。そやつらの力量を見ていれば、貴様らの実力も程度が知れる」
 零式忍者の言葉を一笑に付す螺旋忍者。その物言いに眉をひそめたアリカ・ノッツォ(リトルクローザー・e44468)が、真正面から相手を見据えて反論する。
「確かに、あたしは修行とかそーゆーのちょっとワカんないけどさ……死の淵から立ち上がるだけの想いが報われなかったり、捻じ曲げられたりするのはちょっと許せないよね。だから、勝つよ」
「口先だけならなんとでも言えるわ!」
 刹那、十七もの影が交錯する。かくして、暗闇の中で無数の火花が散り始めるのであった。

●神の残滓、神殺す番犬
「目の前でやられるのは目覚め悪いし……忍者ってあれよね、速くて油断ならないのよね?」
 戦闘開始時、誰よりも速く動いたのはゲンティアナであった。相手は縦横無尽な動きと搦め手が専売特許である。彼女はまずはその動きを封じるべく、無数の黒鎖を作り出し、行動の自由を封じにかかった。
「多少は知恵は回るが、所詮は小細工……むっ!」
「それなら、これはどうかしら。暗闇で動けても、霧の中は見通せる?」
 黒鎖をかいくぐる螺旋忍者の視界が霧に包まれた。霧の源はアリカのコンテナに詰め込まれたガジェットだ。それは戦場に充満し視界を奪うとともに、後方の零式忍者達を包み隠していった。
「さぁ、今の内に皆さんの怪我を治してしまいましょう。シロさん、クロさん、行きますよ!」
 その隙にファルゥは得物である宝珠を内包したぬいぐるみ達を周囲へとかざす。この空間に浸み込んだ血と敗北の記憶から魔力を抽出することにより、傷を癒してゆく。
「させんよ、手負いから仕留めるのが戦の常道。 霧の中でも明かりがよく見えるわ!」
 持ち込んだ光源は視界の確保に役立つ一方、己の位置を知らせる事にも繋がる。螺旋忍者の一体が鎖を突破、霧中のファルゥ達目掛け吶喊する。
「それこそ、こちらの台詞だ……夜の終わり、始まる我ら、刮目されし色彩よ。花となりて世界を映せ……『夢幻色/紫』」
 しかし霧に突入する寸前、その動きが止まる。霧をまるでキャンパスかの如く、紫色の華が染め上げたのだ。ルデンの書き上げた華は花弁を刃と変じさせ、螺旋忍者の全身を切り裂いてゆく。
「なっ……力量が奴らの比ではない!?」
「これが俺たちの力だ。デウスエクスを倒す、ケルベロスだ」
 仲間が返り討ちにあう光景に螺旋忍者は驚愕する。一瞬だけそちらへ注意が向いた隙に、慈次は手にした刀に呪詛を乗せて斬撃を放った。そうして螺旋忍者を押し返すと、背後の零式忍者たちに声を掛ける。
「激痛や屈辱に耐えなおも怒りを抱き続けるその心意気や良し。だが心が折れては面白くない。お前達は弱いのではなく、未熟なだけだ」
「しかし、デウスエクスを……我らの技で殺すことは」
「だったら、あの姿を見ると良い」
 目の前で繰り広げられる光景に、実力の差を感じていた螺旋忍者達。だが、慈次の指し示す場所で行われていた光景に、彼らは大きく目を見開く。それは目にもとまらぬ斬撃と拳打の応酬の中、紅の骨装具足に身を包んだジゴクの拳が螺旋忍者を吹き飛ばす姿であった。使われる技は、まさしく零式忍者のもの。
「……我らが螺旋忍者を屠る。奴らは滅することができるのだ。それを今から証明する。イヤーッ!」
「ほざけぇっ!!」
 吹き飛ばされた螺旋忍者が日本刀を振りかぶる。だが、怒りに任せた攻撃は精彩を欠き、大きな隙が出来ていた。刹那、螺旋忍者の頭が両腕でがっちりと掴まれ……。
「終わりだ、螺旋忍者よ。タンカを詠め、介錯してやる」
「わ、我らが死ぬなど……!」
「読まぬのであればそれでも良い。貴様らの末路は変わらん……イヤーッ!」
 裂帛の気合いと共にねじ切られる。頭を落とされた螺旋忍者は、絶命するや跡形もなく消滅した。
「デウスエクスがコギトエルゴスムとなる事無く……死んだのか!?」
「さてさて、コイツを見てアンタさん方はどうします? このまま後ろで見てるのもいいですし、それともオレ達の怒りはこんなモンじゃねぇと抗うのも大歓迎的な? ……どっちを選ぶかはアンタ方次第よ?」
 大鎌を投擲し、妨害に徹していた刻が零式忍者たちに問いを投げかける。だが刻は、螺旋忍者たちの表情から既にに答えが決まっている事を感じ取っていた。
「そんなの……決まっている」
「貴方がたが示してくれた希望に、我らも応えたい!」
 傷を癒し、心を奮い立たせた零式忍者たちが動き出す。勿論、これで実力が劇的に上がる訳でもなく、あくまでもサポートに徹している。だが、その動きには先ほどまでは無かった活力が満ちていた。
「おのれ、一人二人息の根を止めてやれば、その思い上がりも消し飛ぶか!」
「そうはさせん、ようやく彼らに希望が灯ったのだ……今まで培ってきたのはこのような時のためだ……盾の矜持を見せてやろう……」
 手裏剣を投擲せんとした螺旋忍者の前に、グルガンが立ちふさがった。構わず放たれた攻撃を超鋼ですべて受け止めると、返す刀で相手の手裏剣を打ち砕く。
「ふんっ、浮かれたところで実力の差は変わらん。最後に勝つのは我らよ」
「今までそうだったからといって、これからも変わらない保証なんて無いわよ。今さっきの光景を見ていなかったのかしら?」
 冷静に徹する螺旋忍者を前に、喰霊刀を手に不敵な冷笑を浮かべるゲンティアナ。彼女の言う通り、少しずつ戦いの趨勢は変わり初めているのであった。

●古き惨劇、新たな時代
 戦況が変わり始めても、螺旋忍者は零式忍者達への攻撃の手を強めていた。零式忍者を落とせれば士気を挫けるし、そうでなくともケルベロスが援護に回らざるを得なくなるからだ。
「多少の不利など、一手打ちこめば覆せるわ!」
 螺旋忍者のうち二体が手裏剣を雨あられと放ち面で圧力を加え、残りの日本刀持ちが陣形を突破せんと試みる。
「目の前にわたし達がいるのに行かせないわ。それこそ、そこの忍者が許さないでしょうし」
「うむ、怒りによる蘇りの苦しみを、これ以上繰り返させてはならぬ。誰一人も欠けることなく救い出す! ワッショイ!」
 だが、ケルベロス達とてその狙いは百も承知だ。弾幕にひるむことなく、ゲンティアナの横からジゴクが飛び出してゆく。手裏剣と斬撃を受けながらも、電光石火の蹴りで相手を自陣へ向けて蹴り飛ばした。
「先程はうまく避けたようだけれども、その様子じゃ今度は難しいようね……お逝きなさい」
「まて、やめっ……!?」
 指にはめられた指輪型の宝珠。そこからあふれ出した漆黒の粘液が螺旋忍者を包み込むと、一欠けも残すことなく捕食するのであった。だが、また仲間が一体やられたのを尻目に、もう一方の日本刀使いが無理やり陣形を突破する。
「何が希望だ! そんなもの、一太刀浴びせれば無残に散る!」
 速度を緩めることなく刃を放つ螺旋忍者。流水の如き軌跡は横薙ぎに戦場を走り、相手を纏めて断ち切らんと襲い掛かる。
「……これでも、すばしっこさにはちょっと自信があるのよね」
 それを阻むのは、全力で前線より舞い戻ったアリカだった。無数のガジェットを瞬時に展開し、攻撃を殺してゆく。彼女の稼いだ時間によって零式忍者たちはその場より離脱していった。
「おのれ小娘が!」
「させん、今度は我らが助ける番だ!」
 攻撃を受け止めたアリカへ、ならばと太刀を振り下ろす螺旋忍者。すかさず、零式忍者による援護が入る。四方より繰り出される雷撃は微々たるものだが、それも積もり積もれば馬鹿には出来ない。
「ぐっ、体が……!」
「さぁ、お帰りはあっちだ、よっと!」
 迸る電流が体の自由を奪った。駄目押しとばかりに鞭状になったアリカのガジェットに拘束されてはもはや手も足も出ず、元来た方向へ叩き返される。
「あら、もうお帰りで? ならオレさんとHなコトして愉しみましょうよ? HはHでもHellの方だがなァーーー!」
 勿論、ただで返すはずもなく、待ち構えていた刻が手にした大鎌を下段から上段へと、円を描くように振り上げる。鎌の刃は螺旋忍者の胴体へと吸い込まれるや、全身へと呪詛を流し込み、ボロボロと崩壊させていった。
「な、何なのだ……貴様らはなんなのだ!」
 これで倒されたのは三体、劣勢が決定的となった螺旋忍者たちが怯え交じりに声を上げる。それに対し威圧するように、グルガンがゆっくりと歩み寄る。
「俺は復讐者だ。デウスエクスを殺す、ただそれだけの為に力を蓄えてきた……ケルベロスだ」
 ボワリと甲冑の隙間より地獄の炎を漏らしながら、グルガンが片手半剣を構える。
「そして、今がその時だ……!」
 小細工なしの、渾身の力を込めた薙ぎ払い。込められら気迫に足がすくんだ螺旋忍者は回避が一拍遅れ、直撃を受けてしまう。
「ここで終わらせましょう! し、シロさん、クロさん、お願いします……!」
 決めるならば、いま。そう判断したケルベロスは決着をつけるべく一気に攻勢をかける。それまで支援に徹していたファルゥは二体のぬいぐるみを融合、巨大なツギハギ兎のぬいぐるみを召還。突如として現れた巨体に螺旋忍者は為すすべもなく押し潰される。
「ふ、ふざけた技を……!」
「それでは不満なのか? なら、これならば未練なく逝けるだろう……俺の目を見ろ」
「ぎ、がぁ」
 何とか抜け出した螺旋忍者と慈次の視線が交錯する。瞳の奥に隠された狂気が相手の精神を蝕み、抵抗すら許さずに切り捨てた。これで残るは1体。
「勝てる、のか……本当に。螺旋忍者に、零式忍者が」
「その答えは……いま目の前で証明されたはず。実は私も使えるんだ。だからさ、君達はもっと上手に使えるはず」
 最後の抵抗として放たれた螺旋氷縛波を身をひねってかわし、ルデンはその勢いを利用して拳を放つ。
「そうか、思い出した。あれが、あれこそが……ケルベロス!」
 零式忍者達へ魅せるような一撃は仮面に包まれた顔面を打ち抜き……戦いの終わりを知らしめるのであった。

●帰還、現代へ
 戦闘は零式忍者たちが一人も欠けることなく、ケルベロスの勝利にて終わった。だが、それを喜んでいる時間はない。
「さって、この空間には興味はありますが、すぐに離脱しませんとね」
「んじゃチャッパとこんなトコからオサラバして、サテンでモンティーパーチーでもしません?」
 それぞれの得物を仕舞いつつ、アリカと刻が出口を指し示す。すぐに零式忍者達と共に脱出しなければ、認識誤認に巻き込まれてしまうだろう。
「と、その前に、怪我はありませんか? 脱出前に治療だけはしてしまいましょう」
「もし……動けないなら運んでやる……」
「す、すまない。気を抜いたら一気に……感謝する」
 その前にと、ファルゥが戦闘中に負った傷を治療してゆく。また初めての勝利に緊張の糸が切れたのか、腰を抜かしていた螺旋忍者達へルデンが手を貸していた。
「事情の説明は……今更不要か」
 その光景を眺めながら、慈次は零式忍者達の様子を見やる。希望と共に、彼らが記憶を取り戻したのは明白であった。ゲンティアナもそれを承知した上で、表面上はそっけなく、しかして暖かさを秘めた言葉をかける。
「今生きてるのはあんた達が心折れずに頑張ったから。そんだけ出来るなら、わたしから何か言うつもりはないわ」
「うむ、よくぞ生き抜いた。よく……生きていてくれた。さぁ、新た世はすぐそこにある」
 仮面を外したジゴクは、そっと零式忍者へ手を伸ばす。
「他にもお前達と同じように抗っている仲間もいる。もう怯えるだけの時代は終わったのだと、知っているはずだ」
「……ええ。思い出しました。そしてもう、決して忘れません」
 グルガンの言葉にしっかりと頷くと、零式忍者は差し出された手を取る。絶望の時はもう過ぎ去ったのだと、確かな実感と共に、彼らは現代に帰還するのであった。

作者:月見月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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