恐怖、みかんの花が襲い来る?

作者:秋津透

 和歌山県有田市、郊外。
 有田みかんで有名なこの地域には、それこそもう至るところにみかん畑がある。そのほとんどは十二月中までに収穫を終えているが、樹上熟成などで袋をかぶせた実が残っているものもある。
 だが、いくら何でも、この時期に花が咲いているのはおかしい。みかんの花は、どの品種でもおおむね五月頃に咲く。しかし、畑の中で一本だけ、花を咲かせている木がある。
「……狂い咲きか?」
 この地でみかんを育てて五十余年、花が咲いているみかんの木がある畑の主であるみかん農夫の老人が、眉を寄せながら木に近づいてしげしげと花を見やる。すると、その瞬間、花を咲かせていたみかんの木は、根を地から引き抜き枝を動かして老人を捕らえ、幹を大きく裂いて口を開け、そのまま中へと押し入れる。
「うわあああああああああ!」
 不意を突かれた老人は、抵抗もできないまま花咲くみかんの木の中に取り込まれてしまう。すると、みかんの木の陰から少女……の姿をした攻性植物「鬼縛りの千ちゃん」が現われ、けらけらと笑いながら告げる。
「人は自然に還るのが一番なんだから。これって、人助けよね」
「お、お前が、儂の大事なみかんの木を……」
 狂わせたのか、と、みかんの木に取り込まれた老人は無念そうに唸ったが、そのまま意識を失う。
 そして、内部に老人を取り込み凶猛な攻性植物と化したみかんの木は、満開の花を咲かせてのそのそと動き出したが、その時にはもう「鬼縛りの千ちゃん」の姿は、その付近にはなかった。

「みかんといえば、冬にコタツでみかんですが、花が咲くのは五月なのですね。寡聞にして存じませんでしたわ」
 ルイーゼ・アミテージ(硝煙漂うゴスロリドリルお嬢・e41626)が感心したような表情で告げ、ヘリオライダーの高御倉・康が、対照的に難しい表情で告げる。
「和歌山県有田市郊外のみかん畑で、みかんの木が攻性植物に変化し、所有者であるみかん農家のお爺さんを内部に取り込んで暴れ始めるという予知が得られました。これは、「人は自然に還ろう計画」を行っている5体の人間型攻性植物の一体、「鬼縛りの千ちゃん」の仕業と思われますが、今から現場に急行しても、「鬼縛りの千ちゃん」を捕捉することはできません。既に地元の自治体や警察には連絡して、付近一帯から住民を避難させ、立ち入りを禁止してもらっているので、皆さんには急遽現場に向かい、攻性植物を撃破し、できれば取り込まれたお爺さんを助けてほしいのです」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。攻性植物は一体のみで、配下はいません。取り込まれた人は攻性植物と一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます。ですが、相手にヒールをかけながら戦うことで回復不能ダメージを蓄積させ、攻性植物だけを殺して取り込まれていた人を救出できる可能性があります。それから、手加減攻撃でダメージを与え過ぎた場合、攻性植物は死なないのに取り込まれた人だけ死んでしまう、という大変不都合な状況が生じる可能性がありますので、充分に注意してください」
 そう言って、康は一同を見回す。
「攻性植物のポジションはクラッシャー。使用グラビティは、満開に咲かせている花から光線を一点集中で放つビーム、大量の催眠花粉をぶちまける列攻撃、黄金のみかんを結実させて自分を癒す、という三つです。取り込まれた人を助けようとすると、戦闘の際に細心の注意が必要になりますが、その時に催眠をかけられていると、肝心なところでミスが出てしまう危険性がありますので、気を付けてください」
 そう言うと、康は表情をあらためて続ける。
「おそらく長時間の戦闘で、周辺はかなり荒れるでしょう。取り込まれた人は、そのあたり一帯のみかん畑の持ち主なので、無事に救出できても、攻性植物と化して討伐されたみかんの木や、めちゃくちゃになったみかん畑を見ると、がっくり落胆してしまうかもしれません。救出そのものが相当の難事なのに、その後のフォローまでお願いするのは大変心苦しいですが、配慮していただければ幸いです」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
灰野・余白(空白・e02087)
ゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)
カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)
李・風美(胡乱でチャイナな瓶底眼鏡・e40773)
ルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)
ルイーゼ・アミテージ(硝煙漂うゴスロリドリルお嬢・e41626)
オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)

■リプレイ

●持久戦は忍耐だ!(当たり前だ!)
「……あれね」
 和歌山県有田市、郊外のみかん畑に降り立ったメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は、季節外れの満開の花を咲かせ、かつのそのそ動いている思いっきり怪しいみかんの木を見つけて呟いた。
 そしてメリルディは、続いて降下してきたゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)に告げる。
「私は反対側に回るわ。あなたは正面にいて、あとから降りてくる人たちに配置の指示をして。……指示なしで包囲陣形取れるようならいいんだけど」
「了解した。状況を見て、対応しよう」
 今回の参加者中唯一の男性である竜派ドラゴニアンのゼルガディスは、重々しい口調で応じる。
 小さくうなずいて、メリルディは反対側に回り込み、攻性植物化したみかんの木を観察する。
 ゆっくり動いていることを除けば、普通のみかんの木と変わらないように見えるが、幹の一部に不自然に膨らんだ大きな瘤のようなものがある。おそらく、あそこにご老体を閉じ込めているのでしょうね、と、メリルディは推定する。
 その間にも、降下してきた灰野・余白(空白・e02087)ルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)ルイーゼ・アミテージ(硝煙漂うゴスロリドリルお嬢・e41626)らが次々に配置につく。
 そして、李・風美(胡乱でチャイナな瓶底眼鏡・e40773)とオリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)が奥側左右に入り、全員が包囲配置についたのを見計らって、メリルディは割り込みヴォイスを使って宣告した。
「それじゃ、始めるわよ」
 言い放つと、メリルディは石化魔法の呪文を放つ。最初の一撃だし、いくら何でもこれでオーバーキルすることはないとは思うが、念のため瘤のあたりは避け、やや下方、蛸足状になった根のあたりを狙ってみる。
「!!!」
 魔法光線に直撃された攻性植物は、全身を激しく震わせる。ばきばきと破壊音を立てて幹の皮が剥がれ、花をつけた小枝が落ちる。そして、瘤が上方から裂け、人の頭らしきものが幹の奥に覗く。
 すると攻性植物は、残っていた花も一斉に落とし、いくつかの果実を結ぶ。複数の黄金みかんが一斉に輝き、瘤の裂け目を塞ぎ、新たな枝を伸ばす。
「なるほど……どの程度参っているかは、瘤の裂け目の大きさから判断すればいいわけだな」
 ゼルガディスが呟き、突進して重力蹴りを見舞う。直撃された大枝が折れ、黄金みかんが一斉に落ち、塞がった瘤の裂け目が開く。
「ふぅむ……そやけど、さっき自己ヒールしとったな。てことは、BS耐性ついとるんか?」
 ほなら、オーバーキルになる心配ないうちに、ブレイクしといたろか、と、余白は重力蹴りの予定を変更。早々と、オリジナルグラビティ『手刀・一気通貫(シュトウ・イッキツウカン)』を繰り出す。
「ぶち抜けッ!」
 白と黒の闘気を螺旋状に左腕に纏わせ、余白は気合と共に攻性植物を貫く。瘤への直接攻撃は避け、低い体勢から根の部分を削ぎ落とすように打ち込む。
「瘤は避ける……了解」
 淡々と呟いたルエリラが、二張りの妖精弓を無雑作に束ね、神々をも殺すと称される漆黒の巨大矢を放つ。巨大矢は攻性植物の上部を貫き、大小さまざまな枝葉が折れ落ちる。
「みんな、やるね。これは、攻撃が行き過ぎて倒してしまわないよう、用心した方がいいのかな?」
 そう言いながら、カトレアは縛霊手から紙兵を放出、前衛にBS耐性を付与する。
「ちなみに私が敵を治癒すると、BS耐性やキュアが付いてしまって、せっかく付けたBSまで消えてしまうんだ。どうしても緊急の場合はやむを得ないけど、できれば、そういう付加効果のない治癒ができる人に頼みたいな」
「い、いきなり、そんなこと言われましても! 私の治癒も、キュア効果付きですわ!」
 狼狽した声を出すルイーゼに、メリルディがすかさず告げる。
「大丈夫、瘤の裂け目の大きさから見て、まだ敵の体力には余裕があるわ。攻撃して大丈夫よ」
「わ、わかりましたわ!」
 うなずいて、ルイーゼはバスターライフルを撃ち放つ。しかし、動揺したせいか、あるいはレベル差のせいか、攻性植物は放たれた魔法光線を躱す。
「お、おのれ生意気な!」
「仕方ないアルよ。ディフェンダーの本分は、攻撃より防御アル」
 そしてスナイパーの本分は命中アル、と、風美は愛槍『奇槍・転回』を振り回す。掠めた程度だが攻撃は命中し、攻性植物の根に損傷を与える。
「OK! では、YAGYUのニンポーをお見せいたしマース!」
 分身の術で囲い込みマース、と、オリビアはだだだっと木の周囲を走り回る。確かに残像がいるようないないような気もするが、何か効果があるようには思えない。
「……確か、螺旋忍術の『分身の術』って、単体ヒール、BS耐性付与の技だったわよね?」
 何か間違ってるみたいだけど、大勢に影響なさそうだから、ま、いいか、と、少々複雑な表情で呟くと、メリルディはオリジナルグラビティ『道化師の涙(ラルム・デュヌ・クルーン)』を発動させる。
「……抱えてるもの、教えて?」
 メリルディの呟きに応じ、彼女が共生する攻性植物『ケルス』が繁茂、攻性みかんの木を支えるように絡みつき、アルメリアの金平糖を分け与える。
 驚異的なヒール効果が生じ、捕らえられている老人の胸元あたりまで開いていた瘤の裂け目が、頭頂がかろうじて見える程度まで戻る。
「……救出のための作戦やとわかっちゃいるんやけど、敵を治癒するのは、どーも損しとる気になるわ」
 憮然として呟く余白に、ゼルガディスが応じる。
「いや、メリルディのヒールは強力だが、付帯効果は共鳴だ。根の方の傷は、そのまま残っている。それに、これだけ治癒されれば、攻性植物が自己治癒を重ねてキュアすることもあるまい」
「……ちょっと待ちぃな? 自己治癒せんってことは、攻撃してくるんか?」
 余白が突っ込みを入れると同時に、攻性植物が無数の花を一斉に咲かせ、大量の花粉を前衛へとぶち撒く。
「ぬおっ!」
 花粉を浴びかかった余白の前へ、ゼルガディスが飛び出して庇う。ルイーゼとオリビアには庇いは発動せず、それぞれ自分に放たれた花粉を受ける。
「ダメージは、たいしたことはないな。厄介なのは催眠効果だが……」
 庇った余白の分もダメージを受けながら、ゼルガディスは落ち着いた口調で呟き、ゾディアクソードを掲げて自分を含めた前衛に治癒とBS耐性を付与する。
「よし、大丈夫だ。間違って敵にBS耐性を付けてしまったら、ブレイクしてもらわねばならんところだったが」
 それでも、味方を攻撃するよりはマシだからな、と、ゼルガディスは小さく笑う。
 これが戦術家っつーもんかいな、と、余白はちょっと感心した表情でゼルガディスを見やったが、すぐに突進して攻性植物に重力蹴りを見舞う。
「お前の攻撃なんぞ、効かへんのや!」
 罵声とともに蹴りを打ち込むと、瘤が再びばきりと裂ける。そこから覗く老人の顔へ、余白は相手に意識がないと知りつつ、思わず告げる。
「がんばりや、爺ちゃん! 必ず、助けるで! お前さんがおらんくなったら、このあたりのミカンがみーんな手入れもされんままになるんやからな!」
「助けるには、持久戦……植物に粘り勝ちするには、戦術と根気が必須……」
 呟いて、ルエリラが石化魔法を放つ。ばき、ばきと音をたてて樹皮が剥がれ、瘤の裂け目が大きくなる。
「じゃあ、前衛に治癒だ……頼むよ」
 楽譜型シャーマンズカードを取り出したカトレアが、和服を着た少女歌手姿の御業を召喚する。
「今回の曲は書き下ろしだ。ご老人の趣味に合ってくれたら嬉しいね。それではここで一曲……『有田情熱節』」
 カトレアが告げると、御業が伝統的な演歌を朗々と歌いだす。
「Oh! ジャパニーズカントリーソング、ENKA! 癒されマース!」
 オリビアが叫び、ルイーゼも少々当惑気味の表情ではあるが、しみじみと呟く。
「聞き慣れないメロディですけれど、心に沁みますわね……」
 そしてルイーゼはえいやとジャンプし、自分を含む前衛に癒やしの花びらオーラを降らせる。
「これで完全回復ですわ! ……少なくとも治癒可能分は」
「ほいほーい、それじゃ遠慮なく攻撃イクアルよ~!」
 風美が応じ、オリジナルグラビティ『硬貨絢爛・金吹雪(コウカケンラン・カナフブキ)』を発動させる。
「現金、実弾、バラ撒くアルヨー! そーれ! じゃんじゃん・ばりばりーっ!」
 ぱか、と風美はがま口を開き、中から一円玉、五円玉、十円玉を空中にばら撒く。低額硬貨ばかりなのは、本人に言わせるとアルミや銅は魔法と相性がいいという、素材の問題だそうである。
 そして撒かれた低額硬貨は、与えられたグラビティによりいったん空中に留まり、高速回転しながら攻性植物に襲い掛かる。
 別に硬貨が低額だからではないだろうが、威力はあまり大きくなく、樹皮の厚いところ……瘤の周辺に当たったものは弾かれる。しかし傷が残っている根の部分は容赦なく削り、食い込む。そのため、ダメージは小さいが、「足止め」BS効果を効率よく高める。
「Oh! ザッツナイス! デハ、ワタシもBS付与を狙いマース!」
 ジャパニーズサムライワザ、エンゲツ・サッポー、と叫んで、オリビアは手にした日本刀『愛(ラブ)・ミー・典太(テンター)』をぐるぐる回す。たぶん月光斬を出そうとしているらしいが、全然効果がない。
「ウーム、ヤハリ命中率21%デハ、当たりまセンネ! HAHAHAHAHA!」
「……命中率の問題じゃないような気もするけど」
 でもまあいいか、と、メリルディは再び、『道化師の涙(ラルム・デュヌ・クルーン)』で攻性植物の治癒を行った。

●救出作戦は繊細だ!
「ストーップ! ストップストーップ!」
 もう、どのくらいの時間、戦闘していただろう。削っては治癒し、治癒しては削り、その繰り返しが嫌になるほど繰り返されたところで、メリルディが大声で叫んだ。
「攻撃を止めて! 攻性ミカンは、限界寸前よ!」
「……やっとか」
 呟いて、ゼルガディスは敵を見据える。既に瘤は大きく裂け、老人の全身が見える状態になってはいるが、身体を縛る蔓は解けておらず、意識も戻っていない。
「……まだ、無条件で助けられる状態ではなさそうだが、限界という根拠は?」
「治癒の効果が出ないの。見て」
 メリルディに促され、一同が手を止めて見守る中、攻性植物は黄金のミカンを結実させ、自分を癒そうとする。しかし、ミカンは光り輝くが、瘤の裂け目は少しも塞がらない。
「治癒不能ダメージが蓄積されたか」
「その通りよ。だけど、難しいのはここから。攻撃が強すぎてオーバーキルしてしまうと、攻性ミカンと一緒にご老体も死んでしまう。ここまでの苦労が水の泡ってわけ」
 そう言って、メリルディは一同を見回す。
「いちばん、弱い攻撃を持っているのは誰? たぶん、列攻撃になると思うんだけど」
 当たらない攻撃じゃなくて、弱い攻撃よ、と念を押されて、ゼルガディスと風美が手をあげる。
「オリジナルグラビティ『雷爪刃(ライソウジン)』が列攻撃だ。ダメージは300から400ぐらい」
「ワタシは列攻撃、レガリアスサイクロンとグレイブテンペストがアルヨ。ダメージ、300いかないネ」
 ワタシの方が弱いアル、と、風美は胸を張るが、メリルディは眉を寄せて唸る。
「あなたはスナイパーよね? 命中率100%越してると、こういう時に限って威力アップが出る危険性があるのよ」
「それじゃ、命中率見るアル」
 応じて、風美は満身創痍の攻性ミカンを見据える。
「64%と93%……スナイパー補正つけても100行かないアル」
「……こっちが100越えだ。ここは、任せた」
 ゼルガディスが告げ、メリルディはうなずいて風美に告げる。
「それじゃ、任せた。頼むわよ」
「お任せアルよ」
 請け合って、風美は攻性ミカンの前に立つ。生来、プレッシャーとは無縁と自称する彼女にも、さすがにぶるぶると武者震いが来る。
「攻性植物どもは普通の植物にも非情なんか! 植物に育ての親を襲わせるてどういうことや!! お爺さんのためにも、みかんの木のためにも……ウチはやったる! やったるで!」
 いつものエセチャイナ言葉とは違う、本気の関西弁で言い放ち、風美は『奇槍・転回』を構える。
「喰らえ! 最弱! 救命グレイブテンペスト!」
 これで外すとさすがに格好悪いので、命中率の高いグレイブテンペストを選び、風美は老人を縛る蔓の根元へ旋回する槍を打ち込む。
 広範囲へ弱い衝撃が波及し、老人を縛る蔓がぶちぶちと切れる。瞬間、風美は槍を放り出し、老人の元へ飛び込む。
「やったでー! 生きとるでー! 救出成功やー!」
「でかした!」
 老人を抱えて飛び出してきた風美に、一同がどっと沸き、喝采を送る。
「デハ、最後のトドメはワタシのオリジナルグラビティ『加州柳生殺法:焔零将(カリフォルニアヤギュウサッポウ ホレイショウ)』デ……」
 そう言って、オリビアが『愛・ミー・典太』を振り上げるが、そこへメリルディが制止の声をかける。
「とどめ不要! さっきの一撃で、攻性植物は死んでるわ」
「え? デモ……」
 ごう、っと炎を上げ始めた刀を手に、オリビアは当惑した表情になる。
 すると風美が、少々きつい口調で告げる。
「斬り刻むならまだしも、焼くのはダメある。攻性植物に取り憑かれた地球の植物の遺体は、貴重な資料アル。ケルベロスの研究機関で高く買い取るネ。お爺さんの財産アルヨ」
「それに、みかんの木は熱に弱いのよ。みかん畑で焚き火をしようとした馬鹿は、問答無用で水ぶっかけられるぐらいなんだから。その刀の火を、すぐ消して」
 メリルディにきつく言われ、オリビアは慌てて火を消そうとするが、うまくいかない。
「Oh、No! せっかく畑への被害最小限で済んだかと思ったノニ~!」
「しょうがないわね」
 溜息混じりに言うと、メリルディはオリビアを抱えて上空へ上がる。熱気は上へあがるので、距離が取れなくても上へいけば付近のみかん畑に影響はない。
「お爺さんの意識は戻った?」
「いや、呼吸はしっかりしているが、ヒールをかけても目覚めん」
 ゼルガディスが応じ、メリルディはうなずく。
「じゃあ、待機してる救急車で病院に運んでもらった方がいいわね。ご家族も心配してるだろうし」
 そう言って、メリルディは周囲を見回す。
「幸い、収穫期は終わってるし、包囲がうまくいって畑にも損傷少なかったから、ひとわたりヒールを掛けておけばいいと思うわ」
「では、その後に芋煮を」
 ルエリラが提言すると、メリルディはにっこり笑ってうなずいた。
「いいわね。でも、畑の中で火は使えないから、場所を変えないとね」

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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