失伝救出~それでも少女たちは歌う

作者:紫村雪乃


 聖堂に響くは希望の歌。が、満ちているのは絶望だ。
 満身創痍で動けぬ男。苦痛に呻吟する老人。泣きじゃくる幼子。――彼らに未来はなかった。
 その時、聖堂が揺れた。何度目かの襲撃だ。
 天井の亀裂から目が覗いた。大きな爬虫のものに似た瞳。圧倒的な破壊の意志を秘めた禍々しい金色の瞳であった。
「無駄だ」
 目の主が嗤った。
「無駄じゃない」
 歌の主である少女の一人が叫んだ。が、その叫びは虚しい。彼女自身の心を絶望が蝕み始めていたからだ。
 が、それでも彼女たちは歌う。なんとなれば歌うことにより奇蹟を成すパラディオンであるから。
「……愚かな」
 目の主はこの場合、憫笑をもらした。そして天井を砕いた。すると目の主の顔が現れた。
 それは神々しくすらある魔性。異形の王、ドラゴンであった。
「そのような歌、我には届かぬ。哀れなるかな、人の子よ。歌とともに果てるがよい」
 ドラゴンが吼えた。と――。
 一人の少女が倒れた。彼女たちが成す奇蹟は人の身に過ぎた力であったのだ。
 奇蹟の代償は、すなわち命。しかし少女たちは歌うことをやめない。ためらうこともない。何故なら、それがパラディオンであるから。
 虚無の手を振り払うように、一際高く少女たちは歌声を響かせた。

「絶望に負けて心が折れてしまった時、反逆ケルベロスになり果ててしまう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は悔しげに唇を噛んだ。
 先日のことだ。ケルベロスは寓話六塔戦争に勝利した。
 その際に失伝ジョブの救出と、未だ各地に囚われている残りの失伝ジョブ達の情報を得ることが出来た。その情報を元にヘリオライダーが予知をして明らかになったのは、寓話六塔の一柱である『ポンペリポッサ』の非道な企みである。
 反逆ケルベロスを生み出すため、ポンペリポッサは失伝ジョブの系譜に連なる者を特殊なワイルドスペースに閉じ込め、大侵略期の残霊によって引き起こされる惨劇を繰り返し体験させていた。このまま放置すれば、閉じ込められた人々は『反逆ケルベロス』となってしまうだろう。
「先の戦争以前であるなら、私たちにはどうしようもなかったでしょう。けれど、今は今は違います」
 セリカはいった。
 そう、今は違う。失伝ジョブの力をその身に宿した者がいるから。その者たちなら特殊なワイルドスペースに侵入することができるのだった。
「繰り返される悲劇ですが、全ては残霊です。十人のパラディオンがいますが、そのうちの半数もまた残霊。つまり、みなさんに助けていただくのは五人の少女たちです」
 ワイルドスペースには失伝ジョブの人間に『自分は大侵略期に生きている』という認識と役割を持たせる効果があった。彼女達を救出するためには、大侵略期には有り得なかった希望をもたらすしかない。すなわちドラゴンの撃破だ。
 その時こそ、悲劇の輪廻は終わる。失伝ジョブの系譜に連なる者は解放されるのだった。
「ただし注意が必要です。ワイルドスペースの効果は皆さんにも及ぶからです。戦闘するくらいならば問題はないでしょう。けれど長時間留まった場合はその限りではありません」
 セリカは新たなる仲間を見回した。
「この救出作戦が行えるのも、寓話六塔戦争の勝利によるものです。ケルベロスの戦いに慣れていない人も多いと思いますが、悲劇に閉じ込められた人々の救出、よろしくお願いします」


参加者
ドゥリッサ・クロイセル(ドラゴニアンのワイルドブリンガー・e44108)
ジルベルタ・ラメンタツィオーネ(宵月が照らす白・e44190)
琥玖蘭・祀璃(サキュバスのブラックウィザード・e44204)
スプリナ・フィロウズ(慈愛の泉・e44283)
刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)
八重倉・翔(バレットレイン・e44992)
水森・灯里(ブルーウィッチ・e45217)
月野森・イブ(コンパニオン・e45275)

■リプレイ


 遠く、異様な空が見えていた。
 黒雲が渦巻いている。時折青白く閃くのは稲妻をはらんでいるからなのだろう。
「ここがワイルドスペースですか」
 胸を高鳴らせ、その少女は荒野を見回した。涼しげな青の瞳をもつ美しい少女だ。が、人間ではなかった。角と翼、そして尾をもつ神々しいばかりの姿は竜種のそれである。――水森・灯里(ブルーウィッチ・e45217)だ。
「そして、あそこにドラゴンがいる」
 渦巻く黒雲を見つめ、琥玖蘭・祀璃(サキュバスのブラックウィザード・e44204)は小悪魔めいた可愛らしい顔に苦笑をうかべた。
「残霊とはいえ、ドラゴンと戦う羽目になるなんてねぇ……ケルベロスになるってのも大変ねぇ? でも、この力が誰かの助けになるのなら、精一杯振るってみせるわぁ!」
 祀璃はいった。その言葉と違い、恐れも気負いも抱いていない口調である。どこか底の知れぬところのある少女であった。
「パラディオンの少女たちも、な」
 白髪で痩躯の少年が笑った。十六歳とは思えぬほどの不敵な笑みだ。名を八重倉・翔(バレットレイン・e44992)という。
 翔の瞳が金色の光を放った。
「今も戦っているのだろう。折れそうな心を抱き、必死になって」
「あそこで命がけで人々を守ろうとしている少女達も必ず救い出さねば」
 銀髪を荒野をわたる風になびかせ、娘がいった。
 秀麗な顔立ちの娘だ。が、その瞳の奥を覗いた者がいたらぎくりとするだろう。
 そこには真っ黒な炎が燃え盛っていた。憎悪の炎だ。
 ドゥリッサ・クロイセル(ドラゴニアンのワイルドブリンガー・e44108)という名のその娘は、かつてデウスエクスに捕らえられていた。そして実験として様々な虐待を受け、結果、その身はボロ雑巾と化してしまったのである。今、ドゥリッサがあるのは肉体をワイルドスペースと地獄の炎で支えているからであった。
「閉じ込められた方々は、命を削りながらも、未だ抗う意思を見せておられます」
 少女が口を開いた。抑揚を欠いた声音はどこか機械音声を思わせた。
 そう思って見ると、彼女の顔も人形めいていた。整いすぎているのである。瞳は翠のガラス玉のように澄んでいた。
 月野森・イブ(コンパニオン・e45275)という名の心をもった自動人形少女は相変わらず冷たい声音で続けた。
「だからこそ、我々が立ち向かうことも当然でありましょう。これもまた、力を持つ者の義務でございますから」
「そうです」
 妖精のように美しい娘がしっかりとうなずいた。名をスプリナ・フィロウズ(慈愛の泉・e44283)といい、シャドウエルフの娘である。人間離れした美しさをもっていたとしてもむべなるかな、だ。
 限りない慈愛のこもった瞳を暗雲にむけると、スプリナはいった。
「命に代えても人々を守らんとする尊き心、絶望に染めさせるわけには参りません。参りましょう、希望の歌を届けに」
「ああ」
 短くこたえたのは刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)という名の少女であった。すらりとした細身で、端正な顔立ちは中性的な魅力で溢れている。透という名前で歌手として活動中なのだが、さぞかし男にも女にも人気があるだろうと思わせた。
 その透希の思いも他のケルベロスたちと同じであった。
 必ず助け出す。彼女達の行動を、歌を無駄にしないために。――その一事であった。
 やがて――。
 戦場が近づいてきた。崩れかけた聖堂に覆いかぶさるようにしている異様なものが見えてくる。
 それは翼もつ暴龍に見えた。ドラゴンである。さしものケルベロスたちの肌にも粟が生じた。
「あんなものを相手にしていたんだね」
 表情を欠いた美麗な顔で、その少女はドラゴンを見つめた。
「よく、心折れずに持ちこたえてくれたね。大丈夫、僕たちが助けるからね」
 つぶやくと、少女は闇の空を見上げた。
「……空が泣いてる」
 ぽつりと少女はいった。
 彼女の名はジルベルタ・ラメンタツィオーネ(宵月が照らす白・e44190)。空に憧れた人形の少女であった。
 と――。
 ジルベルタの身体から煙のごときものが放散された。エクトプラズムである。
 それは仲間の身を包み込んだ。疑似肉体を作り、仲間の一時的な装甲となる。
 次の瞬間、祀璃が跳んだ。


 世界は夜のごとき闇に包まれていた。天を渦巻く暗雲が覆っているためである。
 破滅。それのみを感じさせる黒い世界であった。
 その時だ。パラディオンの少女たちは見た。闇を切り裂く流星のごとき光を。
 一瞬後、衝撃に世界が震えた。ドラゴンの背に迅雷の速さをもつ蹴りが炸裂したのだ。
 意想外の攻撃に、さすがにたまらずドラゴンは唾棄すべき地に落ちた。わずかに遅れて地に降り立ったのは祀璃である。
 憤怒にドラゴンは巨翼を広げた。
「僭上なり、小娘。サキュバスずれが竜たる我が身に触れるとは」
「その思い上がりもここまでよぉ。お前を斃し、パラディオンの少女たちは私たちケルベロスが助けるんだからぁん」
 祀璃は片目を瞑ってみせた。
「ケルベロス?」
 聖堂の壁の亀裂から外の様子を窺っていたパラディオンの少女たちは顔を見合わせた。ケルベロスなどパラディオンの少女たちは知らなかった。
「我を斃す?」
 ドラゴンが吼えた。聖堂がぐらりと揺れる。
 世界が震撼した。残霊とは思えぬ圧倒的なドラゴンの威圧によって。
 その時だ。聖堂内に輝く金髪を翻らせて少女と娘が走り込んできた。イブとスプリナである。
「助けにきました。私はスプリナ・フィロウズ。ケルベロス――デウスエクスを殺し得る者です」
 スプリナがいった。
「デウスエクスを殺し得る者!」
 驚愕に少女たちは目を見開いた。が、すくにその瞳は伏せられた。デウスエクスを殺し得る者など存在するはずがない。
「デウスエクスを殺し得る者など存在しません。それは誰よりも私たちが知っています。貴方たちはお逃げください」
 少女の一人がいった。するとイブが小さく首を横に振った。
「あなた様方が戦う必要は、もはやございません」
「そうだ」
 聖堂の外から叫ぶ声が響いた。翔のものだ。
「よく頑張ったな、君達の頑張りは無駄ではなかった。こうして俺たちが助けに来ることができたからな」
「無駄では……なかった?」
 少女たちの瞳からはらりと雫が零れおちた。彼女たちの胸を塞ぎつつあった諦念という闇に亀裂がはいったのだ。
「僕たちが来たからには大丈夫、どうかそこで静かに待っていて。絶対に助けるから」
 ジルベルタの声。たまらず少女たちは涙に濡れる瞳をあげた。
「信じて……いいのですか」
「はい」
 こくりとイブはうなずいた。
「古来より怪物は人を喰らい、恐怖を与すると存じております。ですが……怪物を狩り、希望を振りまく者もまた、人であるのでございますね。今、この瞬間、私がそのような存在であるとすれば。このイブ、あなた様方の意思を継ぎ、この場をお助けいたしましょう。念の為ご忠告いたしますが、これ以上、声を酷使なさらぬように。それでは、後方にてごゆるりとお過ごしくださいませ」
 何事もないかのように告げ、イブは少女たちに背をむけた。


「笑止」
 ドラゴンが嘲笑った。
「我を斃す? パラディオンの小娘どもを助ける? 地を這うことしかできぬ虫けらに何ができる?」
「笑うことは許さないわ」
 ぎらり。
 瞳を爛と赤く光らせ、ドゥリッサはドラゴンを睨め上げた。
 次の瞬間だ。彼女は左腕の混沌の水が迸った。
「喰らい尽くせ!」
 ドゥリッサが命じると混沌の水は巨大な顎に変化、ドラゴンに食らいついた。鋼の硬度をもつ竜鱗がはじけ飛ぶ。
「少しはやるようだな」
 わずかに顔をゆがめ、ドラゴンはいった。そして巨翼を大きく広げる。
 刹那、雷光が閃いた。ドラゴンの威に世界が震撼する。
「なれど竜たる我を相手にし、何者も生を拾うこと能わぬ。所詮は虫けらの抱く愚かな夢。パラディオンの小娘どもの無駄な足掻きもここに露と消える。そのこと、うぬらの死をもって思い知らせくれるわ」
「無駄じゃない」
 透希が叫んだ。
「そして愚かでもない。彼女達が耐えたからこそ、私達ケルベロスがここへたどり着くことができた。お前達デウスエクスはもう不死ではない。この偽りの地で暴れ回るのももう終わりだ!」
 透希が跳んだ。そして獣化した拳をドラゴンに叩きつけた。
 その一撃は速く重い。さしものドラゴンにとってすら。竜鱗が砕け、ドラゴンの肉体から血がしぶいた。
「やってくれたな。竜の身に傷をつけた罪、うぬら全ての命で購ってもらうぞ」
 憤怒に目を光らせ、ドラゴンは吼えた。その咆哮は紅蓮の嵐と化してケルベロスたちを席巻した。
 苦鳴は誰があげたものであったか。ケルベロスたちの身が焼け爛れる。
 残霊であっても恐るべき威力であった。もし本物のドラゴンであったならばどうなっていたことか。
「罪を命で贖うのは君の方だよ」
 ジルベルタは跳んだ。そして仲間の布陣を見渡し、戦術的意味を見出した。するとケルベロスたちの爛れた傷が治癒し始めた。
「否。うぬらの方だ」
 ドラゴン睨めつけた。その視線の先にいるのは灯里だ。焼け付くような視線に、思わず灯里は目を伏せた。彼女にとって、この作戦は初めてのものである。
 正直言って恐い。が、退くわけにはいかなかった。
 目を上げると、灯里はドラゴニックハンマーを砲撃形態に形態変化させ、撃った。
 爆発。ドラゴンの身が爆炎に包まれた。
「ぬうう」
 ドラゴンは歯ぎしりした。
「我が息吹に焼かれながら、まだ逆らうか。愚かな者ども。ならばいかなる癒しの業も効かぬほど灼き尽くしてくれよう」
「なら、その力を封じさせてもらう」
 翔の瞳が金色に煌めいた。
 次の瞬間だ。ドラゴンの身が爆発した。
 恐るべし。翔は思念を凝らすことにより目標を破壊することができるのだった。
「竜の身にこれしきの炎が効くものかよ」
 嘲笑いつつ、ドラゴンは灼熱の息吹を吐いた。いや――息吹が吐かれることはない。翔の仕業であることは少女たちにはわかった。
「なんて――」
 信じられぬものを見るように少女たちは息をひいた。
 限りある命の身なれどデウスエクスに挑む者。そのような者は大侵略期には存在しなかった。
 不死なる者に死を与えうる天敵。その名は――。
「ケルベロス!」
 少女たちは彼女たち自身気づかぬ声で叫んでいた。


「地を這う虫けらが。もはや容赦せぬ」
 ドラゴンは怒号を発した。残霊であるだけにケルベロスの知識は持ち合わせていないようである。
「容赦をこちらです」
 灯里が叫び返した。同じ竜種。負けることはない。
 灯里は跳んだ。一瞬で距離を詰めると日本刀の刃をたばしらせた。
 流れたのは月光のごとく煌く銀光。それはドラゴンの身を刎ね、漆黒の竜鱗を引き剥がした。
「さすがにタフねえ」
 呆れたように祀璃は苦笑した。そして叫んだ。
「Summon-Call! Necro-Blaze-Kerberos!」
 呪術発声による召喚。空間に構築された門から異形が現出した。
 それは三首をもつ禍々しき巨狼。死魂合成獣に地獄の炎を重ね合わせた造られた人造モンスターである。
 巨狼が襲った。が、ドラゴンは研ぎ澄まされた牙を躱してのけた。さらに刃のような爪で巨狼を引き裂いた。
「残霊のくせにやるわねえ」
 祀璃が唇をゆがめた。そして再び蹴りを放った。さすがに今度ばかりはドラゴンも避けきれない。低い声で唸ると、ドラゴンは後退った。
「わかったか、デウスエクス。現在と昔は違うということに」
 憎悪を込めてドゥリッサは叫んだ。
 そう、違うのだ。悲劇は永遠ではない。かつて虐げられていた者たちにも未来はあるのだ。それを導くのがケルベロスであった。
「デウスエクスめ」
 ドゥリッサは吼えた。彼女にとっては残霊であろうが関係ない。デウスエクスはすべて敵であった。
 ドゥリッサは炎を放った。それは燃える弾丸と化してドラゴンを撃った。砕かれた竜鱗が空を舞う。
 サザン。地が鳴った。落ちた竜鱗が地を打った音だ。
「オオン」
 咆哮すると、竜は怪蛇のごとき尾を振った。それがケルベロスたちに届く寸前、イブが飛び出した。腕を交差し、巨尾の一撃を受け止める。
 衝撃にイブの腕の骨が砕け、筋肉がひしゃげた。が、イブの表情に変化はない。
「誰も欠けぬよう、全員で勝利する為に。皆様を庇い、癒し、戦線を支えましょう」
 無表情のままイブはいった。その目に微かに閃いたのが喜悦の光ではなかったか。
「敵は残霊、されど竜殺しの偉業でございますね」
 昂揚の様子もなく、されど瞳の光をさらに強め、イブはいった。
 刹那だ。彼女の身から瘴気のごとき黒霞のようなものが放散された。
「さて、異形の方。覚悟の程は―――よろしゅうございますね?」
 黒霞の中から闇よりもなお昏い大鎌を引きずり出し、イブは横一文字に薙ぎ払った。
 ごう。
 刃が吼えた。それは真空の刃と化し、地を削りつつ疾り、ドラゴンを切り裂いた。
 その時だ。歌声が響いた。パラディオンの少女たちのものだ。
 その歌声に、もはや絶望の響きはなかった。迷いもなかった。煌く希望の歌声だ。
「歌っている。彼女たちがもう一度、高らかに希望の歌を」
 スプリナの顔に微笑がうかんだ。もはや恐れることはなにもない。
 スプリナはバスターライフルをかまえた。ドラゴンをポイント。撃つ。
 迸ったのは凍てつく光だ。ドラゴンが凍結する。
「ううぬ」
 奇蹟の歌が満ちる荒野でドラゴンが哭いた。
「やめよ。歌うことをやめよ。無駄な足掻きをやめるのだ」
「無駄じゃないといったはずだ」
 透希がいった。
 次の瞬間だ。透希の姿がドラゴンに肉薄。急制動をかけた足が地を削り飛ばした。
「竜、死すべき時はきた」
 透希の拳が疾った。凄まじい速さと重さをもった一撃が。
 衝撃は爆発を呼んだ。粉塵が渦巻く。
 再び視界が戻った時、ドラゴンは地に横たわっていた。


 ドラゴンは息絶えた。悲劇は終わったのだ。が、まだ少女の歌はやまない。世界をいまだ救おうとしているのだった。
「お疲れ様、よく頑張ったな」
 透希が微笑みかけた。すると、ようやく少女たちは歌うことをやめた。
「ありがとうございます」
 夢から覚めたように少女たちは目を瞬かせた。ドラゴンが斃されたという事実が信じられないのだった。
「夢ではありません」
 告げると、スプリナは他のケルベロスたちと少女を癒し始めた。
「参りましょう、皆様の帰るべき場所へ」
 スプリナが促した。
「でも」
 少女たちは聖堂内の残霊たちを見回した。やはり彼らを残していくことなどできない。と――。
 残霊たちが微笑んだ。そしてうなずいた。
 いきなさい、未来へ。残霊たちの目はそう語っていた。
「俺もケルベロスに助けられた身だからな。これで少しは彼らに恩返しできたかな?」
 翔が小さく笑った。
 そして彼らは旅立った。本当の世界へと。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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