でこぴんの修行に暮れる冬休み

作者:奏音秋里

「いくぞ! でこぴんマーックスっ!!」
 田んぼに囲まれた庭で、等身大の人形に向かってでこぴんを繰り出す少年。
 彼の同級生の男子のなかででこぴんが流行っており、終業式の日、対決に負けたのだ。
 再戦は、3学期の始業式後。
 ちなみに対決は、ペットボトルや空き缶に本などを飛ばした距離で競われる。
「まだまだ……ハイパーウルトラでこぴんマーックスっ!!」
 なにやらかっこよさげな言葉を並べて、少年はでこぴんを放ち続けていたのだが。
「へぇ、おっもしれえ! お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 背後から降ってきた女の声に意識を失い、ふらりと振り返ってでこぴんを打った。
 いろいろな角度から、あらゆる手の指を使い、ときには両手同時に。
 しかし女にダメージはなく、笑いながら少年の懐へと入り込む。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 そうして大きな鍵で胸を貫かれた少年は、どさりとその場に倒れてしまった。
 対して立ち上がるドリームイーターの、服の腹側には「でこぴん命」の文字。
 でこぴんで、庭の木を倒してしまう。
「あぁ分かってる。お前の武術を見せつけてきなよ」
 少女の言葉に、ドリームイーターは庭を飛び出すのだった。

「ドリームイーターが出現します。すぐに出られる方はいらっしゃいますか?」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、皆に訊ねる。
 集まる面々を認識して、口を開いた。
「幻武極というドリームイーターが、武術を極めようと修行に励んでいる武術家を襲う事件が発生しています。欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らすのが目的のようです」
 そんな幻武極にとっては残念なことに、今回の襲撃では、モザイクは晴れなかったよう。
 代わりに、武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとしているらしい。
「出現するドリームイーターは、襲われた少年が目指す究極の技を使いこなします。たかがでこぴんと、侮ってはなりません」
 いまから向かえば幸い、このドリームイーターが隣家へ到着する前に迎撃できる。
 周囲は田圃だが収穫も終わっているため、被害も気にしなくて構わないだろう。
 ケルベロスも含めて、技の届く範囲に家屋やヒトの姿はないとのことだ。
「ドリームイーターは、只管でこぴんを放ってきます。なかでも全身の力を籠めての『ハイパーウルトラでこぴんマックス』という技は、木や岩をも砕く威力があります。皆さんでも、相当な距離を吹き飛ばされてしまう可能性があります」
 しかもこの技は、高速で移動しながら列の全員を攻撃してくるから厄介である。
 特に武器は持たないが、その分、でこぴん技に磨きがかかっているのだ。
「今回のドリームイーターは、自らの武道の真髄を見せつけたいと考えているようです。そのため戦いの場を用意すれば、相手から挑んでくるでしょう。どうかお気を付けて。よろしくお願いします」
 セリカ曰く、被害者は自宅の庭に倒れていて、家のヒトは留守らしい。
 ドリームイーターを倒すまでは、眼を覚まさない。
 彼に声をかけるか否かはお任せしますと、セリカは付け加えた。


参加者
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)
レヴィン・ペイルライダー(二挺拳ジャー・e25278)
エイス・レヴィ(ワールドイズユアーズ・e35321)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
天杭・魎月(レプリカントのブラックウィザード・e44438)

■リプレイ

●壱
 ヘリオンから降下したケルベロス達のもとへ、ドリームイーターが走ってくる。
 そのまま距離を詰めて、一発目のでこぴんを打ってきた。
「岩も砕くとは、でこぴんも侮れないな……油断せずいくぜ! 戦いたいならオレ達が相手してやるよ!」
 トレードマークのゴーグルを、前髪の上から眼の前へと下ろして。
 レヴィン・ペイルライダー(二挺拳ジャー・e25278)が、愛用のリボルバー銃を構える。
 ポジションはクラッシャーと判断して、目にも留まらぬ速度の弾丸を放った。
「学校で流行ったことにみんなで取り組むの、オレもよくやってるッス。でこぴんに競技性を持たせて怪我人が出ないように遊ぶのも凄くいいと思うッス。けどその純粋な遊びを使って誰かを傷つけさせるなんて言語道断ッスよ! お前のデコピン……ハイパーウルトラでこぴんマックスだろうと受けきってやるッス!」
 被害者が倒れている庭との位置関係を確認しつつ、びしっと宣言。
 マインドリングから、堂道・花火(光彩陸離・e40184)は光の盾を具現化させる。
 自身も含めて、前衛メンバーの防御力を強化した。
「特訓とは、そうとう悔しかったのだろうな。彼には是非とも勝利を掴み取って欲しいものだ。再戦の邪魔はさせない……おはじき遊びの真似事が、最強の武術とは笑わせてくれる」
 挑発の言葉を口にするのは、ドリームイーターを田園へと誘き寄せるため。
 ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)は、真っ直ぐに如意棒を伸ばす。
 でこぴんに対抗して、ビリヤードの如く華麗に相対する額を突いた。
「少年は武術家ではない気がするのでござるが……まあ、それでも幻武極に襲われた以上、でこぴんも武術の範疇なのでござるな……武とはなんとも奥が深いものでござる」
 天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)は数秒、被害者に想いを馳せる。
 忍びの印を結べば、ディフェンダーのうち花火へと分身の幻影を纏わせた。
 花火が、仲間達を積極的に庇うと表明していた故の選択である。
「でこぴん、されたことないです。吹き飛ばされるほどの威力でおでこを叩かれたら……うぅ、とても痛そうです。レプリカントですから、おでこの固さには自信があります」
 もうひとりのディフェンダーは、エイス・レヴィ(ワールドイズユアーズ・e35321)だ。
 此方は自らを囮と捉えて、積極的にドリームイーターを挑発している。
 日仙丸と手分けしての異常耐性付与のため、まずは後衛陣の前へ雷の壁を構築した。
「デコピンの真髄とやら、わたし達で試してみない? 付き合って、あ・げ・る」
 いつもどおりの露出でも、寒冷適応の能力で問題なし。
 跳躍し、西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)はピンヒールに流星の煌めきと重力を宿す。
 ドリームイーターの顔を思い切り踏みつけて、着地と同時にドヤ乳を炸裂させた。
「きっきっき、でこぴん極めってまた面白いことになってるねぇ。ま、お仕事はお仕事さ、きっちりとやらせてもらうさね……我が血と鋼を以て、永劫をも穿つ銀となれ。私は穿つ者の始にして頂。我が心臓に誓って唯一つ――もはやそなたを縛めるものはそこにない」
 両手の武器が粒子状に分解され、展開した胸部の混沌の心臓へと吸収される。
 超複合金属と化した心臓を掴みあげれば、それは銀色のパイルを創り出した。
 指笛を合図に天空より降り注ぐ無数のパイルを追い、飛翔突撃で敵を穿つ。
 しかし、ドリームイーターも防戦一方ではない。
 天杭・魎月(レプリカントのブラックウィザード・e44438)の額を、指で打った。
 ヘアピンで前髪を上げた、絶好の的が向こうからやってきたからだ。
「でこぴんでも、鍛えれば凄く強くなるのですね。でも少年がやってたのは武術のつもりだったのでしょうか。やられてしまったのは仕方がないのです、次は後手ではなく幻武極を捕まえたいものですね」
 このあいだに、東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)が攻撃態勢を整える。
 砲撃形態へと変形させたドラゴニックハンマーから、竜砲弾を撃ちはなった。
 ウイングキャットはメディックの位置から、前衛メンバーを包む風を吹かせる。
 挑発に乗って移動してきたドリームイーターは、田圃の中心で皆に囲まれていた。

●弐
 2ターンでひととおりバッドステータス耐性がゆきわたり、3ターン目に突入。
「足でもでこぴんができるところを見せてやろう!」
 流星の煌めきと重力を宿したラギアの飛び蹴りが、右脚へと炸裂する。
「菜々乃さん、いまだ!」
「はい! プリン、いきますよ。この手で……私の未来を切り開くのです!」
 ラギアのつくった好機に、両手のなかへと集中させていたエネルギーを放つ菜々乃。
 猫の足跡のような形の弾が、相棒の尻尾の輪を伴って命中した。
「やりましたね、プリン」
 するとドリームイーターも標的を変えて、速攻で後衛陣にでこぴんをお見舞いした。
「これがハイパーウルトラでこぴんマックス。たしかになかなかの威力でござるな……」
 エイスと花火が動くも、日仙丸までは庇いきれず、ぽつりとそんな感想を漏らす。
「螺旋の加護をここに!」
 青い炎の漏れるエイスの傷に触れ、癒しの螺旋を掌から身体の内部へと浸透させた。
「回復なしで攻撃に全振り……か。嫌いじゃないわ、そういうの」
 ローラーダッシュの摩擦で熾した炎は、あっという間に玉緒のピンヒールを包み込む。
「ひとつの技を極めるってのは、ロマンよね」
 爆乳を揺らしまくりながら、ヒールを突き刺すようなハイキックをお見舞いした。
「オレのパイルで氷付けにしてやるぜ!」
 明るく元気で大真面目に、ドリームイーターと向き合うレヴィン。
 雪さえも退く凍気を纏わせたパイルバンカーで、突き刺して凍結させる。
 だがしかし。
「なにぃ!?」
 状態異常は残っているものの、まとわりつく氷の空気は消し去られてしまった。
 まだやられはしないと、ハイパーウルトラでこぴんマックスを前衛へ喰らわせてくる。
「くぅーっ! 何度打たれても痛いッス」
 両腕から放出させた地獄の炎で、花火は自らの全身を覆い尽くした。
「お前の技はあの子のものッス! 奪わせないッスよ! ギッタギタにしてやるッス!」
 更に挑発を繰り返し、あくまでも自分を狙わせる方針だ。
「そっちがデコピンなら、こっちもデコピンといくかね。ふたつのワイルドウェポンを合わせて、ギカントデコピンってねぇ、きっきっき」
 巨大な拳で、威力も巨大なでこぴんを打ち込む魎月。
「ひととおり使ってみたけど、どれもあからさまな弱点ではなさそうだねぇ。きっきっき」
 能力値を使い分けてみたのだが、明確に指摘できるような結果は得られなかった。
「日仙丸さん、先程はありがとうございました」
 回復の礼を述べつつ、エイスはカフェオレを振る舞う。
「太陽のかけらに月の雫。元気と安らぎをカップに溶かして、めしあがれ」
 甘くて美味なティータイムに、日仙丸の傷も癒された。

●参
 攻防を繰り返していれば、ヒール技を持たないドリームイーターが不利になる。
 負けじと打たれるでこぴんマックスにも、これまでほどの威力はなくなってきた。
「きっきっき、そんな、ものかい? まだまだだねぇ。鍛えられた戦士ならともかく、魔術師である俺の頭ぐらい吹き飛ばせないとな」
 やせ我慢もちょっとありつつ妖しく笑んで、魎月は指をぱちんと鳴らす。
 大地に塗り込められた惨劇の記憶から抽出した癒しの魔力を、額に送り込んだ。
「天杭殿、大丈夫でござるか?」
 仲間達の状態把握に努める日仙丸が、前列を光輝くオウガ粒子で覆い尽くす。
 味方の超感覚を覚醒させ、滞りなく最期を迎えさせられるように。
「一般人とは違う力を持つ相手のでこぴんは、やはり危険ですね。罰ゲームでもないのに、でこぴんはいりませんの。こんな遊びを武術にしてしまうのは、凄いとは思いますけど」
 ウイングキャットに後列をヒールさせて、エアシューズでの蹴りを決める菜々乃。
 重ねられるだけ重ねがけた足止めで、味方の勝機をつくりだす。
「チャンス、無駄にはしねぇぜ! 喜びな、全弾プレゼントしてやるよ!」
 レヴィンはリボルバー銃を構えて、得意の早撃ちで総ての弾丸を撃ち込んだ。
 かすかに涙が滲んでいるのは、きっと財布の中身が大ダメージを受けたからである。
「オレもレヴィンさんに続くッス! 突撃ッス!」
 言い終わるより速く、花火はドリームイーターの懐へと攻め入った。
 パイルを突き刺した一点から、凍てつく凍気が広がっていく。
「急な温度変化に、貴方の身体はついてこられますか?」
 脳を含む内蔵で燃える地獄の炎を、2本のライトニングロッドに纏わせるエイス。
 いまこそ攻撃に転じるべきと、勢いよく炎を叩きつけた。
「死にはしない。死ぬほど痛いだけだ」
 ラギアのブレスは大気中の水分すら凍らせる温度で、ドリームイーターを氷漬けにする。
 強度と重量を増幅させた魔氷の竜爪で殴れば、氷が太陽に輝きながら粉々に砕け散った。
「あなたと遊ぶの、もう飽きちゃったわ。終わりにしましょうか。ひとえに思い続けた、あなたへの手向けよ。これでやられるなら、本望でしょう。じゃあね?」
 スタイリッシュな舞いを捧げ、赤髪を依り代に巨大な御業の半身を降ろす。
 玉緒が余裕の決めポーズをとって、見詰めるなか。
 御業のでこぴんがトドメとなり、ドリームイーターを深い闇へと誘った。

●肆
 現場をヒールしてから、ケルベロス達は被害者のもとへと急ぐ。
 庭では、意識をとり戻した少年がきょろきょろと周囲を確認していた。
「無事で安心したッス。ちょっと待つッスよ……オレの炎はこんなこともできるッス! 地獄展開、穢れを払え!」
 グラビティ・チェインを籠めれば、花火の両腕の炎は少年を癒す温かい力となる。
「でこぴん極めるのは凄いッス! 始業式後の試合では勝てるッスよ!」
「おはよう。目覚めはどうかしら? 再戦に備えて、休息も大切よ。特訓も程々に……ね」
 いまいち呑み込めない状況を、玉緒が説明し始めた。
「ところで、本を飛ばすなんてのは、ちょっと盛り過ぎじゃない? え? そう。本当に飛ばしちゃうのね」
「でこぴんで本を飛ばすって結構すごくないか!? 見せてほしいんだけど!」
 玉緒とレヴィンの注文に笑って頷くと、少年は家のなかへと戻っていく。
 持ってきたのは、比較的薄めだがA5サイズくらいの大きめの本。
 えいっと声を出してでこぴんすると、倒れた拍子に3センチくらい動いていた。
「おぉーっ!! やるなぁ、少年!」
「でこぴん武術か。なるほど、相手に怪力を見せつけるには最適だ。だが、でこぴんとはそういうものではないだろう。好きな相手のデコを打ち抜きハートも射抜くとか、罰ゲーム的な愛の鞭とか……俺はそういうものだと思っている」
 言いながら、好きな子に手加減してでこぴんをする甘酸っぱい日が訪れることを祈る。
「遠くまで飛ばすには、力でなく重心を考えるんだ」
「それ、僕にも教えてください、ラギアさん」
 同世代の子どもの遊びを知りたくて、礼儀正しく、エイスはラギアに申し出た。
「きっきっき、特訓に俺も混ぜてもらっていいかい?」
「私も、やってみたら気持ちがわかるかもしれないのです。プリンも一緒にやりましょう」
 其処へ魎月と菜々乃にウイングキャットも加わって、でこぴん教室が始まる。
「でこぴんが流行るというのは、懐かしい感じがしますね。さすがにいまはしていませんが。すごいでこぴん、見てみたくもありますね」
「詠唱でもつけてみたらどうだい? かっこよくなるんじゃないかねぇ、きっきっき」
「おぬしにとって、でこぴんとはなんなのでござる? 武術という認識でござるか?」
 この日仙丸の問いには首を傾げて、楽しいしできたら嬉しいよと答えてくれた。
 少年には、そもそも武術という言葉の意味がはっきりしないようである。
「そうでござるか。でこぴんであれなんであれ、勝負は勝負。武運を祈るでござるよ」
「ありがとう」
 それから暫く、ケルベロス達は少年とのでこぴん交流を楽しんだのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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