●失伝のビジョン
黒装束の戦士たちの前に螺旋忍軍が現れた。
戦士たちは三人。螺旋忍軍もまた三人。数の上では互角だ。
しかし、戦闘能力に開きがありすぎた。
戦士の一人は螺旋手裏剣で喉笛を断ち切られ、もう一人は螺旋掌で鳩尾に風穴を開けられ、敵にかすり傷一つ負わせることもできずに死んだ。
そして、最後の一人も――、
「……っ!?」
――日本刀で心臓を刺し貫かれ、声にならない叫びとともに大量の血を吐き出した。
「身の程を知れい。虫ケラどもが」
螺旋忍軍の嘲笑が聞こえた。しかし、姿は見えない。致命傷を負った瞬間、戦士の視界は闇に包まれてしまったのだから。
日本刀が素早く引き抜かれた。体内を抉りながら。冷たい刃の感触、燃えるような激痛。その二つを闇の中で味わうのは初めてではなかった。
もう一つ、絶望も。
(「何度目だ? 俺たちが死ぬのは……」)
答えの判らない問いを自分自身に投げかけて、戦士は倒れ伏した。
そして、息絶えた。
螺旋忍軍たちが姿を消すと同時に怪異が起こった。
戦士たちの死体から流れ出ていた赤黒い血が粘菌じみた動きを見せ始めたのだ。
血は物理の法則を無視して死体の元に這い戻り、傷口から体内へと戻っていく。
その不気味な帰還が終了すると、三つの死体は不可視の糸に操られているかのようにゆらりと立ち上がった。
いや、もう死体ではない。
彼らは生き返っていた。血の最後の一滴が戻った瞬間に傷口も消えている。
しかし、徒労感は消えていない。
(「何度目だ? 俺たちが生き返るのは……」)
答えの判らない問いを自分自身に投げかけて、戦士は零式鉄爪を構えた。
またもや、敵が現れたのだ。
三人の螺旋忍軍である。
「ここに『けるべろす』がいてくれたら……」
迫ってくる敵を睨みながら、無意識のうちに戦士はそう呟いていた。
『けるべろす』という言葉の意味は自分でも判らない。
とても重要な言葉のような気がするのだが――、
「身の程を知れい。虫ケラどもが」
――それを思い出す前に心臓を刺し貫かれ、視界がまた闇に包まれた。
●音々子かく語りき
「はじめまして! 根占・音々子と申します!」
グルグル眼鏡のヘリオライダーが一礼した。
彼女の前に立っているのはケルベロスとして覚醒して間もない失伝の継承者たち。
「先の寓話六塔戦争の勝利によって、皆さんのような継承者の方々を救い出すことができました。しかし、全員を救えたわけではありません。ジグラットゼクスの一柱『ポンペリポッサ』は各地に特殊なワイルドスペースを作っており、そこにはまだ沢山の人たちが閉じ込められています」
その特殊なワイルドスペースの一つが新たに発見されたのだ。閉じ込められているのは、零式忍者の能力を有した三人の戦士。彼らはワイルドスペース内で螺旋忍軍の残霊と戦い、敗れ、死んで、生き返り、また戦い、敗れ、死んで……といったサイクルをずっと繰り返している。
自分たちのいる時代と場所が『大侵略期の日本』だと思い込まされた状態で。
ケルベロスという存在を忘れ去ったまま。
「零式忍者の力の根源は怒りです。しかし、怒りは有限。三人の継承者を何度も殺しては生き返らせることで怒りを消費させて心を折り、自軍の傀儡にすることが敵の目的なのでしょう」
音々子の声には激しい感情が込められていた。怒りが本当に有限だとしても、彼女のそれはまだ尽きていないらしい。
「ですから、三人の心が完全に折れる前にワイルドスペースに乗り込み、残霊どもを倒してください!」
敵は三体の螺旋忍軍。所詮は残霊なので、実戦経験に乏しい継承者たちでも渡り合うことはできるだろう。
もっとも、残霊をただ打ち倒せばいいというものではない。三人の零式忍者を本当の意味で救いたければ、希望を与えて、消えかけている闘志をまた燃え上がらせなくてはいけない。偽らざる言葉によって。あるいは自らの戦い振りを見せることによって。
「もしかしたら、皆さんの中にはその三人と同じような境遇だった人もいるかもしれませんね。今度は――」
ゆっくりと皆を見回す音々子。一瞬、眼鏡の向こうに凛とした瞳が覗いた。
「――貴方が誰かを救う番です! がんばってください!」
参加者 | |
---|---|
藤林・絹(刻死・e44099) |
出雲・八奈(赤瞳・e44210) |
コロル・リアージュ(極彩コロリアージュ・e44660) |
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755) |
キリリィ・ビリンガム(ビビッドバブルス・e45182) |
霧山・優(此岸花・e45265) |
厳道・勝蔵(鍛えることから・e45274) |
神狩・カフカ(紅棘・e45317) |
●絶望の周回
徒労感と敗北感と絶望感に押し潰されそうになりながらも、黒装束の戦士たちは武器を構えた。
三人の螺旋忍軍が迫ってくる。一人は日本刀を携えて、一人は螺旋手裏剣を持って、一人は徒手空拳で。
また始まるのだ。
何度となく繰り返されてきた戦いが。
常に戦士たちの死という形で終わってきた戦いが。
「ここに『けるべろす』がいてくれたら……」
戦士の一人が呟いた。無意識のうちに漏れ出た言葉。『けるべろす』がなにを意味するのかは口にした当人にも判らない。
判っていることはただ一つ。『けるべろす』とやらが何者であろうと、ここに来てくれるわけがないということ。
しかし――、
「どもー! 呼ばれて飛び出て、ケルベロスでぇ~っす!」
――それは間違いだった。
「どもー! 呼ばれて飛び出て、ケルベロスでぇ~っす!」
ペイントブキならぬ自身の声で冷え切った空気を塗り潰しながら、コロル・リアージュ(極彩コロリアージュ・e44660)が戦士たちと螺旋忍軍との間に割って入った。
彼女に続いて戦場に乱入したのは七人のケルベロス。
「貴方たちの戦いは決して無駄ではありませんでした」
背後の戦士たちに語りかけつつ、藤林・絹(刻死・e44099)が喰霊刀を振り下ろし、達人の一撃を見舞おうとした。標的は徒手空拳の螺旋忍軍。
その攻撃は紙一重で躱されたが、絹は敵を視界に入れたまま、戦士たちに語り続けた。
「貴方たちが戦い、抗ってくれたからこそ、私たちはここに辿り着けたのです」
「よくぞ耐えた、戦士たちよ!」
厳道・勝蔵(鍛えることから・e45274)もまた戦士たちに声をかけた。その手からケルベロスチェインが伸び、螺旋手裏剣で武装した敵へと向かっていく。
「微力ながら、我らケルベロスが助太刀しよう。終わりなきこの戦を終わらせるために!」
「笑止! 貴様らごときがこの赤銅丸(あかがねまる)様に勝てるものか!」
赤銅丸と名乗った螺旋忍軍は身を捻ってチェインを躱し、手裏剣を頭上に投じた。
「何匹増えようと、虫ケラは虫ケラよ!」
鋼の凶器が無数に分裂し、シュリケンスコールとなってケルベロスの前衛陣に降り注ぐ。
しかし、刃の雨に怯む者は一人もいなかった。
「あーしたちは虫ケラなんかじゃない!」
そう叫んだのはキリリィ・ビリンガム(ビビッドバブルス・e45182)。彼女のペイントブキから蒸気が噴出され、勝蔵を包み込み、傷を癒すと同時に防御力を上昇させていく。
「それに何度も立ち上がり続けたあの人たちもね!」
そのキリリィの言葉に激しいビートが重なった。コロルがバイオレンスギターで『紅瞳覚醒』を弾き始めたのだ。
彼女たちの勇ましい後ろ姿を見つめながら、『何度も立ち上がり続けたあの人たち』の一人であるところの戦士が呟いた。自分が何度も口にした、そして、勝蔵も口にした、あの言葉を。
「……けるべろす?」
「そう! ケルベロスだ!」
『紅瞳覚醒』の恩恵を受けた人派ドラゴニアンの出雲・八奈(赤瞳・e44210)が吠えた。
「デウスエクスに囚われ続ける悪夢から私たちは助け出された! 次は貴方たちの番だ!」
「ケルベロス……」
戦士は首をかしげ、また呟いた。自分に言い聞かせるように。
「おやー? ご存じでない? いやいや、おまえさんがたは知ってるはずでさぁ」
八奈と同じく人派ドラゴニアンの神狩・カフカ(紅棘・e45317)が戦士たちを振り返り、ニヤリと笑ってみせた。
「ケルベロスの力ってのは、おまえさんがたにも備わってるんですぜ。それを使えば、デウスエクスなんざぁ、恐るるに足りねえ」
髪に差していた簪を抜き、螺旋忍軍に向き直る。
「論より証拠。僕らがこの表六玉どもをブッ潰しやすから――」
「――よく見ておくといいよ!」
八奈が後を引き取り、獲物に飛びかかった。選んだ相手は徒手空拳の螺旋忍軍。八奈の攻撃の手段も素手。土蔵篭り特有の怪力で引き裂き、生命力を吸収していく。
「こ、この程度の攻撃に屈する黒鉄丸(くろがねまる)様ではないわ!」
ドレインの苦痛に呻きながらも、自称『黒鉄丸』は八奈の脇腹に掌底を打ちつけた。
螺旋の力が八奈の体内に潜り込み――、
「ぐげぇ!?」
――爆発したが、無様な声をあげたのは黒鉄丸のほうだった。
彼の体内でもまた力が爆発したのである。カフカのグラビティ『散華繚乱(スカーレット・ニードル)』によって。傍目には、カフカの投擲した簪が黒鉄丸の右肩に突き刺さったようにしか見えなかっただろうが。
「虫ケラにしては味な真似をしてくれる! しかし、この白銀丸(しろがねまる)には通じんぞ!」
他の二人と同様に必要もないのに自分の名を告げて(忍者でありながら、自己顕示欲が強いらしい)三人目の螺旋忍軍が日本刀を一閃させた。白刃が流水斬の軌跡を描き、ケルベロスの前衛陣にもたらされた『紅瞳覚醒』の効果をブレイクしていく。
しかし、今度もまたケルベロスたちは動じない。
そんな彼らの間をすり抜け、幾条もの黒い鎖が敵に伸びた。
後衛に陣取るベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)が暗黒縛鎖を用いたのだ。
「ご安心ください。これが最後です」
白銀丸と黒鉄丸に鎖が絡み付いていく様を見ながら、ベルローズは戦士たちに言った。
「そう、最後だ」
サキュバスの霧山・優(此岸花・e45265)が頷いた。声音は穏やかだが、螺旋忍軍を凝視する瞳には激しい感情の色が滲んでいる。敵への怒り。その怒りをただ燃やすことしかできなかった頃の悔しさ。そして、怒りと悔しさを力として行使することができるようになった喜び。
「八奈さんも言ったように悪夢はこれで終わり。ここから先は――」
催眠魔眼が発動し、白銀丸と黒鉄丸に更なるダメージを与えた。
「――反撃の時間だ」
●希望の分岐
「ぬはははははは!」
いまだ無傷の赤銅丸が大袈裟に肩を揺らして笑った。
「悪夢を終わらせるだとぉ? それこそ、夢物語よ。反撃の時だとぉ? その後に来るのは敗北の時よ。一寸の虫にも五分の魂というが、貴様らのような度し難い虫ケラどもには……」
「虫ケラじゃないって言ったでしょーが」
嘲罵の言葉をキリリィが遮り、水風船を投じた。塗料が詰まった『BALLY LIE BALLOON(マッカナウソ)』。それを顔面に食らい、赤銅丸はもう無傷ではなくなった。
「き、貴様ぁーっ!?」
塗料まみれになって怒鳴る赤銅丸を無視して、キリリィは戦士たちに目を向けた。
「このワイルドなんちゃらでずーっと戦ってきた君たちには信じられないかもしれないけどね。デウスエクスに蹂躙されっぱなしの絶望的な時代はもう終わってるの。本当の世界には絶望だけじゃなくて、希望があるんだよ。それを見出すのが、あーしたちケルベロスってわけ! もちろん――」
元気な声とともにウインクを送る。
「――君たちもね!」
「えーい! どこを見ている!」
赤銅丸が毒手裏剣を放った。
塗料の目潰しを受けてなお、彼の狙いは正確だった……が、キリリィには命中しなかった。
勝蔵が射線に躍り出て、盾となったからだ。
「笑止!」
ドラゴニックハンマーを砲撃形態に変えながら、勝蔵は赤銅丸の第一声を真似て、更に肩を揺らして笑ってみせた。
「この程度か? この程度なのか? この程度なのだな! なるほど、これは残霊に落ちぶれるのもしかたがない! うはははははは!」
哄笑を響かせつつ、ドラゴニックハンマーの砲声も響かせる。
竜砲弾の直撃を受け、赤銅丸が吹き飛ばされた。
「なにを言うか!」
と、無様な赤銅丸に代わって、黒鉄丸が叫んだ。
「我らは残霊などではないわ!」
「自分を生者だと思い込んでいるのか? 哀れだね……」
優が跳躍してスターゲイザーを放った。間髪を容れず、絹が黒い刃『黒邪太刀(コクジャタチ)』を形成して斬りかかる。どちらも狙いは黒鉄丸。
「鈍いわ!」
黒鉄丸は両者の連続攻撃を躱し、滑るような足取りで後退しつつ、腕を突き出した。
掌から螺旋氷縛波が撃ち出され、唸りをあげて八奈に向かっていく。
ほぼ同時に白銀丸も動いていた。絹に月光漸を浴びせるために。
しかし――、
「鈍いのは貴方たちも同じのようですね」
――絹は白銀丸の刀を難なく回避した。
黒鉄丸の攻撃も回避されていた。氷結の螺旋が八奈の残像を貫き、虚しく溶け消える。
そして、すぐに新たな氷がもたらされた。氷河期の精霊によって。
ベルローズがアイスエイジを用いたのだ。
「残霊という自覚もなしに他者を虫ケラ扱いですか。本当に度し難いのは貴方たちのほうですね」
冷ややかな声と吹雪の音の合奏曲が奏でられ、白銀丸と黒鉄丸が氷付けになっていく。
その攻撃が止むか止まぬかのうちにカフカが間合いを詰めた。
「零式忍者の力の根源は怒り!」
戦士たちに語りかけながら、自らが体得した『零の境地』を拳に乗せる。
「その怒りの矛先の向け方ってぇのを教えてやりまさぁ!」
「黙れ、この虫ケ……るぅあっ!?」
腹部に零式寂寞拳を受け、体を『く』の字に折る黒鉄丸。
だが、半秒も経たぬうちに大きくのけぞり、体が反対側に折れ曲がった。
硬化した血染めの包帯が胸板に突き刺さっている。
『大蛇』という名のその包帯の端を握っているのは――、
「私はやなだ! 出雲のやなだ!」
――八奈だった。
「残霊なんて、飲み干してあげる!」
勢いよく引き抜かれた『大蛇』が硬さを失い、重力に従って地に垂れる。
それに合わせるかのように黒鉄丸も頽れ、倒れ伏し、そして、消滅した。
「おおおーっ!?」
仲間の死を目の当たりにした白銀丸と赤銅丸が驚愕の叫びを発した。驚愕といっても、それは怒号も兼ねていたが。
「おおおーっ!?」
敵の死を初めて目の当たりにした戦士たちも驚愕の叫びを発した。驚愕といっても、それは歓声も兼ねていたが。
その五人分の咆哮をバイレオンスギターの音色がかき消していく。
「これで判ったでしょ? 自分たちは――」
コロルが再び『紅瞳覚醒』を奏で始めたのだ。前衛陣の防御力を更に高めるために。
「――虫ケラなんかじゃないって!」
●大望の起点
その後もケルベロスたちの猛攻は続き――、
「ぐっ……」
――ついに白銀丸が呻きを発して片膝を落とした。
カフカの簪が左目を貫いている。二度目の『散華繚乱』。
「最期の施しってやつでさぁ! 綺麗だろぃ?」
「うんうん。綺麗だねー」
カフカの言葉に頷きながら、キリリィが『BALLY LIE BALLOON』を投擲すべく身構えた。
「じゃあ、相方のほうも綺麗に染めちゃおっかなー」
キリリィの手から水風船が飛んだ。赤銅丸に向かって。
それと並行して、八奈の『大蛇』が伸びていく。こちらの標的は白銀丸。
「ぬわぁーっ!?」
白銀丸を援護しようとしていた赤銅丸がまたもや水風船を顔面に受け、情ない声をあげた。
一方、『大蛇』も白銀丸に命中していた。
「とどめを!」
「はーい! まっか、せって、ちょーだい!」
八奈の叫びに応じたのはコロル。回復役を務めてきた彼女ではあるが、もう仲間へのヒールは必要ないと判断し、白銀丸に肉薄して足を旋回させた。
エアシューズによる達人の一撃を顔面に受けて、白銀丸は横っ飛びに吹き飛んだ。先程のように呻きを発することもなければ、赤銅丸のように情けない声を上げることもない。当然だ。この攻撃で完全に息絶えたのだから。
「後はあんただけだな」
赤銅丸にそう言いながら、優が『Nigraj manoj(ニグライ・マーノイ)』を発動させた。
そして、相手の足元を指し示して問いかける。
「見えるかい?」
「……なに?」
思わず視線を落とす赤銅丸。
確かに見えた。何本もの黒い手が地面から生えてくる様が。
奈落の底に引きずり込まんとするように足に絡みついてくる手の群れ。もちろん、引きずり込まれることはなかったが、それらは赤銅丸にダメージを与え、機動力を削いだ。
更に別の手も纏わりついた。ベルローズの『スペクターハンド』によって具現化した死霊の怨念である。
「く、くそぉー!」
二種無数の手を必死に振り解こうとする赤銅丸。体を揺らす度に傷から血の飛沫が舞い散る。血でありながら、色は赤だけではない。顔に張り付いていた塗料が混じっているからだ。
そのカラフルな飛沫を華麗に避けつつ、絹が一気に距離を詰めて『黒邪太刀』を振り下ろした。黒い刃が赤銅丸の左肩を断ち割り、心臓めがけて落ちていく。
しかし、刃が心臓に達する寸前に赤銅丸は無数の手から逃れ、絹の前から飛び退った。
なにごとかを叫びながら。
「――!」
そう、『なにごとか』であり、なにを言ったのかは判らない。
より大きな声が戦場に響いたからだ。
『禍忌純血暴逆道(マガツキジュンケツアバレミチ)』なるグラビティを発動させた勝蔵の声である。
「重ねに重ね、積み重ね、澄み切り渡りし忌純血! 受け継ぐは我鬼勝蔵! いざいざいざいざ、大暴れ!!」
己が体を巡る忌むべき血の呪い――何代もの近親婚によって精製されたそれを燃やして、勝蔵は走った。
そして、たちまちのうちに赤銅丸に追いつくと、左肩に開いた傷口めがけて手刀を振り下ろし、心臓を叩き割った。
徒労感と敗北感と絶望感から解放された三人の戦士。
彼らは呆然と凝視していた。
八人のケルベロスを。
自分たちを救うために戦ってくれた者たちを。
「ありがとうございます」
と、そのうちの一人である絹が感謝の言葉を述べた。
「先の見えない闇の中でも戦い続けてくれて……」
「……」
戦士たちはなにも言えなかった。心の中を占めているのは誇らしさでも嬉しさでもなく、戸惑いだ。なぜ、救ってくれた側が礼を言っているのだろう? そもそも、何故に彼らは我々を救ってくれたのだろう? 傷だらけになって。命を賭けてまで。
「私、『これが最後です』と言いましたけど、これは新たな戦いの幕開けでもあります」
と、ベルローズが戦士たちに言った。
「貴方たちの力を求めている人が沢山いるんですよ。それに貴方たちとともに戦う仲間も」
「……」
戦士たちは無言で顔を見合わせ、またすぐにケルベロスたちに向き直った。戸惑いは消えていない。だが、理解はできた。
今、目の前にいる者たちが『ともに戦う仲間』であることを。
「まあ、なんにせよ――」
コロルが笑顔を見せた。
「――悪夢はこれにておしまいだよ!」
戦士たちはぎこちない笑みを返した。
生まれて初めて笑ったような気がした。
もちろん、それも間違いだ。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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