●記憶の残滓
――怪異症候群。
ある日突然発症し、発症者をまるで化物のようにグロテスクな姿に変貌させる病。
原因については諸説あるが、詳しい発症のメカニズムは分かっておらず、治療方法も不明な奇病として扱われている。
隈井麗子はその病室で日がな一日天井を見ていた。
病室の中には、自身の姿が映り込みそうな鏡や窓、テレビといったものまで全てなかった。
自身の姿――美しく誰からも羨望の眼差しを受けた在りし日の姿。その脳裏に映る姿が醜く歪む。
醜悪な、おぞましい怪物。白く瑞々しい肌は茶色く爛れ、自慢の美しく長い黒髪は縮れ抜け落ちた。
恐る恐る、自らの手を顔の前へとやると、ブクブクと膨れあがった悪魔の腕が見えた。
「あ……あぁ……」
恐怖に怯えながら自身の顔を手で触れば、同じように膨れあがり不自然に盛り上がった感覚が伝わる。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
こんな感じではなかった。もっと整った美しい顔だったはずなのに……。
消えていく――自分の姿がわからなくなる。
「もう、いやよ……こんな姿じゃ生きていけないよ……」
落ち込み嘆く麗子。そんな時病室のドアがノックされた。
「先輩、起きてますか?」
「田所君……」
会社の後輩である田所が見舞いに訪れたのだ。扉の外から麗子を元気づける声が掛けられる。
「すぐに良くなりますよ! だから元気出して下さい!」
「ありがとう……でも、もうこないで」
「先輩……」
こんな姿を人に見られたくなかった。誰かに見られ、怯えるような表情を見せられたら――きっと私は死んでしまう。麗子は本心からそう思った。
ハッキリとした拒絶の言葉に、田所はうまく返事ができず、けれど「また来ます」と言い残して去って行った。
「う……うぅ……」
ベッドに伏せ涙を零す。醜悪な腕に雫が落ちた。
いったいいつまでこうしていればいいのか。麗子は一人伏せたまま、変貌する記憶の中の自分に恐怖し続けるのだった――。
●
「新たな病魔根絶計画が発表されたのです」
クーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が集まった番犬達に病魔根絶計画の概要を説明する。
「今回計画されたのは『怪異症候群』という病なのです」
その病は全身をおぞましい醜悪な怪物に変貌させてしまうという奇病だ。命に別状はないが、病に冒されたものはその姿から社会的な生活はできなくなってしまう。
「これまでの根絶計画と方針は同じなのです。皆さんには特に強い、重篤患者さんの病魔と戦って倒して貰いたいのです」
重篤患者の病魔を一体残らず倒す事ができればこの病気は根絶され、もう新たな患者が現れる事もなくなる。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまうだろう。
「デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではないのですが、この病気に苦しむ人をなくすため、ぜひ、作戦を成功させて欲しいのです」
続けてクーリャは病魔についての詳細を伝えてくる。
病魔は生命力を奪う異形の打撃を放ち、怨嗟の叫びを上げれば毒をもたらす。怪異化を進行させることで自身を回復する上、破剣の力を帯びるだろう。
「今回も病魔への『個別耐性』を得られれば、戦闘が有利に運べるはずなのです」
個別耐性は、この病気の患者の看病をしたり、話し相手になってあげたり、慰問などで元気づける事で、一時的に得る事が可能だ。
「今回のケースで言えば、皆さん恐ろしい姿で外にも出られずストレスが溜まっているはずなのです。そのストレスを発散させてあげたり、ケルベロスとして頼もしい所をみせてあげて、『必ず元の姿に戻れる』と安心させてあげたりするのがよいと思うのですよ」
資料を置くとクーリャは番犬達に向き直る。
「姿が変わってしまい外に出られなくなってしまうなんて、とても辛い病気なのです。この病気で苦しんでる人達を救ってあげてほしいのです。
病魔を根絶するこのチャンス、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
一礼するクーリャは勝利を信じるように番犬達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
奏真・一十(背水・e03433) |
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) |
黒鋼・義次(雷装機龍サンダーボルト・e17077) |
春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692) |
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840) |
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538) |
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638) |
斯刃・八雲(先祖返り・e44500) |
●優しき慰問
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)は水垢離を行い身体を清める。
病魔根絶の依頼に参加するのは三度目になる。自分に出来る事しっかりと行っていこうと、気合いを入れ冷水を浴びていく。
「どうか、彼の者に御霊の加護を……」
冬空の下、隈井麗子の回復を祈り、祈祷は続いていった――。
本人の慰問許可を取り付けた番犬達は、隈井麗子の待つ病室へと向かった。
病室の前に辿り着くと、男が一人立っていた。隈井の同僚で後輩の田所だ。
「どうか、先輩をお願いします」
頭を下げる田所。田所の面会は許可されていない。しかし番犬達を信じ、隈井を任せようと頭を下げる真摯な態度に心打たれる。
「すてきな先輩を取り戻して来るぞ。もう暫し、待っていてくれ」
奏真・一十(背水・e03433)が田所に声をかける。
「これを彼女に。あと君からのプレゼントってことにしておき給え。応援しているよ」
斯刃・八雲(先祖返り・e44500)が金糸梅の花束を田所に渡した。
その他の番犬達も静かに頷き、田所の肩を叩くと「任せてほしい」と声をかけた。
「……俺も、自分にできること、やろうと思います」
何かを決意したようにそう番犬達に伝えると、田所は病院を後にする。
託された思いを確かに実感しながら、番犬達は慰問へと臨む事にした。
慰問は隈井の心情を考え少人数、二人組のペアで順番に行う事になった。
扉をノックする。少しして「どうぞ……」と小さな声が聞こえた。まず最初のペア園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)と戀が入室する。
病室の奥、ベッドに腰掛けるように隈井麗子が座っていた。
茶色く爛れた肌が患者衣から覗く。醜悪なる怪異を表現する隈井は、視線を感じその身を抱き締める。
「そう怯えなくてもよい。妾達の瞳に映るお主は厄介な病を患った普通の人間じゃよ。リラックスして話を聞いてくれればよい」
「……気休めはいいんです。どうせもう治りっこないんですから」
戀の言葉に俯きながら返す隈井。
そんな隈井を慰めるように「にゃー」と猫が鳴いた。
「……猫?」
隈井が顔をあげる。その瞳に、戀が抱きかかえた猫が映った。
その猫は藍励が動物変身で変身した姿だ。
藍励が戀から飛び離れ隈井の元へ近づいていく。
「だ、だめよ……病気が移ってしまうわ」
「平気じゃよ。それ撫でてみるとよい」
ゴロゴロと懐く藍励。恐る恐る隈井がその背を撫でた。
久しぶりに感じるぬくもり。暖かな鼓動を感じ、隈井の瞳が潤んだ。
しばらくそうして藍励をなで続けていた隈井。徐々に心身共にリラックスしてきたように思えた。
隈井の元から藍励が離れる。そして動物変身を解き、ネタばらしをした。
「――! あなたは……」
「ふふ、ごめんね、驚かせちゃったかな……」
藍励が驚く隈井に声をかける。隈井は心底驚いたように口をあけていた。
「……人が動物になるようなこともあるんですね」
「ケルベロスだからね……。そういったこともできるんだよ」
悪戯な口調で言う藍励は、そのまま隈井に近づくとその爛れた手を取った。
「あ、だめ……です」
「うちなら大丈夫だよ」
優しく、その手を撫でる。
「自分とは違う姿になっちゃって、辛い思いをしたよね……でも、もう大丈夫」
藍励はどこまでも優しく声をかけ、言葉を紡いでいく。
「何があっても、うちらが守るし、絶対治してみせるから……だから、もう少しだけ、頑張って? ね?」
「でも……」
首を横に振り俯く隈井に、戀も寄り添い励ましていく。
「諦めるのはまだ早いのじゃ。妾からしてみれば、お主はまだまだこれからの人間じゃろう?」
「でも、こんな姿になってしまったら――!」
「気を強く持つのじゃ。病は気から、というじゃろう? 順風満帆を謳歌したかつてを取り戻したいと思うのなら、こんなところで諦めてはならぬ」
戀は伝えていく。諦めず病に立ち向かうことが重要なのだと。
「……病気に勝ったら、何かしたいことはないのかの? なんでも良い。想い人がいるのならばその者の為にでも。それを目標に……今はただ、打ち勝とうという揺るがぬ精神を貫くのじゃ」
「したいこと……」
もう一度昔のように未来を夢見てよいのだろうか。渦を巻くように思考が巡る。
「きっと治る……治して見せるから、ゆっくり考えて見て、ね?」
藍励がもう一度声をかけ、二人は病室から退室した。
入れ替わるように一十と黒鋼・義次(雷装機龍サンダーボルト・e17077)が入室する。
「初めまして、隈井さん。貴方の病魔を退治する事になったケルベロスだ」
義次が、病魔根絶計画についての説明をする。
「俺も以前『メデューサ病』と呼ばれた病の根絶に参加したことがある。身体が石のように固まる奇病だったが、今は完治している」
隈井は最近解決されたその事実を知らなかった。難病奇病が根絶されていったことを聞かされ、わずかな希望がその瞳に灯った。
「先が見えず、おそろしかったろう。もう大丈夫。今いった様に麗子さんの病も必ず治るとも」
義次の言葉を引き継ぐように一十が隈井に声をかける。
「麗子さんがもう一度人と、鏡と笑顔で向き合えるように今度は僕らが戦おう」
真摯に言葉を重ねる一十。隈井がもう一度社会生活を送れるように自分達が戦いサポートするのだと伝える。
「必ず勝ってみせるとも。麗子さんも、負けないで、本当の自分の姿を忘れないでくれ」
「本当の自分の姿……」
記憶の奥底に沈んだ自分の姿。茶色く爛れた醜い手を見つめながら、隈井は記憶の底を漁りながら呟いた。
「本当に、皆さんは勝てるのでしょうか……」
それは隈井の心配。この計画は番犬達が負ければすべてご破算になる計画だ。計画が破綻した時のことを考え怯えがでる。
「――心配しないでほしい。なんといっても俺は雷鳴の戦士、サンダーボルト。そして俺たちはケルベロスだ」
力強い光が迸る。義次が、隈井を勇気づけるようにその身を最終決戦モードへと変化させる。
見る者全てを鼓舞するような輝きに、隈井は心に勇気の炎が燃え盛るのを感じた。
「さあこれを。お守り代わりに持っているといい」
一十が赤い和細工の髪留めを渡す。「きっと麗子さんに似合うはずだ」と一十は優しく微笑んだ。
そうして二人は退出した。
入れ替わるように次のペアが入室する。次は春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692)と八雲だ。
「やあ。隈井麗子君。ウィッチドクターの斯刃・八雲だよ。怪異症候群は必ず倒すから安心してね」
笑顔でゆっくりと近づきながら握手を求める八雲。隈井は思わず自分の手を見つめ手を出せずにいた。
すると八雲は手をくるりと回すように動かすと、手品を見せるように一輪の黄色い花を差し出した。
「素敵な花……これは?」
「金糸梅さ。花言葉は、あとで自分で調べてみると良い」
そう言って笑いかける八雲は自分が病魔召喚の儀を行う事を説明した。
「君は寝ているだけでいい。あとは私たちがなんとかするからね」
底抜けに明るく話す八雲に釣られ、隈井にもどこか明るさが取り戻されていく。
そんな隈井に重武装で力強さを現す零日が話しかけた。
「言葉の慰めは他の者や主の後輩がしてくれよう。儂等番犬は、力を以って主を助ける。だから安心せよ、主は独りではない」
言葉数は少ないが、力強さをもつ零日の言葉は隈井を安心させる。
「君の本来の黒髪には及ばないけれど、もう少しだけこれで我慢してほしい」
縮れた黒髪が気になるのであればとウィッグを渡す八雲。
「では、当日楽しみにね」最後まで明るく接した八雲と零日が退室する。
退室する直前、零日は床に抜け落ちた隈井の黒髪を拾い上げ呟いた。
「綺麗な黒髪じゃな。あまり手入れのしていない儂でも分かる、努力の為せた艶のある髪……嗚呼、許せないとも。必ずやこの病魔を根絶やしにしてみせる……!」
強く髪を握りしめ、静かな怒りの炎を灯しながら、退室した。
そうして最後のペアが入室する。
「こんにちは! あのねあのね! みんな隈井さんに早く戻ってきてほしいって待ってたよ! ほらこれ!」
元気に声をかけたのはシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)だ。手にした寄せ書きを隈井に渡す。
それはシルディが用意した、隈井が休職中の会社にいるものからのメッセージだった。
「みんな隈井さんと一緒だよ。一緒になって戦ってくれる。本当に病魔と闘う事はできないけど、祈りや激励は間違いなく隈井さんやボク達の力になるからね」
「みんな……」
寄せ書きに書かれた名前に一人一人の顔が浮かぶ。
「こっちも見て欲しいな、皆隈井さんのこと待ってるよ」
それは動画だ。両親や仲のよかった会社の後輩達、同期のライバルに人の良い上司――そして。
「田所くん……」
動画の最後に田所が登場する。ずっと見舞いに来てくれていた田所。会いたくない、けれど話したい彼が一つ一つ言葉を重ねていく。
ぽつり、ぽつり。涙が零れる。
皆が待っていてくれている。共に戦ってくれると言ってくれている。思いが溢れ、隈井の心に決意をもたらす。
「病魔だって生存繁栄したいから死ぬ物狂いで来るからね、それに負けないって気持ちが必要なんだ。応援してくれてる皆と共に……一緒に戦ってくれるかな?」
キラキラのプリンセスモードになったシルディが共に戦おうと手を差し出す。
涙を流す隈井は、今度しっかりとその手を握った。
「もう泣かないでください。わたし達が絶対に、元の姿に戻してあげますから」
その手に重ねるもう一人の訪問者、雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)。微笑むように隈井に声をかける。
「田所さんって人も、すごく心配していましたよ。だから、治ったらすぐに会いに行って、安心させてあげて欲しいです」
「安心……どうすればいいんでしょう」
「……つまりは、デートですよ! 何を着るか、どこに行くか、わたしも一緒に考えます。ね、一緒に未来について語りましょう!」
しずくは、麗子に幸せになってほしかった。
ファッション誌や流行のスポットが特集された雑誌を広げながら、少しでも未来に希望を持って「治りたい」と思って貰う為に、隈井と共に一生懸命に考えていく。
「次田所さんに会うときは、うんと綺麗な麗子の姿を見せてびっくりさせちゃいましょう! どんな服がいいかな……」
「田所君とそんな……うぅ……」
恥ずかしがる隈井と共に未来の話を続け、そうしてプランが固まったところで二人は退室する。
退室の間際、シルディが「勝てるよう祈って応援しててね!」と元気に言って扉を閉めた。
合流した番犬達は言葉が無くても想いは同じだ。隈井を助けるために、全力を尽くそうと誓い合った。
そして病魔根絶の時が来る――。
●在りし日の姿を思い出し
八雲の手によって病魔が召喚される。
すぐさま隈井が搬出されると、番犬達は武器を取った。
――醜悪なる怪異との戦いは激しい物となった。怨嗟の叫びを上げながら異形の打撃が番犬達を苦しめる。
「此度は回復役じゃが……ちぃとばかり出しゃばらせてもらおうかの。……往くぞ、妾の忠実なる下僕共」
戀が病魔の一撃を躱しながら、その詠唱を囀る。
「この身は世の為、人の為万物の為、万物の神々の為に捧ぐ者成り。星より出し命の灯火、此処に集いて、妾と共に撃ち抜かん。いざ参ろうぞ! 鎮魂曲『葬送なる蒼き彗星』(レクイエム フュネライユ・ブルー・コメット)」
使役するエネルギー体が死者の安息を祈る曲を奏でる。呼び寄せられた死者の魂を纏うと、蒼き光をまとって彗星の様に突撃した。終盤を迎えるレイクイエムの一撃が追撃となって病魔を襲う。
「麗子と田所さんの為だけじゃなく……この病気で苦しんで泣いてる人がどこかにいるなら、わたし達は絶対に負けられません!」
病魔の攻撃を躱しながら、想いを言葉に、力に変えるしずく。
「――今のわたしが、なにに見えますか?」
問いかけるしずくを桃色の霧が包み込む。直後浮かび上がる恐ろしき異形の影に病魔が芯を冷やす。それは氷となって病魔を包み込んでいった。
「さぁ、鳴らそう。戦の銅鑼代わりじゃ!」
流星纏う蹴りを放ち精神集中による遠隔爆破を行う零日は病魔の隙をつき拍手を打ち鳴らす。遠くの仲間にも聞こえるように改良されたその技は仲間達のグラビティの威力を跳ね上げる。
味方の位置を気にしながら、仲間を庇い立ち向かうのは義次だ。
「俺の力……皆に貸すぞ!」
病魔の攻撃にあわせライトニングエナジーを駆け巡らせる、そうして天高く舞い上がると急降下の蹴りを見舞い病魔の注意を引いていく。
「安心していいよ、私が支えてみせる」
病魔の恐ろしい攻撃に対し、仲間達を支えるのは八雲だ。自らも攻撃に参加しながら仲間達を治癒し癒やしていく。得意の蹴り技が病魔に炸裂し病魔を苦しめる。
「あまり実践したことは無いのだが――」
下肢の地獄を放出し、病魔へと疾駆する一十。急接近され対応できない病魔の顎目がけて掌底を放つ。護身術の域を超えたその一撃は確実に病魔の顎を砕き破壊した。
シルディと藍励が病魔へと駆ける。追い詰められた病魔が異形なる打撃を振り回すが、シルディがその身を盾にし受け止める。
シルディからオウガ粒子が放たれ、藍励の集中力を極限にまで高めていく。続けてシルディは病魔の懐に飛び込み鋼の鬼と化した一撃を振り下ろす。身もだえる病魔が堪えきれず地に倒れた。
「時解、弐之型『三攻』」
藍励がその速度をあげ、病魔を取り囲むように移動すると、黒い光の尾を引きながら三角錐を一筆書きで描き出す。取り囲んだ頂点から病魔に向かい黒い光が収束していく。そして一点に収束された黒い光の塊は三角錐と共に炸裂破砕し、病魔を一息に消滅へと追い込んだ。
そうして、怪異症候群と呼ばれた病魔はついに根絶されるのだった――。
目を覚ました隈井は朧気な視線を自らの手に這わせる。
そこには白く瑞々しい肌を持つ、いつかどこかで見た手があった。
徐々に実感を伴う感情。顔に手を這わせ、感触を確かめていく。
番犬達が鏡を手渡す。ゆっくりと覗き込むその顔は、髪は短くなってしまったものの、在りし日の姿を映し出していた。
すっ――と涙が頬を伝う。ああ、もう。私はこんなに涙もろかっただろうか。
歓喜が、涙を溢れさせる。けれど喜びと幸せはそれだけではなかった。
駆け寄ってくる男がいる。
男――田所は息を切らしながら金糸梅の花束を渡し、続けて小箱を取り出すと開いた。指輪だ。
「先輩……いえ麗子さん、俺と結婚を前提に付き合って下さい!」
驚きのまま口に手を当てる隈井。けれどその顔が徐々に破顔し……。
その先の返事は聞くまでもない。
気の利かないシルディを引っ張る番犬達は二人を祝福するように、静かにその場を去るのだった――。
作者:澤見夜行 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月24日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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