失伝救出~激昂のセニア

作者:澤見夜行

●セニア・ストランジェ
 風化した世界。崩れ落ちる街並みは世界の終わりを予感させる。
 どこへ逃げても、逃げ切る事などできはしない。この街はデウスエクスに支配されていた。
 そんな世界に隠れ潜む男女が五名いた。
「セニア……おい、セニア!」
「あ……すまない。少し考え事をしていた」
「しっかりしてくれ、もう俺たちしかいないんだからな」
「……ああ、そうだな」
 男に言われ、セニアと呼ばれた女性は隠れている部屋から覗き込むように外を見た。
 そこにはデウスエクス――オークの群れが難民の人間を引き摺って歩くのが見えた。
「あいつら、また……!」
 その光景に一瞬にして激昂するセニアだが、仲間の一人に肩を掴まれ我に返る。怒りでその拳がわなわなと震えていた。
「こんなとき、彼らが居てくれたら……」
 ふとセニアは呟く。そしてすぐ有りもしない幻想だと、自分の考えを否定した。
「ありえない話だ……デウスエクスに勝てる者などいないのに」
 どこか自嘲めいた笑みを浮かべ、自分がそこまで追い詰められていたのかと嘆くセニア。
 そんなセニアを仲間が呼ぶ。外を見ろとハンドサインで知らせる。
 もう一度外を見るセニア。そこではオークの一匹が群れから離れ人間の女性を引き摺り物陰へと移動するところだった。
「ブッフフ、味見、味見」
「いやあぁぁ――!」
 陽気に歩く醜い豚と悲鳴を上げる女性。一瞬にして天を突く怒髪。
「おい、まてセニア!」
「止めるな!!」
 仲間の制止を振り切り駆け出すセニア。仲間も慌てて追いかけた。
 ――オークとの戦いは死闘だった。
 激しい怒りを身に纏い、激情に身を任せ戦うセニアの姿は華麗にして熾烈。欠損した身体を混沌の水で補い武器へと変え、見る者全てを魅了する荒々しい動作でオークへと襲いかかる。
 だがその荒々しい力を持ってしても、オーク一体倒すのが精一杯だった。
 傷つき血塗れの身体を起こし、撤退しようとする。その時、気づいた。助けようとした女性も、共に戦ってきていた仲間の二人も、今の戦闘でその命が失われてしまったことに。
 風化した壁を拳で打ち壊す。やり場のない怒りがぶつけられた。
「私は……私達はなんの為に戦っているんだ……! もっと、もっと力があれば――!」
 身体を支配する、身を焦がすような怒り。怒りの矛先を探すように、セニアは残った仲間と共に駆けだした――。


「お集まり頂いたのは他でもないのです。新たな囚われている失伝者の居場所が予知できたのです」
 寓話六塔戦争に勝利し、囚われていた失伝ジョブの人達を救出した事、更に救出できなかった失伝ジョブの人達の情報を得られたことで、その居場所がヘリオライダーによって予知することができるようになった。
 クーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)は集まった番犬達に新たな失伝者の救出を依頼する。
「これまでに救出された失伝ジョブの人達と同じように、特殊なワイルドスペースで、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返させられているのです。
 皆さんには特殊なワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去って、閉じ込められた人々の救出をお願いするのです!」
 クーリャは続けて作戦地域の説明を始める。
「作戦エリアは特殊なワイルドスペースになっていて、失伝ジョブの人々以外の人間は出入りする事が不可能なのです。その為この作戦に参加できるのは、失伝ジョブを持つケルベロスだけなのです」
 ワイルドスペース内において、失伝ジョブの人達は残霊を本物の一般人と認識させられている。そしてその一般人を救う事ができない状況に追いやられ、絶望を与え続けられている。
 守るべき人々を助ける事もできず、助けられたとしても生かす為の備蓄もない。無力さに支配された彼らを救うには、彼らに希望となる力を見せる必要がある。
「敵は残霊のオークが十体。残霊の一般人を捕らえるオーク達を倒し、囚われた失伝ジョブの人達に希望をもたらしてあげて欲しいのです」
 オーク達は例によって触手を用いた攻撃を多用してくる。残霊である以上その戦闘能力は低く、戦闘経験の少ない新米でも問題なく倒せる相手だ。
 最後に、とクーリャは番犬達に向き直る。
「ケルベロスの戦いに慣れていない人も多いかと思うのですが、悲劇に閉じ込められた人々の救出をどうか宜しくお願いするのです。
 ワイルドスペース内で発生している悲劇は、実際に起きた過去の悲劇が残霊化したもののようなのです。救出対象者以外の一般人などは全て残霊になるので、助けられないのが残念なのです。
 こんな悲劇を乗り越えて戦い続けてきた、失伝ジョブの先達の為にも、必ず救出してあげて欲しいのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャはそうして番犬達を送り出した。


参加者
村正・千鳥(剣華鏡乱・e44080)
早乙女・千早(喪失ノスタルジア・e44289)
オーロラ・トワイライト(怪奇探偵・e44452)
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)
彩瀬・舞桜(サキュバスの心霊治療士・e44628)
久里・蒼太(ルリビタキ・e44787)
ジン・ユウ(燕去水・e44938)
獅識・千夜(喪われた歌声の先に・e45069)

■リプレイ

●接触
 予知されたワイルドスペースに侵入する番犬達。侵入してすぐ、荒廃した街並みが広がっているのに気づく。住宅は瓦礫に埋もれ、砂塵が吹き荒れる。草木も枯れ果て見るも無惨な世界だ。
「失伝者の方達はこんな世界で孤独に戦っているんですね……」
「こんな世界で悲劇を見せ続けられるのでは、心がどうかしてしまうね」
 彩瀬・舞桜(サキュバスの心霊治療士・e44628)の言葉に、オーロラ・トワイライト(怪奇探偵・e44452)が胸を押さえるように言った。
 生物が存在できないような荒れ果てた街にデウスエクスが闊歩する。そんな世界に囚われ続けるというのはどれほど辛いことなのか。
 今回の依頼に参加している番犬達の中には、寓話六塔戦争で救出された者も多い。もし救出されなければ同じような目に遭っていたかもしれないと思うと、他人事ではなかった。
「――! オーク達です」
 久里・蒼太(ルリビタキ・e44787)が壁向こうを歩くオーク達に気づき、仲間に知らせる。
「今ハ、失伝者達を探すのを優先しよウ」
「さんせーい。まずは無事を確認しないとね」
 獅識・千夜(喪われた歌声の先に・e45069)の提案に村正・千鳥(剣華鏡乱・e44080)が賛成すると、仲間達も皆頷いた。
 警戒しながら、オーク達に見つからないように壁伝いに隠れ進む。
 程なくして、崩れた壁に囲まれた一室を見つける事ができた。中にはつい最近まで生活していたような後が見受けられる。
 番犬達が何か手がかりがないかと探索していると、不意に背後から声がかかった。
「――何者だ」
 振り返れば、武装した三人組。情報にあった失伝者達だ。
「ボク達はケルベロス。キミ達を助けに来たんだ」
「ケルベロス……? 一体キミ達は……?」
 早乙女・千早(喪失ノスタルジア・e44289)が真摯に名乗ると、三人の中の女性が訝しげにしながら、しかし敵意を感じ取れないと見て「私はセニア。セニア・ストランジェだ。君達はいったい何者なんだ」と再度問いかけた。
 番犬達が説明をしようと口を開いた矢先、突如女性の悲鳴が響き渡った。
「まずいぞ、オークの群れだ」
「くそ、やつらまた難民達を!」
 口々に声をあげる失伝者達。セニアもまた目を剥き怒りに拳を振るわせる。
 すぐさま番犬達が動き出す。
「自分達がオークを急襲するので、混乱に乗じて難民達を救出してください」
 千早の提案にセニア達が驚きの声を上げる。
「何を!? 無茶だ、あの数のオーク相手だぞ」
「ふふ、こんな極限な状況でも他者を気遣い、非道に憤るその優しさ。ああっなんて美しいのかしら。セニアさん、もう大丈夫です。後は私達、ケルベロスに任せて。あなた達は彼らを守ってあげて頂戴」
 激昂するセニアの心を美しいと思うベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)は恍惚な表情を浮かべながらセニアに言う。そして仲間達と頷き合うと、壁を乗り越え飛び出していく。
「待て――無理だ!」
 慌ててセニア達も番犬達を追いかける。そして目にする。
「美ッ少女ケルベロス妖剣士千鳥ちゃん! ただいまー……剣・参!!」
「一気に助けますよ――!」
 飛び出した番犬達が常人離れした速度でオーク達に急襲すると、瞬く間にオーク達から難民達を引き離し助け出す姿を。
「――すごい……」
「この場は私たちに任せてほしい。その代わり、その人たちを守るのは任せるよ」
「彼らを頼ム。前に出た理由を忘れたわけではあるまイ」
「ここは私達に任せてもらおう」
「やーやー! ここは千鳥ちゃんたちに任せておけ!! あ! なんかこういうカッコいいセリフ、前から使ってみたかったんです!」
 唖然とするセニア達に、オーロラと千夜、ジン・ユウ(燕去水・e44938)、そしてテンションの高い千鳥が難民達を預け、戦列へと戻る。
「ブフゥゥ! なんだ貴様らわ! 我々の邪魔するブフか!? 邪魔するものは死すべし! 殺すべし!」
 難民を奪われたオーク達が怒りに贅肉を振るわせながら怨嗟の声を上げる。
「オークといえば豚! 豚と云えば、トンカツ!! 三枚おろしにして揚げてやるぜー!!」
「さしずめあなた達は美しい花に群がる害虫、と言ったところかしら。ふふっ、一匹残らず駆除してあげる」
 対する番犬達もまた、宣戦を布告する。
 ここに失伝者達に希望を与える戦いが幕を開ける――。

●奮い立つ
「数ではあちらが上か。囲まれないように気をつけよう」
 オーロラが仲間達に注意を促すと、番犬達は一つ頷き散会する。
 オークの触手が舞桜を舐るように叩きつけられる。
「ブフ、今に立ってられなくしてやるブゥ」
 嫌らしく言うオークに、自然と自分の身体を守るように抱きしめる舞桜。嫌悪と羞恥、そして幾分かの快感が混ざり合う複雑な感情の中、オークを睨み付ける。
「聞きしに勝るとはいえ、女性の敵というのが良く分かりました……これ以上貴方達オークの魔の手、届かせませんよ」
 そう宣言すると、癒やしの風を巻き起こし、後方にいる難民とセニア達を回復する。
「私達も貴方達のお力添えを。さあ、何も出来ぬ怒りと絶望を打ち払い、救えた笑顔と希望の道を描きましょう」
 セニア達に声をかけ、仲間達を支える舞桜。格下の相手とはいえ、数が多く、ダメージの蓄積も多い。的確に回復を行い、戦える環境を作り上げる。
「使命なれば、ここに立つことは厭わない」
 二度目のワイルドスペース。悪事企む夢喰いに嫌悪の感情を示すジン。
 見えぬ場所に『混沌の水』を宿す身だからこそ放ってはおけなかった。自分達ならば勝てるのだと伝える為に剣を取る。先ほどまでの死んだような無表情の目に、強い意志が宿る。
「絶望は打ち払うもの。ケルベロスとして、お前たちを倒す」
 構えると同時に大地を蹴り肉薄すると稲妻帯びた超高速の突きを繰り出し神経を焼き切る。
 反撃の一打を食らうも感情は表にださず、カウンターに黒色の魔弾を投げつけ悪夢を見せる。
「好きにはさせん。ここで、終わりだ」
 白き混沌の波を敵群に解き放ち飲み込む。衝撃に吹き飛ぶオーク達が凍り付いた。
 人付き合いが殆どなかったジンは、今こうして仲間と共に戦えることが嬉しくて喜色が漏れ――動きが冴え渡る。
「残霊とか関係ない。デウスエクスは……潰す」
 『混沌の水』が迸り、巨大な拳が作り上げられる。千早は容赦なくその拳を振るいオークを殴り飛ばす。
 千早は戦況をよく観察していた。オーク達の注意を引きつけるベルベットのフォローを的確にこなし、戦況をコントロールしていく。
「凰子さん――」
 サーヴァントの凰子さんに指示をだし、ベルベットを庇わせる。そして自らも混沌を纏わせた武器を振るいベルベットの傷を癒やす。
「自分の手が届く限り、誰も死なせない」
 決意を口にだし、仲間と共に戦う千早。過去、オークに女性と間違われたこともありオークに対して苦手意識があった。
「ブフフフ! 可愛いこ発見ー!」
 オークが千早に触手を伸ばしていく。
「あの時とは違う。今のボクにはあいつらを殺す力がある」
 混沌によって生み出された獲物で触手を斬り払いながらオークへと怯むことなく立ち向かっていく。
「私たちが狩る側だということヲ、ここに証明しよウ。言葉より明確な方法でナ!」
「いくよ!」
 千夜と蒼太が戦場を駆ける。
 触手から放たれる溶解液を、千夜がその身を盾に受け止めながらオーク達に急接近すると、蒼太と共に混沌に覆われた腕を巨大刀に変化させ力任せに叩き斬る。
「まだダ。これもおまけダ」
 さらに千夜は獣化した手足に重力を集中すると、高速かつ重量のある一撃を放ちオークを吹き飛ばす。
「こんなのじゃ、全然効きませんよ!」
 蒼太も触手を受けながらも的確に反撃する。混沌を纏わせた武器を振るいオークを斬り裂いて行く。
 連携した二人の動きの前に、オーク達は為す術がない。次々に倒れていく。
「戦いは数ともいうからね。きっちり減らしていこう」
 オーロラが手にした「絶対零度手榴弾」をオークの群れに投げ込んでいく。炸裂しオーク達を凍り付かせると、必殺のエネルギー光線で次々とオークを倒していった。
「数を頼みにする相手は初めてじゃない。的を散らしすぎないように気をつけよう」
 そう呟きながら、オーロラは探偵稼業中の修羅場を思い出す。あれに比べればまだまだ余裕はあるはずだ。
 オーク達の突破を防ぐ為に包囲陣形を心掛けながら戦うのはベルベットだ。
「幻惑の薔薇吹雪、舞い散りなさい! 災厄の白薔薇(ディザスターローズ)!」
 ベルベットが力ある言葉を解き放つと、周囲の熱量が操作され、超低温の空間が生み出される。光が乱反射しオーク達を幻惑していく。
 さらに手首に巻き付けた包帯から呪詛が溢れだす。呪詛は黒き沼を生み出しオーク達を飲み込んでいく。
 こうして、オーク達の注意を人一倍引きつけたベルベットは多数の触手に狙われながらも、それを耐えきり仲間達の攻撃に合流していく。
 残りの数は少ない、確実に一体ずつ仕留めていく――。
 炎纏う蹴りを見舞いながら、襲い来るオークを素手で引き裂いていく。
 死角外からの攻撃を千鳥が庇うと、「ありがと!」と礼を返した。
「さあいっくよー!!」
 テンション高い千鳥が大げさに叫びながら天高く舞い上空から斬り結ぶ。武器に無数の霊体を憑依させ、オークを斬りつけると汚染していった。
 妖刀蛇之村正とオウガメタル都牟刈。二振りの刃を用いてオーク達と斬り結ぶ千鳥。二本の刀から繰り出される斬撃が、的確にオーク達の触手を切り落としていく。
「我流村正……かごめかごめ」
 唄と共に放たれる斬撃の檻がオークの動きを縛り封じる。そうして動きを止めたオークに止めをさし、さらに次の相手へと斬りかかった。
 ――戦いは、圧倒的に番犬達の優勢だった。
 セニアは呆然とその姿を見る。否、徐々にそれは興奮へと変わっていく。
 デウスエクスに死をもたらす者――ケルベロス。夢想したその存在が実在し、今目の前でデウスエクスを圧倒している。
 心が震える。
 希望がそこにあるのだ。目の前に、手の届く場所に。ならば、まだ、自分は戦える――。
 握った拳が震える。それは怒りからではない。歯がゆいのだ。共に戦いたくて仕方が無いのだ。
「行ってこいセニア」
 不意に仲間の男達が言う。
「お前なら一緒に戦えるはずだ」
 ここは俺たちが守ると、二人が言った。
 セニアは、一瞬の逡巡ののち、「任せた」というと駆けだした。
 これまで良いようにされてきたオーク達への怒り。そして希望を与えてくれた番犬達と共に戦えることへの高揚感。
 入り交じった感情が爆発する。そして叫んだ。
「ワイルドの力よ、もっと私の怒りに応えて見せろ!」
 生み出される混沌の刃を振るう。背後から斬られたオークが悲鳴を上げた。
「助太刀……の必要はないかもしれないが、私も共に戦わせてくれ」
 セニアの言葉に番犬達は笑顔で頷いた。
「それじゃ一気に倒しましょう!」
「無茶はされないように」
「大丈夫、皆支えて見せます」
 セニアを加えた番犬達の攻勢は止まる事を知らなかった。
「ブッフウウウ! バカなああああ!」
 番犬達の連携の前に、残るオーク達も悲鳴を上げながら次々と倒れていく。そこに反撃の余地はなかった。
 ――程なくして、オーク達は全滅した。
 一息ついた番犬達が顔を見合わせる。その顔は汗が滴るが皆よい笑顔だった。
 こうして、戦いは終わりを告げた――。

●激昂のセニア
「ではここに居る者達は皆残霊なのか……」
 戦いが終わり、番犬達から事情を聴いたセニア達はどこか哀しそうに呟いた。
 残霊である以上助ける事はできない。このワイルドスペースを生み出した者が倒れワイルドスペースが消えるまではここに残り続けるのだろう。
「いや、それでも、オーク達から救えてよかった」
 それは心からの言葉。目の前で助けを呼ぶ者を助ける事ができて、自身が救われたという思いだった。
「それじゃ急いで帰らないとねー」
「貴方達を連れ帰ることができれば、この作戦は終了。次の戦いを始められる。もっと多くの人達を守るための戦いを」
「セニアくんだったね。一緒に来てもらえるかな…デウスエクスを殺すために、ね」
「それは……」
 言い淀むセニアは気づいていた。自分にもデウスエクスに対抗する力があるのだと。
「それニ、この場に居続けるのはよくないからナ。早く出た方が良イ」
「未来へ続くからこそ、先人の無念は忘れない」
「……わかった、共に脱出させてくれ」
 セニアを含め失伝者の三名はそういうと番犬達に付き従うのだった。

 来た道と同じ経路を辿りながら脱出する番犬達。
 不安そうな失伝者の三人に蒼太が「大丈夫だよ、すぐに明るいところにでれるからね」と和やかに言った。
 そんな蒼太を見て千鳥が「うんうん、蒼太くんは可愛いねぇ」と頭を撫でようとして避けられる。
 クスクスと笑いが広がる中、出口が見えてきた。
 体中に纏わり付く不快な液体の感触が消え、ワイルドスペースの外にでると太陽の陽が差し込んできた。
 その明るさに、セニア達三人は思わず目を細める。
「ああ……太陽だ」
 暖かなこの光をもうずっと見ていなかった気がする。セニアはしばらくの間太陽を眺めるように空を仰いでいた。
 気がつけば、セニア達三人の服装は戦闘服ではない普段着に戻っていた。そして呪いが解けるように、セニア達の凍り付いた記憶を溶かしていく。
(「ああ、そうか。私達は連れ攫われて……」)
 セニア達はようやく解放されたのだと、理解した。
 ワイルドスペースに向かい黙祷を捧げる舞桜。そして番犬として決意を新たにする。
「過去デウスエクス達に蹂躙されていた絶望。そして残霊であっても救われた人々の表情と想い。それらを胸に刻んで忘れずに戦っていきましょう」
 舞桜の言葉に続くように、ベルベットが言葉を紡いだ。
「今までよく頑張ったわね」微笑む顔は穏やかだ。
 セニアへと手を差し伸べるベルベット。
「これからは私達がいるし、あなた達ももっと強くなれるわ。だから、私達と一緒に行きましょう」
 差し出された手を前に、少しの逡巡。しかし、力強くその手を握り返した。
「セニア・ストランジェだ。こちらからも、宜しく頼む。私の力が役に立てるのならば、皆と共に戦おう」
 改めて名乗るセニア。怒りに身を任せる日々は終わりを告げたのだ。これからは仲間の為にこの力、この剣を取ろう。
 ベルベットの手をとり、真剣な眼差しのセニアを見た仲間達は笑いを堪えるように「こいつはすぐ怒りに身を任せちまうからな。激昂のセニアって呼ばれてるんだ」と茶化す。瞬間セニアは顔を紅潮させた。
 番犬達に笑顔の華が咲く。釣られてセニア達も顔を綻ばせた。
 遅れてヘリオンが迎えに来る。乗り込む番犬達とセニア達。
 そして番犬達と共に、新たな戦いが始まる――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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