カレーとライスの天地創造

作者:坂本ピエロギ


「いいか諸君。この世界は、はじめに神がカレーとライスを創造したのだ」
 午後7時、とある繁華街の雑居ビル。
 ターメリック色に輝く街のネオンを背景に、1人のビルシャナがカレースプーンを振り回しながら説法に唾を飛ばしていた。
「神は仰った、『何これ超うめえ』と。そして生まれたのがカレーライスなのだ」
 室内に設けられたテーブルを囲んでいるのは、性別も年齢もまるでバラバラの一団だ。彼らは皆、教祖たるビルシャナの言葉に頷きながら、大盛りによそったカレーを至福の表情で頬張っている。
 熱弁を振るう鳥めいた異形の存在が、人類に仇なすデウスエクスであることを、誰も気にしていない様子だ。
「ナンなど邪道! 発酵もさせない紛い物なぞ、ピザにでも使うのがお似合いだ!」
「誠に仰る通りですね! あ、教祖様お代わり」
「信仰熱心でよろしい。これからも精進せよ!」
 信者の差し出す白い皿に、ビルシャナはカレーと白米をたっぷりよそいあげてやった。
 そして宣言する。
「カレーにはライス、それ以外認めない! ライスこそ唯一にして絶対の真理である!」
 スパイスを効かせたルーより熱く、それでいて偏った情熱と共に、自らの教義を謳い上げるビルシャナ。その声には深い陶然の色があった。
 熱いカレーを冷ます信者たちの吐く息こそが、彼――『カレーはライス以外絶対認めないビルシャナ』を称える、これ以上ない賞賛の拍手なのである。


「カレーには、魂を惹きつける魔力があるようですね」
 日の落ちたヘリポートに、湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)の息が白く咲く。
 体の温まる料理が無性に欲しくなる、そんな夜だった。
「先日は『激辛カレー絶対許さないビルシャナ』の討伐お疲れさまでした。どうやら再び、カレーの悟りを開いたビルシャナが出現したようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はカレーチップスの空袋におしぼりを放り込み、麻亜弥の話を継ぐ。
「敵は『ライス以外のカレーは絶対認めないビルシャナ』。彼はとある繁華街の雑居ビルを占拠し、信者たちに自らの教えを熱心に説いています」
 曰く、カレーのメインはライスのみ。
 曰く、ナンカレーもカレーパンもカレーうどんもカレーピザも、全て邪道である。
 そんな排他的な教義を、あちこちに広めようとしているらしい。
「現地に到着する頃には住民の退避は完了しています。戦闘による周辺への被害を考慮する必要はありません。思う存分戦ってください」
 ビル内部では、教祖のビルシャナと8名の信者がカレーを食べていて、戦いになれば信者たちは妨害を仕掛けてくるだろう。室内はスペース、光源ともに確保されているので、立ち回りに支障はない。
 教祖であるビルシャナは遠距離攻撃メインで戦うスタイルだ。炎に氷にトラウマにと、多彩な状態異常をこれでもかと付与してくる。いっぽう信者たちの戦闘能力は皆無だが、攻撃するとすぐに死んでしまうので注意が必要だ。
「信者については、説得することで正気に戻すことが可能です。説得については、理屈よりも情に訴えるパフォーマンスの方が、良い成果を生むでしょう」
 ここで言う『情』とは、すなわち『カレーに対する愛情』のことだ。
 各々の一番好きなカレー料理を持ち寄り、愛情を込めた語り口で、美味しく食べる。そうすれば、きっと信者たちにも想いは届くことだろう。
「本作戦では、信者の説得に使用するという条件つきで、『戦いに必要なカレー料理』をこちらで用意します。必要な方は遠慮せず申し出て下さい」
 もちろん、自前で用意するのも結構です――セリカはそう付け加えると、
「説明は以上です。ビルシャナとなった人を救う事は出来ませんが、これ以上の被害拡大を防ぐためにも、速やかな撃破をお願いします」
 そう言って、ヘリオン発進の準備を始めるのだった。


参加者
ルヴィル・コールディ(黒翼の祓刀・e00824)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
ヘル・ウォー(ディストラクター・e14296)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
逸見・響(未だ沈まずや・e43374)
葛・日蔭丸(お米が好き・e45013)
ケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)

■リプレイ

●起~炒める~
 ビルの向こうに陽が落ちて、ちょうど夜が始まる頃、ケルベロスは現地に到着した。
「皆さん、準備は万全ですか?」
「私はOKだよ。このカレーで、信者の皆を正気に戻すんだ!」
 葛・日蔭丸(お米が好き・e45013)の問いかけに、逸見・響(未だ沈まずや・e43374)は小さく頷いた。
 ビルで唯一、光の灯った中層フロア。微かに開いた窓から漏れるカレーのスパイシーな香りが、ビルシャナの存在を告げる。それは罪なき人間の胃と魂を絡めとる魔の誘惑だ。
「カレーが好きなのは良いけどライスだけだなんて……勿体ないもんね」
 響は自信満々の表情で、自分の身長ほどもありそうな寸胴鍋に視線を送った。
 その数は、2つ。運搬用カートに乗った鍋からは、白い湯気に混じってカレーの芳香が漂ってくる。顔を近づけると、発酵した大豆の香りが微かに嗅ぎ取れた。
「教えてさしあげましょう。カレーは主食にもデザートにもなれることを」
 一方、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)が手にしているのは小ぶりの鍋。大盛のカレーを作ったなら、あっという間に底をつきそうな量だ。
 目を引くのは、タルトシェルを思わせるビスケット製の器である。カレーにビスケットの組み合わせは異色という他ないが、いったい何を作るつもりなのだろう。
 食べ過ぎて信者さんが倒れないように、気をつけませんと――。そんな物騒極まりない言葉をさらりと口にして、悠乃はにこにこと天使のような笑顔を浮かべる。
「俺ビルシャナってやつ見んの初めてなんだけどさー、こんなくっだらねー理由で人間捨てちまうとか勿体ないよなー」
 呆れ顔で呟くのは、ケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)だ。
 今回が初参加となるケースケの鍋から漏れるのは、絡み合うカツオ出汁とカレーの香り。手にぶら提げるビニール袋には、白いうどん玉がドッサリと入っている。
「どれもいい匂いだな~。美味しそうだな~」
 油の染みた熱々の紙袋を抱えたルヴィル・コールディ(黒翼の祓刀・e00824)は、生唾を飲み込んで頬を綻ばせた。仲間たちの料理を嗅ぎ分けるうち、涎がこみ上げるのを抑えきれなかったらしい。
「カレーはご飯だけなんてもったいないよ。どれも美味しく頂かなくちゃ!」
 少年型レプリカントのヘル・ウォー(ディストラクター・e14296)がケルベロスコートから取り出したのは、包装された煎餅である。黄色に縁どられた包みの真ん中から覗く、丸い小判を思わせる金色の円盤は見るだけで腹の虫が騒ぎ出しそうだ。
「カレーは何にでも合う万能料理。それをライスで一括りにするだなんて、失礼です」
 依頼を的中させた湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)は一行の先頭に立ち、ビルの中へと入っていった。手に持った陶器の大皿には、きつね色の焦げ目がついた白いナンがどっさりと積まれている。
「行きましょう皆さん。カレーが冷めない、そのうちに!」
「よし。斬り込みは僕がやろう」
 エレベーターを降り、部屋の前で振り返る麻亜弥。それに頷いて進み出たのは、万能型強化防弾カレールー(中辛)を装着した藤・小梢丸(カレーの人・e02656)だ。
(どうやら演説中のようですね)
 息を殺した悠乃がそっと耳をすますと、ドア越しにビルシャナの声が聞こえてくる。
 説法に夢中なのか、こちらの気配には気付いていないようだ。
「紛い物のナンなぞ、ピザにでも使うのがお似合いだ!」
 ビルシャナが託宣を言い終えたのを合図に、
「異議あり!!」
 小梢丸は大声でドアを開け放った。

●承~煮込む~
「確かにカレーはライスにかけると美味い、それは認めよう。だが!」
 この手合いに面倒な前置きは無用。小梢丸は単刀直入に切り込んだ。
「ライスだけと誰が決めた? 貴様の理は、宇宙の万物の祖たるカレーへの侮辱だ!」
「何者だ! 我が教えに異議を申し立てる不届き者は!」
 見知らぬ一団の乱入に、どよめきの走る室内。だがテーブルの中央、カレー鍋と炊飯器を背に鎮座するビルシャナだけは、堂々と胸を張って反論してきた。
 教祖の言葉に、信者たちも目の前の乱入者が自分たちに敵対する者だと気づいたらしく、抗議の言葉をケルベロスたちに次々投げかける。
 対する小梢丸は動じることなく、会心の笑みを浮かべて言い返した。
「ふう、少し熱くなってしまった。こんな時はカレーに限る、そうだろう?」
「そのとーり! つーわけで折角だから、俺たちのカレーも食ってみてくれ!」
 ケースケはビルシャナが口を開く前に、鍋と食器をドンとテーブルに置いた。
「俺が作ってきたのは、自慢のカレーうどんだぜ!」
 蓋を外したケースケの鍋から鰹出汁の濃厚な匂いが立ち昇った。旨味を吸った長ネギと豚肉が、カレーと片栗粉のとろみに乗って、うどんを盛った器をなみなみと満たしていく。
「グリンピース食えるなら乗せるけどどーする? 俺は乗せる派」
「こりゃ美味そうだ……乗せてもらおうかな」
 ツンとくるスパイスの香りに脳を揺さぶられ、信者数名が器を取った。うどんを啜り上げる音に、残る信者も思わずごくりと喉を鳴らす。
「身体暖まるぜー。お好みで半熟卵を絡めるのもお勧めだ」
「カレーうどん、美味しいですよね。私のお勧めは、これです!」
 そう言って麻亜弥が取り出したのは、ナン。先ほどビルシャナがピザの生地にでも使うのがお似合いだと言っていた、件の生地である。
「熱いから気をつけて下さいね」
 皿からはみ出すほどのナンが、どさりと籠に積み上げられた。
 立ち昇る湯気は、焼きたての証。ほんのり狐色に膨らんだ表面は、薄く塗ったバターで艶やかに光っている。
「もちもちとした生地に、カレーを付けて食べる。程よい弾力のある口当たりにカレーの味が合わさって、これが至高の味わいになります」
 麻亜弥が話を終える前に、新たな信者がナンに手を伸ばしていた。火傷しそうな熱に悲鳴をあげながら、耳たぶのような分厚い生地をちぎり、カレーに浸して一口。
「おいしい!」
「湯川お姉ちゃん、美味しいよこれ!」
「美味ぇ! カレー万能だな!」
「発酵させた生地を、しっかり窯で焼いていますね。手間暇をかけた素晴らしい味です」
 歓喜の声をあげる信者たち。相伴に預かったヘルとケースケ、小梢丸も太鼓判を押す。
「カレーが好きな貴方達だからこそ、美味しい食べ方をもっともっと追求すべきです」
「じゃあわたしは、私にとっての最高の料理でいこうかな」
 麻亜弥の言葉に、元信者たちと一緒に大きくうなずく日蔭丸。彼女はおもむろに、白い皿に炊き立てのご飯をよそり始めた。
「確かにお米は美味しい食材。しかし、かけるのがカレーだけで良いのでしょうか。そんなの寂しくないですか?」
 持参した鍋の蓋をガバッと開ける日蔭丸。じっくりと煮込んだビーフシチューをご飯によそい、胸を張って信者たちへと差し出す。
「これぞわたしの自信作、ハヤシライス! さあ召し上がって下さい!」
 しかし――。
 信者とビルシャナは真顔で沈黙すると、やや間をおいて、口々に言った。
「そうだね、美味しいと思う」
「うん、美味しそうだね」
「神は仰っている。『それってカレー要素ゼロじゃね?』と」
 ライス以外の、カレー料理への愛で信者を説得する――。そんなセリカのアドバイスをあえて外し、『ライス以外』でも『カレー』でもないハヤシライスで挑んだ日蔭丸の試みは、残念ながら失敗したようだ。
「カレーライスを奉る神聖な場にハヤシだと! もしや貴様ら、他所の明王の回し者か!」
「もちろん違いますよ? わたしたちはケルベロスで――」
「葛くん、今のは僕の聞き間違いかな? 『ハヤシライス』が何だって?」
 ビルシャナのかける濡れ衣を、涼しい顔で否定する日蔭丸。
 背後から感じる小梢丸の突き刺さるような視線は、きっと気のせいだろう。

●転~盛り付ける~
 続いて料理を出したのは、ヘルだった。
「僕が勧めるのは煎餅! お菓子だからって仲間はずれにしちゃダメだよ!」
 ヘルは皿に煎餅をガラガラと盛ると、ぽりぽりと美味そうに齧りはじめた。米粉の表面にカレーパウダーをまぶし、こんがり焼き上げた一品である。
「お煎餅の硬い食感に、しっかりしたカレーの風味! 最高の発明だよ!」
「ふざけるな! ルーもかかってない物は認められん!」
「そんなことないもん! カレーの味するもん! カレーだもん!」
 ビルシャナの反論に頬を膨らませて抗議するヘル。物欲しそうに指をくわえる信者にも、譲るつもりはないらしい。
 いっぽう響の料理は、カレー芋煮という変化球気味の一品だ。醤油ベースの仙台風、味噌仕立ての山形風の2種類を用意してある。
「知ってる? 元祖インド式では、カレーは数種類のスパイスを組み合わせて作るんだ」
 汁をよそいながら、響はカレーの来歴を語り始めた。出発時に頭に叩き込んだ情報だが、とうとうと語る彼女の姿は十分様になっている。
「組み合わせは時に数十種類を超えるらしい。それをイギリスの船乗り達がシチューと組み合わせて今の形のカレーとなったんだ」
 自信満々の表情でカレー芋煮を差し出す響。器の中には、乱切りにされた旬の芋が惜しげもなくゴロゴロとぶち込まれ、黄金色に染まって浮いている。
「何が言いたいかっていうとね。カレーは色々な物を組み合わせられる、新しいものを作る包容力と可能性が有る料理なんだ。だから、こんな物だって出来ちゃうんだよ」
 響の語りを聞くうちに、信者たちは知らず知らず芋煮を受け取っていた。
 味噌や醤油の個性を殺さず、それでいてカレーらしさが際立った味。初めて食べるのに、口にした者の郷愁をかきたてる味だ。
「もう一杯……いいですか?」
「もちろん!」
 若い女性信者のお代わりに、快く応じる響。だが、残る信者はケルベロスの料理に手を伸ばさなかった。どうやらビルシャナのカレーで腹いっぱいになってしまったらしい。
 それを察したルヴィルが、油の染みた紙包みから取り出したのは――。
「ほらみんな~、カレーパンだぞ~」
 カレーパン。小中学校の給食では人気上位に毎回ランクインする実力派である。
 揚げたてはもちろん、冷めても美味さが損なわれない夢の料理。ずっしりと確かな手応えを感じながら、ルヴィルはおもむろに楕円の縁をカリッと齧った。
「この揚げたパンとカレーがマッチするよな~。お腹もふくらんで幸せな感じ……」
 破願するルヴィル。夕食時に食べれば、その味わいはまして別格だ。
「カレーライスしか食べないのかな~。もったいないな~おいしいな~」
「ひ……ひとつくれ!」
「いいぞ~。どんどん食べてくれ~」
「よろしければデザートもどうぞ。甘さの中に香辛料の味が生きた特製甘口カレーです」
 悠乃が供したのは、甘口10倍カレーと呼ばれるもの。彼女のカレー遍歴の中でも、特に思い出の深い一品らしかった。
 一口大のビスケット皿に注がれた甘いルーの匂いが、信者の鼻と魂を捉える。締めを飾るに相応しい最高のデザートだ。
「これはスイーツ専用のカレーなんです。ライスだと食べにくいですし」
 ご飯と一緒では血糖値も心配ですから、そう悠乃は付け加えた。おそらくは、彼女の過去の経験を踏まえての事なのだろう。ルヴィルと悠乃のカレーに舌鼓をうつ信者の笑顔が、フロアを暖かな雰囲気で満たす。
「パンでも麺でも、ナンでもよし。嗚呼、素晴らしきかなカレー。これにて一件落着――」
「ふざけるな貴様らァァァァァァァァ!!」
 話を締めようとした小梢丸の言葉を、信者を残らず失ったビルシャナの絶叫が遮った。

●結~食べる~
「邪教徒どもめ、裁きを受けろ! 冷めたカレーライスしか食べられない地獄に、永久に落としてくれるわ!」
「猫! 回復は任せるぞ~」
 ルヴィルは飛んできた氷輪から悠乃を庇うと、サーヴァントに回復を命じた。信者たちを退避させ、巨大なシナモンスティックめいた空縫の楔でビルシャナの体を縫い留める。
「カレーの本懐は多様性にある! 懐の深さは、そんなものじゃ済まないんだぜ!」
 攻性植物『芳醇』を構え、小梢丸が吠える。その舌鋒は赤唐辛子の味よりも辛辣で鋭い。
「カレーの懐の広さを否定して何が教祖か! 恥を知れ! そしてカレー様に侘びろ!」
「うるさああああああいッ! カレーはライスのため! ライスはカレーのため! それが世界の真理なのだ!!」
 ちょっと常人には理解できないビルシャナの主張を遮り、悠乃と日蔭丸が同時に跳んだ。
 悠乃のスターゲイザーが、日蔭丸の血装刺突法が、X字の軌跡を描いてビルシャナを切り刻み、吹き飛ばす。
「邪教徒め、我が奥義で――」
「遅いよ。『雷電鳴リ響クガ如シ』!」
 フロアに轟く響の雷撃魔法が、哀れな標的の悲鳴を塗りつぶす。
 黒煙をあげて立ち上がるビルシャナを見下ろすように、小梢丸は静かに口を開いた。
「『超うめえ』という御神託には激しく同意だ。だがビルシャナ、お前は勘違いしている」
「な、なにっ!?」
「カレーは宇宙最強の存在。一つの料理、一つの食材に縛られはしない。お前はカレーの持つ可能性を自ら閉じてしまったのだよ」
 息も絶え絶えのビルシャナにむけて、小梢丸は高々とバンザイポーズを取る。
「お仕置きが必要のようだな」
「や……やめろおおおお!!」
「カレー・ジャスティス!」
 ズドドドドドドドドドッ――。
 小梢丸の両手からグラビティが滝のように溢れ出た。
「はーっはっはっは! つまり神だったのは僕という事さ! さあ羨ましがれ!」
 右手からは白米、左手からはカレーそっくりの奔流が部屋を満たし、傷を癒してゆく。
 それはまぎれもないカレーの祝福。羨ましげな日蔭丸の視線は、きっと気のせいだろう。
「いいねぇ。この臨場感、キャンバスに描き残してぇな!」
 ケースケのスピニングドワーフに羽毛をむしり取られたビルシャナめがけ、ヘルの悪なる右腕と、麻亜弥の暗器【鮫の牙】が交差して襲いかかる。
「この技、威力が安定しないんだよね。カレーと厨房は無事でありますように!」
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ!」
「カ……カレーライスばんざああああい!!」
 二人の一撃が、とどめ。
 抵抗空しく、ビルシャナはパプリカパウダーのような真っ赤な炎に包まれ消滅した。

●宴の後
 幸いにして、食器と料理は戦いの被害を免れた。
 洗脳が解けた市民を見送り、帰り支度を始めるケルベロスたち。
 そんな中、僅かに残ったカレーうどんを、そっとご飯にかける者がいた。
「やっぱ、食い物を粗末にしたらダメだよな?」
 ケースケである。
 依頼の最中は黙っていたが、カレーうどんのつゆかけご飯は、彼の大好物なのだ。
(「く~っ! 初仕事の後の一杯は最高だぜ!」)
 勝利の味は、かくも美味い。
 頬を綻ばせるケースケの笑顔を、窓ごしの月がそっと見下ろしていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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