失伝救出~怒りの焔、尽きる前に

作者:猫目みなも

 壊れ果てた市街地に、いくつもの剣戟が響く。崩れたビルの残骸を飛び越え、千切れそうな電線の上を跳び渡りながら、ひとりの男が荒い息をつく。
「畜生、やつら速過ぎる!」
「泣き言言ってないで、手足を動かして! またあいつが来――」
 叱咤を飛ばそうとした女の喉から、言葉の代わりに血液が溢れた。いつからそこにいたのか――彼女の背に掌を押し当てた姿勢のまま、螺旋仮面のデウスエクスが嗤う。
「他愛なし」
 びちゃり、と粘性のある飛沫が立つ音。血が滲むほどに唇を強く噛み締める男と背中を合わせて立ちながら、年端もいかぬ少年がやはり悔しげに顔を歪める。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……! こんな時、あの人たちがいてくれたら、デウスエクス共なんて!」
「誰の話をしてるんだ、奴らに勝てる人間なんて世界のどこにもいないのに!」
「……そうだった」
 肩を落としかけ、気を取り直したように刃を握り直す少年の頭上に影が差す。彼の真上数メートルの位置から、螺旋忍軍のひとりが問いの形で言葉を発した。
「お喋りはそれで終わりか?」
 無論、それは問いであって問いではない。ごきり、と嫌な音が響くのとほぼ同時、少年の背後でもずぶりと刃が深く肉に沈む音がした。
「もう全員死んじゃった? チョー弱すぎだし」
 小柄な少女姿の螺旋忍軍の呟きを最後に、彼ら――螺旋忍軍の残霊はどこへともなく姿を消した。後に残されたのは、一方的に屠られた忍者たちの遺体だけ――否。
 ぬるり、と血の海にさざ波が立った。虚ろに開かれたまま光を失っていた瞳が瞬く。獣じみた呻き声と共に、影が揺らめく。
 許すものか、逃がすものか。殺してやる、屠ってやる、駆逐してやる。それぞれの瞳にデウスエクスへの怒りを燈して、零式忍者たちは死の淵から蘇る。
 けれど――ああ、けれど。
 彼らを再び、みたび、殺すために。残霊の螺旋忍軍が、再びワイルドスペースの中空に舞った。

「寓話六塔戦争の大勝利、凄かったっす! さっすがケルベロスの皆さんっすよね!!」
 集まってくれたことへの礼を言うなりそんな感想を口にして、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は未だ新しい記憶をなぞるように一度目を閉じた。
「囚われていた失伝ジョブの人たちを救出した上に、戦争の時は助け出せなかった失伝ジョブの人たちの情報も手に入って! ……その、皆さんが手に入れてくれた情報のおかげで、分かったことがあるんすよ」
 曰く、寓話六塔『ポンペリポッサ』が用意した特殊なワイルドスペースの内部に、未だ囚われている失伝者がいる――と。彼らを絶望に染め、人類に牙を剥く『反逆ケルベロス』に仕立て上げようというのが、彼女の目論見だったのだろう、とも。
 ひどい話っす、と憤慨を隠さないながらも、ダンテはケルベロスたちに伝えるべき情報を順序立てて並べていく。
「……けど、皆さんの勝利の結果、閉じ込められた人たちが反逆ケルベロスになる前に助け出せる状況ができたっす。ワイルドスペースに乗り込んで、こんな悲劇はぶっ飛ばしてくださいっす!」
 この特殊なワイルドスペースには、失伝ジョブを持つ者以外は出入りができない。
 故に、この作戦に参加できるのは失伝ジョブのいずれかに就いているケルベロスだけとなる。
 そう前置きして、ダンテはケルベロスたちをまっすぐに見つめて。
「ワイルドスペースの中では、大侵略期の螺旋忍軍……の、残霊四体が零式忍者の人たちを襲って殺してるっす。もう、何度も何度も」
 死の淵より激しい怒りの力で蘇った零式忍者だが、その怒りとて無限ではない。何度も殺され、その度に蘇り、また殺され――そんなことを繰り返していれば、いずれ怒りの力も尽き、心が折れてしまうだろう。そうなれば、彼らの末路は敵に利用される反逆ケルベロス以外にない。
「とは言え残霊は残霊なんで、本物の螺旋忍軍よりはずっと弱くて、ケルベロスになったばかりの皆さんでも八人でかかれば十分に全部倒し切れるくらいの相手っすね」
 取り立てて強力であったり、特殊な能力を持っているわけでもない螺旋忍軍だ。これを破り、囚われた三人の零式忍者に希望を持たせてやれるような言葉をかけられれば、悲劇から彼らを救い出すことができるだろう。
「このワイルドスペースの中で起きている悲劇は、過去に実際に起きた悲劇が残霊化したものなんでしょうね。……救出対象になる三人の零式忍者以外の人は皆残霊ですんで、助けられないのは心苦しいかもしれないっすけど。皆さん、あの三人の救出を、どうかよろしく頼むっす!」


参加者
矢島・塗絵(ネ申絵師・e44161)
風見・律(無垢なる暁闇・e44220)
橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)
カレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)
ウーゴ・デメリ(ヴィヴァルディデメリ家現当主・e44460)
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
レーニ・シュピーゲル(オラトリオのゴッドペインター・e45065)

■リプレイ

●突入、邂逅
 八人のケルベロスたちが飛び込んだワイルドスペースの混沌が、大きく揺れる。左右に素早く視線を走らせながら、橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)は武器を握る手に力を込めた。
(「早く助けないと……彼らを、このままにしておけません」)
 決して声に出さない強い思いは、けれど仲間たちにも伝わっていることだろう。その決意は、きっとそれぞれが同じく胸に抱いたものだから。
「……! あそこ、人がいます! それに、奴らも!」
 帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)の指差す先にいたのは、ボロボロになりながらも刃を振るう三人の忍と――そして、彼らを飽きることもなく襲い続ける、残霊の螺旋忍軍。
 彼らを許す訳にはいかない。許す理由などない。それぞれの怒りを、或いは誓いを胸に、瞬間ケルベロスたちは地を蹴った。
「その怒りに加勢します」
 いの一番にそう言ったウーゴ・デメリ(ヴィヴァルディデメリ家現当主・e44460)が、零式忍者の娘に並び立つ。その両手首に巻かれた包帯が、彼の胸の底だけにある怒りを代弁するかのようにずるりと蠢いた。
 溢れ出した黒血の沼に足を飲まれた敵は、前衛の二体。彼らのうち、片方の視線が確かにウーゴの方へ逸れたのをしかと見つつ、レーニ・シュピーゲル(オラトリオのゴッドペインター・e45065)はヘリオライダーの予知の中で悲痛な声を上げていた男へと言葉を投げる。
「デウスエクスに勝てる人間なんていない? そんなことないの」
 夜が必ず明けるように、嵐が必ず止むように。終わりなき絶望の再現も、今ここに塗り替えよう。
 鎖で守りの魔法陣を編みながら、彼女はそんな風に笑ってみせる。蜜に似た髪と瞳の色も相まって、その表情は黎明の――或いは嵐の後の太陽を連想させた。
「我らこそは、デウスエクスの野望を打ち砕くケルベロス! このガジェットの威力を恐れぬのならばかかってこい!!」
 豊かな胸を張って言い切るカレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)の勇ましい声は、言外にこう告げている。
 ケルベロスが、目の前に立つこの敵に勝てない筈がない――と。
「さて、同輩たちよ遅くなってすまなんだな。反撃の始まりじゃ!」
 雄一の攻撃とタイミングを合わせ、残霊に豪快に殴り掛かりながら、風見・律(無垢なる暁闇・e44220)が愛らしい声で力強く吼える。
「儂等はうぬ等の怒りを支えよう! その怒りを是としよう! そして同じ怒りをもってして眼前の悪鬼どもを縊り殺して見せようぞ!」
「私達ケルベロスがやってきたからにはもう安心。こんなゴミみたいな連中はさっさと倒しちゃうから」
 片目を瞑ってみせる矢島・塗絵(ネ申絵師・e44161)の姿に、年端もいかぬ忍の少年が瞬く。それは何も、彼女たちの見事な美貌とプロポーションに目を奪われたからだけではなくて。
「……本当に? 本当に、あんたたちはこいつらを倒せるの?」
「ええ」
 短く、けれど確かな力を込めて言い切る新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)の表情は、優しい。
 それに、と敵に向き直りながら、彼女は続けてこうも言ってみせた。
「皆さまの怒り、無駄ではありません」
 瞬間、白と黒の翼がはためいた。舞い散れ羽吹雪、と静かに呼びかければ、たちまち吹き上がった無数の羽根が、前衛の螺旋忍軍を無慈悲に切り刻む。
 ――そう。デウスエクスの残滓である彼らに、『まともなダメージが入っている』。
 その事実を目の当たりにした零式忍者たちが、息を呑む。やれるのか、と男が呟く声が聞こえた。呟きに力強く頷いて、翔もまた混沌の水で象る左目を凶悪に見開いた。
「弱い者しか殺せねーゴミ共が! 凍り付きやがれ!」
 それまでの温厚な姿からは想像もつかないほどに荒々しい声音で、少年は混沌の波を敵へとけしかける。魔力に満ちたワイルドスペースの奔流が、刃を構えた螺旋忍軍の腕を、足を、牙のような冷気で苛んで。
 けれど、敵とて黙ってケルベロスたちの猛攻に晒されてはくれない。一人でも多くを傷つけ、苦しめ、殺さんと放たれた手裏剣の雨が狙ったのは――より弱く、また既に消耗している零式忍者たちの位置。
 ディフェンダーにつく三人が弾かれたように動き、彼らを庇う。殆ど反射と言える行動だった。そこに痛みこそあれ、ケルベロスたちの力強い表情に変わりはない。
「回復は任せて!」
 アニミズムアンクを掲げる動きに合わせて、カレンの豊かな胸が揺れる。杖先から迸ったエクトプラズムは、たちまちのうちに前衛のケルベロスたちに擬似肉体を与え、その負傷を塞いでいく。
「勅忍でもないザコが図に乗るなよ」
 眼鏡越しに不敵な視線を螺旋忍軍へと向け、雄一はそのまま声音だけを変えて叫ぶ。
「矢島さん、一緒に行きましょう!」
「ええ、合わせるわ!」
 塵も残さぬ勢いの魔法の矢を流星群に例えるなら、間をおかず放たれたエクトプラズムの砲弾はさながら一条の彗星。それらに撃たれ、射抜かれ、残霊の握る刃の切っ先がぶれる。ここからだ。
 油断なく、けれど勝利への確信をもって、ケルベロスたちはそれぞれの得物を握り直した。

●交叉、剣戟
 水彩の絵筆が、軽やかに鮮やかにグラフィティを描く。空想の怪物を解き放ち、敵後衛の攻撃を引き付けんと立ち回りながら、レーニはいとおしむように絵筆をくるりと回した。
「戦うのは、こわくないよ」
 この絵は、技は、父から受け継いだ大切なもの。であれば、その力で皆を助けることに、ためらいなどあろう筈もない。微笑みの気配を背中で感じながら、律もまた己のグラビティを高めて。
「生かしては帰さぬ、この連撃喰らって逝けぃ!」
 弱った敵の懐へ飛び込む手足に、呪いを帯びた血が纏いつく。赤黒い『手甲』、『足甲』に覆われた手足が、小柄な彼女の見目に似合わぬ打撃を立て続けに繰り出していく。そして最後に放たれた鋭い蹴りが、残霊の螺旋忍軍に終焉を叩き付けた。
 再び目を見張る零式忍者に目を向け、失われた想いの歌を歌い上げた瑠璃音が、歌と同じに涼やかな声で言葉を添える。
「見てください、私たちは戦えます!」
 頷いたのは、誰が最初だったか。
 ケルベロスに助けられた身だからこそ、次は助けることのできる誰かに救いの手を繋げたい。
 デウスエクスに傷付けられた身だからこそ、暴虐には相応の報いを返したい。
 ふたつの思いを胸に、翔は惜しみなく混沌の力を振るう。
「叩き斬ってやらぁ!」
「遅いし……!」
 叫び、その一閃をナイフで受け流した少女忍者が、次の瞬間目を剥いた。飛び退った翔の、そして腰を落として敵の一撃に備えるウーゴの脇を駆け抜けて、雄一が彼女の真横に迫っていたのだ。
 ジェット加速を帯びたハンマーの無慈悲な殴打が、螺旋忍軍の横面を捉える。宙を舞う無防備な身体に向けて、すかさずカレンがしなやかな指先を伸ばした。
「未熟、未熟っ!」
 打ち出された魔力の黒き弾丸が、少女の肩口を確かに射抜く。血を撒き散らし、それでも身体を捻って着地してみせた彼女を、へえ、と塗絵が油断なく見据えた。
 戦闘は、依然ケルベロスたちの有利に進んでいる。ディフェンダーが分担して敵の攻撃を引き付ける一方で、攻撃手は狙う相手を絞り、各個撃破を行うという作戦が、確かにその状況を呼び寄せていた。
 鮮やかに、軽やかに、そして不敵に。未だ覚醒してひと月と経たぬほどのケルベロスたちは、残霊の螺旋忍軍と渡り合っていく。その様子に、ワイルドスペースに囚われていた忍の三人は何を思ったのだろうか。得物を握る彼らの手に力がこもるのを、レーニは確かに視界の端に見て取っていた。
 傷ついた腕で、なおも敵の少女忍者が振り上げた刃が、ウーゴの太腿を深く抉る。だというのに苦痛の声のひとつすら上げず、彼は真正面から螺旋忍軍を見つめ返してみせた。
「生憎と、耐える事には慣れていますから」
 余裕すら感じさせる笑みを浮かべたままの彼の手が、刺さったままのナイフを強く押さえ込む。自然、それを握る敵の体勢が崩れた。そして、その一瞬を見逃すケルベロスではない。
「……これでっ!」
 塗絵の掲げたハンマーが、竜のあぎとを思わせる砲台へとその姿を変形させる。咆哮にも似た轟音を立てて放たれた竜砲弾が、前衛に残っていた敵を跡形もなく消し飛ばした。
 これで、残るは後衛の二体のみ。仲間たちを一層勢い付けるように、カレンが、瑠璃音が、懸命にヒールを施していく。傷の塞がった腕を確かめるように振ったレーニが、肩に下げた画箱を一度だけ撫でた。
 鋼拳の軌跡が、銀の尾を引く。その道筋を追うように、律が喰霊刀の柄に手をかけた。抜かれた刃の音は、どこか嗤う声にも似て。けれどそれがどうしたとばかりに彼女は刃を八双に構え、そのまま深々と螺旋忍軍の肉に突き立ててみせた。刹那、刃に塗り籠められていた膨大な呪詛が、刀身を通してその血の巡りに流れ込む!
 己にしか見えぬ『敵』を引きずり出されてよろめく残霊に、ここが好機とケルベロスたちは容赦なくグラビティをぶつけ、追い込んでいく。仲間たちの一撃一撃がより深く刺さるよう、ふたつの砲撃を撃ち分けて敵の足元を縫いながら、その合間に塗絵は零式忍者たちへと視線を送る。頷き返す彼らの目の奥には、確かに炎のような光の欠片が見えた。

●終焉、黎明
 高く笑った翔の腕を覆うワイルドスペースが、彼の戦意に応えて姿を変えた。凶悪なキャノン砲と化したそれを躊躇いなく敵へと向けて、喉も裂けんばかりに翔は叫ぶ。
「死にやがれぇ!」
 解き放たれた弾丸は、どこまでも執念深く螺旋忍軍を追いかけ追いつき、遂にはその心臓に喰らいつく!
 胸を穿たれ、仰向けに倒れていく相手には目もくれず、律は最後の敵へと向き直る。伸ばされた掌に籠められた螺旋のエネルギーを、瑠璃音がその身で受け切ったところだった。踵で地を擦り、額に汗を滲ませながら、それでも彼女は微笑んでいた。
「舞い降りて極北の光幕」
 その笑みを映したように、美しい光の紗が前衛へと舞い降り、傷と異常とを優しく癒していく。大丈夫、と瞳を煌かせて、レーニが絵筆で空を撫でた。
「あなたに触れる、空のいろ」
 こぼれ落ちた雫は仲間を癒す慈雨ではなく、敵の身を打つ冷たき空の涙。通り雨の名を冠したグラビティが、また着実に残霊に残る体力を削り去って。
「よぉし、あとひと息じゃな。ここが頑張りどころじゃて!」
 に、と口の端を上げたまま、律がその刀に霊を呼び寄せる。呻きにも似た風切り音――そして、敵の二の腕から紅が噴いた。
 確かな劣勢にあるというのに、それでも最後に残された螺旋忍軍が逃げようとする気配はない。このワイルドスペースにおいて、恐らく彼は『そういうもの』として存在しているのだろう。
 なおもこちらに武器を向ける敵に、ケルベロスたちもまた武器を向けることで答える。そのために、彼らはここまで来たのだから。
「覚悟はいい?」
 塗絵の撃ち込む極大の霊弾が、宙に瓦礫を舞い上げる。それほどの威力を持った砲撃に敵が体勢を崩した先に、ウーゴが両腕の武器を構えていた。
「さて。……報復させていただきましょう」
 別段、この忍軍に直接の恨みがあるわけではない。だが、血族の多くをデウスエクスに殺された苦しみは、彼の中に深々と根を下ろしている。
 その記憶を、感情を、平素から顔にも言葉にも出さない代わり、ウーゴは渾身の一撃を目の前の敵へと叩き込んだ。肩口をざっくりと断たれた残霊が、はっきりとよろめく。
 行け、と言わんばかりの視線に、はい、と雄一が短く返す。掲げたファミリアロッドの先端が、強く強く煌いた。光は一度収束し、次の瞬間無数に枝分かれして、ただ一体の敵の真上に降り注ぐ。
 そうして光の雨が上がったとき、後にはケルベロスたちと、三人の忍だけが立っていた。

●光へ
 ふ、と僅かに空気が揺れた。誰からともなく張り詰めていたものが緩むのを感じながら、レーニは零式忍者たちを振り返る。
「もうだいじょぶ。一緒に行こうよ、絶望しなくていい世界を勝ち取るために」
「……勝ち取る。勝ち取れるの?」
 なおもどこか信じられない風に瞬きを繰り返す娘に、瑠璃音がまっすぐに手を伸べる。
「貴方たちにも私たちと同じ力が宿っています…その力で何かを守ってみませんか?」
「私達に力を貸していただけませんか。共に戦いましょう」
「貴方たちが抱くその怒りは、デウスエクスと戦う力になります」
 そう、ウーゴと雄一も言葉を添えれば、娘はもう一度大きく瞬いて、己の掌に視線を落とした。
「デウスエクスに怯えるだけの過去はもう終わったわ。今はもう反撃の時代、それができるケルベロスがいる」
「大丈夫、デウスエクスは倒せます。あなた達でも。僕達の存在が、その証明です」
 塗絵と翔の重ねた言葉に、ケルベロス、と男の唇が動いた。その通り、と律が外の世界――正しい『現代』の様子を手短に語れば、零式忍者たちは静かに息を呑む。
 いつの間にか、彼らの纏う衣服は、忍装束から現代風の洋服へと変わっていた。それは、囚われ、現実を誤認させられていた彼らが完全に希望を取り戻したという何よりの証だ。
「さ、早く戻ろう? 外の世界が待ってるよ」
 緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込んだ少年を胸元に抱き寄せながら、カレンが仲間たちと、それに零式忍者たちを促す。反対する者は、無論いなかった。
 そうして、彼らは歩み出る。
 混沌の檻を抜けて――光差す、明日へ繋がる世界へと。

作者:猫目みなも 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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