失伝救出~悪夢救出作戦

作者:紫村雪乃


 闇に六つの赤光がゆらめいた。
 目だ。浮かび上がったのは三つの人影であった。
 ぎくりとする人々のに三つの人影が殺到した。すでに刀は抜き払われている。
 闇に、なお黒々とした血がしぶいた。三つの人影が刃で人々を斬ったのである。大根でも切るような呆気ない殺戮であった。
 その時だ。地獄絵図と化した場に、別の三つの人影が飛び込んできた。
 彼らは妖剣士。殺戮者もまた妖剣士であった。
「やめて!」
 女の妖剣士が叫んだ。すると殺戮の妖剣士たちがじろりと彼を見た。血濡れたようなその目には紛うことなき狂気の光がやどっている。
「駄目だ」
 妖剣士の一人が悲痛な声をもらした。狂気に陥った妖剣士を救うことは不可能だ。殺すしかない。
「彼らは俺たちの未来だ。いつか俺たちもああ成り果てる。だからこそ、俺たちが始末する。残された俺たちが。そして、俺たちがそうなった時も――」
 次の瞬間、六人の妖剣士が激突した。そして幾ばくか。殺戮の妖剣士が倒れ伏した。と――。
 世界は途切れた。そして、再生。再び――いや、永遠。繰り返される悪夢。
 砕けそうな魂を抱きつつ、妖剣士たちは抜刀した。


「初めまして」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。彼女が目をむけたのは寓話六塔戦争の勝利後、ケルベロスとして失伝した職能に目覚めた者たちだ。
「ケルベロスは囚われていた失伝職能の関係者の人々を救出しました。更に、今現在も別の場所に囚われている失伝職能の関係者の方々の情報を得たのです」
 その情報とは、失伝ジョブの人々は『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められているというものであった。
「彼らは大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返させられています。もしその悪夢に絶望し、心を喰われた時、彼らは『反逆ケルベロス』になってしまうでしょう」
 セリカは哀しげに目を伏せた。あまりにも残酷な反逆者製造作戦を前にして。
 が、だ。希望はあった。寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆者となるまえに救出することが可能となったのである。
「ワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去ってください。終わらぬ悪夢からの救出をお願いします」
 ただ問題があった。そのワイルドスペースには失伝職能に覚醒した人間だけが出入り可能なのだ。長時間その中にいればこちらも取り込まれかねないため探索などは不可能だが、作戦中に時間切れになるほどではないだろう。
「救出対象者は妖剣士の末裔。三名です。他は全て過去の残霊。その悪夢のような世界で彼らは狂気に憑かれた仲間の妖剣士を殺すという行為を繰り返し追体験させられています。まず一般人を虐殺する妖剣士を撃破してください」
 セリカはいった。残霊であるため、三人とはいえ十分に撃破は可能だ。
「すると狂気に憑かれた仲間を殺した敵として、救出対象者である三人が襲いかかってくるでしょう。何とか殺さないように戦いつつ、説得を行ってください」
 言葉をきると、セリカは新たな仲間たちを見回した。
「こんな悲劇を乗り越えて戦い続けてきた失伝ジョブの先達の為にも、必ず彼ら救出してあげてください」


参加者
水貝・雁之助(ウェアライダーの零式忍者・e44098)
七海・浬魚(飛翔する魚・e44241)
玄崎・早姫(貢露咲の早姫・e44247)
鹿島・信志(亢竜有悔・e44413)
藍井・よひら(オラトリオの妖剣士・e44501)
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)
月兎・アリサ(抜かずの妖剣士・e45085)
鳴川・きよら(幼剣士・e45089)

■リプレイ


 空間を超えて彼らは降り立った。
 八人の戦士。ケルベロスだ。
 彼らがいるのは永遠の悪夢世界。ワイルドスペースであった。
「……ここが悲劇の世界」
 大きな青の瞳が愛くるしい美少女が呟いた。人間ではない。伝説に住まう者の末裔――竜種であった。名を七海・浬魚(飛翔する魚・e44241)という。
 浬魚は周囲を見回した。
 鬱蒼と茂る森。続く道の果てに明かりが見えた。村だ。
「はるか昔におれも生まれていたら、こんな風になっていたのでしょうか……」
 同じように辺りを見回し、藍井・よひら(オラトリオの妖剣士・e44501)という名の少年は慨嘆した。その言葉通り、彼もまた救出対象者と同じ妖剣士であるのだが――果たしてやひらは本当に少年なのか。そう疑わざるを得ないような美少年であった。
「かもしれぬ」
 村へと続く道に足を踏み出しつつ、その娘はうなずいた。姫カットをしているからというわけではあるまいが、凛然とした気品のようなものを身にまとわせた娘である。名を月兎・アリサ(抜かずの妖剣士・e45085)。よひらと同じく妖剣士であった。
「ですが今は、助ける事が出来る筈……!」
 よひらがアリサに目をむけた。澄んだ蒼穹のような目を。するとアリサは再びうなずいた。
「月兎一族が失伝の技を欲する夢喰いどもに滅ぼされ、落ち武者となり、とある土蔵に隠れ住むようになってから幾星霜。よもや、このような日が来ようとは……救えなかった者の無念を晴らすため、我らが希望の嚆矢となろうぞ」
 アリサは力強く宣言した。と――。
 アリサの背後。とことこと歩く可愛らしい少年がそっと刀を抱きしめた。
 その刀こそ喰霊刀。斬りつけた者の魂を喰らう、呪われた刀であった。妖剣士のみ扱うことのできる妖刀である。
 そう。この幼き少年もまた妖剣士であった。妖刀を『親方様』と崇め守る一族の末裔である。が、残酷なことに彼には親方様を直に触れることのできる腕はなかった。あるように見えているのは義骸フィルムにより偽装しているためである。
 少年の名は鳴川・きよら(幼剣士・e45089)。二刀を操る剣士であった。


 悲鳴が響いた。
 村の中。逃げ惑っている人々が見えた。
「あれだね」
 浬魚は駆け出した。たとえ残霊であるとしても無抵抗の者がむざと斬られる事態を見過ごすわけにはいかない。

 目から血光を放ちながら、残霊の妖剣士は動けぬ老人めがけて凶剣を薙ぎ下ろした。
 戛然。
 闇に雷火のごとき火花が散った。刃が噛み合っている。共に喰霊刀だ。
 一振りを握るは、無論狂剣士。そしてもう一振りの主は少年であった。
 鋭い目をもつ、どこか獅子を思わせる少年だ。右目には傷がはしっていた。
 彼の名は水貝・雁之助(ウェアライダーの零式忍者・e44098)。ケルベロスであった。
「そこまでだ」
 目に憐憫の光をうかべ、そして腕に血をにじませつつ雁之助は刀をはねた。軋るような金属音が響く。それは刀の慟哭であったのかもしれなかった。
「ああっ」
 ようやく呪縛から解かれたか、老人が悲鳴をあげた。その老人めがけて別の狂剣士が斬りかかった。が、その前にも人影が立ちはだかった。これは初老の男だ。
 良く鍛えられたがっしりした体躯。瞳は紅玉を溶かしたよう。髪は雪豹を思わせるくすんだ白であった。
「刃は弱き者にむけるものではない」
 竜種たる男――鹿島・信志(亢竜有悔・e44413)は狂剣士の刃を自身の喰霊刀で受け止めた。呪われた一閃の激突に、信志の腕に衝撃がはしる。おそらくは狂剣士の腕にも。
 刹那、三人めの狂剣士が信志に斬りかかった。刃が信志の背を切り裂き――衝撃で狂剣士が吹き飛ばされた。蹴りが炸裂したのだ。
 わずかに遅れてふわりと地に降り立った者がいた。十歳ほどの少女。どこか冷めた目をしていた。名を玄崎・早姫(貢露咲の早姫・e44247)という。
「えへへぇ。背ががら空きだよぉ」
 どこか感情を欠いたような声音で早姫は笑った。天才とはこういうものなのだろうと思わせる不可思議な笑みだ。
「生きるためでも、守るためでもなく、ただ殺すために振るう刀。そんなものに価値はないわ」
 八人めのケルベロスが狂剣士に迫った。燃えるような真紅の髪と瞳をもつ妖艶な女だ。美しい顔立ちだが、どこか恐いものを底にひそませている。名をベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)というその女超絶の凍気を纏わせた杭を狂剣士に叩きつけた。
 咄嗟に狂剣士は左手でガード。凄まじい破壊力に腕が粉砕された。さらに傷口が凍結。それでも少女である狂剣士は怯まない。
「しゃあ」
 口から瘴気のごときどす黒い気を吐きながら狂剣士は刃を振りかざした。


「哀れよな」
 信志は眼鏡をはずした。狂剣士たちに彼は――彼のみは別の姿をかぶせている。
 かつて彼らと同じように狂った者たちがいた。それは信志が開いた道場の弟子たちである。その弟子たちを屠ったのは他ならぬ信志自身であった。
「剣は人を斬るためのものではない。ましてや同胞を斬るなどあってはならん。それがいかに残霊であろうとも、だ。彼らが私と同じ過ちを犯す必要はない」
 つぶやきざま、信志は狂剣士とすれ違った。閃いたのは禍々しい黒光。怨嗟の刃鳴りを響かせ、信志の喰霊刀が狂剣士の胴を薙いだ。
 が、まだ少女剣士は倒れない。もはや痛みなど感じないのか、さらに目を血色に爛と光らせて斬りかかってきた。
「わあっ」
 悲鳴に似た声をあげ、きよらは躍り上がった。それが平常のものではないことは動揺した表情でわかる。が、動きはある種の舞のように美しかった。それは身に染み付いた天才的な剣技の故である。
「親方様!」
 抜刀された刃は宝剣をおもわせる神々しい煌きをやどしていた。少女剣士の首を刎ねる。が、刃はまだとまらない。とめることはできない。重さというより、根源的な存在感にひきずられ、きよらは喰霊刀を振り回した。
 その時だ。雁之助が気配に気づいた。
「来たか」
 雁之助が振り向いた。その目は走り込んできた三人の男女の姿をとらえている。
 壮年の男と娘、少女。悪夢に閉じ込められた妖剣士たちであった。
「な、なんだこれは?」
 壮年の妖剣士が愕然たる声をもらした。
「わたしたちはケルベロスだよぉ~」
 早姫が叫んだ。
「ケル……ベロス?」
 娘の妖剣士が眉をひそめた。ケルベロスなど聞いたこともない。
「そう。あなたたちを助けに来た味方だよぉ~」
「味方? 嘘だ」
 少女の妖剣士が抜刀した。すると壮年の妖剣士が手で少女の妖剣士を制した。
「彼ら何者で何を企んでいるのかは良くわからんが、今は村人を避難させることが必要だ。やるぞ」
 三人の妖剣士たちは散った。それぞれに村人たちを避難させる。
「さすがに手助けしてもらうのは無理か」
 信志は苦く笑った。


「今、これを抜くわけにはいかんでの」
 納刀したままアリサは喰霊刀を繰り出した。疾風の速さの鞘での刺突である。
 が、狂剣士はアリサの一撃を躱してのけた。鞘がその頬をかすめて過ぎる。わずかに狂剣士の体勢が崩れた。
 その隙を雁之助は見逃さない。一気に肉薄。
「があっ」
 狂剣士が刀で一閃した。が、それは空をうった。雁之助が身を沈めたからだ。
「砕けろ、悪夢よ」
 雁之助は拳を狂剣士に叩きつけた。獣化したその腕の一撃は速く、重い。おそらくはビル破壊用の鉄球の破壊力に匹敵しただろう。たまらず衝撃に狂剣士が崩折れた。
「ぎゃあ」
 獣めいた咆哮を発し、三人めの狂剣士が疾った。ベルベットの胴を薙ぐ。
「あっ」
 早姫の顔色が変わった。動じないはずの少女が。自身のことよりも他者が傷つくことを、この孤独な少女は恐れるのだった。
「お、俺が癒します、だから彼らを楽にしてやってください」
 よひらが叫んだ。同時に丹田で練り上げた気を放つ。それは竜気ともいってよい規格外の熱量だ。ベルベットの傷がたちまち癒えていく。
「任せて。悪夢は私が切り払う」
 ベルベットが地を蹴った。滑るように接近。地に摩擦熱で生じた炎を刻み付ける。
 狂剣士が刀で一閃した。が、それは空をうった。ベルベットが身を沈めたからだ。
「ふんっ」
 炎をまとわせた蹴りをベルベットは放った。岩すら砕く破壊力を秘めた蹴撃だ。凄まじい衝撃に狂剣士が身を折った。
「浅かったか?」
 ベルベットは舌打ちした。まだ狂剣士は倒れない。
「わたしが終わらせるよぉ~」
 早姫が跳んだ。そして身を折った狂剣士を引っ掴む。
 次の瞬間だ。無造作に早姫は狂剣士を引き裂いた。


「……お前たち」
 軋るような声がした。振り向いたケルベロスの眼前、呆然と佇む三つの人影がある。救出対象である妖剣士たちだ。
「私たちの仲間を斬ったな」
 娘の妖剣士の目が血光を放った。本来なら彼らがやるへきことであったのだが、そんな理屈は通用しない。ただ娘はケルベロスを敵だと見なしていた。
「待ってよぉ~」
 早姫が手をあげた。
「さっきもいったように、わたしたちはケルベロスであり、あなたたちを助けに来たのであって、戦う意思はないんだよぉ~」
「嘘つけ!」
 少女妖剣士が刀をかまえた。
「わたしたちの仲間を殺したくせに。今度はわたしたちを殺るつもりなんでしょ」
「違います」
 きよらがいやいやをするように首を横に振った。
「僕たちが倒したひとたち、ほんものじゃないんです。これは悪い夢なんです」
「夢?」
 壮年の妖剣士が訝しげに目を眇めた。そうじゃ、とアリサがうなずく。
「おぬしら、狐に化かされておるぞ。これは夢喰いどもの悪だくみじゃ。現にわしらは、夢喰いどもの六人の首領のうち二人までも討ち取った猛者『けるべろす』なる者たちに助けられ、今こうして、おぬしらを救い出しに来ておるからの」
 アリサは鞘に納めたままの喰霊刀――厄刀・サイコ化竜骨墓霊刀を掲げて見せた。敵意はないという証を見せたのである。
「ようもほざいたな」
 娘の妖剣士が嘲笑った。
「これが夢だと? ならば私たちも夢だというのか?」
「違うわ。あなたたちは本物。生きて在る者よ」」
 ベルベットがいった。うっとりとした目で妖剣士たちを見つめた。
「狂気に蝕まれながらも刀を振るうその覚悟。ああっ、なんて美しいのかしら! でも、その美しさに悲劇は似合わないわ」
「余計なお世話よ」
 少女の妖剣士が憎悪にぎらつく目をベルベットにむけた。すると壮年の妖剣士が足を踏み出した。
「ここが夢の中という話、俄かには信じられぬ。が、仮にそれが本当のこととして、一つ疑問が残る。お前たちこそ、その夢喰いとやらではないのか?」
 壮年の妖剣士の身から凄絶の殺気が放たれた。感得した信志が慌てて制止する。
「待て」
「いいや、待たぬ」
 壮年の妖剣士がいった。そして一斉に三人の妖剣士たちが跳んだ。
「ええいっ」
 少女の妖剣士が斬りかかった。アリサが納刀した刀ではじく。少女妖剣士が叫んだ。
「抜け」
「いいや、抜かぬ」
 アリサは跳び退った。
「おぬしらも、わらわと共に技を磨かぬか? 我ら妖剣士は、何のために剣をとったのか。今一度、おのれの胸に問うがよかろう」
「そうですよ。一緒に行きましょう。ほら、こんな小さな僕だって、剣……親方様となかよくなれたんですよ。みんなは、もっと大きいですから、もっともっと、強いはずなんです」
 きよらも声をあげた。精一杯の声で。
「黙れ」
「いいえ、黙らないわ」
 ベルベットが口を開いた。
「狂気に魅入られた妖剣士を待っているものは死……悲しい定めだわ。でも、もし……そんな定めを乗り越えられるとしたら?」
「定めを……乗り越えられる?」
 少女妖剣士の動きがとまった。よひらがうなずく。
「お、おれも皆さんと同じ妖剣士です。ですが、見ての通り、今も狂ってはいません。貴方たちも狂う事はありません! 仲間をただ、助ける為に力を使う事が出来るんです。おれたちはケルベロス、だから!」
「ケル……ベロス」
 少女の喰霊刀が力なく下りた。迷っているのだ。すると娘の妖剣士が叫んだ。
「騙されないで。こいつらは仲間を殺したのよ」
 娘の妖剣士が早姫を刃で薙いだ。咄嗟に跳び退ったものの、躱しきれない。切り裂かれた早姫の脇腹から血がしぶく。
「何故――」
 娘妖剣士の顔色が変わった。切り裂いた少女からは殺気を感得できなかったからだ。きっと痛くて恐いはずだ。が、少女は薄く笑すら浮かべている。何かおかしい――。
「あなた……何を考えているの?」
「貴方たちのことだよ」
 浬魚が微笑みかけた。春の日だまりのような暖かな笑みだ。
「わたし……たちのこと?」
「そう。信じて貰えないかもだけど、此処はデウスエクスが見せている幻の中なんだ。貴方たちはもう仲間を斬らなくってもいい! ここまで心が潰れずに頑張ってきた皆はとっても強いよ。コレからは守るために、その力を使おうよ!」
 ギインッ。
 怨嗟の叫びではなく、澄んだ金属音が響いた。壮年の妖剣士の刃を雁之助が受け止めたのだ。
「良いか……何度も仲間を斬り殺すなんて悪夢はもう終わりだっ! お前らが此れ以上仲間を殺め続ける必要なんざねえんだ! 昔は確かに狂っちまった仲間を殺す悪夢が、助けたい誰かを助けられねえ悪夢が蔓延した時代だったかもしれねえ! だが、今は違う!
「違うだと」
「そうだ。 俺が――俺達ケルベロスが居る! デウスエクスとも戦える、奴らを倒す力を持つ俺達が!」
「デウスエクスとも戦える、だと」
 壮年の妖剣士の目に動揺の光が揺れた。刃をあわせた彼にはわかったのだ。雁之助の強さが。
「こんな悪夢を起こした連中をぶん殴ってやる為にも目を覚ませ! もう、此れ以上、仲間の命を殺め続ける地獄なんざ繰り返させやしねえ! 俺のひい爺さんの! 爺さんの! 婆さんの! 此の地獄を生き抜いた奴等を侮辱するこんな悪夢なんざ繰り返させて溜まるかよ! もし仮にお前らが狂ったとしても俺が、俺達が止めてやる! 命を奪う形でじゃねえ! 生かして止めてやるさ! 仲間の命を殺める地獄はもう二度と起こさせねえさ!」
「まさかこんな所で犬死するつもりではなかろうな?」
 信志が静かに問うた。
「先程の戦いを見れば力の差が歴然であることは分かるだろうに。今のお主たちがすべきことは此処から出て傷を癒すことだ。その後に剣を交えたいのであればいつでも相手になろう。無論、殺し合いではなく鍛錬のためだがな。お主らの中には我々と同じ……未知の可能性が眠っておる。ここでそれを無碍にしてしまうのは惜しいとは思わんか?」
「……信じてみるか」
 小さく笑むと、壮年の妖剣士は納刀した。確かにケルベロスと名乗る者たちの言うとおりだと思ったのだ。
 彼らは仲間を簡単に倒した。本当に全滅させるつもりなら、ここで戦わぬはずがないのだ。
 その時、悪夢は終わった。哀しき妖剣士たちは光へと歩みだしたのである。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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