悪魔の食べ物許さない!

作者:麻香水娜

●パンなど消えてしまえ!
 閑静な住宅街の外れにあるパン屋は、1月中は土日のみ、10袋限定で福袋の販売を行っている。
 この日も開店と当時に5人の客が店に入った。
 それぞれの客が店内の商品を選んでいると、自動ドアが開く。
『パンは悪魔の食べ物!』
 全身から羽毛を生やしたビルシャナが叫びながら入ってきた。
「小麦アレルギー持ちにはパンは天敵!」
「パンではなく米を食え!」
 ビルシャナと共に入ってきた男女8人が口々に喚き立てる。
『そうだ! 日本人なら米だ! そして健康の為にグルテンフリー生活! 小麦粉を使うパンは悪魔の食べ物! やってしまえ!!!』
 その声で、共に入ってきた配下達は暴れ出した。

●パンに罪はないのに
「福袋ってわくわくしますよね」
「アタリ入ってたらテンション上がるしな」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が穏やかに口を開くと、アルバート・ロス(蒼枯れの森の闇医者・e14569)が笑顔で同意する。
 そんな福袋目当ての客がビルシャナに襲われると説明が始まった。
 パンを許さないと主張するビルシャナが配下を連れ、1月中は土日限定で福袋販売をしているパン屋を襲撃する。
 ビルシャナ化してしまったのは、小麦アレルギー持ちの男性で、パンを毛嫌いしていたようだ。
 連れている8人の配下は、ビルシャナが撃破されるまでサーヴァントのような扱いになって戦闘に参加する。
 しかし、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができるかもしれない。

●狙われたパン屋
 時刻は朝7時すぎの開店して数分後。
 一般人は店主と店員2名の他に客が5名いる。
 店はそれなりに大きく、戦闘に支障はないようだ。
 駐車場も広く、すぐ隣に民家や他の店舗があるわけでもない。上手く店外に出す事ができれば店内で戦うより動きやすいかもしれない。
「人避けの対策もしておいた方がいいでしょう」
 それなりに有名なパン屋なのだ。更に客が来店する可能性もある。
「このビルシャナですが、米をばら撒いたり、炊きたてご飯の香りで誘惑してきます。更には、おにぎりを食べる事で回復もしてしまうようです」
 非常に状態異常が厄介なので注意して下さい、と説明を締めくくった。
「アレルギー体質は仕方ありませんが、自分が食べられないからと攻撃などもってのほかです。ビルシャナとなってしまった方を救う事はできませんが、お店の方やお客さんに被害を出す前に撃破をお願い致します」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
天導・十六夜(天を導く深紅の妖月・e00609)
スレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)
月島・空丸(こいぬ侍・e31737)

■リプレイ

●米粉の優しさ
 ケルベロス達は開店前に現場に到着し、開店と同時に店内に入る。
 店主も従業員も今日は開店と同時に随分と客が入ったものだと少し驚いた。
 ケルベロス達が警戒しながら店内を見ていると自動ドアが開き、それぞれが気合を入れる。
『パンは悪魔の食べ物!』
 現れた化け物に客も従業員も固まってしまった。
「あんたねぇ! パンがダメだとか、御飯がいいとか! そういう話じゃないのよ!」
 蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)が、声を上げて注意をひく。
「小麦粉を使ってるのはパンだけじゃないだろう?」
 更に天導・十六夜(天を導く深紅の妖月・e00609)も声をかけながらビルシャナに歩み寄った。
 カイリの声で我に返った一般人達の顔が青褪める。
「さぁ、今のうちにここから離れるんだ」
 その時、八代・社(ヴァンガード・e00037)が隣人力を使いながら、一般人達に呼びかけた。
「裏口とか従業員用の出入り口とかから逃げて!」
 ビルシャナ達をこれ以上店内に入れないように立ちはだかった眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)は、振り向き様に声を張り上げる。
「米粉パンをご存知でしょうか!」
 避難の間にこちらに注意を向けさせようと、月島・空丸(こいぬ侍・e31737)が堂々と声高に進み出た。
「これはただ米粉から作ったパン……というだけではありません」
 小麦アレルギーでパンが食べられない人のために米粉でパンを作ろうと長い時間をかけて研究した結果生まれたの、いうなれば優しいパンなのだと力説する。
「そんな米粉パンすら悪魔の食べ物というのですか!?」
 ずいっとビルシャナに詰め寄った。
「美味しいよ米粉のパンは。柔らかくて、もちもちしてて、食べてるとほんのり甘いの。グルテンフリーだしね、成分的にはほぼお餅だよ」
 空丸を援護するように戒李が配下達に笑顔を向ける。
「優しいパン……」
「もちもち……そ、そうだな……米でできてるなら」
 それを見た配下達にどよめきが起こる。
「とはいえ、紛れもなくパンでもあるわけで。パンの形はしてるけど、これを否定するとお米の否定もなるんじゃないの」
 更に、追い討ちをかけた。
「もー、バッサバッサとうるさいな。動物アレルギーの人がいたらどうすんの??」
 そこへ、アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)が迷惑そうな顔をしながら口を挟んだ。
「……んん。そういえば、鳥アレルギーって実在すんの? ちょっと待っててね、今調べるからケーキでも食べてゆっくりしててよ」
 何かを疑問に思ったらしい顔でスマホとカップケーキを取り出す。
「これは豆乳と米粉のカップケーキ! 甘いもの、いいでしょ? おいしいでしょ? 豆乳は身体にいいし、米粉は小麦の代替品として味を損なわない良い素材だもん」
 配下達にカップケーキを見せびらかすようにして一口頬張った。
「それちょーだい!」
「私も食べたいわ!」
 空丸と戒李の言葉でぐらついていたところ、美味しそうな小麦を使っていないカップケーキを見せられ、3人の配下がアルケミアの下へ殺到する。
「はいはい、食べていいから大人しくしててねー」
 アルケミアは集まった3人の配下にカップケーキを渡すと、スマホで本当に何かを調べ出した。

●アレルギーに負けるな!
「パンは小麦粉の塊だから悪魔の食べ物、ですか……」
 ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)が、空丸に詰め寄られていたビルシャナに近付きながら静かに口を開く。
「ところで、うどん食べます? パンではないので食べても平気ですよね?」
『食わぬ! 日本人なら正月には餅を食い、後は米を食うのだ!』
 ビルシャナは気を取り直してピシャリと言い放った。
「あれ? パン『だけが』ダメなんですよね? うどんってパンとはかけ離れていますよ?」
 わざとらしく聞きなおす。
『えぇい! パンもうどんも小麦粉だ! グルテンフリー生活には不要!』
 配下達をこれ以上取られまいと、ミリアの言葉を強引にねじ伏せた。
「アレルギーで食えない、というのはまあ解らないでもないが、アレルギーという意味でも、健康被害という意味でもパンに限った話では無かろう」
 ミリアの後ろからスレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)がゆっくりと言葉を投げかける。
「米も赤子にとっては五大アレルゲンと言われる程度には危険性が在る。 そもそも炭水化物自体、本来の人間の体質にはそぐわない、とも言われているそうだ」
 丁度最近本で読んだばかりの話を続けて。
「そもそも逆に米アレルギーの人逹はどうするつもりだ?」
 そこへ、米を食えと声高に叫んでいるが、その米アレルギーはどうするんだ、と十六夜が追い討ちをかけた。
「う、それは……」
 その言葉に残る配下達がざわめきだす。
「米粉パンは小麦を使わない。麺を喰いたきゃ十割蕎麦を食えばいい。オシャレにそば粉で作るガレットとかもいいな。小麦アレルギーは辛いことだが、人を攻撃するヒマがあったら自分が喰える旨いものを探すべきだろう。そのほうがずっと建設的だぜ、お前ら」
 ニッと社が笑いかけた。
「小麦以外……」
「ガレットって食った事ないな」
「ほーら、お兄さん達もカップケーキ食べて考えなって!」
 スマホから顔を上げたアルケミアが残りの配下達にもカップケーキを差し出す。既に食べている3人の美味しそうな顔もあって、2人が思わず手を伸ばした。
「パンが悪魔の食べ物!? グルテンフリー!? それがどうしたっていうのよ!」
 一般人が全員避難したのを確認して殺界形成を発動していたカイリが残った3人の配下の中心に飛び込む。
「要するに、お酒を飲むときに一緒に食べたらどうかってことでしょ!!?? どっちがどうとかじゃないの! ビールが一番美味しいに決まってるの!!」
「ひっ!」
 カイリの勢いに3人の配下達だけではなく、カップケーキを食べていた配下達も顔を引き攣らせて店の外へと逃げ出した。

●話して分からないなら
『えぇい! 貴様らー!!』
 ビルシャナが羽毛を逆立たせて翼のようになった腕をバサっと広げると、大量の米粒を後衛に向けて放つ。
「おおっと! 私もどちらかというとパンよりはごはん派ではありますので、そのライスシャワー、すべて文字通り食らってみましょうか!!」
 すかさず空丸が大きく口を開けてミリアの前に立ちはだかった。何故かその手には茶碗とふりかけを持って。
「……米を生で食べるのか」
 戒李を背に庇って顔の前で腕を交差して攻撃を耐えたスレインが空丸を見ながら思わず呟く。
「あ、りがとうです」
 ミリアも庇ってもらった礼を言うも、少し驚いているようだ。
「さて!」
 開いた左掌にパンッと右拳を打ちつけたカイリは、自分の周りに魔法の木の葉を纏わせる。
「ありがとね。こっちは鳥を喰らおうか」
 スレインの背後から戒李が気咬弾を放つ。
「お米は炊いてから食べようね!」
 アルケミアが軽やかな足取りで舞い踊って花弁のオーラを降らせた。
「ま、取り敢えず表出てもらおうかっ」
 社が助走をつけて旋刃脚でビルシャナを思い切り蹴り飛ばし、自動ドアをブチ破って外へ出す。
 その後を追いながら全員が次々と店外に出た。
 走りながらスレインが手元のスイッチを押して、前衛の背後にカラフルな爆発を起こした。
「神を纏いて鳴り響け、総餓流……成神」
 爆風に背を押されるように十六夜が雷刃突でビルシャナの肩を突いて更に店から遠ざける。
 そこへミリアから薬液の雨が降らされた。アルケミアのフローレスフラワーで傷は塞がったが、米粒が目に当たったのだろうか、見えづらそうにしていた空丸とスレインの不調を完全に取り去った。
「助かりました! やはり米は炊いてから食べるべきですね!」
 回復してくれたアルケミア、スレイン、ミリアに明るく笑いかけた空丸は、社にルナティックヒールをぶつけて凶暴性を高め、空丸のサーヴァントであるサンコンが清浄の翼で前衛の邪気を祓う。
『おのれー!!』
 ビルシャナは翼を翳すと、カイリを食欲そそる炊きたてご飯の香りで米の魅力の虜にしようとした。しかし、すかさずアルケミアが腕を引いて場所を入れ替わり、香りに包まれる。
「ありがとね!」
 アルケミアに笑いかけたカイリは、絶空斬で傷口を斬り開き、ビルシャナの動きが一層悪くなった。
「サンキュ。一気に畳み掛けるか」
 凶暴性を高められた社は空丸に笑いかけ、降魔真拳を放った。その背後から戒李が如意棒を伸ばして真っ直ぐに突く。
「……っ」
 どこか焦点の定まらない眼差しのアルケミアは、ビルシャナに光の盾を纏わせた。
 催眠がかかって傷を回復してくれた事にビルシャナの口元がにやりと歪む。
 その瞬間、サンコンが使った清浄の翼の効果でキュアが発動するも、どうやらまだ頭がはっきりしないらしい。
「いかんな」
 スレインがフローレスフラワーで正常な意識を取り戻させようと舞い踊った。
「さぁ、綺麗な華を咲かせてくれ」
 十六夜が瞬歩で間合いを詰め、高速抜刀居合いで何度も斬り付ける。斬られる度に蓮華の花弁のように飛び散る血。まるでビルシャナが赤い蓮華の中心にいるよう。
「……散華」
 静かに納刀すると蓮華は霧散し、十六夜が其の血を吸収した。
「患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……」
「疾きこと風の如く!」
 ミリアの冷たい声が響くと、過去に捕えた『デウスエクスの力』を、病魔の弾丸として射出し、空丸がビルシャナの動きを予測、瞬時に左腕を斬り落とした。そこへサンコンがビルシャナの顔に飛びついて思い切り引っ掻く。
「く、くそ……」
 このままでは危険だとおにぎりを取り出したビルシャナはそれを一気に頬張った。
「鳥アレルギー性肺炎ってあるんだって。ね、高慢チキン」
 意識のはっきりしたアルケミアは、先程調べた内容を口にしながら一気に距離を詰めて、張り付くようにビルシャナの動きにぴたりと合わせて追い詰める。
『!?』
 おにぎりを食べても思ったほど回復せず、アルケミアを振り払おうと視線を外した瞬間、腹部に徒手の一撃を叩き込まれた。更にアルケミアが離れた瞬間、カイリの斬霊斬がビルシャナの霊体を汚染する。
『……っ』
 ビルシャナから苦しげな呻き声が漏れた。
「そろそろ片付けようか」
 戒李が軽い調子で社に目配せする。
「オーケイ。じゃあ、足を止めろ」
 社はにやりと口元を歪めた。
 戒李が一気に距離を詰め、両足に魔力を走らせ速度を強化。周囲を目まぐるしく動きながら刀で的確に急所を切り刻み、ビルシャナを動けなくすると、
「さっ、トドメは任せたよ。ヤシロ」
 ニッと軽い笑みを浮べる。
「任せとけ。M.I.C、フルドライブ……来世じゃアレルギーにならねえように、祈っておいてやるよ」
 頷いた社が、獣の如き低姿勢で敵までの距離を一瞬で詰めた。カイリが離脱したその瞬間、バックスイングしたレールガンを凌駕する威力を持つ右拳を叩き付ける。
『ぎやあああああああああ!!!!!』
 ビルシャナの断末魔が響くと、光に包まれて大量の羽根が舞い散った。

●訪れる平和な朝
「お疲れ様」
 十六夜が息を整えながら仲間達に声をかける。
「お疲れ様です!」
 その声に、空丸が納刀しながらにこっと笑顔で応えた。
「まさか炊いてない生のお米を食べようとするなんて思いませんでしたよ」
 くすくす笑うミリアは、改めて庇ってくれた礼を口にする。
「お米美味しかった?」
「やっぱりお米はちゃんと炊いてからがいいですね」
 アルケミアが冗談めかして笑いかけると、空丸は苦笑を広げた。
「っとー、店内も多少散らかってっちゃってるだろうし、片付けしないとね」
「そうだな」
 カイリが明るく笑って店内に足を向けると、スレインも頷いて後に続く。
「ヤシロが自動ドア割ったしね」
「いや……あぁ、そうだな」
 戒李が冗談めかして小さく笑うと、故意ではないにせよ、確かに外に出すために自動ドアを割ったのは自分であると、バツの悪そうな顔で社も店内に足を向けた。
 8人で手分けしてヒールや掃除をすれば、あっという間に綺麗な状態になり、
「ありがとうございました」
 店内に戻った一般人はそれぞれケルベロス達に頭を下げる。
「ささやかではありますが、お好きなパンをお持ち下さい」
 店主の言葉に、ケルベロス達に更なる笑顔が広がったのは言うまでもない――。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。