●虚ろなる幻想曲
空き家の倉庫の奥の奥。
長く打ち捨てられた暗く冷たいそこを、カサコソを走る音が響く。
まるで何かを探すような、しかし当てのない音。
しかし響いていた音が突如止まる。足音の主、握り拳大の青いコギトエルゴスムを携えた小蜘蛛型ダモクレスが足を止めたのは、ストリートオルガンの前。
豪奢な見た目とドレスと燕尾服で着飾った二人の人形が愛らしい一品。
だが惜しむらくは、そのどれもが皆煤け装飾は剥がれ落ちていること。在りし日の面影はあるものの、寂しさと悲しさばかりが際立っていた。
そのストリートオルガンを暫し見上げた後、小蜘蛛型ダモクレスはその壁面を駆け上り、中央部分に開いたオルガンの隙間から内部へ入り込んだ。
一拍。
暗い倉庫に突如賑やかなオルガンの音が響き渡る。
ミシミシと音を立てながら周囲のガラクタと廃材を吸収し、まるで人形の小劇場のような見た目へと成長していく。
『ラララ、ララ、ララ―……ララル、ルル―』
オルガンの音に合わせて人形が歌い、くるりくるりと踊り出す。
皆に聞かせようとでも言うのか、車輪を回しながら巨大ストリートオルガンは進む。
目標は眼下に広がる小学校。楽し気に子らの遊ぶ校庭へ。
●
「お、お、お集まりくださり、ありがとうございますっ」
緊張した面持ちの漣白・潤(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0270)が、集まったケルベロス達に勢いよく頭を下げる。ごつんと目の前の机に額をぶつけた所で、隣に座っていた御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)が心配そうに肩を叩いた。
「す、すみません!えと、あの、御花崎さんがご心配されていたことが、起こりました」
失礼しますと小さな声で呟くと、机を囲む面々へ事件の資料を配る。
資料には『空き家に不法投棄されていたストリートオルガンのダモクレス化』と書かれ、次いで細かい情報が記載されている。
潤は配り終えたところで一息つくと精一杯顔を引き締めて。
「人々が虐殺されてしまう前に、ダモレク……ダモクレスを、倒して、ください!」
ちょっと噛んだ。
恥ずかしさから、すっと資料で顔を覆っていたものの、大丈夫だよと諭すねむるの声に小さく頷いた潤が資料から顔を出す。
すみませんと未だ赤い顔のまま、資料を指でなぞりながら潤は説明を開始した。
「えと、ダモクレスは大型ストリートオルガンです。丘の下の小学校へ向かっています」
止めないと危ないですと言いながら、ゆっくりと資料を捲る。
ストリートオルガンと称された資料には、まるで玩具のようにも人形の小劇場のようにも見える、移動式オルガンの写真が掲載されていた。
「現れるのは夕方です。大きなオルガンは、綺麗な曲で傷を治したり、皆さんを痺れさせたり……あと、お人形さん……綺麗なお姫様と王子様。この二つが、踊りながら切りつけてくるみたい、です」
また、このダモクレスは音楽が好きで歌や楽器の演奏に興味を惹かれやすいようです、とも付け加える。
そして資料を指差しながら、戦闘場所はゆるやかな下り坂の林道で行われる旨とダモクレスはゆっくり坂を下りようとしているという。
「さびしいのは、嫌だけど……誰かを傷つけるのは、良くないと思うんです」
「うん、そうだね。ちゃんと止めてあげなきゃいけないって、わたしも思うんだよ」
それじゃあ行こうか。そう微笑んだねむるはヘリポートへと足を向けた。
参加者 | |
---|---|
呉羽・律(凱歌継承者・e00780) |
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959) |
ラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858) |
一・チヨ(水銀灯・e42375) |
ティリル・フェニキア(死狂刃・e44448) |
●わたしにうたを
『ラララ、ラ―……ルル、ララ ラ』
軋む音と微かに途切れながら紡がれる賑やかな曲が、木々の騒めきに紛れ聞こえてくる。
微かに擽るようなその音に、ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)が柔らかな耳を震わせた。
「ストリートオルガンって見たこと無いのですが、どんな物なのです?」
「はいはい!メアリ知ってるわ!おじさまと旅したパリの広場で、大道芸人が引いてたの」
老いも若きも皆集まって、音楽に合わせて対の人形がくるくる回るのよ!と、お姉さんぶって説明するメアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)が、ビハインドのママと微笑みあう。
「大道芸人が引くのです?」
「ま、移動式のデカいオルゴールみてえなもんだな」
微妙にヒントの足りなかったヒマラヤンの謎は、ティリル・フェニキア(死狂刃・e44448)の簡潔な一言で解消される。なるほど、と手を打ったヒマラヤンの尻尾が僅かにそわついた。思いを馳せるのは、もう暫しの後に初めて見ることになるであろうストリートオルガンの姿。
「分解しがいがありそうなのです」
こうして林道の脇でこそりと楽し気なお喋りに興じていたヒマラヤン達だが、ふと道の先を見る。
「来るぞ。もうすぐだ」
凛としたティリルの赤瞳が瞬いた時、姿を現したのはファンタジアエレジー。
優雅に踊る乙女はドレスを翻し、支え微笑む男の燕尾がひらりと舞う。軋みながらも軽快な曲を奏でるファンタジアエレジーの巨体が姿を現した。
林から道へ一歩躍り出た呉羽・律(凱歌継承者・e00780)が、美しく微笑むとおもむろにアコーディオンを弾く。すると、互いに見つめ合い微笑みあっていたペアの人形が、ぐるりと首を巡らせ律に釘付けになった。
続いて林道へ出た一・チヨ(水銀灯・e42375)のハーモニカが律のアコーディオンを軽やかに追随すれば、紡がれたメロディが曲になる。
軋み鳴く車輪が、先よりもスピードに乗って回る。律とチヨの方へほぼ完全に意識を向けているファンタジアエレジーの前へ、ちょこんとスカートの裾を抓んで礼をしたメアリベルが降り立ち、幼いソプラノで楽しげに歌いだす。
メアリベルに合わせて御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)とラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745)が鈴を転がすような声で歌えば、一層華やかな一曲が場を満たした。
「こんなところで演奏していると、どんな曲だろうとどこか寂しくも映っちまうな」
歌い踊る小さな一座と、距離を詰めるファンタジアエレジーを見つめるハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が誰へ向けるでもなく、ぽつり。
これから始まるのは破壊。分かってはいる。もうそれしか救いが無いことも。
ただ、何故かちくりと胸を指す寂しさだけは拭えなかった。
「確かにこのまま朽ちるには勿体ないものなんだろうが、ダモクレスとなった以上容赦は出来ねぇ」
共に林道脇に潜み最高の機を伺うティリルもまた、独り言。
ぶっきらぼうな言葉だが、口調とは裏腹な優しさにハンナがくつりと喉で笑う。
「分かっちゃいるさ」
●フェスティオーヴォ・アンサンブル
「さぁ、戦劇を始めようか!」
凛々しい律の声が、少し開けた場所へ到着した合図。
ファーの揺れる踵を鳴らして飛び出したヒマラヤンが、自身に妖しく蠢くなんだがすこし猫っぽい幻影を纏わせ次の一手への布石にすれば。
「消される前提ですが、付与合戦といくのですよ!」
「にゃ!」
主人の上着とお揃いの黒い翼をはためかせたヴィー・エフトことヴィーくんの飛ばした赤いリングが、ファンタジアエレジーを戒める。
一人と一匹に合わせて飛び出したハンナの縛霊手から展開された紙兵が前列へ舞い散れば、まるで雪のよう。
「さて、最後の舞台だ。最高の一曲にしてやるよ」
「そうね、きっとこれが最後のパレード。楽しく唄い踊って送ってあげましょ!」
軽やかなステップを刻むのはメアリベルの硝子の靴。きらきらと幻想的な輝きが時間を凍結する弾丸を生み出され律とチヨのメロディに合わせて蹴り出せば、乙女のドレスが凍り付く。
声はなくとも、メアリベルと手を取り合って踊るママが指を鳴らせば周囲の小石が礫に変わり、軽快なタップ音でファンタジアエレジーの車輪を撃ち抜いた。
『ララ ラ、ルル―…… ルル、ラ』
それでも歌い踊り続けるファンタジアエレジーは止まらない。凍てつけども痛めども、戒めの中であっても優雅さに遜色は無い。
「美しい踊り手よ、我が剣舞をどうぞご覧あれ」
美しい姿勢で礼をした律が振るうゾディアックソードは、曇りなき白銀の輝き。卓越した技量で振るわれた一太刀は、柄頭に揺れる赤石の軌跡のみ追うことを許していた。
次いで軽やかなステップに甘い声で歌うラティエルが、白魚の指先をファンタジアエレジーに向ける。すると指先から滴ったブラックスライムが繊細な曼殊沙華の花を模った。
「デウスエクスになっちゃったなら、どんな綺麗な物語でも幕を引いてもらわないとね」
ダモクレスでなければ、まだ沢山の人へ笑顔を運ぶことが出来たことだろう。喜びを生んだことだろう。だがそれも、もう無理な話。
ラティエルの言葉の合間にも、続々と咲く黒い曼殊沙華が生き物のようにファンタジアエレジーを飲み込むように蝕めば、いくつかの装飾が食い壊された。
すると次の瞬間、ファンタジアエレジーの楽譜が空回り。楽譜が切り替えられる。
奏でられた曲はカノン。
厳かなオルガンの音色が前衛の耳を打ち、聴覚を震わせ痺れをもたらした。
華やかに踊るペアの人形はどこか誇らしげに微笑むまま、軽やかな足取りで舞台を舞う。
「……っ、だめ。誰かを傷つけるなんてこと、あってはいけないよ」
心を揺さぶるような、音。癒し手として最後衛に位置するねむるの耳には美しい音色だけが届いていた。だが、その音は今、目の前の仲間を傷付けている。ただただ、ねむるは胸が苦しかった。
それでも今日はファンタジアエレジーの千秋楽。涙は最後だけで良い―……ラララ、と歌うまま、ねむるがネモフィラ咲き零れる杖を地面に突き立てる。即座に前衛の前に構築された雷壁がぱりりと寒風に火花を散らせば、癒し手の加護が痺れを一つ治癒した。
「……上手く、歌えているかな」
「上等だぜ、ねむる。それじゃあファンタジアエレジー、お前にプレゼントだ!」
ティリルが空へ手を翳す。即時展開された鮮やかな大魔法陣が空気中の水分を凍結し、巨大な氷剣を生成した。
「さぁ、受け取りな!」
苛烈な微笑みでファンタジアエレジーに手を向けると同時、巨大な氷剣もティリルの手に従い降り下ろされる。危険と判断したのか、ギャッと高速回転した車輪で身を翻したファンタジアエレジーの側面が削がれ、中の機構が剥き出しになった。
その様子をじっと凪いだ瞳で見つめていたチヨがハーモニカから口を離し、瞳を伏せる。
「まだ、歌い足りないか」
静かな声。胸に巣食う寂しさは、言葉にしにくい。痛むような疼くような不思議な感覚。ぎゅっと胸元を握ったところで、膝裏に傘の石突がどすりと刺さる。
「痛って……うん。分かってる、大丈夫」
悪友のテレビウム さゆりの催促するような突きに危うく転びかけたものの、その突く意味は分かっていた。小さく頷き、黒いマントの下から展開したアームドフォートが砲身を展開する。
「今度こそ安らかに眠れるように―……」
壊してやる。そう紡いだチヨの唇が再びハーモニカを吹くのに合わせて、小さな黄色い体が飛出すや、真っ赤な傘で容赦無くファンタジアエレジーを殴りつる。同じタイミングで発射された焼夷弾が炸裂し、巨大な機体を傘と同じ赤い炎で包み込んだ。
それでも、微笑むペアは踊り続ける。
燃え盛る炎は消えることなく赤々と。ぱちりと爆ぜる音に、ラティエルの瞳が瞬き潤む。あの炎が自分に向いている訳ではないと知りながらも、火は怖い。頭の片隅で首をもたげた過去にそっと目を閉じて、再度凛とした青藍がファンタジアエレジーを見据えた。
「人を幸せにする物語を編まれた存在が人を傷つけるなんて、駄目だよ」
心からの言葉と共に編まれたラティエルの御業が、巨大な機体を握り締める。軋み、剥がれ、音が歪む。
物寂しい空気に少し耳が震えるものの、抑えられぬ好奇心のまま歪む機体の隙間から覗く構造をこっそり背伸びで見やりながら、ヒマラヤンはファミリアロッドをくるりと回す。
「ふむふむ、もう少しどーなってるのか見て見たいのですよっ!」
杖のリボンを翻して変化を解き、そのまま手中の小動物に魔力防御を施し射出すれば、主人の意のままに小さな歯牙で細かな傷を刻んでゆく。ファミリアと共に動いたヴィーくんもまた黒い羽を羽ばたかせ、三重に異常への加護を施すとともに前衛の傷を癒した。
ぎい、ぎい、と軋むファンタジアエレジーの巨体が再び楽譜を入れ替える。
奏でられるのはキャロル。その音色は甘く優しく、しかしオルガン特有の深さをもって崩れた機体を引き合わせ繋ぎ止め、燃え盛る炎を下火にする。
この攻防は、一進一退というよりもじわじわとファンタジアエレジーが削られていくと言った方が正しかったのだろう。
だが、決してペアの二人の優雅さは衰えることは無く、終始美しく気高く在った。
塗装の微笑みは崩れることなく、瓦解する舞台の穴は軽やかに避け、舞う。
破壊力のある律とティリルのグラビティを時折紙一重で交わし、さゆりのテレビフラッシュに翻弄されながら幾度もキャロルを奏でるが、徐々に焼け石に水となっていた。
限界はそう遠くないことが、火を見るよりも明らかになった時。
「ラストワルツ……あたしとも踊ってくれよ!」
「そうだな。ラストワルツ、派手にいくか!」
ハンナの紅い唇が弧を描けば、同じタイミングでティリルも動く。
歌い奏ではしなくとも、ハンナとティリルのステップは軽快ながらどこか力強く美しい。
限界まで引き絞ったハンナの鉄拳が風を切り、ペアの片割れたる女性へ迫った時。細い背が軽やかに反転させられる。結果、貫かれたのは男性の人形。
迷いなく芯を捉えて引き裂かれた燕尾服。零れ落ちる歯車。滴るオイル。軋み軋み軋み、震える。それでも男性の人形は笑顔のまま、がしゃりと崩れてとうとう動かない。
「じゃあな。良いペアだったぜ」
「お前もちゃんと、送ってやるよ」
足を止めた女性の人形の、首。細めたティリルの瞳に燃える戦狂いの輝きは、己の性か刃の所為か。赤黒い呪詛滴る狂刃鳳凰が、壮絶な微笑みと美しい軌跡を以て、ティリルの刃が細い首を切り落とした。
もう舞い手はいない。巨大化して伸びた舞台に冬の凍風が吹き抜ける。
寂しい。
楽譜が回る。ぐるりぐるり、がちゃり。
切り替えられた曲はカノン。そこにあるのが心かは分からない。だが、今日最大の音量が狙ったのはビハインドのママを含み最後衛に位置する四人。質量を持った音が迫る。
「ママ!」
「させるかよ」
駆けたメアリベルが咄嗟にママを庇い、要の癒し手であるねむるはハンナが盾になる。
反射的に自身を腕で庇ったチヨの前に躍り出たのは、小さな黄色と広がった赤い傘。
さゆり。
全身がヒリつく轟音。集中豪雨にも似た音の嵐。
開いた傘の、残ったのは散り散りで骨曲がりの赤い傘とずたずたの黄色いレインコート、と、少し耳の拉げたテレビウム。
「さゆり」
チヨの少しだけ弱った声に、さゆりは巻き直したボロ傘の殴打で返事をする。
罅の入った砂嵐の画面と慣れた傘の殴打から読み取れるのは「しっかりしろ」ということ。
「ありがとう」
「チヨ、立てるか」
「うん」
律の言葉に頷いたチヨが立ち上がり再びハーモニカを構える。
「俺たちで、最後の演奏のお相手をしよう」
「最初で最後の大舞台、美しく奏でようではないか!」
二人の奏でる楽器はファンタジアエレジーのオルガンと機構がよく似ていた。出したい音の管に空気を送り、その空気を振動させて音を出す。違うのは、音色だけだったのかもしれない。
鍵盤の上、踊るように滑る律の指が繊細に奏でたのは、第七の凱歌 紫紺の霊歌。
「夜の帳を纏いし紫の歌よ……彼等から奪い給え!」
秤に掛る命と死。律のテノーレが歌い上げるのは、数多の犠牲の上に在る己が命を思い起こさせる戒めの旋律。先行するアコーディオンの調べに合わせてハーモニカを吹くチヨの胸元が変形展開し、出現した発射口から一条の光がファンタジアエレジーを穿つ。
それでもまだ、楽譜が回る。
ヒマラヤンの手の平から淡い光の玉が飛ぶ。
「だいじょうぶですか~?いたいのいたいの、どっかにとんでけ~、なのです」
光に触れたハンナやメアリベル、さゆりとラティエルの傷が癒えていく。ありがとう、柔らかに微笑み桜色の髪を払ったラティエルが翼をはためかせた。
「素敵な物語だね。……でも、貴方の物語はもう終わってるの」
静かな声でもたらされた星の瞬きとビハインドのママの金縛りがファンタジアエレジーの車輪を捉えた時が、この夢の終わり。
「最期の時まで唄ってたいなら、拍手喝采に送られて夢見るように壊れたいなら……その願い、叶えてあげる!」
幼き声は純粋に微笑む。
叩き割るように降り下ろされた大斧がファンタジアエレジーを割り裂いた身に、茨が這う。
「あなたの歌も踊りも音楽も、わたし達は忘れないよ。……おやすみなさい。良い夢を」
静かに瞳を伏せた眠り姫の茨が、ゆっくりゆっくり夢幻の中へと誘った。
●フレーリヒ・ララバイ
真っ赤な夕日が、崩れたファンタジアエレジーを照らしていた。
「んー、やっぱり中がどーなってるのか気になるので、分解してみても良いですかね?」
残骸を集めるティリルの傍ら、もう動かないオルガン機構を見つめるヒマラヤンが呟けば、後ろから覗き込んだラティエルも小首を傾げる。
「何か使えそうなパーツとか、あるかなぁ……?」
ほんの少し夕日が地平へ寄った頃には周囲の戦痕は跡形も無くなった。
まるで何も無かったように、綺麗に。
全てが無事に終わったはず。なのにこの胸に残る物悲しさは何だろう。
星を拾ったねむるがファンタジアエレジーを見上げた。
「ねえ……さっきの歌、もう一度歌ってみない?」
「そうだね、弔いに一曲演って帰ろうか」
微笑む律がアコーディオンを弾けば、同じくメアリベルが歌いだす。
「ふふ。ミスタ呉羽、もう一曲メアリの歌はいかがしら?」
「旅立ちに見送りがいないと、寂しいだろ」
チヨのハーモニカが加われば、再び楽団の賑やかさ。
離れた場所で黒い紙巻を咥えたハンナが静かに煙を吐く。
「ま、次の世界でも、軽やかな足取りで踊ってくれ」
夕日に染まった煙がゆっくりと空気に溶ける。
賑やかな見送りは、月が昇るまで―……。
作者:皆川皐月 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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