廃棄処分場の片隅で、処分を待つ様々な機械が切り裂かれた。
『ジャキーンジャキーン』
巨大なブレードが小さな台から露出しており、あろうことか周囲を切り裂いて行く。
良く見れば小さいブレードも備えて、二刀流に見える。
小さい方は回転して砕くことも可能なのか、スレート板と薄いコンクリートの壁がみるみる削られて行った。
『サイ・ダーン!』
そいつは壁の外に出ると、紙片のようなナニカをばらまく。
そして紙片を爆発させて、処分場の外に出て行ったのである。
向かう先は……都市部であった。
●
「とある県にあるゴミ処分場で、処分を待つ筈の家電製品がダモクレスになってしまいます」
セリカ・リュミエールが新年もそこそこに説明を始めた。
「処分場は郊外の山中に在りますので幸いにも被害は出て居ませんが、放置すれば多くの人が危険な目にあってしまうでしょう」
その前にダモクレスを倒して欲しいとセリカは軽く頭を下げた。
「このダモクレスは自動裁断機……基本的には書籍をカッティングする機械です。スキャナーが一般的になった後、発売された物ですね」
古い本の保存と処分を兼ねて、本を切り裂いて保存し易くする為の物らしい。
雑誌などは一部しか必要ない記事・コーナーもあり、データの方が読み易い人という人も居るので、現在も小型化しながら生産されているらしい。
「最近ではスキャン装置付きや紙詰まりなどを対策した物もあるそうですが、これは初期の物なので大型かつ、不具合も多かったようですね。それが捨てられた訳ですが……基本的にはチェンソー剣使いのレプリカントの方がイメージとして参考になるかと」
大型のブレードで背を切り裂き、小形のブレードでページのサイズを微調整していたそうだ。
それらのブレードがチェンソーやドリルになり、ページを送る為の機会が紙片をミサイルがわりにばらまくとか。
ビームも撃てるのかもそれないが、予知の範囲では見られなかったという。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは放置できません。新年の仕事などが始まったばかりですが、よろしくお願いします」
セリカはそういうと深々と頭を下げて、出発の準備を始めた。
参加者 | |
---|---|
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306) |
スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678) |
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784) |
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598) |
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646) |
月島・彩希(未熟な拳士・e30745) |
榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607) |
椚・暁人(吃驚仰天・e41542) |
●
「この山か……」
ケルベロス達は目的の山に到着した。
ここを蛇行して登っていく道の上に、処分場があるはずだ。
「この依頼が復帰戦になるわけだけど敵はダモクレス、相手としては十分だね」
榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607)は三カ月ぶりの依頼を前に緊張していた。
だが廃棄家電型ダモクレスは良くも悪くもシンプルな相手だ。
悪い意味では強固で同クラスに比べて強いことが多く、逆に人気が無い場所に出没するので遠慮なく戦い易い。
「この道を利用して遮断するぞ。ただし、イザとなったら飛び降りれるのを忘れるな」
「判ってるよ」
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)の注意に一騎は頷いた。
郊外だけに足止め出来れば無理せず延々と攻撃すれば被害無しで倒せる可能性が高いが、逃がすと山中だけに後を追うのが大変なのだ。
「よし、ならば可能な限り急ごう。工場の敷地が理想的だが、場所を選べるだけでも違うからな」
「「了解!」」
かくしてグレッグたちは狭い県道を駆け登り、一路、廃棄物処分場を目指した。
暫くして目指す施設の中から、巨大な刃が出現する。
『ジャキーンジャキーン』
本来は鋭い刃物であったのだろうが、所々掛けてノコギリと化して居た。
それが日の光を照り返し、雪で反射する事で巨大に見える。
「おお、予想以上にでけーな……さすが昔の機械だぜ。ダモクレスになって多少は大きくなってるのかもしれねえが」
スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)が敷地に飛び込む頃には、逆光に目が慣れて来る。
流石に工場を両断するサイズには見えないが、フェンスを切り裂く程度には巨大である。
「本を裁断するのにこんな大掛かりな……まるで卓球台だな。時代を感じるぜ。あのブレードをまともに食らったら一大事だな、用心してかからねーと」
「アー……あったね、こういうデカいシュレッダー。電気食うんだよなァ」
スピノザが足を止めるのとは対照的に、塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)はカツカツと歩きながら最後まで煙草をふかした。
フーっと吐いた行きは、寒さゆえかそれとも紫煙であろうか。
その白い筋に沿って、箱竜のシロが配置に着く為に右腕から後方に飛び立った。
「シュレッダー? どちらかと言えば、想いを残す為に一部を切りだすモノじゃない?」
「まあどっちでもいいさ。とっとと、おっぱじめるとしようか」
一騎が首を傾げると、翔子は二本指で吸殻を挟んだまま掲げる。
すると紫煙は紫電に変化。次第にスパークを始めて、周囲に雷電の結界が築かれ始めた。
「思い出を残すための機械、か。以前に使っていればな」
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)は失われた自らの記憶を顧みて、首を振った。
何しろ殆ど思い出せないのだ。幾つか思い出せなくもないが、関連付けが出来なければ参考にもならない。
仲間たちに聞くと、エピソードに関する記憶はセピア色の淡い光景だと思えると返事は返って来るが、まるで理解が出来なかった。
「まあいい、貴様には関係のないことだ。その刃、オレの地獄で焼き尽くす」
ゼロが最も的確に当てられる技は、本来、負荷を増大させる技ではある。
だが最初の一撃ゆえに普通の威力でしかなく、ギザギザの刃が欠けた心のように悲しく空転していた。
●
「やっぱり施設の職員さんが来る気配も無いよ。気にする事はないから思いっきり戦おう!」
「オーケーだ。スマートに行こうぜ!」
一騎は周囲を見渡しながら内なる魂を降臨させ、回り込みながら戦いに備える。
そしてスピノザは勢いを付けると、鉄板を仕込んだ靴で飛び蹴りを浴びせながら一撃離脱を掛けた。
『ズバババ!』
「おおっと、やらせないって」
ダモクレスが回転させる小さい方のブレードを受け止めて、翔子が金槌を振り回す。
普通ならば刃が欠けるのであろうが、キンキンと景気の良い音を立てるだけだ。
「家電製品は本当に色んな種類があるんだね! でもその数だけダモクレスも多種多様になってくるの。……どうにか対処出来ないかな?」
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)は思わず驚いた。
裁断機は本来の体を展開して手足にしており、見たことのない形に見えたからだ。
「書籍自動裁断機ですか。最近では新型の物が流行したら旧型の物も破棄されることになりますけど、やはり破棄されるのはいい気分にはなりませんわね」
「……まさか本物を見る前にダモクレスになったものを見ることになるとは」
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)と椚・暁人(吃驚仰天・e41542)は一瞬だけ、捨てられた機械が怒ってダモクレスに力を貸して居るのではないか。
あるいは抗議して居るのではないかと言う気持ちを抱いた。
「きっと捨てられる前はポンコツなところもあるけど誰かの役に立ってたんだろうね。でも、その裁断機が誰かの迷惑になる前になんとかしよう」
だからと言って人々が殺されることを見逃せるはずが無い。
暁人は頭を振って同情心を今だけ忘れることにする。
そしてドロップキック気味に蹴りを浴びせ、次なる攻撃の為に距離を取った。
「シロにやらせるから遠慮しなくていいよ」
「そういうことでしたら了解です。雷の障壁よ、皆様を守って下さいませ!」
翔子の傷はともかく、与えられた負荷が大きいのが問題だった。
箱竜のシロが治療に回ると知って、紫は当初の予定通りに雷鳴の結界を追加する。
場当たり的に負荷を払って行くよりも、やはり防壁を立てて耐性を付けた方が後のちを考えると有効だからだ。
「この手の敵には大分慣れて来たが、役割を終えた物を悪用する敵のやり方はあまりいい趣味だとは思えんな」
グレッグは時間を止めることで、熱量を奪い去った。
刻の止まった空間で無理やり動こうとするダモクレスは、知らず知らずに傷付いて行く。
「今日もいっぱい頑張るよ! 皆に被害が及ぶ前に撃破しないとね!」
彩希は防御されるのを前提に正拳突きの構えを見せ、同時に袂の中に流体金属を満たした。
そしてパンチを繰り出した瞬間、うにゅっともう一本腕を作りあげる。
それはダモクレスの構えたブレードを飛び越えて、空手チョップを食らわせたのだ。
こうしてケルベロスは包囲を開始し、処理場の外に出ようとするダモクレスを押し返して行く。
「ここまでは順調か。ならば長期戦の準備だな。動きを止めて少しずつ削り取る」
「了解した。……そこだ」
グレッグとゼロは上下より攻め立てる。
星の輝きを蹴りに載せて放ち、光が一直線に飛ぶその上をゼロが飛び蹴りを放つ。
本体である机の様な台が、ギシリと軋む音が聞こえた。
『サイ・ダーン!』
ダモクレスはそれを受けてやや後退こそするものの、ひるまずに大きい方のブレードを伸ばした。
「駄目だって。お前の敵はこっちだよ!」
一騎は振り降ろされるブレードに対し、蹴りつけるようなスタイルでフットブロック。
そのまま空中で体を一回転させて、足にグラビティを集めて虹を構成する。
踵落としは七色の軌跡を描き、ダモクレスに直撃したのであった。
「サイ・ダーン! って楽しそうだ。でも役目の終わった子には休んでもらわないとね」
そこへ暁人は舞い散る雪に一度グラビティを隠しておいた凍結波を放つ。
束ねて雪の冷気と混ぜ合わせ、螺旋を作りあげて練り込んだのだ。
●
「大丈夫ですか、まだ傷は浅いですわ」
「ありがとう。火力はともかく、流石に面倒だね」
紫がグラビティのメスと糸で、突き刺さった破片を切り開いては縫合して行く。
体が軽くなった事に一騎は感謝した。
敵はジャマーゆえに攻撃力はそれほど高くはないが、高い確率で負荷に包まれる。
一応は防壁が張ってあるが、全てを弾いてくれるわけではないので即座の治療はありがたい。
「お返しにこっちも叩き込むとするか。最善手こそ最適解、ってな」
スピノザは次々に攻撃を繰り出すことで、相手の防御を突き抜けることにした。
一撃で目当ての場所に命中させるのはむtかしいが、連撃ならばそうでも無い。
鉄拳に肘打ちを放ち、近過ぎる位置から離れる為に蹴り飛ばす。
そして袖の中に隠して居た銃を握り込み銃弾を至近距離から撃ちつつ、一撃離脱を掛けて離れて行った。
「わたしは諦めない。明日が今日より良くなることを諦めない」
彩希は走りながら身を沈め、鋭く爪の周囲に冷気を帯びさせて手刀を打つ。
「例え世界が絶望に包まれていたとしても、私はきっと明日を信じてこの拳を振り抜ける! 敵を打ち砕けわたしの拳、明日に届け希望の拳!」
彩希はそう信じて、ただ速いだけの拳を繰り出した。
ソレは速いだけの拳と言うけれど、そこには思いが込められている。もっと速くく……ッ! もっと鋭く……ッ! この一撃を! 明日を信じて放つ手刀は、狼のように敵を貫き、魔の魂を喰らう!
「代われ。頭を押さえこむ」
「りょーかいなんだよっ」
翔子が金槌を叩き込むのに前後して、彩希はその場を抜け出した。
そして返す刀で蹴り飛ばし炎を浴びせて再攻撃。
「よしっ。これだけ器用に動くやつだ。早くもいい感じになって来たな」
翔子は衝撃波を放ち、轟音を上げて周囲を爆散させる。
やはり防御特化では無い以上、タフなダモクレスと言えど、あちこちがたが出だしたようだ。
「時代に流れに合わせて役割を終えた物なら、ただ静かに眠らせておくのが道理だろう……」
グレッグは炎を足に纏わせて、高速の回し蹴りを放った。
鋭く薙ぎ払う様に放ち、相手の動きを抑えて牽制を行う。
「やはりスピードか。このままひっかきまわして押し込むとしよう」
そして有効打を比べながら、仲間達に通達する事にした。
「その通りだ。しかし、自らの得意不得意を越えるものではなさそうだ。だから貴様にはオレの地獄に付き合ってもらう」
ゼロは『凍てつけ』と凍結光線を放ってみたが、やはり彼にとってはパワー戦の方がやり易い。
チェンソーで切り刻むだけなら100%確実だが、スピードでかき回し魔力で圧倒する方が有効とは言え100%当てるのは無理だろう。
その辺りを踏まえて戦術を組み立て直す。
こうして勝利の天秤は、徐々にケルベロスの側に傾いて行った。
●
『ズバババン!』
「ひゃあっ。でも負けないんだよ……多分! アカツキ、いざとなったらお願いねっ!」
彩希はグラビティの染み込んだ紙片が撒き起こす爆風から退散しながら、大きなブレードを見上げた。
「大きな刃だね。切られないように気を付けないとね。みんなありがとー」
どうやら仲間達が庇ってくれたらしい。
みんな傷付いているが、自分は大丈夫だ。
「はたろう、よくやったな。逆襲だ!」
暁人はミミックのはたろうを褒めると、やられたお返しをすることにした。
「影を縫い、喰らい付け! 暗流縛破!」
パンと大地に手をつくと、先ほど暁人が放った凍結波を追い掛ける様に大気が振動し始める。
それは雪を揺らし既に作られた道を経由して、途中から枝分かれして死角へと回り込んだ。
そう、途中まで先ほどと同じコースを取ったのは視線を固定して、死角を突くためである。
「大規模な爆発でしたけれど、それほど威力は有りませんでしたね。ここは継続して攻撃を受けた方を癒しておきましょう」
紫はサーヴァントが治療に回っていることもあり、翔子を癒して戦線に復帰させる。
「まあ、あれじゃないか? 魔力戦は不得意なのさ。なにせダモクレスだからな」
スピノザが思うに、先ほどグレッグが防御の薄い属性を口にしていたが、それは同時に攻撃も得意ではないということなのだろう。
ならばパワー・魔力・速度の順で能力が偏っており、あの爆発は範囲攻撃ともあって思ったよりも威力が低かったのだろう。
「しかし、いい加減、面倒になってきたな」
「ん、そーだね。そろそろ終わりにしよっか」
走り出したスピノザが仕込み槍の刃を出して稲妻のように突っ込んで行く。
一騎はそれに追随して突っ込むと、再び虹の様な煌めきで蹴りを浴びせつつ、立ち位置を交代した。
そのまま相手の攻撃を受け止めるべく腰を落とし、同時に汚れ一つないガントレットの拳を固める。
仲間達が盛んに攻撃している間、静かに魔力を込め始めた。
「装甲が破れたな」
「とりゃあ!」
ゼロはノコギリ状の刃を回転させて装甲が破れた痕に突っ込みガリガリと削り始める。
抜け出そうとするダモクレスの頭を、彩希が回し蹴りで抑えつけた。
『さささ、サイダーン!』
「痛たたっ。でも回復は要らないんじゃない?」
翔子は紫電を放ちながら回復は不要だと仲間に告げる。
「そうですね。安らぎをもたらすとしましょう。ラベンダーの芳香よ……辺りを包み込み、まどろみの世界へ誘え」
安らかな芳香が、紫の周囲に立ちこめた。
それは風に乗ってダモクレスを前後不覚にすることで、痛みを遠ざけたのだ。
「トドメは任せる」
グレッグは鉄杭を突き立てると、火薬の代わりに冷気を弾けさせた。
内側から凍るダモクレスに、最後の言一撃が見舞われる。
「魔力を込めたこの拳で、その体を内外から破壊する!」
一騎はジェットを吹かし、最大まで魔力を込めた拳を突き出した。
深紅に輝く宝玉は溢れる魔力を制御するのではなく、相手の中へと注ぎ込み始める。
やがてダモクレスは内側からヒビ割れ、まるで斧で断ち割った様に砕け散ったのである。
「終わった……かな?」
「みたいだな」
場合によっては援護に行こうとしていた彩希はツンツン、スピノザは頷いてコートの誇りを払う。
なにせ半分山の中で、もう片方は処理場なのだ。
「お疲れ様、今度こそ休んでね」
「昔は頑張ってたんだろうアンタにこんな終わりを与えるのは心苦しいがね。かといって放置も出来ないんだ。堪忍しておくれよ」
暁人が残骸に別れの言葉を告げると、翔子は風下で煙草に火を点けた。
「苦しまずに倒す方が弔いになるかと思います」
「確かにな」
紫が周辺のヒールを始めると、グレッグは静かに同意して残骸を片付け始めた。
「任務は完了した。が、……今からでもはじめるか」
「古いけど同じ物を注文するの? 新しいのならスキャナー付いてるよね?」
全て終わった当たりで、ゼロが型番を調べ始める。
何か手掛かりは無いかと探っていた一騎は、思わず首を傾げた。
「本を裁断したい訳じゃない。事件の記事や証言を記録しておくためだ」
「なら…。リサイクルとかどうかな?」
ゼロの言葉に暁人はブレードの一部や、随分と小さくなった台を指差した。
本を次々に裁断するには難しいが、ヒールで直せばページの一部や新聞を裁断するくらいはできるだろう。
「そうだな。まずはコレで試してみるか」
ボロボロの残骸を見ていたゼロは、傷付いた自らの手足を見ながら……長い付き合いになるな。と口にしたのであった。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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