華麗なる椅子捌き! 椅子こそ最強の武具なり!

作者:天木一

 山の中、道に外れた場所で場違いなパイプ椅子に座った白と黒のカンフースーツ姿の少年が一人いた。
「よっと……はっ!」
 座ったまま後ろに傾き、そのまま倒れるかといったところで、少年は椅子から転がり落ちるように着地すると、椅子を持ち上げて振り抜いて宙を裂き、着地させると支柱にするように持たれ掛かり、傾けてクルクルと椅子を中心に回転しながら周囲に蹴りを放つ。そして椅子に座ると右に左にと傾いて、仮想の敵からの攻撃を躱す。その反動で立ち上がりながら椅子を持ち上げ回転させ、視界を塞ぐように押し付け前蹴りを放つ。持ち上げた椅子を前後ろ、右へ左へとリズムよく動かし、地面に置くと座って蹴りを放つ。
 一連の動作に淀みはなく、まるで踊るようにリズミカルで映画のアクションを見ているようだった。
「……はーーー。ミスらずに上手くいったー! 新年一発目の特訓が成功したし、今年はこの椅子拳を完全に会得できるかもしれないな!」
 少年は破顔し椅子から立ち上がって椅子を蹴り上げ、折り畳んで自らの肩にかけた。そして帰ろうと振り返ると、目の前に幻武極の姿が現われた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 その言葉に操られるように、少年は椅子を広げて相手に押し付け、拘束して蹴りを拳と蹴りを入れ、更に椅子を置いて座らせ、後ろに倒して後頭部を地面に打ちつける。そして椅子を引き抜くと自らが座り、蹴りつけ前に傾くと椅子を持ち上げて相手の上に置いて踏みつけて座る。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 まるで小枝でも持ち上げるように少年が座ったままの椅子を手にしながら幻武極は起き上がり、地面に椅子を置くとその胸に鍵を突き刺した。不思議な事に傷一つ残りはしないが、少年は意識を失い椅子に座ったまま弛緩した。
「アイヤァッ!」
 その隣に少年と同じカンフースーツ姿のドリームイーターが現れた。手にしたこれまた同じパイプ椅子を広げて座り、先ほどやった少年の演武と同じように動き出す。違うのはスピードと派手さ、少年よりも勢いがあり動きの範囲も広い、まさに映画の一場面のような動きで流れるように椅子を使った武を見せつけ、余裕の態度で最後に椅子に座った。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 演武を終えたドリームイーターに幻武極が告げると、椅子を撥ね上げてクルクルと回転させて折り畳み、肩にかけると軽やかな足取りで近くの町へと歩き出した。

「椅子を武器に戦う武術を生み出していた少年が襲われてしまうようだな」
 篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)が新しい事件だと、ケルベロス達に告げる。
「あけましておめでとうございます。新年早々ですが、ドリームイーターの幻武極が現れ、自己流の武術の特訓をしている少年を襲い、自分に欠損している『武術』を奪いモザイクを晴らそうとしているようです」
 資料を手にしたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)から事件の説明が始まる。
「今回の奪った武術でモザイクが晴れる事はありません。ですが、生みだされた武術家ドリームイーターが暴れ、人々を襲って被害が出てしまいます」
 生み出されたドリームイーターは少年の考える理想の能力を持っている。その力で暴れれば普通の人間では対抗する事が出来ない。
「町が襲われる前に、皆さんにドリームイーターを撃破してもらいたいのです」
 今から向かえば、敵が町に辿り着く前に到着して迎撃する事が出来る。
「武術家ドリームイーターは、カンフースーツを着た中学生の少年の姿です。パイプ椅子を使った一風変わった武術を使うようで、攻防一体の技をスピーディに行う武術のようです。中国拳法の体捌きに似ているかもしれません」
 パイプ椅子といっても、ドリームイーターの生み出したもので強固で簡単には壊れない。十分盾としても武器としても機能するだろう。
「場所は岐阜県にある山の近くの町です。敵の通るルートは分かっているので、道で待ち伏せすれば町の前で迎撃できるでしょう」
 周辺の避難は到着時には終わっている。町の反対側の方へと集まっているので、戦闘に巻き込む心配はないだろう。
「奪った武術で好き勝手に暴れるなんて許しておけません。敵は武術を見せたい意思が強いようですから、戦いを挑めば逃げる事もありません。皆さんの力で叩きのめしてください」
 説明を終えると、セリカは踵を返しヘリオンの準備へと向かう。
「ふむ、椅子を使うか……映画などでは見るが実際に使うとなると珍しいな。どんな武術となっているのか楽しみだ。それに正月で鈍った体を動かすにもちょうどいいだろう」
 鷹兵がそう言うと、正月で少し体重の増えたケルベロス達も顔を見合わせ、張り切って行こうと動き出した。


参加者
マイ・カスタム(バランス型・e00399)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)
フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)

■リプレイ

●椅子を持った武術家
 寒気のするような風が木々の間を吹き抜け、民家の並ぶ町に入る前の道に陣取ったケルベロス達の体を冷やす。
「椅子を使う格闘なんてあったんですねえ……」
 予習にカンフー映画を見た宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)は、その椅子の使い方に感嘆していた。
「椅子を使った拳法とか……幻武極のチョイスがだんだんお笑いに寄ってきてないか心配なんだけど」
 マイ・カスタム(バランス型・e00399)はアクションスターの椅子アクションを想像する。
「フィクションの格闘技を再現するにしてもその、ニッチじゃない?」
 もっと他の格闘技も沢山あるのに何故椅子を選んでしまったのかと首を傾げた。
「パイプ椅子ですか。護身訓練で、さすまたが無い時に代わりに使用するという方法を習いましたが、カンフー風となると、また一風変わった使い方をするのでしょうか?」
 椅子を使う戦いを思い浮かべ、卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は実際にどのように使うのか興味深く思考する。
(「ついにボクも武術の使い手と闘う時! ちょっとの他の武術とか気になってるから、止めるのもそうなんだけど手合わせしたいのもあるんだよね……」)
 ぐっと拳を握った山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)は、一風変わった武術の使い手と相まみえるのを楽しみにしていた。
「脚立を振り回して戦うのは実際見たな。映画だが。拳法の型で使うアイテムをそれに置き換えればいける、のか?」
 昔見た映画の映像を思い出し、篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)はそれを実際に使えるのかとイメージしてみる。
「なるほど、椅子を武器にするか」
 椅子という独特な武器との戦いを前に、エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)は機械の変わらぬ顔のまま僅かに声を弾ませる。
「武術に貴賎無し。相手の虚を突くという立ち振る舞い、この目で見させてもらおう」
 独特な戦技と剣を交えるのが楽しみだと闘志を高める。
「……まあ、格好良い物に憧れる気持ちはよく分る」
 己の少年時代を思い出しながら宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は頷く。
「椅子を使う武術って面白いねー、まだまだ私が知らないことはいっぱいあるんだね!」
 初めての武術を見れると、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)は無邪気に笑う。
「でも悪いことはダメだよ! ドリームイーターは成敗! だね」
 どんな武術であれ悪事に使われるならば倒さなくてはと気合を入れる。
 そうして寒い中、体が冷えてしまわぬよう待ち構えていると、道の先から白と黒の上下のカンフースーツを着た少年が姿を現す。その手にした折り畳んだパイプ椅子が武術家ドリームイーターである事を示していた。

●椅子拳
「何者だ!?」
 道を塞ぐケルベロス達に向け足を止めた少年武術家が誰何する。
「俺達はケルベロスだ。お前の武術、この目に焼き付けさせてもらおう。いざ、尋常に勝負!」
 刀を抜いて踏み込んだエングは、体当たりのように重心を乗せて高速の突きを放ち敵の胸を突いた。その背後ではテレビウムの彼が応援動画を流して仲間達を応援する。
「敵ならば、椅子拳を味わわせてやる!」
 椅子を盾にして切っ先を防いだ武術家は、バク転して椅子に座り体勢を整える。
「いざ尋常に、勝負だよ!」
 そこへ声を掛け空手の構えを取った涼子は、正面からガントレットを装着した拳を突き出し、ジョット噴射の加速で突進し拳を胸に叩き込んだ。
「ドリームイーター! 我々が相手をするぞ!」
 続けて鷹兵は弾丸を生み出して発射し、敵の時を止めるように体を凍結させる。
「パイプ椅子使いだと。カンフーで椅子使うとか映画見てないので知らないけど、椅子使いならどう考えたってプロレスラーの方が上であろう!」
 その体を晒して視界を防ぐ日出武が一喝する。
「このわたしがプロレスラーとして本当に椅子使いを見せつけてあげましょう」
 ただのプロレスファンである日出武は堂々と嘘を吐き、椅子と言いながらジャンプしてドロップキックを叩き込んだ。椅子に座ったまま武術家が後ろに倒れる。
「その自慢の椅子カンフーアクション、見せてもらおうか」
 倒れたところへマイは棍をヌンチャクに変形させ、振り回して上から振り下ろす。それを敵はゴロリと転がり椅子を盾にして受け止める。変則的な連打を右へ左へと椅子でいなす。そして椅子を蹴り上げてマイにぶつけようとした。
「自己流としては少々やり過ぎな気はするが、迷惑なのはそんな物にまで目をつける件のドリームイーターだな」
 割り込んだ双牙は椅子を腕で受け止め、全身に禍々しい呪紋を浮かべて魔人化し押し返す。
「……ともかく、目の前の相手を何とかするか」
 そして倒れたままの敵の体は力負けして転がる。
「これはあれだね、異種格闘技戦!」
 元気にフィアは敵の隣に立つ。
「私はこれで挑むよ! えーっと……なんとか剣技、おう……なんとか!」
 そして刀を抜き放ち、習ってきた技を忘れたフィアは真っ直ぐに飛び込んで上段から斬り下した。それを敵は椅子で受け止め、蹴り上げて刃を押し戻して立ち上がる。
「カンフーは足運びが重要と聞きました。つまり、それを封じるのが攻略の糸口です」
 紫御は気を徹した5本の針を飛ばし、敵の足元に伸びる影を貫き、流れる気が本体へと通じて全身を束縛した。
「そっちが椅子なら、ボクは空手を見せてあげるよ!」
 その隙に涼子は正拳突きを鳩尾に打ち込み、捻じるように内部にダメージを与えて敵の肺から空気を押し出す。
「打ち砕けッ! スパイラルッ! クラッシャァァァァッ!!」
 離れた位置から鷹兵はガントレットの装甲に回転をつけ、ロケット噴射で飛ばして敵にロケットパンチを放ち顔面を打ち抜いた。
「ホワッ!」
 怪鳥音を上げながら武術家は椅子を蹴り上げて叩きつけにくる。
「椅子とはいえ殴られれば痛いですから、邪魔させてもらいます」
 それに合わせて紫御はグラビティを凝縮させて爆発を起こし、敵の腕を撥ね上げた。
「棍術は本職じゃないんだが……ねッ」
 その隙にマイは棒状に戻した棍を突き入れ、脇腹を打ち肋骨を叩き折った。
「アイヤァッ!」
 武術家は椅子を置いてマイを座らせる。そして後ろに引き倒そうとする。
「まだまだ椅子の使い方が甘いですねえ」
 そこへ日出武は視線を向けてグラビティの力を込める。すると椅子を持つ手に爆発が起こり手が離れた。
「周囲の障害物、どこまで避けきれるか、お前の武器さばきを見せてもらおう」
 エングは小型ドローンを周囲に展開し、仲間達を癒し敵の動きを妨害するように飛ばす。
「ていうかさぁ、椅子使うのって何かプロレスっぽくない? いるよね、場外乱闘してパイプ椅子ぶんぶん振り回す人!」
 プロレスをイメージしたフィアは、勢いをつけてドロップキックのような飛び蹴りを浴びせる。
 よろめいた武術家は椅子にもたれ掛かり、椅子を支柱にして回転すると椅子を押し付けようとしてくる。
「まずは俺の相手をしてもらおうか」
 割り込んだ双牙は椅子を両の拳をぶつけて受け流す。だが椅子はくるりと回転して腹部を狙ってくる。
「……たまには、と護りに回ってみたはいいが、慣れんな」
 それを腕と上げた脚で受け止めた。
「隙あり!」
 そこへマイはメカ耳パーツに内蔵された小型機関砲を発射し、無数の弾丸を放って敵を怯ませた。
「ヌンチャクに棍に銃弾だと? 邪道な! 何でも使えばいいというものではない!」
 椅子で弾丸を防ぎながら武術家が叫ぶ。
「椅子拳法家に邪道扱いされるのは釈然としないけど……」
 納得いかないと思いながらも、マイは弾幕を張り続ける。
「椅子ごと壊す勢いでいくよ!」
 涼子はジョット噴射で速度を上げて踏み込み、拳を椅子ごと打ち抜かんと叩き込んで椅子に拳の跡を残して敵をよろけさせた。
「椅子はこうやって使うんですよ!」
 走り込んだ日出武は前蹴りを放ち、胸を押すように体重を掛けて敵を蹴倒す。
「俺より上手く椅子を使える奴はいない!」
 倒れる体を椅子で支えて武術家は椅子に座り休息を取る。
「横から失礼します。椅子で守りを固められてしまったので、突破するきっかけだけ、仕込んでおきます」
 矢を放って紫御は、鷹兵に祝福を与え防御を打ち破る力を付与した。
「その椅子ごと両断してみせるッ!!」
 戦斧を担いだ鷹兵は跳躍し、上から体重を乗せて唐竹割りに振り下ろす。持ち上げ防ごうとした椅子に刃が食い込んだ。
「もうちょっとで壊れそうだね、えいやー!」
 掛け声と共に跳んだフィアは、振り上げた斧を落下の重量を乗せて叩きつけると、椅子の背もたれが折れる。
 続けてエングはドローンを飛ばし、敵の周囲に展開し椅子を動かす度にぶつけて行動を阻害する。すると武術家は椅子を置いて蹴飛ばし、ドローンを弾いて道を開け、スライディングするように移動してマイに迫る。そこへエングが体を割り込ます。
「いくら変幻自在とて、質量を伴う物体移動。身体をねじ込ませれば遮ることは可能だ」
 そして蹴り上げられる椅子をその身で受け止める。
「さて、そろそろ此方も、動くか」
 地獄化させた両腕を燃え上がらせた双牙は手刀を突き出した状態で跳躍し、全身を回転させ己が身を弾丸と化して突進する。敵の体が吹き飛びまるで小型の竜巻にぶつかったように敵の体をズダズダに斬り裂いた。

●変幻自在の椅子
「アーイヤァ!」
 武術家は椅子の足で双牙を拘束し、足を払って回転させ頭から地面に叩き落とした。
「某カンフースターだって、椅子以外にも色々使ってたろうに……」
 マイは腕をドリルのように回転させて突き、椅子を削り敵の肩の肉を抉り取った。それに対して敵は椅子を蹴って叩きつけてくる。
「直線の動きに目が慣れてきたみたいだね、ならここからは円の動き!」
 腕を回して椅子をいなした涼子は、敵の体を泳がせ回し蹴りを側頭部に叩き込んだ。
「椅子を武器に頑張りますねえ、ですがこちらもまだまだ戦えますよ」
 空にビール瓶を投げた日出武は薬液の雨を降らせ、仲間達の傷を癒していく。彼も応援動画を流し続けて声援を送る。
「トリッキーな動きだな。だがそうだと分かっていればいかようにも対処できる」
 鋭く踏み込んだ双牙は、貫手で敵の腹部を突き刺し体内の気の流れを断って麻痺させる。
「ぶっとべ! ブロークン・エナジーハート!」
 フィアは指で宙にハートを描き、現れたハートを押し出して発射した。椅子に当たるとドカンッと爆発を起こし敵の体を吹き飛ばした。だが敵は空中で回転し椅子に座って着地する。
「さあ、一気に畳み掛けましょう。椅子だけでは守りきれないようにします!」
 高く跳んだ紫御は星のオーラを脚に纏わせ、頭上から敵を蹴りつけた。
「ハィー!」
 反撃に撥ね上げられた椅子をエングが刀で受け止める。
「さあ、まだ俺は倒れんぞ。もっと打ち込んで来るが良い」
 エングは刀を押し込み椅子とかち合わせて鍔迫り合いをする。すると敵は椅子の力を緩めて受け流しエングを椅子に座らせた。
「大地と共に凍りつけッ! 時空凍結弾ッ!!」」
 敵が椅子を引き倒す前に、鷹兵は弾丸を撃ち出し足を地面に貼り付けるように凍りつかせた。
「武術家だというなら、どんな武器も使いこなしてみせるんだな!」
 マイは2本の棍を百節棍に変形させ、まるで鞭のようにしならせ目にも追えぬ速度で乱舞させて敵の全身に叩きつける。
「これがプロレスの奥義ですよ、その身で味わってみなさい」
 日出武は敵の額に指を突い入れ、それが内部から衝撃を起こして破壊し鼻、目、口と血が溢れ出る。
「ホワァッ!」
 怪鳥音を上げた武術家は椅子を蹴り上げ押し付けて来る。
「まさに変幻自在の動き、だが速さで勝れば対応できまい。飛燕の如き速さで穿つ!」
 刀の切っ先を敵に向けて突進したエングはその勢いを乗せて捨て身の如き突きを放ち、真っ直ぐに伸びた刃が敵の胸を貫いた。
「アイヤッ」
 胸を押さえ敵の体がよろめく。
「痛みは余り無いでしょうが、そろそろ動けなくなる頃合いでしょうか」
 紫御は投擲した針を影に突き刺し、じわじわと敵の動きを鈍らせていた。
「その椅子ごと打ち砕いてやろう」
 高々と跳躍した双牙は、回転しながら弾丸と化して突っ込み、椅子をぼろぼろに引き裂きながら敵を吹き飛ばした。
「椅子じゃやっぱり最強にはなれないよね」
 全速力で駆け出したフィアは、矢のような飛び蹴りで椅子ごと敵を薙ぎ倒した。
「これで、終わり!」
 涼子は手刀を振り下ろして椅子を割り、がら空きになった胸に拳を真っ直ぐ打ち込んだ。
「椅子は最強だ! こんなところで負けられん、アイヤアアアッ」
 気力で体を奮い立たせた武術家は、壊れた椅子を使い振り回す。
「これが最後の一撃だッ! スパイラルッ!! クラッシャァァァァァァァァッ!!!」
 鷹兵はガントレットをロケットパンチとして撃ち出し、椅子を砕き敵の顔面を打ち抜いた。
「貴様もまた辛苦の時代を齎す者……消え去れ!」
 そして背を向けると、吹き飛んだ武術家が幻のように消え去った。

●椅子と武術
「くっ、俺の椅子拳が利用されるなんてっ!」
 介抱され意識を取り戻した少年は事件の説明を受け、申し訳ないと悔しそうに頭を下げる。
「興味深い武術だった。流れるが如く、のたうつ龍が如く」
 よく独学で鍛えたものだとエングが称賛すると、少年は照れて頭を掻く。
「……自己流も良いが、良い師につけばまた、次の境地が見えてくるやも知れん。精進するといい」
 先人から学ぶ事も強くなる為には必要だと双牙は諭す。
「そっか、やっぱ誰かに習うのもいるよね」
 稽古する相手も居ない少年は頷いて忠告をしっかりと聞く。
「あの動きは、護身術としては難易度が高すぎますね。あくまでも、武術ということなんでしょう」
「ふむ。なかなか興味深かったな」
 気軽に覚えられるものではないと、紫御は椅子を使う高度な技術に感心する。珍しい武術が体験できたと鷹兵も満足そうに頷いた。
「椅子カンフーの将来は……うん。頑張れ」
 何と励ましたものかと考えたマイは、何も思い浮かばずにありきたりな激励を送る。
「椅子以外も使えるようになったら、もっと強くなれるかも!」
 栓抜きやフォークといったプロレスの凶器をフィアは思い浮かべる。
「映画に出れるくらいの使い手になるのを楽しみに待ってますよ」
 そうなればアクション俳優になれるかもしれないと、日出武はホッホッホッと笑った。
「強くなったら手合わせできるといいね」
 今日の戦いを反芻した涼子が、他の武術との戦いは学ぶことが多いと語る。
「うん! 絶対強くなって椅子拳を極めてみせるから!」
 元気に少年は腕を上げ、椅子を使う新たな武術の未来を夢見るのだった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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